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初めて外の世界へ踏み出したドラグウルフの少年・ゼオは、自分の力に絶対の自信を持っていた。
「ふっ、この世界の奴らなんて、俺様の敵じゃねぇ!」
強そうな相手を見つけては、喧嘩をふっかけて回るのが日課だった。
そんなある日、ゼオは街の外れで、淡い水色の奇妙な姿をした「おおかみの男の子」を見かけた。
周囲の誰よりも小柄で、どこかふんわりとした雰囲気を纏っている。……どう見ても、自分より強そうには見えない。
「おい、そこのお前! ちょっと俺様と勝負しろ!」
ゼオは威勢よく突っかかり、容赦なく拳を繰り出した。しかし――。
「え? ぼくと勝負したいの? いいよ〜!」
相手はのんびりとした調子でヒラリと身をかわし、ゼオの攻撃は一ミリもかすりもしない。何度殴りかかっても、まるで風を追っているかのように、その背中には到底触れられなかった。
一度も攻撃を当てられないまま、ゼオは息を切らして地面に倒れ込む。
(なんなんだよこいつ……! 全然、掠りもしねぇ……っ!)
悔しさのあまり顔を真っ赤にするゼオをよそに、そのおおかみの男の子は「楽しかったね! また遊ぼうね!」と、名前すら名乗らないまま、涼しい顔でその場を去っていってしまった。
自分を「最強」だと信じていたゼオにとって、名前も知らないその見知らぬ奴に全く歯が立たなかったという事実は、耐え難い屈辱だった。
それ以来、ゼオはその「正体不明のおおかみ」を勝手にライバル視し、名前を聞き出すことすら忘れて「あの野郎……!」と執拗に追いかけ回すようになるのだった――。
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初めて出会ったときに味わった屈辱を晴らすため、ゼオは「あの野郎」を求めて再び街を彷徨い、そして別の日に偶然姿を見つけた。
「おい、この前はよくも逃げてくれたな……! 今日こそ決着をつけてやる!」
怒気を含んだ雷の拳を纏い、ゼオは容赦なく突撃した。しかし――。
ドッ!!
見えざる衝撃波か、あるいは圧倒的な気圧か。まともに間合いを詰めることすらできず、ゼオは前回の比ではないほどの凄まじい勢いで吹っ飛ばされ、地面に盛大に叩きつけられた。
「ぐはっ……!?」
息が止まり、頭が真っ白になる。受けた衝撃の次元が、前回とはまったく違っていた。
何が起きたのか理解できず、ゼオがフラフラになりながらも必死に顔を上げたとき、その目に信じられない光景が飛び込んでくる。
――普段は首に巻かれているはずの「首輪」が、その男の子の首元にはなかった。
(なっ……、首輪が……ねぇ……っ!?)
ぞっとするような冷徹な気配と、圧倒的な力の差。普段ののほほんとした姿からは想像もつかない、その「本当の姿」を目にしたのだった
その夜家で
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ボコボコにされ、全身の痛みに耐えながら帰宅したゼオは、テーブルの前に行儀悪くドカッと座り込んでいた。
目の前には、保護者である元配達員の先生が作ってくれた湯気の立つ温かいご飯が並んでいる。しかし、悔しさとショックのあまり、ゼオはスプーンを持ったままスッカラカンになった頭でぼーっと宙を見つめていた。
「おい、ゼオ。いつまでそんな顔してんだ。冷めちまうぞ」
先生が呆れたようにため息をつきながら、向かいの席に腰を下ろす。
「……なぁ」
ゼオはご飯を一口も口つけぬまま、ぎゅっと拳を握りしめた。
「あいつ……首輪をしてねぇとき、マジでやばかったんだ……。なんだよあれ、冗談抜きで殺されるかと思ったぞ……!」
あの圧倒的な恐怖と、首輪が外れていたという衝撃。それを思い出すだけで、さっきまで収まっていたはずの冷や汗がまた背中を伝う。
「ふーん、首輪をしていなかったんだ?」
先生はどこか面白そうに、しかしどこか含みのある笑みを浮かべながらスープを一口すすった。
「そうだよ! いつもののほほんとした感じじゃなくて、目がマジで……って、聞いてるのかよ!」
「聞いてる聞いてる。で、その首輪のない奴に完敗して、すごすご帰ってきたわけだ」
「ぐっ……! うるせぇ! 次こそは絶対、目にもの見せてやるんだからな!」
悔し紛れにスプーンでテーブルを叩くゼオを見て、先生は「はいはい、怪我だけはするなよ。ほら、冷める前にちゃんとご飯食べろ」と優しく、しかしどこか楽しそうに笑うのだった。
「……でさ、首輪がねぇだけであんなに化け物じみるか普通? マジで何者なんだよアイツ……」
ゼオがふてくされながらハンバーグをフォークで突き刺していると、向かい側に座っていた先生は、ふっとマグカップを置いて小さく笑った。
「首輪をしてなくて、すっごく強いおおかみの男の子、か。もしかしてそれって、レイのことかい?」
「あ? レイ?」
ゼオの手がぴたりと止まる。聞き慣れないその響きに、彼は怪訝そうに眉をひそめた。誰だそれ、という顔で首を傾げるゼオを見て、先生はクスリと声を漏らした。
「ほら、お前がいつも『今日こそ叩きのめしてやる』って息巻いてる、あの水色のおおかみの子だよ。あの子の名前、レイっていうんだよ」
「レイ……? あいつ、レイって言うのか……」
ずっと「あの野郎」とか「あの生意気な奴」としか呼んでいなかった相手の本名を、ゼオは初めて知った。
あんなにふにゃふにゃした名前のくせに、中身はとんでもない怪物だったという事実が、なんだか妙にゼオの中で引っかかる。
「なんだよ、お前知り合いだったのかよ!」
「まあね。昔ちょっと縁があってさ。あの子も色々あるんだよ」
「ふん、名前を知ったところで、次に会ったときビビらせてやるのはこっちだけどな!」
名前を知って少しだけすっきりしたような、でも余計にライバル心が燃え上がったような顔をしながら、ゼオは目の前のご飯を大きな口でかき込み始めるのだった。
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