とある休日。
千秋さんとリビングでのんびり過ごしていた時、ふと荷物の存在を思い出した。
そういえば、もう届いたかな
アプリを確認してから玄関扉を開けると、丁度開けた下に荷物が置いてあった。
やったね♪
嬉しくなりながら荷物を持ってリビングへ戻る。
「…貴和、最近よく荷物届くね」
千秋さんの膝の上で開封していると、千秋さんが俺の手元を見ながら眠そうに言った。
「はい、最近よく買っちゃうんです(苦笑)
安くはないんだけど、色々欲しくて…」
「便利だねぇ笑」
俺の荷物を不思議そうに見ながら、千秋さんは笑った。
「まぁ、使いすぎなきゃいいんじゃないかな
ちなみに、あんまりお金使いすぎたら、お仕置きね?」
「大丈夫ですよ、俺もちゃんと悩んで買ってます笑」
この時俺は心配してなかった。
お金の使い方は分かってるつもりだし、使いすぎたことは無かったから。
だから、まさかあんなに厳しいお仕置きをされることになるなんて、思ってもいなかったんだ…。
「……合計が、12万3500円になります」
「……え」
「え?」
「はぁ、!?」
「……(何だこいつ)」
なんてことだ、昨日寝落ちしかけている時にアマゾンでポチポチしまくってたから…!
完っ全にやらかした…どうしよう…い、いや、どうせ家に届く時に金額なんて書かれてないし?
全部欲しかったんだから仕方ないよね、うん!
「ぇっと…カーd「カードで。」
俺がカードを出そうとした時、後ろから手が伸びてきてカード決済の機械に置かれた。
嫌な予感がして俺が硬直しているうちに会計は終わり、俺の代わりに支払ってくれた人にガッシリ首根っこを掴まれた。
「はい、帰るよ」
「………💦」
言葉が出ず、されるがまま外に出ると、そこには見覚えしかないレクサスが止まっていて……絶対千秋さんじゃん詰んだ……
泣きたい気持ちで顔を覆う俺に、千秋さんは穏やかな声で囁いた。
「金額、凄かったねぇ」
「っ……じ、事情が…」
「それは聞くけど
あの回数分叩いたら、貴和のお尻どうなっちゃうんだろ」
「ひ…」
楽しそうなその声に俺は震え上がった。
「や、ぁの…か、勘弁してくださ…っ」
「それは貴和の態度次第でしょう
帰るよ」
そのまま車の後部座席に乗せられ、俺はただ自分の指先を見つめていた…。
いつもは助手席だから余計落ち込む…。
ちらりと視線を上げて千秋さんを見ると、無表情。
それが怖くて、現実逃避をするように、ずっと窓の外を見ていた。
気が付けば家の前の道で、このまま時が止まればいいのになんて俺の願いも虚しく、家に着く。
俺の家は高級住宅街にあるでかいマンション。
俺のって言うか、千秋さんの家なんだけども。
「着いたよ、貴和」
ハッとして車から降り、千秋さんの後について行きながら少し思う。
千秋さんは、割と俺の名前を呼ぶ。
挨拶の時も、お仕置きの時もそう。
何でだろう。
怒ってない時に聞いたら答えてもらえるかな…と千秋さんの背中をそっと見上げる。
出会った頃から変わらない背中。
俺の身長が伸びてないのかもしれない。
成長期なのにな。
エレベーターで最上階に上がり、カードキーでドアを開く。
千秋さんは先に俺を入れると鍵を閉めた。
「…で、あんな、目が飛び出そうな金額のお買い物してたのは何でか、聞こうか、貴和?」
手洗いうがいを済ませて、リビングで正座していると、仕事道具を片付けた千秋さんが俺の前のソファに座った。
ゆったりとソファに腰かけながら俺を見つめる千秋さんに、俺は視線をさまよわせる。
「ぇ……っと…その…」
なんて言ったらいいか迷っていたら、千秋さんが少し動いた。
反射でビクッと身体が跳ねる。
「そ、その……」
沈黙が気まずくてなにか言おうとするけど、何も言えずに時間が過ぎていく。
自分が悪いことも分かっていて、その上でもやっぱり叩かれるのが怖くて、嫌な感じで心臓がドキドキしている。
少しして俺は短く息を吐くと、覚悟を決めて口を開いた。
「よ、夜中に寝ぼけながら頼んじゃって…!
さっき、き、金額みてやばって思ったけど…欲しいものだからいいかと思って買おうとしました…!」
そこで一旦言葉が切れ、慌てて言う。
「ご、ごめ、んなさい…!!」
言うことは言ったから、身を縮めて千秋さんの言葉を待っていたら、千秋さんの静かな声が聞こえた。
「……それは、何に対するごめんなさいなの?」
「ぇ……」
「曖昧じゃない?
何に対してごめんなさいされてるのか、分からないな」
「ぇ……ぁ、ぇ…と……」
何に対して……
「そ、の……コンビニで…金額考えないで買おうとしたこと…に……」
「……ふむ」
間違っているのだろうか…
怖くて俯いていると、千秋さんは俺の目の前に正座した。
びっくりして下がろうとしたら両腕を軽く掴まれ、阻止される。
(ひぇ……)
何がしたいのか分からず硬直していると、千秋さんは俺と向き合ってお説教を始める。
「…私は、昨日なんて言ったっけ」
「ぇと……」
昨日の会話を思い出す。
「…お金…使いすぎたらお仕置き…って…」
「そうだね。
いつも、なんて言ってるっけ」
「……ぅ」
『貴和の貯金は、貴和が稼いだお金なんだから、大事に使うんだよ?
頑張って稼いだのに無駄遣いしたら、時間使って稼いだ時の貴和が可哀想だからね』
理解していないわけじゃなかった。
その時も、ちゃんと分かったつもりだった。
でも本当にそれは、分かった“つもり”だったのかもしれない。
「貴和。」
聞いてるんだけど、そういう風に名前を呼ばれ、ビクリと肩を跳ねさせる。
「…ぁ…おれ、の稼いだお金は…無駄遣いしない…
稼いでる時のおれが可哀想だから…」
「……うん。そうだね
2つとも、繋がってるよ。
私はもったいないとか、あんまり思わない。
買いたいなら買えばいいと思うよ
買って欲しいなら相談してくれれば考えて買うし
でも、欲しいからって1度に沢山買うのは違うんじゃない?
自分が稼いだお金だから自由に使うのは間違ってないだろうけど、お金が減って悩むのは貴和じゃないの?
だいぶ前も、悩んでたよね?
そういうことになると、買いたいものが買えなくなってくるでしょう
そうならない為に言ってたんだけど、」
千秋さんはそこで言葉を切り、正論すぎて項垂れていた俺の顎を掴み、視線を上げさせた。
「…っ、…」
「言葉だけじゃ甘かったみたいだね」
千秋さんの怒った瞳に息を呑み、思わず首を振った俺に、千秋さんは立ち上がり、動きながら聞く。
「ち、ちが…「何が違うの?そういうことでしょ?」
言っても頭に残らないなら、痛みで残してあげる。
そう言って千秋さんは乗馬鞭を取り出した。
「っ……や……ご、ごめんなさ……」
泣きそうになりながら首を振り、後ずさるけど、千秋さんに捕まり、テーブルに上半身を押し付けられる。
お尻を突き出す体勢になって、恐怖で涙が滲んだ。
怖い、怖い…
この時になってようやく本気で、何も考えずにお金を払おうとしたことを後悔した。
「…まずは50回。
何が悪かったかもう一度考えなさい。」
震えながらじっとしていたら、ピシッとお尻に痛みが走った。
「っぁ…!」
「返事」
「ふ……ぅ………はぃ……」
ピシ、ピシ、パシン。
「っぁ……あぅ…!ぃ…〜」
音は軽いのに、痛みは強くて、小さくても悲鳴が漏れる。
痛い、痛いっ
パシン、ピシ、ピシ。
「ぃ…っあぁ……!ご、めんなさ!」
悲鳴に近い声を上げても、淡々とお尻に鞭が振られる。
痛い、痛い、痛い…辛い……。
「ぅ……ふぇぇ……」
ごめんなさい…。
一気にお金使って。
過去の自分の努力を大事にしなくて。
自分が苦しむことをして。
「ごめんなざぃっ」
「…あと3回で50回。
何が悪かったか分かった?」
「ひ、ひく……」
俺はしゃくりあげるのをこらえて、ポツポツと答えた。
「かこの…っ自分の努力、むだにするようなこと、した…っ
かこのおれが、かなしむようなこと…」
「うん、そうだね。」
ピシ。
「っぃだぁ…っぅぇぇ…」
「貴和が頑張って、努力して稼いだお金。
その価値はどんなものにも勝ると思うよ。
お金だけじゃなくその時の時間も。
だから、そんな自分の頑張った時間もお金も無くしてしまうようなことは、貴和にして欲しくない。
分かる?」
「ん、……わか、るっひっく」
「貴和は、あのまま自分のお金で支払っていたら、多分後から後悔したと思う。
なんでまとめて買っちゃったんだろうって。
欲しいものがもう買えない。
また稼がなきゃ。
そうしたら、稼ぐことが苦しくなると思わない?」
「ん、っ」
千秋さんは俺の背中をさすりながら言葉を紡ぐ。
「だから、ああいうお金の使い方で自分を苦しめることは、貴和にはして欲しくないと私は思うな。
もしもどうしても使っちゃうんだってことなら、私と一緒に直していこう。
絶対直るから。
今の自分も先の自分も、そして、過去の自分も大切にできる子になりなさい。」
「はぃ、っ」
「はい、いい子。
じゃああと2回だけ、頑張れるね」
「っ、ん…がんばる」
俺の言葉に、千秋さんは1回だけ頭を撫でてくれた。
それだけで、勇気が出る。
ピタピタと乗馬鞭がお尻に当てられる。
怖いけど…ぐっとお尻を突き出した。
これが俺の気持ち。
「…いくよ」
ピシ!ピシ!
「っ、あぁ"っぃったいぃ、!!」
思わずそんな声が出るくらいには痛かった。
でも、心は軽くなっていた。
「お終い、きちんと受けて偉かったね、貴和。
おいで、だっこしよう」
そう言って千秋さんが広げてくれた腕に、俺は迷わず飛び込んだ。
「っふぇぇ…いたか、ったぁ…」
ほっと息をつくと、涙がぽろぽろと溢れ出す。
「痛かったね、しゃがんだり庇ったりせずに受けれて偉かったよ。」
「こわかった、、泣」
「怖かったねぇ。
普段あんまり使わないもんね、コレ」
そう言った千秋さんは、意地悪のように俺に乗馬鞭を見せる。
「っ、ぅぇ……泣」
途端にお尻の痛みを思い出して泣き出す俺に、千秋さんは愛おしくて仕方ないというようにキスをした。
「可愛いね、貴和。」
「ぐず……ひっく……
ちあ、きさ…」
「なぁに?」
「なま、え…なんで、?」
「うん?」
俺の言葉足らずの質問が理解できなかったのか、千秋さんは小首を傾げて俺を見る。
「たくさんよぶ…」
もはや単語を並べているような退行した俺の質問にも、千秋さんはふわりと微笑んだ。
「愛してる人だからね、たくさん、名前は呼びたいよ。
呼べば呼ぶほど愛おしいから。
それだけだよ。
嫌だった?」
その言葉に、俺はふるふると首を振る。
「…うれしかった…」
それを聞いた千秋さんは、その瞳に愛を滲ませて、微笑んだ。
END