008-021
王都ディグランが夕闇に包まれた頃、王都内城壁内部の耳長屋敷に突如ダインが戻ってきた、予め遊魔思念でダイン消失は伝えられていたものの、初めて起こった出来事に留守を託された者達は気が気では無く、今日一日は余り上手く進んだとは言えなかった。
ディセルト 「ダイン様は何時も突然ですよね、王都に現れたのも突然でしたし、今日なんて出て行く素振りも有りませんでした」
ダイン 「申し訳ありませんね、ですが今日一日で大きな成果も得られました、地の王の侵攻に対して不安の有るこの屋敷より安全な場所が見つかったんですよ」
ディーティル 「確かにそれは重要課題でしたからね、地の王が何時動いてもおかしくない現在、遊魔の退避先は確保しておかないと・・・で、何処に決まったんですか?」
ダイン 「多分、ディーラルで最も安全な花園ですよ、三天人達とキュカ、イファタは王都に残って貰いますが、それ以外は花園を拠点に今後の活動を行います」
ダインの発言に残されていた者達は驚きの声を上げる、花園とこれ程早く交渉が成立するとは思ってもいなかったからだ。
リリルカ 「花園の主人は処女だったんですか、それならば状況に納得も出来ますが?」
ダイン 「アレは生命体ですら有りませんね、ですが交渉は纏まりましたよ、どの道花園ことラグム・デムは遊魔の魔力が無いと存続出来ない様ですから」
ディセルト 「都合の良い弱みが有ったという事ですか?」
ダイン 「確かに弱みでは有りますが、ラグム・デムの喪失はこの世界の大きな損失ですから協力ですよ、一度存在が滅んでしまうと復活は難しいですから、私の共栄という思考がちゃんと理解して貰えました、花園は人類大陸に居た私の動向も把握してましたからね」
リリルカ 「それは確かに安心材料になりますね、ダイン様が支配的ならば人類大陸は完全掌握されているでしょうから・・・」
ダイン 「もっとも良い事だけじゃ有りません、地の王との全面対決が決定したという意味でも有りますから、地の王に関しても花園からの情報である程度把握出来ましたが、思った以上に難しい相手です」
ディーティル 「やはり遊魔の様な存在だったのですか?」
ダイン 「いえ、もう一つの推測の方です、地の王とは岩喰いの複製体とマギガマイナーを一組として、それが無数に存在する存在の総称の様です」
リリルカ 「つまりティル姉様が前の戦いで見た者は幾つもの地の王の一部だったと?」
ダイン 「はい、複製体の製作には枷が有りませんが、マギガマイナーには魔鋼が必要です、この事が地の王がディーラルを狙う原因ですね、因みに魔鋼を欲する地の王と魔獣を求めるザキトス魔族は協力関係に有る様です」
ディーティエ 「後方に憂いは無いという事ですか、厄介な戦いになりそうです」
リリルカ 「ですが、花園にはかなりの力が眠っているんですよね?」
ダイン 「その様ですが、まさにリリルカの言葉通りなんですよ、動いていない物は直ぐに壊れるんですよ、花園には想像以上の戦力が有る様ですが、直ぐには使えません、ですから私達は花園へと移動して戦力の回復を行います」
ディーティエ 「今は三天人が逃げるのはディーラルの民衆に対して覚えが悪いですからね、標的では有ると思いますけど」
ダイン 「難しい立場ですからね、私は狙われたので姿を隠したとでも言って下さい、筋は通るでしょうから」
リリルカ 「賢人様は神出鬼没って言われてましたから、王都から居なくなっても疑われませんよ、流石に耳長屋敷の襲撃は伏せられるでしょうから・・・」
ディセルト 「色んな事が目紛しく動いてますからね、既にザオルの人間の移送も始まってます、ヒーソフ王は処罰すべきだと主張してましたが、生かした方が相手への牽制が出来ると説得しました、ザオルを二つに割った事はとても評価してましたし・・・」
ディーティル 「耳長には理解出来ない考えです、敵対する両方に一族が別れるなんて・・・」
ダイン 「人間は繁殖力が高いですから、半分残れば百年経てば別れた時以上の集団を作る事も可能です、血筋を残すという行為が本能に組み込まれているんでしょうね、まぁ例外も有る様ですが・・・」
ディーティエ 「権力層同士の婚姻などもそうですよね、血筋で権力を継承するのは愚かだと思いますけど」
ダイン 「その為に人間の社会には争いが必要なんですよ、平和という言葉は聴こえが良いですが、腐敗と同じですからね」
リリルカ 「でも今遊魔も危機に瀕しているじゃ無いですか?」
ダイン 「遊魔じゃ無くてディーラルの危機ですね、遊魔は人類大陸に逃れますから、でも、争いが一番の好機ですからね、三天人が崇められて不自由無い生活を送れたのは武勲を認められたからですよね」
ディセルト 「つまりダイン様はディーラルを護って、民の信頼を得て国を乗っ取るつもりなんですね」
ダイン 「安定した生活を送る為には、強い庇護者の元の方が一番ですから、まぁ地の王と戦う限りはそれぐらいの旨みが無いと・・・ところで今日の夕食はどうなってますか?」
ディセルト 「洞窟のイファタに分けて貰います、こちらの格を見せ付ける為に敢えて作らせるんですよ、イファタが居るので万が一も有りませんしね」
ダイン 「良い考えです、信頼を示されて不快に思う者は稀でしょうから、自らの選択を納得させる材料にもなりますからね」
ディセルト 「ほんと、人を使うのは難しいです」
ダイン 「今までそうやって生きてきましたよね」
ディセルト 「遊魔の安心感が当たり前になってますから、この理想社会に加わってしまうと以前の暮らしになんて戻れません」
ディーティエ 「殆ど三人だけの暮らしでしたけどね、でも、思ったよりも気を使ってましたね」
ダイン 「三人だけの生活だからでしょう、関係の悪化が社会の崩壊に繋がりますからね」
ディーティル 「皆んな争いを避けてましたから、でも今は違いますよ、言いたかった事を全て吐き出しちゃいました」
ディーティエ 「そう、思ったよりもすんなりと出来ましたよね、数百年の鬱憤が全て解決しましたよ」
ディセルト 「耳長に出来ない事が遊魔ならすぐに解決です、本音言ってるのに関係は変わらなかったですし」
ダイン 「遊魔同士で暴力を振う事は有りませんからね、高度知性体同士の問題解決法は話合いで行われるべきです、下等種には無理ですが・・・」
リリルカ 「人とはちゃんと話が通じないって事ですよね、花園とは直ぐに話が纏まってるのに」
ダイン 「お互いの譲れないところから正直に話してますから、行けるところはとことん攻めてますから、遊魔が得した感じですがラグム・デムも満足してましたよ、遊魔との関係が続く限り存続を約束されたという事ですから、まぁその為には地の王に勝たないと行けませんけどね」
ディセルト 「やっぱり難しいんですか?」
ダイン 「お互いの力が未知数ですし、こちらはちょっとした戦力を復活させるのに数日は掛かります、その間ここは守りが弱い」
レ・ミュウ 「ミュウ頑張りますけど」
ダイン 「魔龍じゃ破壊力があり過ぎて王都を破壊しますから、ですが撤退してしまうと奪還するのが難しいんですよ、民衆が居なくなる訳じゃ有りませんから」
ディーティエ 「地下に坑道を作る岩喰いに対して城壁は効果無さそうですからね、そもそも王都の防衛は難しいですよ」
ダイン 「ですが、この森の下からは魔力を感じないんですよ、マギマイナーが動いているなら分かると思うんですが・・・」
レ・ミュウ 「主の魔力探知に掛からないという事は、坑道は森まで来ていないんでしょう、まだ動くクフィカールを警戒してるんでしょうか?」
ディーティル 「確かにクフィカールの魔力探知は優秀ですけど、前の戦いでは地面の下の坑道に居た巨人魔導具を何度も見つけてますからね」
ダイン 「飛行中にですか?」
ディーティル 「いえ、着地している時です、遊魔の感度なら飛行してても解るかもしれません」
レ・ミュウ 「道中特に感じませんでしたよね、何か居る事を念頭に飛べば分かるかもしれませんけど・・・」
ダイン 「失敗しましたね、私はマギマイナーの実物を発見しているのに・・・」
ディセルト 「ディーラルにずっと住んでいた私達も気付いていませんでしたから」
ディーティエ 「戦術を変えただけかも知れませんよ、地下の坑道は奇襲には向いていますが、大戦力の展開には向いてませんから、地の王の失敗は大きく無い戦力を各個撃破された事ですからね」
ダイン 「まぁここで出来る事よりも花園で出来る事の方が有益ですからね、人手もまだまだ増やせる様ですし、あと、ザオルの里を上手く利用したいですね、オハナⅡはキュカとイファタの叔母の複製だという話ですから、087の素体となる者も探し出したいですね」
リリルカ 「複製元が非処女でも良いならば適任が一人居ますけど・・・」
リリルカは不敵な笑みを浮かべて、ダインの興味を引こうとしている、ダインもおおよその見当は付いているが、リリルカの意見を披露させる事で、ダイン主導という形からリリルカ主導という形に持って行きたい。
ダイン 「087の素体は非処女でも可能ですよ、で、適任者とは」
リリルカ 「当然王妹ラールカです、汚れた女ですが見た目は使えますよね?」
ダイン 「素材として適任でも、長期の拘束は難しいですよね」
ディセルト 「なら、私から招待状を出してみましょうか、襲撃の黒幕だと疑いを掛けて呼び出すんですよ、潔癖を証明する為には出向いて弁明して来ると思います」
ダイン 「大胆な作戦ですね、ですが面白そうです、花園の複製技術を今一度確認してから、実行するかを決めましょう」
ディーティエ 「本気ですか、裏で繋がる地の王の侵攻を呼び込む可能性も高いと思いますが・・・」
リリルカ 「でも上手く行くと敵内部を混乱させる事が可能です、まさかそっくりな偽ラールカが居るとは思わないでしょう?」
ダイン 「敵を味方にしてしまうのは、とても有益ですからね、ましてや敵の指導者の一人であれば尚更です、ですが、花園の戦力を回復させた上で時間的余裕があれば実行してみましょう」
ディーティエ 「準備が整う前の開戦など向こうも嫌でしょうからね、でもこちら側の戦力だってどれぐらいで整ったと言えるのか、多分、前の五倍は用意してくるでしょうから巨人魔導具1,500機は超えて来るかと・・・」
ダイン 「1,500機だとしても一箇所に集まる訳じゃ無いので何とかなるでしょう、花園が戦力化出来ればこちら側も百機以上の古代巨人魔導具を投入出来そうですから、問題はそれだけの遊魔を産み出す事ですね」
ディセルト 「処女狩りが必要ですね、適当な理由を考えないと」
ディーティル 「賢人様の料理で釣れば人が集まると思いますが・・・」
ディーティエ 「それだと対象を処女に絞れませんよね?」
ダイン 「なら旅芝居一座とかを作るといって処女を選別するのはどうでしょう、旅をしている前提ですから人が消えても不審がられませんし、各地域で適任者を探せます」
リリルカ 「良い考えかも知れませんが、人が集まるんでしょうか?」
ダイン 「王都に人気の劇団とかが有れば上手く利用出来ませんかね、看板スターの処女とかが居れば上手く利用出来ますよ、そして私にはこの世界より遥かに進んだ芸能の知識も有りますからね」
ダインは何故か自身の発案した、芸能興行計画にえらく自信がある様だ、遊魔達は悪い予感を覚えながらも、反論する理由も無いので承知して、この案件の担当は王都の滞在が決められているディーティエが担当する事になった。
ディーティエ 「ダイン様の発案ですから全力は尽くしますが、本当に出来るんでしょうか?」
ダイン 「適任の演者さえ見出してくれれば、一目を引く舞台装置は魔術や魔導具で何とかします、処女が羨む華やかな存在を見つけ出すのが重要ですよ、まぁこの計画自体が遊びですので楽しんで下さい」
最後の言葉でディーティエはダインの意図を曲解してしまう、花園に赴く事が叶わず王都で過ごす事になる自分達に、ダインが楽しむ機会を与えてくれたのだと思ってしまったのだ、そしてこの勘違いは後に想定外の結果を産み出す事となる。
おまけ
リデウム階層国 地の王が治める岩喰いの国、リデウムの都市は地下階層都市が多い為かこの名前が国名となった。
国民にも都市と同じく階層があり、一般的な岩喰いが三階層でそこから功績を上げれば上へと上がって行く(上がるのは階層で都市は下に降りて行く)、逆に一階層は征服された国の国民などで、魔獣の侵入の恐れがある都市の一階層に居住させられている、とはいえリデウムの地下都市は地上よりも遥かに安全な居住環境である。
二階層は罪を犯した岩喰いや一階層から功績を認められて昇格した者、あと戦わずにリデウムに下った岩喰い以外の人種の階層、国民の人口比率ではこの階層の者が一番多い、何だかんだで岩喰いは特権階級でもあり、重い犯罪を犯しても一階層に落ちる事はない。
都市の二階層は居住区と商業地区になっており、一階層の住人を除く様々な階層住人が集まる場所だ。
都市の三階層は上級居住区で、岩喰い達が主な住人だが、功績を上げて三階層に上がった他種族もいる。
都市四階層は工業地区で、二階層の者が四階層で仕事をする事も一般的だ、都市の階層は一階と二階に往来の制限があるぐらいで四階層までは自由に行き来出来る。
都市五階層から下は重要区画で、巨人魔導機工房や軍事施設が有る為に入るのに制限がある、地の王は五階層から下に居住している様だが、リデウムの階層では十階層以上で、九階層が地の王以外の岩喰いの最上位である。