獣人ヒーロー、悪に堕つ 第4話「イビルフロッグの実験 〜怪人化改造〜」
「この度の不手際……このアイアントプス、大変に……不甲斐なく感じており……」
ここはタイラント帝国軍基地。
10年前、獣人どもの惑星ティアースを征服すべく異次元より襲来したワシらが最初に侵略し陣地とした国に建てられた本拠地である。
この基地の最上層に置かれた帝王の間でワシは笑いをこらえていた。
ワシはタイラント帝国・科学将軍イビルフロッグ。今、ワシは主君である帝王ダイナス様が座る玉座の前でひざまずいていた。
「3匹のザコどもは口ほどにもありませんでした……しかし……あのアクアマスターが出てきたばかりに……ワタシめの作戦が崩れ……」
ワシの隣で無骨な鎧を纏ったアイアントプスがひざまずき、地面に着きそうなほど頭を下げたまま先の作戦の失敗を報告している。
自慢の角はキレイに切断されたまま、そのデカいだけが取り柄の体を小刻みに震わせていた。
……いいザマだ。
日頃からコイツの態度には業を煮やしていた。筋肉に脳を支配され、暴力を振るうことばかりを考える、この[[rb:愚か者 > バカ]]め……ワシの考えた作戦に従わず、考えなしにヒーローに戦いを挑んだ挙句、返り討ちに合い、今まさに醜態を晒しているのだ。
笑いを堪えろという方が無理というものだろう。
「もうよい。アイアントプスよ……将軍たる貴様がこのような情けない姿を晒すなど、あってはならぬこと。その無様に切り落とされた角が生え変わるまで自室での待機を命じる」
「そんな……ダイナス様ッ!!」
「口答えは許さぬ。早く余の前から消え去れ」
「……はは」
ゆっくりと立ち上がったアイアントプスは、帝王の間をすごすごと後にした。
玉座に座る帝王ダイナス様は不機嫌そうに鼻を鳴らしていた。
巨大な体躯でワシらを見下ろす様は、まさに覇王たるに相応しい威厳を醸し出している。
アイアントプスが帝王の間から出ていくと、ダイナス様はその鋭い視線をワシに向けて来た。
「さて、イビルフロッグよ。貴様はどのような報告をしてくれるか?」
「ゲロロ、タイラント帝国軍の戦力増強のため、獣人の捕獲および改造を着々と進めておりますゲコ。獣戦闘員は100匹を超えており、すでに様々な作戦に従事させておりますゲコ。怪人化改造も成功例を増やしており、先日は捕らえたカンガルー獣人を改造して、獣怪人16号『パンチカンガルー』を誕生させましたゲコ」
ワシは淡々と事実を述べた。
ワシとアイアントプスはタイラント帝国の将軍職……ナンバー3に位置している。
将軍にはそれぞれ役割が与えられており、
武力将軍であるアイアントプスが領地拡大、科学将軍であるワシが戦力増強であった。
ヒーロー達の抵抗もあり、領地拡大はここ2年 遅々として進んでいない様子でダイナス様を苛立たせる要因の1つとなっていた。
しかし、戦力増強は順調そのものであった。この10年に及ぶ侵略戦争の中で、ワシは数百体に及ぶ獣人を捕らえ、研究・実験を繰り返し、獣人を怪人もしくは戦闘員へと改造して、タイラントの戦力に組み込む技術を確立させていた。
「イビルフロッグよ、下賤な身分のキサマを科学将軍に徴用した余の采配は間違っていなかったようだ」
ダイナス様は先ほどとは打って変わり満足気な表情を浮かべられた。
タイラント帝国には種族による身分の序列が存在している。
ティラノサウルスやトリケラトプス等の太古の昔、ワシらの母性を跋扈していたと言い伝えられている恐竜をベースとした[[rb:爬虫人類 > レプタイル]]は高い身分を、ヘビ、ワニ、トカゲといったワシらの母星でかつて爬虫類や両生類と分類されていた生物をベースとしたレプタイルは低い身分を生まれ持ってして与えられていた。
……特にワシの種族であるカエル型レプタイルは、その中でも最下層として忌み嫌われ、差別される存在であった。
タイラント帝国軍に徴兵されたばかりの頃、ワシ自身の非力さ、この醜い姿……そして、カエル型レプタイルの習性である『ゲコ』という語尾の滑稽さ故に、軍の中でも陰湿な虐めを受け続けていた。
特に、身分の高い恐竜型レプタイルからは理由なき暴力や屈辱的な行為を受けてきたが、それを率いていたのが若かりし頃のアイアントプスであった。
ワシはその理不尽な扱いに怒りを覚え、ヤツらへの下剋上を誓ったのだ。
必ずやこの帝国軍で上の地位に就き、コイツらを見返してやろう……と。
そのための武器としたのがワシの頭脳だった。
技術部に配属なったワシは、タイラントが数多の異次元の惑星に仕掛ける侵略戦争で必要となる戦力拡大の方法を考えた。
母星から戦力を送り込むにも限度がある。
その問題を解決するには戦力の現地調達が必要であった。
その問題を解決するため、ワシは洗脳装置、戦闘員改造種、怪人化薬を開発してきた。
結果として、ワシの開発品は幾多の惑星における侵略戦争をタイラントの勝利に導いた。
その功績を認められ、ここ惑星ティアースの侵略戦争の最中、ヒーロー・アクアマスターに敗れた将軍・スパイラルリヴァイアサンの後釜としてダイナス様から将軍職を任命され、今に至るのであった。
「どうかしたか、イビルフロッグ?なにやら黙り込んでおるが?」
「ゲココ、この後に控えるスカンク獣人の怪人化改造のことを考えておりまして……ダイナス様の御前で申し訳ありませんゲコ」
過去を思い返していたところで突如ダイナス様に声をかけられ我に返り、取り繕った返答をした。
ダイナス様はワシの取り繕った返答に訝しげな表情を浮かべられた。
危ない危ない……ここで機嫌を損ねられてはアイアントプスの二の舞いだ。
「まあ良い。それよりもイビルフロッグよ。問題は忌々しきあのヒーロー共よ。我々が持ち得ない奇怪な力を操る[[rb:彼奴 > きゃつ]]らにアイアントプスもだいぶ手を焼いているようでな」
「ヒーローの力……その力は『ガイア』と呼ばれるようゲコ。ご安心を、陛下。その力、我らタイラントに取り込む算段をすでに付けておりますゲコ」
「なんと……まことか、イビルフロッグ」
「はは。そのためにも新たな怪人を作る必要がありますゲコ。次に御前に参る際には、その『ガイア』の力を帝王様に献上しましょうゲコ」
「二言はないな、イビルフロッグよ?仮にキサマがそれを成功させた暁には、今は空席となっている総督の地位をくれてやろう」
思わず耳を疑った。
総督……タイラント帝国軍のナンバー2の地位に当たる階級を下賤な身分であったワシにくださろうと言うのか。
あの愚かなアイアントプスを見下すことができ、いままでワシを馬鹿にしてきた下等な者共を見返すことができよう。
「過分なお言葉、身に余る光栄ゲコ……このイビルフロッグ、必ずや成功させ、タイラントに勝利をもたらしましょうゲコ」
ワシは内心の興奮を押し殺し、努めて冷静に返事をして謁見の間を後にした。
権力に取り憑かれている自覚はある。
だが、それの何が悪いのだろうか。所詮は地位や身分が人を人たらしめるのだ。
自分を見下してきた者共の上に立ち、逆に見下したい……その陰湿な野望こそがワシの原動力となっていた。
「そうとなれば、早く成功させねばいけないゲコ……『ヒーロー怪人化作戦』を……ゲロロロ……」
そう独りごちながら、ワシは自身の実験室に向かうのであった。
[newpage]
実験室中央に設置された手術台には、ふさふさとした黒と白の毛皮、痩せ細った体格、大きな尻尾を生やしたスカンク獣人が寝かされていた。
獣人達の中でも、いわゆるゴロツキがたむろするスラム街を戦闘員に調査させていたところ、路地裏に倒れているコイツを発見し、拉致してきて今に至る訳だが、口元からは強烈なアルコール臭が漂っており酩酊状態にあるのは明白であった。
長年路上生活していたのか、毛皮には饐えたような臭気が染み付いていたが、それ以上に時おり放つ[[rb:おなら > ・・・]]は戦闘員数名を気絶させる程の臭いで研究所に連れ帰るのに難儀したと報告を受けている。
ワシは戦闘員に実験台に運ばせ、捕らえたスカンク獣人に様々な検査を実施した。
身体能力は平凡であること、スカンクの特徴である肛門の両脇にある肛門腺から噴出される分泌液が強烈な臭いの元であること、それをガスとして噴出ができること、そして、ずば抜けて高い怪人化適性を持っていることがわかった時、ワシはおもわず笑みを漏らしてしまった。
怪人は戦闘員よりも強大な力を持つ個体であるが、すべての獣人を怪人にすることは不可能だ。
怪人化の素質を持つモノでなければ、怪人に改造することができないことがわかっている。
戦闘員へ改造した個体は100匹を超えたが、怪人へ改造した個体は16匹しかいないのが、その証拠である。
怪人化の素質……それは、なにがしかの大きな「負の感情」を持っていることが1つの要因ではないかとワシは推測していた。
ここしばらくは怪人化の素質のある個体を見つけられていなかったが、千載一遇とも言える個体を発見した喜びにワシは狂気した。
コイツをワシの最高傑作としてやるゲコ……
ワシはそれから万全の準備を整え、改造当日を迎えた。
[newpage]
「んっ……んぁ?こ、ここはどこだぁ?」
栄養失調で飢餓状態に陥っていたスカンク獣人――今後は素体17号と呼称する――に栄養剤と睡眠薬を点滴し、今日まで寝かしつけてきた。
怪人化手術を目前にして点滴をやめたことで、素体17号は ここに連行されて初めて意識を取り戻した。
「なんだぁ……おら、路地裏にいて……腹減って倒れちまっただぁ。どうしてさ、こんなところに」
目を覚ました素体17号は暗い路地裏を彷徨っていたはずが、不自然なほどに明るい一面の白に囲まれた部屋に拘束されていることに不安を覚えている様子だった。
『ゲコーゲコーマイクテスト、マイクテスト……聞こえるゲコか?怪人素体17号よ』
「だ、誰だぁ!?ど、どこからさ声を出してるだぁ?」
実験室の天井に備え付けられたスピーカーから聞こえるワシの声に怯える素体17号の滑稽な様子に思わず声を出して笑ってしまった。
「ゲロゲ〜ロ!そう怯えるなゲコ。オマエは今からタイラント帝国の怪人になる手術を受けるゲコ!何も怖がることないゲコ〜」
「た、タイラント帝国……あの侵略者かぁ……おらが怪人に?何を言ってんだべ!」
どこか緊張感がない間の抜けた素体17号の声だったが、本能的にこれから自分がされることを察知したのか、なんとか拘束を抜けようと体をジタバタと動かそうとした。
しかし、金属のベルトによって両手両足を手術台に縛られた体では、それも叶わない様子であった。
『そう怖い顔をするなゲコ、素体17号。どれ、まずはその緊張を解してやるゲコ』
スピーカー越しに素体17号に声をかけながら、目の前の装置のスイッチを押す。
すると、白い天井に無数の穴が開き、そこから艶めかしいピンク色の触手が現れれば素体17号に向かって飛びついていく。
「さっきから素体17号ってなんてだぁ!おらの名前は、毒島……おっ、おおぉぉお?」
チュルチュルチュルチュチュルチュル♡
クチュチュルルルルルチュルルルルチュルルルルウルルルルル♡
ピチャピチャクチュクチュピチャピチャクチャ♡
素体17号が何か言いかけたが、そんなことはどうでも良かった。触手は瞬く間に素体17号の腕に、脚に、顔に、腹に、股間へと伸びていき、巻き付いていく。
獣人の研究を続けていく内に、獣人もワシらレプタイルと同様に性欲を有していることがわかった。
怪人化手術をスムーズに行うには、素体を性的快感に依存させ、怪物化薬に抵抗する精神を堕落させることが必須であることもわかった。
そのためにワシが作ったのが、この触手生物であった。獣人の性感を高めることに特化し、対象の性感帯を的確に刺激していくこの生物をワシは実験室の天井裏で飼っていた。
「なんだこりゃぁあああ。ヌルヌルした触手が……おらに絡みついてぇぇ……うおっ……おおっ……んんほぉぉぉ……♡」
最初こそ抵抗の意思を見せていた素体17号であったが、性的経験が乏しかったためか触手が与える快感に次第に酔いしれていくのが手に取るようにわかった。
ヌルヌルチュルルルルル♡ヌルルチュルチュルルン♡チュッチュチュッチュチュチュ♡チュルルルルルルル♡クチュクチュウゥゥゥ♡ニュルルルルルルルルルン♡
触手生物は快感を増強させる分泌液も纏っており、触手は口や肛門、尿道にすら入り込み、分泌液を塗りたくっていく。
「ああぁっっ!♡なんだぁぁあ♡こんなのさ、おら、知らねえ♡やめて♡やめてくれれれぇぇぁああっああああぁぁ♡」
ズル……ズリュリュリュリュ…♡ニュルルルルルルルルルン♡クチュッ…チュルルルルン♡ジュルンジュルンジュル♡ビッチョビッチョビッッチョ♡
ある触手はマズルを開かせて口内を蹂躙し、またある触手は肛門をまるで女性器のように扱い抜き差しを繰り返していく。
細い触手は尿道口に入り込み、この惑星の雄が味わったことがないであろう快感を素体17号の脳に植え付けていく。
「ひぎゃああ♡うごぉぉぉおお♡んだべぇぇ♡はあぁぁ♡はあぁぁぁ♡」
目からは涙を、マズルの先は鼻水を垂らしながら、もはや言語にならない声を発する素体17号。
すでに股間の性器は大きくいきり立っており、今にも射精寸前という様相であった。
『いい眺めゲコォ!素体17号よ、気持ちよかろうゲコ?オマエが怪人になれば、この快感を毎日のように味わうことができるゲコよ』
「快感……♡快感……♡でも、怪人……いやだべぇ♡怪人になんてなりたかないぃ。誰か……誰か、おらさ……助けてくれぇぇ」
どうやら未だ自我が残っているようだ。
生への執着というべきか……ワシは1つ揺さぶりをかけてみようと思い至った。
『誰か……ゲコか。ゲロロ、オマエを助けてくれるような存在……オマエらが言うところの『トモダチ』『ナカマ』と呼べる存在はいるゲコか?』
「うっ……」
素体17号の表情が気色ばむ。図星を突いたようだ。ワシはスピーカー越しに揺さぶりを続けていく。
『長い間、路上生活をしていたんだろうゲコ?その毛皮に染み付いた饐えた臭いが物語っているゲコ。誰からも手を差し伸ばされず、孤独に生きてきたんじゃないゲコか?』
「そ、それはぁ……んおっ♡ふあぁぁぁぁああああ♡」
ワシの言葉に耳を傾けさせながらも、触手による快楽の刺激は止めない。
そうして、ワシの声を聞くのが快楽であると刷り込ませていくのが1つの目論見でもあった。
「どうしてそんなことになったのか……訳を話してみろゲコ」
「はあぁ♡はあぁ♡うぅふ♡♡おら達、スカンク獣人族は……この臭いのせいで……はぅ♡街を追われ、田舎の集落でしか……生きられなくなったべ…はぁ♡オラは田舎暮らしがイヤで……街に出たんだが……何にもうまくいかなくて……はぅ♡気づいたら、金も、人も、全てを失って……あっ……あうぅ……ううぅぅぅ」
『……ゲココ』
素体17号は先程とは違う理由で涙を流していた。悲しみ、怒り、屈辱……様々な感情が綯い交ぜになったその涙をワシは知っていた。
ワシ自身、コイツの告白に驚きを覚えていた。
この平和な惑星ティアースにもタイラント帝国と同じ様な差別があるのだ。素体17号、コイツはワシと一緒ではないか。
なんだ……この惑星も醜悪ではないか。
『素体17号よ、この惑星の獣人が憎いゲコか?』
「うっ、うぐぅぅぅ……お、おらは…」
スイッチをもう一度押して、触手の快楽責めを止めさせる。
『オマエを迫害しているにも関わらず、多くの獣人どもは平和な暮らしを謳歌し、不都合なことには目を向けようともしない……!そんな獣人どもが憎くないゲコか?』
「憎い……憎いべ……おらぁ、子どもの頃からこんな世界おかしいって……壊してやりたいって……思ってたべ」
「ならば……ワシらと共にこの惑星を破壊するゲコ。その力をワシがオマエに与えるゲコ。タイラントの獣怪人17号……スメルスカンク、それがオマエの新たな名前ゲコ」
「おら、なる……!タイラントの怪人になって、この惑星を……破壊する!」
素体17号の生気の抜けていた瞳に暗い炎が灯っていく。今、コイツの中に眠っていた憎しみという負の感情が爆発したのだ。
この瞬間を待っていた。ワシがもう一度スイッチを押すと、触手生物が再び素体17号を責め立て始める。
チュルチュルチュルチュチュルチュル♡
クチュチュルルルルルチュルルルルチュルルルルウルルルルル♡ピチャピチャクチュクチュピチャピチャクチャ♡
「おおっ♡おほおぉぉぉ♡はあ、はあぁぁ♡触手〜しょぐしゅき”も”ぢぃぃべぇぇ♡」
ジュルンジュルンジュルン♡チュルルルルルルル♡ジュポッジュポッ♡クチュクチュジュルッルルルルルルルル♡シュッルルルルルル♡
「おらぁ、もうダメだべぇぇ♡イッちまうべ……!いっ、イイッ……イイイイイィィィ♡」
大の字になって寝かされ、天井に向けてイチモツをそびえ立たせた素体17号。
尿道に侵入していた触手が射精の予感を感知して引き抜かれていく。そしてーーー
ドピュ!!!!
ビュルルルルルルルルルルルル♡ビューーーーーーーーーーーー♡ドクドクドクドクドクドクドク♡ビュルルルルルルル♡ビュルルルル♡ボタッ……♡ボタッ……♡
天井に向けて放った獣精は、自由落下で素体17号自身の体に降りかかっていく。肩で息をして恍惚とした表情を浮かべる素体17号を確認したワシは先程とは違うスイッチを押した。
触手生物が天井に戻っていき、それに交代するように手術台から幾重ものチューブが飛び出してくる。チューブの先端は針になっており、素体17号の首筋、腕、脚、胸の血管に刺さっていく。
『喜ぶゲコ、素体17号よ。オマエは今まさに怪人になるゲコよ。ワシの手足となり、差別してきた愚か者どもに共に復讐を果たそうゲコ』
意識が朦朧としている素体17号にワシの声が届いたかはわからない。それはワシ自身にも言い聞かせる言葉だったかもしれないが、今はどうでも良かった。
ワシがもう一度スイッチを押すと、毒々しい緑色の液体がチューブを流れ出し、素体17号の体内に注入されていく。
注入されたのはワシ謹製の『怪人化薬』だった。注入されれば、体の組織やDNAすら書き換え、獣人を怪人へと堕とす劇薬だ。
「あっ♡あうぅ♡体が……体さ熱いべぇ……
あぐぅぅぅ!おっっ…………おあああああああああ!」
素体17号が恍惚とした表情を浮かべながら呻き始める。
怪人化薬が体を書き換えていく反応には僅かな快感と大きな苦痛が伴うようで、この段階で命を落としてしまう個体もいるほどだった。
しかし、快楽に堕ち、自らの意思で怪人になりたいと望んだ素体17号の変貌はいままで例がない程スムーズに進んでいった。
ふさふさとした黒と白の毛皮は、ゴワゴワとした針金のような硬さを帯びていき、生気の宿っていなかった瞳はギラギラとした邪気を孕んだ紫色の瞳に変わっていく、両手足の爪は鋭く尖り、口元からはスカンクの獣人に似つかわしくない牙が生える。
何より大きく変わったのは、食事もろくに摂れずにやせ細っていた体からは考えられない程にぶくぶくと膨らんでいく腹だった。
「うがぁ……ウガァァァアアアッァアアア!」
腹の膨張と共に腕と足の筋肉も膨張し、素体17号を拘束していた金属のベルトを壊れてしまう。
そして、怪人の証である角質化した額―角―が顕出するのを最後に素体17号の変貌が終わりを迎え、新たな獣怪人17号が誕生した。
最後の仕上げとばかりに、実験台から伸びてきたアームが怪人の胸元に焼印を刻んでいく。
ジューッと毛皮と皮膚が焼ける音と共に、タイラント帝国軍の紋章と管理番号「B M ーNo.17」とタイラント帝国の所有物である証が体に刻まれた。
『獣怪人17号よ、直立不動で立つゲコ』
ワシはスピーカー越しに最初の命令を下した。洗脳装置も使わずにここまで怪人化がうまくいったのは初めての事例であった。
本当にこの怪人化手術は成功したのか?ワシ程の天才科学者ですら一抹の不安を覚えてしまったが、それは杞憂であった。
拘束具が壊れて、自由を取り戻したにも関わらず獣怪人17号はワシの命令に従って立ち上がると猫背気味の姿勢をピンとさせ、両手を腰に付けた。
『怪人としてのオマエの名を名乗るゲコ』
「は!オラは獣怪人17号……臭害怪人スメルスカンク!タイラントの忠実なる怪人でアリます」
[newpage]
スメルスカンク改造手術から1ヶ月が経った。
その間、スメルスカンクには思想矯正プログラムを用いて、タイラント帝国の常識や知識を教え込んだ。
獣人の意識が強く残る怪人や戦闘員の中には抵抗を示す個体もあったが、スメルスカンクは獣人への未練がなかったこもあり、新たな常識をすんなりと受け入れた。
さらに、スカンク獣人の特性であり怪人になって強力な武器へと成り変わった尻穴からの「ガス噴出」を様々な作戦に対応できるようにするため、スメルスカンクの大きく膨れた腹に多種多様な効果のガスを発生させる装置を外科手術で埋め込み、体内で尻穴に直結させた。ーーーコレがワシの次の作戦に欠かせないピースとなるのである。
危険な手術であったが、ワシに絶大な忠誠を誓っているスメルスカンクはワシの申し出を二つ返事で受け入れてくれた。
怪人としての能力、忠誠心、便利さ……獣怪人17号は、まさにワシの最高傑作の怪人であった。
ワシは敵要塞攻略作戦を成功に終え、基地に戻ってきたスメルスカンクを訪ねた。
「獣怪人17号『スメルスカンク』よ。今回の作戦、首尾よく行ったようゲコね。さすがはワシの最高傑作ゲコ!」
「ゲヘヘ……オラは臭害怪人スメルスカンク……怪人の力っでのは強くテ、ソレにナンテぎもぢいぃだぁ。オラを怪人にしてくれて、ありがとうダベ、イビルフロッグ様」
褒められて表情を緩めたスメルスカンクであるが、その口からは創造主であるワシすら顔をしかめたくなるような口臭が放たれており、ワシはおもわず水かきがついた手で口元を覆ってしまった。
「あっ、イビルフロッグ様〜。すまねぇ、オラの息、臭かったべか?」
「き、気にするなゲコ。その臭いがオマエの強さの源なのだから……ゲコ。さて、オマエに次の作戦を命じるゲコ。キサマの能力を使って、ヒーローの1匹を捕獲するゲコ!」
「ヒ〜ロ”〜?あのティア・ガーディアンズっていう組織のかァ?」
「その通りゲコ。獣戦闘員1号、5号、30号、69号、101号、ここに来るゲコ」
「「「「「イ"ィ"ィ"ィ"ィィィィ」」」」」
ワシの呼びかけに応じて、外で控えていた5体の獣人……だったモノが駆け寄って来る。
「コイツらは獣戦闘員。オマエの命令に忠実に従う手下ゲコ。コイツらを暴れさせてヒーローをおびき出すゲコ」
目元と口元以外は全身黒タイツに覆われており個性も何もない獣戦闘員だが、胸元に白く刻まれた管理番号と獣人のシルエットだけが個体を見分けられる要素であった。
ひときわ体が大きく、黒タイツから白いマズルを覗かせた元・白熊獣人であった獣戦闘員1号が、つかっと一歩前に出て敬礼のポーズを取る。
「イィィィィィ!イビルフロッグ様、カシコまりまシタ。本作戦でワレワレはスメルスカンク様に従イマス!」
「オマエらがオラの部下かァ〜。よぉーし、ヒーローを捕マエテ、ミンナでエロいコトするべ〜!」
「「「「「イィィィィィイィィィィィ!」」」」」
高らからな奇声と共にワープゲートが開き、スメルスカンクと獣戦闘員達は目的地へ転移されていく。
さあ、これからが本番だ。
忌々しいヒーロー共よ。その力をワシが闇に染め上げてやろうぞ。
第5話「彼の問題」に続く