自分を大切にして

  「……」

  もぞもぞ。

  「……」

  ………寝れない。

  いや、千秋さんのお腹が近いとか、手がちょっと動いてて可愛いとか、色々あるけど、あるけども!

  普通に眠れない…。

  欲求不満?

  今日確かにPray少なかったけど、ちゃんとサブスペ入ったのに。

  何でだろう…。

  「…ん、」

  …起きたかな…。

  ギシ。

  千秋さんが起き上がり、部屋を出て行く。

  「…」

  …千秋さんも寝れないのかな?

  ぼーっとしていると、やがて玄関扉の開く音がして、思わず上半身を起こした。

  「……千秋、さん…?」

  何で出て行ったんだろう。

  おおよそコンビニでも行ったんだろうけど、それでも不安になる。

  捨てられたのかな…。

  考えたら不安になって、眠るどころじゃなくなった。

  玄関で冷えた床に座り、“Kneel”の姿勢で待つ。

  「……っ…」

  不安で胸が押しつぶされそう。

  捨てちゃうの…?

  俺の事いらない…?

  良い子じゃないから…?

  ごめんなさい…ごめんなさい…良い子じゃなくてごめんなさ……。

  ボタボタと涙が落ちる。

  溢れ続ける涙に、手で涙を拭った時─ガチャリとドアが開く音がした。

  ビクン!

  肩が跳ねる。

  「あれ、貴和、起きちゃった?」

  「っ…千秋さん…」

  何だか気まずくて顔が見れずに俯いていると、千秋さんは焦ったように俺に手を伸ばした。

  「どうしたの。何で泣いてるの。」

  困ったような声音に、あぁやっぱり困らせると唇を噛む。

  「…貴和、唇噛まないで。言いたい事あるなら言ってごらん?」

  それでも言えないのは、俺が臆病だから…。

  怖いんだ。

  答えを聞くのが…。

  もしも要らないって言われたら、俺は、どこに行けばいいの…?

  「…貴和、Command使ってもいい?」

  わざわざ聞いてくれる千秋さんは凄く優しい。

  その優しさに応えられない俺は…。

  「……ごめんね。貴和、“Say”」

  「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」

  「貴和、ちょっと落ち着こう。」

  「良い子じゃなくてごめんなさい。何も出来なくてごめんなさい。ダメな子でごめんなさい…」

  「っ…貴和、“Shush”!」

  僅かなGlareと共に、Commandで喋れなくなる。

  顎を掴まれるまま顔を上げれば、怒った表情の千秋さんと目が合った。

  「っ……」

  怒らせてごめんなさい…。

  こんなだから捨てられるんだ…。

  こんなだから…。

  そんな俺の心の声さえも聞こえるように、千秋さんは眉根を寄せる。

  でも、きちんと見ればそれは、怒っていると言うよりは、心配している、苦しそうな顔で…。

  「……貴和、一回黙って話聞ける?聞けるならCommand解く。」

  怯えながらも頷けば、千秋さんは小さく息を吐いた。

  「Good。貴和、“Speak”」

  周りはどうか分からないけど、俺達は“Shush”のCommandを解くには、“Speak”のCommandをかけるしかない。

  「…っ…」

  「……貴和、」

  「…は、ぃ…」

  「…自分を傷付けたり、追い込むような言葉言わないで欲しい。」

  「…」

  「…貴和は、ただでさえ不安定でしょう?」

  確かに、揺れている方だと思う…。

  「そんな状態で自分を責めたら、苦しくなるだけだよ」

  「っでも…「さっき言ったこと忘れた?黙って聞いて」

  「……」

  「自分を苦しめる為の自傷も言動も、私は許さないよ。」

  「っ……」

  黙ってろって言われたから黙ってるけど、モヤモヤするしごちゃごちゃだ…。

  どうしよう。ただごめんなさいって思っただけなのに…。

  「…でも、それは貴和の事が嫌いだからじゃない。むしろ好きだからこそ、許せないし許さない。見付けたら、お仕置きもする。」

  「……わ…「貴和。…私の言う事聞ける?」

  千秋さんは苛立ったように俺を見つめる。

  多分また口を挟んじゃったから。

  ごめんなさい。邪魔してごめんなさい。

  あぁ、本当に、俺はダメなSubだ…。

  「っごめんなさい…俺なんかが、口挟んで…邪魔してごめんなさ…「もういい。」

  遮られ、腕を引っ張られて千秋さんの膝に倒れ込む。

  バシィン!

  「ひぃっ!!?」

  パジャマの上からなのに、思いっきり叩かれて、涙が浮かぶ。

  すぐに下着ごと脱がされて、裸のお尻に強い平手が落ちる。

  バチィン!パァン!

  「っ…っ…!」

  声出しちゃダメだ。

  嫌われる。

  バシ!パン!バチィン!!

  「っぅ……ぁあ"っ……っ!」

  パァン!バチン!バシィン!!

  「っひぅ……っぁ……ぃい!」

  痛い。痛い。痛い…。

  でも、、嫌われたくない……。

  見捨てないで…。

  良い子になるからっ……。

  お願い捨てないで…!

  不意に脇に手を入れられ、身体を起こされる。

  「何で声我慢するの。」

  怒っていながらも心配した瞳をしている千秋さんに、俺はボロボロと涙だけ零しながら唇を引き結んだ。

  きっと言ったらもっと嫌われちゃう。

  これ以上迷惑掛けたくない!

  「っうぅ"……ひぅっ………っ……」

  「…貴和、苦しいだけなら全部吐き出しちゃいな。」

  「っんぅ……っっ!!(フルフル)」

  必死に首を振る。

  苦しいよ?

  胸が張り裂けそうだよ。

  でも、嫌われる方が怖い。

  見捨てられる方が、よっぽど怖いんだ…。

  「…今の貴和ね、すっごく苦しそうな顔してるよ。見てるこっちが辛くなるくらい。そんなに言いたくない?言いづらいの?でも私は、貴和が苦しい方が嫌だな。言いにくくても、どんなに酷いことでも今はいい。だから、言ってごらん。」

  「っ………ぅ……(ブンブン!)」

  「…はぁ……」

  千秋さんが呆れたように溜め息をつく。

  ごめんなさい。

  強情で、わがままで、頑固で本当にごめんなさい…。

  「……貴和、」

  Commandを使われると思った。

  “Say”って、そう言われるんだと。

  でも、千秋さんの口から紡がれたのは、全く予想外の言葉だった。

  「…愛してるよ。この世界の誰よりも。」

  「っ!!」

  その言葉を聞いた途端、涙が溢れて止まらなくなった。

  きっと、不安が消えたんだ。

  こんな事を言ってくれる人が、そう言って優しく俺にキスをしてくれる人が、俺を捨てる訳がないって…。

  「っわぁぁあああっ!!」

  声を上げて泣き出した俺を、千秋さんは強く強く抱き締めた。

  その苦しいくらいの強さも、俺は好きだった。

  その全てが傍にあるのが、嬉しくて、安心出来る。

  「ごめ……なさぁい……っごめんなさいぃっ……」

  千秋さんは、さっきとは違う意味だって分かってくれたかな。

  愛されてるんだ、、俺。

  安心していいんだ。

  そう思ったら、苦しかった胸も、重かった心も軽くなった。

  「グス……」

  暫く千秋さんに抱き付いて泣いていたが、段々と落ち着いてきた。

  それを合図と言うように、もう一度膝の上に腹ばいにされる。

  「っぇ、」

  「まだお仕置きは終わってないよ。」

  「っやだぁ……」

  「自分を傷付けて追い詰めた分、しっかり反省しようね。」

  パァン!バチン!パシィン!

  「っふぇえっ……いたぁい……」

  「自分を責めても苦しいだけでしょ?」

  パァン!バシン!バチン!

  「っうぇえ……いだいぃ…!」

  「何かあったら頼って欲しい。」

  パァン!パン!パシ!バチン!

  「っふぇぇえっ!いだいよぉっ!!」

  「…うん、痛いね。ちゃんと口に出せて、貴和は偉いねぇ。」

  「っふ……ひっく……え、えら、い…?」

  「うん、偉いよ。良い子だね。“Good boy”。」

  褒められて、頭を撫でられて、ふわふわしてくる。

  してくるのに、、

  パン!パン!パシ!

  「……いっ……うぁっ」

  力が弱まったとは言え、何度も叩かれたお尻は触られるだけでも痛くて…。

  「ふぇぇ…ごめんなさいっ…もうしないぃ……」

  力なくそう言った俺に、千秋さんは俺を抱き上げ、膝の間に座らせた。

  「…本当にもうしない?」

  「っ…ひっく……グス…(コクン)」

  目を擦り、グズグズと鼻をすすりながら頷くと、千秋さんは頭を撫でて抱き締めてくれた。

  「っ……ふぇ……も、お仕置きおわりぃ?」

  舌っ足らずに聞くと、千秋さんは微笑んで俺の頬にキスをする。

  「うん。もうおしまい。良い子になれたね。“Good boy”、貴和。」

  トントンと背中を優しく叩かれ、少しずつ眠くなってくる。

  「……ち、ぁきさ……」

  「ん〜?」

  「……いっしょ……ねよ…?」

  「フフ、うん。寝ようね。」

  「んぅ……おやしゅみ……なしゃい……」

  「クスクス……おやすみ、貴和。」

  「…ーー…」

  その時千秋さんが何て言ったのか、意識を手放した俺は知る由もなかった。

  「…大好きだよ。貴和。」

  

  END