PR
皇国は純人主義の風潮が強い。
入国する際には純粋な人族以外の種族は税を上乗せされたり、謂れ無き理由で足止めされたりする事がある・・
等と耳にしていたので、入国時に何かあるのでは?と思ったが、出迎えにやって来た皇国側の案内人らにより問題なく入国手続きは完了。何事もなく関所を通過した。
ただ、後始末に追われた冒険者らは碌に休憩出来なかったので、移動しながら水分補給と携帯食を齧る羽目に・・
護衛に残った冒険者のリーダー2人と傍仕えも、護衛の傍ら[[rb:鳥馬 > シュトラオス]]や荷車を引く[[rb:劣竜種 > レッサードラゴン]]の世話で休憩をとる暇はなかったらしく、交代しつつ皆で仲良く口を動かしている。
騎士たちは護衛しながら交代で補給を済ませたのだろう。
涼しい顔をして手綱を握っていた。
私も揺れる鳥馬の上で水を得る為、少々マナーは悪いが操作魔法で水袋から水玉を浮かせて口に運び、焼き菓子に似た異世界の携帯食を齧っている。
例によって[[rb:異世界 > あちら]]の物だが、うむ。もそもそとして口内の水分を持って行かれるが、中に木の実が入っているらしいこの携帯食は実に美味い。
もぐもぐと咀嚼していると唾液の水分でドロドロとしてくるが、その分木の実の食感が目立って面白い。
木の実を舌で探り噛み砕くと、ふんわりと果物に似た香りが鼻腔に広がった。
成程。どうやら木の実だけでなく、乾燥した果物の果肉も入っていたようだ。
道理で甘い訳だな。
そのようにして関所から進む事1時間程。
『全隊停止』という合図の笛の音が届き、見晴らしの良い草原の真ん中で隊全体がゆっくりと停止した。
そして1人の騎士が魔道具らしき物を持って街道から逸れ、膝丈で茂る草原の中に設置して戻って来ると、暫くしてザンッ!と大きく円形に草が刈り取られ、横倒しになった草は一瞬にして中心の魔道具に吸い込まれる。
護衛の冒険者らが「おぉ!」と驚きの声を上げる中、今度はズンっ!と重々しい音と共にむき出しになった地面が平らに均された。
円形に整地された端は街道に少しだけ重なっており、そこを入り口として依頼人である貴族たちが乗る移動宿泊箱、皇国からの案内人たち、先頭を務めた護衛の冒険者、後方の冒険者の順で隊全体が街道から円形に開けた場所へ移動する。
成程、あの魔道具を使えば好きな場所に休憩する場を作れるという訳だ。
この隊はそれなりの大所帯だが、乗り物も人も全て円形の中に余裕をもって収まっている。
鳥馬から降り、辺りをくるりと見回してふと既視感を覚え・・
すぐに旅の道中で利用した休憩所を思い出した。
『あぁ。あの休憩所はこのようにして作られていたのかもしれんな』
整地された範囲が似通っている。
成程。便利なものだ。
鳥馬用の飲み水を用意していると、皇国の馬車から降りて来た案内人の1人と、宿泊箱から降りた小太りの貴族の会話が聞こえて来た。
「いやはや。王国の魔道具とは便利なものですな。一瞬で休憩場所を作ってしまうとは」
「当然である。我ら魔術陣の研究室と、魔道具制作研究しておる部署の成果よ。卿の住まう皇国でも、我らの研究により生み出された品々が生活向上に貢献していると聞くが?」
「ですなぁ。特に[[rb:魔法鞄 > マジックバック]]は大変有難い存在ですな。皆様のお陰で今回の旅も大変楽をさせて頂いておりますぞ?」
「いやはや、いやはや」と世辞を述べながら汗を拭く案内人に、小太りは胸を張って「そうであろう、そうであろう」と得意げに頷いている。
「それで、休憩時間ですが・・1時間ほど頂きたいのですが、よろしいですかな?」
「ふむ。ちと待たれよ」
そう言って、小太りはちらと宿泊箱の窓に視線を向け、こくりと頷いて案内人に向き直った。
「閣下よりお許しが出た。では、1時間[[rb:3 > ・]][[rb:0 > ・]][[rb:分 > ・]]後に出発でよいな?」
「は?え、えぇ!勿論ですぞ!これは有難い・・感謝申し上げる」
「よいよい。気になさるな。急ぎ駆け付けたのなら、護衛と馬の休息にはそれくらい必要であろうからな」
「重ね重ね、感謝いたす」
小太りに向かって頭を下げた案内人は、ほっとした様子で自分たちの馬車へと戻って行く。
残された小太りも控えていた騎士に休憩時間を隊全体に通達するように告げ、宿泊箱へと戻った。
貴族らのやりとりが思いの外友好的な事に驚いていると、隣に来た傍仕えがこちらの心情を察して補足した。
「ベラルドルダ様はああ見えて気配りが出来る方ですよ。上司であるストークス様に心酔されてまして、研究が滞りなく進むようあらゆる面で助けになる事を信条としている方です」
「そうなのか?だが、冒険者への態度は・・」
「まぁ、貴族ですので。あの程度ならまだ理性的な方では?」
確かに。
冒険者組合で初めて顔を合わせた時に「愚物」だの「愚鈍」だのと罵られはしたが、「下賤」や「卑しい」などと蔑む言葉は無かった・・いや、「愚物」「愚鈍」もその類いではあるが、幾分かは優しく感じる。
あの貴族の態度は世辞でも「良い」とは言えないが、よくよく考えてみれば酷い扱いを受けた訳ではない。
言葉から受ける印象と、実際の行動とが噛み合わない者は居る。
だが、これまで会った者たちは口先で善人を装い、実際は後ろ暗い事をしている者たちばかりであったので、その逆を行くかのような小太り貴族の態度はなんとも不思議に感じた。
「ベラルドルダ様はストークス様に対する発言にさえ気を付ければ、割と付き合いやすい人物かと」
「・・そのようだな」
傍仕えの話を聞いて納得すると同時に、何故このタイミングで休憩に入ったのかの予想が付いた。
漏れ聞こえた話から察するに、皇国からの案内人らは関所からの連絡を受けて大急ぎでやってきたのだろう。
恐らく、あちらが予想していたよりも早くこちらが到着してしまったのだ。
そして関所に着き、魔物の襲撃があった事を知る・・
自国に招待した要人をそんな場に留まらせる訳にはいかず、直ぐに出発することになったのだろうな。
皇国側は殆ど休憩する暇なく来た道を戻り・・関所から程よく離れ且つ見晴らしの良いここらで休憩をする事になったと・・・
『もし想像した通りならば、ベラルドルダ卿の采配は皇国側への配慮か』
満足するまでのどを潤した鳥馬に果物を与えて休ませつつ、そのような事をつらつらと考えていると、少し離れたところから「おーい!」と呼ばれ顔を上げた。
見ると、こちらまで楽しくなるような輝く笑顔で褐色肌が駆けてくる。
その後ろからは三つ編みが歩きで追いかけて来ていた。
傍まで来た褐色肌は、何かに追い立てられるようにして早口で捲し立てる。
「なぁなぁ聞いたか?!長めに休憩とるってよ!」
「あぁ、らしいな」
「な!だからよ!これから晩メシ調達に森に行くんだけど、アドも一緒に行かねぇか?!」
「調達?」
突然の誘いへそう返した後に『あぁ、狩りか』と察したところで、追いついた三つ編みが「こ~ら~」と話に割り込んできた。
「こんにちはアドさん、カルセさん。もぅ~。駄目よキーラ~。お誘いしたいなら、もう少しちゃんとしないと~」
三つ編みの挨拶に「あぁ」と軽く頷くと「んだよ。今のどこがダメなんだ?」と褐色肌。
片手で反対の肘を支え、三つ編みは頬に手を当て『困った子ねぇ』といった様子で小首を傾げる。
「駄目駄目よ~。伝えるべき必要な情報と気遣いが抜けてるじゃないの~」
「・・じゃあどう誘えばいいんだよ」
「まずは挨拶ね~。それから「誰」と「何処」で「何をしたい」かを伝えて、「時間はありますか?」って訊かないと~」
「あ、そっか!それじゃ・・」
褐色肌は会話から弾き出されるようにして放置されていた私に向き直ると、改めて誘いの言葉を口にした。
「ようアド!えーと。アタイとフラウと3人で、森に狩りに行かねーか?暇だったらだけどよ!」
「勿論同行しよう」
放置されている間に視線のやり取りで傍仕えから許可は得ていたので快く承諾すると、「やったぜ!」と喜ぶ褐色肌。
だが一方で三つ編みは「ぎりぎり合格よ~。と~っても大目に見てだけど~」と苦笑いをして肩をすくめた。
PR