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トレジャーハンターニコと平和なお昼寝

  晴れ上がる空色の毛並みを持つトレジャーハンターのニコは、動けないでいた。

  とだけ聞けば、いつもの事じゃないか。と呆れられるかもしれない。

  溌剌とした性格の彼女は大抵、呪いで石像になっていたり、レアな自然現象に見舞われて氷像になったり、ダンジョンの罠で黄金化したり――時にはそれで恥ずかしい目に遭っているのだが、今日は少し事情が違っていた。

  (動けるんだけど、動けないにゃー……)

  別に固まってたりはしなかった。ふわふわモフモフの毛並みはいつも通り健在で、しかも、ここは別にダンジョンでもない。

  フカフカベッドの上だった。

  ニコは男の子らしい部屋のベッドで仰向けになったまま、動けなくなっている。

  その原因は――。

  「すぅ、すぅ……」

  ニコを抱き枕にして眠る、虎獣人の男の子。他でもない彼の抱擁によって、動けなくなっているのだった。

  ◇◇◇

  ことの始まりは、今朝のこと。

  「うにゃ~、いい天気にゃ」

  「あら、ニコちゃん、おはよう」

  借りている宿の庭に出て、晴れやかな朝の空に向けて伸びをしていたニコ。そんな彼女に話しかける声があった。

  振り返ってみれば、そこにはこの宿の女将さんだった。虎獣人の女性――夫婦で宿を切り盛りしているそんな彼女は、いつものエプロンを外して、まるで運動でもするような身軽な姿で立っていた。

  珍しい。と思いながら首を傾げてみれば、そんなニコのお腹にボスンと小さな10歳くらいの虎獣人が抱きついてきていた。

  「うにゃ、どうしたにゃ、お出かけにゃ?」

  「あ、もう……コーパったら。ええ、ちょっとね」

  「……?」

  帰ってきた女将さんの言葉にニコはもう一度逆っ側にコテンと首を傾げた。ニコの腰に抱きついている少年コーパは、口を尖らせて母親をジトッと見上げて「オレ、やだよ」と呟いている。

  お出かけなら、結構いつも一緒に出かけている気がするけれど、とニコが不思議に思って「どこに行くのか」と聞いてみれば、帰ってきた答えは、予想だにしていない返答だった。

  「戦場よ」

  「た、戦い、女将さんがにゃ……?」

  「ええ、お宝を巡る戦いにね……」

  「お、おたからにゃ!?」

  ニコは女将さんの姿を見た。

  とても戦場になんて立てる服装ではない。だが、彼女の瞳には確かに闘志の炎が宿っているのをニコは感じ取っていた。

  「そうなの!!」

  その瞳がひときわまばゆく輝く。そして、そのお宝を巡る戦場の名前を高らかに叫ぶのだ。

  「商会通りで、売り尽くしセールの屋台が出てるのよ!!」

  「……にゃ?」

  「来季の新作発表にあわせて、今シーズンの服とか小物が一斉に売り出されるの! もう冬物も着る機会だって少ないけれど来年もまだ着れるなら逃す手は無いわ……分かってくれるかしら、ニコチャン!」

  「にゃはは……」

  熱く語る女将さんだが、しかし、ニコにとってはあまり同調できるものではなかった。ニコも多少のおしゃれをする感覚はあるが、それはそれとして第一は、ダンジョン探索がし易い服装である。

  鉤爪やらを外してはいるけれど、今日も今日とて一張羅の軽装備だ。青い毛皮を露にしているニコのお腹に抱きつく少年は、ぐるる、と小さく喉を鳴らすように女将さんに牙を剥く。

  「オレ、ニコねーちゃんと遊んでるから、いかない!」

  「もう……ニコちゃんこの子と遊んでてほしいんだけど……ダメかしら?」

  「ん~」

  ニコは腕を組んでじっくりと考えた。

  確かに今日はダンジョンアタックの予定じゃなかったけれど、だとしても子どもの世話をする程暇じゃないというか。

  とそんな風にあまり乗り気にはなれず考えてしまうのだが、しかし、ふと視線を下げれば切実な表情でこちらを見上げてくるコーパの姿。

  その縋り付くような視線を無下にすることも出来ず。

  「ママさんにはお世話になってるしにゃぁ」

  「やった……っ」

  ニコはコーパの頭を撫でてあげながら、渋々と了承するのだった。

  ◇◇◇

  そして、現在。

  ニコはコーパに抱き枕にされてベッドに横たわっていた。

  「……んぅ……」

  (ん、くすぐったいけど……仕方ないかにゃぁ)

  男の子らしい戦いごっこ遊びを終えた後、疲れたのか眠気を訴えだしたコーパにせがまれて一緒に寝転んだニコではあるが、すぐに寝息を立て始めたコーパを寝かせて部屋を出ようとした所で抱きつかれてしまったのだ。

  仰向けに寝転んだニコにしがみつくようにしてコーパが抱きついている。子供特有の高い体温が直に伝わってくる。

  少年の小さな手が、ニコのふわふわの毛を纏うお腹を寝息に合わせて微かに上下する。その刺激がまるでゆっくりくすぐられているように感じて、時折ニコは身を震わせそうになるのをこらえていた。

  「ん、ぅ……っ」

  そんな時、コーパの指先がニコのお腹のへそに引っかかる。周囲と比べてもある程度敏感な場所を指先で擦られて、思わずニコは鼻から抜けるような声を吐いて少し身を捩らせる。

  「んう、むにゃ……」

  (っとと……起きるかにゃ?)

  「……ん、すう……」

  寝ている。

  どうやら抱き枕が身じろぎをした程度では起きないほどには熟睡しているようだった。ならば、とそろそろ仰向けになっていて尻尾が疲れてきていたニコは、コーパが起きないように静かに寝返りを打つことにした。

  ニコは仰向けからゆっくりと抱きつくコーパと向かい合わせになるように寝返りを打っていく。

  慎重に。少年を起こさないように。

  と、ニコがそうやって体勢を変えた、その時。

  (にゃにゃ……っ)

  ぽふん、と。

  コーパの小さなマズルがニコの胸の谷間に埋まったのだ。しかもそのまま、ちょうどいい場所を探しているように左右に顔をすり付けてくる。

  ニコの豊かな双丘がその頬摺りに合わせて、ぷよぷよと揺れる。

  「ほんとに寝てるにゃ……?」

  まさか、エッチなことを考えてる悪ガキか? という考えが頭に浮かぶも、しかしじっと見つめるコーパの寝顔は全く乱れない。これで、本当は起きてました、なんて言われればむしろ演技力に拍手さえ送れてしまいそうなほど純朴な寝顔だった。

  (んー、……それはそれで、振り払う言い訳がなくて困るにゃ……)

  ニコの乳房を支えるガードは、下から支える形状をしている。その谷間に少年の顔であっても下への圧力がかかれば、健全な少年に見せるには少し刺激の強い絵面が出来上がってしまう。

  辛うじて、衣服のズレはそこまで大事には至っていないが、早いこと顔を退かして欲しいところだ。なんて思っていると。

  「むにゃ、ふわ……もち……すらいむ?」

  (よりにもよってスライム呼ばわりにゃ……?)

  谷間の中からモゴモゴと聞こえた声に、ニコは呆れて溜息をついた。

  女の子に興味がある以前に、戦いごっこなんかをしたがる幼い少年だ。ニコのよく知る、チャンスがあれば胸を触ってこようとするようなバカな男達とは全く違う可愛らしい生物だ。

  というか、コーパの接し方から考えるともしかしてニコを同じ男友達みたいな感覚で見ているのかも知れない。

  そんな事を考えながら、ニコはあれこれを考えることをやめて、寝る事を決めるのだった。

  ◇◇◇

  ふと目を覚ましたコーパは、目の前に広がる水色のふわふわが何なのか。分からないまま、目と鼻の先にある柔らかい膨らみに手をやった。

  小さな手でふにふにと二、三回揉んでみれば、ふんわりとした柔らかさと少しの冷たさを感じながら、少し視線を上にやり。

  「……ぇ、っ?」

  思わず叫びそうになったのを、自分で口を押さえることでどうにか防ぐ。

  そこにあったのは、ゆっくりと寝息を吐くニコの姿だった。

  そう、目の前にあった青いふわふわはニコの体毛であり、そして、コーパがふにふにと揉んでいたのは他でもないニコの胸だった。

  それを理解した瞬間、コーパは勢いよく起き上がっていた。しなやかな動きでベッドの上で片膝をたてて座る。だが、ニコは起きなかった。コーパはそれに安心しながら、自分の手をじっと見つめた。

  (お、おっぱ……い……触っちゃった……?)

  わざとではなかったとはいえ、ニコみたいな可愛いお姉さんの胸を触ってしまった――挙げ句、むにむにと揉んでしまったコーパは一気に湯だったように顔を赤らめる。

  いけないことをしてしまった、という感情に反し、コーパの指先にはさっきの柔らかくも弾力のある張りのある感触がしっかりと残っている。

  水色のふわふわとした被毛に包まれたそれは、驚くほどにくせになりそうな感触だった。健康的なニコの胸は、鍛えられた筋肉と程よい脂肪によって誰もが羨むようなハリを持っている。

  コーパが知る由も無いが、傭兵やトレジャーハンターの間では、形大きさ共に宝石級だと太鼓判すら押されていたりする。

  しかも彼にとっては、女の子の胸を触るだなんて初めての経験だ。いや、赤ちゃんの頃に母親のおっぱいを吸っていたわけだから完全に初めてというわけではないが、この刺激が『初めて』と記憶されるにはその衝撃は十分過ぎた。

  (あれ……ニコ姉ちゃんって、こうして静かに寝てると可愛い……のか?)

  そして、その衝撃は目の前の『ノリが良くて、あまり女子女子していない年上の遊び仲間』であったニコへの評価を、一変させてしまった。

  本人が聞いたら「静かに寝てたらってワザワザつける必要ないと思うにゃ!?」と憤慨しそうな評価ではあるが、幸いニコは読心術を使えもしなければ、そもそも今ぐっすりと眠っている。

  (……女の子、なんだな)

  コーパはゆっくりとニコの寝姿をじっと見つめた。

  寝るのに邪魔だったのか、上着とズボンがベッド横に脱ぎ去られていて、今は殆ど無骨な下着姿だ。いつもはズボンに隠れているむちむちの太ももをもどかしげにこすり合わせると、背中に横たわる大きな尻尾がスリスリとシーツと擦れて音を立てる。

  「んにゃ……ぅ、おたから、にゃー……ふふ」

  「寝言もおたからかよ……」

  コーパはいつもと変わらない寝言に思わず声をこぼしながらも、くびれのある腰から健康的なお腹へと向かっていく中で、少年のお腹の下の方が少し熱くなるような感覚がふつふつと湧き出していた。

  (……変な感じ、むずむず、する……)

  下っ腹を擦りながら、コーパの視線は再びニコの胸の膨らみへとたどり着いていた。ごくり、とコーパは思わず喉を鳴らす。

  触ってみたい。もう一度、あのふわふわの感触を味わってみたい。

  ドキドキと心臓が煩く鳴り響く。

  コーパはまるで熱に浮かされたように、子猫が獲物に忍び歩きするように四つん這いになってゆっくりニコの体に再び近づこうとした。その時。

  「にゃ、……おはようにゃ?」

  「ぅ、わあッ!?」

  「にゃにゃ……ッ! 急にどうしたのにゃ!?」

  パっと目を開けたニコに驚いたコーパはのけぞるようにして飛び跳ねた。そのあまりの勢いに、寝起きのニコもビクンと全身の毛を逆撫でながらコーパに目を見開く。

  さっきまでのドキドキは瞬く間に消え、それ以上の心臓の鼓動がどっくんどっくんとコーパの胸を叩いている。

  「あ、えと……」

  まさか胸を触ろうとしていました。なんて言えるはずもない。だが、うまい言い訳も浮かばないコーパが目を泳がせるのを見たニコは、ははーん、と目を細めて笑うと、コーパの考えを言い当てた。

  「わかったにゃ……ニコに悪戯しようとしてたにゃ?」

  「え……っ、いや、その……!」

  「落書きにゃ……? でもペンとか持ってないにゃ、なら鼻でもつまもうとしたかにゃ、そうにゃ!?」

  バレたか!? と本当に言い当てたニコに、怒られるかもと一気に冷や汗をかきはじめるコーパだったが、しかし、次のニコの言葉に思わず閉口してしまった。

  そんなガキっぽい事しない。と言いそうになったが、それを言ってしまえば「じゃあ何をしようとしていたのか」を訊かれる羽目になると困ってしまう。

  というわけで、コーパはニコの勘違いに乗ることにした。

  「あ、あはは……バレちゃったかー……」

  「ったく、コーパはまだまだ子供だにゃー、はふーよく寝たにゃ」

  「……っ」

  完全に棒読みだったと思ったけれど、ニコは何も疑問に思わなかったらしく、コーパは胸を撫で下ろす目の前。ニコが思いっきり背を仰け反らせて伸びをする。腕を天井に向けて引っ張り上げるような格好に胸が強調される。

  (……今、戻ってたのにまた……)

  そんな光景に視線を吸い寄せられながら、コーパはさっきまで消えていた下っ腹のホカホカする感覚に、ズボンをぎゅうと握りしめたのだった。

  ◇◇◇

  人知れず、いたいけな少年に大人の階段を一つ上らせたニコはというと。

  「この前踏破されたダンジョンの奥に隠し通路があるって書かれた地図らしいわよ、ニコちゃん、そういうの好きかと思って」

  「ふにゃー!! 何それオタカラの匂いにゃーっ!」

  「まあ、これも一緒に買ったら値下げしてくれるっていうから買った地図だから、眉唾だけどねえ」

  ぐっすりと寝て元気満タンな様子で、女将さんがついでにと買ってきてくれた『宝の地図』に大喜びしていた。

  「やっぱ、ニコねーちゃんは子供だよなあ」

  「にゃにゃ……っ、さっきの仕返しだにゃーっ?」

  「わ、ちょッ……やめ、やめろよーっ」

  それを聞いたニコは、その素早い身のこなしを無駄に発揮して、やんちゃな少年を捕獲。そのままヘッドロックしてぐりぐりと拳を押し当てた。

  少年が拳と一緒に当たる胸に顔を赤らめている事に気付かないまま、そうやってニコはまた本人の預かり知らぬ所で罪を重ねていくのであった。

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