004-018
空飛ぶ船から、轟音を立ててマギガントが飛び出した時、王都の民達は度肝を抜かれた。
マギガントを水に浮かぶ船で輸送する事は当たり前だが、まさか空飛ぶ船から空飛ぶマギガントが飛び立つとは思いもしなかったのである。
飛び出したマギガントは姿勢や速度が天翔る処女を装備した物とは全く異なっている様で、目の良い者にはそれがゾッフォである事も理解されていた。
そして、その動揺は王宮のバルコニーでも同じ事だった、むしろ民衆以上に知識の有る者にとってゾッフォが空を飛ぶなど有り得ない事で、改めてユーマの凄さをその身で感じていた。
ジゾフ・クガル 「まさしくゾッフォが空を飛んでおりますぞ、噂では聞いていたもののまさか本当とは」
ククジア王 「それは有り得ぬ事なのか?」
ジゾフ・クガル 「あの空飛ぶ船といい有り得ぬ事ばかりですわい、あれを見せられればツェーリアが潔く傘下に降るのも納得ですな、あの中には他にもマギガントが格納されているらしいので」
ククジア王 「かの者が本気になればこの都も落とせるという訳だな」
ジゾフ・クガル 「その心配は無いでしょうな、儂の見立てですとダイン王には領土的な野心は御座いません、ただ出来る事を追求してあの様な物を作り上げておるのだと思います、技術者とは己の可能性を体現したい者なので」
ククジア王 「だが、あの力は恐ろしいモノに感じるぞ」
ジゾフ・クガル 「そこはティアス王女に任せてみるしか有りませんな、ティアス王女ならユーマ共栄国との関係が拗れる事は有りますまい」
ククジア王 「クガトのお主がポロルグのティアスを推すのか、その意図が解らんな」
ジゾフ・クガル 「儂はダイン王の作る物をもっと見たいですから、ティアス王女はそれを許す気概を持ち合わせておりますわ」
ククジア王 「なるほど、余では器が足りぬという訳か、余はあれが恐ろしいわ」
ジゾフ・クガル 「普通はそうでしょうな」
ジゾフは王の機嫌を損ねた事を感じて口を噤んでしまう、だが、当のククジア王は余り気に留めていなかった、王は既にティアスが自分の器量を遥かに上回る傑物で有る事を理解しているのだ。
ククジア王 「傑物には傑物を当てるしか無いのう、我は席を退いて新しい王を迎える事にしようぞ」
ウィディを発艦させたスカイベアーは既に王宮へと近付きつつあった、王宮闘技場への着陸許可は既に出しているので、直ぐにスカイベアーは降り立つであろう。
ククジア王は時代の変革を感じつつ席を立つ、前回の来訪のおりにはダインの機嫌を損ねる事をした事を十分に理解をしており、それに対する謝意を示す為には自ら出迎える必要が有ると理解していたのだ。
父王の思いを理解していたティアスは、ダインに着陸を遅らせる様に嘆願していた、現王自らが出迎える事で国内外にユーマとの友好をアピールしたいのだ。
ツェーリアを威容だけで屈服させたユーマの注目度は、人類圏国家の間で飛び抜けており、その妖しげな力との協力関係が有れば物事が優位に進むのは間違い無い。
ククジア王の出迎え準備が整ったところで、ティアスはスカイベアーに着陸の要請を行う、ダインもククジア王の意図を既に察しており、ちゃんと応じるつもりで闘技場の中央にスカイベアーのアンカーを降ろすと、それを目印に降下させて行く。
闘技場で出迎える人々は巨大なスカイベアーの着陸に押し潰されそうな恐怖を感じていたが、王が肝を据えて不動な以上はその場に留まるしか無かった、ククジア王自体も逃げ出したい状況では有ったが、大国の王の威厳を保つにはただ待つしかない。
一方、ジゾフは胸を躍らせていた、年老いたジゾフは巨大化を意図したムゥディ・フーティアの製造にも関わっており、スカイベアーがマギガントの一種を聞いて興味が尽きないので有る、出来得る事ならこの場より近付いて真下から構造を見て見たいのだが定められた位置を動く事は許されていない。
そうして、見守る人々の思惑に関係無く、スカイベアーの巨体は王都の闘技場へと着陸した、そして、艦橋でも有る頭の部分が前に倒れて地に着くと、側面の扉が開いて中から人が降りて来る。
プルル 「ユーマ共栄国、ダイン王の臣下プルル・ルルプーリエです、御招き有難うございます」
本来ならメイドであったプルルがこの様な振る舞いをする事は無いのだが、その身に纏う衣装は異世界日本の着物を意識した作りで、異国の要人の様にも見える、そしてプルルはダインの愛妾という事が認知されているので、ユーマ共栄国の要人で有る事に間違い無い。
降り立ったプルルはその場の男達の視線を釘付けにしていた、中にはメイドのプルルを知る人物も大勢いたのだが、奇抜な異国衣装と何よりプルル自体が妖艶な美しさを纏わせており、王都に居た時とは全くの別人と化していた。
文官 「遠路はるばるご苦労様です、ククジア王がお待ちですので先にお進み下さい」
出迎えの文官が言葉を掛けると、スカイベアーの艦橋からダインが降り立って辺りにどよめきが漏れる、ダイン自体はプルルの様な着飾った姿では無かったが、場を支配する様な圧倒的な存在感が有り、以前王都にやって来た時とは明らかに何かが違った。
ククジア王思考 『アレがあの時の男だと、まるで迫力が違うわ、これでは余が添え物の様では無いか』
ククジア王がそう感じるのも仕方の無い事だった、ダインはワザと己の魔力を抑えずにこの場に降り立って無言の圧力を掛けたのだ。
魔力資質が優れている事で貴族の地位を得ている者達に取って、魔力による圧力は的確に作用して、無意識にダインをこの場の絶対者として認識してしまっている、そしてユーマの生み出した巨大な飛行機械と合間って、自ら王を上回る畏敬を抱いてしまっている。
ダインの登場を見知った真夏は華を添えるべく、ウィディを着陸させてから人型に戻して儀礼の敬礼をする、アーグルに敬礼といった習慣は無いのだが、ダイン対する敬意である事は明らかで、先に登場したプルルなどもそれに倣っている、そして何より周囲を驚かせたのは、ウィディと向かい合う様に降り立ったティアスのポナリアも同様のポーズを取り、ククジアの次期国王の最有力候補がダインへ従う様な態度を取っている。
だが、その事をククジア王は咎める気など全く無かった、クガトの勢力は依然として王家を上回る程で、リボルトが王位に就けばその差は益々開いてしまうだろう、それを思うならティアスがダインを利用して王家の権威を高めたくれた方がいい。
ククジア王は娘ティアスの事を十分に理解していたが、ダインの力までは想像が及んでいなかったのだ、ティアスの恭順はあくまで演技だと認識している、人間のティアスならばそうだったであろう、だが遊魔へと魔進化したティアスは嘘偽り無くダインに恭順を示していたのだ。
そして、ククジア王の待つ壇上の前までダインが歩を進めて行く、王は立ち上がって労いの言葉を掛ける。
ククジア王 「遠路はるばるご苦労であるな、今宵は一際趣向を凝らした宴を催すので是非楽しんでくだされよ」
ダイン 「いえ、あのスカイベアーを使えば長き旅路も容易い事ですから、それにククジアとの友好を示す為ならばこのダインいつでも出向く所存です」
ククジア王 「国土の差は有れど、余達はいずれも王ぞ、もっと気安くしてして欲しいぞ」
ククジア王はダインに対して寛大さを見せて、特別に扱っている事をアピールしている、彼としても、もはやダインは以前の様に粗雑に扱える相手では無い、そして本心を言えばこうして対峙する事が恐ろしいのだ。
虚勢を張るククジア王に予期せぬ援軍が現れる、いつの間にかポナリアを降りたティアスが急いで壇上へと駆け寄って来たのだ。
ティアスならはこの男を制する事が出来ると期待した、ククジア王で有ったがティアスの口から発せられた言葉にダインの恐ろしさを改めて理解する事になる。
ティアス 「ダイン様が父王陛下に礼を尽くされるのは当然です、何故なら義父となられる人ですから」
ダインとしては単に年長者に対する態度なだけで、事前に何の話も聞いていなかったのだが、ティアスは唐突に予期せぬ方向に話を進め始めたのだ。
ククジア王 「それは誠なのか、ダイン王」
ダイン 「魅力的なティアス嬢に迫られては、断る事など有ろう筈が有りません」
ダインもティアスが考えて行った行動に口裏を合わせる事にした、どの道既に自分の牝でも有るティアスとの関係を公にしたいという意図もある、そうティアスの全てを自分色に染め上げたいのだ。
ククジア王 「なら、王位はどうするのだ、他国に嫁いではククジアの王には成れまいて」
ティアス 「ダイン王の元ならばククジアを離れる事も有りません、スカイベアーにウィディ・ゾッフォ、テガスまでは僅か一刻ですから」
ククジア王 「なるほど、確かにその通りだわ、だが、その様な仲になっておるとは初めて聞く事ぞ」
ティアス 「確かにそうでしょうが、ダイン王との婚姻が成ればダイン王がククジア王都に居てもおかしく有りませんよね、そうなれば利益も多い筈」
ティアスはスカイベアーに視線を向けて父王に何かを訴え掛ける、ククジア王は一考してスカイベアーを見つめて、再びティアスに視線を移すとその思惑を察した様だ。
ククジア王 「なるほど、ユーマの王が新しい風を吹かせてくれるという訳か、だがリガルドに打ち勝たぬと成せぬ話よのぉ」
ティアス 「はい、ですが夫が妻の為に手を貸すのは別に咎めを受ける事では有りませんよね」
ここに来てククジア王はティアスの行った事の真意を理解した、テガスを独立させてダインに地位を与える、この際に他国となれば自身の選定戦への手伝いは出来ないと言って、対立するクガト勢力の承認を得て目論みを達成させると、今度は自分とつり合う地位に有るダインとの婚姻を周囲に承認させた上で、その力を利用するつもりなのだ。
リガルド側はこれによってまた窮地に追い込まれる事は明白で、ククジア王の憂いもこれによって完全に払拭されるだろう。
ククジア王 「なるほどのぉ、お主らしいわ、望む物を手に入れる為には何でもする娘じゃったからのぉ」
ティアス 「はい、ダイン王との婚儀をお認めになって頂けるでしょうか」
ティアスの強い主張を前に、もはや一歩も引く気が無い事を理解したククジア王はもはや異など唱える事はない。
ククジア王 「ここまで利を示されては拒めんのぅ、お主が初めて認めた男でも有るでの、これを反故にしてしまうと孫の顔など見る事は無さそうじゃわ」
ティアス 「父王陛下もお気の早い」
ティアスはその言葉に父の罪悪感を覚えていた、ダインの力によって魔進化したティアスの繁殖能力は失われており、父親が孫を抱く日は永遠に訪れないのだ。
だが、遊魔が繁殖不可能で有るのはあくまで現状はという事だ、遊魔は日々自己進化を遂げており、ティアスが望めば子を授かる身体を手に入れる事も不可能では無いかも知れない。
基本ダインに従順な遊魔達では有るが、一部の者にはダインの意図を理解しつつも自身の欲望を優先する傾向も見られ始めている、今回のティアスの婚姻宣言などはそのいい例でも有る。
そして自由に行動出来る者は常に自らの頭で考えて自由に生きて行くのだ。
おまけ
人類圏の婚姻 アーグル人類はあまり恋愛脳ではない、アーグル人の婚姻は現代日本で例えるならば企業合併の感覚に近い、お互いの財産や才能を吟味して有益な組み合わせで婚姻を行うのだ。
産まれた子供は成人まで母親の財産として扱われる為により優れた子供を作ろうとするのだが、その際、必ずしも婚姻状態の男性が子供の父親とは限らないのだ。
そして、婚姻状態の男女はお互いの財産を共有する為に、遺伝上親子では無い子供でも父親の子供となるのだ。
また離婚という概念は存在しておらず、代わりに多重婚が認められている、この際個々の繋がりで財産共有が行われる為に、有能な人材の将来を開く為の婚姻なども頻繁に行われている。
この様な常識からティアスの婚姻宣言は当たり前に受け止められ、ククジア王権力とダイン技術力の合わさる婚姻は今の人類圏でもっとも注目される婚姻となるだろう。