7話 植物に締め付けられるタオ・メイメイ ハーフエルフを狩る者たち12
タオ・メイメイとプルシェニカは当時タコクナグル王治世の末期に生まれ、互いに両親を戦争に奪われたので第3孤児院で育てられた。
幼少期からタオ・メイメイは負けん気が強く、同じ施設で幼いながらも同じ施設で育った子供としょっちゅう喧嘩をしていたらしい。
一方、プルシェニカは気が弱く優しいが正義感の強い子供だったと言う。
雨の中孤児院跡に向かうタオ・メイメイは過去を思い出していた。
それはメイメイが15歳、プルシェニカが16歳の時であった。
ある日、養子を迎えるためにとある名家の家族が子息を連れて孤児院に訪れた。
子供は兄弟でメイメイたちより少し年上で、遊び相手と情操教育のために養子を迎えたいというのだ。
はじめ主人はプルシェニカを気に入り、彼女を養子として迎えるつもりだった。
しかし幼い兄弟は見慣れないハーフエルフに意地悪心が芽生えたのか2人は親の見ていないところでプルシェニカを庭に連れ出し、長い耳を引っ張って苛めはじめてしまった。
それを見てしまったタオ・メイメイは爆発した。
「プルシェニカをいじめるな!」
庭に落ちていた木の枝を手に取り2人に挑みかかった。
しかし相手は3つ以上年上ですぐに反撃され、木の枝は奪われそこからはお互い掴み合いの喧嘩になった。
メイメイは殴られながらも相手の髪を引っ張り、嚙みついた。
騒ぎに気付いた大人たちが駆け付けた時には名家の子供の兄に馬乗りになったタオ・メイメイが何か怒鳴っているところだった。
当然、プルシェニカの養子入りは反故となり、罰としてタオ・メイメイは懲罰の為の部屋に閉じ込められる事になる。
幼いメイメイに外部との接触を一切絶たれた状況は厳しく、夜中にすすり泣いている時にはプルシェニカは人目を忍んでドア越しに話し相手になってくれたのだった。
そこから2人の強い絆がはじまったと言えるだろう。
____あの優しかったプルシェニカなら、話せばきっとわかってくれる。
それは考えというより祈りに近い感情だった。
平素であればタオ・メイメイはそこまで愚かではないが、過去の強い執着は時に人を狂わせる。
ほとんど考えなしに雨の中を走り、そしてプルシェニカ達がいる場所へとたどり着いた。
◆
ずぶ濡れのメイメイはとりあえずプルシェニカの部屋に通された。この時もプルシェニカは毛布とタオルを渡してくれたが、その心遣いがメイメイには痛い。
「どうしたのよメイメイ。もしかして、私たちの仲間になる決心がついたの?」
プルシェニカもメイメイの気など知らずこんなことを言う。
友人の悲壮な顔を見ればそうでないことぐらいわかりそうなものだが、プルシェニカも思想に狂わされていたのだろう。
しかし、付き添いのヘルゼルペイタは冷静だった。
穏やかな顔を浮かべてはいるが、内心で何かトラブルの種が撒かれていることを予想し良い気分ではない。
「そうじゃないの。そうじゃないのよ。プルシェニカ」
「いったいどうしたの、メイメイ」
流石のプルシェニカも涙を流して首を横にふるメイメイに不穏なものを感じた。
しかしメイメイは涙をすすって何も答えない。
その姿に心を痛め、メイメイはヘルゼルペイタに外に出るよう目くばせした。
ヘルゼルペイタは二人きりにしてよいものか迷ったが、結局はプルシェニカの意図を汲み一旦ドアの外で待つことにした。
「ねぇ、聞かせてちょうだい。何があったの?メイメイ」
プルシェニカはメイメイを安心させるために、彼女が腰かけているベッドの隣に座り優しく声をかけた。
そして遂にメイメイはしゃくるような声で口を開いた。
「冒険者に酷いことするの、お願いだからもうやめてよプルシェニカ」
一瞬プルシェニカの顔が険しくなった。しかし、この時点では、
____ああ、きっとこの子は何かを誤解しているんだろう。
と思い諭すような気持ちになったのだろう。
「ああ、メイメイ。きっと間違った事を吹き込まれたのね。私たちの戦いはハーフエルフ解放のためなのよ」
そしてプルシェニカはメイメイの誤りを正そうと(すくなくともプルシェニカはそう思っていただろう)、彼女らの闘争について語り始めた。
まず、カンティノア帝国の蛮行からはじまり苦難の歴史、そしてラトゥール村の虐殺、ラトゥール村の虐殺の指示をした冒険者の話、そして冒険者ギルドがハーフエルフの自立を阻害する為に陰謀を張り巡らせ、不平等な仕組みを作っている事。
「私たちが孤児院をたった18歳で出されたのだってそうじゃない」
プルシェニカは続ける。
確かにこの時代のバルティゴ連邦はハーフエルフにとって不平等な世界ではあった。
例えばこの時代、成人と見做される年齢は18歳からであった。他にも許可なくハーフエルフと子供を作る事は違法とされたり、就学についてもほかの種族より厳しい条件を科せられたりもした。
それは人族を基準としているので確かにハーフエルフのように成長の遅い種族にとっては不平等に見える。
だが、他の種族からすればプルシェニカの孤児院の一件とて「では人族の成人と同等の、54歳まで面倒を見ろというのか」という話になってしまう。
また、ハーフエルフを生む事に関しても無秩序に認めてはのちの世の混乱を招くことは容易に想像がつくため仕方のない法律であったという見方もある。
が、この時代、いや、今も多くのハーフエルフが不平を感じているのは事実であった。
「ハーフエルフの未来の為に、冒険者と戦わなければならないのよ」
そうプルシェニカは結論付けた。
大部分のハーフエルフが厳しい生活を強いられているのはその通りである。
ハーフエルフを平等に扱う法律が定められていないと言うのも正しい。連邦樹立の経緯から、冒険者が政治に深く関わっているのも間違ってはいない。
そして過去に目を覆いたくなるようなハーフエルフに対する虐殺があったのも歴史的に証明されている。
しかしながら、冒険者がハーフエルフの独立を阻んでいるというのは荒唐無稽な陰謀論でしかない。
むしろ、冒険者は積極的にハーフエルフを冒険者に組み入れようとし可能な限り生活水準を上げようとさえしていた。
プルシェニカは、耳派が冒険者と敵対するように陰謀が仕組まれている事など考えついてもいない。
思想から生まれた誤謬による憎しみは理屈では消せない。
「だから、アリスを殺したの?」
メイメイは酷く怯えたような声でプルシェニカに問うた。
その瞬間、プルシェニカの顔色が氷のように冷たくなった。
「あなた、なんでそれを知っているの……」
剣呑な張り詰めた空気が流れ、無限とも思える一瞬の沈黙の後、メイメイはほとんど嗚咽に近い声で告白した。
「冒険者なの」
「なんですって?」
「私、冒険者なのよ!!」
メイメイは、2人の友情が崩れる音を聞いたかもしれない。
最初、プルシェニカはメイメイの言葉が理解できないとでも言うように目を丸くしたが、次第に失意と軽蔑、怒りの混ざったような恐ろしい顔をしてメイメイに言った。
「____そうか。そうだったのね。もしやと思ったけど、なるほどね。全部納得がいったわ」
途端、メイメイはプルシェニカにマナの集中を感じた。
次の瞬間にはどういうことか、メイメイの衣服から突如植物の蔦が出現し彼女を締め付けた。
「きゃあ____ぅっ、ぅあっ……!」
「コウサツソウの種を仕込ませてもらったわ」
プルシェニカの魔法で突如成長した蔦はコウサツソウという旧魔王領の南に生息する植物で、長い時間をかけて樹木に巻き付き寄生する。最終的には樹木を圧し折り枯らしてしまい、そうして自分達の生息域を広げようとする植物である。
プルシェニカはいつしか開花させた魔法の才能で、あらゆる植物を意のままに成長させる事ができた。
コウサツソウはまるで緊縛するようにメイメイの胴体に辛味付き、小さな胸や小ぶりな尻までをも締め付ける。
「あなたが冒険者の犬だったなんてね。最低だわ」
メイメイは首や胸を締め付ける蔦の苦しみから逃れようとベッドから立ち上がり、四つん這でわずかに地を這った。
「____やめ、て、プル____シェニカ、ゆるし____うあ”っ」
骨や喉を締め付ける苦しみに悶えながら殆ど無意識に懐にしまっていたブンタイムシの入ったガラス管の仕掛けを作動させた。仕掛けが動作するとブンタイムシが嫌がる物質が虫を刺激し、仲間に助けを呼ぶためのフェロモンを放出する。
「冒険者なんかにならなければ、よかったのに」
プルシェニカの哀しみが混じった侮蔑の言葉を最後に、メイメイの意識は急速に失われたのだった。