3話 イチは下着姿で銃をいじる パーティを追放(以下略)3

  その日の晩、イチはスウィートバウムで冒険の為の装備を揃えるとルーナハイムに戻り旅の準備を整える事にした。

  自室の201号室に戻るとコートを掛けて、腹をすかしたダンジョンネズミに餌を与え彼らの巣籠を掃除した。

  掃除を終えると、冒険者風でない旅人用のリュックサックに冒険の為の装備や替えの下着などを詰めた。

  このリュックサックはバルティゴの旅商人やそれこそ旅芸人が背負っているようなもので、珍しい物ではない。

  今回の依頼のように変装が必要な場合に使う。

  イチは荷物のパッキングが終わると下着姿になり、カーペイト15式魔導回転拳銃の整備を始める。

  銃を分解するとシリンダーやバレルに残った煤や焦げ付きをブラシで落とし、クロスで拭いた。

  この作業をする時に下着姿にならないと衣服に煤が付着する。

  そのため余計な衣服を脱ぐ事にしている。

  イチはこの作業が好きだった。(下着姿になれるからではない)

  銃を分解し清掃している間は不思議と心が落ち着く。綺麗にした銃のパーツを元に戻すと、次の冒険への覚悟が研ぎ澄まされる気がした。

  が、そんな研ぎ澄まされた精神を邪魔する者がひとり。

  シーナ・アハトゼヘルである。

  彼女はいつも通りイチの部屋の扉をドンドンドンドンとやかましく叩くと大変に誘惑的な報せを彼女にもたらした。

  「イチさんイチさんイチさん! 外にピザの移動屋台が来てますよ! 買いに行きましょうよ! 早くしないといなくなっちゃいますよ!」

  「なに!? 今すぐ支度する!」

  イチは銃の手入れをほったらかし、急いで着替えるとシーナ達と共にピザの移動屋台を追いかけた。

  冒険に出ていない時のイチなどこんなものである。

  ◆

  邦歴18年5月2日。月の日。06時。誘拐されたシローキンの令嬢、ラクシャを救出するためにパーティを結成した5人は冒険者ギルド某支部に集まった。

  改めて以下に5人の名を記す。

  ミラ・パルテルラット 24歳 大烏階級の冒険者

  (銃士。人族の女。英雄気質の人物で些末な事を気にせず前に進む気概がある。このパーティのリーダー)

  ピィピ・キャロン 20歳 狼階級の冒険者。

  (魔法使い。兎人族と人族のハーフの女。兎人族の血が濃い。かつて旅芸人をしていた。小柄だが胸は小さくない)

  イチ 推定18歳 狼階級の冒険者。

  (銃士。人族の女。この物語の主人公であるが実は食い意地が張っている)

  タオ・メイメイ 36歳 山猫階級の冒険者

  (銃士。ハーフエルフの女。反抗期なのかやたらツンツンしている。身長も低ければ胸もない。人族で言えば12歳くらいの年齢)

  ハモン・ホーイッツ 22歳

  (魔法使い。人族の男。これから向かうユーカイの村出身。イチとパルテルラットしか知らないが他のパーティを追放された過去を持つ)

  5人はスウィートバウムで飛脚馬を借りてユーカイの村を目指して馬を走らせた。

  イチはつい最近、単身でこの馬駆け平野を馬で駆けたのを思い出す。あの時はひとりだったが今回は4人の仲間がいる。

  今回も可能な限り速やかな行動が求められる為に5人は飛脚馬を全力で走らせた。

  5人はそれぞれ旅人らしい扮装をしており、よほど観察眼のある人物でなければ格好だけでは冒険者と気づかれなかっただろう。(これはイチが全員の格好を注意深くチェックしたので問題はない)

  イチはふと空を見上げると前と同じように曇り空にワイバーンが空を飛んでいるのが見えた。

  ____人喰いにならなければいいな。

  ワイバーンの揺れる尾を見てぼんやりとそんな事を思うイチであった。

  前回と同じように『黒い森』に入るとこの日も蛙人の修行者が魔法の修練を積んでいた。前より2人増え、3人になっている。

  更に馬を走らせるとラプダンジーの塔が見えて来た。

  塔の入り口には今日もラムジーとパターソが立っている。

  イチが通り過ぎざまに彼らに手を振ると、パターソはイチに気が付いて顔を赤くして冒険者式の敬礼を返し、イチの姿が見えなくなると溜息をついた。その肩をラムジーが叩いてやった。

  黒の森を進み続けると流石に馬たちにも限界が近づいてきたので、予め休憩場所にするつもりだった泉までたどり着くと馬を休ませ早めの昼食をとる事にした。

  が、この時珍事が起きてしまう。

  ◆

  「よし。ここで暫く馬を休ませよう。各自、自由にしていいぞ」

  自由にしてよい、とパルテルラットは言うが森の中である。

  特別やることもないので自然、冒険者達は食事を済ませると馬が回復するまで横になる事にした。

  皆、寝っ転がるためのシートを敷くと特に話す事もなく横になった。

  特別危険地帯ではなかったはずなので見張りを立てる事はしなかったし、兎人族のハーフであるピィピは警戒力に優れている。

  例え寝ていたとしても脅威が近くにあればすぐ目覚める事ができる。

  ____昨日食べたピザは美味かったな。さっき食べたパンは堅かった。味もなんだかホコリっぽかったしな…。

  イチは食べる事が好きである。食いしん坊だ。

  旅の為に今朝買ったパンは保存に優れたものだと店の老婆に説明を受けたが味はいまいちだった。

  そんな他愛のない事を考えている内にウトウトしてきたが、ふとピィピが身体を起こす気配を感じた。

  ____花摘みかな?

  イチはそう思ったがどうもどうではないらしい。

  「………嫌だな~。なんか、変な気配がする~」

  「危険生物か?」

  ピィピの言葉を聞いて状態を起こした。他の者もみなピィピの言葉に注目している。

  「触手類? ………違うな~。この音は、ジャグかな~」

  ジャグ、という生物はナメクジのような見た目をしており、一本の太くしなやか触腕を持つ危険生物である。

  軟体の身体で獲物に張り付き、触腕を獲物の身体の孔に挿しこみ体力を奪う。

  移動速度は速くないが獲物を襲う時は触腕を駆使して予想外の速度で飛び掛かるため注意が必要で、名前は移動時の不快な「ジャグジャグ」という足音からきている。

  この奇妙な生物は異種族に子種を植え付ける修正がある為に稀に駆け出し冒険者の男女が妙な目に遭わされて泣きを見る事がある。

  「近いか?」

  「ん~~~、歩いて2分くらいの距離かな~。アッチの方角~」

  パルテルラットは林の中を指さすピィピの言葉を聞いて思案した。ジャグ1匹なら退治するのは容易だが、無駄な労力と弾丸を使うのは得策とは言えない。こっちに来ないなら放っておいてもいいか、と思っていたところだったのだが…。

  「放ってはおけないな。ちょっと始末してくる」

  ホーイッツはパルテルラットが結論を出す前にホーイッツはピィピの言葉を聞いて駆けだしてしまった。

  「おい! ホーイッツ君! 待て!」

  「ジャグなら何度も戦った。人に危害が出る前に、駆除する」

  慌てて制止するパルテルラットだったがホーイッツは林に入って見えなくなってしまった。

  「イチ、メイメイ。仕方がない。駆除にいくぞ」

  パルテルラットは枕元のバルザック8式拳銃を片手に起き上がった。

  タオ・メイメイも己の銃を手に取り、イチはポシェットのぶら下がったガンベルトを腰に巻いた。

  「まったく。なんなのよあいつ」

  バレア2魔導ショットガンのフォアエンド(銃身の下の握る部分)を動かして薬室に散弾を送り込むタオ・メイメイ。

  「ジャグ自体、駆除が推奨されている。無駄にはならんさ。すまんがイチ、ポイントマンを頼む」

  ポイントマンとは平たく言えば隊列の先頭である。

  イチは準備を終えると「わかった」と短く答えた。

  「ピィピはここで馬を見ていてくれ」

  「わかったよ~」

  ピィピは兎人族の血が濃いため、戦闘で感じるストレスが常人より強い。それでもピィピは兎人族ハーフの中でも戦闘慣れしているほうだが、パルテルラットはピィピが消耗する事を気遣った。

  「では、行くぞ」

  イチを先頭にしてパルテルラットは林の中に駆けて行った。

  ジャグは危険生物の中でも雑魚である。それを考えれば総がかりで装備を整えるのは多少物々しくも感じられるだろうが、これには訳があるのだ。