第3話 龍の暮らしの難易度

  五大龍王のトップ、古龍グラジオラスの意見でドラギス島に住むことになってはや1週間が経った。

  ここに来て出会った[[rb:飛龍 > スカイドラゴン]]ヒスイと[[rb:魔龍 > ウィッチドラゴン]]カトレヤと共に生活しているが…改めて人間と龍は生活が全く異なることを知った。

  基本的にドラギス島内にいる生物を狩って食べるのだが…この島の食材は主に魔物だ。

  しかもこの龍たちは焼くことなく生肉で食べるのだ。

  まぁ龍と人間では胃の強さが段違いなのはわかっているのだが、ヒスイがそんなことは露知らず平気で狩ってきた5メートルの魔物の蛇を渡してきたときはさすがに焦った。

  「そんな食べれない、後、生では食べれんよ」と言うと「この程度を食べれんのか。しかも飯を食すのに焼く必要がなぜある」と言われる始末だ。

  カトレヤが気を利かせて火魔法で焼いてくれんかったら死んでいたかもしれん。

  そんなこんななんとか生活を続けていたある日、俺は[[rb:地龍 > グラウンドドラゴン]]ミツマタに呼ばれた。

  『よぉ、クスト。よく来てくれたな』

  地龍の姿のミツマタは俺と対面する。地龍の強靭な脚が目の前にあると恐怖しかないな。

  「まぁ俺はここに居候に近い形で暮らしているしな。呼ばれたら拒否る事は出来ないさ」

  龍たちの機嫌を損ねて、殺されそうになっても俺は抵抗できないからな。武器もないし、片腕もない。正直精神的には首の皮一枚つながっているような状態だ。

  一歩外に出れば、今までとは比にならない強さの魔物がうじゃうじゃいる。かなり警戒しながらここまで来たが正直死ぬ気がした。

  いつも外に出るときはヒスイかカトレヤが一緒に来てくれるが…今日は用事があってこれないということで、一人で来たのだ。

  『俺はお前が拒否をするということも考えていたから問題ないぞ。むしろそっちの方が可能性が高いと思っていたほどだ』

  「そうなのか。どうしてだ?」

  『現状お前の強さでは、この島は自由に動けないだろう?あくまで[[rb:古龍 > エンシェントドラゴン]]グラジオラスが指示出せるのは龍だけで、他の魔物や種族にはお前というのは格好の餌だ』

  確かにグラジオラス…もといジオラスは龍の長であるが、他にもこの島にはいくつかの種族が存在している。最も一番強いのは龍で規模も最も大きいのだが、少なからずジオラスの指揮下にいない他の魔物はいる。

  「まぁ確かにそれは否定出来ないな。今日はヒスイとカトレヤの協力は得られなかったからかなり不安だったのが正直なところだ」

  『そうだろうな…実はな、今日はお前を試したんだ』

  「なんだって?」

  『今日はカトレヤに用事があるのは知っていた。そしてヒスイはここに来ることはない。必然的にお前は一人でここに来るだろうと思っていた』

  「…はぁ」

  『だから来ない可能性の方が高いと思っていたんだ。まぁ実際は来て正直驚いているところだ』

  俺は試されていたのか。でも何でなんだろうか。

  「で、結局何で呼んだんだ?試すだけで呼んだ訳じゃないよな?」

  そう俺が聞くとミツマタはニヤリと口角を上げる。…すこし嫌な予感がするのは気のせいか?

  『そりゃそうだろう。ちゃんと来たときの事も考えていたぞ。…今日はお前を鍛えてやる』

  「…は?」

  鍛える?俺を?なんで?

  予想していなかった答えが来て困っているとミツマタは続けて言う。

  『この島で生活するには今のお前では厳しい。だからこそ鍛えて少しでもこの島でいきるのが楽になればと思ってな』

  「…おう。そりゃあ…まぁ…ありがとう?」

  ミツマタの考えはわかったが…龍の言う鍛えるってどんなもんなんだろうか。

  『とりあえずは体力作りだ。こっから俺の地龍の領域を一周だ。ついてこい!』

  意気揚々と走り出すミツマタに俺は

  「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

  と、叫んで制止をかける。

  『どうした?』

  流石地龍というべきか恐ろしいスピードで離れてしまうが俺の声に気づいて戻ってきてくれる。

  「お前の…地龍の領域っていったいどれくらいの範囲だ?」

  俺にとっては恐ろしいことが予想できるので聞いてみると

  『範囲と言われても分からないが…大体俺が全力で走っても1時間ほどかかるか?』

  何気なしに言うミツマタに恐怖した。地龍のトップであるミツマタですら1時間もかかる道のりを人間である俺にやれと言うのはいささか無理がある。

  「…それは不可能に近いぞ。お前ですらそんなかかるのに人間である俺には出来ないぞ」

  苦言を呈すると、ミツマタは知っているとでもいうような顔をした。分からないからこそ俺に無理を言っていると思ったが違うのか?

  『大丈夫だ。お前は限界まで走り続ければいい。元より走り切れるとは思っていない』

  「じゃあなんでこの距離を走らせるんだ?」

  『お前の体力を知るためだ。お前の限界を知らないとどこまで無理をさせれるか分からないだろう?知らず知らずのうちにお前を死なせたら五大龍王としての面子もつぶれるし、第一お前を俺が原因で死なせたとなったらグラジオラスやらヒスイに殺されかねん』

  …なるほど。意外と考えているようだ。ヒスイは『地龍は基本的に馬鹿が多い。…特にミツマタとかいうやつはな』と言っていたが、普通に賢いじゃないか。

  「…分かったよ。走るよ。ただ迷子になりかねんよ?走っている間に魔物に襲われかねないし…」

  俺の中の不安要素を伝えると

  『問題ない。俺が先に走って足跡をつけるからそれを目印に走ればいい。魔物に関しても、何体か配下の地龍を置いておく。俺もお前を認識できる距離にいるから、何か起きた時はすぐに向かえる。お前が限界を迎えてぶっ倒れても拾いに行くから限界まで走れ』

  ミツマタの言葉に安心する。流石に五大龍王というだけ、あの龍を配下というあたりなんとなく凄い。

  だいぶ気を聞かせてくれているようなので言われた通り出来る限り走り続けよう。

  『じゃあ行くぞ』

  先に走り出したミツマタは大きな地響きを起こしながら走っていった。

  俺も後を追おう。

  流石に片腕が無い状態で長く走り続けることなんて、今までなかったため体のバランスが安定しないが倒れないように気を付けながら走る。

  一応周囲を警戒すると通常の魔物では感じられない強大な気配をいくつも感じる。

  これは…龍の気配か。きっとミツマタが遣わせた地龍たちなので気にせず走る。

  「…にしても…足場が悪いな」

  流石は人間が住むには適さないドラギス島だ。

  こんなデコボコした地面ではまともに馬は走らせれないな。

  俺がいたギルドは他よりかは強い方だったのでこういった土地に向かうことになることも少なくはなかったな。だからこそ今も何とか走れているが…。

  そういえば…あいつらはどうなったんだろうか。

  あの爆発でヒスイと出会ったわけだが…あの時は気が動転してレギアスとコラルのせいだと思ってしまったが、あれはヒスイの攻撃だったのかもしれない。

  あの時、二人が見当たらなくなったのもヒスイに見つかりやむを得なく逃げたのかもしれない。

  長年背中を預けて戦ってきた仲なんだ、こんなところで裏切られるなんてことはないだろう。

  第一、恨みを買うようなことはしていないはずだからな。

  …また会う事は出来るかな。

  一方、クストを捨て逃げたレギアス達。

  街に戻って来たが空気は重いままだった。

  「…クストは…どうなったの?」

  宿に着き、食堂で集まりフィララはレギアスに聞く。

  「クストは…龍に見つかり…殺された」

  「…あ…あ」

  その言葉を聞き、キリルは泣き崩れる。

  フィララも泣き崩れはしないものの、目尻には涙が浸っていた。

  「…逃げているときにも言っただろう。あいつは俺らを逃がすために龍を引き付けて殺されたと」

  絶望するキリルとフィララに対し、レギアスは淡々と言う。その様子を見ていたコラルは「流石に好きな人が泣いているのを見ると…辛いな」と暗い顔をしていた。

  「…どうして…どうしてレギアスは顔色一つ変えないの!?辛くないの!?」

  淡々と話すレギアスにキリルは叫ぶがレギアスは

  「…俺だって辛い。だがクストに言われたんだ。『みんなを守ってやってくれ』と。ここで俺まで絶望すると、クストに言われた通りに支えることは出来ない」

  と言い切った。もちろん嘘である。クストは全くもってそんなことは言っていない。

  「助けれなかったのは申し訳ない。…俺の責任だ」

  3人に頭を下げるレギアス。

  「…レギアスが謝ることじゃないよ。…クストもクストの中で一番いい選択として二人を逃がしたんだと思う」

  フィララがレギアスを擁護する。コラルはレギアスの演技力に畏怖すら覚えた。

  「…とりあえず…今日はそれぞれの部屋に戻って休んでくれ。…ギルドへの報告は俺が明日しておく」

  レギアスは部屋に戻るように言うと、泣き崩れ力なくうな垂れているキリルにフィララは肩を貸し自室に戻った。

  二人が去り、レギアスとコラルは小さな声で話す。

  「上手くいったな」

  「そうだね。クストには悪いが2人と結ばれるのは俺らだ」

  「…コラルはあいつに悪いと思うのか」

  「少なからずね。でもレギアスの演技力はビックリした。あそこまでされると変なことを言って気づかれるとまずいから喋らなかったのが申し訳ない」

  「…問題ない。お前なら変にボロを出しかねんかった。その判断は正しかった」

  コラルを励ますレギアス。

  「レギアスはクストに悪いとは思う?」

  その質問にレギアスは「全くない」と言いきった。

  「…そうなんだ。…流石に長くいたからさ…少しは悪いと思っちゃうんだけど…」

  コラルが少なからず心が痛んでいることを言うと

  「そんな情は捨てろ。いつまでも引きづっていたら感ずかれるかもしれん。計画を立てた際に決めただろう」

  「『後悔はしない』…か」

  「そうだ。長年叶うことないと思われていた俺らの恋心が叶うかもしれないんだ。こんなところで立ち止まっていはいられない」

  「…分かった。ありがとうレギアス」

  レギアスの言葉で吹っ切れたのか表情は暗いものからいつもに戻り、自室に戻っていった。

  「…はぁ…はぁ…し、死ぬ…」

  ミツマタの特訓で走り続けて2時間。意識が遠のきながらも走り続けている。

  ここまで走り続けることが出来るなんて知らなかった。…いや出来なかったはずだ。

  体力がないわけではないが…それでも1時間も走る事は出来たことはなかった。

  これは…ミツマタに言われた通り限界まで走っているからこそ出来るのか、

  それとも…。

  いろいろ考えていると体に限界が来て、意識を手放しその場に倒れた。

  『おーい、生きているか?』

  遠くでミツマタの声が聞こえる。意識はあるが体が動かない。瞼も口も開こうとしていない。まるで『金縛り』という現象のようだ。

  『寝てないで起きろよ』

  再度ミツマタの声が聞こえるが、体のどこも動かないので起きていることを伝える術がない。

  『起きているのは分かってるぞ。起きないと…踏むぞ』

  「っく!」

  ミツマタの言葉に危機を感じた俺は本能的に疲労感に侵される肉体を跳ね上げた。

  その場を瞬間的に飛び退くと実際にミツマタの足が俺が寝ていたであろう場所の上に上がっており、影が出来ていた。

  「あ…あっぶな~」

  危機を脱した安堵か、未だ取れぬ疲労か、すぐに膝をついてしまう。

  『なんだ起きたか。あのまま寝たままであれば本当に踏んでやろうと思ったが…』

  「…じょ…冗談じゃねぇ。お前に…踏まれたら…死ぬ」

  ここまで体が悲鳴を上げた状態で無理に動かしたせいで言葉を発するので精いっぱいだ。

  そんなことになった原因のミツマタに苦言を呈すが意味はない。

  『たかだか俺に踏まれたくらいでは死なんだろう』

  「…にん…げんは…お前が…思って…いる…以上に…脆いぞ…」

  どんな鍛えぬかれた人間であろうとも、巨大な体躯をしている龍の中でもさらに大きい地龍に踏まれて無事な人間がいてたまるか。

  『そうか。体は動くか?』

  「…い…いや」

  ミツマタの問いかけに微かな声で答える。

  『お前が力尽きてから1時間は経ったんだ。そろそろ回復してくれよ』

  龍による無慈悲な言葉に何も返す事は出来ない。

  「…あ…まず」

  酷使に次ぐ酷使により体が完全に言うことを聞かなくなった。

  考えなくてもわかる。もう本能で体を動かすことさえ不可能だと。

  『お?おい!?』

  膝が上半身を支える力もなくなり意識も完全に消し飛び再度倒れた。

  『まずったかな』

  クストを鍛えるために限界まで走らせたが…完全に力尽きているな。

  2時間も走り続けれるとは思わなかった。俺は心音で体力、調子、精神を感じれるが…人間とは思えないほど疲労による心音が弱まっていくのが遅かった。

  走らせる前の音だと1時間は持てば良いと予想したが…その2倍も走るとは。

  『とりあえず俺の巣穴まで運ぶか』

  今は微かに心音が聞こえるだけ。まさに虫の息と言ったところだ。

  運ぶために近づくと、急速に心音が強くなってきた。

  『なんだ。起きたなら早く立ち上がれ…よ……っ!?』

  何気なく話しかけたがあることに気づき驚き、急いで飛び退く。

  心音が人間の規模を大きく越している。これは…龍と同じ!?

  しかも…飛龍ヒスイと同じような音をしている!?

  …いや微かにクストの心音も聞こえるな。

  『クスト…お前…一体何者だ!?』

  目の前に寝ている異形の存在に警戒をする。

  心音は個体によって少なからず差異がある。だが今のこいつの心音はヒスイと同じ音をしているのだ。こんなことは今までなかった。

  しかも一個体が複数の音を発する事なんて今までなかったぞ。

  原因は何だ。こいつはいったい何者なのか。様々の事が頭で渦巻いていると、目の前で寝ていたクストは立ち上がった。

  『…』

  何が起きてもいいように身構える。考えなくても分かる。俺は恐怖している。

  この俺が恐怖をするなんて古龍グラジオラスと海龍アスターと対峙した時だけ。

  「…ハァー」

  『…ん?』

  立ち上がったままのクストは小さく息を吐く。その息には炎が少し含まれていた。

  『まっずい!』

  それを察知した俺は全力でその場から離れる。

  「『炎獄』」

  クストの言葉で俺が居た場所は灼熱地獄と化していた。それは今まで何度も見た事がある、ヒスイの技だ。

  しかしヒスイの放つものよりは威力は抑えめになっていた。それでも喰らえばダメージは免れないことは察せる。

  …どうする。今のクストはどう考えてもおかしい。しかし下手に手を出して傷つけるわけにもいかない。

  『…グゥゥゥ」

  『ん?』

  俺がどう対処しようか試行錯誤していると、クストは呻き声を出す。それに気づきクストの方を見ると、あることに気が付く。

  『クスト…お前…その眼…』

  クストの左目が龍の目に変化していた。

  …一体何が起きてやがる。

  俺が困惑していると、クストは口を開く。

  『再生」

  そう言うとヒスイに食われ失われていたはずのクストの左腕が再生した。しかし人間の腕はなく龍の腕が。

  それと同時に左側の背中から飛龍の翼も生えてきた。

  …こいつは…もう人間ではない。だが竜人でもない。

  目の前に対峙する歪すぎる存在は再生した左腕と翼を軽く動かし、動作確認をしているようだ。

  『…くっそ』

  どうすればいい?この未知の存在をここで放置するわけにはいかない。だがこいつの強さが未知である以上、俺が敗れる可能性もある。

  どのみち俺がいなくなると地龍…果てには他の龍にも危害が加わる可能性もある。

  それは五大龍王として起こしてはならない。

  『…やるっきゃねぇ』

  クストの無力化。それが今できる最善の手段だ。

  そう考えた俺はクストに向かって走る。

  軽くでも吹き飛ばし、木に叩き付ければ意識を失うと思ったからだ。

  『耐えろよ、クスト!』

  勢いよく近づき尾の射程範囲内に入った瞬間俺は止まり、尾をぶつける。

  そう思った。俺の尾は空を切っていた。

  『なっ!?』

  どこに行った!?

  周囲を見渡すが見当たらない。だが当たっていないので吹き飛ばしたわけではない。

  見えないという恐怖に勝る恐怖はない。

  本能的に警戒を全開に張る。

  そして気づく。クストの気配が俺の上空にあることを。

  『クストォ!』

  上を見ると、クストは龍の腕を構えていた。

  一体何をするつもりなんだ。

  だが俺は地龍。飛ぶことは出来ないし、ブレスを吐くこともできない。

  だから上空にいるクストを迎撃することは難しい。

  しかしここで見るだけになるわけにはいかない。

  俺は近場にあった大岩を、四股を踏み空中に打ち上げる。

  そこでクストに向かって大岩を尾で打った。そんなすぐに避けることだ出来ないだろう。

  『グァァァッ!!!」

  クストの叫び声が聞こえると、大岩は中心から砕け散った。

  『何っ!?』

  そのまま爪を突き立て、俺に向かってくる。

  マズい!避けなければ!

  咄嗟に体をよじり、直撃を免れる。しかし完全に避けることは出来ず、右の胴体をかかれ傷がつく。

  龍族の中でも特に甲殻の固い地龍である俺に傷をつけるとは…あの爪尋常じゃなく鋭いぞ。

  『クスト…この調子だと手加減できねぇぞ』

  落下してきた時に起きた土煙が晴れるとクストは何事もなく立っている。

  このまま手加減をして戦うと厳しいところがある。

  『グッガァァ!」

  爪を突き立て飛び込んでくるクスト。直撃を食らうとマズいので全力で避けようとする。

  すると飛び込んできている最中で腕と翼が消え地面に落ちた。

  な…なんだ?

  恐る恐る近づくがびくともしない。

  心音も人間の状態の戻っている。

  元に…戻ったのか?少なからず不安はあるが、今は大丈夫そうなので、俺の巣穴へ連れていくことにした。

  『…こいつは…一体…』

  俺の背で寝息を立てる、クストを見て俺はそう呟いた。

  「…んあ?」

  目が覚めるとそこはミツマタの巣であった。

  俺は…どうなったんだ?走りつかれた後にミツマタのせいで無理をしたのは覚えているんだが…その後は覚えていない。

  『お目覚めか』

  少し離れたところにミツマタがいた。…どうしてそんな離れたろ頃にいるんだろう?

  『体は大丈夫か?』

  「…まぁなんとか。歩くことくらいは出来る」

  頑張って立ち上がりミツマタの方に少しよろつきながらも歩いていく。

  「俺は…どれくらい寝ていた?」

  俺は何気なしに聞いてみると

  『…5時間ほどだ』

  「…え?」

  5…時間?長くないか?ミツマタの特訓が始まったのは昼過ぎ。そこから2時間走り、1時間寝ていた。そこからさらに5時間、相当経ったな。

  ヒスイとカトレヤには心配をかけているかもしれんな。

  そんなことを考えてながらミツマタの元に着くと

  「…お、おい…それ」

  俺はそこで気づいた。ミツマタの胴体に大きな爪痕があることを。

  『あぁこれは…お前を連れて帰っている最中に魔物にやられてな。まぁ気にするな。すぐに治る』

  「お、おう。ありがとう、俺を連れて帰ってくれて」

  『まぁ…な』

  「でもすげぇな。地龍の、それも五大龍王であるお前にそんな傷をつける奴がいるなんて。俺、この島で生き抜くの難しくねぇか?」

  純粋な驚きと恐怖の言葉を投げかけると一瞬ミツマタの表情が曇った。

  『…だからこそお前を鍛えようと思ったんだ。これからも呼んだら来いよ』

  「あぁ分かった」

  そこからはいつも通りのミツマタだった。

  結局この日はミツマタの巣に泊まった。初めて他の龍の巣で寝泊まりをしたが、龍によって寝床の地面が違うようだ。

  ヒスイとカトレヤは意外と柔らかい土の上で寝る。俺はその上に外で拾って来た葉を重ねて簡易的なベッドを作って寝ている。

  ただここの場合は始めてきたので人間が住むには厳しい感じだ。特に地龍であるミツマタは甲殻がとてつもなく硬いので地面も固い。まぁ1日だけだし今日の所は耐えて、今後何度も来るようだったら多少は生活できるように整えてもいいか。

  「ただいま~」

  ミツマタの巣からヒスイたちの所に戻ってきた。

  道中もかなり警戒をし続けるので意外と疲れる。

  『クストか、遅かったな』

  『心配したじゃない。昼までに帰ってこなかったらミツマタの所に向かう頃だったのよ』

  どうやらカトレヤに心配をかけたようだ。…ヒスイは全く持ってそんなことはないようだ。

  「悪い。まぁいろいろやってたら長くなってな。ミツマタの所で1泊してた。」

  『…またあの地を這うことしか出来ぬ落ちこぼれか』

  何とも言えない表情でヒスイはそう言う。

  うーん。これは。

  「…なぁカトレヤ。前々から気になってたんだけどさ。ヒスイとミツマタって仲悪いのか?龍王会議の時も口論してたけど…」

  小さな声でカトレヤに聞いてみる。…別にお互い悪い奴じゃないんだけどなぁ。

  『まぁ昔から飛龍と地龍は仲が悪いんだけど、この2匹は特にね。何がお互い気に食わないのか私にはさっぱりだけど』

  そうなのか。龍にもいろいろあるんだな。

  『…じゃあそろそろ朝食にする?クストも帰ってきたことだし』

  『そうだな。人間と同じように3食を食べるということも悪くはないと思ってきたしな』

  「…嫌だったのか?」

  『そうではない。ただ一日に3食も食べる必要がないと思っていただけだ』

  ここで生活するようになってから、カトレヤが人間の生活に合わせてみようと言い出し、一日に3食食べるようになったが、龍の世界ではそんなことはなかったようだ。

  1日に一食食べればよかったらしい。…腹減らんかな。

  『じゃあ備蓄してる食料取って来るから待ってて』

  「あぁ。ありがとう」

  カトレヤは洞窟の奥に向かっていった。

  『…クスト』

  「どうした?」

  二人(一人と一体?)になりカトレヤを待っているとヒスイが口を開いた。珍しいな、何の用だろうか。

  『…貴様ミツマタに何をされた?』

  「…え?あぁまぁ俺がこの島で生きられるようにって、ちょっと鍛えてもらった」

  今ここで生活しているけど、外に行くときは二人についてきてもらってるし食料も取ってきてもらっている。

  …正直なところ申し訳なさもある。だからこそミツマタの特訓は俺からしてもありがたかったが。

  『そうか』

  「どうかした?あんまこんなこと聞いてこないけど…」

  『いやなに貴様が奴に何かされているならば消し炭にしようと思ったからな。無事ならばよい』

  …ヒスイも実は心配してくれてたのか?さっきはあんな感じだったけど。

  『持ってきたよ。食べましょ』

  カトレヤが洞窟の奥から食料を持ってきたので、食べる準備をする。

  お、俺の肉は焼かれてる。

  二人は生肉のまま食らいつく。何度見ても思うがよく食べるな。8mはあるだろう大蛇がすごい勢いでなくなっていく。龍だから人間よりも体が大きいのでそんなに食べるのも分かるけど。

  そんなことを思いながら俺は1mの蛇を素手で食べる。…俺からしたらこれでも多いが、残すのはもったいないので食べきる。

  「…そういえばさ」

  『ん?』『どうしたの?』

  朝食をとり終わり、二人に話しかける。

  「二人もミツマタも五大龍王な訳だけどさ…実際のところ五大龍王ってどんな存在なんだ?」

  前の龍王集会っていうときに聞きたかったが、そんな余裕はなく聞くことが出来なかった。多少心に余裕が出来たので聞いてみる。

  『…そういえば詳しくは話してはいなかったな』

  『じゃあ私が話すね。ヒスイよりも私の方が五大龍王の立場は長いからね』

  そう言いカトレヤは話してくれた。

  『五大龍王っていうのは、この島で龍たちの統制を取るために古龍グラジオラスが創ったシステムなの』

  「…どうしてそんなものを創ったんだ?」

  『ほんの200年前まで、龍たちはこの島を拠点として世界中を自由に行動していた。だけどそれと同時に討伐される龍も少なくはなかったの』

  …確かに話によると200年程前までは龍というのは珍しいものではなく、街中などにも襲撃して軍が動いていたというのは聞いたことがある。

  『しかしそれが続いていた時人間が龍を完全に撲滅するための戦争を起こした』

  「…それは聞いたことがある」

  『龍は集団でいることは滅多になかったから一匹ずつ確実に減らされていった』

  龍に怒りを覚えた国々のお偉いさんはこの時結束し、龍と戦ったと昔読んだ本で書いてあったな。

  『そこで龍も黙っているわけはなく、集まり人間との本格的な戦争が起こった。しかしこの戦争は長く続いてお互い消耗していった。そこで一人の人間と一匹の龍が和睦を提案した』

  「…その龍がジオラスか」

  『そう。もちろん両種族は反対し、人間は一人に、龍はグラジオラスに攻撃を仕掛けた。だけどこの一人と一匹はあまりに強かった。…和睦を言い出したのは一人と一匹が戦っているとき、決着がつかずお互いを認め、和睦をするという結論に至った』

  龍が勝てないジオラスと一人で互角に戦う人間って…本当に人間か疑わしい位だ。

  『結局人間と龍は和睦を結んだ。人間は集団が得意だから上の言葉を聞いて戦いをやめたけど、龍には納得がいかないものが多くいた。グラジオラスは納得のいかない龍を一匹一匹倒して言うことを聞かせるようにした。だけど数が多く手が回らなくなっていった。そこで創ったのはそれぞれの龍の種族を束ねる五大龍王よ。それぞれの種族で最も強い龍がその種族を束ねてそこで起きた問題を五大龍王が解決するというシステムを創った』

  …普通に人間と同じような構造をしているな。ジオラスはその戦った人間から影響を受けたのか?

  『ちなみに私たち五大龍王が人間の言葉を使えたり、人のサイズに姿を変えれるのは、もし人間とのいざこざが起きた際に対話が出来るようにとグラジオラスが勉強させたのよ』

  「なるほどな~」

  『五大龍王は死んでしまったり、種族内で更に強い龍が出た時に交代される。現状五大龍王として一番若いのはヒスイとミツマタなのよ』

  「へーそうだったのか。同い年なのか」

  ヒスイの方を見ると少し不機嫌そうに

  『あんな馬鹿と同い年というのは納得がいっていない』

  と不満そうだった。

  『今のところ年で言ったら海龍アスター、賢龍アヤメ、魔龍の私、飛龍ヒスイと地龍ミツマタの順ね』

  「…カトレヤの方が年いってるのか」

  『なんかその言葉腹立つわね。別にヒスイと15しか変わらないわよ』

  カトレヤは反論してくるが15ってかなり空いているのでは?と思った。

  まぁ龍と人間では寿命が違うしな。あまり関係ないだろう。

  ただこの話でいろいろ分かった。

  毎年、国から必ずドラギス島の調査の『王令依頼』が来るがあれはその人間と龍の戦争後の龍の動向を探るために行われていたのか。

  「分かった。ありがとう。結構気になっていたから助かるよ」

  『いいのよ。あなたも今は私たちと同じこの島で生活をするんだからこれくらいは知っておいた方が良いしね』

  『…何用だ、地龍ミツマタ』

  『古龍グラジオラス、クストのことで少し』

  俺は今、古龍グラジオラスの元に来ていた。島の中心に巣を構え、ここに立ち入るのは五大龍王とクストのみ許されている。

  俺は昨日のクストの異常な様子を伝えに来た。

  『彼がどうした』

  『昨日俺はクストを鍛えるため地龍の領地に呼びました。そして彼が疲労により意識を失った際、飛龍ヒスイとの交戦で失った左腕が龍の腕として再生。背中からは飛龍の左翼が出現し、左目も龍のものに変異しました』

  『…彼はどうした』

  『クストは自我を失ったようで俺と交戦。その際飛龍ヒスイと同じ炎を吐き、爪も俺の甲殻を裂く程の鋭さとなっていました。ですが途中で意識を失い左腕、左翼は消え、左目も元に戻り、俺の巣までつれていきました。目覚めたときにはいつものクストでした』

  起きたことを事細かにグラジオラスに伝えていく。俺の話を落ち着いた様子で聞いていたが、話し終わると少しの沈黙のあと口を開いた。

  『…やはりそうか』と、一言。

  …この方は何を考えているか分からない。

  『やはりそうか…とは?』

  『彼は、飛龍ヒスイの血を取り込んでいるのだ』

  『…なんですって?』

  『魔龍カトレヤが申しておったのだ。クストは本来死ぬような状態であった。だが飛龍ヒスイの血を飲ませ、一命を取り留めたのだ』

  『そうだったのか』

  ヒスイの野郎、一体どれだけクストを痛めつけたんだろうか。

  『しかしな。お主らは知らぬだろうが、人間が龍の血を取り込めば死んでしまうのだ』

  『…なんですと?』

  グラジオラスの衝撃の発言に疑問をぶつける。

  人間は龍の血を取り込めば死ぬ?だがあいつは一体…。

  『驚くのも無理はなかろう。龍の血を取り込んだ人間なんて200年前で最期じゃろうからな』

  困惑していると続けてグラジオラスは話す。

  『200年前までは討伐された龍の肉は人間が食しておったそうだ。だが血抜きをせずして食した人間は皆死んだ。人間には合わないあまりにも濃すぎる魔力濃度を持つ龍の血を飲めば体が耐えられず死ぬ』

  『…えっと、でもクストは生きて…』

  『そうだ。奴には何かある』

  『…そんな危険因子を残しておいて大丈夫でしょうか。あいつは俺でも勝てるか分からない。下手なところであの状態になれば龍にも多大な被害が及びかねません』

  俺は龍達を心配しグラジオラスに提案をする。

  グラジオラスがクストを気に入っているのは分かる。俺もあいつは面白いと思う。だが下手に被害が出ると五大龍王としても同胞として見過ごすわけには行かない。

  場合によっては苦しい選択も視野にいれる必要がある。

  俺の提案を聞きすこし沈黙し口を開いた。

  『…お主の不安も分かる。だがクストをここで捨てると言う選択を我はしない』

  俺の心配を否定する答えが帰ってきた。

  『…本当に大丈夫ですね?』

  念を押すと

  『問題ない。もしお主ら五大龍王にも手に負えなくなれば我の元に連れてくるが良い』

  この方にこう言われてしまったら俺らは逆らえない。素直に従おう。

  『分かりました。再度何かあれば報告します』

  『あぁ』

  報告も済み俺は巣に戻ろうとする。すると

  『ミツマタよ』

  グラジオラスに背を向けると声が聞こえた。

  『なんでしょう』

  『あやつの力は不安定だ。使いこなせるようにしてくれ』

  そう言われる。絶対この方は何か知っている。だが言わないということはまだ言えないということだ。

  『はい。この地龍ミツマタにお任せを』

  『頼んだぞ』

  そうしてグラジオラスの巣を後にした。

  ミツマタが去ったあとグラジオラスは笑みを浮かべた。

  『ようやく出会えたな…我が子孫』