約束を忘れ故郷の村に帰らなかった鷲人が、かつての子分、今は鷲肉ジャンキーになった烏人と幼馴染の雀人に復讐され、捕食されるお話
一匹の[[rb:鷲 > ワシ]]人、降り立つ先は何やら寂れた村のご様子。
「……ノーザン?
「ノーザンじゃないか?
「なして?」
そう問いかけるんは[[rb:雀 > スズメ]]人。 [[rb:鷲人 > ノーザン]]の[[rb:幼馴染 > スズラン]]にございます。
「あぁ、《クロティエス》がやられたと聞いてな?」
「……言うことは、この村のことも聞いとんの?」
「……あぁ」
クロティエスいうんは、この2匹と親しい、[[rb:烏 > カラス]]人にございまして、昔この地~いや空域とでも言いましょうか~ここに幅を利かせる烏の長がおったとき、その討伐を共にした言わばノーザンにとって可愛い子分のようなものでございました。
その長を討伐してからというもの、この空域はその[[rb:烏人 > クロティエス]]が仕切っとった。 そのように風の噂で耳にしたもので、しばらくはこの[[rb:鷲人 > ノーザン]]もすっかり安心しきっとったもんですが、先日の伝聞は……。
あぁ、これは[[rb:鷲人 > ノーザン]]も申します通り。
しかしながら、その4文字であらわすには足りない程嬲られ、死に追いやられたとのことです。
彼だけではなく、ここに暮らす過半数が烏たちもまた。
そしてその仇は今、この烏たちを支配下におき、雀人の暮らすこの村から生贄を差し出すよう言うて来たとか。
「そか。
「とりあえず、村長とこ行こ?」
そう[[rb:雀人 > スズラン]]に案内されるまま、この地の[[rb:英雄 > ノーザン]]は[[rb:雀人 > スズラン]]の言う村長んとこへ向かいました。
生贄に選ばれたんがスズランなんは少々驚いたものの、そのほか伝聞に違わぬ状況を聞いたもので、必ず烏人の長を討伐する。 そのように誓いを立てるのでございました。
ただ、ほんの少々、[[rb:鷲人 > ノーザン]]には気がかりなことがあったようです。
何やら村長を見るに、どこかおどおどした様子で、必死に村長らしく、そのように振舞おうとしている様子が伺い知れました。
むしろ、[[rb:雀人 > スズラン]]の方が堂々としており、村長の如き貫禄があったように見受けられたんです。
この時は、村長になったばかりなんかなと気に留めんかったのですが。
さて、明日の出発に備えていくつかの準備を行なった後、夜には宴も開かれます。
こんな状況の中元気そうな顔をする村人たちを見て「存外逞しいのだな」と彼らを心配していた[[rb:鷲人 > ノーザン]]は少し安心します。
彼らを見て心が和んだのか、はたまた眠り薬でも盛られたのか、この日はいつもより速く床に着きました。
その日はある夢を見ました。
「来年の夏祭りには帰って来いよ?」 [[rb:鷲人 > ノーザン]]がこの地を旅立つ時、[[rb:烏人 > クロティエス]]と交わした約束。
結局の次の年は帰ることができずに、そのまま十年程会うておりません。
約束を破って、謝ることもできないままだったことにようやっと気づきました。
朝になると何やら村が騒がしゅうございました。
村人一人捕まえて、聞けば《スズラン》がさらわれたいうではありませんか。
幼馴染がさらわれたいうからには、流石の[[rb:鷲人 > ノーザン]]も焦りがでましょう。
この村の違和感に気づくことは決してありませんでした。
もし彼がいつも通り、さらわれた状況や手口など、冷静に調べることができたとしたら、この村の雀たちもボロを出したことでしょう。
そこから烏人の群れへ一匹飛び込んで行った[[rb:鷲人 > ノーザン]]ですが、何やら襲って来た烏人たちを見れば、何やら昔馴染みの者ばかりに見受けられます。
しかしながら、烏人たちも[[rb:鷲人 > こちら]]を敵とみなして攻撃してくるので、避けては隙を見て気絶させる他ありません。
とはいえ、鳥人同士の戦い。 それは空中戦に他なりません。
気絶させるにしても致命傷にならない様な低い高度から地面に堕とす飛鳥があります。
もし、烏人の群れが知り合いばかりでなければ、もう少し[[rb:鷲人 > ノーザン]]もやりやすかったことでしょう。
空中でのぶつかり合い、炸裂する脚蹴り、組手の如く、翼を使っての間合い調整が繰り広げられる中、流石英雄といったところか[[rb:鷲人 > ノーザン]]は一羽、また一羽とかつての烏人を気絶させます。
しかしながら、数に分がある烏人には一苦労。
そんな最中の事でした。
何やら矢のようなもの……いや、様ではなく間違いなく矢が掠め、羽が数枚ひらひらと舞って行きます。
それがどこから飛んできたんか、よう目を凝らして視認せんとすれば、そこにいたのは雀人それも[[rb:幼馴染 > スズラン]]に他ありませんでした。
援護か思うたんですが、二射目も自分に向けて放たれたもので、戸惑う他ありません。
スズランに気を取られている内に、ガシりと翼を掴まれます。
巧く体を捩じり振り払わんとするときに、その姿を見てしまいました。
自分の翼を掴んだんは、死んだと耳にしたはずの[[rb:烏人 > クロティエス]]に他ありませんでした。
勿論、状況が呑み込めません。
村のモノたちがグルだった可能性、つまりは自分が罠に嵌められた可能性にようやく思い至る[[rb:鷲人 > ノーザン]]ですが、偶然立ち寄った名も知らぬ村ならいざ知らず、自分を罠に嵌めんと、それに加担しているのは[[rb:幼馴染 > スズラン]]と可愛い可愛い[[rb:元子分 > クロティエス]]だったのですから。
「ッ何故だ!!!」 一旦着地し、話を聞かんとする[[rb:鷲人 > ノーザン]]ですが、烏人たちにねじ伏せられます。
組み伏せられたまま顔を上げ、きっと睨みを利かせ、理由を問う[[rb:鷲人 > ノーザン]]を見下ろすように、目の前に[[rb:烏人 > クロティエス]]そして[[rb:雀人 > スズラン]]が立ちはだかります。
二羽をよく観察すれば、堂々とした様子で、他の誰かに命じられて動いた様子もなければ、むしろ他の[[rb:烏 > カラス]]たちはこの二匹に従っているように見えます。
生贄や新たな長の噂も、全部意図的に流された嘘だったようです。
となれば、確実に標的は自分です。
ですが、[[rb:鷲人 > ノーザン]]の知っている二人は、そのようなことを企てる人物ではなかったと記憶しています。
かつてこの地の英雄とも呼ばれた[[rb:鷲人 > ノーザン]]もこれには小さな震えが止まりません。
それを知るのが怖かったからです。
そんな[[rb:鷲人 > ノーザン]]を見やりながら、[[rb:烏人 > クロティエス]]はクチバチを開きます。
「へへっ、英雄サマの武勇伝もこれでオシマイのようだな?」
問いへの返事はなく。 簡潔に敵対を示す台詞。
ですが、問い詰めるほかありません。
「……今は親愛なる友としての問いを聞いて欲しい」
しばし静寂、いやむしろ目と目が合う緊張が走った後のこと。
烏人は怒りの感情を押し殺すように嘴を開きました。
「……待つの疲れたんだよ」
「はっ?」
拍子抜けしたように「それだけ?」とでも言いたげな[[rb:鷲人 > ノーザン]]の表情に[[rb:烏人 > クロティエス]]は益々機嫌を悪くします。
そんな烏人に変わって、見かねた[[rb:雀人 > スズラン]]はこの数年の月日を[[rb:鷲人 > ノーザン]]に突き付けます。
「何そないな顔してるん?
「あんた[[rb:烏人 > クロティエス]]と最後に話したときの約束ちゃんと覚えてくれとる?」
かつて[[rb:烏人 > クロティエス]]は凄く[[rb:鷲人 > ノーザン]]をよう慕っとりました。
あの時の約束、つまり夏祭りのあの日に帰ってくることを心待ちにしておりましたが、結局約束の年、[[rb:鷲人 > ノーザン]]が現れることはありませんでした。
その次の年も、そのまた次の年も、[[rb:烏人 > クロティエス]]は[[rb:鷲人 > ノーザン]]を待ちました。
しかし、いつまで経っても帰って来ません。
自分がノーザンにとって大切な存在ではないのではないか。
そう思いはじめたのは5年ほど経ってからのことでした。
そんなある日、ノーザンとは別の鷲人がやってきました。
同じ種類の別の鷲です。
そいつはノーザンを英雄視して、烏人や雀人を見下してこの地を支配しようとしましたが、烏人と雀人が力を合わせて仕留めました。
そんなときです。
クロティエスがその鷲人の肉を頬張る時、ノーザンのぬくもりを思い出がくっきりと甦ってきました。
しかし、それも一時しのぎ、その鷲人の肉を食べきってしまうと、再び虚しさが訪れます。
それからというもの、クロティエスは周到にノーザンと同じ種類の鷲人を狙うようになりました。
スズランは、クロティエスの異変に直ぐに気付き、すぐ止めようとしましたが、クロティエスの鷲人の肉への執着が消えることはありませんでした。
それを見ていたスズランも次第にノーザンを憎むようになります。
そもそも鷲人が襲って来たのも、この地でノーザンが英雄視されたからではないか。
もはや何もかもノーザンのせいにして、ノーザンを憎むことでしか、自分の大切な友人が狂気に堕ちていく姿に耐える術がなかったのです。
そんなある日のことです。
ノーザンがまだ生きているとの知らせを聞いた二人は、ノーザンが裏切ったのだと確信し、憎きノーザンを狩る計画を立てたのです。
この地の住民もまた鷲人の肉を好んでいたので、彼らに協力しました。
もはやこの地においてノーザンは英雄ではなく、一羽の獲物でしかなくなっていました。
「……なぁ?
「本物のノーザンはどんな味をするんだろうな?」
かつての可愛い子分、彼がもはや自分をただの獲物としてしか見ていない。
その事実をまざまざとわからせられ、もはや恐怖でどうすれば生き延びれるかも考えられなくなったノーザン、その姿にはもはや英雄としての気概は感じられません。
あるのはただ、捕食者の罠に嵌まり絶望に震える獲物のみじめったらしい姿でした。
もはや必要ないと感じたのか、いつの間にか烏たちも組み伏せることをやめていました。 ノーザンは、座ったまま後ずさりします。
「……そうだなぁ?
「可哀そうなノーザンに一つチャンスをくれてやろう?
「一対一で勝負しねぇか?」
自分が子分と幼馴染をここまで変えてしまった事実に、打ちひしがれているノーザンにはもはや烏たちから逃げる気力を持ち合わせていませんでした。
一対一であれば、鷲の方が分がありますから、ここは乗る他ありません。
しかしながら、一対一で戦う気力すらもあるかは難しいところです。
「へへっ、天下の英雄サマがカラス一羽と一対一の決闘にすらも恐れをなして逃げ出すなど、地に落ちたものだなぁ?」
もういい、いっそ殺してくれ。
そう思ったとき。
「なぁ? 最後に英雄らしいところ見せてくれよ?」
その一言に、昔の懐かしい思い出がよみがえります。
クロティエスによく、英雄らしいところ見せてくれとねだられたっけ……?
鷲人がようやく力を振り絞りクロティエスに向かっていこうとしたとき、後ろから爪で翼を引き裂かれます。
あまりの痛みに、暫く声にならない喘ぎ声をあげるほかありませんでした。
「本気で一対一で戦ってくれると思ってたのか?
「お笑い草だぜ」
「……てめぇ、獣人としての誇りはどうしたんだよ?」
「約束を破ったお前と同じことをしたまでだ!
「ここがお前の墓場だ!
「お前はここからどこにも行けることなく、ここで終わるんだ!!」
クロティエスがその嘴で翼にかぶりつく。
先程の爪撃でボロボロになっていた翼を嘴でいたぶり、少しずつ破壊して行く。
それはまるで伝聞で聞いたクロティエスの最期のようでした。
今思えば、ノーザンへの宣戦布告だったのでしょううか。
「飛べなくなっちまえば、こっちのもんだ。
「なぁ、この後どうなるかお前ならわかるよな?」
「お願いだ!!!オレが悪かった!!!
「こんな死に方だけは御免だ!!
「助けてくれ!!」
「ここの村人は鷲肉が大好物なんだ。
「例えオレが許したとして、残りの奴らが、目の前の獲物を見す見す逃すと思うか?」
「……今更命乞いなんて聞きとうない!!」
クロティエスばかりか、スズランにまで失望を突き付けられ、すっかり、打ちのめられた鷲人。
「わかった……諦めるから、せめて最後にクロティエスのぬくもりを感じさせてくれ……」
「ぬくもり……? もう俺様に組み敷かれているじゃねぇか?
「それとも、鷲狩りに取りつかれた訳を知って、ぬくもりという言葉でも気が変わるとでも思ったか?」
「こんなの……ぬくもりじゃない……!!!」
そう必死に絞り出すも烏人に一瞥され、震えあがってしまいます。
もう何もこの烏には届かないのか。
そう思ったとき、ふいに何か柔らかいものに包まれる感覚がします。
翼です。 烏人の翼が鷲人を包み込んでいました。
「勘違いすんなよ。
「生かしておくわけにはいかねぇからな?」
鷲人はその時、ようやく優しい眼差しに再開できました。
自然と涙がぽろぽろ流れ、何度も、何度も、烏人に謝り出します。
鷲人はもはや泣き疲れて眠ってしまうまでの命ではありますが、烏人はそれまでずっと包み込んでいました。