第2話 五大龍王と人間

  「人間。私はヒスイ。貴様達の言うドラギス島、五大龍王が一匹だ」

  先程まで目の前にいた飛龍は光の中、女の子へと変化し、ヒスイと名乗った。

  「に、にん…げん?」

  腕を持っていかれた痛みは、溢れ出るドーパミンにより感じないが流れ出る血液は止まらない。

  「そうか。人間の体力は儚い。それだけの出血で意識が朦朧としてしまうのか」

  薄れゆく意識と視界。力を絞り声を出す。

  「…お前は…俺を…どうするんだ?」

  俺の質問に驚いた顔をする。

  「私は貴様に興味がある」

  「…なん…だと」

  「しかし貴様と問答をする体力はなさそうだな」

  ま…ずい。意…識が…飛…ぶ。

  「少し待っていろ。死ぬなよ」

  ヒスイの背から翼が出現し、俺を担ぐ。

  そこで俺は視界が真っ暗になった。

  「カトレヤ、この男を何とか出来るか?」

  私は五大龍王の一匹、[[rb:魔龍 > ウィッチドラゴン]]の王、カトレヤの所が住処にする洞窟に来た。

  「あら、ヒスイ。その人間は?」

  「こいつは先程見つけた人間でな。戦ってみたが少し興味が湧いた。だから何とかしてくれ」

  「あなたが戦って興味が湧くとはね。それはおもしろい。いいわ、治してあげる」

  「任せる」

  そうしてこの場を離れようとすると

  「待って、ヒスイ」

  「なんだ?」

  カトレヤに引き留められてしまった。

  「別に人間を治すのはすぐに終わるが、あなたが食べた腕は戻らないわよ」

  「分かった」

  「それともう一つ」

  「ん?」

  「この人間にヒスイの血を分けて」

  「何故だ」

  カトレヤの言葉に疑問を返す。どうして人間に私の血を与えねばならんのだ。

  「すぐここに連れてきたら良かったんだけどね。それなりの出血をしている。私の魔法はなくなった腕の傷を塞ぐことは出来るが、血を戻すことは出来ないからね」

  「そうなのか」

  「だからあなたの血を分けて。頼んで来たんだからそれくらいはして」

  「仕方がない」

  自分の腕に切り込みを入れ、血を流す。この程度で痛みは感じない。

  「じゃあそのまま、人間の口に血を垂らして」

  言われたまま人間の口を開け血を入れる。しかし疑問が出てきた。

  「血液を口にしても再生しないと思うが」

  「普通はそうだけど、人間に龍の血液は圧倒的なエネルギーだからね。それだけでも充分人間は血液を再生する事が出来る」

  「なるほど」

  私は血液を与え、カトレヤは魔力を腕に集中させ、傷を塞いでいく。

  人間に興味が湧いたのは初めてだった。今までこの島に侵入した人間の中にも強い人間はいたが興味は湧かなかった。この人間、とてつもなく強いというわけではない。しかし人間の持つ『心』というものがこいつは異なっているように感じた。

  それを知るために今はこいつを起こそう。

  「…ん…んん」

  暗闇に落ちていた意識が戻るのを感じる。

  俺は…どうなったんだ?目を開け、状況を把握しようとする。

  「ここはどこだ?」

  視界に映るのは岩の天井。ここに来た時拠点に選んだ洞窟かと思ったが、岩の色が違う。

  「起きたか」

  背後から声をかけられ起き上がるため左腕を支えにしようとしたが、空気を空振る。

  いや空振るのではなく感覚自体がない。

  「なっ!?」

  左を見てもそこにはあるべき腕はない。その瞬間、記憶を取り戻した。

  そうだ、俺は飛龍に腕を噛み砕かれた。そのまま殺されるかと思ったが、その飛龍は女の子へと変貌しヒスイと名乗った。…ということは。

  「…ヒスイか」

  右腕で体を支え体を起こす。立ち上がり振り向くと意識が途絶える直前に見た女の子が立っていた。

  「私の名を覚えていたか」

  ヒスイは感情の乏しい表情だ。

  「流石にな。あまりに衝撃的だったものでな」

  「何がだ」

  「龍が人間に変わるという話は聞いたことがなかったものでな」

  「そうか。まぁそうであろう。この芸当が出来るのは五大龍王か竜人だけだ」

  「そうなのか」

  そこで少し間が空く。この特殊な状況に追いつけず、思考が混乱しているのであろう。

  「では、いろいろ質問してもいいか?」

  思考が整いヒスイに問いかける。

  「構わん。私も聞きたいことがある」

  ヒスイが聞きたいこと?それが何かは予想できなかったが、話に応じてもらえるなら何でもいい。

  「じゃあ、まずは俺から。お前は俺をどうするつもりだ」

  少し警戒しながら、問いかける。下手な事を言い殺されたくはない。言葉選びは慎重に行わねば。

  「今は貴様を殺すつもりはない。そこまで警戒する必要はない」

  「それを簡単に信じろと?」

  「信じぬならそれでも構わん。しかしいくら警戒しようがしまいが私は貴様をいつでも殺せる」

  さも当たり前のように言うヒスイ。だが間違っていない。今は武器もなければ左腕もない。先程の戦いで万全の状態で勝てなかったのだ。今はどうしようもない。

  「確かにそうか。では次だ。この腕の傷を塞いだのはヒスイか?」

  「私ではない。それは…」

  ヒスイの言葉を遮り

  「それは私が治したのよ」

  背後から声が飛んでくる。

  「誰だ?」

  振り替えるとそこには25歳程度の女性がいた。

  「そこまで警戒しなくていいのに。私はカトレヤ。そこのヒスイと同じ五大龍王の一匹よ」

  カトレヤと名乗る女性はそう言う。こいつもヒスイと同じ五大龍王と呼ばれる存在なのか。ということは…。

  「お前も龍なのか」

  「そうよ。聞いたこと無い?『[[rb:魔龍 > ウィッチドラゴン]]』って」

  魔龍…ギルドの持つモンスター資料での龍の一覧に少し見たな。あまり人間世界に出ることはないため、情報が少ないらしいが…。

  「名前だけならな。詳しくは知らない」

  「そう。…腕の調子はどう?」

  話題を変え、腕のことを聞いてきたカトレヤ。

  「腕か…痛みはない」

  「なら良かった」

  「しかし腕は戻らないのか?」

  気になったことを聞いてみる。片腕がないともしここから出て生きれたとしても不便だ。

  「申し訳ないけれどどっかの誰かさんが食べちゃったからね。腕があるならくっつけることは出来たけど、無いからね。傷を塞ぐことしか出来なかったわ」

  「そうか…まぁ傷を塞いでくれただけありがとう」

  カトレヤはヒスイに視線を送りながら話してくれる。当のヒスイは表情一つ変えなかったが。

  「じゃあ、腕の話であなたに伝えておく事があるわ」

  「なんだ?」

  少し深刻そうな顔でカトレヤは話し始める。いったいなんなんだろうか。

  「ヒスイがあなたをここに連れてくるのが少し遅かったせいで失血死する直前だったの」

  「はぁ」

  背後からヒスイが「それは人間の体が弱いのが悪い」とかぶつぶつ言っているが気にしない。

  「それでね、回復魔法では失った血液を戻すことは出来ないの」

  「それは知っている」

  フィララも回復魔法が使えて、何度か怪我を治してもらった時に教えてもらった。

  「だから、今あなたの中にはヒスイの龍の血が入っているわ」

  「…なんだと?」

  俺に龍の血が?しかし、それで何か良くないことが起こるのだろうか?今のところ何もないが。

  「何か影響はあるのか?」

  「普通に生きることは出来る。でも、今のあなたは人間ではなく、竜人に近いものになってるわ」

  「竜人に?」

  「えぇ、本来の竜人は人間と龍の交配種。両方の特徴を持った存在。しかしあなたに入ったのは五大龍王、ヒスイの血。その濃度とエネルギーは他の龍とは比べ物にならない。だから龍の力を少し持っている状態になってしまっているの」

  「…なるほど。理解は…した。助けて貰っただけ感謝する」

  「不本意だがな。人間に私の血を与えるのは」

  不服そうにヒスイがいう。

  「あなたが興味を持ったから彼を連れてきたんでしょ?無償で治しただけ感謝してほしいわ」

  「興味を?」

  そういえばヒスイも俺に聞きたいことがあったらしいな。なんだろうか。

  「ヒスイは俺に何を聞きたいんだ?」

  俺がヒスイに聞くと

  「では聞こう。貴様は何者だ」

  「何者?変な質問だな。俺はただの冒険者だ」

  何を意図しての質問かわからない。

  「違う。貴様は何故あそこまで負け戦うことが出来る」

  「どういうことだ?」

  「貴様は今まで私が対峙してきた人間より弱い。しかしあそこまで傷つけられようと、抵抗してきた人間はいなかった」

  「…ほう」

  「何故あそこで折れず抵抗出来た。何故生を懇願することをしなかった」

  「そんなことを言われてもな。なにもしないで死ぬのは嫌だった。ただそれだけだ」

  あの戦いの時に思ったことをそのまま言う。本当にヒスイが戦ってきたのは強かったのか?

  「本当にそれだけなのか?」

  「あぁそれだけだ」

  うーんとヒスイが少し悩む。

  「本来、人間はどれだけ強い武人であっても死を目前にすれば絶望し諦めるか、生を懇願する。貴様のように最後まで諦めぬ心はどうやって手に入れた」

  決起迫った様子で詰め寄ってくる。なんだなんだ?突然。

  「そこまでにしなさい。困ってるでしょ?」

  カトレヤがヒスイの肩を掴み離してくれる。助かった。

  「…だが」

  「まぁあなたの気持ちもわかるけど、この人だって突然の状況なのよ?ちゃんと質問に答えられると思っているの?」

  「…そうか」

  ヒスイはそう言い俺らから離れる。

  「ごめんなさいね。ヒスイにも事情があるの」

  「あ、あぁ。構わないけど」

  カトレヤはヒスイとは違いだいぶ大人びているようだ。

  「私も貴方に興味があるの」

  「はぁ」

  「まだ貴方の名前を聞いていなかったわね。名前を教えてくれる?」

  「俺はクストだ」

  ようやく落ち着いて会話が出来て安心する。

  「クストね。分かったわ。じゃあ私も質問してもいい?」

  龍って言うのは質問が多いな。探求心がすごいと言うかなんと言うか。

  「分かった。答えられることなら」

  「そうね…これは五大龍王として聞くわ。貴方は何故この島に来たの?」

  当然の質問だな。ヒスイが聞いてこなかったからどうでもいいのかと思った。

  「俺は『王令依頼』…まぁ仕事だ。仕事でこの島の龍の様子を調査しに来た」

  「一人で?貴方一人でそれは無謀じゃない?」

  …一人か。元は5人だったはずなんだがな。

  「…いや、答えなくていいわ。来た理由が分かったからね」

  「え?いいのか?」

  俺の様子から察したのかカトレヤはそう言う。

  「何か事情があるんでしょ?答えづらいならいいわ」

  「…ありがとう」

  「別にいいわ。まだ聞いても?」

  「あぁ」

  「じゃあこれは個人の質問。貴方は今、龍二匹が近くにいる状態。それは分かっているわよね?」

  「分かっているぞ」

  「では何故この状況でそこまで落ち着いていられるの?」

  「そうだな…俺は出来る限りの冷静さを欠かないよう考えているだけだ。どんな時でも冷静さを失えば正常な判断が出来なくなる。判断が出来なければ死ぬこともある。だからどんな時も落ち着いていられるようにするんだ」

  「…ふーん。面白いわね、貴方。ヒスイの気持ちも分かるわ」

  「はは、気に入って貰えて良かったよ」

  あと聞きたいことを考える。ある程度聞いたか。

  「じゃあ、最後に二つ良いか?」

  「いいわよ」

  「俺はどうなる?食うのか?殺すのか?逃がすのか?」

  「そうねー、私は面白そうだからここに残ってほしいけど、他の五大龍王が何て言うかしらね」

  「まぁすぐに殺される訳じゃないならいいよ」

  「もう一つの質問は?」

  「あぁそれは、ずっと言ってるお前ら五大龍王ってなんだ?人間側にはそんな情報無かったぞ」

  「それはね…」

  カトレヤが五大龍王について説明しようとしてくれた時

  ドカーンッ!!!という爆音とともに大きな振動が起きた。

  「なっなんだっ!?」

  驚いている俺の横でカトレヤは翼が背から出現し腕と脚も龍の強靭なものに変化していた。

  「カトレヤ」

  「ヒスイ、何があったの?」

  離れていたヒスイが奥から走ってきた。その姿はカトレヤと同じように体の一部が龍に似たものに変化していた。

  「ゴブリンロードが来た。今この山を外から殴っている」

  「なるほどね」

  ゴブリンロード…だと?ゴブリン自体は別に強くない。相当油断しない限り俺でも10体は相手にできる。しかしゴブリンロードともなればそうはいかない。本来のゴブリンは80~100cm程だが、こいつは長年生き続け巨大に成長した特殊なゴブリンで5~8mになる。俺もキリル達と一度相手にしたことはあるがかなり苦戦した。そんな奴が攻めてきたというのに二人はとても落ち着いた様子だった。

  「大丈夫なのか?」

  二人の落ち着き具合を見て焦ってはならないことを思い出し俺も落ち着く。

  「問題ない。カトレヤ、すぐに潰すぞ」

  「分かったわ。あなたも来る?」

  まるで日常であるように話す二人に、買い物を誘うように言うカトレヤに驚きしかでない。

  「あ、あぁ。ここに残っているよりかは二人といた方が安全な気がするからな」

  「じゃあ、今すぐ行くわよ。この山、結構気に入ってるから壊されたらたまったもんじゃないわ」

  「私もここは来るし、何より人間と戦うだけでは不完全燃焼だ」

  「は、はぁ…」

  そうして走り出した二人の後についていった。片腕がない状態で走ったことはないので違和感がすごかった。

  「もうすぐだぞ」

  ゴブリンロードが起こしているだろう振動に耐えながら少し走ると外の光が見えてきた。

  「勝てるんだよな?」

  息を少し切らせながら並走するカトレヤに聞く。

  「問題ないわ。ゴブリンごときに遅れをとるほど私達は弱くないわ」

  全く息の切れていないカトレヤの言葉を聞いて安心する。ゴブリンロードは時に龍と同じ危険度を持つこともある。だから聞いてみたが大丈夫そうだ。

  「出るぞ」

  ヒスイの言葉で外へ出る。日光が入らない洞窟内だったので、日の光が眩しい。

  『来タナ。五大龍王魔龍ノカトレヤ』

  目が慣れてきたとき頭上から声がし、上を見上げる。そこには…

  「…でっか」

  そこには俺が知っているゴブリンロードの二倍はあるであろう巨大なゴブリンロードが俺らを見下ろしていた。

  『貴様ヲ殺シコノ山ヲ我ガ住処ニサセテモラウ、ト思ッタガ他ニ二匹違ウノガイルナ』

  ゴブリンロードの視線がカトレヤからヒスイと俺に移る。その龍にも匹敵する威圧感に怯んでしまう。

  「迷惑だから出ていってくれ。消し炭になる前にな」

  ヒスイが挑発的にそう言うと

  『ソノ声ハ五大龍王飛龍ノヒスイカ…オモシロイ!貴様モ殺シ、我々ゴブリンガ龍共ヨリ強イコトヲ示シテクレル!』

  そう言い咆哮する。その爆音に思わず耳を塞いでしまう。

  「退く気はないんだな?ならばこちらも容赦なくいかせてもらう!』

  ヒスイもそれに呼応するかのように飛龍の姿に変化し、咆哮する。

  『カトレヤ。そいつを守っておけ。消し炭にならないようにな』

  「任せておきなさい。くれぐれも山を壊さないでよ?」

  『あぁ』

  カトレヤも龍の姿に変化する。これが魔龍か。初めて見たが翼が飛龍よりは小さいな。

  『乗って。クスト。ここにいると衝撃波に吹き飛ばされるわよ』

  そう言って俺を見る魔龍カトレヤ。龍に見られると怯んでしまうがその目に敵意はない。

  「あぁ。ありがとう」

  降ろされた尾を急いで登り背に乗る。

  『飛ぶわよ。振り落とされないようしっかり掴んで』

  「分かった」

  カトレヤの背にしがみ付くとカトレヤは翼を羽ばたかせ宙へ浮いた。これが空を飛ぶ感覚なのか。結構怖い。

  『では行くぞ!ゴブリンごときが私に楯突いたことあの世で後悔させてやる!』

  『五大龍王デアロウガタダノ[[rb:蜥蜴 > とかげ]]デアルト自覚サセテヤロウ!』

  俺らが少し離れるとヒスイがゴブリンロードへ飛んでいく。ゴブリンロードも手に持つ巨大な棍棒を振りかざす。

  振りかざされた棍棒へヒスイが突進し、衝突する。その瞬間強力な衝撃波が全身を襲う。

  これは確かにあの場にいれば軽々と吹き飛ばされていた。

  『大丈夫?』

  強い衝撃波が飛んできたにもかかわらず、怯むことないカトレヤの姿に流石龍だなと思った。

  「大丈夫だ」

  『なら良かったわ』

  「お前は戦わないのか?」

  ふと思ったことを聞いてみる。

  『別に行ってもいいけど、あなた一人で大丈夫なの?』

  「そう言われると大丈夫ではないが…ヒスイ負けるんじゃないのか?」

  ヒスイは龍の姿になっているが、それでもゴブリンロードの方がかなり大きい。いくら龍とはいえ厳しいのではと思った。

  『そうねー貴方は生きているけれど、彼女と戦って生きていられたのは私たち五大龍王だけよ。しかも彼女と本気で戦えば他の五大龍王も勝てる可能性は極めて低い』

  「そ…そうなのか?」

  『まぁ見ていなさい。本当の龍の強さを』

  『フン!』

  ゴブリンが棍棒を振りかぶりそれを避ける。先程破壊できるかと思い突っ込んでんでみたが、今まで戦った奴より硬く破壊できなかった。

  『ドウシタドウシタ!?攻メナケレバイツカ当タルダケダゾ!』

  ゴブリンは連続で棍棒を振る。それを避けながら後退する。闇雲に振っているわけではなく避けなければ当たっていた場所に振っている。的確に狙えている当たりそれなりに実戦を積んできたようだ。

  『結局龍モ避ケルシカ出来ない[[rb:蜥蜴 > とかげ]]カ!』

  『…』

  『ソロソロ殺シテヤルヨ。貴様ノ次ハカトレヤダ。モウ一体余計ナ奴ガイタガ五大龍王トハ程遠ク弱イ気配ダッタナ。アンナノハスグサマ潰シテクレル』

  『…なるほど』

  『何?』

  『私から言わせて貰うとあいつは貴様よりよほど強い』

  その自信、壊させてもらう。

  『貴様は未だ私に傷一つつけられないが、あいつはこの私に傷をつけた。しかも喉元だ。あいつが龍であれば私は死んでいた』

  『…ソンナ訳ガアルカ!アンナノガ貴様ヲ傷ツケルコトガ出来タノデアレバ、我ニ出来ンコトハナイ!』

  『ならば身をもって教えてやる。貴様のように力を振るう事しか出来ん馬鹿にな!』

  『クッ…ハァァッ!』

  怒りのままに棍棒を横に振るう。だから馬鹿なのだ。

  「よっと」

  『何!?』

  体を人間に戻し棍棒を避け宙を落下する。そろそろ終わらせる。

  『ドコヘ行ッタ!?』

  周囲を探すゴブリン。そこから見ても分からんだろう。

  『ここだ』

  『グッ!』

  ゴブリンの足の高さで龍の姿へ戻り、右足へ噛みつく。

  『キ、貴様ッー!』

  やはりゴブリンの血はまずい。

  動きを封じるか。

  『貴様!何ヲスル気ダ!?』

  喉元に炎を溜める。

  『放セッ!』

  ゴブリンは抵抗で足を動かそうとするがそうはさせない。

  『[[rb:爆火 > ばっか]]』

  噛みついたまま口元で溜めた炎エネルギーを爆発させる。爆発により右足が消し飛び焼けた肉片が飛び散る。

  『グワァァァッ!!!』

  『おっと』

  右足を失ったことによりバランスを崩し、倒れ込んでくる。

  流石にこの巨体には潰されたくはない。

  『グ…グゥゥ』

  倒れたゴブリンはなんとか立とうとしている。トドメだ。

  『貴様ァァァッッッ!!!』

  私は空へ飛び見下ろす形で倒れた愚か者を眺める。

  『消し飛ぶが良い!』

  先程より強力な炎を喉に溜め込む。

  『最後に一つ教えてやろう』

  『何?』

  『私が考えなしに避け続けたと思うか』

  『ソノ通リデアロウ!貴様ハ避ケルシカ…』

  よくもこの状況でそんなことが言えるな。そこで私に一矢報いることが出来ぬ貴様はあいつより弱い。

  『私が貴様を意味もなくここまで移動させると?笑わせてくれる』

  『ナンダト!?』

  『カトレヤに言われたらな。「山を壊すな」とな。貴様のようなデカブツを消すにはかなりの出力が必要だ』

  『ダカラ何ナノダ!?』

  ここまで言って分からないか。やはりゴブリンはパワーだけの能無しか。

  『タイムリミットだ。充分エネルギーを溜めれた。貴様を消すためのな!』

  私は口を全開させ喉に溜め込んだ炎エネルギーを開放する。

  『消し飛べ![[rb:炎獄 > えんごく]]!』

  『クスト!しっかり掴まって!』

  「わ、わかった!」

  ヒスイがゴブリンロードの足を消し飛ばし倒れたところで、徐々に喉が赤くなっていく。かなりの距離でも分かるとてつもないエネルギーだ。

  そんなことを思っていたらカトレヤがそう叫んだので言われた通り全力でしがみつく。

  『[[rb:嵐位 > らんい]]:[[rb:嵐壁 > らんへき]]の[[rb:防備 > ぼうび]]!』

  カトレヤの声で俺らの周りに強力な風の壁が出来る。

  これは風魔法の上位、嵐魔法!?上位魔法といえば賢者レベルが使える高難易度…一般的な魔法使いも10年修行してようやく使えるものだ…これが魔龍の力なのか。

  『消し飛べ!炎獄!』

  ヒスイがそう叫ぶと喉に溜まっていたであろう莫大な炎エネルギーが口から放出される。その瞬間強力な衝撃波が起こり、下にあった緑の大地は炎しか見えない状態になっていた。

  『くっ…』

  カトレヤも少し体勢を崩す。俺も振り落とされないように全力でしがみ付く。

  『グワァァァァッッッッ!!!』

  ゴブリンロードの全身をヒスイの炎が包む。尋常でない程の絶叫が聞こえる。

  30秒ほどするとヒスイは炎を吐くのをやめた。

  カトレヤの背中から下をのぞき込むと地面は広範囲に焦土と化し、ゴブリンロードは跡形もなく消し飛んでいた。あの巨大な体がこの30秒で…俺が過去に一度戦った時はあんなに個体じゃないのに1時間ほど戦い続けようやく倒せた。

  『ふぅ』

  軽くため息をつきヒスイがこちらに向かってくる。あんなとてつもないことをしておきながら何事もなかったかのようだ。

  『やっぱり言っておいてよかったわね』

  「何が?」

  『山を壊すなってね。あの近くで戦わせたら山も更地になるところだったわ』

  「そう言うことか」

  最初はゴブリンロードが暴れて山を壊さないようにかと思ったが、あれはヒスイの強さをよく分かっているからこその言葉だったのか。

  『無事か?』

  ヒスイは俺に顔を近づけ聞いてくる。敵意がないことは分かってても龍と至近距離は怖いな。

  「大丈夫だ。カトレヤが守ってくれたからな」

  『ならば良し』

  俺とヒスイが話していると

  『ちょっとー私の心配は?』

  カトレヤが文句を言っていた。

  『お前なら大丈夫だろう。事実耐えているしな』

  『うーん』

  『まぁ助かった。私は魔法は使えん。こいつを守りきれるとも限らないからな』

  『久しぶりに聞いたわ。あなたから感謝の言葉』

  先ほどあんな戦いが起こったとは思えない平和的な会話だ。

  「そろそろ戻らないか?下手して落ちたくないんだが」

  俺がそう提案すると

  『構わない。私もずっと飛んで無駄に体力は消費したくない』

  『じゃあ戻りましょうか』

  二匹とも俺の提案に乗っかってくれた。よかった。ずっと空中にいるっていうのは意外と怖い。

  『ん?』

  ヒスイがそんな声をだし俺らの後ろを凝視している。

  「どうした?何かあるのか?」

  気になり聞いてみると

  『いるわね。あいつが』

  カトレヤが答えた。誰だろうか、あいつとは。

  気になり後ろを見てみると一匹の龍が飛んできていた。

  『ちょっと寄り道するけどいい?』

  「あ、あぁ。大丈夫だけど」

  俺がそう返すと二匹は龍の方へ向かった。戦闘にならないといいが…。

  『久しいな、同胞。ヒスイ、カトレヤ』

  その龍はそう言った。この龍も喋れるということは…

  『何しに来た、[[rb:賢龍 > ワイズドラゴン]]アヤメ』

  賢龍?確か他の龍よりも知能が高いとか聞いたことがある。その特性上人間の言葉を巧みに操ることが出来て人間と関わろうとするやつもいるとか。

  『そう警戒するな、別に交戦しに来たわけではない』

  『じゃあ何か用があるの?アヤメがこっちに来る事なんて滅多にないじゃない。あるとしたら龍王集会の時くらいかしら?』

  龍王集会?龍にも集まることあるんだな。

  『その通りだ。この度は緊急でお主らを呼びに来たのだ』

  『緊急?何かあったの?』

  『この島に人間が侵入したという報告があってな。所在を知らぬか聞きに来たのだが…』

  「…え?」

  賢龍、アヤメとか言ったか?は俺を見てくる。

  「…なんだ?」

  少し警戒しながら聞いてみる。敵意はなさそうだが、先ほどの会話の内容からいいことではなさそうだ。

  『お主か、侵入した人間というのは』

  「俺らの後にいなければそうなんだろう」

  『…聞きたいことはあるが、それは後にさせてもらう』

  なんだろう…このアヤメという龍、掴みどころがない。ヒスイやカトレヤよりも自身を表面上に出してこないな。

  『彼をどうするつもりなの?』

  カトレヤの質問にアヤメは

  『それは[[rb:古龍 > エンシェントドラゴン]]が決める。[[rb:地龍 > グラウンドドラゴン]]と[[rb:海龍 > シードラゴン]]は既にあちらにいる。後はお主らだけだ』

  そういうとアヤメはどこかへ向かってしまった。

  『仕方ない。ここは行くとするか』

  『下手に拒否するのもねぇ。クスト、もう少し空の旅をするわよ』

  「分かった、俺に拒否する権利はなさそうだしな」

  二匹の雰囲気から良いことが起こる感じではないな。腹をくくるか。

  俺はカトレヤの背でそんなことを考えながら、アヤメの方へ向かった。

  「ここは…」

  カトレヤの背で島を見渡していると、謎の巨大な穴に着いた。

  『ここが龍王集会が行われる会場よ』

  「そんなこと言ったって…底見えないぞ、これ」

  カトレヤの言葉に疑問しかない。覗き込んでみるが完全な深淵だった。本当に底あるのか?

  『大丈夫だ。貴様はカトレヤの背にいれば落ちることはない』

  「いや、そうなんだけどさぁ」

  言っても縛られているわけではないのでバランスを崩せば下に真っ逆さまなんだよな。

  『変に遅いとなんか言われるかもしれないから行きましょ』

  『そうだな』

  二匹は穴の中を下降していく。どんどん暗くなっていくので結構怖い。

  『そうか、人間の目ではこの暗さは何も見えんのか』

  俺の状態を見て分かるような発言をヒスイがする。

  「逆にお前たちはこんな暗い中見えているのか?」

  『普通に見えているよ。逆に人間がこれで見えなくなることに驚きだわ』

  カトレヤの言葉に俺が驚く。すごいな、龍って。

  『クスト、明るさいる?』

  「…頼む」

  一瞬見栄を張って大丈夫と言いたかったが、何も見えないのはやはり怖い。俺は諦めて頼んだ。

  『はーい、[[rb:光位 > こうい]]:[[rb:照陽 > しょうよう]]の導き』

  カトレヤが魔法を唱えると人の頭程の光球が現れ、周囲を照らす。おー、明るい。

  『これで大丈夫でしょ?』

  「あぁ、ありがとう」

  カトレヤに感謝し、辺りを見渡す。

  それなりに降りてきたからか下が見えてきた。大きな岩石だらけで人間が歩くには厳しい地形だ。

  『そろそろ着くが貴様は大丈夫か』

  「何が?」

  『これから行われる龍王集会では我々五大龍王がこの島の状態や各種属の現状を定期的に報告する。今回のように緊急の集会は外部の侵入、侵略が起きたときが主だ』

  「つまり?」

  『貴様に何らかの処罰があるだろう』

  「…まじか」

  ヒスイの気まぐれで今は生きていられるが他の龍はそうとも限らない。実際俺はここの侵入者に違いない。

  『いざって時は私たちも味方するつもりだけど、どうしようもないときは覚悟した方が良いかもね』

  「…分かった」

  重い心持ちになりながらもどうしようもないので龍王集会に参加することにした。

  『遅かったな。ヒスイ、カトレヤ』

  カトレヤの背で覚悟を決め、少しすると開けた空間に出た。そこには先に行った、アヤメと2匹の龍がいた。

  『黙れ、ミツマタ。緊急の集会に速く来れるのは貴様の住処が最もここに近いからだろう』

  『空を飛べる貴様は直線距離で来れるが俺は走らなければいけないんだ。近くても変わらんだろう』

  『どのみち貴様は道中の木々や岩石を破壊してくるから関係ない』

  ミツマタと呼ばれる龍とヒスイが口論を始める。あれは翼がなく、飛龍であるヒスイよりも一回り大きいから[[rb:地龍 > グラウンドドラゴン]]か?

  『まぁまぁ落ち着きたまえ。全員揃ったんだから』

  空間の一部が水辺になっており、そこから顔を出していた龍が二匹を諌める。あれは…[[rb:海龍 > シードラゴン]]か?

  『…ぐぅ』『…すまぬ』

  二匹は海龍によって黙らされた。あいつ…あのヒスイをああする事が出来るとは…相当な実力者なのか?

  『皆揃っているか』

  奥の暗闇から一匹の龍が現れる。その姿を目にした俺は

  「…でっか」

  ゴブリンロードを見た時と同じ反応になってしまった。

  それはそうだろう。その龍はゴブリンロードと同じ位の巨大な体躯をしていた。あのヒスイと口論をした地龍でもギルドにある龍の情報よりも大きいのに、それを大きく上回っているのだ。

  『汝か、この島の侵入者は』

  「あ…あぁ」

  『どうやら、我の読み通りになったようだな』

  「どういうことだ?」

  『聞き覚えはないか?我の声』

  その言葉の瞬間、俺の頭にある声が流れてきた。

  『汝…同胞に注意せよ…』

  「…これは!?」

  この島に来る前に聞こえてきた謎の声だ。今一度聞いてみるとこの龍と同じ声をしている。

  『聞こえたようだな、それは我の念話だ』

  「…何故この声が?」

  俺の質問に謎の龍は

  『我には見えるのだ。我々龍達の未来を変えうる存在が』

  俺が…龍達の未来を変える?

  『我は龍の未来を変えうる存在へ干渉をする。その者が敵となりえるか見極めるため』

  「俺はどうだったんだ?」

  『次期に分かる。我も汝がどのような影響を龍へ与えるかは正確には分からぬ』

  「そうなのか」

  『しかし良い方向に向かってくれると信じるぞ』

  龍はそう言うと指を一本俺へ差し出す。

  「っく」

  その強靭な爪で体を貫かれると思った俺は腕で体を守ろうとする。

  そんな俺を見て龍は

  『そう警戒するでない。我には汝を攻撃する意思はない』

  その言葉に殺意は微塵も感じ取れない。だから俺は警戒を解きその指に触れる。

  『我が許可を出さぬ限りこの島の龍は汝に危害を加えぬ。安心せよ』

  やはりこの龍は周りの龍とは一線を画すようだ。

  「あんたはいったい何者なんだ?」

  俺の言葉を聞くと巨大な翼を広げ

  『我は各龍を統べる五大龍王の長、[[rb:古龍 > エンシェントドラゴン]]グラジオラス。汝を歓迎する』

  と、力強く言う。そこには龍ではなく一国の王の宣言と同じようなものを感じる。そのため思わず頭を下げてしまう。周りのヒスイたちも頭を下げていた。

  『汝、名は』

  「俺はクスト。受け入れてくれてありがとう。…えーっと」

  普通にグラジオラスと呼ぼうとしたが、ヒスイたちとは違うのでどう呼ぼうか悩む。

  すると…

  『別に何とでも呼ぶといい。そう敬うことはない』

  とても龍のトップとは思えないほどフレンドリーだ。

  「分かった。じゃあ、ジオラス。これからよろしく」

  『ジオラス…か』

  「嫌だったか?」

  『構わん。皆、クストに名を』

  ジオラスが周りの龍たちに目をやると皆顔を上げ俺を見る。

  『俺は五大龍王、地龍のミツマタだ。ヒスイに飽きたら俺のところへ来いよ』

  「あー考えとくよ。よろしくな、ミツマタ」

  『黙れ、ミツマタ。私はもういいだろう。飛龍のヒスイだ』

  「そうだな。もう見慣れたわ」

  ミツマタとヒスイは仲が悪いのかもしれない。さっきも口論してたし。

  『私もいいよね。まぁ一応。魔龍のカトレヤよ。良かったわね、クスト』

  「あぁ、死ぬことなくて良かったよ」

  『古龍が決めたのなら私も従おう。賢龍、アヤメだ』

  「分かった。よろしくな」

  他の龍と比べてどこか壁を感じるが気にしないでおこう。

  『最後だね。僕は海龍、アスター。五大龍王の中では一番長く生きてるよ。海を移動したかったら呼んでね』

  「ありがとう。よろしく、アスター」

  アスターはカトレヤと同じでどこか大人びている。

  『皆終わったな。これからはクストも我々龍の同胞だ。皆頼んだぞ』

  この時俺は龍たちとの生活に足を踏み入れることとなった。

  これからどんなことが起きるかは分からない。ただ人間生活では経験できないようなことが待ってる。そんな予想がついた。