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◇◇◇
「ん……」
囀ずる鳥の声に、黒豹の男——ブリッツは心地のいい眠りから朧気に目を覚ます。
嗅ぎ慣れない香り。自分のベッドではない。嗅ぎ慣れた香り。濁った性と汗の名残。ベタついた毛が煩わしいが、とはいえ、起き上がる気も起きない。
ぼやけた視界に、カーテンの向こう、薄暗く朝日を滲ませ始めた空が見える。寝返りを打ち、隣で眠る熊を見た。規則正しく寝息を立てる彼は暫く起きそうにない。
いくらかブリッツよりの歳を重ねたその顔立ちを撫でる。
(まあ、そりゃあ、なあ)
そのブリッツのしなやかな体とはまた違う屈強さを持つ熊の厚い胸に額を擦り付け、ブリッツは自らの尻を指で割いた。
くぷりと、指が生きる体温に包まれる。昨夜散々掘り返されたそこは、指くらいは容易く呑み込む程に解されている。二本めを差し込んでも尚、欲しい感覚には届かぬもどかしさと擽ったさを噛み締める。
数時間の休息を経てそれだ。
「は……く、ん……っ」
指を咥えこんで締め付ければ、少しの快感が背筋を伝う。指が濡れる。ブリッツの体液だけではないだろう。
掻き出した子種。その名残が残っている。
(散々っぱら出しやがって)
皿にでも盛れてしまいそうな量だった記憶がある。
だが、それでこの熊の精力が尽きたのかと言えば、そうではないらしい。ブリッツは、己の腹に感じる熱の滾りに、笑みを浮かべた。
(……元気なことで)
それは慈愛、と呼ぶには慈しみに欠ける笑み。言うなればやはり、獣欲の笑みなのだろう。
数時間前まで快楽を共有し、繋がっていた熱を撫でる。厚い皮に妙に柔らかい弾力を持つそれ。脈に震える。
ごくりと喉を上下させた。己の中にそれが入っていた。それがブリッツを快楽によがらせ、舌も足らぬ程に喘がせた。未だに残る、痺れにも似た火種がブリッツの喉を更に渇かしていく。
先端に水滴を蓄え始めた漲りを見下ろし、膨らんだブリッツ自信と並べては、茎を擦り合わせて、先端に糸の橋をかける。
次第に、ただ、情欲もない遊びだった行為が、真剣味を帯びる。徐々に、湧き上がる熱にブリッツの胸に穴が広がっていく。
「……っ、ぁ」
薄いシーツの中。無為な遊びに興じているブリッツの尻を、太い指が徐に撫で付けていた。己のそれより太い指が中心の窄みを捉えて、品定めをするように円を描く。
獲物を狩る前に玩ぶような愛撫に、ブリッツは喉を震わせながら見上げる。自分の腕を枕に、欲にまみれた熊の笑みが見下ろしていた。
明確に、瞳が語りかけてくる。
「……いッ、ぁ……くぅ」
指が押し入ってくる。痛みと快楽に腰を動かせば二匹の間、蜜を溢す漲りが擦れあい、ブリッツの体にもどかしい衝動を植え付ける。見下ろす視線に、媚びるように見上げてやる。半端に刺激され、もっと快を、と強請る情動のままに雄を誘えば、侵入していた指が名残惜しむ事なく引き抜かれ。
——次の瞬間、ブリッツの口腔は、熊の舌に蹂躙されていた。
「ッ……ん、ん!」
寝返りを打つようにブリッツをベッドに押し付けた熊の、貪るような激しいキス。マズルを交えた深い口吻に、熊の舌に溺れるかの錯覚すら覚える。
されるがままでいるはずもなく、ブリッツは己の舌で熊のそれを押し返すように滑らせる。だが、先手を取られた劣勢は覆せない。
上口蓋を、牙の根元を、舌の表面を。唾腺から溢れ出る液体を泡立てながら、熊の舌が淡い安らぎを脳に染み込ませていく。
太い腕に脚が抱えられる。ようやくブリッツの中から逃れていった舌から、どちらのともつかぬ唾液が垂れて口元を汚していく。
透明なインクを垂らしたように、パタタとブリッツの毛の上に水滴が浮かぶ。
「……」
荒く息を吐く。言葉は無く、取り繕う笑みもなく向かい合う視線は、冷たくも熱く煮え滾る色にギラついている。
「……」
「……、……ぅ、ぁ」
鼻先が触れ合いそうな距離で見つめ合う。数秒の沈黙の中、抱え上げられた両脚の間。拡げられたその秘部へと、熊の屹立が沈み込んでいく。
「は、ぁ……っ、ぐ、ん……っああ……!」
地熱流のごとく脈打つ杭が己を貫く。疼くような痛み、脳を揺さぶるような渇望した快感にブリッツは、その脈に合わせて苦く浸る声を漏らしていた。
柔らかい岸壁を削り取るように、太い剛直がブリッツの肉を押し退け、性感帯を否応なく刺激して、微細な火花を散らさせる。
視界が白く明滅する。
「……、っ、く、はア……」
根元までブリッツの鞘へと納めた熊が深く吐いた息に、意識が揺り戻された。心臓が耳の横にあるように、ドクンドクンと全身が脈打っている。
腹の奥が渦巻いてその自らを侵犯する存在をブリッツに教えている。
「ぁ……、っぅ」
えも言われぬ郷愁じみた風が胸の内側に吹き荒れて、背骨の中を冷水が流れる。冬が唐突に体の中に吹き込んだような、寂寥に似た何かがブリッツを掻き立てる。
熱が欲しいと、騒ぎ立てる。
「——っ」
ブリッツは熊の背を抱き込んで、マズルを交わす。首に爪立て、背を撫でて催促する。犯せと。ず……、と少し、奥を削る肉杭が引き下がる。
「——、ッ……ぉ、あ……ぐぅッ!」
直後、ズパン! とブリッツの腹の中から弾けるような衝撃が全身の感覚を吹き飛ばした。熊の重い腰が容赦なくブリッツの臀に叩きつけられる。
乱暴に。ブリッツをそのまま圧死させるような抽挿が響かせる肉の音が、淫らな水音と共に部屋に反響する。
「く、ぁッ……ぃ、……ッ、ひ、ぐ……あ゛!」
呻くような苦しげな嬌声を上げるブリッツの腹には、だというのに萎えること無く腫れ上がる雄が、いつからか白濁を溢していた。
どの瞬間、どの快楽の衝撃でそうなったのかは分からない。
むそろ己の吐精にも気付かず、ブリッツは熊に——一人の雄に犯されている現実へと、ただただ耽溺する。
「ふ、ぐッ……!」
熊が息を荒く漏らしながら、ベッドの外に滑り落ちていったシーツを気に求めず、ブリッツを貪っている。被食者の快楽がブリッツに満ちていた。
熊の脂肪と筋肉を着こんだ鎧に爪で傷を付けながら、他では味わえない悦楽を呑み込んでいく。
鳥の声が遠い。僅かに喧騒が耳を揺らす。犯されている。
「ぁ、っ……ぁ……んぁッ!」
子供の声が聞こえる。
「ぃ……に゛、ぁ……!」
長閑な朝の、静かな喧騒の傍ら。犯されている。
「はっ、——ッ、ぁ、もっ……、と……ッ」
深く、怒り立つ獣が内蔵を食らう。全身から力が吸いとられるように、混沌とした快感の中で、波を感じていた。
一際大きな波。それが襲い来る為、静かに熱が昂りながら凪いでいく感覚。
「お゛……っ……ぁッ」
ベッドのスプリングが悲鳴を上げる。突き落とされた熊の体重を受けたブリッツが、深く、深くベッドに沈むように。力強くブリッツの腸内に熊の滾る槍が突き立てられる。
そして、繋がる熊の全身が僅かに震えた、その瞬間。ブリッツの中を焼き焦がすような熱が溢れ出した。
ボ、ビュク——ッ!
重みのある塊が狭い襞壁を叩く衝撃を、ブリッツは如実に感じる。
脈打つ太い剛直が、ブリッツという生命の所有権を奪うように、己の種を奥底へと吐き出していく。
二度、三度、そして四度と、大きく脈を打ったそれが、ブリッツの中で役目を終えていく。生まれた隙間から、熱い溶岩が零れ出すのをそのままに、二匹の雄はどちらともなく舌を絡め合っていた。
余韻を惜しむように、静かな交わいが少しずつ息を整えていく。
口を遠ざけ、視線がぶつかる。
ブリッツは、自分の腹にぶちまけた白濁を見下ろしながら、熊の耳を撫でながら皮肉げに笑った。
「——よう、いい朝だな」
「ああ、おはよう」
ニヤリと、熊は笑う。そのまま伸びをして、すっかり明るくなった街並を見て、朝飯にするか。と、そう告げた。
◇◇◇
シャワーを浴びて生乾きのまま、ブリッツは下着一枚で食事を済ませる。昨日から運動続きで疲弊した体に、カロリーの高い食事が重めの充足感を与えていた。
腹をゆっくりと擦りながら、机に肘ついて先程から響くバイブ音に笑みを浮かべる。
「朝からお盛んだねえ」
伏せたスマホが数十秒毎に、乾いた震えを響かせては止まる。その繰り返しにブリッツは呟いた。汚れたままの姿を納めた写真を『これから朝食』という短いコメントと共にSNSへと流していたのだ。
意味はない。遊びだ。
ただ、大量の反応がある事を感じるだけの手慰み。
「人気者だな」
向かいに座る熊が、ブリッツを睨んでいる。今スマホを震わせる数あるアカウントの中の一人。それが彼だ。
これまでも何度も体を重ねては満足し合う仲。名前は知らないがそれはお互い様だ。
「でもハート付けてんじゃん」
「俺が付けないでどうする?」
「そりゃそうだ」
熊もまた、黒豹の名前や素性を知りはしない——いや、ブリッツ・エレクトロダンスという、そのアカウントに一切紐付いていない多少の有名人の事は知っているのかもしれないが。
通知の中に、熱烈な誘いの連絡や、過激な画像ファイルも紛れ込んでいるのだろうが、ブリッツはそれを一斉にかき消して、目を通しもしない。
「そんじゃあ、メシも食った事だしさ」
ブリッツは机の脚の間を器用に抜けて、熊の脚の間から、顔を覗かせた。
「腹ごなし、しようぜ」
シャンプーの臭いと——。また疼き始める欲に、下着の中で雄欲を膨らませる。
まだ、ブリッツの休日は始まったばかりだ。
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