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降涙恋慕 下

  ※不死断ちエンドの後日談その2

  ※弦→←←←狼からの弦狼

  ※狼の乙女乙女が加速する

  ※おきのどくですが砂糖は小川に流されました

  [newpage]

  薬を塗られて早七日。傷は随分と良くなっていた。裂けた皮膚は元通りに、腫れは引いて痛みもない。完治した、と言えばそうかもしれないが、二つほど、新たな問題を生んでいた。

  (…違う)

  それは弦一郎に薬を塗布された当初から感じていた、雷撃が全身を這うような、忘我の境地に至れそうな、形容しがたい感覚を一人では味わえないことだった。

  (手指が長くなければ駄目か)

  狼は真剣に悩んでいた。毎日が生殺しの苦痛であったため、薬を塗られた後はそっと弦一郎の目の届かぬ場所でひっそりと己の昂りを鎮めていた。それは単純に、性器を手のひらで包み扱きあげるだけのものだが、これとはまた別の快楽にあたる境地に達したいのだ。それがどうやらこの尻穴の中にあるようだが、狼はどうしてもその場所を探り当てることが出来なかった。

  そのうち、いい歳にもなって何を求めているのか、急に羞恥の念に襲われて我慢した日もあったが、どうにも忘れることができずにいる。

  そしてもう一つが、治療と称して毎晩尻穴をほじくられていたため、傷は治れど以前より尻の締りが緩く感じられることだ。厳密に言うと、以前よりも広がるようになった、と言う方が正しい。弦一郎の二指程度は易々と飲み込めそうである。以前城下で襲われたあの日、己が目にした光景は、男の反り立つ一物を一方の男の尻穴に深々と突き入れていたところだ。そして入れられた方の男が、まるで女のように嬌声をあげて腰を振っていたことも。いつか自分も、一物を咥えられるほどには尻穴が広がるのだろうかと怖気付く。ただ同時に、全身を揺すられ突き入れられたならば、己の求める境地に至れるのではと期待もした。

  (やはり届かぬ)

  一息ついて、濡れた指先を抜いた。水浴びの終わりにこうして己の尻穴を探る日々が続いたある日、弦一郎は突飛にして狼を誘う。

  「狼、温泉へ行くぞ」

  そう言って狼を連れ出し向かったのは、所謂秘湯と呼ばれそうな場所のようで、こんこんと湧き出る源泉は肌に触れてもさほど熱くはなかった。透明のようでいて薄白のような、若干の濁りが伺える水面を手で掬い上げる。温泉独特の硫黄の良い香りが鼻腔を抜けた。

  「暫くここを湯治場とする」

  「はい」

  「このような山奥、おいそれと踏み入る者も居るまい。お前の傷が完治するまでの間、居座るつもりだ」

  「…御意」

  弦一郎は膝を鳴らして立ち上がると、近くに建つボロ屋を寝床にすべく片付けに取り掛かった。

  ボロであれど小屋があるということは、以前誰かが同じようにここを湯治場として使用していたのだろう。質素な造りのあちこちには随分と埃が積もっていた。

  一通り片付け終えると、次は湯浴みの準備に取り掛かる。弦一郎は終始てきぱきと動き、あっという間に準備を終えた。もとから手際の良い男であったが、生活を共にするようになってからはそれらが加速していった。狼が最低限のことしかしないのに対し、弦一郎はある種の拘りがあるようで、納得を得るまで体を動かす違いがある。変若をその身に取り込んで、見た目こそ変われど真面目な本質はそのままであることに、狼は可笑しく思っていた。

  これらに気付けるほどに、今の世は平和でいて、そして寂しい。

  「行くぞ」

  布一枚を肩にかけ、弦一郎が先を歩く。その大きな背中を見て、狼はふと疑問に思う。

  (なぜ弦一郎殿は、あれこれと手を焼いてくださるのか)

  よくよく考えれば、他人の、それも男の尻に指を入れて薬を塗るなど、普通ではないだろうに。なぜこの男はそれを平然と行い、更にこのように連れ出すのか。

  そう言えば昔、主を変える気はないかと問われたことを思い出した。

  (もう、忍びでも何でもないと言うのに)

  左腕の先に触れる。義手を付けていた頃は外すたびに皮膚に締め上げた痕が残っていた。今やその痕も消え失せるほどに、忍びとしての己の価値は無くなってしまったのだ。だのになぜ、あの男は傍にいてくれるのだろうか。嬉しく思う反面、そんな男に少なからず劣情を抱く自分がいることが、尚更恥ずかしい。

  (俺が居なければ、弦一郎殿も自由に生きられるのでは)

  女を娶り、子を成して、幸せになれば良いだろうに。そこに自分など必要ない。そうだ、なにも自分でなくとも、弦一郎殿はもっと幸せになれるはずなのだ。

  「何をしている」

  狼がはっとして上を向くと、眉間にシワを寄せた弦一郎が被さるようにして覗き込んでいた。

  「少し、考え事を」

  「ほう。俺を待たせるほどのものか」

  「いえ…すみませぬ」

  「………、持て」

  そう言って渡されたのは、小さな猪口と酒瓶であった。それから弦一郎は、どうにもその場から動こうとせず、察した狼がしぶしぶ歩き出すとようやくその後について歩き出した。

  「そういえば、お前とこうして湯に浸かるのは初めてだな」

  「…はい」

  「して、何を考えていた?」

  「大した事にございません」

  「良い。言ってみろ」

  「………」

  「ん」

  手渡された猪口を一息で飲み下す。もうやめよう。目の前の男を自由にしてやろう。狼は空になった猪口を湯船の縁に置くと、真っ直ぐに弦一郎を見た。

  「弦一郎ど」

  「言っておくが、 俺はお前の傍から離れるつもりはないぞ」

  狼はぽかんと口を開ける。何を言おうとしていたのか、弦一郎の一言に、続く言葉も思考も吹き飛ばされてしまった。

  「お前が逃げようが隠れようが、俺は何処までもお前を追いかけるからな」

  「…長く、貴方の傍に置いて頂きましたが、よもや貴方の隣にはこんな草臥れた男でなくとも」

  「狼よ。これほど時を共にして、まだ俺が御子に頼まれたからこうしているとでも思っているのか」

  「…は、それ以外に何が…」

  「一々言わねば分からぬのか」

  焦れたように、弦一郎は頭を搔いてから猪口を一気にあおって空にすると、適当な虚空へ放り投げた。そうして、開いた口が塞がらない狼の右腕を掴むと、無理やり自分の方へ引っ張った。大きな波紋と飛沫を上げた後、狼の体を自身の太腿に座らせる。馬乗りになった狼がたじろぐ様に笑みを浮かべつつ、薄く汗ばんだ首筋に唇を落とした。

  「俺はお前を好いている」

  それはまるで背筋に雷撃を受けたように狼の全身を痺れさせる。

  「俺はお前を傍に置いたのではない。お前の傍に居たのだ。履き違えるな」

  「……それは、」

  「傍に居たのは俺の意思だということ。お前と共に居たかった」

  触れた唇から零れるこの低い声が、狼の首筋の薄い皮膚を震わせる。ぞわぞわと這い上がる感情は、確かに悦びを孕んでいた。

  それでも、纏まらない思考が必死に拒絶をする。

  「…俺に、そのような価値はございませぬ」

  「居ればそれで価値がある」

  「………っ、ど、」

  「変わらず愛いな、お前は」

  「な、」

  「お前は俺をどう思う?」

  狼は思わず声がしゃくれて上擦るほどに慌てていた。返ってくる視線の熱さを真っ向から受け止められず、逃れるためにあちらこちらへ飛び跳ねる。どう、とは、どうなのだ?と、頭の悪い問答をしていたが、よくよくもう一度思い返してみると「好いている」という言葉の意味が妙に腑に落ちた。それは弦一郎が自分に、ではなく、自分が弦一郎を、だ。そうか、これが御子とも義父とも違う想いの正体だったのかと、改めて知ってしまうと、喜び半分、恥じらい半分に胸が高鳴った。

  (同じ気持ちであったのか)

  無意識に口元が緩みそうになるも、もごもごと動かして何とか誤魔化そうとした。素直に喜べばいいだろうにと弦一郎は思っていた。まこと、言葉より雄弁に語る顔面である。

  しかし狼も、このまますんなりと認めてしまうのは自尊心が黙っていなかった。せいぜい焦らしてやろうと策を練るが面白いほど何も思い浮かばない。それもそうである。色恋沙汰において、あまりにも知識も経験も不足しているからだ。駆け引きなど、命以外で取り扱った試しがない。

  どうしたものかと悩み果てている傍らで、百面相の狼を楽しげに眺めていた弦一郎は、そろそろ限界であった。弦一郎は分かっているのだ。もとより答えは一つ。相思にして相愛。だから尚更、早く狼の口からその答えを聞きたかったのだが。

  「げ、弦一郎殿…」

  「何だ」

  「俺、では、子は成せませぬ」

  「………は、子…?」

  「っ…はい、貴方は、子を成せる女人を娶って、生きるべきです」

  「なぜだ」

  「それが貴方のっ、幸せにっ、げ、弦一郎殿、」

  首筋にちくりと痛みが走る。それは一つ二つと増えていき、まるで花弁を散らしたかのように皮膚を朱く染めていく。

  「どう返ってくるか待っておれば…お前、随分とくだらぬことを言う」

  「くだらなくはございませぬ。俺では、」

  「誰が女子供を欲しがっていると言った」

  「ぐ…」

  「もう少しましな言い訳を述べろ」

  弦一郎はほんの少しだけ苛立ちを指先に込めた。逃げられぬようにと掴んだ腕と腰に指がめり込む。狼は顔を歪めて短く息を漏らした。眼前に弦一郎の顔が近づく。捉えられた瞳は、恐れて濡れた。そこに普段の優しさは消え失せて、獣のような獰猛さを覗かせる。本能が臆し、悦んだ。『喰われる』と。

  それは単純に期待であった。秘めた欲望を言葉にする勇気はない。しかし今、同じ欲望を弦一郎の瞳の奥に見てしまったのだ。

  「もう十分待った」

  「……………」

  「知っているぞ。お前が隠れて己を鎮めていたことも」

  「……っ、それは、」

  「本当は、俺が欲しくてならんのだろう?」

  薄白で見えない湯の中で、狼は期待に膨らんだ己の猛りに何かが当たり、びくりと肩を揺らした。それが同じく弦一郎の猛りであることに気付いたのは一瞬のことだ。弦一郎が興奮している。他でもないこの自分に。それがより狼をも興奮させた。勝手に尻が浮き始めて、しかし弦一郎の手で押さえつけられる。湯の波に緩く揺られて、互いの猛りが柔らかく触れ合っていた。

  「俺はお前を好いている故に、こうしたい。嫌なら跳ね除けよ」

  「そ、んな、」

  「だがもし、同じ思いなら…同じ思いであるなら…俺を受け入れて欲しい」

  弦一郎が大きな手で合わさった二つの鈴口を撫で回す。そのまま掴んでゆっくりとに上下すると、狼は顎をあげて絶句した。意図せず追い詰められる快楽に、思考はすぐにどろりと溶かされてしまった。

  「なあ、狼よ」

  「…う、ぅ、」

  「お前は随分と寂しがり屋だが、」

  「……は、」

  「俺も存外、寂しがり屋であったようだ」

  弦一郎は唇を狼のそれに寄せる。駆け引きをするような距離で止めて、少しだけ顎をしゃくる。狼が合わせて顎を上げると、初めは僅かに触れる程度に口付けた。啄むように何回か触れて、狼の顔を見やる。物足りない表情に満足してから、再び唇を重ねると、そこからゆっくりと舌を伸ばし入れて絡ませた。互いが互いを吸い尽くすように。言葉で語れぬ思いを伝えるように、何度も何度も舌を擦りあった。

  「お前が誰かに取られるのは以ての外、俺が誰かのものになれば良いと言うお前にも腹が立つ」

  呼吸の合間に、弦一郎は続ける。

  「互いが互いと居れば良いではないか。それをお前は踏みにじろうとした。俺が居るのにだ。俺には、お前しか居ないのに」

  また悲痛な表情をさせてしまったと、狼はぼやけた頭で思った。いつしか瞳の中の獣は消えていて、割り入る舌も、まるで擦り寄るような口付けに変わっていた。

  狼は、気持ちを言葉にすることが苦手だった。それでも今は伝えねばと、沈んだ弦一郎の目を真っ直ぐに射る。その視線は濡れていて、恋寂しい、構ってと溶けて揺らいでいた。

  「狼」

  「貴方が、欲しいのです」

  狼は尻を浮かすと、前のめりに体を寄せた。片腕ではふらつく体を何とか平行に保つぐらいしか出来ず、他のことは弦一郎へ任せるしかなかった。

  弦一郎の指がするりと尻穴を撫でる。二三、指の腹で啄くと、そのまま一本、何度か前後してもう一本指を差し入れる。

  「日々の賜物だな」

  「……おやめください」

  「入るぞ」

  指を抜き、自身の一物に手を添える。鈴口が菊門を探し、少し窪んだあたりに触れると、狼の片方の腰骨を掴んで力を込めた。

  「ん、ぅう」

  無理に広げられる感覚に、いつぞやの吐き気を思い出したが、嫌悪はなく、寧ろもっと奥へと入って欲しくて自ら腰を落としていった。

  弦一郎の物は、指などとは比較にならないほど圧迫してくるのだが、その分熱も与えてくれる。狼は少しずつ自分の中に入ってくる弦一郎に、全身を粟立てて悦んだ。やがて狼の尻たぶがとすんと弦一郎の肌に落ちて、ようやく全てを収めることが出来たと喜んだのも束の間、小刻みに律動され、狼はえも言われぬ快楽に思わず声を漏らした。

  「あ、あっ」

  下から臓物を突き上げられて意識を手放しそうになる。律動に合わせて無造作に己の一物が揺れて、鈴口からは透明な汁を滲ませ、同じく薄白の湯に溶けて消えた。両足を思い切り左右に広げて、弦一郎を味わう。ふやけた脳が、快楽の一点を貪欲に探し求めていた。

  「げんっい、ちろ、ど」

  「はは、自分で腰を振るか」

  「は、ぁ…善う、ござい、ます」

  「で、あろうな」

  狼は己が求めるままに腰を振り続けた。否、止められなかった。ばしゃばしゃと湖面を揺らしながら、しっかりと弦一郎を咥えて離さない。がくがくと好き勝手動く様は、さながら壊れたガラクタのようだった。

  弦一郎はしかし、独り善がる狼の両の尻たぶを鷲掴むと、勢いよく自分の腹の方へと押し付ける。

  「ゔっ」

  「…っ、どうだ狼、これで全てだ」

  狼が味わっていたのは、弦一郎の全てではなかった。弦一郎は暫く好きな様にさせてはいたが、最後の一息ほどが入っておらず、耐えかねて無理やり突っ込んだのだ。息苦しい。腹の一部がぼこりと形を変えるほどに、弦一郎は狼を文字通り串刺していた。

  何か、越えてはいけない所に入り込まれて、狼は自身の下半身の感覚が失われたように錯覚していた。何が起きたのか理解が追いつかないでいるも、このまま弦一郎に好き勝手されると今度こそ意識を失うと本能が警鐘を鳴らす。はくはくと短く呼吸しながら、途切れかける意識を何とか保っていたが、言う事を聞かなくなった狼の体はそのまま弦一郎の胸元目掛けて倒れ込んだ。

  「まだだ」

  弦一郎は狼ごと体を反転させると、ぐったりと力の抜けた狼の体を湯から引き上げ地面に置いた。狼の朦朧とした意識は終始どこか他人事のようにされるがままだったが、突然杭を引き抜かれた穴は、閉まることなく物欲しそうに蠢いている。そんな狼を横向きに転がすと、片足を掴み上げて肩に乗せた。弦一郎は青筋がくっきりと浮き出るほどに腫れた己の一物に手を添えると、半開きの狼の穴目掛けて思い切り穿った。

  「あ゙っあっ」

  「ああ、善い。狼。もっと、もっとだ」

  「、げ、んいぢ、ろ、どの」

  狼の目は蕩け、視線が散っている。口角から零れた涎が頬を伝って地面へ垂れる。まるで平手打ちでもされているかのように、皮膚の打ち当たる音が辺りに響く。ばちん、ばちんと叩くような音は、やがて狼の尻を紅く腫れさせた。弦一郎が中を抉る度に、狼の下腹部が歪に尖るのだ。ここに居るのだと言わんばかりに見せつけられ、快楽の波と共に、我慢を強いた後の排尿の解放感を得たい感覚がせり上がってきていた。いよいよ視界も薄くぼやけて、叩く音がどこか遠くから聞こえ始めた頃、狼は大きく全身を痙攣させた。もはや声は出せず、息を詰まらせながら数回震えた後、自身の一物の先端から静かに小水を零し、白目を向いて気を失ってしまった。

  狼が次に目覚めた時、どうやらあのボロ屋に寝かされていたようだった。体に羽織りを掛けられており、辺りは薄暗くなっていた。起き上がろうと足に力を入れるが入らない。腕に力を込めるが起き上がれないうえに、猛烈に腰が痛んだ。何が起きたのか、狼はゆっくりと思い出す。そうだ、湯治に来たはずだった。もう俺は要らないだろうと話をして、傍に居たいと言われて、それから、それから…。思い出すのも途中で憚るほど、狼は顔を真っ赤にして俯いた。

  (やってしまった)

  弦一郎の思いも全て、己の体の最奥で受け止めたのだった。あれほど激しいとは予想だにしていなかったし、あの後どれほど抱かれていたのか一切の記憶はないのだが、先程起き上がろうと腹に力を込めたことで、尻穴からはどろりと濃い白濁の汁が多量に流れ出てきたのを目の当たりにして察した。己が気絶している間にも、この体は弦一郎に貪られ、幾度も中に熱を吐かれたのだと。妙に愛おしくなり、流れ出た精液を指で掬って舐めた。どうあっても、震えるほどに不味かった。

  「起きたか」

  声のした方へ視線を向けると、全身を濡らした弦一郎がこちらへ歩いてきた。

  「無理をさせた」

  「………いえ。……湯浴みに?」

  「ああ。お前も入り直すといい」

  「…動けませぬ」

  「はは、すまん」

  狼の横に腰を下ろした弦一郎は口元を緩めながら、寝そべる狼の腹を摩った。

  「お前の中が、あまりにも善くてな」

  「…………」

  弦一郎がもう一度笑う。寝そべる狼の眼前には、先程まで猛々しいく腹の中で暴れていた弦一郎の物が、くたりと大人しく座っていた。途中で気を失ったことを申し訳なく思い、また、己の中の劣情が静かに再熱し始めるのを感じて、無理やりにでも上体を起こすと、大人しい弦一郎のそれに頬を寄せた。弦一郎はびくりと肩を揺らす。萎んでいるはずなのに、見た目からも質量を感じるほど立派なそれを、狼は啜るようにして口に咥えた。

  「おい…」

  「まだ…足りませぬ」

  尻から精液を溢れさせている狼はしかし、更に弦一郎の子種を求めた。もっと腹を満たして欲しくて、慣れない淫口を探り探り続けた。次第に熱く硬度を持ち始めた弦一郎の先端から、透明に近い汁が滲み出る。それは少し苦く、少し塩辛い。狼は丁寧に滲み出る鈴口に舌を割り入れて、零さないよう飲み下した。

  「…何処で身につけた」

  「これが初めてです」

  「嘘を申すな」

  「それ程善いですか?」

  「……チッ」

  認めたくはないばかりに、弦一郎は分かりやすく舌打ちをした。が、体は正直に反応し、そしてそれは臍に付くほど峭立した。

  狼の目は再びとろりと蕩けた。中に欲しいが体が動かない。もぞもぞと動いてみるものの、体勢を変えることは叶わなかった。

  「力を抜け」

  「…申し訳ありませぬ」

  「よい。その代わり早々に気をやるなよ」

  狼の足元に移動すると、両手で狼の太腿を持ち上げ、未だに白濁を零す穴へと鈴口を添えた。穴の界隈を行ったり来たりと滑り遊んでから、ゆっくりと穴の中へと侵入する。

  再びじわじわと圧迫感が狼を襲う。せり上がってくる感覚はどうにも慣れないが、先程とは違い余裕があるのか、情事の弦一郎の表情をまじまじと見ることができた。ああ、こんな顔をしていたのだなと、改めて愛おしく思う。少し眉間に皺を寄せて、ゆっくり、ゆっくりと狼の中を押し開く。先に出された精液が潤滑剤となり、易々と根本まで咥えることができた。

  「…お前の中は温かい」

  「弦一郎、どのも、熱うございます」

  「……俺もお前も、生きて居るのだな」

  「御子、様に、感謝を、せねば」

  「そうだな」

  「弦一郎、どのにも」

  「…俺に?」

  息も絶え絶えに、狼は奥まで開かれた体を揺すられながらも溶けた瞳を弦一郎に向ける。ぱくぱくと口を動かすが、上手く声が出なかった。弦一郎が身を屈めて耳を寄せると、狼はその首元に腕を絡めて背を浮かした。

  「お慕いして、おりまする」

  それだけ伝えると、絡めた腕から力が抜けて体が離れそうになった。しかし弦一郎の腕がそれを阻み、背を支えられながら再び体を横たえた。

  全身に力が入らない。長らく水面に体を浮かべているような心地良さがある。それでも、弦一郎が出たり入ったりしている腹の中だけはとても熱く、寄り添うように、弦一郎の形にぴたりと合わせていた。

  互いに交わす言葉はなくなり、代わりに熱い吐息が交互に耳に届く。口寂しいと頬を寄せれば、弦一郎はすぐにその口を塞いで舌を這わせてくれた。そのうち両足を担がれて背が宙に浮いた。狼の体を後ろの柱に預けて、空中にて狼の体を貫いている。自重が弦一郎をより奥へと進ませて、腹の形がまた変わった。狼の下半身はと言えば、本来精を吐くはずの機能をすっかり忘れて頭を垂れていた。それでもずっと震えている。いや寧ろこれは、弦一郎の穿つ動きに合わせて振れ動いているに過ぎない。

  「…もう、果て、そうで、す」

  「………こちらも」

  弦一郎を咥えたままの下半身が、突如びくりと跳ねた。大きな手が狼の一物を掴み、扱いている。前も後ろも刺激されては、それまで黙っていた声帯も叩き起されたように騒ぎ出す。

  「ああ、あっ、だ、だめ、げん」

  見る見るうちに天を仰いだ一物は、そう長くは耐えられそうにない。数回上下された後、狼が下唇を強く噛み締めると、尻穴を強く締めて身を震わせ、宙に溜まり溜まった熱を飛び散らかせた。その締め上げに促され、弦一郎もまた狼の腹の中に何度目かの精を迸らせる。落ちそうになる狼の体を支えながら、ゆっくりと床にしゃがみこむ。荒れに荒れた呼吸を落ち着かせるように、どちらからでもなく口付けを求めた。

  甘く、溶け合うような心地良さは、狼の意識を再び沼底に引きずり落としたようだった。

  [newpage]

  温かさに目が覚める。こうしてボロ屋の天井を眺めたのは二回目だ。今度こそ、狼は自身の体を一切動かせなくなっていた。近くでぱちぱちと竹の爆ぜる音が聞こえて、首だけを何とか動かす。橙色に映し出された弦一郎の横顔があった。

  「起きたか」

  このやり取りも二度目だなと、狼は薄く口元を緩ませる。

  「…………、ん……?」

  「あれだけ喚けば声も枯れる。休んでおけ」

  そんなにも声を上げていたのだろうか、狼が記憶を辿っても、既に朧げにしか思い出せなかった。

  暫くの間、互いに何も言わなかった。ただ目の前の、ゆらゆらと不規則に揺れる炎をぼう、と眺めて静かに瞼を閉じた。

  「狼、」

  口火を切ったのは弦一郎であった。

  「俺の傍に、居てくれるか」

  その問いは、弦一郎の自己満足からであった。分かりきっているだろうに、どうしても狼の口から言わせたいのだ。互いの感情を全身でぶつけ合ってもなお、弦一郎という男は知りたがっている。大柄な寂しがり屋は、何ともいじらしくて、愛おしい。

  「………、」

  「…ん?」

  「……………」

  「……聞こえぬぞ」

  声が枯れて、息を漏らすことしかできない今の狼にはなかなか酷なことをする。困った男だと狼はため息をついた。弦一郎が顔を寄せてきた。耳元で、精一杯の息を吐く。

  「共、に、おりまする」

  「………、うむ」

  どこか満足気に、弦一郎は顔を離した。代わりに荒々しく腕が襲ってきて、狼の体を起こして抱き寄せた。頭をぽんぽんと撫でられ、しっかりと抱きすくめられる。

  「お前が死ぬそのときまで、傍に」

  狼の目の前に、人生の走馬灯が浮かんで見えた。斬って斬られて失って、奪われて奪って失って、そうして独りになった人生が、突如として温かなものになった。自然と視界がぼやけて、目の奥が熱くなる。自分の為に泣いた事はあっただろうか。誰かの幸せのために走り抜いた人生が、自分の人生になって、そして、弦一郎との人生に変わっていく。この感情を、狼はまだ知らない。左腕がひしひしと痛むのは、目の前の男のせいだというのに。恨みはとうに、別の感情に塗り替えられていた。故に、恨みはしないし感謝もしない。零れ落ちる大粒の涙は、生まれて初めて自分の幸せの為に落とすのだ。

  弦一郎は狼の頭をぽんぽんとあやす。耳元に寄せられた唇からもう一度掠れた声が聞こえた。抱きしめる腕により力が籠る。今更沸き立つ小っ恥ずかしさに、あえて笑って応えてやった。

  「ああ、俺も、お前を」

  その先の言葉は、重ねられた狼の口の中へと消えていった。

  降涙恋慕(こうるいれんぼ) 終

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