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狼ケモヒーローが堕ちてく話。 その6-Eルート(終)
救出に失敗、もしくは自分を失っているようなら。
下された命令は。
握りつぶす。何があったって、あの人はきっと。
「ハウルさん!頼む、止めてくれ!」
狼からくりだされる激しいラッシュをいなしながら牙は叫ぶ。
届け。届け。届け。
「どんな時でも!あんたは!諦めたりしなかったはずだ!何があったって!俺達と一緒に戦って!」
狼の重い拳が牙の腹を貫いた。
「ごはっ…!」
胃液と血液が混じりあった液体が逆流して牙の口から吐き出される。
膝をつきそうになるが…留まり、キッ、と狼を睨みつける。
理性のない、濁った瞳。
そこにまだ。
ヒーローが残っている事を信じて。
牙は。叫ぶ。
「あんたは…何のために…戦ってたんだ…!答えろ!ハウル!」
牙をむき出し。血管を浮かび上がらせて。
牙は叫ぶ。
狼の動きが、止まった。
僅かに瞳に光がともる。届け。届け。届け。届け!
「弱いものを守るために戦っていたんだろう!?一人で泣いてる奴がいないように!そんなことさせないために!だったら!今あんたがすることはこんなことじゃねぇはずだ!そうだろ!答えろ!ハウル!正義のヒーロー!ハウル・イェーガー!!!!」
たった一人で、孤独に泣いていた自分を助けてくれたのは。
あの眩しい笑顔を見せてくれたのは。
牙の瞳を濡らすものは。
「おれ…は…ッ!」
狼の―いや、ハウルの瞳に、確かに光が宿った。
それは。正義に燃える。ヒーローの瞳に宿るものだ。
そうだ。俺のやるべきことは。
「ォォォォォォッッッン!!!」
ハウルは遠吠えを上げると自らの顔面を殴り飛ばした。
びしゃびしゃと勢い良く血が飛び散る。しかし、その表情は。
「悪い、牙!」
「ハウルさん!」
ハウルの言葉に牙は目を輝かせ、希望の声を上げた。
「≪正義のヒーロー≫、ハウル・イェーガー!只今参上!って、こんな姿で言っても格好つかねぇよな。」
と、ハウルは少し恥ずかしそうに―いつもと同じように―笑う。
正義のヒーローは今。
口から溢れる血液を拭い、牙は立ち上がった。
二人のヒーローが並び立つ。それに狐はぎりっ、と歯軋りをした。
「貴様ぁ…!」
「今までありがとうよ、ご主人様。御代は…この拳で、きっちり払わせてもらうぜ?」
ハウルは不敵に笑いながら拳を突き出した。
狐はその表情を憤怒にゆがめたまま指を鳴らした。
黒い空間がぐにゃり、と歪み紫色の光が浮かぶ。
ヴン、と音がした後に歪んだ空間に居たのは。
ヒーロー団の中で危険視されていた存在。
「俺のお別れパーティーの為にわざわざ呼んでくれたのか?その≪オーガニックガロン≫をよ。嬉しいねぇ。嬉しくて涙が出てくらぁ。」
≪オーガニックガロン≫と呼ばれたそれは狂喜の光を宿した瞳で二人を睨みつけるとビリビリと空間を震わせるような遠吠えを上げた。
しかし二人は意に介さない。ハウルは肩をすくめた。
「なんて余裕ぶっこいてはいるが…俺もそろそろ限界って奴だ。牙。…いや。ビーストブラック。俺が隙を作る。とどめはお前に任せるぜ?」
「了解!」
ハウルが一歩前に踏み出すと、牙は一度変身を解いた。
そして、もう一度構える。
「させるか!いけっ!」
グォォォォォ!!
狐の命令に≪オーガニックガロン≫はハウルに襲い掛かった。
ひらり、とそれをかわし脇腹に拳をねじ込む。
ごがぁっ、と鈍い音が鳴り響くが、≪オーガニックガロン≫はそんなこと構わず腕を振り下ろした。
その腕を両手で防ぐと…ハウルの体が地面に少し沈んだ。
「グッ…!さすが、ヒーロー殺しなだけあるな…!」
その衝撃にハウルは苦悶の表情を浮かべる。
が、すぐに頬を吊り上げた。
自分を鼓舞するために。
「牙!頼むぞ!」
「…変身ッ!WAKE UP!」
ブレスレットが激しく光を放つ。
「奴を止めろ!」
何かに気がついた狐が素早く命令を飛ばすが…≪オーガニックガロン≫はピクリとも動かない。
いや。
「おいおい、俺のお別れパーティーなんだ、俺と踊ってくれよ。」
にぃ、とハウルは笑った。がっしりと≪オーガニックガロン≫の腕を掴み離さない。
光が止んだ時。そこにいたのは、先ほどまでと何も変わらないように見える牙。
しかしその手には紫色に鋭く光る刀が握られており。
正義に燃える光が彼の瞳を明るいものにしていた。
「俺は…希望と!愛の!ヒーロー、仮面ビーストブラック!DX!」
勇壮に叫ぶ彼に、ハウルは笑った。そして叫ぶ。
「行けッ!ビーストブラック!!」
「ォォォォォォォ!!!!」
たんっ、と跳躍する音。牙は鋭く≪オーガニックガロン≫を睨みつけ…
そして刀を振るった。
「DX…スラッシュ!」
紫色に光る刀がその光度を上げると…粒子がふぁさぁ、と広がり≪オーガニックガロン≫を押さえつけているハウルを通り抜けた。
直後、刀の姿を取り戻し、≪オーガニックガロン≫の腹を切り裂く。
ゴガァァァァァァ!
大量の血液を噴き出し、二人の体を汚す。苦悶の遠吠えを上げ≪オーガニックガロン≫は膝をついた。
「まだまだッ!おわんねぇぞ!!」
膝をついた≪オーガニックガロン≫をハウルは殴り上げる。
ガゴン、と鈍い音が響いて≪オーガニックガロン≫は仰向けに倒れていった。
「とどめだッ!ビーストブラック!」
空中に飛び上がった牙にハウルは叫んだ。
刀の頭に右手を当て、全ての体重をかける。
「DX…クラッシュ!!」
そして牙は≪オーガニックガロン≫の心臓めがけて着地した。
凄まじい衝撃が基地を揺るがす。上がった土煙が全てを隠して。
それがはれた時。倒れる≪オーガニックガロン≫と。
「さて、ご主人様?パーティは終わりでいいか?」
不敵に笑うハウルと。
「ハウルさん、まだパーティは終わってないですよ。」
刀をぶんっ、と振るいしまう牙。
狐は歯軋りをした。牙は一歩狐に近づく。
「ひっ…!」
自分自身は戦闘力を持たない狐は短い悲鳴のような声をあげると尻餅をついた。
牙はそんな狐の目の前に立ちその胸倉を掴みあげる。
「そう、ハウルさんのご主人様…彼の歓迎パーティが、ね。」
「おう、それもそうだな。さて、行こうぜ?ご主人様。」
狐を締め上げると彼は意外とあっさりアジトの居場所を吐いた。
まぁ、ヒーロー十数人に囲まれればそうもなるだろう。
ちなみに今彼は、ハウルにぶっとばされぴくぴくと痙攣しているところだ。
「牙。」
マスクを外し、素顔を晒すとハウルは牙に話しかけた。
牙もブレスを外し振り返る。
「どうしました?」
「その、よ。今回は、本当に、すまなかった。後ちょっとで、俺…」
背筋を少し丸め申し訳無さそうに謝るハウル。
牙はにっ、と微笑みハウルに抱きついた。
「わぶっ!?」
「正義のヒーローが、そんな顔してちゃ駄目でしょ?ほら、アジトは分かったんだ。行きましょう。」
牙の行動に目を白黒させていたハウルだったが…すぐに不敵に笑った。
「…そうだな!行くぞ、牙!」
「はいっ!」
二人の戦いは、まだ始まったばかり。
しかし、それに終わりが来るのはもうまもなくだろう。
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