AdAd
  
雨の日に虎おっさんを拾う話

  ◆◇◇◇

  「降るなあ……」

  上り慣れたアパートの階段を滑らないように慎重に踏みながら、俺は土砂降りの雨の帳を眺める。朝は晴れていたが天気予報で一気に雨に変わると言っていたのは大当たりだったようだ。

  駅からここまででも結構歩かなきゃいけない。晴れてんじゃんと、傘を置いていっていれば、今頃全身濡れ鼠だっただろう。とはいえ、跳ねた雨粒でしっとりと濡れている。さっさと着替えないと風邪を引くな。と思って階段を上り終わるその直前。

  「おわ、マジかッ?」

  と、野太い声が聞こえた。少し足早に階段を上ってみると、そこには、空室を開けてお隣の虎獣人が、彼の部屋の前で立ちすくんでいた。ぽたぽたと身体中から雫を零しながら、リュックの中身を覗き込んだままに硬直してしまっている。

  (鍵が無いとか? いや、まさかな)

  彼のことは知っている。朝、挨拶したり程度の顔見知りだ。ラフな格好をしていたり、無意識なおっさんの色気を漂わせていたりで、実は何度も夜の一人情事でお世話になっていたりもするが。

  俺は、張り付いたスラックスやワイシャツで明瞭に浮かび上がる彼の身体に少しドキドキしながら、無視して横を通り過ぎるわけにも行かず、声を掛けることにした。

  「どうかしました?」

  「ん、ああ……隣の兄ちゃん」

  「二つ隣ですけどね。鍵落としました?」

  と冗談交じりで聞いてみると、彼は眼鏡の奥で驚いた顔をした。

  「兄ちゃん、よく分かるな。いや、職場のデスクに一回出したんだが、戻した覚えが無くて」

  はあー、と、涙目でため息を吐く彼の大きな口を見ながら、俺は正直驚いていた。

  「ほ、本当に鍵無かったんですね……えっと大家さんは」

  「昨日から姪っ子の家に行ってんだってさ、二泊三日……」

  合鍵で入れてもらう案はダメなようだ。悲しげに耳を伏せる彼は、一際大きなため息を吐いた後「ヨォシ!!」と大きな声を出して、ガバっと顔を上げた。

  「わ、っ……どうしました?」

  「走って会社戻ってくる!」

  「え、……え、この雨の中ですか!?」

  多分だけど、この雨は今日中降り止まない。すでにびしょ濡れだから平気、と言うが、行き帰りの間に絶対風邪を引くだろう。

  「これでも昔陸上選手でな! ……投擲競技だったが」

  「ダメじゃないですか! 明日で! 今日はウチ泊まって……」

  なんだか変な方向に振り切れたらしく、既に走り出そうとした逞しい腕を両腕で抱え込んで、俺は必死に彼を引き止めていた。考えて喋る時間もなく、ただ彼を引き止めなきゃという感情だけで言葉が走って。

  「くだ、……さい」

  立ち止まった彼はゆっくり振り返る。瞳に一縷の望みを見つけたような輝きが映る。

  どうやら、欲望が口を突いて出てしまったようだった。

  

  ◇◆◇◇

  「濡れても大丈夫なんで、風呂場こっちです」

  「悪いなあ兄ちゃん、世話になるよ」

  玄関に水溜りを作る虎おっさんが、頭を掻いて立っている。吐いた唾は飲み込めず、結局招き入れてしまった。

  「シャツとかは、シャワー入ってる間に洗濯乾燥掛けとくので……えっと、着れる服あるかな」

  「無かったらバスタオル巻いて寝るから、お構いなくな」

  そういうわけにも行かない。バスタオル一枚で居られたら理性が保ちそうにない。兎も角、棚からタオルを出している最中におっさんはそそくさと服を脱ぎだして、俺は思わず目を剥いた。

  濡れたおっさんの裸体が無防備に晒されている。濡れた虎おっさんの裸身が雨に芳しい。それが、どうしようもなく脳と股ぐらを熱くさせた。

  「……っ!」変な声が出そうになったのを抑える。「……タオル置いときますね?」

  と服を探しに行くふりをして脱衣所を逃げ出す。頭には、今見たおっさんの上半身がこびりついて離れない。確かな筋肉の上に付いた脂肪。柔らかそうで、硬そうな体格の良さ。お椀が3つ付いているようなお腹と胸。その胸の先、弄り慣れたような乳首が揺れた寒さにかはっきりと立ち上がっていた。

  ズボンをはっきりと押し上げる肉欲をどうにかしないと。そう考えていると背後で浴室の扉が閉まる音がした。どうやら、服を脱ぎ終わって浴室に入ったらしい。俺は、洗濯機に入れないと、と脱衣所に戻る。

  「……おっさん、ブリーフ派なんだ」

  籠に入れられた濡れた服。そして、最後に脱いだのだろう白いブリーフがその最上部に無造作に置かれていた。俺はそれを手に取る、じっとりと濡れている。封を切られてまだ日の浅そうなそれを手に、俺は固まってしまった。どくんどくん、と心臓が跳ねる。おっさんは今入ったばかりだ。シャワーといえどそんなにすぐ上がってくるはずはないだろう。一体俺は、どれほどの間、迷っていただろうか。

  いや、実のところ、俺の良心が折れるのに長い時間は必要なかった。

  なぜなら。

  「いや、うっかり。眼鏡つけたままシャワー浴びるとこ、だ、っ……た」

  ガチャリ。

  おっさんがシャワーすら浴びず浴室の扉を開けて戻ってくる。その時には既に、俺は。

  ――おっさんのブリーフに顔を埋めてしまっていたのだから。

  

  ◇◇◆◇

  雨の匂いと、雄の匂い。獣人特有の毛の蒸れた匂いに混ざった、芳香。素裸の虎おっさんの、皮を被った太い一物。それと比べて小ぶりなふぐり。それが脳裏を離れない。

  「……それで、兄ちゃんは、俺みたいなおっさんが、その……好き、なのか?」

  嗅いでいるだけでもアウトだが、その上、俺はスラックスの上から勃起を握りしめていた。そんな所を見られれば、確信するのも仕方がないだろう。

  気まずい静まり返った夕食を済ませた後、ローテーブルの向こうで虎おっさんは徐ろに聞いてきた。

  「はい。というか、ドストライク……です」

  「お、……おう」

  俺は、誤魔化すのを諦めて、単刀直入にそう返した。じっと虎おっさんを見つめる。

  今、彼は、俺のゆるいスウェットを履いているだけの姿だ。結局、俺のシャツやパンツは着れなかった。当然、ノーパンだ。先程見たあの太いそれがスウェットの中でも存在感を放っている。

  俺とおっさんは再び沈黙に沈み、乾燥モードに入った洗濯機のゴウン、ゴウンという駆動音に気を逸らす。この時、おっさんが何を思っていたか、俺は知らない。だから、その言葉の真意を俺は読み取ることは出来なかった。

  「俺の身体、触ってみる、か?」

  「……、え?」

  俺は耳を疑った。一瞬、何を言ったのか分からない俺に、少し慌てて「いや……っその、な」と彼は弁解めいた事を言う。

  「一宿一飯の恩……ってやつだしな? いやまあ、その、別に……」

  「触ります」

  もうバレているんだ。きっと後から後悔するなら、満足してから後悔したい。

  「……っ、お、ああ……ど、どうぞ?」

  テーブルを回り込んだ俺に、おっさんは歯切れ悪く言う。首に鼻先を埋め、俺はおっさんの胸を優しく揉む。柔らかい筋肉が指に反発を伝えてくる。

  「……、っ……ぁくッ」

  暫く楽しんだ後、その中心の硬い豆を抓むとおっさんは息を跳ね上げ、声を漏らした。

  「胸結構、敏感?」

  「う、ぅるせ……」

  思わず溢れた独り言に、恥ずかしそうにおっさんは悪態を返す。崩した足の間に入って、乳首を弄りながら、もう片方の胸に吸い付いてみる。必死に抑えたのか、声こそ出さなかったが、身体がビクリと跳ねる。大きな手が肩に置かれる。引き剥がされるのかと思いきや、その力は弱い。

  「ぃ、……ッふ」

  舌で転がして、甘噛みすれば抑えきれない声が漏れ溢れる。猿轡のように自分の腕で口を隠すおっさんに見えるように、舌先で乳首に触れながら見上げれば、顔を真っ赤にしたおっさんが睨み付けてきた。

  嫌なら、押し飛ばせばいい。投擲の陸上選手だったんなら簡単だろう。それをしない、って事は照れ隠しだ。自分ながら稀に見るプラス思考でそう考えながら、少し強めにその硬い豆を噛んで見ると、睨んでいた目は瞬時に閉じられ、くぐもった声が腹の底で響いていた。

  「わ……ガチガチ」

  「っ、そりゃ、そんだけ胸いじられ、たら……っ」

  ただでさえ小さめのスウェット。はっきりと輪郭を見せつける熱い滾りを擦れば、じわりとスウェットに先走りが染み出してくる。

  「脱がしますね」

  先に断って、俺はスウェットをずり下ろす。

  さっきシャワーを浴びたばかりなのに、むわりと雄の匂いが立ち上る。完全に勃起し、半剥けに真っ赤な先端を覗かせるそれを、俺は大切な宝物のように丁寧に握りしめる。

  「デカくて……熱い」

  「っ、ぁ……兄、ちゃん……っ」

  見惚れるような雄。管の通った皮がパンパンに張った剛直が、俺の手の中でびくびくと脈を打っている。

  「見てばっか、いねえで……扱いて、くれ」

  「……」

  潤んだ熱ぼったい瞳が俺に懇願している。

  ゴキュル、と喉が鳴った。ゆっくりとそれを上下すれば、剥き出しになった先端から大粒の雫が何度も溢れてくる。滑りを良くして、もっともっとと強請ってくる。

  俺は、その熱い滾りを握りしめ大きく扱き上げながら、少し放置していた乳首を歯で転がした。

  「はッ、ヅ……ぁあ……ッ」

  茎は全面が粘液に塗れて、テカっている。溢れた雫が睾丸を通って、その下にまで垂れ落ちていくのを見た俺に、悪魔が気まぐれに囁いた。

  (……、おっさんの……尻……)

  俺は、乳首を弄っていた手に先走りを絡めて、会陰を刺激するふりをしてゆっくりとその孔の入口に指先で円を描く。

  触れた瞬間、きゅう、と口を閉じるおっさんの秘部。

  「ッお、い……兄ちゃ、んなとこ、おい……っ」

  先走りを塗り込むように、キツく閉じる襞をほぐすように、指先をその周辺に這わせる。

  「大丈夫、指しか入れないです」

  「そういう、ことじゃ……、このガキっ、ひぃ、ぁぐ……う、それっ、やめ……!」

  流石に抵抗してきたおっさんは、俺が先走りに塗れた亀頭を包み込むように揉んでやれば、全身を震わせて腰を浮かせて悦ぶように抵抗を緩める。

  「グァ、はっ、……ハ、ぅう゛……っ」

  キツく締まる孔に指を沈めていけば、苦しくないようにオッサンは締りを緩くし始める。剛茎を扱き、時折嫌がる素振りを見せれば先端を虐めて、それを戒める。

  そうしていると、次第に指を動かした時の反応が、嫌悪感から別の……快感に戸惑っているような表情へと変わっていった。

  試しに熱い漲りから手を離しても、おっさんが暴れることはない。むしろ、足を自ら上げて股を開いて、その未知の感覚をもっと感じようとしている。

  「クソ、ッ……なんだ、これ……ッ」

  「お尻に指入れられるの、気持ちいいですか?」

  「……っ、ちが、……これ、は……ぐッ」

  人差し指で屹立の根本、その奥を裏から押し上げれば、おっさんのぶっとい茎から少し白く濁る先走りが、大きな雫になって落ちる。会陰を通って指との結合部に垂れた先走りが、指と孔の潤滑剤になって、濡れた音を響かせる。

  「ウソ、だろ……なあ、ッ、おっさん、……ッ、尻、いじられ……て、イ……ッ、キそう……だ」

  「……大丈夫です、気持ちよくなって良いんですよ」

  「イ、……ッ良い、のか? 俺っ……俺」

  泣きそうな顔で、達するのをどうにか抑えているおっさんが可愛らしく目尻をすぼめている。情けない声を漏らす雄虎に、俺はゆっくりと唇を近づけ。

  「ガ、ぁ……兄ちゃん、俺……俺っ」

  だらし無く口の外に飛び出た舌を、口の中に誘う。おっさんの熱が弾ける。白濁が飛び散る。きっと、それは寸前だったはず。

  だが、その時。

  「イ……ッ、……!」

  ピーンポーン。

  「……へ、っ、……ぁ……?」

  そんな間の抜けた音が、部屋に響いてきた。

  

  ◇◇◇◆

  ピーンポーン。

  その時、そんな気の抜けるような音が玄関から鳴り響いた。俺とオッサンは、絶頂間際だった熱いものが一斉に引いていく感覚に顔を合わせていた。

  誰かがインターホンを鳴らしている。こんな所、見られたら……。

  「……ッ!」

  居留守なんて考えられなかった。第一声は抑えていたけれど、物音はしていたはずだ。泥棒だと思われて踏み入られると最悪だ。

  硬直するおっさんを玄関から見えない所に移動させて、慌てて出てみれば。

  「……あれ、大家さん?」

  そこに居たのは、二泊三日で明日帰ってくるはずの大家。どこか紳士な犬の老獣人だ。

  「えっと、どうしました?」

  「ああ、それがね。一階の階段で、二つ隣の部屋の鍵が落ちててね」

  「……はい?」

  聞けば、大家が預かってるから、帰ってきたら教えてあげて。との事だった。

  「はい、えっと、大家さん、姪っ子さんとこに二泊三日じゃ?」

  「うん? よく知ってるね。そうそう、一昨日から今日まで二泊三日。姪の子がまた可愛くってねえ……」

  と、話が長くなりそうな予感がしたので、俺は早々に挨拶をする。

  「うん、それじゃよろしく。邪魔してごめんね」

  と、去り際に俺の下半身に視線を落として、悪戯っぽく笑って一階に戻っていった。萎えていないそれがありありと浮かんでいるのに、気づいた俺は一気に顔が熱くなるのを感じながら、扉を静かに締めた。

  部屋に戻り、俺は気まずそうに顔を逸らす真裸の虎おっさんを見つめる。多分話は聞こえていただろう。

  「えっと、鍵あったらしいです」

  多分、萎え切っていない剛直を隠すように体育座りをするおっさんは、ぶっきらぼうに答えた。

  「……ん」

  「それと、大家さん帰ってきてたみたいです」

  「……みたいだな」

  多分、軒下に入った瞬間に鍵を探ってカバンを開けたりして落としたのだろう。それに大家さんが出発した日を間違えていたらしい。そういえば……、傘を持ってなかったり、会社に走って帰ろうとしたり、眼鏡をかけたままシャワーを浴びようとしたり……。

  「実は、すごいうっかり屋さんですか?」

  「う……、うるせえ! 俺は帰るぞ!」

  オッサンはいきなり立ち上がると、バスタオルで挟んでいたスラックスを履き、乾燥途中の洗濯機の中のワイシャツを羽織って玄関から飛び出していった。靴下やらはリュックに詰め込んで。

  「……ッ」

  公に出ても大丈夫な体になって玄関から振り返ったおっさんは、なにか言いたげに口をもごもごさせて結局なにも言わずに出ていってしまった。

  一人、静かになった部屋で俺は、息を吐いた。

  もう、多分顔を合わせても、挨拶すらできないんだろうな。俺はそんな寂しさを覚えながら、なんとなしに洗濯機のある脱衣所を覗き込んだ。

  あ慌てて取り出したからだろう、床に白いブリーフが落ちている。

  「はは……、返しに行って受け取ってもらえるかな」

  もはや、疑いもなくうっかり屋さん、なのだろう。

  俺は、そんな事を思い、興奮しっぱなしの屹立を握りながらそれを拾い上げた。

  その数日後、ひょんなことから俺は、また、おっさんを部屋に招く事になるのだが――それはまた、別の話。

  ◇◇◇

  登場人物

  主人公

  犬獣人(だったけど主人公描写ないので、人間でも獣人でも良い気が)

  サラリーマン。

  虎オッサン

  輪縞ケンゴ

  二つ隣の部屋に住む虎獣人。

  同じくサラリーマン。現在彼女無しノンケ。

AdAd