バルティゴ都市国家連邦歴18年。世は依然として冒険者の時代であった。
先の魔王大戦でカンティネント大陸の西側は、大陸東より攻めてくる魔王軍に対しバルティゴ都市国家連邦を樹立し抵抗。東側の魔王国と大陸を二分する戦争状態に突入。その際に救世的活躍をした冒険者が戦後に連邦総督となる事により冒険者達にとっての春が訪れた。
その中でイチという一風変わった名前で呼ばれる少女があった。
この頃、歳は18前後と言われている。
……言われている、
と言うのも彼女は6年前に記憶を失ったまま荒野で一糸纏わず彷徨っていたのである。
そこを、『破天のリャン』と呼ばれる冒険者に拾われる事になるが、その時に首に巻かれていた首輪に『01』という文字が微かに読み取れた。
それ以来、リャンの従者となるのだが首輪の文字が由来となりイチと呼ばれる事となったのである。
さてそのイチ。リャンの懐妊をきっかけに従者から独立してから3年。
都市カノーナのボウブルグ地区にある冒険者ギルド・ボウブルグ支部、通称「某支部」で容易ならざる事を聞いた。
ラプダンジーの塔に子供が入り込んでしまった。と言うのである。
「馬鹿な」
イチはギルドに設置された休憩所で紅茶を飲みながら顔をしかめた。
「馬鹿な。なんて間抜けなんだ」
イチは再び悪態を吐いた。
ラプダンジーの塔は大魔術師ラプダンジー師が超常の魔術で生み出したとされる、罠にまみれたダンジョンである。
内部は解明不能な超常的魔法であらゆる仕掛けが施されており、例えば奇妙な事ではあるがこの塔に入れる人間は半日にひとりだけと決まっている。内部構造も出入りするたび変わり地図が役にたたないという
塔は6階層あり、階層毎にありとあらゆる罠が仕掛けられており、その罠も多くが妙なものばかりである。
ひっかかったものの貞操を危険に晒したり、性的不快感を与えたり性的なバッドステータスを与えたりと、色情狂だったとされるラプダンジー師の嗜好が反映されているのだろう。
途中で力尽き塔に囚われ行方不明になった冒険者もいる。
運よく生きて帰れたとしても罠にひっかかって重篤な性的後遺症のせいで不幸な人生を歩むことになった男女もいる。
それがまだ未発達な少女であった場合は悲惨の一途を辿るだろう。
故に、死亡せずとも挑戦に失敗した場合、後の人生に与える影響度が軽視できないために危険度4(最上が5である)とされているが、塔の最上階まで攻略した者には魔法の報酬が与えられるともされている。
そのため時折塔に挑みたがる若者もいるので、冒険者ギルドが派遣した見張りが夜間を除き常に2人立たされている。
そのラプダンジーの塔に、見張りをすり抜けて幼い少女が脚を踏み入れてしまったらしい。
「ええ、考えにくい事ではありますが…」
そう言うのはモーリン・アッテナ。この桃色のショートヘアを持つ女性職員は、勤めて冷静な態度でイチに起きた事を伝えた。
彼女はこの某支部の受付であるが、仕事をまるでしない支部長代理であるリャン・ハックマンの代わりに普段は膨大な量の業務をこなしている。
「見張りがいるだろう見張りが! 置物を置いてるんじゃないんだぞ! 居眠りでもしていたのか!?」
「彼らの証言を信じると、少女は悪戯なのか笑いながら彼らの制止をすり抜けて中に入ってしまったようです」
見張の仕事に抜かりはなかったようだが、少女はよほどすばしっこいのかまるで風のように彼らの間をすり抜けて塔に入ってしまったらしい。
「女の子はいったいどういうつもりなんだ?」
「さあ……」
モーリンは一瞬眉を潜めたが続けた。
「現在、付近で行方知れずになった少女がいないか調査中です」
イチはしばしティーカップの中の紅茶を見つめた後に切り出した。
「______それで、私にいったいどうしろと言うんだ?」
「ラプダンジーの塔に向かい、行方不明の少女を救出してください」
_______________
(※1) バルティゴ都市国家連邦
バルティゴ都市国家連邦はカノーナ、モルカル、シープス、シベース、ジギン、デーニズ、ノアールカ、ガースト、ビジネット、マドナルクなどの国家からなる連邦である。
連邦法という全都市国家共通の法律はあるが、それぞれの都市国家に都市法がありそれぞれの特色がある。
カノーナはバルティゴ都市国家連邦の成り立ち上、中央都市と位置付けられており冒険者ギルドの本部があるのもカノーナである。
カノーナ内もいくつかの街で分かれており、イチは現在その中のボウブルグを拠点としている。