リザードンに病的にべた惚れしたドラパルトのお話 第二話〜チームの意味〜
「はぁっ、はぁっ……ぱる、とぉ……」
熱い吐息混じりの声に僕の名前が呼ばれ、僕は困惑しながら眠りから覚める。この声質を聞き間違えるはずがないが、そんな声を出しているところは初めて聞いた。だから、その声を疑わずにはいられなかった。
「あぁ……お前、可愛いなぁ……」
だけど、僕の頬に触れられた感触はいかにも僕の大好きなリザードンくんの手のひらだった。彼はいつも僕がリザくんと呼んでいる昔からの友達なんだけど、普段からそんな風に可愛いと言われたことなんて一度もない。だけど、リザくんに一度言ってもらいたいランキングだったら確実にベスト5に入る言葉を言われてしまい、心の中から期待が沸き上がる。心臓をバクバクとさせながら目を開けると、リザくんが僕の上に覆い被さっているのが見えた。
「俺と言う煉獄で、お前を支配してやる。もう、どこにも逃してやらねぇぞ……?」
そう言って、リザくんは僕の首に噛み付く。あぁっ、そんな、なんて情熱的な……! そうだよね、お泊まりデートなんだから何も無しで帰るなんてそんなのダメだよね、うん! そのまま、妖艶に見つめてくるリザくんに、僕は、僕はぁ……!
「おにーちゃん、起きてーっ!!」
「うわぁっぅぅああぁっっ!?」
[chapter:第二話 〜チームの意味〜]
耳元で聞こえた叫び声で、僕はコイキングのように飛び跳ねて起きる。何が起こったのだ、とぶんぶんと周りを見渡すが、そのベッドの上には僕とドラメシヤたちしかいない。そうだ、確か昨日は……
「おっ、ようやく起きたなぁ、パルトー。そろそろ俺練習に行くから、お前も出る支度してくれよなぁー」
そう、このリザくんの家に泊めてもらっていたのだ。それで、先ほどの夢のような出来事が起きたわけでもなく、ただ眠りについたのだ。ふぁぁ、と大きな欠伸を一つつきながらコトコトとミルクが注がれ、コップを手渡された。
「ほら、朝ご飯。ありもので作ったやつだけど、余ったら勿体ないから食べてくれよな」
食卓には、茶碗に盛られたご飯、卵とソーセージの炒め物、マトマスープ、更にはサラダもあった。各料理の見た目は簡素だが、たった朝ごはんにこんなバランスのいい料理を振る舞ってもらえること自体がとてもありがたいことだ。というか、料理までできるなんて、なんてスーパーダーリンなんだ……いや、まだ僕のダーリンではないんだけど。その事実を自分で反芻するのも辛いんだけど。
何にせよ、僕のお腹もこの料理に期待する声を隠せなくなってきたため、パク、とまずは炒め物を口に入れた。塩胡椒とケチャップで簡単に味付けしたもの……かに思ったが、わずかに広がる甘み。これは……あまいミツ?
「……! これ、美味しい!」
「おっ、マジで? そんな凝ったのじゃないが、気に入ってくれたなら何よりだ」
「そんな……! すっごく美味しいよ、すっごく! なんて言うか、ミツのまろやかな甘みが……その、すっごく美味しい!」
「へへっ、そっか。ありがとよ」
トクン、と胸が跳ねる。ただ美味しいと伝えたことに、礼を言われただけ。それだけなのに、僕は心のざわつきが抑えられない。いや、ざわついているなんてもんじゃない。あわやスタンディングオベーションってレベルで興奮してる。だって、リザくんがすっごく照れくさそうな顔で、ちょっと視線を逸らしながら僕に礼を言ってきたんだもん。この顔を見て嬉しくならないポケモンいないよね? うん、いるわけない。いるとしたら僕がリザくんの魅力をプレゼンしてこの気持ちを理解させてやる。
「どうした、俺の方見て。なんかついてるか?」
「い、いや! ななな、なんでもないよっ」
だが、それをリザくんに伝えるのは難しく、僕は誤魔化すようにご飯をかっこむ。美味しいご飯をもったいない気がしながら、そうでもしないと平常心に戻れない気がした。あ、このマトマスープ、辛味がちょうどいい感じで美味しい。このサラダのドレッシングも自家製なのかな、甘い気がする。……やっぱり、リザくんのお料理なんだから味合わないと勿体無いな。結局僕は箸を遅くしながら食べ、朝ごはんとしては格別の満足感を得ていた。
「ご馳走様でした」
「おう、お粗末様でした」
お皿を流しに持って行こうとすると、すぐにそれを受け取られてしまいすぐさま洗われてしまう。続けてそれくらいは僕が、と思ったがあまりの手際の良さに間に入る余地がない。黙って見守っているうちに、ピカピカの皿になって食器棚に戻されていった。
「さて、どうする?」
「えっ、ど、どうするって……?」
「バトルだよ、バトル! 暇してるなら練習しに行こうぜ!」
バトル、かぁ。正直、その言葉に思うところはある。折角だからデートにとか、二匹でゆっくりお家で過ごしてもとか、色々考えてしまう。だけど、リザくんに誘われただけで、僕は喜んでバトルをやりたくなってしまうのだ。
「うんっ! 行こうよ、バトル!」
そう頷くと、リザくんはよっしゃ、と言ってニコリと笑う。そう答えた後に断るなんてできない。やりたかったデートはお預けで悲しいはずなのに、ワクワクする気持ちを止められなかった。
[newpage]
「今日もよろしく頼むぜ、サーナイト」
「はい! こちらこそ、本日もよろしくお願いいたします」
はぁ、来てしまった。過去一番、憂鬱な気分で練習場に来た気がする。先は喜んで答えはしたものの、次第に後悔が募る。あぁ、僕が我を通していれば、デートがしたいと言えれば……いや、いや。そもそも今リザくんと二匹でいられること自体が喜ばしいことではないか。いつも遠巻きに見つめて、カッコいい横顔を遠くからしか見れなかったのに、今はこんなに近くに見える。凛々しい蒼の瞳はまるで宝石。輪郭はシャープで無駄のない造形。喋る時にチラリと見える牙は勇猛さを引き立て、全体の印象をより雄々しく仕立て上げる。隅から隅までカッコよさが詰まっている。まぁ要するに、僕のリザくんはとっても顔がいいのだ。
「……うん? どうした、なんかいいことでもあったか?」
「な、なんでもないよ! バトル、がんばろっ」
妄想でニヤけていたことを慌てて誤魔化すと、そうだな、と素直に頷くリザくん。その爽やかな笑いが、また僕の脳を焦がしていた。
数回練習試合をこなし、一度僕たちは小休止を挟む。ドラメシヤにドリンクを飲ませ、僕も少しストレッチをして身体をほぐす。ここからもう五試合くらいは練習試合をするのだろうから、そのために準備しておかないと身体が持たないだろう。入念に身体の疲労をほぐしていく。
「ここの技選択、そっちではどう感じた?」
「えー? 的を得てるかわからないけど、強いて言うならね……」
そんな体力のことなんて知ったこっちゃないと、ピッピやサケブシッポにそう尋ねながら、ひたすらにメモを残していくリザくん。相手チームとも討論を欠かさず、貪欲に成長を追い求めているリザくんのストイックさは、やはり尊敬に値するものだと思ってやまない。でも、ちょっとずるいなぁ……僕があの子達に小さな嫉妬心を燃やしていた時。
「ドラパルトくん、ちょっといい?」
「はっ、はい!? ぼ、ぼ、僕に何か、御用ですか……?」
唐突に話しかけられたことに驚きながら、僕は声の方に振り向く。その声の主は、サーナイト。
「うん、そう。ちょっと、ワタシね。キミとお話ししたいなぁって……いいかな?」
な、なんだろう。やけに、距離が近いような。でも、リザくんといつも対戦練習してる相手なので、断るわけにはいかない。なんだか変な感じがしながら僕は頷く。ドラメシヤたちにジュースを与えて座らせ、彼女と控え室へと向かう。
「え、えっと、お話って……!?」
そう質問した瞬間、僕は彼女に押し倒される。えっ、何事? 状況を理解できず、僕の頭は混乱状態。そんな中、彼女は目を細めながら僕にこう言った。
「ねぇ、ドラパルトくん……ワタシね、キミにお願いがあってね。もし叶えてくれるなら、良いこと、したげるよ」
良いことって……いや、待ってよ、それは……! 僕は首を横に振りたかったが、持ち前の気弱さが顔出して、言葉すら発することができない。リザくん一筋な僕なのだから、その勇気を持つことさえできれば拒否できるはず、なのだが。
「黙ってるってことは……いいって、こと?」
しかし、断れない。心臓がドキドキして止まらない。嫌な予感を覚えていたはずなのに、なんだか頷きたくて仕方がない。そのまま身を任せないとダメなのではないか、いっそこのドキドキに従った方が身のためなのではないか……その考えが湧き上がってしまい、僕は訳が分からなくなっていた。
「ねぇ、良いこと、しようね?」
分からない。頭が、ぼーっとする。まるで、リザくんにそう言われてるみたいで、僕が変になっちゃったみたい……? 混乱の最中で僕は動くことができず、僕の半開きの口に彼女の口が触れようとした、その時だった。
「おい、テメェ。何してんだ」
唐突に聞こえたその声に、ハッと目が覚める。聞き覚えのある声だと思ったが、その声の主は彼女の首を鷲掴みにしていた。
「あれ? ピジョットくん、どうしたの? ワタシ今、この子とお話ししてただけなんだけど……」
「カマトトぶってんじゃねぇ、このクソホモ。コイツに手を出すつもりなら、オレは容赦しないぞ」
その声の主は、見たこともない剣幕のピジョット。彼の言葉の中には信じられない単語が混じっていたように僕は感じた。
「えっ、えっ……? クソホモって、どういうこと……?」
そう聞くと、一瞬この空間に静寂が流れる。まさか、本当はこの子、男の子だったこと……? 別に、僕もリザくんが好きな同性愛者なのでホモだと言うこと自体は気にしないけど、自分を騙すことをされたんだと思うと、気分が悪くなる。やっぱ気づいてなかったかとため息をつくピジョットにより、その疑念は確信に変わり、サーナイトに対する不信感を覚えずにはいられなかった。
「あーあ、バレちゃった」
残念、といったようにため息をつくサーナイト。猫なで声で話すのをやめ、ハスキーな声色になる。まるで、オスの声のようだった。
「折角いい感じだったのに。ボクの邪魔しないでよ、ピジョットくんのバカ」
「はっ、どこがいい感じだよ。つーかコイツリザのことが大大大好きな奴だぞ、性別偽っても意味ないし」
「えっ、そうだったの!? ボクの姿見てドギマギしてたし、てっきりノーマルなんだと思ってたよ。性別偽るだけ損だったじゃん」
「は、知らねぇ奴にハニートラップなんてやめろってこった。それとも逆に、オレがテメェに手本見せてやろうか?」
「嫌だよ、キミとは二度とごめんだ」
り、理解が追いつかない。彼が本当はオスなんだとか、どうも彼らには何か因縁がありそうなのだとか、一気に知らなかったことを話されて、僕は戸惑いを隠せない。だけど僕のことはさておいて、彼らは口論を続けていた。
「で? なんでこんなことしてんだ。場合によってはタダじゃ帰さねぇぞ」
「えー、いいじゃん、許してよ。ピジョットくんはこういうとこ緩いと思ってたけどなー」
「お前だけには緩いとか言われたくないね」
確かに緩そう、と思ってしまったがピジョットの表情的にも今言えることじゃないと思ったため、押し黙ることにした。
「ま、ただ仲良くしたかっただけだよ。取って食うつもりは……無いとは言えないけど」
「ほらみろクソホモがよ」
「だってちょっとめんどくさそうなところが可愛いんだもん。あの暑苦しいのと付き合うの大変なんだから、癒しを求めてもいいじゃん」
サラッと失礼なこと言われたんじゃないか、と抗議の声を上げようとした瞬間にほっぺを急に触られる。驚きで声を失い、また身動きが取れなくなっていた。
「ごめんね、ドラパルトくん。お願い聞かせるために無理やり迫って」
べ、別に大丈夫だよ、と思わず答えてしまうが、ここは怒るべきだっただろうか。リザくん一筋の僕を惑わそうとするなんてひどい奴だなと思いながらも、なぜか嫌いになれないように感じてしまう。そんな僕を見ながら、サーナイトはこう聞いてきた。
「でも、一つだけ聞いてもいいかな?」
「え……まぁ、はい」
「次の大会、キミはリザードンと出るの?」
質問の意図を掴みかねて首をかしげていると、サーナイトは笑って補足する。
「ボクがリザードンと練習に付き合ってたのは、彼が次の大会に向けて練習してると聞いたから。だからキミと次の大会に出るつもりなのかな、と思ってね」
そっか、バトル大会。三匹のポケモンでチームを組んで戦う、普通のポケモンバトルとは少し変わった形式のバトル。その大会が今度開かれるというのだ。リザくんはピジョットやヨノワールと組んで同じ形式の大会に精力的に出場していたから、今度の大会も恐らく出ると思う。リザくんが僕と出るかは分からないが、僕自身がどういうスタンスなのか、それをサーナイトに伝えた。
「僕は、リザくんが良いって言うなら、リザくんと出たいと思う」
「そっかぁ、そりゃ残念だね」
「……何が、残念なの」
「だって、今度の大会、キミは優勝できなくなるだろうと思って。キミが本気でチームを組めば優勝候補のリザードンのチームに勝てるかもしれないのに、キミたち二匹でチームを組んだら寧ろ戦績が悪くなりそうに見えるよ。それが勿体無いなぁ、って思っただけさ」
ずき、と胸が痛む。確かに、僕だってその大会に出たことがあり、そこそこの結果を残している。そして以前リザくんの練習に付き合ってバトルしたときに、勝ったこともある。その時のバトルを通じて、僕はアタッカーとしてそれなりに強いと自負できるようになった。だから僕は反射的に否定ができなかった。じゃあね、と言ってサーナイトが立ち去っていくのを見守ることしかできなかった。
「アイツ、マジで余計なこと言いやがって……真に受けなくていいからな、パルト」
僕の表情を見てか、ピジョットは宥めるように僕の頭を撫でてそう言う。いつもなら鬱陶しく感じるものだが、今日に限っては払いのける気にはならなかった。
「あの、サーナイトさんは……」
「あぁ、あのクソホモね。アレは自身の目的と快楽のためならどんな手段も問わない奴だ。無警戒でいるとマインドコントロールとかで恋心を仕込んだりもしやがるから、何の用もなければアレに近寄らないのが無難だ」
リザくんに会ったときかのようにドキドキしていたのはそれが理由かと納得するも、もう一つの疑問が頭をもたげてきたから、それを彼自身に聴くことにした。
「なんで、そんなことまでピジョットが……」
「……オレもアイツに目をつけられたことがある。お前みたいにハニートラップをしかけられたから、あえて乗ったフリをして分からせた。それだけだよ」
分からせたって、何をしたんだ。その内容も気になりはするが、あんまり聞きたくも無い話だから聴かないことにした。
「しっかし、お前らのデートの首尾を見に来ただけなのにマジで大変だったぜ。後でジュース奢れよな」
「……ねぇ、ピジョット」
「なんだ、しょげてんのか? いつもみたいにクソ鳥って呼べばいいじゃねぇか」
「……うるさい」
「……わりぃ、茶化していい空気じゃなかったな。何悩んでんだよ、言ってみろ」
そんなに不機嫌に言ったつもりはないんだけど、子供をあやすようにそう言うピジョット。何だかそれに素直に従うのは癪な気持ちはあるが、湧き出した不安は言葉として溢れた。
「僕は、リザくんと組まないほうがいいのかなぁ」
「真に受けんなって言っただろ、適当に聞き流しゃいいんだよ」
「でも……僕がリザくんと組んだら、優勝できないってことでしょ? もし、リザくんも変なところで負けるなら、僕と組まない方が……」
僕は、俯く。リザくんと戦えることは嬉しい。だけど、リザくんが満足いく結果を出せないなら……僕は組みたくない。僕自身はバトルは得意な方だと思うけど、同じアタッカーだから、相性が良くないのは分かる。頭の中でそう考えてしまうのだ。
「そうだな、シンプルにアイツの本領を発揮させるなら、お前よりもオレと組む方がいいだろう」
やっぱり、そうだよね。僕は俯きながらある決断を下そうとすると、コツリと頭を小突かれてしまう。
「最後まで聞け。オレはリザの強みを最大限伸ばしてやれるが、リザの弱みをカバーするのは無理だ。だって、オレもリザと同じ相手が苦手だから。ずっと一緒に戦ってたから、連携が一つに定まりすぎて、それが通用しない相手が苦手なんだよ。けど、お前ならその弱みをカバーできる。お前はオレたちと全く違う戦術で戦えるから、リザが苦手な相手をお前に任せて、得意な相手に集中できる。アイツにとっても、お前と組むことは悪いことじゃねぇよ」
そう、なのかな。ピジョットの顔を見てみると、嘘はついていないように感じる。だけど、一つだけ気になる言葉があって。
「……今の、マウント?」
ずっと一緒に戦ってたなんて、そんなのずるいじゃん。僕もずっとそうしたかったのに、コイツは街でメス誑かしながらリザくんを独占してたってこと? ず、ずるすぎる。そう思って、僕は不機嫌な顔をしてしまった。すると、ピジョットは一瞬目を丸くした後に、大声で笑い出した。
「ぷふっ、アハハ! お前さぁ、今真面目に話してただろ、ハハハ!」
「わ、笑わなくてもいいでしょ、クソ鳥!」
「いやぁ、やっぱお前は世話の焼き甲斐があるよなぁ」
「馬鹿にしたいだけでしょ! 本当に大っ嫌い、クソバカバード!」
ぺちぺちと翼を叩くと、いてぇよと軽く怒られてしまう。でも、叩くのをやめられない。なんだか、もやもやした気持ちは晴れなくて、それをぶつける相手はピジョットしかいなかった。
「まだ納得してねぇって顔だな」
「……うん、少し」
すぐ顔に出るんだよお前は、と言いながらフッと笑うビジョット。こいつじゃなければカッコいいと素直に思えるんだろうな、とぼんやりと思いながら、うるさいと返事した。
「多分それはな、お前自身がリザと組む理由が分かんなくなってるからだろ」
「い、いや、あるよ! 僕には、リザくんと組む理由が……」
「それは好きだから、じゃないのか? 他に、理由があるのか?」
反論は、浮かばなかった。好きだから組みたい。それ以外の理由が、僕には思い浮かんでいないのだ。
「リザと組んだらお前にどんなメリットがあるのか。それがわかんねぇとお前も納得できないだろ。ちゃんとお前自身が論理的にリザと組むべき理由を見つけてこい」
そんなもの、あるのだろうか。僕もリザくんも純粋なアタッカーだ。どう考えても組むメリットがあるとは考えられない。船頭多くして船山に登る、それと似たことが起こるだろうと思わずにいられなかった。
「ま、お前の好きなようにすりゃあいいよ。別に納得できないままでもリザと組んじゃいけない理由になんねぇよ」
そういったピジョットは欠伸をする。なんて呑気なんだと思いながらも、確かに今は深く考えても仕方ないのかもしれない。何度かリザくんと組んでみて、それから考えても、遅くはないのかも。そう、前向きに考えられた。
「それに、お前がいるとサボれるしな! 毎日練習なんてオレはゴメンだぜ」
「それが本音でしょ」
「そうだよ、それの何が悪い?」
「……クソ鳥」
「はは、もっと褒めていいぜ」
褒めてないし、と言っても聞く耳を持たないだろう。僕はため息をつきながら、フィールドに戻ることにする。不安はあれど、今はリザくんと一緒に戦うだけだ。そう言い聞かせて、僕は顔を上向けた。
[newpage]
「パルト、ちゃんと身体休めたか?」
「……うん」
本当はまったく休めた気がしないけど、リザくんを心配させないためにも素直にうなずいた。リザくんは疑う仕草を見せることなく、良かったと笑顔を浮かべていた。
「サーナイト、練習再開しよう!」
「分かりました。次はメンバーを変えて試したいことがあるんですが……」
「あぁ、もちろん大丈夫だ!」
練習の疲れを感じさせないほど、はきはきと受け答えするリザくん。いつもと変わらずとてもまぶしく見えるが、今日だけは目が焼け焦げるような錯覚を覚える。さっきの休憩はうまく取れなかったし、昨日から続けて長時間の練習だ。もしかしたら万全じゃない状態かもしれないと自覚してはいるが、それでもこれからまたバトルするんだし、がっかりさせないように頑張らないと……。
「君たちが、ぼくちんの対戦相手?」
そう思案していた矢先、誰かから声をかけられる。こちらの声を聞くこともなく、その子は嘲るように笑いながら、続けざまにこういった。
「ふーん……超弱そうだね」
「……え?」
「いやぁ、バカだなぁって思って。リザードンとドラパルトで組むの、意味わかんないじゃん? 絶対頭が筋肉で詰まりきったバカなザコだよ、二匹とも」
「プルンゲル、彼らは私と同じシニアクラスでトップレベルのポケモンたちですよ」
「あれ、そうなの? 最近ジュニアクラスから上がったばかりだから、ぼくちんよく分からなかったよ」
さっきあんなことをしていたサーナイトにすらその言動を窘められていたが、その態度が変わることはなく。失礼な言動を繰り返し、それに悪びれる様子も見せない。そんな舐めた態度を見て、僕は憤りを覚えずにはいられなかった。
「ザコなんかじゃ、ない……!」
「んー? 聞こえなかったなぁ」
「僕とリザくんは、バカでも、ザコでも、ない! お前なんか、捻り潰してやる!」
自分がバカにされたこと、何よりリザくんがバカにされたこと。この僕が許すはずもない。リザくんのバトルでの活躍を一度も目にしたことないだなんて、とんだ無礼な奴だ。今の状態は真剣なバトルに適したコンディションじゃないような気がするが、知ったことじゃない。どんな状態だろうが、この愚か者には僕たちが強いと、先の発言は誤りだったと謝らせなければならない。僕がそう怒り狂う様子を見て、ブルンゲルはいやらしく笑った。
「じゃあ、ぼくちんを退屈させないように頑張ってね」
そう言ってブルンゲルはバトルコートに入って行く。僕もいつになく勇み足で入り、そのままブルンゲルと対峙する。始まりの合図を待つことなく僕たちはすぐさま攻撃を交わす。戦いの火蓋が切って落とされた。
「くっ……!」
戦況は、苦しいなんてものじゃなかった。なんだかエネルギー補充がうまくいかず、弱い技しか打てない。身体も動かしづらく、相手の技に当たってばかり。そんな状況を有利と言えるはずもない。
「どうしたのかな? そんな疲れたような動きして、大変そうだね?」
「……おい、おれたちの力もあるってこと、忘れんなよ」
「分かってるよ、分かってる~」
そんな僕に反して、ブルンゲルは余裕の笑みを浮かべながら次弾を放つ構えをしている。背後ではマシマシラとサーナイトがサポートする。マシマシラはブルンゲルが負ったダメージを回復させ、そのダメージを僕に移し替えて回復と火力補助の両方の役割を成す。さらにサーナイトによってエネルギーが常に補給されるため、彼らは常にフルスロットルで技を打ち続けることができる。エネルギーが足りずに息切れしている僕とは全く異なる戦況と言えるだろう。
「ふふん、きいてるねぇ。ぼくちんの呪いのせいで動きづらいでしょ?」
愉悦に浸るブルンゲルは、わざとエネルギーを無駄に放出して弱い攻撃しか仕掛けて来ないが、それを躱すことすら難しい。このブルンゲルが放つ呪いによって僕たちの動きが鈍くなっているのだ。位置取りを交代してリザくんに任せようとしても、今の動きが鈍くなっている最中ではそれに合わせて大打撃を受けることが目に見えている。かといって二匹で攻撃しようにも、攻撃が互いにぶつかるかもしれない状態で本気では戦いづらい。そんな状態で彼らの連携に勝てるはずはないだろう。八方ふさがりな状態だった。
「ブルンゲル、練習とは言え、もう少し試合でやるような立ち回りを……」
「嫌だね〜。こんなに苦しい顔見られるの、楽しいじゃ〜ん? もっと、苦しんだ顔を見せてもらえないと……ね?」
疲れもあって、浮遊するのも一苦労。まるで重力が強くなったみたいだが、実際は彼が身体にまとわりつく呪いのような力を発生させて、一挙手一投足を阻害している。この呪いをなんとかするにはどうしたら、そう迷った時にはブルンゲルの攻撃が直撃していた。
「くぁぁっ……!」
「ふん、こんなもんか。やはり変なコンビ組む奴らなんて、強いわけがない。そろそろ飽きたし、お前はさっさと倒れてよ」
こちらを見下しながら、ブルンゲルは目の前で次の攻撃を仕掛けようとする。もう、勝負は決まったと言わんばかりの口調。僕たちのことを何も知らないくせに、耳障りなことばかり言いやがって。コイツは強いんだろう、口だけではないのだろう。その身で感じているから分かる。
『組んでいいっていうか、俺はお前と組んでみたかったんだよ』
でも、僕らのことを、リザくんのことを! 上辺だけ見てバカにするのは……許せるわけ、ないだろっ!
「舐めるな……!」
ブルンゲルが放った念導弾を真正面から受け止めながら、僕はその身で突進するかのようにブルンゲルの懐に飛び込んだ。
「僕と、リザくんを……っ! 舐めさせてたまるかっ!」
そいつの目の前で、高エネルギーと共に僕は頭突きをする。攻撃自体は直撃、有効打ではあるように感じた。
「……ふん、中々やるじゃん。ザコっていうのは訂正したげる。でも、もう限界でしょ? キミたちじゃぼくちんに勝てないね。最強のサーナイトと組んだぼくちんが、負けるはずがない」
しかし、その攻撃ではトドメには繋がらない。ドラメシヤたちに戻ってきてもらうには時間がかかる。もう相手の技を受けられる体力ではない。つまるところ、手詰まりになってしまった。くそ、くそっ……! このままじゃ、リザくんまで……! 戦闘不能にまで追いやられるかと思ったそのとき、僕とブルンゲルの間に炎が割り入った。
「ありがとな、パルト」
それは僕の名を呼びながら、炎エネルギーを巻き上げる。リザくんだ。リザくんの準備が整い、入れ替えが成功したようだ。その助太刀によって、ようやく僕は苛立ちで頭が埋め尽くされていたことに気づく。彼の身体に光が纏ったかと思うと、彼の身体が宝石のような煌めきを放つ。そう、テラスタルを使ったのだ。頭には悪テラスを目覚めさせた時特有の冠が出来上がり、滾る炎には煤黒が混じる。黒炎の支配者、と形容するに相応しい出立ちだった。
「俺もな、我慢ならないんだよ。お前が侮辱されてるのは」
その怒りを示すかのように、尻尾の炎が勢いよく燃え上がる。威圧感。いつも優しいリザくんには無縁なものだと思っていたが、目の前のリザくんは真逆で、それを全身から溢れさせていた。
「なんだい、仇討ちのつもり? そんな本気になったところで、お前らみたいなバカがぼくちんにかなうわけ……」
ブルンゲルが言い切るのを待たずに、ゴッ、と風を切る音。その後に僕のほほに熱風が掠める。飛んだ。そう認識するころには、リザくんの爪が敵に届かんとしていた。
「え?」
「……危ないところでした。次はもう、カバーできないですからね、ブルンゲル」
リザくんの攻撃はすんでのところでサーナイトに止められる。先の攻撃は、巻き上がる炎で呪いを跳ね除けながら、さらにその炎による熱風を利用し、《しんそく》と見紛う速度で飛んだのだ。そんなとんでもない速度の攻撃を受け止めきったサーナイトもまた凄まじく、見事ブルンゲルのダメージを無傷で抑え、継戦を可能とした。もし少し傷ついたブルンゲルがうけていればひとたまりもなかっただろう。それを見て、ブルンゲルは戸惑いながら尚も煽り続けた。
「ふ、ふぅん、さすがリザードン。逆境の時に溢れ出る猛火の力は伊達じゃないね。でも、ぼくちん攻撃に耐えられるかな!?」
乱打、乱打、乱打。サーナイトからエネルギーが補充されるたびに攻撃し、まるで弾幕のような攻撃を仕掛ける。だが、客観的に見れば、その余裕ぶろうとする言葉とは裏腹にやけくそ気味に放っているように見えた。
「いい筋はしてんな。ただ口だけの奴じゃなくて俺は嬉しいよ。けどあれだけの大口を叩いたんだ、まだやれんだろ……?」
「く、くそ、くそっ! お前たちしつこいんだよっ!」
その挑発に応じたブルンゲルと、激しい攻撃の応酬。若干リザくんが有利といえるが、それでも食らいつくブルンゲルの実力は確かなものなんだろう。だが、どうもその膠着しているかに見える戦いは、確実にこちらを有利にする戦いのようだ。飛び散る火花が僕に舞い落ちる時、みるみるうちに疲労が解消され、技を打つためのエネルギーが復活する。まだ、もう一回戦える。そう確信するほどだ。……そっか。僕がリザくんと組む理由。リザくんが僕にもたらしてくれるメリット。それは、この不滅の黒炎が、何度でも僕に力を与えてくれるからなんだ!
「リザくんっ! 僕にもう一度任せて!」
「……! おう、頼んだぜ!」
僕はリザくんと交代し、またブルンゲルと対峙する。アタッカー二匹だけど、僕らが組むことに意味がある。そう確信したからか、いつもよりも戦場が広く、ブルンゲルが慌てている様子を冷静に見ることができている気がした。
「なんだよお前も! もうボロボロだろ、さっさと倒れろよ!」
また、ブルンゲルの攻撃。先ほどすごく苦しんだ攻撃で、今も身体が重くなることには変わりない。だけど、さっきと違って、ブルンゲルの隙をハッキリと見ることができる。念導弾を低空飛行で潜り抜け、ブルンゲルの懐に潜り込み、そして技を放つ!
「えっ……?」
「《ファントムダイブ》……!」
「ぐわああぁっ!?」
至近距離でドラメシヤたちを全力で打ち出すと、ブルンゲルの身体にクリーンヒット。今までの攻撃よりも大きく手応えがあったように感じ、事実ブルンゲルはふらついている。それでもブルンゲルはしぶとく立ち上がり、再度攻撃を仕掛けようとする。
「ま、まだだ、まだ戦える……! お前たちなんかに、ぼくちんは……!」
「もう負けだよ、ガキ」
しかしそれに、誰かから制止がかかる。その声の主は、ブルンゲルの後ろにいるマシマシラの声だった。
「周り見てみろ。チェックメイトだ」
そう言って、マシマシラは近くにいたドラメシヤを撫でた。そう、その子は《ファントムダイブ》を使った際に打ち出し、後ろのマシマシラとサーナイトに追加で攻撃するつもりだったのだ。彼も気づいているのだから対応できただろうが、それでも負けを確信するような何かがあったのだろう。僕自身もかなり勝ちに近づくと踏んでの攻撃だったが、僕たちの状態を見て即座に負けと認めることができるほどに、彼はこちらを理解しているような……それが少し、不気味に感じた。もう少し冷静になれよな、と笑いながらマシマシラはそそくさとオボンのみを食べながら休憩所に向かった。
「くっ、くぅぅ……」
歯軋りをしながら、膝をつくブルンゲル。不承不承といった様子ではあるものの、漸くこちらに頭を下げた。
「まいり、ました……」
聞こえたのは、降参の声。そこでやっと理解する。あぁ、そっか。勝った、のか。ただの練習試合の勝利だが、僕は嬉しさで震えていた。
「失敗したと思うなら、次頑張れよ。お前、強かったからさ」
ニカッ、と爽やかに笑うリザくん。えっ、本当にリザくんすごい。あの煽りに煽ったブルンゲルにすら手を差し伸べ、助け起こそうとしている。なんて僕のリザくんは紳士的なプレイヤーなのだろう。その笑顔は悪魔ですら浄化しかねないほどのものに見えたのだが。
「つっ、次は、勝つ……! もう、お前らになんか負けねぇからなぁ!」
ブルンゲルはその手を払いのけ、休憩所に涙目で走り去っていった。えっ、なんでリザくんの手を払いのけたの? てか侮辱しておいてその態度は何? ブルンゲルの行動に血管がプツプツと切れかねないほどに苛立っていたが、リザくんが今の行動すら若いなぁと笑っているから、僕が騒ぐわけにもいかず、ただ口をへの字に閉ざしていた。そんなところに、サーナイトがやって来る。何用かと思うと、すぐさま頭を下げた。
「リザードンさん、ドラパルトさん。お二方にはご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「ははっ、全然気にしてねぇよ! 俺も分かるよ、あんな風に調子乗ってた時期あったぜ」
うぅ、僕は気にしてるけど。末代まで呪ってやろうかと思うほどにムカついたし、あんなことをしてきたサーナイト相手だから文句の一つ二つ言っても良いだろうとも思ってしまうが、リザくんが文句を言わないなら、それをおくびにも出さないように努めよう。そう思って僕は口を噤んだ。
「謝罪した手前で申し訳ないのですが、勝手なお願いをしてもよろしいでしょうか」
リザくんの言葉で頭をあげたサーナイトは、神妙な顔をしてそう言った。何を言うつもりなんだ、と僕は警戒するものの、リザくんは二つ返事でいいぜ、言ってみろと答えてしまっていた。
「これから大会までに入れていただいていた練習スケジュール、全てキャンセルしてもよろしいでしょうか」
それは、とリザくんも驚いて言葉を失う。サーナイトの性格はアレだが(リザくんは気づいてないかもしれないけど)、彼らのチームは昨日と今日のように、二日連続の練習にも付き合ってくれるほどモチベーションが高いチームだ。そんな彼らが今後全ての練習をキャンセルなんてなかなか考え難いが、反対に相応の理由があるのだと、嫌が応にも理解させられた。
「これ以上あなたたちと戦うと、私たちの対応力を上回る実力になる。そう予感しました。恐らく情報戦などの搦手しか勝ち目がないので、次の大会まではあなた達と対戦は控えさせていただきます」
なんて自分勝手な理由だと思うが、練習というのは自身のチームが勝つためにするもの。サーナイトたちが敵に塩を送るような行為だと感じるのであれば、僕たちにはその辞退を止められはしない。それをリザくんも理解していたのか、快諾していた。
「おう! じゃあそっちはそっちで頑張れよ! 次は大会でバトルしような!」
「ありがとうございます。それでは」
そう言いながら、サーナイトは僕のそばに近づいて来る。何か用なのかな、と訝しげにしていると、彼は僕の耳元に顔を寄せてきた。
「ドラパルトくん。次は叩き潰しますよ」
そう囁かれ、僕はビックリする。その顔を見てみると、その表情は敵意に溢れていた。一見すると、彼みたいな得体の知れないポケモンにそんな敵意を示されたことは、少し怖いと感じる。だけど、彼がどんなポケモンだろうが、強いポケモンに僕たち二匹でライバル視される。そのことに僕は少し、誇りに近い何かを感じていた。
「……やれるものなら。僕たちも負けませんから」
そう言い返すと、サーナイトは目を丸くしながら、《テレポート》でその姿を瞬時に消した。一瞬見えた口元は笑っているように見えたが、果たしてそれにはどんな感情が含まれているのかまでは計り知れない。気づけば、僕はリザくんと二匹っきりになっていた。
……そうだ。僕は、リザくんに言わなきゃいけないことがあるんだった。もしかしたらリザくんはっもう誰かと出るとか、色々予定が決まっているかもしれない。まだ練習で組みたいというだけなのかもしれない。だから断られてしまうんじゃないか、そう考えてしまう。でも、そんなことで諦められないほど、理由ができてしまった僕は、一つの願いを募らせていた。
「ねぇ、リザくん」
「ん? どうした、パルト?」
「き、今日のバトル、ありがとう……。リザくんがいなかったら、勝てなかった」
「はは、チームメイトなんだからお互いにカバーしあうのは当然だろ? それにお前が耐えてくれたし、最後の攻撃も決めてくれたから勝てたんだ。そんな礼を言われることはしてねぇよ」
そうベタ褒めされたのは、嬉しい。けど、まだ伝えたいことは伝えられてない。ここで言わなきゃ、僕はそうしたいと決意したんだから。
「そ、それでねっ! おねがい、したいことがあるんだけど……」
言葉が詰まる。息が、苦しい。喉が渇く。胸の鼓動がうるさくて仕方ない。寒くもないのに身体が震える。緊張、してるんだ。でも、それほど大切なことなんだ。僕には、この想いを伝えることが。そう思うと、どうにか口にする勇気を保つことができた。一つ、息を吸って、息を吐いて。リザくんに向き直ると、蒼い瞳がこちらを見つめて、僕の言葉を待っている。意を決して、僕は口を開いた。
「今度のチームバトル……一緒に、出ませんか。僕、リザくんと組んで……優勝、したい、です」
初めて口にできた、僕の願い。リザくんの表情を伺うと、その言葉を待っていたかのようにリザくんは微笑み、拳を僕に向けて差し出した。
「おう、よろしくな」
一際爽やかに笑うリザくん。恐る恐る、僕はリザくんとグータッチを交わす。……照れくさい。だけど、嬉しい。他の皆と比べては小さな、小さな一歩かもしれないが、僕にとっては大切な一歩だった。別々の道をそばで歩いていた僕たちは、ここでようやく交わったのだ。
[newpage]
「えへへ〜、ねぇねぇメシヤ達。僕、リザくんとペア組めたよ〜」
「良かったね、おにいちゃん!」
お家への帰り道、僕はドラメシヤに自慢しながら飛ぶ。だって、ずっと好きだったリザくんが僕と組んでくれるって! これからいっぱいリザくんとバトルできると思うと、ワクワクが止まらない。……いや、本当はもっと踏み入ったことしたいけど。手をつないだりとか、キスしたりとか、その……抱いて、もらったりとか。でも、リザくんはバトルに熱中してるんだし、それをサポートできるだけでも、僕には誰彼構わず自慢したくなるほど嬉しいことだった。
「おうおう、やけにご機嫌じゃん、ウジパルトさんよ」
そんな僕の元に、不幸を呼ぶ鳥が現れる。反射的に僕はむっとした表情を浮かべてしまいつつも、今日だけは自慢してやろうと意気込んだ。
「なんだよピジョット。今の僕に何言っても効かないよ? なんてったって僕は……」
「リザとペア組めた。だろ?」
「そうそう、だから相方争いは僕の勝ちってわけ!」
「あーそうだな、おめでとう。これでいいか?」
「なんだよ、気にしてないアピール?」
いつものような飄々とした態度を崩さないピジョットに、僕はすこしだけムッとする。こんな時まで余裕があって、子ども扱いして、なんだか負けた気分。それで不貞腐れているのも、また笑われてしまう始末。不服に思いつつも、そういえばと僕はピジョットにも言わなきゃいけないことがあることを思い出した。
「でも、その……ピジョットが助けてくれたから、エールをくれたから……リザくんと組む勇気を持てた。それだけは、その……あり、がとう」
しどろもどろになりながらも一応ピジョットに礼を伝えてやる。ピジョットになんて礼を言いたくないけど、助けてくれた上に助言をもらって、それで礼を言わないほどの不義理はできないと思ってしまったのだ。一瞬ピジョットは意外そうに驚くような表情をするものの、すぐさまニヤリといつもの鬱陶しい表情に戻った。
「……ははっ、それでいいんだよ。お前は素直な方が可愛いぞ〜?」
「う、うるさい! ピジョットに可愛いなんて言われたくない!」
「へへ、照れてる照れてる〜」
揶揄わないでよ、と怒ってみるも効果はないようで、ピジョットは笑うのをやめない。うざったいなと思いつつも、ピジョットに恩義を感じているのは間違いない。今日だけは、少しぐらい調子づかしてやってもいいかな。
「しかし、ちょっと疑問に思ったんだけどよ」
そう思っていると、ピジョットは僕にこう質問を投げかけてきた。
「お前、今日なら作戦会議とか打ち上げとか銘打ってリザと一緒に居られただろうに……なんで帰って来てるんだ?」
……あ、確かに。言われてみれば、晴れてペアを組むんだし、その記念で食べに行ったり、家にまたあげてもらってこれからの方針を立てれたかもしれないのに。その機を逃してしまったと気づくと、ピジョットの口から空気が吹き出る音が聞こえた。
「ぷぷぷ、ペアになっても好機をじゃんじゃか逃すなぁ、ウジパルト! 明日はちゃんと言い訳作って泊まってこいよ! じゃあなっ、うじ虫パルト!」
「ううぅ、うるさぁいっ! クソ鳥、バカ鳥、アホ鳥っ! もう二度とお前なんかにお礼なんか言ってあげないもんねぇっ!」
やっぱり、ピジョットのことなんて大嫌いだ。ちょっとでも隙を見せたらメチャクチャ煽ってくる最低なアイツに気を許した僕が愚かだった。もう二度とコイツに隙を見せてやらないから。僕は笑い声を背に、帰り道を一匹で辿る。今夜はすぐにふて寝したのは、言うまでもなかった。
[newpage]
「ただいまー」
月明りがさす夜の中。玄関をノックしてそう口にすると、家の中からドタバタとした音が聞こえる。少し年季の入ったドアが軋む音をあげながら、家主は僕の目の前に姿を見せる。
「お前、帰ってくるときは連絡寄越せって……」
「いいじゃん別に。顔見たくなったんだもん」
どさりと荷物を適当に置くと、全くお前はいつも、と文句を言いながらも整頓して部屋に持って行ってくれる。ぼくよりもバトル大好きな戦闘狂なのに、こういうところはしっかりしているのはどうしても面白く感じてしまう。
「あ、夕ご飯はいつものやつで!」
「はいはい、すぐ作るから待ってろ」
小気味いいカット音を奏でつつ、じゅうとお肉の焼ける音が聞こえる。この音を聞くと帰ってきたんだなと実感する、ぼくの大好きな音だ。カコカコと卵を溶く音を鳴らしながら、ケチャップの香りが漂い始める。ぼくの大好物のオムライスが着実に完成していく匂いで鼻孔を満たすべく、深く息を吸うと、嗅ぎなれない匂いがベッドから漂っていることに気づく。
「……ねぇ、誰か泊まったの?」
「あぁ、昔からの親友ドラパルトが泊まりに来たんだ。それがどうかしたか?」
「ふーん……なるほどね」
ドラパルト、かぁ。どんな奴かは知らないけど、一度会わないといけないなぁ。もし何か邪なことを企んでいるなら……一体どんな目にあわせてやろうか。出来上がったオムライスにケチャップの紅をかけながら、ぼくは明日を心待ちにしていた。