AdAd
  
懐かしい記憶と恐れていたこと

  望と立は真ん中を空けるようにし、ベンチに座った。

  「アキ、ここ乗れる?」

  望は、あえて空けたベンチの真ん中を、手でトントンと叩いた。

  「アキ、来い!」

  立も、望と同じように促す。

  (うん)

  秋信は、嬉しそうに、その場所に飛び乗った。

  「やっぱり、僕達の言葉がわかるんだね!すごい!アキは天才だね!」

  望は、キラキラとした眼差しで、秋信を見てそう言う。

  「……望はさっきから天才天才言いすぎだろ……確かに、アキは賢いけどさ……」

  (……たくさん褒めてくれて、ありがとね)

  秋信は、お礼を言うように、望に顔を擦り寄せた。

  [newpage]

  「!かわいい!……撫でても平気、かな……?」

  望は、そっと秋信を撫でる。

  (!……懐かしいな……)

  秋信はゴロゴロと喉を鳴らした。

  人間に撫でられるのは、とても久しく、こうして撫でられるのが好きだったということを、秋信は思い出した。

  「よしよーし」

  望は上機嫌で、秋信を撫で続ける。

  「……」

  「立も撫でなよ」

  「えっ……俺は……別に……」

  遠慮しているのだろうということが、立の表情からすぐに読み取れた。

  秋信は、立の手に顔を擦り寄せた。

  「ほら、アキも立に撫でてほしいって」

  「……しかたないな」

  立は、そっと秋信を撫でた。

  望の撫で方も優しかったが、立の撫で方は、更に優しかった。

  (……眠くなってきたな……)

  その時、二人の女の子が、近づいてきた。

  [newpage]

  「綺麗な猫さん!私達も触ってもいい?」

  「……猫さんだ!」

  茶色の髪をした少女の後ろに、隠れるようにいたもう一人の黄色の髪をした少女が、秋信を見て元気よく出てきた。姉妹だろうか。

  秋信を撫でている望と立は、顔を見合わせた。

  そして、その視線は秋信の方へ向けられた。

  「アキ、いい?」

  あの少女達が、秋信を触っても良いか、望は訊いたのだと、すぐに理解した。

  (もちろん、いいよ)

  秋信は返事の代わりに、鳴いてみせた。

  「いいって!」

  望が、そう言うと、少女達は目を輝かせ、秋信を撫でた。

  「アキくん?アキちゃん?って言うんだね。すごく綺麗な毛並み……二人のお家の子?」

  「ううん。アキとは友達!そういえば、名前は?僕は植月望。それでこっちが……」

  「……石塚立」

  望が立に、目配せすると、立は自分の名前を言った。

  「私は、花摘純可!この子は妹の……」

  茶色の髪の少女が、先に名前を言い、黄色の髪の少女に目配せする。

  「……花摘、恵奈です」

  恵奈は、望と立を交互に見て、そう言うと、純可の後ろに隠れた。

  [newpage]

  「姉妹なんだね」

  「?何で隠れてるんだ?」

  「……えっと……その……」

  「恥ずかしいんだよね」

  純可は、恵奈の方を向き、そう訊ねる。

  「うん……」

  (……人見知り、なのかな?)

  秋信は、恵奈の様子を見て、そう感じた。

  「……ここ座った方が、撫でやすいぞ」

  立は、ベンチから立ち上がると、恵奈に向かって、そう声をかける。

  「うん。二人共座って」

  望も、ベンチから立ち上がり、二人に座るよう促した。

  「ありがとう。恵奈、座ろう?」

  「……うん、ありがとう」

  純可と恵奈は、先程まで望と立が座っていた場所に座ると、真ん中にいる秋信を撫でた。

  (……優しいな)

  立と望が、二人に席を譲ったのを見て、秋信は心が温かくなった。

  眠気が増し、秋信は眠りについた。

  [newpage]

  そんな懐かしい夢を、秋信は見た。

  秋信が目を覚ますと、そこは意識を手放したはずの庭ではなく、いつも使っている布団の上だった。

  辺りは明るい。恐らく昼頃だろう。

  「……何で……忘れて……」

  そう呟いた時、足音が部屋に向かって来ていることに、気がついた。

  戸が、開かれる。

  「秋信さん、大丈夫?」

  望だった。その時、秋信は自分が本来の姿のままだということに、気がつき、脳裏にとある言葉が響いた。

  「どの人間も、お前の正体を知れば嫌う。そういう運命なのだ」

AdAd