AdAd
  
狐巫女の思いと蛇王の思い

  『どうしてそんな風になっちゃったの?』

  あぁ、煩い煩い煩い煩い……!

  『どうして──』

  黙れ黙れ黙れ黙れ………!!!

  『教えてよ』

  「黙れッッッッ!!!」

  叫ぶと同時にベッドから勢いよく起き上がるシュオワン、冷や汗をたっぷりとかいておりベッドのシーツが濡れるほどだった。荒い呼吸を何度も繰り返してつつ窓の方に目をやると時間帯はまだ夜、窓に月明かりが入り込みシュオワンを照らす。

  「……夢か」

  

  シュオワンは手のひらで顔を覆いつつ枕に頭を乗せては冷や汗を手の甲で拭い、ボーッと空を仰いでいた。

  最近は何故か変な夢ばかりを見る。[[rb:過去の自分 > 出来損ない]]を見た時にこの手で絞め殺そうとした際に目覚めた時、僕は自分の首を自分の手で絞めていた。

  今度は、あの[[rb:過去の自分 > 出来損ない]]と一緒にいた雌…あれは誰だ?名前が思い出せない────

  「あの女狐……何者だ」

  脳裏に焼き付くほどにまで記憶に残るあの巫女服を着た狐────

  何故かは分からないが、どこか懐かしい匂いがした。

  「……ふぅ」

  水でも飲んで少し落ち着こう、そう思ったシュオワンは一呼吸置いてからゆっくりとベッドから起き上がり水を飲みに向かうと壁に取り付けてある全身鏡の前を過ぎようとする。すると、鏡の前で立ち止まり自分の姿を見つめる。

  

  「僕は僕だ、決してあの頃のような反吐の出るような弱い僕じゃない」

  鏡に映った自分を見てはそう呟き、部屋に備え付けてある洗面台に行ってはコップを片手に取り蛇口を捻りコップに水を汲みそれを一口飲むと洗面台の鏡に視線をやるとそこに映った自分の姿、今度は[[rb:あの頃 > 幼少期]]の自分だった。

  

  「…ッ!」

  それを見た瞬間──虫唾が走った。鏡越しに映る自分の姿の目はこちらに何かを訴えるかのような悲しみや寂しさ、そんな目だった。

  「そんな目で──そんな目で僕を見るなッ!!」

  歯軋りを立てながら片手に持っていた水の入ったコップを勢いよく鏡に投げつけると鏡はその衝撃で割れ、コップも木っ端微塵に粉々になる。

  「…クソッ」

  再び片手で顔を覆いつつ、洗面台から離れてはシュオワンはベッドに腰をかける。

  「一体なんだっていうんだ……」

  初めてだ、こんな感情を抱いたのは────

  普段は何も感じることの無いシュオワン、だが最近夢を見たことで異様な程に変わっていた。シュオワンはそのまま横になり、目を瞑り再び床に就く。

  ──朝──

  朝日が登り、日がシュオワンを照らし、その朝日に目覚め起き上がると足を床に付け座った状態になり、そのままゆっくりとベッドから立ち上がる。

  服を手に取り着替えを済まし邸宅を後にする。

  今日も今日とて大学で心理学教授として始める日々、シュオワンは道を歩いているとふと目に付いたのは普段よく目にしている道のはずなのに山側に続く曲がり道には季節外れの桜と神社が見えた。

  

  「神社…?どうしてこんなところに」

  シュオワンは、大学へ行く道を逸れては神社に続く道へと足を踏み入れる。

  石階段を登り、数分もしない内に登りきるとそこには夢で見た狐巫女がいた。

  「あれは────」

  狐巫女は掃除をしており、何かに思い詰めているかのように耽ていた。

  静かにシュオワンは近づき背後に立つと声をかける。

  「ちょっといいかな」

  そういうと狐巫女はこちらを振り向き顔を見るなり驚愕していた。

  「お主は────」

  こちらを見つめている狐巫女にシュオワンは見つめ返す。

  「……?何か僕の顔についてるかな?」

  「あ、いや…なんでもないのじゃ」

  見つめ続けているとすぐさま顔を逸らす狐巫女、シュオワンは首を傾げる。

  「この神社、見たことがなくてね。キミはここの巫女かな?」

  「あぁ、ここの責任者でもあり狐巫女を務めている。妾の名は神狐じゃ」

  

  神狐────名前は覚えた。

  「へぇ、まるで神の使いみたいな名前だね」

  手を口元に持ってきては静かに妖しく笑うシュオワン。

  

  「よく言われる、お主の名は?」

  「僕はシュオワンだ。大学で心理学の教授をしているよ」

  軽い自己紹介をするとシュオワンの事を再びじっと見続ける神狐。

  「また僕のこと見つめてるけど、そんなに気になるのかい?」

  ズイッと顔を近づけるシュオワン、思わず神狐は驚いてしまうながらも首を横に振る。

  

  「いや、なんでもないぞ?ただちょっと考え事をしておっただけじゃ。お主は何故ここに?」

  神狐は首を傾げながらシュオワンにそう尋ねる。

  「まぁ、散歩がてらに歩いていたらたまたま見慣れない神社を見つけてね」

  

  嘘────本当は、夢で見た君が居るんじゃないかと思って来ただけ──

  「そうか…ならゆっくりしていくと良い」

  「そうさせてもらおう、また暇があったら遊びに来させてもらうよ」

  そう答えると神狐はシュオワンに背を向け、掃除を始める。それを見たシュオワンも神狐に背を向けて神社を後にした。

  

  「神狐か…夢で見たのと同じ服装だ、ふふふ……」

  何故だろうか、あの女狐が無性に僕の物にしたくなった────

  あの身体、あの顔、正しく僕好みの雌だ──

  夢で見た時のあの反抗心たっぷりと全てを憎むかのような目つき……ゾクゾクする。

  君だけは絶対に僕が手にしてみせる──どんな手を使ってでも。

  

  表情を周りに見られないように手で覆いつつ邪悪な笑みを浮かべ歯を少し剥き出しにして感情を抑えられないのか黒い霧を放ちつつ股間を膨らませながらゆっくりと石階段を降りていく。

  神狐に対しての感情がモロに出始めているのか、シュオワンは深呼吸しては黒い霧を抑え込むと降りた先で振り返り神社を見る。

  「君は必ず僕の物にしてみせるよ、神狐」

  

  妖しい笑みを浮かべながらそう告知しては大学の方へと足を運んでいく。

  そして、大学の中では教授として心理学の授業を早速始めるシュオワン。

  心理学について説明しペンで黒板に内容を書いていく。

  大教室の中はシュオワンと前の席に座る授業を受ける生徒がおり、そして後ろには如何にも陽気そうな[[rb:獣人 > ヒト]]達が集団で騒いでいた。

  

  「なぁなぁ、最近のニュースやばくね?」

  「あぁ、聞いたきいた!絶滅したはずの人間が生きていたんだってな!」

  「なんでもそいつは人間達の中で滅茶苦茶有名な奴だってよ!」

  「うっそだぁ〜、んなわけねぇって

  あまりにも大声で騒ぐ集団にシュオワンは、書いている途中でバキィッ!!と凄まじい音が大教室に鳴り響く。その音はシュオワンが手にしていたペンをへし折った音で、流し目で振り返ると先程まで騒いでいた集団達は一気に静かにこちらを見ている。

  「失礼…ガラクタは大きい音が鳴るね」

  そういっては新しいペンを取り出す。

  「さ、続けるよ」

  真顔の流し目で見ていた表情が笑顔へと変わり何事も無かったかのように授業を続ける。

  説明を続けているうちに同じ姿勢をし続けていた為か身体を少し鳴らそうと生徒たちの方を向いて首の骨を鳴らしたりしていると、窓際の端の席に[[rb:彼女 > 神狐]]がいた。

  思わずシュオワンはキョトンとする。

  (神狐?なぜこんなところに────)

  

  神狐がこちらを見ていることに気づいたのか含み笑いをしてはまるで高みの見物をしているかのような笑みだった。

  シュオワンは何事もなく、再びペンを手にしては書き始める。終了のチャイムが鳴ると、神狐の方を振り向き神狐を見る。

  (一体何しに来た……?)

  神狐を見続けていると、神狐は[[rb:その気 > 後を尾かせるよう]]にさせるような視線を送った後大教室を出ていく。

  

  シュオワンは一旦道具を片付ける為に研究室へと戻り、道具や荷物を置いたあと廊下を歩いていると神狐が先程の集団に絡まれていたのを見つける。

  (さっきの連中か)

  「なぁなぁ、そこの狐ちゃん良かったら俺達と遊ばない?」

  「後悔させないからさ、ね?ね?」

  しつこく勧誘している獣人達に神狐は一言。

  「お主達に興味はないんじゃがなぁ、どっか行ってくれぬか?」

  呆れ気味に溜息をつきながら追い払おうとするが、中々退かない連中。

  「いいじゃん、ほんのちょっとだけ!お願い!頼む────」

  (そろそろ止めるか………)

  シュオワンが止めようと手を伸ばした瞬間何かが割れる音がした。

  その音とは、ガラスが割れた音──

  神狐が素手でガラスを叩き割ったのだ。神狐の目は虚ろな目でまるでこれ以上踏み込めば命は無い────そんな目だった。

  「もう一度言うぞ?2度目はない、“退け” “消え失せろ” いいな?」

  そういうと神狐の力にたじろいだ獣人達は神狐から離れると、そのまま周囲の視線を集めつつ中庭に抜ける廊下を歩いていく。シュオワンも後に続いて神狐の後を尾ける。

  

  中庭へと出るとそこは広々とした場所が広がり、大きな木が一本真ん中に生えていた。だがその木は何故か季節外れの桜になっており今でも花びらが散っていた。

  その木陰に[[rb:彼女 > 神狐]]は木に背もたれをかけながら本を読んでいた。

  シュオワンはゆっくりと神狐に近づく。それに気づいた神狐は視線を一旦シュオワンに移したあと本に戻す。

  「どんな風の吹き回しだい?僕を誑かしにでも来たのかな」

  そういって神狐の隣に立ち自分も木を背にもたせかける。

  「なに、ただ自由気ままに来ただけじゃよ」

  軽く笑ってはページを捲り、お手製のおむすびを口に含む。すると心地よい風が吹き2人の髪をなびかせる。

  「……しかしまぁ、どうしてここがわかったのかな。

  僕の事をどこまで知ってるか分からないけど、怖いもの知らずだね、君」

  「ふふふ、言ったであろう?ただの気まぐれじゃよ」

  と笑うとシュオワンは溜息を一つ吐く。

  「どちらでも構わないけどね」

  肩を竦めると踵を返すシュオワン。

  「無駄話に付き合う暇はないんだ、僕はこれで」

  シュオワンが神狐の元から去ろうとした瞬間神狐が一言放つ。

  「魔性の王という言葉に聞き覚えは?」

  (この[[rb:女狐 > 女]]…どこでその名を────)

  そう聞くと同時に本を閉じ食事を片づける神狐、その言葉を聞いたシュオワンはピクッと反応し足を止める。

  「…大層な名前だな」

  背を向けたままそういうが、シュオワンの体から一瞬黒い霧が漏れる。

  「どこでそれを聞いた?」

  そういって神狐が逃げられないように手を神狐の顔の横に置いては笑みの消えた顔を近づける。

  「さて、どこじゃろうな?」

  と曖昧気味に答えながら含みのある笑みをし神狐はシュオワンの頬をそっと撫でたあとシュオワンの横を過ぎる際に一言─────

  「どうしてお主はそうなってしまったのじゃ?」

  どこか寂しげそうな表情でそういった後、神狐はシュオワンの元を去るとさっきまであった桜が一瞬にして元の木に戻る。

  「!」

  (桜が一瞬にして元の木に戻った……!?)

  それに気づいたシュオワンは木を見つつこれは神狐の力かと確信した。

  「神狐……不思議な狐巫女だな」

  その場に佇むシュオワンはどこか寂しげな表情をしていたのだった────

AdAd