Scape wolf 1-5「対価」

  「対価」

  

  ブラムの予想は、大きく外れた。

  マリの自己治癒力は、驚くべきモノで三日目にして包帯が取れたかと思えば、七日で傷は完治してしまっていた。

  その間も、主には雑用であったが、村人からの仕事の依頼が立て続けにあったため、願いごとを考えている暇などなかった。

  「約束の時だ。私は、明日ここを発つ。願いは、決まったか?」

  七日目の晩、マリは、ブラムに尋ねた。

  「いや。決まってない」

  ブラムは、首を横に振りながら答えるしかなかった。

  ふと、ルーシーの方に目を向けると、彼女がマリの肩越しに勝ち誇ったような顔でこちらを見ている。

  悔しさに思わず、顔をゆがめた。

  「どうした?」

  と、マリが、問いかける。

  「何でもない」

  それからしばらくして、ルーシーが、すっと椅子から立ち上がった。

  「じゃあ、私が、代わりに願いごとを言うわね」

  彼女のそのわざとらしい口調に、マリも顔を強張らせる。

  「で、私は、何をすれば、良いんだ?」

  人狼は、ルーシーに尋ねた。

  「あなたにしてほしいのは…」

  ルーシーは、そう答えながら足を前に進めブラムの隣に立つと、突然彼の肩に両手を乗せた。

  「こいつを、あんたの弟子にしてくれないか?」

  彼女のこの言葉に、場が一瞬凍りついた。

  「はあ?」

  「何?」

  一瞬間を置いて、ブラムとマリが、同時に声を上げた。

  ルーシーは、かまわず話を続けた。

  「いやあ、こいつも、もとはストレイだったんだけどね。村生活が長引いたせいか、最近、どうもだらしがなくてね。

  良い機会だし、ここらで一回鍛えなおしてもらおうかなと思ったのよ」

  だらしがないだって?

  「それは、ルーシーの方だろ? いっつもヒトに雑用押しつけて。昼間から酒は飲むし。一体誰が、毎日家の掃除しているんだよ?」

  ブラムは、いわれのない中傷にいきり立った。

  だが、ルーシーは、聞こえないふりをして、取り合おうとしない。

  彼女は、すでにマリと話を進め始めていた。

  「ねえ、お願いよ。何でもするって言ったでしょう?」

  そんなことは、言っていないはずだったが…。

  「他に私にできる事はないのか?」

  マリは、いたって真面目に尋ねた。

  「ない」

  ルーシーは、きっぱりと言った。

  人狼は、思案するように口もとに手をあてた。

  「分かった…」

  しばらく思案した後、マリは観念したように口を開いた。

  「契約成立ね」

  ルーシーは、顔いっぱいに笑顔を作りながら言った。