「対価」
ブラムの予想は、大きく外れた。
マリの自己治癒力は、驚くべきモノで三日目にして包帯が取れたかと思えば、七日で傷は完治してしまっていた。
その間も、主には雑用であったが、村人からの仕事の依頼が立て続けにあったため、願いごとを考えている暇などなかった。
「約束の時だ。私は、明日ここを発つ。願いは、決まったか?」
七日目の晩、マリは、ブラムに尋ねた。
「いや。決まってない」
ブラムは、首を横に振りながら答えるしかなかった。
ふと、ルーシーの方に目を向けると、彼女がマリの肩越しに勝ち誇ったような顔でこちらを見ている。
悔しさに思わず、顔をゆがめた。
「どうした?」
と、マリが、問いかける。
「何でもない」
それからしばらくして、ルーシーが、すっと椅子から立ち上がった。
「じゃあ、私が、代わりに願いごとを言うわね」
彼女のそのわざとらしい口調に、マリも顔を強張らせる。
「で、私は、何をすれば、良いんだ?」
人狼は、ルーシーに尋ねた。
「あなたにしてほしいのは…」
ルーシーは、そう答えながら足を前に進めブラムの隣に立つと、突然彼の肩に両手を乗せた。
「こいつを、あんたの弟子にしてくれないか?」
彼女のこの言葉に、場が一瞬凍りついた。
「はあ?」
「何?」
一瞬間を置いて、ブラムとマリが、同時に声を上げた。
ルーシーは、かまわず話を続けた。
「いやあ、こいつも、もとはストレイだったんだけどね。村生活が長引いたせいか、最近、どうもだらしがなくてね。
良い機会だし、ここらで一回鍛えなおしてもらおうかなと思ったのよ」
だらしがないだって?
「それは、ルーシーの方だろ? いっつもヒトに雑用押しつけて。昼間から酒は飲むし。一体誰が、毎日家の掃除しているんだよ?」
ブラムは、いわれのない中傷にいきり立った。
だが、ルーシーは、聞こえないふりをして、取り合おうとしない。
彼女は、すでにマリと話を進め始めていた。
「ねえ、お願いよ。何でもするって言ったでしょう?」
そんなことは、言っていないはずだったが…。
「他に私にできる事はないのか?」
マリは、いたって真面目に尋ねた。
「ない」
ルーシーは、きっぱりと言った。
人狼は、思案するように口もとに手をあてた。
「分かった…」
しばらく思案した後、マリは観念したように口を開いた。
「契約成立ね」
ルーシーは、顔いっぱいに笑顔を作りながら言った。