魔法戦士 マジカル☆アキ さよなら、魔法の力よ!

  ピピピピ……ピピピピ……。

  携帯電話のアラームが鳴っている。朝の陽ざしがカーテンの隙間から瞼越しに刺激して、少しずつ覚醒する意識。日付は夢の中に比べると、だいぶ前に戻っていた。

  長い、長い夢を見ていた気がする。はっきりと思い出せるのは、夢の最後。僕がどうして、こんな戦いに身を投じる羽目になったのか、その元凶の話。

  確かにずっと違和感があった。何故僕みたいな、凡庸な人間が選ばれたのか。都合よく現れる敵、繰り返される戦い。全てはそいつの口から語られただけで、それが本当の事なのか証明する術はない。この魔法と呼ばれる不思議な力も、その実、どうやってその現象がおきているのかなんてわからないのだ。

  そっとベッドの横、カーペットの上に敷かれたクッションの上に目をやると、眠っている猫型の風船のような謎生物。僕をこんな戦いに巻き込んだ張本人、ミークが寝息を立てて眠っている。

  『いいかい、あの私たちを襲ったあの怪物は……。』

  夢の中で艦長が、ダークビーストの首領にされていた竜人、ドラグさんが言っていたこの言葉の続きは、今にして思えば、何故疑問に思わなかったと自分のうかつさを悔やむほどの言葉で。

  『ミークと名乗って、君の隣に居る……!』

  僕はそう告げられたのだから。

  ゆさゆさと、その風船様の生物を、起こすように優しく揺する。むにゃむにゃと寝ぼけたような鳴き声をあげて、うっすらと目が開き、猫のような瞳がこちらに向く。

  「なんだニャ? アキ、どうかしたかニャ~?」

  いつも通りの間の抜けた声。緊張感のない顔。そういえば僕はミークのこと、ほとんど何も知らない。魔法の世界からやってきた、って言っていたけど、それが真実かどうかさえ。

  「ミーク、何か僕に隠し事してない?」

  「な、なんのことニャ? こないだアキのおやつのプリンを勝手に食べたことニャ? それとも、アキのシャーペンを落として割っちゃったことニャ?」

  そんなことしてたんだ……。でも今はそんなこと重要じゃない。聞くべきことは、問いただすべきことは。

  「ミークは前に、大人になる前には終わるって、言ってたよね。あれを僕は、大人になる前にはダークビーストを倒して、役目が終わるって考えてたんだ。」

  一切、表情の変わらないミーク。今はそれが不気味でしょうがない。この謎生物が何を考えているのか、まったくわからない。

  「でもさ、そうじゃない……ってことをミークは知ってる。そうだよね?」

  息を大きく吸う。落ち着いて、まだ僕の考えていることが、夢の中で艦長が言っていたことが、真実だとは限らない。

  「今までずっと頭のどこかで引っかかっていた。魔法戦士を生み出すのは、ミークだ。なのに、敵はどうしてミークを攻撃しないんだろうって。」

  無表情。無感情。そんな表現がよく似合う表情。ミークは黙りこくったまま僕の話を聞いていた。

  「つまり……ミークが、黒幕なんじゃないか……って。」

  そうであってほしくはないが、夢の中で告げられた言葉が真実なら、この謎生物こそが元凶である。本当はそうでない可能性もある、あれは只、僕がストレスから見た夢で、ミークは本当に魔法の世界からきた生物で、世界を平和にするための存在だと、だけど、その考えは彼の口からあっさりと否定されるように。

  「ハハッ! ハッハハハッ! アハハハハハッ!」

  聞いたことのない冷たい嗤い声。嘲り、蔑みを感じさせるその笑い声は、少し続いて、そしてミークの身体が裂けた。

  [newpage]

  風船のように萎んでいくミークの身体からずるりと何かが抜け出していく。白く光る発光体が触手のような形を取ると、それが合わさってまるで歪な人型が形成されていく。

  その顔部分がぱっくりと横に裂け、口のようになると、その奥から声がした。ミークと、まったく同じ声で。

  「よく気が付いたねぇ。愚かな原住生物のくせに。」

  「君は……誰? こんなことして、目的は……何?」

  じりじりと背中が焼けるような、あるいは氷を背中に滑り込まされたような緊張感。それに気おされないように睨み返して言うと、そいつは続けた。

  「私に名前は無いよ。どうせ、説明したって無駄だろうけれど、初めてアキ君、君が私に気が付いた記念に特別に説明してあげようか。」

  そう言うと世界が変わった。どこともわからない場所。全方位が白い光に覆われて、どこが地面なのかわからない、周囲を様々な映像が写され、それらが移り変わっていく異空間。その映像の中には、僕の姿も、彼らの姿も、そして僕の変わり果てた姿も見えた。

  「私は、感情を食べて生きる存在とでも言うのかな。愚かな君にもわかりやすく言うと、いろいろな世界を渡り歩いて滅ぼして、そこに居た原住生物の負の感情を食べて生きている。」

  手の部分の触手を顔で言う顎の部分に当て、まるで人間が考え込んでいるかのような仕草をするとミークだった奴は続けた。

  「そんな風に生きているうちに、私は考えたんだ。もっと美味しいものが食べたいと。」

  そいつから明かされたのは、信じたくない、けれど、少しだけ予想していた事実。これまでの戦い全ての否定。

  「そこで、私は滅ぼした世界の生き残りを操って、世界征服の尖兵として送り込み、原住生物にはそれに対抗できる力を与えて、争わせた。それが、私が一番おいしいと思った食べ方だったんだ。」

  あざ笑う声が響く、つまり、僕が今まで戦ってきたのは、あの艦の皆も含めて、皆こいつの被害者ということ。ギリギリと無意識の内に歯を食いしばる。口の中に鉄の味が広がった。

  「特に君が、かつての仲間に負けて、無様な姿をさらすのが、一番おいしく感じてね。もう何度時を戻したか覚えていないよ。まぁなんで君にばれたのかはわからないけれど、少し同じことをさせすぎたせいかな、君の時間軸が少し揺らいでいるようにも見えるしね。」

  悪びれもせず、そう奴は言った。許せなかった。この世界に生きている人々、別の世界に生きていた人々、以前の僕の仲間たちだったであろう彼ら。それらをこんな風に弄んで。

  「許さないって言いたそうな顔だね。 どうするつもりだい?」

  変身の構えを取ろうとして、僕は動きを止めた。きっと、あれはコイツの力の借り物だ。だからきっと今それを使おうとしても、何も起こらないだろう。

  今の僕は何の力も持たない、非力な一人の人間でしかない。それでも、僕はこいつを許せなくて、握りこんだ拳をそいつに向かって振り上げた。

  拳は……届かなかった。

  [newpage]

  振り上げた手が、まるで磔にされたかのように動かせない。見えない力で抑え込まれていて、堪らず顔が歪んだ。

  「いい表情……。実にそそられる美味な感情だ。だが、私は君に抵抗することを許してはいないよ。」

  そう言うと奴は、手の部分を形成していた触手で、僕の鳩尾を思いっきりついた。バキバキと、骨が砕けるような音。痛い。それもそうだろう、魔法のような力で痛みを軽減していたのなら露知らず、今の僕は只の無力な人間。痛みのあまりに涙があふれて、どこへともなく零れ落ちた。

  悔しかった。こんな奴に涙を見せてしまったことが。そして、本能的に、コイツに敵わないと思ってしまったことも。

  「ん~……そうだなぁ、今回はアキ君にばれちゃったし、ちょっと趣向を変えて間近で観察させてもらおうかな。ダークビーストの奴ら全員に輪姦させよう。うれしいだろう? 今までずっとそうされて、あんなに気持ちよさそうによがっていたものね。」

  息が苦しい。でも、負けたくない。こんな奴に負けたくない。でも力が入らなくて、全面真っ白な世界の地面にはいつくばって、涙で歪んだ視界に見えるそいつの姿。そいつから伸びた触手が僕の頭に突き刺さる。

  「でも、もう二度と逆らえないようにしておこうかな。私の体液を君の血液に混ぜて、一生言いなりになってもらおう。」

  嫌だ。そんなこと嫌だ。でも抗う力なんて無くて、ただ何か生暖かいものが頭の中に流れ込んできて、嫌なのに多幸感に支配されていく。

  「あはははっ! これで、君も私の操り人形。しかし、どうしてばれちゃったのかな。次はばれないように、もうちょっと脳を弄った方がいいのかな。 でも弄り過ぎちゃうとリアルな感情じゃなくなっちゃうしなぁ……。」

  奴の力が流れ込む。僕の中に流れ込む。頭の中が壊れてしまう。頭の中に浮かんでは消えていく、僕の憎悪の感情。それらが全てコイツへの忠誠、信頼、愛情へと変えられていく。

  それが許せなくて、僕は死にたくなる。こんな奴に従うくらいなら、いっそ……。そう思った時だった。

  身体が歪む。最初は皮膚の一部がポロリと崩れ落ちただけだった。そのあとから見えたのは緑色の鱗。あの時、リゼルグに薬を注射された時と同じような鱗。かと思えば別の場所から黄色と白黒の毛皮、ティーガとお揃いの。また別の場所には灰色の毛皮、ヴォルフに変化させられた時の。ざらついたサメ肌、ジョーと同じ。そして紫色の毛皮。これは獣兵たちの。

  指先からは曲がりくねって歪んだ爪が伸びていく。口から歯が抜け落ちてバラバラの形の歪な牙が生えていく。お尻からは尻尾が。服が裂け、全身の肉が盛り上がる。自分の姿は見えないけれど、そこに居たのはきっと、想像上の生物、キメラのようなパッチワークされたようなつぎはぎの姿。

  「あ~あ、アキ君、壊れちゃった。 時間軸が歪んでいたせいか、私の力を与えすぎちゃったからか、今までの時間軸のアキ君と混ざっちゃった。これはもう、時間を戻しても治るかどうか……。あ~あ、あれが最後のアキ君の味か。もう廃棄しないといけないのは残念だなあ……。」

  [newpage]

  身体が無茶苦茶なケダモノへとかわってしまったけれど、僕の頭の中はクリアだった。今まであったコイツへの好意なんてものは全て消し飛び、今、僕の中にあるのはコイツへの憤怒、憎悪、殺意だけ。

  本能のままにケダモノの叫びをあげて、僕は奴に飛び掛かる。一太刀だけでも、せめて死ぬ前に消えない傷を一つだけでも。

  不敵な笑みを浮かべるそいつに肉薄し、爪を振りかぶる。そして、そいつの顔を裂いた。

  「………………!?!?!?!?!?!?!?」

  口だけしかない顔が驚愕の表情に歪む。触手で形成された真っ白なそいつの身体から真っ黒な血液が零れ落ちた。

  「え、え、え……?」

  ありえないと、そう言っているかのようだった。よたよたと、そいつが後ろに下がる。

  「なんで? なんで? え……、どうして私の防護を突き破った?」

  独り言を繰り返すそいつに、僕はその答えを直感的に理解できた。

  最初にこの怪物に与えられた、魔法の力と称したコイツの力。そして何度も繰り返された時間遡行。それに伴った魂の変質。そして先ほど直接的に再び注入されたコイツ自身の血液。それらが奇跡的に混じり合って、僕は人間ではなくなってしまったのだ。それも、コイツと同じような力を持った化け物に変化してしまったのだと。

  そして、コイツは長い時間食べすぎたのだ。人々の感情という奴を。そのせいで、徐々にその性質が怪物からヒトに近付いていってしまった。怪物からヒトに近付いていってしまったコイツなら、人間から怪物に近付いていってしまった僕ならば、殺してしまえるかもしれない。

  「や、やめろ! 私を殺しても、死んでいったものは帰ってはこないぞ!」

  そう言って、奴の手の部分の触手から炎が、冷気が、雷が、飛び交う。物理現象を強制的に引き起こす、僕がこいつに与えられていた魔法のような力が、僕に襲い掛かる。でも、それを僕の中の誰かが防いだ。

  「アキちゃん。リゼルグはああ見えて寂しがり屋だから、後はよろしくね……、僕はもう消えちゃうから……。」

  リザーナと呼ばれていた時の僕が、僕の中でそう言った。

  「何が望みだ!? やめろ! 近づくな!」

  奴の触手が巨大化し、様々な方向に伸びたかと思うと、あらゆる方向から僕の方に飛び掛かる。それを無意識のうちに足が動き、その脚力だけで躱す。

  「アキ、ご主人様の……ティーガのことはまかせたよ! ボクはこれまでだから!」

  ティアと呼ばれていた時の僕が、そう言った。

  「なぜ当たらない!? ここは私の作った空間なのに! お前のような矮小な存在など身動き一つできなくできるはずなのに!」

  奴が伸ばしてきた触手を本能的に鋭い牙で食いちぎる。ブチブチと千切れる音と共に、黒い液体が辺りに散らばり、奴の悲鳴が響く。

  「アキ。ヴォルフは、今でも君のことを……。」

  「アキ、……ジョーは口下手だけど、君のことが……ずっと。」

  ファラと呼ばれていた時の僕の声と、メグと呼ばれていた時の僕の声が頭の中に響いた。

  奴の動きが少しずつ鈍くなっていく。少しずつ奴の命が失われていくのを感じる。

  「やめろ……! やめてくれ……! 私は死にたくない……!」

  「ギャウウウウウウウゥゥゥッ!!!!!!」

  もう、僕の声帯からは、獣兵のケダモノのような声しか出てこない。僕は本能のままに鋭い爪を振りかぶり奴の胸をおもいっきり突いた。

  「お前なんかぁっ! ここから、いなくなれぇぇぇぇぇええええええ!!!!!」

  そう、人間だったころの僕が言った気がした。

  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  「危ない所だった……。」

  触手の怪物はそう言った。自らが生み出してしまった化け物に襲われそうになった時に、いざとなったら時間遡行するようにと、こっそり能力を行使していたのだ。

  「こうなったら戻った先でアイツをさっさと始末して、別の世界に行くとしようか。」

  時間軸を移動中の怪物は、気が付かなかった。その背後に、生み出してしまった化け物が物凄い速度で時間移動中の自身を追いかけてきていることを。

  怪物が何か嫌な予感がして後ろを振り向くと、そこに鋭い爪が迫る。怪物が最期に見たのは憤怒の形相をした化け物。そこで怪物は生まれて初めて恐怖という感情を覚えた。いままでさんざん食い散らかしてきたその感情を、怪物自身が初めて抱いたのだ。

  「ひっ……!? た、たすけ……!」

  怪物はまるで人間のような断末魔をあげて絶命する。そして怪物が死んだまま、時は戻っていった……。その状態で、世界が修正されていきながら……。

  [newpage]

  僕の名前は六道 アキ! 小学二年生!

  今年の夏休みは何か運命的な出会いがありそうな予感! だったんだけど……何事もなく夏休みは終わっちゃった!

  あれから10年、僕は高校三年生になる。何か大事なことを忘れているような気がするけれど、今年は受験生。そんな中、春休みに入る前、両親がとんでもないことを言いだした。

  「アキも、もう18歳。大人なんだから大丈夫よね?」

  僕の家の玄関の扉の前で旅装姿の母がキャリーケース片手にそう言った。

  「ちゃんと勉強もするんだぞ。父さんたちも1年間むこうで頑張るから。それじゃあ、行ってくる。」

  そう言って父は玄関の扉に手をかける。そう、僕が受験生だというのに、海外出張が決まってしまったのだ。だからこうして、玄関で僕は見送り。

  「お土産、期待していてくれよ。」

  玄関の扉が開かれて、父が足を一歩踏み出したその時だった。ドンっと、何かにぶつかった音が聞こえて、父が軽くうめく。

  「っと、すみません。……って!?」

  あふれ出す、僕ではない僕の記憶。そこに居たのはかつての敵で、仲間たち。黒竜人を筆頭に、狼の、虎の、トカゲの、鮫の獣人がそこに立っていた。

  「あら、リアルな着ぐるみ……。ですが何か御用でしょうか、私たち、ちょっと忙しくて……。」

  「ああ、失礼しました。私たちはこういうものです。」

  と黒竜人が名刺とチラシを母に渡す。そこに書かれていた文面は、

  悪の組織の着ぐるみカフェ ダークビースト 支配人 ドラグ

  「あそこのショッピングモールに出店したので、店員一同、営業の途中なんです。よろしければチラシに割引券が付いていますので、よろしければどうぞ。」

  そう言ってドラグさん達は、僕にウインクをして手を振りながら去っていく。場所はあの日、僕がリゼルグと戦ったショッピングモールの地下フロア。

  行かなければいけないと、僕の心が言っている。両親を見送って、すぐに僕は外出用の服に着替えてショッピングモールへと走った。

  記憶の中のモールと、少し違う内装。地下のフロアが明らかに広がっていて、その一角にその店はあった。

  SFの宇宙船を思わせる入り口。獣兵たちが店頭でチラシを配り、人に声掛けをしている。しかし、あの怪物は滅びたはずなのに、なぜ彼らがいるのだろうか。もう奴の支配なんて存在していないのに。

  恐る恐る入り口から入ると、店員なのか、獣兵の一人が言った。

  「ぎゃっぎゃう~! 一名様ですか? こちらのお席にどうぞぎゃう~。」

  「っと悪いな。そいつはこっちの客だ。」

  獣兵たちの後ろから声がする。そこに居たのは、トカゲ男のリゼルグ。その恰好は輸送船の時の船員用の作業服ではなく、ダークビーストの時に身を包んでいた胸当てとベルト、それにパンツのようなボディアーマー姿。思わず身構える。

  「あ゛~……。まぁ、このカッコじゃ信じられねぇって気持ちはわかるが、説明してぇから、ちょっとこっちについてきてもらえるか。アキ……。」

  通された個室は機械的な壁と床。その床の上にある無機質なテーブルに椅子が六つ。そう、この艦の小会議室だった部屋だ。ティーガも、ヴォルフも、ジョーも、そしてドラグさんも席に座って待っている。ただ皆、ダークビーストだった時のコスチュームに身を包んで

  「アキ君、まぁとりあえず座り給え。」

  促されるままに席に座ると、リゼルグが扉を閉めて、彼も席に着く。そして、どう説明したらいいか思案しているような仕草を黒竜人がしたかと思うと、ゆっくりと口を開いた。

  「何処から話せばいいか……。まず初めに断っておくが、私たちはダークビーストの怪人だとか、悪の組織ではない……と思う。」

  どこか自信なさげに彼は言う。

  「明確にそうだとは言えない。というのも、我々と、そしてアキ君、君も含めてだが、我々は奴と長い間つながり続けてしまった。故に、繰り返された時間遡行の影響で今までの存在が混じりあったような状態になっている……とでも言えばいいかな。奴の作り上げた設定を演じていた我々と、元々の世界の異次元探査船のクルーである我々と、そしてアキ君はこの世界に生まれ落ちてからのことも……。」

  「……そう、ですね。さっき皆に会うまで忘れていましたけど、今なら全部思い出せる。皆と居た艦での記憶、前の世界での記憶、そして……皆と敵対して戦っていたころの記憶も……。どれが本当の僕なのかわからない……。」

  そう、僕は六道 アキのはずだけれど、他の記憶もある。この世界の物ではない記憶。だけどそれが嘘や夢ではない証拠なら目の前に。

  「……あの最後の時間遡行の時に、我々は、ヴォルフとアキ君、君たちが船外に投げ出されたあの瞬間、アキ君が爆発に巻き込まれて消滅してしまったあの瞬間まで戻っていた。ヴォルフを船内に救出することはできたが、君を見つけることはできなかったんだ。」

  彼は続ける。僕があの時消滅して、この世界に生まれてから十八年の間、どうしていたのかを。

  「奴の作為が無くても、君が同じ場所に生まれ変わるのだとしたら。私たちはそう思うと居ても立ってもいられなかった。だがあの場所からこの世界は大分遠くてね、この世界にたどり着くまで、この艦の燃料をすべて使い果たしたうえに、一年もかかってしまった。」

  「い、一年? 僕、もう十八歳なんですけど……。」

  「次元移動中の状態の艦では時間の流れが違うのは、忘れてしまったようだね。まぁとにかく、我々は再び君に会いたい一心で、この世界までやってきたんだ……。」

  皆が席を立ち、僕の周囲に集まってくる。あまりのサイズ差に圧迫感がすさまじい。そして、全員で覆いかぶさるように僕を抱きしめた。温かい鱗や毛皮のぬくもり。どこか懐かしい感覚。そして彼らは言った。

  「おかえり……アキ。」

  「ただいま、皆……。」

  魔法戦士 マジカル☆アキ

  魔法戦士 マジカル☆ア

  魔法戦士 マジカル☆

  魔法戦士 マジカ

  魔法戦士 マジ

  魔法戦士 マ

  魔法戦士

  魔法戦士だった

  魔法戦士だった男の子の話

  完

  [newpage]

  エピローグ

  「……だけど何ですか、悪の組織の着ぐるみカフェって……。」

  「し、仕方ないだろう。先立つものが無ければ生活だってできないし……。それに別の世界から来た我々は、どうも相変わらず認識阻害を受けるらしく、着ぐるみに見えるらしくてな……。」

  少し恥ずかしそうにうつむくドラグさん。

  「そうは言うがこの店、結構好評だぜ? 住み込みのバイトも百人くらい雇ってもちゃんと黒字だし。まっ、認可が下りるまでは大変だったが。」

  とティーガが嬉しそうに言った。この見た目ゆえに、この世界の事を調べて、役所に届け出を出すまでのハードルが一番高かったそうだ。結局、アルバイトを雇って、彼らにさせたみたいだけれど。

  「しかし、食い詰め者やら、自殺未遂者まで集めてアルバイトにするなんて最初、言われたときはどうしたもんかと思ったぜ……バイオジェルの生産が面倒くせぇ……。」

  そうリゼルグがぼやいた。リゼルグが言うにはあの店員たちの獣兵は、かつて彼らがダークビーストだった世界の時に集められた、行方不明になっても問題にならなそうな、ひどい状況に陥っていた人達。

  彼らを再びこの世界で回収し、住み込みのバイトとして雇い、リゼルグ謹製の生体バイオジェルによる着ぐるみに身を包んで、悪の組織カフェの店員兼戦闘員ショーの人員として確保したとのことだった。

  「まっ、良いじゃんか! アキとまた一緒に居られてオイラ、うれしいぜ!」

  ヴォルフが僕の腕を取って言った。

  「オレも……嬉しい……。」

  ジョーが反対の手を取って言う。あの~、でかい二人に手を取られると身動きできないんですが……。

  「だが……アキ君。体は大丈夫かね。我々でさえ、後遺症のようなものが少し残っているのだが……。」

  そう不安そうにドラグさんが言った。後遺症……。この十八年間、特にそんな症状は出なかったけれど。

  「特に、そんなことはなかったですけど…………!?!?!?」

  そう僕が言った瞬間だった。ぞわぞわと皮膚が蠢く。何か、皮膚の下で疼く感覚。そう思った瞬間、皮膚が剥がれ落ち、下から見えるのは、……緑の……鱗。

  それを認識すると、変化がさらに進む、膨らむ筋肉、爪が鋭く伸び、口元からは歯から生え変わる牙たち。骨格も歪み、尾てい骨のあたりから伸びていく尻尾が下着とズボンを破り、最終的にそこに居たのはリゼルグによって変化させられた時と同じような姿。

  「な、なんで……。」

  「あ~……。俺たちの場合、性欲の増進とかだったけど……。」

  そうリゼルグが言ったと思ったら今度は鱗が疼いてくる。鱗の下から黄色い毛皮が生えてきて。

  「なんで!?どうして!?」

  目まぐるしく変わっていく自分の姿。トカゲ、虎、狼、鮫。そして獣兵の姿にも。

  「どうやら……アキ君の後遺症は、変身体質とでも言うべき状態の様だね……。」

  「そんな冷静に返さないでください! 僕はこれからどうしたらいいんですか!? こんなんじゃ受験や就職どころか日常生活も怪しいですよ!?」

  そうこうしている内に再び人間の姿に戻る。とはいえこんな体質で僕はどう生きていけばいいんだろうか。着ていた服はズタボロだし。そんな僕の表情を見てヴォルフが言った。

  「まぁ、アキはうちに永久就職でいいんじゃないかな。ねぇ兄貴!」

  パニック気味の僕を置いて、ヴォルフがティーガとリゼルグの方を向いてそう言うと、ジョーも含めて皆、うんうんと頷いている。

  「ひ、他人事だとおもって……! わぁあああああん!」

  僕の受難は、まだ終わらなさそうだった。でも……みんなとこれからも一緒に居られるのなら、僕は……きっと幸せだから。

  [newpage]

  春休み中、あれから僕はできるだけ人前で変身してしまわないように、彼らの店の奥、艦内の居住スペースでどうにか訓練できないかを模索する、そんな生活を続けていた。

  これはそんなある日の話。

  「う~……。変身する条件も人間に戻れる条件もわからない……。」

  今、僕は艦の中の休憩室の中にて、トカゲ男みたいな姿になってしまった状態でベッドの上で意識を集中させてみたり、手を握ったり開いたりしてみたりいろいろ試している。

  しかし、何も起こらない。さて、どうしたものかと思案するも、アイデアは何も浮かばず、悶々としながらベッドの上をゴロゴロしていた。

  さて、変身体質で無意識の内に見た目が変わってしまうのが問題だったのだが、この状態で生活していて、更に新しい問題が浮かび上がってきた。

  「ん……♡ うぅ……♡ ぅん……♡」

  身体が、疼く。肉体に魂と精神が引っ張られるのか、獣人の姿と化した僕は、以前この姿だったときのように、求めてしまうのだ。彼らの温もりを。彼らの愛を。

  身体の奥底が寂しくてたまらない。堪らず内線の通信を開いてリゼルグを呼ぶ。この姿の時は、彼の事しか受け付けないから。この身体がそうしなければいけないと、言っているようで。

  「へっへっへ……。アキ……待たせたか?」

  嬉しそうに舌なめずりをしながら、部屋にノッシノッシと入ってくるリゼルグ。その姿を見て、僕は安堵の息を漏らした。体が疼いて疼いてしょうがない。早く、早く彼に愛されたい。

  彼は着ていたボディアーマーを手早く脱ぐと、ベッドの上の僕の上に覆いかぶさる。彼の逞しい胸筋が僕の胸に触れて、彼の牙が見える凶暴そうな口が僕の口を優しく塞いだ。

  「んっ……♡」

  互いの長く伸びた舌がお互いの口の中に侵入する。牙の間を舐めるように動き、互いの舌が絡まっていく。その一方で互いに抱き合って、身体の敏感なところを触りあう。尻尾の付け根や互いの胸、そうしているうちに、スリットから飛び出している互いのモノもこすれ合い、僕たちの興奮が高まりあっていく。

  ジュルジュルと唾液が交換されるのも、また興奮を増幅させていって、もう彼は我慢できなくなったのか、思いっきり腰を引いたかと思うと、僕のスリットの中へと彼は剛直を突き入れた。

  全身を電撃が突き抜けるかのような快感。中も外も同時に責められて、あまりの気持ちよさに、たまらず彼の口から離れてしまいそうだったけれど、彼の舌は絡まったまま離してくれない。

  ぐちゃぐちゃと卑猥な音をたてる上の口と下の口。そのどちらもが気持ちよくて意識が飛んでしまいそうになる。そして体の中で膨らむ彼自身。自分の体内の中に、彼の欲望が放たれて、僕は達してしまった。涙とよだれで顔がぐちゃぐちゃになりながら、口を塞がれて嬌声を上げることも許されず、ただただ快感に震え、中に注がれ続ける。それがとても気持ちよくて、ただ力なく僕は、彼が再び始めたピストン運動に翻弄されるしかなかった。

  もう、何回出されたかわからないくらい時が経って、彼がようやく僕の口を解放し、ゴポゴポと僕のスリットから白濁があふれ出すのに合わせて彼が抜け落ちていく。

  「……アキ。気持ちよかったか……?」

  「……うん。」

  性欲を発散させてしまうと、なんだか今までしてきた行為が少し気恥ずかしくて言葉少なになってしまう。そんな僕を見て、彼は優しく微笑みかけた。

  「……あいつら皆、艦長も含めてお前の事が好きなのは知ってた。だけどな、俺だってお前の事、ずっと好きだったんだぜ。お前、あの時は気づいてなかっただろうけどな。」

  リゼルグは何処か遠いところを見つめて、言葉を続けた。その視線は、以前の世界の事を見ているようで、それが少し、寂しそうで。

  「俺が悪の組織の幹部という役割を与えられていたあの時、アキを俺みたいな姿に改造して、俺のお嫁さんだ、なんて言ってたよな。……あれは、あの怪物に言わされていたわけじゃねぇ。確かにあの時俺は、あの怪物に操られてはいたが、あれは確かに俺の本心だったんだ。」

  こちらを見つめるトカゲの瞳。細長い虹彩が二つこちらを見つめている。その眼差しに胸がドキドキしてしまう。

  「俺はお前の事が好きだ、それも嫁にしたいぐらい。だが……お前の事だから、あの中から誰か一人だけを選べと言われたら、おそらくお前は全員から身を引くだろう?それは……嫌だ。」

  そう、僕は彼ら皆のことが大好きだけど、誰か一人だけを選べ、なんて言われたら、僕はどうしていいかわからない。

  「だからお前は皆のモノってことにしようって、皆で相談してな。だから……覚悟しとけよ? 俺以外の奴も……心の奥底ではお前を無茶苦茶に犯したくてしょうがない、ってな。」

  再び笑みを作るトカゲ男が、ぺろりと僕の頬を舐めた。その笑顔は、僕を独り占めにできなかったと、どこか寂しそうで。

  「だけど、その姿の時だけは……俺だけのアキで居てくれ……。」

  ぎゅっと再び抱きしめられる。強く、強く、もう離したくないと言わんばかりに。僕はそっと抱き返して、そのぬくもりをずっと感じていた。

  [newpage]

  「店員さ~ん、こっちオーダーお願い~!」

  「はいは~い、ただいま~!」

  父さん、母さん。僕は今、ウェイターの真似事をしています。しかも人間の姿ではなく、虎の獣人の姿で、なぜかウェイトレスの服を着て!

  と言うのも、僕が皆のような姿に変身してしまう体質になってしまった以上、一人で生活するのはなかなか難しそうということで、皆のところにお世話になることにしたのだ……と言うわけで、こうして彼らの仕事を手伝っているわけ。

  「へへっ、似合うぜ~、アキちゃ~ん♡」

  そう言いながら僕の後ろから肩を抱き、そっと服の上から胸を揉みしだいてきたのは、虎獣人のティーガ。彼は悪の組織カフェの幹部用のボディアーマーに身を包み、ニヤニヤ笑いながら、僕のことを背中から抱きしめている。これは僕じゃなかったらセクハラと言う奴になるのではないだろうか。

  「うう……、僕はこんな服、着たくはなかったのに……。」

  と、そう僕の口から愚痴が漏れるが、この姿の時は後遺症なのか、彼の言うことに逆らえないのだ。彼に命令されると、脳内の多幸感が増してしまい、言うことを聞いてあげてもいいかなと言う気分になってしまう。

  「んん~? どうした? アキ。もじもじしやがって……。へへっ、後でたっぷりかわいがってやるからさ、ホールのことは任せたぜ! ってことで、俺は戦闘員体験ショーの方を手伝ってくるわ。」

  散々僕の全身をもみくちゃにするだけしていって、彼は別の階層に移動していく。このカフェは地下階にあるのだが、実際、その地下の入り口から三階部分まで艦の内装が侵蝕している。

  カフェの二階部分では広いフロアがあり、悪の組織体験ショーみたいなのを定期的にしており、なぜか一部の客層に人気らしいのだ。

  そして三階部分が彼らと、住み込みアルバイトの獣兵たちの生活スペース。いわゆる船室部分になっている。

  あわただしくディストピア飯を模したメニューを客に運ぶ仕事を終えて、僕は自分の部屋へと戻った。一部の獣兵たちから鋭い視線を感じつつも、部屋の扉を開け、ベッドにへたり込む。

  「つ、つかれたぁ……。」

  疲れてはいるが、今日この虎の身体に変身してしまってからずっと、体の奥底から感じていることがある。疼いているのだ、身体の奥底が。

  本当は、ティーガに背中から抱きしめられた時は最高潮の疼きを感じていた。僕の理性をフル動員させなければ、あの場で服を脱いで、彼を求めるような鳴き声を上げていただろう。

  プチプチと服のボタンをはずして裸になると、空気の感覚を毛先で感じ、得られるのは圧倒的な解放感。この感覚は人間の姿の時には感じられない感覚だ。そのままベッドに倒れこみ柔らかなシーツの感触を毛皮越しに楽しむ。そして、彼を内線で呼んだ、本能に身を焼かれるままに。

  「邪魔するぜぇ~!」

  そう大声で言って、ドスドスと音を立てて部屋に入ってくる巨漢の虎男。その姿で廊下を通ってきたのだろうか、既にアーマーを脱ぎ全裸で、ぶらぶらと股座にその巨根が揺れている。でも、それが今の僕には魅力的で。

  「ぅうん……てぃーがぁっ♡ 早く……、来てぇ……♡」

  喉の奥から囀るように甘い声がでる。ベッドの上で彼に背を向けて、媚びるように腰を振ると、猫が考え事をしている時のように僕の尻尾が左右に揺れた。きっと彼の目にもその様が扇情的に映ったのだろう。グルルと唸り声が後ろから聞こえた。

  「かわいい、かわいい雌猫ちゃん。いい子だねぇ。ご主人様にちゃんと愛想よくできて……。ゲッヘッヘ……思う存分にかわいがってやるからなぁ……?」

  お尻の、尻尾の付け根部分に彼の手が触れる。ポンポンと、軽くたたかれると、敏感なところがピクリピクリと反応してしまう。それがとても気持ちよくて、僕の口から出るのは猫の様な甘い鳴き声。

  「にゃっ……♡ んぁっ……♡ てぃーがっ……♡ まだぁ……?♡」

  「違うだろ、アキ……シてほしい時は、俺のことを何て呼べばいいか……わかってんだろぉ?♡」

  意地悪な言い方。焦らすように彼は僕の尻尾の付け根を優しく、やらしく掴む。ピリピリと全身を快感が走ると、茹った僕の頭は、羞恥心なんてそっちのけで、彼の望む言葉を吐いた。

  「ごしゅじんさまぁ……♡ ボクのなかにぃ……♡ いっぱい出してぇ……♡」

  「よく言えました♡」

  そう言って彼は、僕の尻尾の付け根と腰のあたりを掴むと、下の穴にその剛直を押し付ける。熱くて硬いのが当たっている。すでにグチョグチョに濡れて準備万端なそこに、彼は遠慮なく突き入れた。

  棘が擦れて痛みを感じるけれど、その痛み以上に快感を与えてくれるソレに、合わせて自然に腰を動かしてしまう。肉と肉がこすれ合い、中で動くその巨根が、抽送を繰り返し、徐々に膨らんでいく。頭の中が幸せで一杯。ご主人様の嬉しそうな唸り声も僕の頭を幸せにしてくれる。

  そして終わりの時が訪れた。中に吐き出される大量の白濁液。熱い。熱い。気持ちがよすぎて目の前も真っ白。ゴポゴポと零れ落ちた液体がシーツに染みを作った。

  「……へへ。かわいいぜ、アキ。人間の姿のお前も好きだが……その姿の方が俺のモノって感じがして……な。」

  僕は荒い息を吐いて、あまりの快感の余韻でベッドの上で痙攣しているかの様で動けない。そんな僕に言った彼の声は、嬉しさと悲しさの混じった、複雑な感情が混じっていた。彼は倒れこんだ僕を持ち上げると力強く抱きしめる。温かい毛皮の感触、僕を見つめて彼は言った。

  「あの時に……お前にしちまったことを忘れた日は一日も無ぇ。だから本当は俺のことなんか嫌いになってもおかしくねぇだろうに……。なぁ、アキ……。」

  ティーガの目が少し潤んでいる。いつも飄々としている彼だけど、そんな彼でも内心ずっと気にしているのだ。前の世界の時の事を。

  「……大丈夫、ティーガは悪くないよ。悪くない。……こういうプレイも、嫌いじゃないし……ね。」

  彼の心にはまだ罪悪感が残っている。その心がどうか、一日でも早く救われるように、僕は彼の胸の中で、そう祈っていた。

  [newpage]

  この日はあつらえたかのように、ちょうど満月の夜だった。

  今日、僕は狼男の姿に変身してしまっていて、月齢が影響しているのか常に落ち着かなくて、もじもじしていたら、店の手伝いは休みでいいと言ってもらって、自室にいた。

  転生する前の世界なら、狼獣人であっても月齢にそれほど影響を受けるなんてなかったような記憶があるが、これも後遺症なのだろうか。

  その症状は狼男のヴォルフも同じだったようで、このお互いの疼きを、互いに慰め合うかのようにベッドの上で、二人で抱きしめ合っていた。

  スンスンと鼻を鳴らし、僕の胸元に頭を突っ込んで、ずっと匂いを嗅ぎ続けている彼。

  「……懐かしい匂い。 人間の頃のアキの匂いがずっと濃くなってるみたい……。」

  そう言われつつ、僕も彼の毛皮の匂いを嗅いでいると、なんだかホッとして落ち着くのだ。

  「オイラ……ずっと、アキとこうしたかった。アキのぬくもり、アキの心臓の鼓動、アキの呼吸の音、全部……愛おしい。」

  僕の背中に回された、ヴォルフの逞しい腕の力が更に増していく。もう二度と離れないように、もう二度と離したくないと。

  「でも……ごめん、ごめんね、アキ。オイラ、アキの事守れなかった……。守れないどころか、何回も、何回も……アキにあんなことや、こんな……ひどいこと……して……。」

  そう言って泣きじゃくるヴォルフ。僕以外の皆も、今までの記憶が僕と同じように残っていて、ずっとそれに苦しんでいる。だから僕は、僕の平たい胸元に顔をうずめているヴォルフをそっと抱き返して言った。

  「いいんだよ。僕が、アイツに勝てたのは……、皆のおかげなんだから。きっと……必要な事だったんだ。全部。」

  そう、きっとあれらは必要だったんだ。無駄な事なんてきっと、何もなかった。今ならそう思える。グシグシと聞こえる涙の音。彼が泣き止むまでずっと優しく抱きしめた。ただ、こうしている内になんだか僕の身体がムズムズしてきて……。

  彼に……抱かれたい。心の奥底から現れる欲望。それがトリガーだったのか、スンスンと鼻を鳴らす目の前の狼男。多分、今、僕の身体から漂っているこの香りは……。

  「ん……♡ アキ、フェロモン出てる……。えへへ……、そんなにオイラと……シたいの?」

  こちらを見上げる狼は、もうすでに泣き止んで、いたずらっ子のような笑みを浮かべていた。その顔をまっすぐ見ていられない。胸の鼓動が苦しくて、お腹の中の疼きが熱くて。だから、了承の意味をこめて、僕はこくりと小さくうなずいた。

  その合図を受けて彼は僕の胸元に、再び顔を埋める。そして平たい舌が伸びると、ピチャリと彼の舌が僕の胸を舐めた。ピチャピチャと何度も先端を舐めあげられると、あまりの気持ちよさに身体がよじれる。

  「ふっ……♡ くっ……♡ んんっ……♡」

  「ぐるぅ……♡ わふっ……♡ ぐぅぅ……♡」

  最初は舐めるだけだったのが、徐々に甘噛みが混じる。そして力強く吸い上げられると、あまりの気持ちよさに目の前が真っ白になっていく。

  高まる快感。繰り返される胸への責め。快感の波がどんどんと高まって、そして、はじけ飛んだかのように嬌声をあげた。

  「ぁっ♡……わふ……♡」

  「はっはっ……♡ イっちゃったね、アキ……。アキばっかり気持ちいいのずるいから、オイラも気持ちよくしてね……♡」

  そう言われて、僕はヒクついて力が入らない肢体を懸命に動かして、四つん這いになりながら彼にお尻を向けた。

  無遠慮に突き入れられる彼のペニス。ただ、この身体はそんな急な挿入であってもあっさりと受け入れられてしまう。

  「すんなり入っちゃった……♡ じゃあ……うごくよ……っ♡」

  「うううぅ……♡ わぅん……♡」

  繰り返される抽送。膨らむペニス。こすりつけられるように彼のマズルがうなじ辺りの毛皮に触れる。栓をするかのように中で膨らむ亀頭球。そしてひと際大きく脈動すると、大量の精液が流し込まれる。熱い。気持ちいい。満たされる。快感が満ちる。

  「わぅ……♡」

  「ぐるる……♡」

  こうなってしまうと繋がったまま動けない。僕はただ流し込まれる快感を享受するだけ。出しつくすまで、僕らは繋がったまま……。

  「……気持ちよかった? アキ……。いつかオイラ達の子供も作りたいね……♡」

  「……うぅ、気持ちいいけど……。子供できるの? 男同士なのに?」

  突然の言葉に、晴天の霹靂。そんな技術、この世界にはないけれど、前の世界ならあったのだろうか。前の世界の記憶は、彼らについて以外の事は遥か遠く。確かに技術的にはこの世界よりは発展していた気はするけれど。

  「男性妊娠薬、この艦に積んでる資材で作れるよ。リゼルグのアニキなら……ね。」

  「……できるんだ。……でも、今まで使われたことなんてなかったような……?」

  そう、そんなものがあれば、前の時の彼らなら、僕に使っていてもおかしくない気がする。だけど、奴の考えを想像するに、きっとそうすることで彼らが幸せを感じることをよしとしなかったのだと思う。あの怪物は、多分そういう奴だった。

  「……アキが嫌なら……オイラ達も我慢するけど……。」

  「わう……。……考えておくよ。」

  それから、僕たちはただ、黙りこくってお互いの体温を感じるのに集中した。僕はこれからどうしたいのか。彼と繋がっている間、ずっとそのことについて考え続けていた。

  [newpage]

  波の音が聞こえる。まだ少し水温の低い波打ち際で、僕は水平線に沈む夕陽を見ていた。

  今日は、僕は非番の日で、同じく非番の鮫男のジョーに誘われて、彼と前の世界で出会った海岸に行くことになった。ただ、違うところと言えば、まだあの時に比べて時期が早くてこの場所にいる人は誰もいない。だけど……。

  「うう……、このままじゃ帰れない……。」

  ズタズタに裂けてしまった僕の服。なぜなら、今の僕の肌は青ざめたサメ肌。海の中に足を踏み入れた瞬間に、鮫男に変身してしまったのだ。最近は自然に変身することがあまりなくて、落ち着いているからと遠出したのが間違いだったかもしれない。

  「……でも、アキはその姿でも……かわいい。」

  そう言って僕の頬を鮫男の手が撫でる。それは嬉しいけれど、ざらざらの皮膚が互いを傷つけ合いそうで少し怖い。それくらい、目の粗いサメ肌だから。

  「アキ……オレ、アキのことが好き。……食べちゃいたいくらい……好き。」

  ジョーの黒い瞳がこちらを見ている。ただ、その目はどこか、僕に負い目のようなものを抱えていて、まっすぐ見ていられないと言っているかのような怯えが見えた。そんな今にも泣きそうな顔で。

  「でも……そう思ってたから……、前の世界で……オレ、嫌がってるアキを……無理やり……たべちゃったのかな……。」

  「ふふ……あの時は、本当にびっくりしたんだから。溶けて死んじゃうんだとばかり思ってた。」

  どこか暗い表情の彼を、そんな気分が吹き飛べばいいと、励ますために笑いとばそうとしたのだけれど、駄目だったみたい。泣きそうな顔のまま、彼は僕を強く抱きしめると続けた。

  「ごめん……。オレ、今でも……アキのこと食べちゃいたい……。無性に、我慢できない時が……あるんだ。いけないことなのに……。食べて、俺だけのものにしてしまいたい……。」

  涙目、だけどその目はどこか濁っていて、彼もまた、これまでの後遺症で苦しんでいるのだと。

  「……まぁ、死なないなら……。ちょっとの間だけなら……良いよ。でも……大丈夫? 今の僕の皮膚、ざらざらなんだけど……!?」

  そう、僕が言うのが早いか、彼は大きく口を開け、僕の身体をその大きな手でつかんだかと思うと思いっきり丸呑みするかのように僕の顔を口の中に突っ込んだ。彼の口の中、肉壁が視界いっぱいに広がり、そして世界が闇に包まれる。

  「んぅ……♡ 慣れないなぁ……この感覚……♡」

  グチャグチャと音を立てて、肉壁が全身を擦る。喉を通り、食道、そして胃袋へゆっくり、ゆっくり落ちていく。

  柔らかい感触を背中に感じると、そこが胃袋なのだと理解する。狭苦しい肉壁の中、自然と足を曲げて体育座りの姿勢をとると、まるで胎児みたいだな、なんておもったりして。

  「……大丈夫、オレ頑丈だから。アキが中で暴れても、……多分。」

  そう外からぼんやりと彼の声が聞こえる。胃壁から流れ出る胃液も、僕を溶かすまではいかないみたいで、まるでアルカリ性の温泉につかっているかのようにヌルヌルになるだけ。それがなんだか気持ちいい。

  「えへへ……。アキと一つに……なれて、オレ……嬉しい。」

  胃壁越しに彼がお腹をさする感覚。しかし、これはいつ出してくれるのだろう。いつの間にかドスンドスンと揺れが走るのを感じるあたり、彼は歩いてどこかに移動しているようだけれど。ただ、その揺れが心地よくて、胎児のような姿勢も相まって眠たくなってきて、僕はゆっくりと目を瞑り、意識を手放した。

  ……

  「馬鹿鮫! 早く吐き出せ!」

  「アキィっ!? 大丈夫か?」

  「息はある! 一応治療用ジェルは持ってきてるが……。」

  皆の怒号で目が覚める。なんだかうとうとしているうちに気が付いたら僕はいつの間にか彼らの艦の休憩室の中で、ベトベトな状態で吐き出されてベッドに寝かされていたようだ。

  「……あれ、皆……どうしたの?」

  目が覚めた僕を見て、安心したのか脱力する皆。ジョーは部屋の隅で正座させられており、その首には反省中とカードが下げられていた。

  どうやら、以前の世界で彼が、僕を丸呑みできるようにと、ジョー自らが自身に施した改造手術は、皆にも内緒だったみたいで、僕を丸呑みしていたという状況に、皆、半ばパニックになって無理やり吐かせたようだった。

  「……まぁ、無事ならいいが。今後はクルーの誰かに報告しておくようにな、ジョー……。アキもだ、今回無事だったからよかったものの……。」

  と、あきれ顔のドラグさんにお説教をされる形でこの一日は終わったのだった……。

  後日、悪の組織体験ショーの題目に、一般人丸呑みショーがひっそりと追加された。一部の層に人気で収益が上がったけれど、なんだか複雑な気分……。

  [newpage]

  「おきているかい? アキ君。」

  ドラグさんの声が上から聞こえる。目を開けると、彼の膝の上で、僕はまるでネコ科動物のように彼の膝の上で丸くなっていた。

  「ぎゃっ!? ぎゃう!?」(えっ!? なんで!?)

  「フフフ……。その姿の時は、君は大分、動物的になるみたいだね。フラフラと私の部屋に入ってきて、突然膝の上に乗ってきた時はびっくりしたけれど……、これは役得という奴かな?」

  優しい笑みを浮かべる彼の言葉と、僕の口から出る動物のような鳴き声に驚いて、自分の手を見ると、紫色の毛皮に肉球。そう、僕は今、獣兵たちと同じ姿をして、ドラグさんの膝にのしかかっていたのだ。

  「……ぎゃぎゃう、ぎゃう~。」(……覚えてない、うう恥ずかしい……。)

  「気にしなくていい。……君のそんな姿も可愛いからね。」

  そう言いながら彼は僕の頭を撫でる、まるで飼い主がペットにそうするかのように。耳の裏を、頭頂部を、頬から顎にかけてを、優しく撫でまわしてくれる。そのたびに僕の喉からゴロゴロと音が鳴る。まるで猫になってしまったかのよう。

  ただ猫と違うのは、この身体は万年発情期だという事。体が疼き、求めてしまう。潤んだ瞳を、彼の方に向けて、盛りのついた猫のように鳴き声を上げた。

  「ぎゃうぅぅぅ……♡」

  「フフフ……、しょうがない子だ。それじゃあ、元悪の組織らしく君に命令してあげようかな。」

  ニィと口の端まで裂けるように笑うドラグさん。その狂気的な笑みは普段の彼からは想像できないほどで、肉欲と嗜虐心に満ちていた。彼は思った以上にノリノリで、その表情は本当に悪の組織の首領そのもの。そして、今の僕の身体もその命令に従う気満々である。

  「アキ……。命令だ。貴様に伽を命じる。いいな?」

  「ぎゃっぎゃう~♡ぎゃうう……♡」(了解です~♡ ドラグ様……♡)

  彼の膝の上から降りて、ベッドに座っている彼の足元に跪いて、彼のズボンの、股座のふくらみにそっと手をかけると、ジッパーを降ろしてその中から、すでにスリットからあふれ出していたペニスを取り出し、そっと舌を付けた。

  しょっぱい。すでに先走りで軽く湿ったソレは体液特有の塩味。でもそれが今の身体にはこれ以上もなく甘美な味わいをしていて、もっともっとと求めるように舐めあげていく。

  そして我慢できなくなった僕が、口いっぱいにその果実をほおばって、中で飴玉のように転がして楽しむ。彼の雄の匂いが口の中に広がって、それに伴ってとても甘い感覚が全身に広がっていく。

  「ぐるる……♡ ぐるる……♡」

  「いいぞ……、その調子だ。ククッ♡」

  ぐちゅぐちゅと唾液と先走りが口の中で混ざり、卑猥なオーケストラを奏でていくうちに、最初の射精。どろっとした大量の白濁液が、口内に流し込まれ、それをこぼさないように手を添えて嚥下していく。喉に絡みつき、少しイガイガするのを感じるけれど、それさえもこの行為へのスパイス。精液の臭いの混じったげっぷを軽くして、僕は舌なめずりをした。

  「ぎゃうう~……♡ ぎゃうぎゃぎゃう~……♡ ぎゃっぎゃう~♡」

  (ドラグ様ぁ~♡ はやく僕の中にぃ~……♡ だしてください~♡)

  「それが貴様の望みなら、お望みどおりにしてやろう……ククッ♡」

  彼は手早く服を脱ぐと、僕をベッドに押し倒す。そして乱暴に足を広げられると、彼の目にも露わになる僕の下の穴。そこに突き入れられる、グロテスクなまでに怒張した彼の剛直。

  何度も何度も繰り返される抽送。そのたびにケダモノのような嬌声をあげて、彼に早く、早く出してほしいと媚びる。

  「ぎゃう……♡ ぎゃう……♡ ぎゃうぅ……♡」

  甘えたい。存分に甘えたい。彼に抱きしめられて、胸がキュンキュンと鳴っている。そうされている間も快感を発する体内の器官。肉壁越しに擦りあげられて、ゾクゾクとした感覚を発する前立腺。彼もケダモノのような唸り声をあげだして。そして、弾けた。

  「グルォゥウウウウウウ!」「ぎゃうぅぅぅぅっ……♡」

  …………

  呼吸が荒い。彼が僕の中からずるりと抜け出た後、身体に力が入らなくて僕はベッドに倒れこんだ。

  「……ふふ、乱れている君も可愛いかったよ。……さて、アキ君に言わなければならないことがある。……疲れているだろうから、そのままでいいから聞いてくれ。」

  いままでの素振りからは想像できないくらい、真剣な、暗い面持ちで、彼は言った。

  「私たちは……この世界にとっては異物だ。今の生活をずっとは続けてはいられないだろう。だから、この艦のエネルギーが溜まり次第、安住の地を求めて再び次元移動を行うつもりだ。」

  視線を僕から外した彼の顔が、僕の位置から見えなくなる。彼の声からは、その感情が読み取れないくらい、そんな平坦な声で、彼は続けた。

  「だが……アキ君。君には、この世界のご両親がいる。だから私たちと一緒に来いだなんて、強制することはできない。」

  表情も感情も見えない。だけど、きっとこれは彼が、僕がこの世界に残ることを選択しやすいようにと、そう思ったからだろう。僕はそんな彼の人となりを知っている。そして、断られたとしても、僕に涙を見せないように、顔を背けているのだという事を。

  「アキ君。私たちと一緒に……来る気はあるかい?」

  僅かだけど、声が震えていた。多分この艦のクルー以外なら気が付かないほど、僅かな震えだった。だけど、僕の答えは……もう最初から決まっている。両親には悪いと思うけれど。

  「ついていきますよ。どこまでも。今度こそ、僕を置いていかないでくださいね。」

  姿は獣兵のままだけれど、僕の声帯から出てきたのはちゃんと僕の声。こちらを振り向く黒竜の顔。満面の笑みで僕を強く抱きしめる。

  「ああ、ああ……!」

  僕たちは涙を流していた。今までの時間を取り戻すかのように。ひとしきり僕たちは泣いて、そして。

  「とはいえ……当分動ける見込みは無いのだけどね……。」

  と続いた彼の言葉に、僕が思わずズッコケそうになったのは、言うまでもない。

  その後、僕たちがどうなったかは、また別のお話……。

  おしまい☆