PR
【123】崩落した橋の修復と「不屈の砦」の魔法使いとの会話。
崩落して出来た大穴から離れ、様子を窺う人々に見守られながら氷に向かって魔力を放つ。
元々己の魔力で操作していたもの故、魔力はあっさりと氷に馴染んだ。
操作魔法で氷から水へと変化させた柱を、大蛇が鎌首をもたげるようにしてその先端を通路に乗せ、内包していた蟻を一纏めにしてどちゃりと吐き出す。
見物人たちがどよめく中、役目を果たした水を川へと放流して背後で浮かぶ半精霊の「C」へ目配せした。
「C」がこくりと頷き、顔の高さでくるっと指を振る。
と、ゴゴゴっ!と大岩が転がるような重々しい音が辺りに響いた。
突然の事に驚く人々の悲鳴と共に、ビリビリと振動する大橋。
視線の先では下から積み上がって来た石柱が橋げたである通路の高さに到達すると、花が開くかのように先端から石が連なり広がる。
そうしてあっと言う間に崩落で空いた大穴を塞ぎ、暫くぐにぐに動いた後崩れずに残った通路の石畳と同じような溝がすーっと浮き出るようにして現れた。
「おお!」
「凄い・・」
「精霊様の魔法だ!!」
どよどよと驚きの声を上げる人々が見守る中、残った石畳と若干色が異なるものの通路の穴は完璧に塞がった。
次は仕切りの壁だ。
「C」が何かを持ち上げるようにして上に向けた両手の平を少しずつ上げていく。
すると、石畳からずるうっと伸び上がった土壁のようなもので、大きく崩れ開いていた穴が塞がれていった。
高さが揃ったところで壁の成長が止まると、じわっと滲むようにして色が広がり繋ぎ目が分からなくなる。
修復が終わり、一瞬の静寂の後に壁の向こう側とこちら側の冒険者とで同時にわっ!と歓声が上がった。
壁向こうの嬉しそうな喧噪にほっと胸を撫で下ろし、「C」に「よくやった」と労いの言葉を掛ける。
そこへタタッと褐色肌が軽い足取りで走って来て、ぶつかる直前で急停止した。
「すげぇなアド!あんなたくさんの水も操れんのかよ!ヤベぇなおい?!」
大声で問われてバシバシと上腕を叩かれ、その勢いに戸惑いつつ「あ、あぁ。まぁ」と首肯する。
そのまま「やるじゃねーか!!」と興奮冷めやらぬ様子で話す褐色肌の勢いに圧され、半歩程下がるとそこに居た小柄な人物にとん、と背中から当たった。
「あ、すまな―「詠唱は?」・・・何と?」
ぶつかった人物へ謝罪しようとして振り返ると、言葉の途中で小さく、だがはっきりとした声音と共につま先立ちで迫られる。
しかもそのまま流れるような動きで体に添うようにして回りながら胸や背中、脚などをぺたぺたと手の平で軽く叩きまさぐられた。
突然の事に驚き固まっていると、スっと「C」が間に割って入る。
この者に悪意が無かったからか、どうにも鈍い対応だ。
「C」にやんわりと押し返された小柄な人物を改めて見てみれば、「不屈の砦」のメンバー紹介の時に寝ていたボサ髪の魔法使いだと気付く。
呼び名は確か、「リルベル」だったか・・
距離を取らされたボサ髪は濁った緑色の髪の間から、らんらんと目を光らせ何やらボソボソと早口で語り出した。
「・・精霊様の機嫌は損ねたくない・・けど気になる。すごくすごく気になる。魔法発動の詠唱は?あれだけの大きさを操作するには詠唱は不可欠。それとも発動補助に魔術陣を仕込んでる?魔力増強に魔石を使用?若しくは新構築した技術でもっ―?!・・」
止まる気配のない言葉の羅列は見かねた褐色肌が繰り出した後頭部への小気味よい打撃で途切れる。
スパンっ!と叩かれたボサ髪は不満気に褐色肌へと振り向き、「痛い・・キーラ、何するの?」と文句を言った。
「「何するの?」じゃねーっ!「リルが暴走したら叩いてでも止めろ」ってリーダーから指示出されてるの忘れたのか?!」
腕を組んだ褐色肌に怒鳴られたボサ髪は「あ、そうだった」と淡々とした様子で言うが、反省の色は見えない。
そして唐突にローブの内側から丸めた羊皮紙を取り出し、石畳の上に広げる。
続いて腰の筒から筆記用具らしき物を取り出し―・・
またスパンっ!と褐色肌に叩かれた。
「アホっ!アドに謝るのが先だろっ!ほら立つ!頭下げるっ!はい「ごめんなさい!」」
「・・勝手に触った。ごめん」
「あ、いや。大丈夫だ。気にしてない」
無理矢理褐色肌に立たされ、ぐいと頭を押さえつけられる形で晒されたボサ髪の後頭部。
その下から届けられた謝罪の言葉に戸惑いながら答えると、すっと姿勢を元に戻して「そう、ありがとう」と言ったきり、その場に屈みまた羊皮紙を覗き込んだ。
ボサ髪と共に頭を下げていた褐色肌は姿勢を正すとボリボリと頭を掻き、盛大な溜め息を吐く。
「びっくりさせてごめんなアド。リルは魔法の事になると夢中になっちまうんだ。もしまた迷惑かけたら遠慮なくぶっ叩いてくれ」
「いや、戦闘でもないのに女性にそのような・・」
「そうか?ならその時はアタイか他のメンバーに言ってくれな」
「分かった」と頷くと、褐色肌は石畳の上で羊皮紙に線を引くボサ髪に「あ、リル!お前アドとは初対面だろ?」と声を掛ける。
「作業は挨拶してからにしろよ」
「・・面倒・・」
「いーから!ほら、あ・い・さ・つっ!」
顔の近くで怒鳴られたボサ髪はしぶしぶとペンを仕舞い、羊皮紙を丸めると億劫そうに立ち上がって言った。
「・・・「不屈の砦」の魔法使い。リルベル。よろしく」
「あぁ。私はアド。登録したての新人だ。よろしく頼む」
「・・・さっきの魔法は見事。新人とは思えない」
「そう言われてもな・・」
またしても冒険者歴を疑われた。
そんなに自分の操作魔法は異常だろうか?
身近に接してきた魔法と言えば傍仕えの精霊魔法と暗部の者が使う魔法・・
後は城勤めの魔法使いの魔法だが、彼、彼女らが使う魔法と比べても自分の魔法はそこまで変わっているとは思えないのだが・・
『そう考えると私の魔法は市井で見られるものとは少しばかりズレているのかもしれんな』
自分の魔法を客観視するにはまだまだ城以外で目にする魔法は少なく、情報が足りていないが恐らくそういう事であろうと当たりを付ける。
「・・・あなたの魔法、興味深い。是非詳しく聞かせ―」
淡々と、だが熱の籠ったボサ髪の言葉は、背後から音もなく接近していた三つ編みの[[rb:斧槍 > ハルバード]]使い、フラウリィーラに肩をぽんと叩かれた事で半端に途切れた。
「だめよ~。おしゃべりは時間のある時にね~?」
「あ。やべっ!解体しねーと!」
「そうよ~?早くしないと取り分が減っちゃうわ~」
三つ編みの言葉に焦り、走り出した褐色肌。
ボサ髪も「ごめん。すぐ行く」と言って山と積まれた蟻に向かう。
残された三つ編みはこちらに「また後でね~」と告げ、ひらりと手を振り2人を追った。
私は『急ぎでの解体に余計な手出しはすまい』と考え、邪魔にならぬようその場に留まって辺りの様子を窺う。
すると、分かれて蟻の解体をしている集団の一つから向けられた鋭い視線と目が合った。
勿論、視線の主はあの黒髪である。
ギリギリと歯ぎしりをするように歪む口元も相まって、ただでさえ吊り目で威圧感のある顔がより凶悪な印象へと傾いていた。
『本当に、私は彼に何かしたか?』
直接の接触は先の会話のみなのだが・・
まぁ、嫌われているからと、こちらからも悪感情を向けては諍いの元だしな。
ここは敢えてにっこり笑って返してしまおう。
幼い頃から受けて来た悪感情への対処方の一つだ。
処世術というやつだな。
悪感情を向けて来る者に笑顔を返すと、私を下に見ている者は嘲りで答え、憎んでいる者は更に怒りを向けて来る。
そして、罪悪感がある者は今、黒髪がして見せたように驚いて目を反らしたりする。
やはり根は良いヤツ、なのかもしれない。
何か、私の与り知らぬ所で誤解された可能性もあるが、機会を見つけて積極的に話しかけるとしよう。
『手合わせも頼みたいしな』
それから暫くして解体が全て終わらぬ内に時間となり、廃棄する部分と合わせて蟻を橋の上から片付けるのを手伝って欲しいと呼ばれた。
勿論すぐに手を貸し、再度水を操って解体で汚れた石畳共々、蟻を綺麗に片付けたのだった。
PR