7話 ハーフエルフ、その受難の歴史 ハーフエルフを狩る者たち11
バルティゴ連邦歴18年10月17日大地の日。
時刻は22時を回り、雨はまだ降り続いている。
プルシェニカ達がアジトとしている旧第3孤児院の食堂にて、彼らは食事を摂るのではなく明日、冒険者ギルドの激励祭を襲撃する為の最後の調整をしていた。
テーブルが四角く輪をかくように並べられ、8名が参加している。
その場には無論プルシェニカも加わり、過去に名を出したヘルゼルペイタという銀髪の少年がこの集まりのまとめ役ではあった。
調整、と言っても既に下準備は済んでいる。
彼らは事前に駆け出し冒険者に成りすまして会場に入り込む為に、駆け出し冒険者が冒険者の証として使う紙の身分証を入手し、武器・弾薬や爆発物の類を準備し多くの冒険者を殺傷するに足る用意ができていた。
が、8人の中でセルゲイという名の茶髪を刈り込んだ長身の青年が水を差すような事を言うのである。
「明日の襲撃、一度見直した方がいいかもしれない」
セルゲイの言葉に皆顔色を変えた。
「何を言うんだセルゲイ。臆したか?」
不快感を露わにして赤髪のユーディが言う。ユーディは若く人族で言えば16歳ほどか。
ユーディのみならず他の者も「何を言っているのか」と呆れた顔をしている。
しかしセルゲイは表情を崩さず淡々と答えた。
「数日前から町に冒険者が明らかに増えている。冒険者ギルドが何か考えているんだろう。明日、逆に罠にはめられるかもしれん。危険を冒しこのタイミングで連中を襲撃する意味を感じない」
「馬鹿を言うな。明日の襲撃の重要性を理解していないのか?」
今集まっている耳派のハーフエルフは皆若い。セルゲイは彼らの中で最年長で、それだけに客観的な視点がつきはじめている。
一方、ヘルゼルペイタとセルゲイを除き他の者は皆まだ青すぎる。
故に気勢を削ぐような事を言うセルゲイに明らかな失望を感じている者もいる。
これから世の中と戦おうと言う連中だ。怯懦な態度を殊更に嫌うのだろう。
「我々の本懐はハーフエルフ独立国家の樹立だろう? 明日のそれは成功すればそれはいいだろうが、失敗すれば犬死するだけだ」
「失敗を考えて闘争する馬鹿がいるか」
ユーディもセルゲイも互いの主張を曲げず、議論は平行線である。
ここで簡単に耳派、ひいてはハーフエルフの歴史についても書かねばならぬだろう。
もともとハーフエルフという種族はかつてカンティネント大陸に広く居住していた純粋エルフ族がそのルーツとなる。
しかしながらカンティノア帝国がその帝国主義で大陸全土に侵略行為を開始、遂には全土を征服、その果ての苛烈な人種政策を敷いた事により人族[純粋人族]中心の世界を作った事で純粋エルフの自治権は修復不可能なまでに破壊された。
多くのエルフが投獄、処刑、奴隷化され人類種の恥と評すべきすさまじい蛮行により多くの混血が産み落とされた。
その、混血がハーフエルフである。
彼らは多くが生まれたその瞬間から奴隷か玩具として一生を終える事が決まっており、歴史上の暗部と言える。
カンティノア帝国が打倒され、バルティゴ王の治世になってからカンティノア帝国の優生思想を大陸から抹消しようという流れになり、多くのハーフエルフが奴隷やそれ以下の扱いから一旦は解放された。
しかしながらハーフエルフ固有の問題の為に彼らは世の中に溶け込む事が難しく、大多数が再度奴隷として囚われたり路上で生活することを余儀なくされた。
その時から彼らの中にハーフエルフの為の独立国家という悲願が芽生え始めた。
そしてその悲願の一部がバルティゴ王国末期の世に一部ながら達成される事になる。
ラトゥール村。
かつて旧魔王領とバルティゴ王国の国境境に存在したその村は、もう存在しない。
ヘルゼルペイタやユーディはそのラトゥール村の生き残りであった。
そのラトゥール村の生き残りが連邦各地に散らばり耳派を名乗り、なんのボタンのかけ違いかハーフエルフ国家樹立の為と言い張り反冒険者活動を始めるに至ったのである。
会議の描写に戻る。
「セルゲイ。あなたの言うこともわかるけど、いまのタイミングで議論を始めるのは間違っているわ。皆で決めた事なのよ。あまり勢いをそぐような事は言わないでちょうだい」
プルシェニカの言うことは恐らく正しい。
セルゲイは臆していたという訳でもないだろうが、既に動き始めた計画を止めるにはあまりにも時期が遅すぎるし、そのことに薄々勘づいていながらも冷静ぶりたいセルゲイの傲慢さも透けて見える。
「プルシェニカの言うとおりだ。明日、予定通り計画を実行します。が、セルゲイの言う事にも一理ある。皆、慎重さを保ってください」
結局、この一派の長であるヘルゼルペイタがまとめて議論を終わらせたのだが、その時突然の来訪者があった。
タオ・メイメイである。