夢を見た。トカゲになって何処か暗いところに居る夢を。愛しい相棒に体をこすりつけられる。湿った鱗の感触。何度も何度もこすりつけられていくうちに、高まる欲望。そして彼との愛を確かめ合った。
夢を見た。森の中。虎になって木の上で眠る夢を。愛しい相棒に誘われて狩りに赴いて、獲物に牙を突き立てる。相棒と共に肉を食み、共に食事をすることを楽しんだ。
夢を見た。草原の中、狼になって駆けていく夢を、愛しい相棒が鼻先を毛皮にこすりつけてくる。それを僕はクルルと喉を鳴らして答えるのだ。愛情を示すように尻尾が絡まった。
夢を見ていた。水の中、鮫になって泳いでいる夢を。愛しい相棒と共に海の中を自由に旅をする夢を。ザラリとしたサメ肌をこすりつけられて傷がつくけど、それもまた愛おしい。
何度も、何度も僕は夢を見ていた。同じような夢を。誰かにそれを見られているような感覚と共に。それが嫌で、たまらなくて。思わず目を開ける。すると、そこは砂浜の上。僕は波打ち際に座り込んでいた。
視線を自分の身体に向けると、僕はただの人間で、手を握ったり開いたりしても、そこに鮫人間みたいに水かきなんてなくて。よかったという気持ちと、なんだか残念な気持ちが同居していた。
別にそんな存在になりたいというわけでは無いのに。ただ、彼らの仲間になれたという喜びが、その夢の中にはあった。
僕は、彼らの何なのだろうか。あのイメージは何だったのだろうか、彼らダークビーストの幹部にそっくりな仲間と共に、宇宙船のような所の中で過ごしていたイメージは。
僕は、誰なのだろう。僕の名前は六道 アキ。魔法の力を与えられて戦う羽目になって、今、高校三年生……のはずだ。
意識がゆっくりと覚醒していく。先ほどまでのは、ただの夢? それともこれから訪れる危機を伝える予知夢? 既視感? わからない。
だけど、今まで見た夢の中の一つ。宇宙船のような中で彼らと親し気に話していた夢。まるで、本当にあったことのような夢。あれが、前世の記憶なのかもしれないと、僕はなんとなくそう思い始めていた。
だけど、彼らが、夢の中で見た触手の化け物に操られているのだとして、その本体は何処に居るのだろうか。その答えは、彼らの基地にあるのかもしれない。そう思ったから。
首をフルフルと横に振って頭の中から雑念を振り払うと、隣から声がした。
「あ……ダークビーストの呼び出しだ……。」
ボソリと呟くようなサメ男、ジョーの声。夢の中と同じセリフ。ここで、彼が帰って、その後、僕は彼に丸呑みにされてしまうのだ。夢の通りなら。
空間に穴が開く。彼が、彼らの基地へと戻っていく。この機会を逃せば、もう二度と彼らの基地へと入ることのできるチャンスが無くなるのではないかと、ふと思った。
そう思ったら、居ても立ってもいられなかった。彼の脇をすり抜けるようにして、その穴の中へ疾走する。
驚愕の表情を見せるサメ男を後目に、一筋の光さえ見えない次元の穴へと、僕は身を投げるように駆け込み、そして、視界が……開けた。
[newpage]
何処かで見た、出来の悪いSFのような部屋の中。あれは夢だったのか、それともパラレルワールドの僕だったのか、トカゲ男のリゼルグに捕まった時に見た、パイプとライトの目立つ、あの転移してきた部屋。素早く変身のポーズを取ると、もう見た目なんて気にしていられない、フリルの服が一瞬で身を包む。
「あの……アキ、危ないから戻った方が……。」
後ろでジョーが口を開くけれど、このチャンスを逃せばもう、この場所にたどり着くことはないかもしれない。
「それ以上……進むなら俺、アキと、戦わないといけなくなっちゃう……。」
ジョーが静止の為に手を肩に乗せようとしたその時、僕は、覚悟を決めた。
「……ごめん、ジョー。」
手のひらに思いっきり魔力を込める。一時的に足を止める魔法。できる限り穏便に。できる限り長時間。
この部屋の金属に語り掛けると、パイプが蠢き、サメ男を壁に拘束する。
「あ、アキ……。」
サメ男が束縛から逃れようと、全身に力を込めるとパイプがミシミシと音をたてている。そんなに長時間は持たなさそうだ。だから、更に金属の壁を彼の周囲に生成した。これで当分出てこれないはず。
僕は走った。速く、できるだけ速く。中の構造は、ヴォルフによって彼らの仲間になった夢の中の通り。全部覚えていた。全部覚えている。彼ら幹部の顔、彼らの柔らかい表情、にこやかな獣兵たちの顔も全部。
でも、今、目の前にいるのは通路を塞ぐ獣兵たちの敵意剝き出しの顔。もう、止めてあげなくては。彼らがこれ以上、悪事を働かないようにするためにも。
とっさに懐にもぐりこんでの裏拳。そして、そこから一拍おいてからの回し蹴り。周囲からとびかかろうとした獣兵たちが吹き飛び壁にぶつかる。生命活動を停止した彼らは、ドロリと溶けて消えてなくなる。
僕は、彼らの正体を夢の中で知っている。知ってしまった。彼らの材料は捕まった哀れな人間たち。僕は彼らの命を奪ってしまった……、けれど、僕は止まるわけにはいかない。これ以上、犠牲を増やさない為にも。
倒れて溶けた獣兵の残滓に縋るようにしていた獣兵が一人、こちらに憎しみの眼差しを向けていた。
「ごめん……!」
謝罪の言葉と共に風の魔法を詠唱する。風の刃がその獣兵をズタズタに引き裂くと、同じように溶けて、残っていた残滓と混ざり合い、消えてなくなった。
僕は走った。まだ、先は長い。速く、早く終わらせないと。こんな悲しいこと。これ以上続けるわけにはいかない。
そしてついにたどり着いたのは、入り口からだいぶ離れた、夢の中で見た船橋。 何度も夢に見た、皆と一緒に居た、この船のブリッジの扉。
僕は意を決して、両手で勢いよく扉を押し開けた。
[newpage]
「ようこそ、魔法戦士、六道 アキ君。いや、それともビースト級一番艦、闇影の予備クルーだったアキ君の魂を持つもの、とでも呼べばいいのかな?」
ドアを開けると同時に、操縦席の回転椅子がこちらに向き、口を開いたのは軍服姿の黒い鱗の竜人。
その場所は、とても見覚えがあった。夢の中で見た、この船のブリッジ。生き延びた彼らとここで何度話をしただろう。何度笑い合ったのだろう。……それが本当に僕の記憶なのかはわからない。
そして彼の顔にも見覚えがあった。この船の艦長、ドラグさん。彼が今まで見たことのないほど冷酷な視線をこちらに向けている。いや、彼の顔は初めて見たはずだ。わからない、僕は、僕の事が、わからない。
「アキ君にとっては残念だけれど、今の私は、この組織の長であり、そして、君の……。」
目の前の彼が一瞬で姿を消す。そして。
「敵というわけだね。」
彼はいつの間にか後ろに立っていた。とっさに飛び上がり、距離を取る。少し反応が遅れていたら、死んでいたかもしれない。彼の鋭い爪が空を切る。
「懐かしいね、何度も戦闘訓練をしたっけ。その度に君は皆から土をつけられていたね。 それでも何度でも向かってくる姿に、皆、君の事を好ましく思っていたよ。」
冷たい視線はそのまま、彼は笑みを浮かべながら言った。
「僕は……そんな事なんか……覚えてない……。」
口ではそう言いつつも、自分の中に何か確信めいたものがあった。彼らの事を昔から知っているような感覚。前世というものがあるのなら、きっと関係があったのだろうという直感。
「じゃあ、なんで好ましく思っているのなら! 僕をこんなにひどい目に遭わせるんですか!?」
喉からあふれんばかりの思いの丈。どうして、どうして。どうして僕がこんな目に。
「……その件については本当に申し訳なく思っているよ。でも……君ももう……少しずつ思い出してるんじゃないか? 私たちが、あの化け物の操り人形に等しいという事に。」
彼が突然、自身の腕に爪で傷をつけた。噴き出すのは血液、赤い鮮血……ではなくて。黒くてドロリとしたヘドロのような何かがボタボタと床に落ち煙を上げて消えた。
「奴の血液さ。これを注入された人々の事を覚えているだろう。奴の言いなりになった人々を。私も、皆も……彼らの仲間入りしているってわけさ。」
自嘲するかのように彼は笑った。だが、何処か不可解なところがある。なぜ、そんなことを僕に話すのだろう。そんな、知られたらわずかなりに不利になりそうなことを話すことができるのだろう。
「……不思議そうな顔をしているね。……なんでこんなこと話しているか、疑問なんだろう。 奴に不利になることを話すことができるのかわからないんだろう?」
ニタリと彼が笑った。今まで見たことのない邪悪な笑み。前世の記憶の中でさえ見たことのない、嫌な笑いだった。
「それはもう、君が詰んでるからだよ。アキ君。」
べちょっ、といった音が耳に響いた。天井の方から垂れてくる紫色の液体、音もなく宙に浮かんでいるドローンが、僕にそのヘドロのような液体を振りかけてきた。
袖でぬぐう。取れない。まるで皮膚に張り付いたように。取れない。拭えない。はがれない。
「!?!?!?」
その紫色の液体が全身を覆っていく。まるで意志でもあるかのように、皮膚を覆い、そして身体の中まで侵蝕しようとしている。自分が自分でなくなる感覚を、夢の中で何度も起きた、人間ではなくなってしまう感覚を全身に帯びていく。
「ただ、私が暢気にお喋りしているだけだと思ったかね? 君の注意を逸らして、その液体を浴びせるのが目的だったんだ。 こんなにあっさりいくなんて、君もまだまだ、注意力が足りないね。」
クツクツと喉を鳴らして、ドラグは笑う。黒い鱗が照明に当たって妖しく輝いた。
「君が浴びたのは、そう、この世界の住人を獣兵に変えてしまう薬。それも、リゼルグが君の為に調合した特注品だよ、嬉しいかい?」
「ギャウ!? ギャウゥ!?」
喋れない。喉から出てくるのはもう、ケダモノの鳴き声だけ。皮膚の色が紫に変わっていき、筋肉が膨張し、服が裂ける。
「もう喋れなくなってしまったようだね。 これで君も獣兵の仲間入りだ。 そうだね、ナンバリングは……ゼロ号とでもしておこうか。」
にんまりと満面の笑みを浮かべる黒竜が近づいてくる。そうしている間も全身を覆う紫色の液体が、徐々に同じ色の体毛と化し、耳の位置が頭頂部に動くように頭部の形が変わる。
指先からは鋭い爪が伸びていく。口元からは歯が抜け落ちて、新しい歯が、鋭い牙が生えそろう。尾てい骨のあたりから新しい器官が少しずつ伸び、自分の意志で揺れるようになる様は、夢の中で何度も体験したことだけれど、慣れるなんてことは全然無くて、もう、気が狂ってしまいそう。
僕の姿はすっかりこの組織の、獣兵の姿と同じ姿へと転じていく。だけど、まだ僕の意識は僕のままだ。大丈夫、大丈夫だと自分に言い聞かせていたけれど、それは残念ながら気休めにもならなかった。
不意に、ピクンと自分の身体が不随意に跳ねた。神経を、内臓を、脳を、直接犯される感覚。今まで生きてきて、夢の中を含めてさえ、感じた中でも至上の快感、脳が焼き切れてしまいそうなほどの。ズルリと股座から飛び出したケダモノのソレが震えて、震えて、噴水のように白濁をまき散らす。気持ちいい。気持ちいい。
自分が自分でなくなってしまう。でも、それが気持ちよくて。頭の中の全てを占めていくのは彼への絶対の忠誠と、彼らが従っている何かに対しての服従心。でも、それが心地よくて。人間を辞めてケダモノになっていく思考。でも、それが本当に、キ……モ……チ……イ……イ……。
[newpage]
「もう、そんなに蕩けた眼をして……かわいいなぁ、君は……。」
ドラグ様がボクの顔をクイと、持ち上げる。爛々と輝く漆黒の瞳の中には一匹の紫色のケモノが映っていた。そのケダモノは何かを求めるように口から紫色のヨダレを垂らして、荒い息を吐いている。
そのケダモノがボク。獣兵のプロトタイプ、ゼロ号。幹部のリゼルグ様によって作られた改造液で変身した、元人間。もうボクの頭の中には、人間だったときの記憶は遥か遠く。まるで何十年も前の事のように思い出すことができない。
でも、この新しい体は気持ちよくて、快適で、力も強くて、難しいことは考えられないけど、なんだか幸せ。頭の中がとっても幸せ。人間を辞めることができて、幸せを感じてしまう。
そして、ドラグ様を前にすると全身が疼く。もっともっと快感が欲しい。欲しくてたまらない。でもきっと、この方ならボクに快感を与えてくれると、本能が言っている。だから、あまりにも快感が欲しすぎて、ボクは彼の手に頬の毛をこすりつけて媚びた。
「そんなに……快感が欲しいのかい? ゼロ号君。」
ドラグ様が、ご主人様が言った。コクコクと何度も何度もうなずいて、肯定すると、彼は嬉しそうに笑って、服を脱ぎだす。露わになっていく、黒い鱗に包まれた筋肉の塊。太い二の腕。六つに割れた腹筋。逞しい太もも。大きな尻尾はボクに求められて嬉しいのかビタビタと地面をたたいていた。
そして、股座から少しずつ伸びてくる真っ赤なモノ。凶暴そうなほどトゲトゲで、凶悪なほど巨大で、挿れるだけで、気持ちよくなってしまいそうな、竜人のペニス。
見ているだけでおいしそう。見ているだけでよだれが出てくる。ああ、今すぐにでもしゃぶりついてしまいたい。だけど、手で待てと制される。お預けだとご主人様が言っている。だから犬みたいに手を前に揃えて座って、ご主人様の御許しを待った。
「それでは、君のその大きな口で、私のモノを綺麗に掃除してもらおうか。」
お許しが出た。喜びのあまり、犬みたいに尻尾を振って駆けよると、ボクは、ご主人様の股座からそびえる巨大なペニスに優しく手を添えた。そして一口。
舌を這わせると、頭の中が幸福感で包まれる。口の中に広がるご主人様の味に、思わず恍惚して口を止めてしまいそうになるけれど、その止まっている時間がもったいなくて、すぐに意識を目の前のご褒美に戻す。
何度も、何度も、味わうように、舌を這わせていくうちに、脈動し、硬く、大きくなっていくその剛直に、胸の高鳴りが止まらない。ああ、早く、それで、ボクを貫いてほしい。だから僕はそれが欲しいと、口を開いた。
「ギャウギャギャウ……♡」
もう、この身体の声帯は、ヒトの言葉を話すことはできなくなってしまったけれど、それでも彼らには通じるようで。ドラグ様は嬉しそうに舌なめずりをして言った。
「いいだろう、君の望み通りにしてあげよう。さぁ、後ろを向きたまえ。」
ご主人様のいう通り、四つん這いになって、お尻を向けて尻尾を上げて待つ。まだかな、まだかな。待ち遠しくて、体が疼く。お尻の方の筋肉がピクリピクリと蠢くのを感じる。
「……そんな姿になってしまっても、君は可愛いな。昔からずっと、君とこうしたかった気がするよ、私は。」
そういって彼が僕の身体と重なる。全身に彼の重みを感じて、嬉しさのあまり、思わず尻尾を振りそうになってしまうけれど、彼の逞しい筋肉に押しつぶされて動かない。その尻尾への刺激で、軽く体が震える。
「ギャウゥ~……。」
「……そんなに濡らして、全く君は、本当は欲しがり屋さんだったのかな。フフ……じゃあ、お望み通り、一緒に気持ちよくなろうか。」
思いっきり無遠慮に、下の穴へと突き入れられるその巨根。激しい衝撃が全身を貫き、与えられる快感は何度となく受けてきたはずなのに、いまだ飽きることは無く。
「ぎゃっ……♡ ぎゃう……♡ ぎゃうぅ……♡」
甘えるように声が出る。何度も繰り返される抽送に合わせて。媚びるように声を出す。何度もこすられる内側が快感を発して。その激しい愛情を感じるたびに幸福感を覚える。中で快感によって膨らむ、彼の剛直を感じて。
「……グルルっ♡ グルルッ♡ グルゥッ♡」
背中から唸り声。彼もいっしょにケダモノになり果てて。すっかりケモノのような唸り声しか出なくなり。何度も何度も繰り返された抽送の勢いが、ついに限界を迎えたのか、一際奥を突いて、そして。
「グルォゥウウウウウウ!」「ぎゃうぅぅぅぅっ……♡」
中に大量に吐き出される欲望。黄味がかったとても濃厚な白濁。それが中で暴れまわり、そのたびに体が震える、跳ねる、痙攣する。そして、ずるりと彼が抜け出していき、彼は、ドラグ様は、再びボクを優しく抱きしめた。
温かい腕の中。僕はずっとこんな風に、このヒトに甘えたかった気がする。どうしてそんな風に思うのかわからないけれど、彼は抱きしめたまま、ボクの頭を撫でてくれた。何度も何度も、優しく、まるで恋人にそうするかのように。
「私は……本当に、ずっと……愛おしいと思っていたよ。君を。」
その腕の中で、ボクはゆっくりと意識が薄れていった。
[newpage]
その後、ボクから抽出したという魔法の力で、獣兵たちでさえ魔法が使えるようになり、そんな存在に、魔法戦士たちは太刀打ちできるはずもなく、世界はダークビーストの手に堕ちた。そんなある日……。
ボクはドラグ様に呼ばれて彼の私室へと向かっていた。
「ギャッギャウ~!」(失礼します!)
声を出して、敬礼する。そうすると彼の声が部屋の中から聞こえてきた。
「入りたまえ、……アキ君。」
アキ、いったい誰の名前だろう。だけど入って良いと言われたので嬉々として部屋の扉を開ける。中にはいつもとは違った雰囲気のドラグ様。優しい雰囲気を身にまとい、普段の冷酷さはそこには無い。
「……もうすぐ、時間が遡行するころだ。 君も、少しずつ感づいているんだろう。私たちに起きたことが、夢のような感覚で記憶に残っていることを。」
ああ、そう彼に言われると、ボクの中の僕が、六道アキとしての意識が、少しずつ蘇ってくる感覚があった。こんなことしている場合じゃないと、何とかしなくては、と。でも、どうしたらいいかわからない。
「奴は君の事を気に入っているから、そろそろ時間を戻して、別の状況を起こして楽しもうとしている。それも、何度も何度も繰り返しているんだ。少しは記憶があるだろう?」
「ギャ……ギャウゥ?」(なんで突然、そんな……怪物に不利になりそうなこと喋れるんですか?)
堪らず、彼に問いかける。なんでもいい。何か、ヒントが欲しい。この状態を解決できる何かが。
「……フフ、流石にあの化け物も時間遡行なんて大掛かりな能力を行使しようとする間は、支配の能力が及ばないらしい。覚えは無いかい、アキ君、夢から覚める前の、彼らの柔らかい表情を……。」
そう、記憶の中の、夢の中の彼らは、皆、どこか僕に優しかった。残酷で、冷酷な幹部達という振る舞いだったけれど、夢の最後の表情は皆、僕に優しい笑顔を向けてくれていて。あの時は、怪物からの支配から抜けて、単純な愛情を僕に向けてくれていたのだと。
「ギャギャウ……。ギャギャギャウ?」(僕はどうしたら……。それに、艦長はどうして?)
「ふふ、私も、ずっと君と同じように夢を見ているような感覚があってね、全部その夢の内容を覚えている。 それらの齟齬から、ある程度推察できたし、それに……今、奴がどこにいるのか予測がついている。」
彼は真剣な表情で言った。あの化け物がどこに居るのか、知っていると、そう言った。世界にノイズが走る。時間が無いと、艦長は急いで口を開いた。
「いいかい、あの私たちを襲ったあの怪物は……。」
最終話に続く。
[newpage]
記憶-2
「おいおい、こんな倉庫の片隅でなに泣いてやがんだ、アキ……。」
緑色の手が膝を抱えて座り込んでいた僕の頭をガシガシと撫でる。先輩であるリゼルグのごつごつした鱗肌の大きな手。
「……リゼルグにはわかんないよ。そんなに強くて逞しい体を持ってる獣人には……。」
僕はその時、拗ねていた。異界輸送船のメインクルーに選ばれなかった、それも、人間だからという理由で。確かに獣人に比べてデスクワークや単純作業、思考力に優れるが、身体能力に劣る人間は、過酷であると想定されている異世界探索には向いていないと判断されたのだ。とはいえこの言い方は良くなかったと思う。彼は何も悪くないのに。
「……ったく、うじうじしやがって、予備クルーとはいえ採用されたからいいじゃねぇか。そんなに人間だ獣人だ、ってなぁ。まぁ、体つきの差は確かにあるが。俺は好きだぜ、お前みたいな可愛いニンゲンちゃんが。」
ツンと鼻同士が触れる。にぃっと笑うトカゲの笑顔。思わず赤面しそうになるが、途端に、彼は手に持っていたビニール製の点滴用のパックみたいなものに含まれている紫色の液体を僕に振りかけてきた。
ベトベトした液体が体にまとわりつき、全身を覆う。そしてそこに残されたのは紫色の毛並みの、架空の動物のような獣人のようなみょうちくりんな生き物が一人。
「へへっ、そんないじけているアキに、せめて獣人の体つきだけでも体験させてやろうと思ってな! 医療用の肉体再生バイオジェルを改良して、液状スーツ化した着ぐるみ状にすることでまるで本物の生物のように変身できるってわけ。」
ふふんと自慢げに鼻を鳴らすトカゲ男に、僕はやれやれと首を振った。でも本当にこの着ぐるみ? のような何かはすごかった。身に着けている感覚が無い。それどころかまるで本当の皮膚、毛皮のように感じられる。腕力のような身体能力こそは変わらなかったけれど、尻尾まで自分の意志で動かせる。
「まぁ法に触れないように、架空の生物にしないといけなかったのと、ケツのとこに誰が作ったかのコードを入れなきゃならなかったが……でも、さすが俺様! 伊達に技術士官として採用されたわけじゃねぇぜ!」
自画自賛している彼を後目に、喋ろうとするけれど、喉から出るのはなんだか変な声。
「ぎゃぎゃう~……。」(なにこれ~……。)
「あっ、声帯整えておくの忘れてた……。まぁいいか、ほら、アキが見た目だけでも獣人になったのを、皆に見せてやろうぜ!」
緑色の大きな手が僕の紫色のフサフサ、肉球付きになってしまった手を取って立ち上がらせる。そして彼らの元に向かうのだ。
「ギャッハッハ! なんだそりゃ! なかなかかわいい見た目になったじゃねぇか!」
虎男のティーガが僕を抱きしめて笑う。
「あ~! アニキたちばっかりもふもふしてズルい! 俺だってアキに触れたいのに!」
狼男のヴォルフが不平を言いながらも背中から抱きしめてきた。
「……かわいい。」
ぼそりとサメ男のジョーがつぶやきつつ頬に触れる。皆とそうこうしていると、ドスドスと大きな足音が廊下の方から響いてきた。
「リゼルグ。倉庫の点検をしていたら、予備の医療用ジェルの個数が合わないんだが……何か知らないか……?」
その真っ黒な額に血管をうっすらと浮かせて歩いてきたのは、クルー達のトップ、ドラグ艦長。どう見ても怒っている。彼の口ぶりから、つまり、リゼルグは無許可でこの身体を作ってたみたい。
「あ~、いや、そのですねぇ……。」
汗がダラダラと滝みたいに流れ落ちるリゼルグ。目があっちこっちに泳いでいる。
「お、俺、知~らねっ!」
と言って、慌てたように逃げだそうとしたティーガは一瞬でその服の襟首部分をつかまれた。そう言えば倉庫の管理はティーガの仕事だったっけ。
「あわわ……」「……?」「ぎゃう……。」(僕はもう知らない……。)
怒りの空気に当てられたヴォルフと、何があったのかよくわかってない首をかしげるジョー、そして、僕。
ぽんと、その大きな黒い筋張った手が僕の頭を撫でた。
「しかし、……なかなか可愛らしいな。これは。」
わしゃわしゃと撫でられていくうちに、僕はなんだかいい気持ちになってくる。そこに揉み手で平身低頭、近寄るリゼルグ。
「で、でしょう? そこで、この件については……。」
「……まぁ、アキのこの可愛さに免じて反省文で済ませてやる。本来なら始末書モノだからな二人とも……!」
ガツンと拳骨が二発飛んで、痛みのあまり、頭を押さえる二人。その様子を僕は笑顔で見ていた。ずっとこうしていたい、皆と一緒に過ごせたらと、そう思っていた。
幸せだったころの記憶。これは僕の記憶だ。しかし、いつまでも記憶の海に浸っている訳にもいかない。
目を覚まさなければ。そして、奴の元に……。艦長の言っていた、アイツの居る場所へ。
六道家の……僕の寝室へ。
魔法戦士 マジカル☆アキ 最終話 さよなら、魔法の力よ に続く。