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こころはる 第八話

  薄暗がりの部屋、未だ見慣れぬ天井。布団からはみ出た足にほんのり肌寒さを覚えながら、俺は目を覚ました。カーテンの隙間からは光が差し込んでおり、もう日が昇っていることが窺える。

  とはいえ、枕元に置いたスマホのアラームは鳴っていないし、外で人が活動しているような気配も感じない。どうやら随分早く起きてしまったようだ。昨日、結構早く寝たしな。

  「ふあ……あ」

  大きく欠伸をしながら目を擦り、スマホに手を伸ばす。寝起きの眼には眩しすぎる画面に辟易しながら表示された時刻を見ると、どうやら今は6時を回ったばかりのようだった。

  二度寝をするにも中途半端な時間だし、眠気もそこまで残っていない。朝食までの時間は適当に潰すとして、俺はひとまず起き上がることにした。

  「……でもなあ」

  早起きしたはいいものの、特段することなんてない。今は読みたい本もないし、授業が始まってない以上勉強することもなくて。どうしたもんかと部屋を見回すと、俺の視線はある一点に留まった。

  朝日が差し込むカーテンの、その向こう。窓の外にはベランダがあるようだが、まだそこに出たことはなかった。いずれ洗濯物を干すために使うことになるとは思うけど、今のうちにどんなもんか見ておくか。眠気覚ましにもなるだろうし。

  カーテンを開き、窓にかかったロックを外す。窓を横にスライドすれば、外の冷気が部屋に入り込んできて。もう四月といっても、さすがに朝の早い時間帯は肌寒い。

  裸足のままベランダに出ることを多少躊躇しつつも、どうせ長居はしないんだからと言い訳をして足を踏み入れる。ざらざらとした冷たい地面は心地よいものでこそないが、ぼんやりとした寝起きの頭を覚ましてくれるような気がした。

  「……」

  眼前に広がる、世朱町の風景。昨日、一昨日と何かとバタついていたせいで、ゆっくり見ることのなかったその景色を、ただじっと眺める。たかが二階からの眺めだから大して視界は開かれてないけど、それでもやはり新天地の景色というのは俺にとって新鮮だった。

  欄干に凭れかかり、辺りを見渡す。学校以外に特に何もない割には、この町は栄えているようだ。聞いたこともない路線の終着駅なんだし、どんな秘境が待ち受けてるのかと思ってたもんだから、少し意外。

  栄えていると言っても、この町はそれなりに自然が豊かで。そこかしこに立ち並ぶ桜の木々は、なんだか新入生を歓迎しているように思える。ここ数日のことを思うと、春は出会いの季節だって言葉もあながち間違っていないな、なんてそう思っ――。

  「おはよ、山南くん」

  「うわっ、お」

  柄でもなくポエムじみたことを考えていると、唐突に横から声をかけられる。相変わらず行動の読めない奴だ、ほんと。

  「おはよう……って、朝から驚かせんなよ」

  「あはは、ごめんごめん」

  横を見れば、俺と同じく寝間着に身を包んだ逸花が欄干に隔てられた向こう側にいた。やたら楽しげな表情してるけど、人を驚かすのがそんなに楽しいのか。ろくでもない性格してやがるな、いい奴ではあるんだけどさ。

  「早起きだね、いつもこの時間に起きてるの?」

  「ん、いや。昨日寝るの早かったから」

  「そっか。……もしよかったら、またお茶飲みに来ない? 昨日の首尾も聞きたいしさ」

  「あ、ああ。それもそうか」

  昨日、やけに落ち込んでいた様子だった心。俺は言の葉を使って心の調子を取り戻すことができたが、それも相談に乗ってくれた逸花のお陰で。本当なら、昨日のうちに逸花にも連絡するべきだったな。不義理なことをしてしまった。

  「悪いな、こっちから連絡するべきだったのに」

  「ううん、全然。その様子なら、上手くいったみたいだし」

  「……まあ、お陰様で」

  「なら良かった。じゃ、お茶準備して待ってるね」

  そう言って、逸花は室内へと戻っていく。逸花と話してて気が紛れてたけど……寝間着でベランダは寒いな、やっぱり。

  「さみー……」

  俺も、部屋に戻るか。逸花の部屋に行く前に着替えておきたいし、何よりこの寒さは俺の身体には少し応える。

  ……また、逸花の淹れる紅茶が飲みたいな。この少し冷えた身体なら、温かい飲み物はきっと格別に美味いだろう。昨日飲んだミルクティーの甘みを思い出しながら、俺は自室とベランダを隔てる窓を開いた。

  *

  「お邪魔します」

  「はーい、いらっしゃい」

  ベランダから部屋に戻り制服に着替えた俺は、昨日と同じく逸花の部屋に足を運んでいた。昨日よりかは幾分リラックスした気持ちで、玄関に足を踏み入れる。

  足元を見れば、昨日と違わず逸花と、そのルームメイトの靴が並んでいて。今更だけど、こんな朝早くから部屋に邪魔して、ルームメイト――朝来には迷惑じゃないだろうか。

  「えっと……今、朝来って」

  「佑なら寝てるし、こんな時間じゃ耳元で叫んでも起きないよ。試してみる?」

  「いや、遠慮しとく……」

  「試してみる?」って……ほぼ初対面の奴に寝起きドッキリされる幼馴染の気持ちも考えろよ。まあ、冗談なんだろうけどさ。

  それにしても、あいつ朝に弱いのか。いかにもクールな雰囲気だし、名前だっていかにも朝に強そうなのにな。これが所謂ギャップってやつか、よく知らないけど。

  「山南くん?」

  「あ、ああ。今行く」

  なんて、よしなしごとを考えているとリビングの逸花から声をかけられる。考えごとに気を取られちまうの、良くない癖だって分かってるんだけどな。

  気持ち早歩きでリビングに向かえば、辺りはあの優しい香りに包まれて。

  「昨日と同じ紅茶でよかったかな」

  「ああ、ありがとう」

  準備のいいことに、俺が席に着く頃にはコーヒーとミルクティーが一杯ずつ、机に並べられていた。この手際の良さも、実家の喫茶店で培ったものなんだろうか。

  「それで、どうだったの? 椙山くんの件は」

  コーヒーに砂糖を入れながら、逸花が問うてくる。昨日とは違って、今日はいきなり本題へと入るようだ。

  「……想像以上に、上手くいった」

  「そっか。それだけ、椙山くんへの想いが強かったんだね」

  「えっ……そういうもん、なのか」

  「うん。強く願えば願うほど、その力も強くなる。言の葉って、そうやってできてるんだ」

  「……そうか」

  照れ隠しにミルクティーを口にしながら、そう答える。どれだけ心のことを案じていたのか、意図せず打ち明ける形になってしまったのがどうにも気恥ずかしくて。

  それにしても……前から思ってたけど、なんで逸花はそんなにいろいろ知ってるんだ。ひょっとして中学以前からここにいた、とか。

  「逸花はここの附属の中学だったりしたのか?」

  「ううん、中学は地元のとこ。佑と一緒のね」

  「じゃあなんで、そんなに詳しく知ってるんだ……言の葉のこととか」

  「……知りたい?」

  急に神妙な表情を湛えて、逸花はそう言う。知りたいから聞いたんだが、そんな表情をされると……なんだか逸花の秘密に触れるようで、思わず息を呑んでしまう。

  躊躇いつつも、俺はゆっくりと頷く。色々と恩がある相手なのに、その相手のことを全然知らないというのはすっきりしない。だけど、口を開いた逸花が放った言葉は、俺の期待には反するもので。

  「でもね、内緒。ごめんね」

  逸花は、申し訳なさそうに、そしてどこか悲しげに微笑みながらそう言った。そんな事情ありげな顔をされちゃ、追究しようにもできないってもんだ。

  だけど、このままずっと逸花のことを知らないなんてのは。相手の抱える事情に見ない振りをしながら付き合っていくってのは……俺は嫌だ。だから、俺が今言うべきことは、きっと。

  「今は駄目でも……いずれ、聞かせてくれるか」

  「……うん。きっと、いつか」

  俺がそう言うと、逸花はやけに嬉しそうな表情を浮かべる。俺に話すこと自体が嫌って訳じゃなさそうだ。

  この高校にやって来てできた、二人目の友達。まだまだ知らないことだらけだし、今は知ろうとすることさえ拒まれてしまったけれど。俺に何度も力を貸してくれた逸花の、その恩にいつか報いることができたらいいな、なんて思った。

  「……っと、そろそろ朝飯の時間だな」

  「ほんとだ。じゃあ、もう解散にしよっか」

  ミルクティーを飲みながら逸花と雑談していると、いつの間にかそんな時間になっていた。心の奴、もう起きてるのかな。

  「朝飯はどうする? 一緒に行くとかは」

  「んー……多分、佑が起きるの待ってると遅くなるよ?」

  「マジか、そんなに起きねえのか……」

  逸花が心底呆れたような顔でそう言うもんだから、俺まで同情してしまう。朝食があんまり遅くなるのも困るし、とりあえず今日のところは心と二人で行くか。

  「んじゃ、また朝来が起きれた日にでも一緒に行こうぜ」

  「うん、期待しないで待っててね」

  散々な言われようだけど、幼馴染だからこそ分かる何かがあるのか。俺にはそういう関係の奴とかいなかったから、よく分からねえけど。

  「それじゃ、今日も紅茶、ありがとな。美味かった」

  「ん、こちらこそありがと」

  そんなやりとりを交わして、俺は玄関の扉を開いた。

  逸花達の部屋を出てすぐ左の扉に、鍵を差して回す。その鍵をポケットにしまいながら扉を開けば、やけに眠たそうな心の声に出迎えられた。

  「おかえりー……どこ行ってたの」

  「友達の所だけど……お前こそ、どうしたんだ」

  「いやあ、昨日寝るの遅くなっちゃって。今めちゃくちゃ眠い……」

  心はそう言うと、口の中が全部見えるんじゃないかってくらい大きな欠伸をした。普段は大きく開いている目も、今だけは重りでも付いてんのかってくらい怠そうに閉じかかっている。

  「今日から授業だってのに大丈夫かよ。とりあえず着替えてこい、朝飯行くぞ」

  「ふぁ……はーい…………」

  あまりにも頼りない返事をして、心は自室へと入っていく。ばたん、という音と共に扉が閉まれば、俺はリビングで一人になった。

  ――佑なら寝てるし、こんな時間じゃ耳元で叫んでも起きないよ。

  死ぬほど眠たそうな心の様子と、さっき逸花が言っていた朝来の話が重なる。心は自分一人で起きれたみたいだし、これでもまだマシな方……なのか。

  「耳元で叫んでも起きない」って、どこまで手ごわい相手なんだろうか。今まさに朝来を起こそうと奮闘しているであろう逸花の姿を想像して、俺はちょっと気の毒に思った。頑張れよ、逸花。

  *

  「こんな風に古文では、現代と同じ平仮名でも違う読み方をすることがあって――」

  窓から暖かな陽射しが差し込む6限の授業、古典。ただでさえ眠気を誘う食後の授業は、寝不足の心にはやはり応えるようで、先ほどからうつらうつらと船を漕いでいるのが見える。

  ただ、さすがに担任の先生の初回授業で居眠りをすることに抵抗はあるようで、何度もハッと顔を上げてはまた船を漕いで……を繰り返している。本人としては大変なんだろうけど、傍から見る分には面白いな、これ。

  先生の授業を聞いて適宜ノートを取り、手持無沙汰になれば心の様子を眺める。そんな調子で過ごしていたら、教室に授業の終わりを告げるチャイムが響いた。もう、そんな時間なのか。

  「――じゃあ、今日の授業はここまで。ついでに、帰りのホームルームで言おうと思ってた伝達事項も伝えちゃうね」

  清瀬先生はそう言って話を続ける。6限の担当が担任の先生なら、まあそういうこともあるだろう。チャイムで目を覚ましたのか、心の方を見やればあいつも先生の方を向いて目を擦っていた。

  「今日から部活動の勧誘が始まって……その、勧誘についてなんだけどね」

  部活……か。中学の頃は帰宅部だったし、あまり馴染みのない言葉だった。高校に入って環境は変わったが、だからといって特別何かがしたいって訳でもないのが正直なところだ。

  それにしても、先生の話し方がやけに歯切れが悪いのが気になる。別にそんな言い淀むような話題じゃないと思うんだが。

  「先輩達には、気を付けてね。怪我とかは絶対にしないはずだから、そこは安心してほしいんだけど……」

  「怪我」という言葉が出てきて、内心ぎょっとする。運動部の体験入部が過激とか、そういうアレ……なのか? だとしたら俺には無縁だろうけど。そんなに厳しいのか、ここの部活。

  「……まあ、多分皆が実際に見た方が早いと思うから。それじゃあ、また明日」

  先生は微妙な笑みを浮かべながら、ホームルームを解散した。先生が部活の勧誘について口にしていた、曖昧な言葉の数々。それらが意味するところを知るのは、存外その後間もなくのことであった。

  教室を出て、寮へと向かう道。昇降口を出てからは屋外の一本道を経るその道を、俺と心の二人は歩いていた。俺の中で引っかかっていた、部活に関する話をしながら。

  「心はここでもまたサッカーやるのか?」

  「んー……あんまり考えてない。とりあえず一通り見て回って、気に入ったところがあれば、って感じかなあ」

  心も、あまり明確にやりたいことが決まっている訳ではないようだ。体格いいし、運動部の何かしらが似合いそうではあるけど。

  「なんかなー。俺、運動部は――」

  「待て。……なんか、聞こえないか? 昇降口の向こう……ほら、屋外から」

  「んー……あ、ほんとだ。叫び声みたいなの」

  白昼の高校で、普通叫び声なんて聞こえるのか……? 俺達は、恐る恐る昇降口に近づき、外の様子を窺う。そんな俺達を待ち受けていたのは、俺の理解の範疇を遥かに超えた光景で。

  「――だからなんなんやあんた、さっきから! 足速すぎるやろ、いくらなんでも!」

  「君も十分速いじゃないか! 絶対、君は陸上部に入るべきだ!」

  見れば、およそ人とは思えないスピードで虎獣人が猿獣人を追いかけていた。二人とも軽く自家用車は超えてるレベルの速さだぞ、どうなってんだこれ。

  呆然とその異様な光景を眺めていると、心がふと何かに気づいたように口を開く。

  「あ……あの猿獣人の子、知ってる。うちのクラスの子だ」

  「……ってことは、一年生か」

  なんとなくだけど、分かり始めた気がする。先生が、「先輩達に気を付けろ」って言ってた理由。きっと、それは。

  「心……これ、やばいぞ」

  「うん、なんか分かってきた気がする」

  心も同じことを感じ始めていたようで。俺の頭に浮かんだ予想を口にすれば、奇しくも俺と心は同じ言葉を発した。

  「「先輩達は、言の葉を使ってでも全力で勧誘してくる……!!」」

  だとしたら、俺達が目指すべきなのは。

  「……生きて寮まで帰るぞ、心!」

  「分かった!」

  手段を選ばずに勧誘してくる輩に捕まったら、どうなるか分かったもんじゃない。俺と心は、普通の高校生活じゃまず出てこないであろう言葉を交わしながら、寮に向けて走り出した。

  *

  「晴、上から漫研部員が降ってくるよ!」

  「聞いたことねえよそんな日本語!」

  走り出してから数分後、結局俺達は寮に正面玄関から入るのを諦め、裏口へと続く桜並木の道を駆け抜けていた。というのも、正面玄関は既に吹奏楽部によってほとんど塞がれてしまっていたからだ。

  寮の裏口は距離的にはそう遠くないものの、寮の周りが柵で囲われているせいで、今はこうして遠回りを強いられている。ただ帰宅するためだけに、どうしてこんな目に遭わなきゃならねえんだよ……!

  (そこの君達……バスケ部に入らないか……)

  「あの人、脳内に直接語りかけてきやがる……!」

  「うわ! すげえ変な感じする!」

  先輩達は、実に多種多様な方法で勧誘を仕掛けてくる。しかし、無視して走り抜ければ切り抜けられることも多く、今の俺達は寮の裏口の目前にまで迫っていた。

  多分一番タチが悪いのは、さっきの陸上部の人みたいな異様に身体能力が高いタイプ。そういう人にさえ遭遇しなければ、きっと、無事に辿り着けるはずだ。

  俺はそんなことを考え、そしてすぐさま後悔した。なんでフラグを立てるようなこと考えちまったんだ、俺は……!

  「晴、あの人って……!」

  「……分かってる」

  視界の隅で捉えたのは、先ほど信じられないスピードで新入生を追いかけまわしていた、例の虎獣人。こちらに気づいてくれなければよかったものの、その視線はしっかりと俺達二人を捉えていた。

  正直、ここまで全力疾走してきて俺の体力は底を尽きている。ただでさえ、逃げ切ることが絶望的な相手なんだ。……俺は逃げることを諦め、呆然と立ち尽くした。

  「君達、ここまで走って来たのか! その体力、まさに陸上部に――」

  虎獣人の先輩は、相変わらずのスピードで一目散に駆け寄ってくる。……万事休す、か。俺は瞳を閉じ、運命を受け入れる覚悟をしたのだが……実際の展開は、俺の予測とはだいぶ異なっていた。

  「――やめなさい! 新入生が困っているでしょう!」

  「げっ……」

  瞳を開けてみれば、一人の獅子獣人が例の虎獣人を声一つで静止していた。相手は細身な体型ながらも、虎獣人はなにやら彼に恐れをなしているようで。先ほどの威勢とは打って変わって、随分としおらしくなっていた。

  「大人しく言うことを聞いてくれれば、何もしませんから。今日はもう勧誘はやめて帰ってください」

  「……分かったよ。帰りゃいいんだろ、帰りゃ」

  そう言うと、虎獣人の先輩は俺達に「悪かったな」とだけ言い残し、寮の方へと歩いていった。この二人の関係性についてはよく分からないが……とにかく、助けられたみたいだ。

  「えっと……その、ありがとうございます」

  「ど、どうも……」

  状況がいまいち呑み込めていないだけにぎこちなくなってしまったが、俺達は目の前の獅子獣人に対してお礼を言う。すると、彼はさっきよりも随分優しい口調で返事をした。

  「こちらこそ、あいつが迷惑かけてごめんね。悪い奴じゃないんだけど、部活のことになると周りが見えなくなるというか……」

  なんだか、初めてまともな先輩に会った気がする。クセの強い先輩が目立ちまくってただけで、実際はまともな人が多いんだろうけどさ。

  「僕も先輩として勧誘したいところだけど……君達は疲れてそうだし、これだけ受け取って。じゃあ、またね!」

  彼はそう言ってビラを二枚俺達に手渡すと、足早に去って行ってしまった。

  なんとなく彼の後ろ姿を目で追っていたが、すぐにその姿は見えなくなって。視線を渡されたビラに落とすと、そこに大きく書かれた文字に違和感を覚える。確か皆、部活の勧誘をしてるんだよな、今日って。

  「文化祭実行委員会……?」

  同じくビラに目を通したらしい心が、そう呟く。獅子獣人の先輩が渡してきたビラは、紛れもなく……文化祭実行「委員会」の勧誘をするものだった。

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