ディーラル侵蝕編 第十一話 超文明遊魔

  008-011

  リリルカの言葉に嘘は無かった様で、ダインの再来を察したオハナIIIから発せられる微弱な思念は正に喜びであった。

  襲撃者達が現れた為に交わされた遊魔同士の思念は、まだ遊魔として不完全なオハナIIIにも思念という能力の覚醒を促した様に思える。

  ダイン 「確かにオハナIIIの意思を感じます、私が来た事を喜んでますね」

  リリルカ 「ダイン様が部屋を出た後は明らかに不機嫌でしたから、表情も悲しそうでしたね」

  確かに尻尾カプセルの中のオハナIIIには表情がちゃんとある、無機質な所も何処となく魅力的だったが、今の和らいだ表情の方は明らかに幸福感の表れだ。

  ダイン 「確かに嬉しそうな表情で私も喜ばしいです、喜んで魔進化して欲しいですから」

  そして、ダインが見守る事はオハナIIIの魔進化の加速に繋がる、自らの意思に呼応して急速に増速する遊魔細胞はオハナIIIの身体の変化を加速させる、具体的には遊魔付与部位が生えるところの変化で、皮膚が変質して水膨れが大きくなって行く。

  遊魔の身体は基本的に元の身体から遊魔細胞が増殖したモノなので、本体の部分が変化するわけでは無い。

  リリルカ 「この娘の変化は凄かったですから、どんな遊魔になるのか楽しみです」

  ダイン 「私もオハナIIIの人格形成にはとても興味が有ります、好ましい形で魔進化が終わるのを願いますよ」

  オハナIIIはダインの言葉がまるで聞こえているかの様に魔進化を加速させる、既に尻から股下へと拡がった水膨れには尻尾の先端による尖りが出来ており、背中から身体側面に拡がった左右の水膨れそれぞれに六本の指の先の尖りが表れて動いている、一方で頭の左右に出来た水膨れは控えめな大きさで、成長が遅れているのか角自体が小さいのかは見た目では判断が難しい。

  そして、股下と両側面の水膨れは一斉に弾けて、人の肌とは明らかに質感の違う遊魔部位が姿を現す。

  リリルカ 「安心出来る姿です、三天姉様達はかなり私とは違いますから・・・」

  ダイン 「三天は扇動者としての役目が有りますから、聖なる印象を抱かせる姿にしているんですよ、魔族型は民衆に受けが悪いですから、エロさは増しますけどね」

  リリルカ 「確かにミュウ姉様はあの小さな身体なのにエッチに感じますね、けど三天姉様達はそんな目で見る事に罪悪感を感じちゃいます、でも交尾したいんですよ」

  ダイン 「北部人類圏に天使の概念は無い筈ですが、やはり聖なる印象を得られるんですね、私の目的が実現して嬉しいんですが、信仰を否定している身としては複雑ですね」

  リリルカ 「それは飛ぶ事の憧れじゃないでしょうか、三天人も空を飛んで助けに来てくれましたから」

  ダイン 「人間、届かないモノには憧れを抱くという事でしょうか、ふむ、やはり角は小さい様ですね、外皮を突き抜けるほども成長しないとは・・・」

  リリルカ 「角の大きさはダイン様が与えてる訳じゃないんですか?」

  ダイン 「基本的に本人の望みなんですよ、ミュウは魔龍は角の大きさが強さの表れと言ってましたが、遊魔にはそう言った事は有りませんね」

  ダインとリリルカはそのままオハナIIIを眺めていたが、ここでオハナIIIは予想外の行動を取る、股下に伸びた尻尾が競り上がって、尻尾カプセルの中から中央を一直線に切ったのだ。

  切断箇所から大量の液体が流れ出るが、元々湯船に尻尾カプセルが設置されていた為に液体は配管から下水へと流れて行く。

  そして、覚醒したオハナIIIは皮膜を掻き分けて外に出ると、一直線にダインに飛び込んで唇を奪う。

  リリルカ 「ちょっとオハナIII、そんな事をしてはダイン様が濡れてしまうでしょう」

  リリルカが抗議の声を上げるが、オハナIIIは気にも止めない、翼と尻尾をダインに絡ませてダインの口内を舐る。

  イヤらしい水音を立てながら、オハナIIIの欲望は発散されて行く、基本的に遊魔にはダインに対して一定の遠慮という物が存在しているのだが、オハナIIIにはそれが欠落している様だ、そしてダインもオハナIIIの好きな様にさせるつもりの様で拒む様子は全く無い。

  オハナIIIの情熱的な愛情表現はその後二十分ほど続き、ダインを解放した時の顔はリリルカに対して勝ち誇っている様でもあった。

  リリルカ 「何だかこの娘、遊魔の協調性が欠けているんじゃ無いですか、ダイン様の独占は大罪ですよ」

  怒りを表にさせるリリルカに対して、オハナIIIは疎ましそうな表情を浮べながら言葉を返す。

  オハナIII 「遊魔は自分の好きを体現していいんですよね、オハナはダイン様への大好きを示しただけです」

  そのオハナIIIの言葉に対して、ダインは困った表情を浮かべて応える。

  ダイン 「確かにそれは間違ってはいませんが、最も重視すべきは遊魔の社会なんですよ、オハナの気持ちは嬉しいですが、周りの気持ちも考えないと行けませんよ」

  オハナIII 「遊魔はみんなダイン様が好きだから、皆んな正直に生きて良いんじゃ?」

  ダイン 「花園には社会が無かった様ですね、社会とは個々が己の感情を制御しないと壊れてしまうモノなんですよ、基本遊魔は人の社会を経験している者が魔進化していましたが、花園で産まれた者はちゃんとした社会を体験していない様です」

  オハナIII 「折角、感情という物が理解出来て来たのに、行動で表現しちゃ駄目なんですか?」

  ダイン 「駄目とは言いませんが節度は考えて下さい、特に遊魔の中の私は皆んなから好かれてますので・・・愛情表現は控えて貰えた方がいいですね、オハナIIIが示す愛情は遊魔にとっては自然な物ですから」

  リリルカ 「ダイン様に激しいアプローチは逆効果ですからね、好き好き言って追いかけると逃げちゃいますよ、ちょっと興味が無いフリしてると心配して寄って来てくれます」

  ダイン 「まぁ心配しちゃいますからね、解ってはいても素っ気ない態度を取られると不安なんですよ、逆にべったりしてくると変に気を使いませんしね」

  オハナIII 「リリルカ姉様の言葉、参考になります、もう、この頭のやつちょっと邪魔です」

  オハナIIIは左右側頭部の水膨れが気になるのか、手で押さえるとそのまま握って引き千切る、すると中から液体が垂れ出し左右二本ずつの小さな角が姿を現す。

  ダイン 「小さい分数が多いですね、遊魔は自己進化が可能ですから気に入らなければ自分で直してみて下さい」

  オハナIII 「それには先ずダイン様の好みを確かめ無いと、ダイン様に合わせるのが一番ですから」

  リリルカ 「それは無駄ですよ、ダイン様の好みって余り安定してませんから、自分に好意のある娘は基本好みですよね」

  ダイン 「いや、美しくて私に好意があるが正解です、愛せない者に好かれても複雑な心境なだけですよ・・・」

  意外と優しさを持つダインは、拒絶する事に対しても罪悪感は抱いている、もっともそれは本人を前にしての感情でもあり、思考だけなら冷酷に判断してしまう。

  オハナIII 「オハナの同胞は嫌われたりしませんよね?」

  ダイン 「容姿がそれぞれ異なるという話なので、断言は出来ませんね」

  リリルカ 「いや、大丈夫ですよ、強いて言うなら肉付きが足りないぐらいですけど、ダイン様は胸盛るのも楽勝ですから」

  ダイン 「今後、花園の事はオハナIIIに任せます、何なら数人連れ帰って下さい」

  オハナIII 「解りました、さっきのダイン様みたいすればいいんですね」

  オハナIIIは尻尾を手に取るとその先端を二つに割ってみせる、これが出来るという事は二人同時に捕獲して連れ帰れるという事だ。

  ダイン 「完全に覚醒していない状態でも、私の動きを察知しましたか、ですが二人捕獲して飛ぶのは難しいですよ」

  ダインの懸念に対して、オハナIIIはイメージを思念で送る事で解決法を示す。

  リリルカ 「あ、こんな方法があったんですか、尻尾を平くして翼として使うなんて・・・」

  ダイン 「これは花園の知識の応用でしょうか、少なくともアーグル人類はここまで飛ぶ事を理解していませんよ、ですが人格形成は不完全なのにこういう知識を持っているとはオハナシリーズとはどういった方向性で生み出されているんでしょうか?」

  リリルカ 「単にダイン様を釣ってるだけだと思いますけど、現に興味津々じゃ無いですか・・・」

  オハナIII 「こういう知識ばっかり与えられたから、無機質だったんですよ、遊魔に魔進化した事で繋がりましたけど・・・他にも色々有りますよ」

  ダイン 「興味深いですが一旦保留です、隣りの二人の仕込みが終わった様ですから、ディセルト達も終わった様ですね」

  リリルカ 「なら情報を引き出すんですね、敵の把握は重要ですから」

  ダイン 「オハナIIIも見たいですよね、三人で鑑賞しましょう」

  オハナIII 「もしかしてベッドで寝ていいんですか、あれ早く体験したいです」

  ダイン 「もしかしてベッドで寝た事が無いんですか?」

  オハナIII 「ラグム・デムユニットは機能が低下すると、休息カプセルに入ります、血液浄化なども同時に行われて完全な状態で目覚めます」

  ダイン 「花園は人を部品として使っている様ですね、どの様な過程を経て成立した存在なのか興味が尽きませんよ」

  オハナIII 「オハナIIIは気付いた時にはオハナIIIでしたから、どうやって産まれたか解りません、ですが、誰も使って無かった休息カプセルから05が出て来たのを見ました」

  ダイン 「単に休養の為のカプセルでは無いという事ですか、私も尻尾カプセルで魔進化させるのが好きですが、休息カプセルで087達を生み出しているのかも知れませんね」

  リリルカ 「今、花園には敵意は無いと思われますね、なら重視するのは襲撃者の方でしょう」

  ダイン 「そうですよね、で、ディーラルの事情通のリリルカは誰の差し金だと思いますか?」

  リリルカ 「王妹ラールカぐらいだと思いますよ、彼女の言動から察するに三天人は嫌いみたいですから」

  ダイン 「襲撃者の数も多いですから、背後の組織力は強いでしょうね、王妹ラールカは地の王と通じているという話も有りましたし、こちらも放っては置けませんか」

  ダインはオハナIIIに抱き付かれたまま立ち上がると隣の部屋へと移る様だ、オハナIIIも念願のベッドで休む為にダインに付き従い、当然リリルカも後から続く。

  そしてしばらく放置していた二本の尻尾は見事な尻尾カプセルへと変容しており、捕らわれた二人が器用に全裸に剥かれた状態で拘束されている。

  リリルカ 「あれ、服脱がされてますけど、そんな器用な事も出来るんですね」

  ダイン 「無数の触手を使えば造作も無い事です、こうして見るとかなり若いですね、ですが測定した身体能力の値はとても高い、人類圏の上級女騎士に匹敵する程です、おまけに上級騎士とは違い魔力を使わない状態でこのレベルですから、日頃からかなり鍛錬してますね」

  リリルカ 「この尻尾カプセルでそんな事まで解るんですか、ダイン様のやる事は変に凝ってますよね」

  ダイン 「状況把握は重要ですからね、ですが魔力を使わずにここまで肉体を鍛え上げるとは何かしらの教育機関が有りそうですね、この二人も従姉妹同士の様ですし、間者を育成する隠れ里でも有るんでしょうか」

  リリルカ 「リグエがそういった事が得意だと聞きますね」

  ダイン 「リグエとは山がちな地形なんですか、私の世界に傭兵が主要産業だった山岳国家が有りましたから」

  リリルカ 「確かに領地に山が多いです、というか花園が有るところですよ」

  ダイン 「そうなんですか、オハナIIIは人間の事は知りませんよね?」

  オハナIII 「この二人は初めて見ますけど、何処か02に似てます」

  ダイン 「オハナIIIの一つ前に生まれたオハナですね、不自然な程に高い身体能力などリグエと花園は何か繋がっているんでしょうか・・・」

  リリルカ 「それを調べる為に魔進化ですよね、国の秘密を暴くのって楽しいですよね」

  ダイン 「さすが探求者のリリルカですね、何にせよ得られる情報は多い方が有利なのは間違いありません、この二人からも花園の情報が得られるかも知れませんね」

  ダインはそう言ってベッドに大の字に寝転がると、その両脇をリリルカとオハナIIIが固める、そして、頭を枕で上げると襲撃者を捕らえたカプセルが見やすくなり、楽な姿勢でその魔進化を堪能するつもりの様だ。

  おまけ

  ユーマニス 人類大陸の物作りに革命をもたらしつつある新素材であり、その特性は塗る事によって大幅に強度を向上させられる事である。

  俗に言う漆に近い物で、効果発揮前は粘り気のある液体である、この液体を物質に塗ったり、浸透させてから魔力を加えるとユーマニスが硬化する。

  ユーマニスは超微細な魔導物質を魔力結合させる事で、物質に強度と柔軟性を与える事が出来き、尚且つ重量を大幅に抑える事が可能なのだ。

  一例を上げると木製の角材にユーマニスを塗布すると、鋼鉄に匹敵する強度を得て燃える事もない、この角材で鋼鉄製の剣の攻撃を受けたとしても、折れるどころか傷すら付かない。

  開発したユーマ共栄国では、このユーマニスの特性を利用した防具の開発も行われており、布や紙で形作った防具にユーマニスを浸透させる事によって、金属鎧以上の強度を持ち、重量は半分以下という鎧も試作されている。

  またユーマニスを用いた防具はマギガント用の物も試作されており、その加工の容易な特性から、かなり奇抜な外見のマギガントが生まれ始めている。