レブナン島編 第八話 ダイン雲隠れ計画

  006-008

  何とか獲物の処理を終えた頃、時刻は夜の十二時頃となっており、一休みしてからフェイベルを狩に行く事にする。

  リレッタ 「こういう時は眠気の覚めるお茶がいいですよね、私が淹れてきます」

  ダイン 「私達はそれでいいでしょうが、双子とトルポには別の物の方がいいと思います、今晩はもう休んで、朝から坑道との合流地点を作って欲しいので」

  リレッタ 「解りました、二種類用意しますね」

  リレッタが後ろで作業を始めると、トルポは意気込みをダインに語る。

  トルポ 「岩喰いを捕まえるなら坑道を把握しないと難しいよね、僕に出来る事を頑張るよ、先ずは岩喰い坑道への侵入路を作らないと」

  ダイン 「熱魔術が必要ならリノールに任せて下さい、一番適性が有りますから」

  シノール 「適性って、リノールのやり方って半龍化して炎吹きますけど・・・」

  リノール 「アレは立派な魔術、喉の術式で魔力変換してる」

  ダイン 「言わば生体魔導式なんですよね、手間が掛からなくてDコアで調整出来ますから使い勝手がいいんですよ、冷やすのはシノールが得意ですし」

  シノール 「シノール的には余りやりたく無い方法ですけど、冷気を口から出すって美意識から外れてますよ」

  ダイン 「なら、自分で納得出来る冷気の出し方を考えてみましょう、やり方は解りますよね」

  シノール 「はい、魔龍の生体魔導式はシノールの強みですから、色々試してみたいと思ってました、この空間を隠れ家にしたのって、ダイン様もそれを考えてくれたからですよね?」

  ダイン 「魔龍の運用に最適だと思ったのは事実ですが、単純に穴の底は人目に付かないと思ったからです、普通の人間は飛べませんからね」

  トルポ 「岩喰いも無理だよ、たまにロープで降りる奴もいるけどね」

  ラフォリア 「飛行魔術は空を使いますから、魔術士も大丈夫だと思います、もっとも魔術士は秘密主義ですから隠れて練習しますが・・・」

  ダイン 「つまり、魔術士が行方不明になっても不自然では無いという事ですね」

  ラフォリア 「はい、行方不明は年に数名はいますから」

  ダイン 「坑道を彷徨っている魔術士も多いという事ですね、坑道内には危険な生き物はいないんですか?」

  トルポ 「人喰いワームがいるよ、あと、魔族の噂が有るぐらいかな、殆どが人間の魔術士の見間違えだと思うけど・・・」

  ダイン 「まぁ侵入者と接触したなら拘束して下さい、ワームは始末して魚の餌にでもして下さい、ミミズといえば魚の餌ですからね」

  トルポ 「岩喰いは食材にするけどね、余り美味しくは無いけど、坑道で取れるから重宝してるんだよ」

  ダイン 「人間食べるんですよね、まぁ坑道が危険なのは解りました、だからこそ隠れ家に最適ですね」

  リノール 「遊魔が負けるわけ無いので大丈夫」

  ダイン 「そこは危惧してませんが・・・気楽に探索を始めて下さい、今回は昼過ぎまでは掛かるでしょうから」

  ラフォリア 「ワームよりもフェイベルの方が手強いですからね、ダイン様が一番気を付けないと」

  ダイン 「隠れるのは得意ですから大丈夫ですよ、そもそも存在自体に気付かれて無いでしょうから、普通に考えて家に敵はいませんからね」

  ラフォリア 「考えると悪夢ですけど、ダイン様に愛して貰えるなら最高ですよね、もっとも人のままでは理解出来ないでしょうけど」

  ダイン 「他に誰もいない屋内というのが良いですね、催眠ガスが使えますからね、アレは本人にも理解出来ない内に昏倒しますから捕獲に最適なんですよ、獲物は綺麗な状態で確保したいですからね」

  リレッタ 「素材に妥協しないのがダイン様ですからね、まぁ傷物でも磨き上げてくれますけど」

  お茶の準備を終えたリレッタが会話に参加して来る、遊魔歴が一番長いリレッタでは有るが、先に乳魔にされた事に引け目を感じているところもある、つまり傷物とは自分自身の事であるのだ。

  ダイン 「本当の傷物は受け付けませんけどね、処女に拘るのは精神的な交わりの問題が大きいですし」

  ラフォリア 「その事は十分に理解してます、純粋魔力は女の最大の武器ですから、でも遊魔へと迎えられて得るモノの方が素晴らしいですけどね」

  ダイン 「遊魔に成って後悔している者は存在しませんからね」

  リレッタ 「もちろんです、物の見え方が違いますから、今では人間や魔族に憐れみを感じますよ」

  トルポ 「ほんと遊魔って凄いよね、岩喰いの僕が魔術を使えるなんて」

  リノール 「耳長の方が凄い魔龍の力なら、この島焼き尽くすのも出来る」

  ダイン 「強過ぎる力を抑えられるのが優れた種の証です、己の力を誇示するのは愚かな証拠ですね」

  リレッタ 「魔進化で遊魔を増やすのって、力の誇示に近い気が・・・」

  シノール 「全く別ですよ、ダイン様の魔進化は愛と幸せの伝導ですから」

  ダイン 「余り褒めないで下さい、ただ欲望を満たしているだけですから」

  ラフォリア 「ダイン様が喜んで、獲物でる牝も喜ぶから良い事しかありませんよ、早くフェイベルにもこの幸福を与えないと」

  ダイン 「ラフォリアはフェイベルの事が大切なんですね、ちゃんと感じてますよ」

  ラフォリア 「はい、同じ境遇の仲間ですから、フェイベルとの交尾がとても楽しみなんですよ」

  リレッタ 「愛ですね、仲間を思う愛情が遊魔に成って欲望を加えたんですよ、私もティアスとの交尾で胸に秘めていたモノが満たされましたから・・・でもまだまだ求めちゃいますし、他の娘の魅力も捨て難い」

  ダイン 「正に美の共演というヤツですね、美しい者と美しい者が交わる事でより素晴らしい美が生まれるんですよ」

  ラフォリア 「嬉しいでも有りますしね、遊魔には人間の様な壁が有りませんから、拒絶が無いと解っているので気楽に声を掛けちゃいます」

  ダイン 「ラフォリアは元々百合素養を持っていましたよね、すんなりと処女リストを作ってくれましたし」

  ラフォリア 「実際に交わった事は無かったですけどね、ですが女性の美しさには惹かれていました、遊魔に魔進化させて貰った事は天の導きだとも思ってます」

  リレッタ 「なら、ダイン様との時間は必要有りませんよね」

  ラフォリア 「そこはまた別です、女の子で満たされるモノとダイン様で満たされるモノは違いますから」

  リノール 「ラフォリアは欲張り」

  シノール 「でもダイン様の役に立ってるんですよね」

  リレッタ 「はい、リストの人物を何人か見てみましたが、見た目は合格なんですよ、好みがダイン様と近い様ですね」

  ダイン 「それは楽しみですね、リレッタのお墨付きが有るならさぞかし素晴らしい牝なんでしょう」

  ラフォリア 「ラフォリアもゾクゾクしてます、フェイベルを遊魔に迎え入れる事が出来るなんて・・・」

  ダイン 「まぁお茶でも飲んで落ち着いて下さい、昂るのは解りますがなるべく平常心を保たないと怪しまれますよ、街にはラフォリアを知る人間も居るでしょうから」

  ダインの言葉に、一同はお茶に手を付けると少しラフォリアの状態も落ち着いて行く、友人を売る背徳感は組織に忠実だったラフォリアにとって多くの葛藤を与えているのだろう、だが、遊魔は楽しいが優先されるのだ。

  それからひと時お茶を楽しんだ遊魔達は行動に移る、人類圏の街と違ってレブナン島の街は深夜でもまだ活気が有り、行き交う人も多い。

  その様な状況の中、三人の遊魔を訝しむ人間はおらず、ただ、美しい女性を二人も連れたダインに羨望の眼差しを向ける程度で有った。

  ダイン 「腐ってもアーグル人類の街ですね、人類法が機能していないのに絡む人間などいませんよ、岩喰いはまた別なんですか?」

  ラフォリア 「どうなんでしょう、岩喰いの女性が街に出る事は殆ど無いですから、その意味ではディはとても強運だと思います」

  リレッタ 「私達二人を連れていますからね、男共の発するイヤらしい魔力が不愉快ですよ」

  ダイン 「私もこの街で初めて体験しましたが、正に穢れの具現化ですね、私も牝を抱く時はこんな感じなんでしょうか?」

  リレッタ 「全然違いますね、ディは人間の女を求めてませんから、それは解ってしまうんですよ」

  ダイン 「リレッタはそう感じていたんですか、確かにそれは有りますね人間が猿に恋愛感情を抱かないのと同じ事です、私の愛情は基本的に遊魔に注がれていますから」

  ラフォリア 「でも、耳長って好きですよね?」

  ダイン 「耳長は手が加えられた様な何かを感じてますから、長寿故か考え方も私と似たところが有りますし、感情じゃ無く合理的なんですよ」

  リレッタ 「解る気がします、あの娘達は魔龍を楽しんでますからね、そういう変なところってディも同じですよね」

  ダイン 「あの二人も狩が大好きですからね、そしてより変わった物を私に食べさせようとしたんですよ」

  ラフォリア 「獣魚ですか、確かにあれは獣の肉でした、独特の風味は有りましたけど」

  ダイン 「料理法が丸焼きだったのは惜しかったですね、あの鮮度なら生でもいけたんですよ」

  ラフォリア 「あれを生で食べるんですか、それはちょっと無理かも」

  ダイン 「まぁ合う薬味を整える必要は有りますけどね、海獣系の料理には生姜が欲しいですね、こちらでも似た植物は有りますがこの島に有るんでしょうか?」

  ラフォリア 「ショウガが何かは解りませんけど、島の香草や薬味の類は集めてみますね、トルポはワーム料理を作りたがってましたし」

  ダイン 「それは海獣以上にハードルが高そうです、食用ミミズの都市伝説は結構存在してますが・・・」

  リレッタ 「トルポ自身が美味しくないって言ってましたよね」

  ダイン 「遊魔知識に有るアイヤの料理テクニックを使えば大抵の食材は美味しくなると思います、問題は美味しく出来る材料をどう集めるかですが・・・」

  リレッタ 「でも、ディは島の生活を楽しんでますよね、自分で料理してみたり」

  ダイン 「この島には私達の勢力が存在していませんでしたからね、生存圏を拡大する事は生物の本能と合致する行為なんですよ、だから私も今が楽しいですね」

  リレッタ 「それで敢えてメンバーを絞ったのですね、遊魔が本気で島を落とそうとすると直ぐに決着が付きそうですから」

  ダイン 「この先の予行演習ですよ、初めての土地で困難に対処する経験を積んだ方が色々と気付く事もあるでしょう」

  リレッタ 「言いたい事は解りますけど、本音は別にある様に思えます、自分が不在の間の家族達を試しているんじゃないですか?」

  ダイン 「リレッタは良い感してますね、私の一番の心配はそこなんですよ私が東方大陸で一人になっても何とかする自信も有ります、ですが遊魔達はどうなるか解りません、だから今回は敢えて潜入期間を定めずに試すつもりです、トップが居なくなって回らない組織は駄目ですから」

  ラフォリア 「なるほど、似た状況を作り出せるわけですね、でも無用の心配じゃ無いですかね」

  ダイン 「そうだと思いたいですが、想定と異なるのが事実ですから」

  リレッタ 「心配し過ぎですよ、でも、ディ不在の状況なんて誰も想定してませんよね、まさか・・・一芝居するつもりなんですか?」

  ダイン 「感が良すぎるのも困り物ですね、潜入メンバーも試験の対象ですよ、もう意図がバレてしまいましたが」

  リレッタ 「何時も唐突に変な事しますよね、今回の潜入の人数が少なかったのは変な感じがしてましたが・・・」

  ダイン 「ネタバレした以上、明言しますが私は数日中にこの島で行方をくらませます、ユーマ本国には完全に行方不明という事にして下さい、この島のメンバーが私を探し出すまでは終わりませんよ」

  ラフォリア 「トルポやフェイベルはどうするんですか?」

  ダイン 「この島で得た者は私と同行して貰いますよ、マギクランや岩喰いに関しての工作は独自に進めますから」

  思いがけないダインのネタバラしに、リレッタとラフォリアは動揺を隠せない、なんだかんだでダインの指示を受けて動く事が当たり前になり過ぎていたのだ。

  その上、レブナン島潜入メンバーには行動が読みづらいリノールもおり、ダイン不在の状況に陥ればどうなるのか未知数でもある。

  おまけ

  遊魔社会実験 遊魔はダイン中心に構成されているが、当のダインはその構造に危機感を覚えている、具体的には自分の居ない状態で遊魔達がどうなるかを危惧しているのだ。

  この危惧は三百年前に起こったザキトス討伐後の魔族の状況を、ルーフィンの記憶や文献で知った事が大きく、万が一に備える事の重要性を感じている、そう、ダインは自身が消滅したとしても遊魔社会の幸福を願っているからだ。

  そこでダインは自ら雲隠れする計画を画策し、今回のレブナン島潜入作戦で行動に移すつもりでもあるのだ、現状この計画は感の鋭いリレッタ以外には発覚しておらず、ダインも計画の為の情報収集の段階で実行されるとしてもまだ幾分かの猶予があると思われる。