柴後輩とクロ兄ちゃん【デート?】

  ────じゃあ、肩の辺りとか・・・。

  「“ん? どうしたの?”」

  ───手はどうだろう・・・。

  「“手・・・つなぐ?”」

  ───ほっ・・・ほっぺつついてもいいのかな。

  「“わ、私もやり返しちゃうから!”」

  ───耳とか触っちゃったりして・・・!

  「“きゃっ、くすぐったいよぉ・・・”」

  ───ガンッ!

  オレはテーブルに額を落とした。

  頭の上からはゲーム機から流れる“イイ雰囲気”のBGMが降ってきている。

  「はぁ〜・・・」

  オレは熱を逃がすようにため息をついた。

  あれからハミちゃんとの仲もぐんぐん良くなった。バレンタインにはチョコももらったし、お返しも喜んでもらえた。

  そして、デートの帰りにハミちゃんを送るようになって、追加されたのがこの・・・“おさわりモード”的なやつだ。直接ゲーム画面をタッチして、オレの横を歩くハミちゃんの好きなところを触るモードだ。触り方も3種類くらいある。

  ・・・かわいいとは思うのだが、恥ずかしい。これに照れてしまっている自分も恥ずかしいし、反応を楽しんでしまっている自分も恥ずかしい。

  ・・・まだ胸にタッチしたことはない。

  [[rb:香澄 > かすみ]]と付き合ってた時だってこんなことは・・・あったかもしれないが、ここまでじゃなかった。色々と。

  これで設定上まだ付き合ってないというのだから驚きだ。

  「“今日も送ってくれてありがと、[[rb:玄來 > げんき]]くん”」

  気付いた時にはおさわりモードは終了していた。

  「“ねぇ、良かったらこのままうちで・・・あ、やっぱなんでもない!”」

  お決まりのセリフの後、ハミちゃんは家に入って行った。

  「はぁ〜・・・」

  オレはさっきと別の種類のため息をついた。

  このままだと結構ヤバイハマり方をしてしまうんじゃないだろうか。いわゆる2次元に恋する人みたいな。ハミちゃんかわいいし。

  幸い(?)まだオカズにしたことは無い。が、割と時間の問題な気がする。

  この前、合コンで連絡先を交換した人と遊びに行ったりしたほうがいいだろうか。

  いや、でも休日はなるべくクロ[[rb:兄 > にぃ]]と遊びたい。でもそれだと結局いつも通りなわけで・・・。

  オレが“でもでも”と頭を悩ませていると、スマホからキャインの通知のバイブ音が聞こえた。

  確認すると、この前連絡先を交換した[[rb:辻 > つじ]]さんからのメッセージだった。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  「くおー」

  「[[rb:誓優 > せいや]]はホントにでっかくなったなー!」

  平日の昼時。銀はまだオープン前の準備中だ。

  今日は店長がクロ[[rb:兄 > にぃ]]に昼飯を奢るとかで午後から講義のクロ[[rb:兄 > にぃ]]と一緒に出勤してきた。

  [[rb:尾神 > おがみ]]家のひとり息子である兎の[[rb:誓優 > せいや]]は立って歩けるくらい成長して、クロ[[rb:兄 > にぃ]]と戯れていた。

  「でんきー、でんきー」

  「んー? あれは“電気”じゃなくて“[[rb:玄來 > げんき]]”だぞー」

  「ぢぇんきー?」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]はそんなやり取りをしながら[[rb:誓優 > せいや]]を抱っこしてオレの方に来た。

  「ふゃ!?」

  そして、クロ[[rb:兄 > にぃ]]はオレのほっぺを摘んだ。

  「ほら、よく知ってるだろ? このもちもちワンコが[[rb:玄來 > げんき]]だ」

  「もっちもっち」

  [[rb:誓優 > せいや]]もクロ[[rb:兄 > にぃ]]の真似をしてオレのほっぺを小さな手で目一杯握ってもちもちしてきた。

  ───これ、今後[[rb:誓優 > せいや]]にもせがまれるようになるんだろうか・・・。別に嫌ではないんだけど・・・。

  「でんきはー?」

  「電気か? 電気はなぁ・・・」

  “げんき”と“でんき”の違いが知りたいらしい[[rb:誓優 > せいや]]がクロ[[rb:兄 > にぃ]]に尋ねた。

  「電気は・・・ビリビリビリビリー!」

  「キャーハッ!」

  さすがクロ[[rb:兄 > にぃ]]だ。子供の扱いに慣れていて、遊んでもらっている[[rb:誓優 > せいや]]も楽しそうだ。

  そんな様子を見ていて、オレは昨日の夜のことをふと思い出した。

  「そういえば、オレ今度の休みに[[rb:辻 > つじ]]さんとデート行くことになったよクロ[[rb:兄 > にぃ]]」

  「えっ」

  「おぉ!?」

  オレの言葉にクロ[[rb:兄 > にぃ]]だけでなく店長も大げさに反応した。

  つい、“ときメモ”の癖でデートと言ってしまったが、普通にお茶しておしゃべりするだけだ。デートというほどのものでは・・・いや、デートには違いないのか?

  「そうかそうか! デートか! だーっはっはっ! よくやったクロ坊!」

  「えっ、クロ坊?」

  何故か店長の口から“クロ坊”と聞こえた理由が分からず、オレはつい反応してしまった。

  「ん? 俺そんなこと言ったか? 気にすんな!」

  店長はそう言ってガハハと笑い、大変上機嫌の様子だった。

  「良かったな[[rb:玄來 > げんき]]! ちっちなみにどこ行くんだ?」

  「お昼に喫茶店でお茶するだけだよ。ほら、クロ[[rb:兄 > にぃ]]が連れて行ってくれたコーヒーが美味しいところ」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]がサークル活動で知ったお店で、店内の見えるところに設置された焙煎機が印象的なお店だった。ランチメニューのプレートもオシャレな見た目で味も良かった。

  「あー! [[rb:優 > ゆう]]と行ったとこか! いい店だよな!」

  何故か眉がピクリと動いた。

  ・・・それは聞いてない。

  オレより先に[[rb:優 > ゆう]]さんと行ってたんだ。

  まさか・・・もしかして・・・クロ[[rb:兄 > にぃ]]は[[rb:優 > ゆう]]さんと・・・本当に・・・。

  視界の端にはランチとは思えないほどのご馳走に驚愕するクロ[[rb:兄 > にぃ]]と、いつになく上機嫌で大笑いする店長いて、店内は騒がしくなっていた。

  でもオレの中は自分の鼓動が聞こえるくらい静かだった。

  ◆◆◇◇◆◆

  「このお店、お気に入りなんですよ」

  「実はオレも前にクロ[[rb:兄 > にぃ]]と来たことがあって───」

  デート当日。オレはお店で[[rb:辻 > つじ]]さんと合流して、合コンの時みたいにテーブル席でおしゃべりを楽しんでいた。

  [[rb:辻 > つじ]]さんは相変わらず聞き上手で、普段聞く側に回ることが多いオレもかなり饒舌になっていた。

  「一緒にお買い物!! いいですね!! [[rb:玄來 > げんき]]くんはラーメンが好きなんですか?」

  「そうっすねー、好きっていうか───」

  [[rb:辻 > つじ]]さんは主にオレとクロ[[rb:兄 > にぃ]]のことを中心に色々聞いてくれた。

  もしかして、[[rb:辻 > つじ]]さんってオレに・・・いや、クロ[[rb:兄 > にぃ]]に気があるのかもしれないな。社交的な人っぽくは見えるけど、告白とかは恥ずかしくて出来ないみたいな可愛らしさがある人な気がする。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]モテるよなぁ・・・。

  「へへっ、男2人でちょっと恥ずかしいっすけど」

  オレがクロ[[rb:兄 > にぃ]]と服を買いに行ったときのことを改めて詳細に話すと、[[rb:辻 > つじ]]さんは目をキラキラさせながら聞いてくれた。

  「そんなことないです! 素敵です! まるでデートみたいですね!」

  ガタッ!!

  [[rb:辻 > つじ]]さんがそう言った瞬間に後ろ隣のテーブル席から何か音が聞こえた。

  このお店のテーブル席には高めの仕切りが設置されており、横隣の席以外は見えなくなっている。店はガラス張りなのだが、この仕切りのおかげで窓際の席以外は店外からも見えない。

  「あ、ごめんなさい! 変なこと言っちゃいましたね!」

  「いや、全然いいっすよ」

  さっきの音が少し気になったが、オレは[[rb:辻 > つじ]]さんとの会話続けることにした。

  「ところで、[[rb:玄來 > げんき]]くんはどうしてそんなにクロくんのことが・・・クロのことを慕ってるんですか?」

  「そうっすねえ・・・」

  オレは昔の自分や家族のことを[[rb:辻 > つじ]]さんに話した。

  少し恥ずかしかったが、今のオレがあるのはクロ[[rb:兄 > にぃ]]のおかげで、今も頼れる兄ちゃんなんだということを伝えた。

  ───そして、それを話し終えた瞬間。

  ガンッ!!

  今度は正面でその音が聞こえ、[[rb:辻 > つじ]]さんが顔面をテーブルに叩きつけたまま突っ伏していた。

  「あの・・・[[rb:辻 > つじ]]さん?」

  声をかけ、ガバッと顔を上げた[[rb:辻 > つじ]]さんを見て、オレは一瞬引いてしまった。

  「ずびばぜん!! 私、感動してぇ!!」

  鼻血を出しながら泣いている[[rb:辻 > つじ]]さんを見て、オレは慌ててズボンからポケットティッシュを取り出した。

  ティッシュを渡してしばらく様子を見守っていると、[[rb:辻 > つじ]]さんは徐々に落ち着きを取り戻していった。

  「ティッシュ・・・使い切っちゃいました。なんかもう・・・すみません」

  「いや、全然いいっすよ。大丈夫っすか?」

  [[rb:辻 > つじ]]さんは使ったティッシュを全て持参のポリ袋に捨てていた。そして、ポリ袋のクチを縛ってカバンの中に押し込んだ。

  「今日はありがとうございました。とってもいいお話しが聞けて、とっても楽しかったです」

  「よ、良かったっす。こちらこそ」

  泣き腫らした目で言われてなんとも微妙な気持ちになったが、オレも楽しかったので[[rb:辻 > つじ]]さんにお礼を言った。

  「あ、会計はオレがするんで先に行っててください」

  当然オレが払うつもりでいたが、これは店長からも言われている。

  “いいか、[[rb:玄來 > げんき]]。デートで女に払わせるなよ。男が払うべきって意味じゃねぇ。そういう男がカッコいいって話だ。そこで素直に身を引いて礼を言う女は男をたてる良い女だ。礼も言わねぇヤツは見切れよ。とにかくアレだ、[[rb:友紀 > ゆき]]ちゃんっぽいかどうかで判断しろ。まあ、こんな良い女は他にいないけどな! ガハハ!”

  本当は店長からのアドバイスで[[rb:辻 > つじ]]さんがお手洗いに行っている間に終わらせておこうと思ったのだが、残念ながらそのタイミングはなかった。

  あ、お会計の前にお手洗い勧めたら良かったのかな。デートって難しいな・・・。

  オレがそんなことを考えながら財布を取り出していると、[[rb:辻 > つじ]]さんから驚愕の言葉が飛び出した。

  「あ、大丈夫ですよ・・・グスッ・・・もうお会計おわってるので」

  「えっ・・・」

  ───えっ

  「ええええええ!?!?」

  オレの絶叫に[[rb:辻 > つじ]]はビクリと肩を揺らした。

  驚かせてしまって大変申し訳ないが、それどころではない。

  「だっだめっすよ! オレが出しますから!」

  「いえ! いいんです! だって・・・こんな・・・お会計までさせてしまったら、私この先、生きていかれないです!!」

  「いや、オレの方こそ生きていかれないです!!」

  店長に殺されます!!

  そのまま押し問答になったが、さすがに店内で騒ぐのはまずいと気がつき、店を出ようとしたその時───

  「あれ、クロ[[rb:兄 > にぃ]]?」

  オレの後側のテーブル席にはクロ[[rb:兄 > にぃ]]と[[rb:優 > ゆう]]さんが座っており、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は分かりやすく“しまった!”という顔をしていた。

  ◆◆◇◇◆◆

  「・・・」

  「・・・」

  帰り道を一緒に歩くクロ[[rb:兄 > にぃ]]は、まだ気まずそうな顔をしていた。

  デートの尾行くらいは高校の時も同級生や部活連中にされたりしてたし、別に気にはしてない。

  でも、クロ[[rb:兄 > にぃ]]が心配して付いてきてたのかと思うとちょっと悔しい気持ちになる。

  いや、もしかしてクロ[[rb:兄 > にぃ]]が[[rb:辻 > つじ]]さんに気があったとか?

  そういえばお店で[[rb:辻 > つじ]]さんも───

  “クロくん! これは違いますから! そういうのじゃないですから! 安心してください!!”

  みたいなこと言ってたし・・・もしかして両想い?

  いや、でもクロ[[rb:兄 > にぃ]]は[[rb:優 > ゆう]]さんと───

  オレは考えがまとまらなくて、隣を歩くクロ[[rb:兄 > にぃ]]を見た。相変わらず気まずそうな顔をしていて、いつも元気な耳が垂れ下がっていた。

  かける言葉も思いつかない。

  帰り道を一緒に歩くというシチュエーションで、なんとなく“ときメモ”のおさわりモードを思い出したオレはゲームみたいにクロ[[rb:兄 > にぃ]]に触ってみることにした。

  ───いきなりほっぺでもいいかな。

  「えい」

  「わっ! な、なんだよ!」

  ほっぺをつつくとクロ[[rb:兄 > にぃ]]の肩がビクリと跳ねた。

  ───次は元気の無い耳を。

  「こちょこちょ」

  「ニャッ! コラ! くすぐったいだろ!」

  そうは言いつつも、クロ[[rb:兄 > にぃ]]はあまり嫌がっていない様子で、オレは楽しくなってきていた。

  ───尻尾も撫でちゃお。

  「すいーっ」

  「うひゃあっ! コラー!!」

  「あははっ」

  尻尾を軽く掴み、そのまま引き抜くように撫で上げると一段と面白い反応で笑ってしまった。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]の毛はツヤツヤのスベスベで撫でる側はすごく気持ちいい。

  そのままクロ[[rb:兄 > にぃ]]を触って遊んでいると、クロ[[rb:兄 > にぃ]]も普段の調子を取り戻しているように見えた。

  「・・・ホント・・・ごめんな・・・今日」

  「別に気にしてないよ。そんなに心配だった?」

  オレの返答にクロ[[rb:兄 > にぃ]]は少し口ごもった。

  「まあ・・・ちょっと・・・」

  「えー」

  嬉しような悔しいような、なんとも微妙な気持ちだ。言い表しにくい感情だが、悪い気はしない。

  「なかなか雰囲気良かったでしょ? ・・・最後以外」

  結局、[[rb:辻 > つじ]]さんにはダッシュで逃げられて、オレは店長に怒られることが確定してしまった。

  間違いなく店長は今日のことを聞いてくる。本当になんて答えようか・・・。

  「まあ、良かったけど・・・」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]はそう言って、オレのズボンに視線を落とした。

  「お前、ポケットティッシュどこに入れてたんだ?」

  「ズボンのポケットだけど?」

  小さい頃からハンカチとティッシュはズボンのポケットに入れて出かけるようにしている。既に習慣みたいなものだ。

  「普段着とかならまあ・・・いいんだけどな。デートとか、勝負服みたいなのはズボンのポケットに何も入れちゃダメだぞ。型崩れるから。オシャレで後ろのポケットにハンカチ入れるくらいにしとけよ」

  「そうなの!?」

  習慣でついやってしまっていたがダメだったらしい。オシャレって難しいな・・・。

  「今度カバンも見に行くか」

  「うん!」

  オレはクロ[[rb:兄 > にぃ]]と今度の休みのことを話しながら残りの帰り道を歩いた。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]が誰と付き合おうと、クロ[[rb:兄 > にぃ]]はクロ[[rb:兄 > にぃ]]だ。オレとクロ[[rb:兄 > にぃ]]の関係は変わらないし、こんな日常が続くのだと思っていた。

  オレが“ときメモ”をクリアするまでは。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  Twitter(X)での今日投稿します宣言は・・・守れましたかね?セーフですかね?

  Pixivオンリーの読者様とはここが唯一のコミュニケーション手段なので、書きたいことたくさんあるのですが、本編書き終わると忘れてます。たぶん来週あたりでマシュマロも設置しとこうと思いますので、よろしければ。

  その告知はどこでするんじゃいって結局Twitter(X)しかないんですけどもね・・・(遠い目)

  【ご報告】

  柴クロスピンオフでもお伝えしましたが、作者が閲覧勢時代からの推し絵師であるFLOWER様から[[rb:玄來 > げんき]]と[[rb:琉貴 > るき]]のFAを頂きました!

  マジでめっちゃくちゃかわいい(公式絵にしたい)のでまだ見てない方は是非!

  Twitter(X)

  @flower_343222

  pixiv

  https://www.pixiv.net/artworks/119458310

  【定期】

  Twitter(X)で #柴クロ小ネタ と検索すると、アンケート企画含めた過去の小ネタ全部見れます。

  Blueskyで 柴クロ勇者パーティー と検索すると、連載中のお話全部見れます。

  続きを待ってくださってる方々がその期間を少しでも楽しめるように、また、本編をより楽しめるようにと思って投稿しておりますので生存確認したい時は覗いてみてください。

  感想や誤字脱字報告も大変助かっております!

  現在、柴クロのスピンオフ作品を7本公開中です。

  柴クロ のタグで検索するか、作者ページからお読みいただけます。

  いつも柴クロをお読みいただき、ありがとうございます。

  蒼空ゆうぎ