AdAd
  
彼岸花と花魁様

  あら?こんばんはお兄さん。

  よかったらうちの店に入らないかい?しっかりとお題分はご奉仕するよ。

  ……ふふ、ウブな反応。可愛いね。

  そういえば、よくここにくるね。店を見るだけで中には入ろうとしない。

  お金がないのかい?それとも、人探しかい?

  ……だんまりか……

  ※襖が開く音

  あ、女将さん。いいところに。

  彼を店の中に入れてくれないかい?

  金がなくて入れないらしいの。

  ……だから、私のお給料から彼の分を引いて欲しいの。

  お願い女将さん。私の最初で最後のお願い。

  ……ありがとう。このお礼は、今後のお仕事で払うよ。

  ※襖が閉まる

  お兄さん。女将さんが迎えにくるから、案内してもらって私のところにおいで。

  待ってるよ。

  ※少しまをあける

  ※襖が開く

  こんばんは。いらっしゃい、お兄さん。

  さて、お兄さんの初めてのご来店だ。最高の思い出にしないとだね。

  と、思ったけど。お兄さんはこの店の特徴を知らないでしょう。

  ……そう。始める前に、そこを少し説明しようと思ってね。

  この店で働く子達には、それぞれ象徴の花があるの。

  仕事をするとき、必ず部屋にその花を飾る決まりがあってね。

  私のは……ほらそこ。

  ……そう。私の花は【彼岸花】。花言葉は知ってるかい?

  ……ふふ。まぁ興味がなければ調べたりはしないだろう。

  「悲しい思い出」「あきらめ」そういうものが含まれているの。

  だから私は、指名してくれたお客さんのお話を聞いてから、仕事をするの。

  私を指名される方は全員、悲しい思い出を忘れるためか、生きることを諦めて人が最後の思い出にするためかのどちらかなの。

  だから、他の子に比べて客数は少ないけど、その分値が高いから、一回のお仕事でかなり儲かるの。ふふ。

  ……えぇ、私の象徴よ。

  ……そこに気がつくなんて、お兄さんは鋭いね。

  そうね……私にとって最も大きなことを諦めた、悲しい思い出……それで、女将さんがあの花を私にくれたの。

  聞きたいの?ふふ、お兄さんは珍しいね。

  お客さんはみんな、とても苦しそうに自分のい話をした後、すぐにでもって急かすのに……

  そんな大した話じゃないわ。

  昔、好きだった人がいたの。

  高貴な方でね。私は貧しい家庭だったけど、お互いに愛し合っていた。

  だけど、家は日に日にお金に困っていた。私は容姿はよかったから、花街で働けばかなりなお金になる。彼に相談しようとも思ったけど、それじゃまるで彼のお金目的で付き合ったみたいで嫌だった。

  悩んだ。家族も彼も大事だった。大事だったけど……私は彼との愛を諦めて、家族のために花街で仕事をすることにしたの。

  どっちみち、身分違いの恋愛だったから、叶うはずもなかった。

  お金を貯めて会いに行こうとも考えたけど、こんな仕事だから体は綺麗じゃない。そんな人間を、彼が愛してくれるはずもない。それは、これから先もずっと……私は、恋愛を諦めて……ここで家族のために働くことにしたの。

  そんな感じかしら。って、どうして泣いてるの!?

  ……悲しいって……まさか自分の話をして泣かれるとは思わなかったよ。

  感受性豊かだね、お兄さん。

  それじゃあ、今度はお兄さんの話を聞こうか。

  言っただろう。お客の話を聞いてから仕事をするって。

  お兄さんの話を聞かせてくれ。

  ……へぇ、お兄さんも貧しい家庭だったの。

  ……そう、とてもひどい仕事環境だったみたいだね。それは大変ね……

  あら、じゃあここに初めて来たのはつきそうだったの。

  ま!お金がないからって、自分だけお店にって……付き添わせたのは上司でしょうに……

  え……私?

  時間までフラフラしてる時に、この店の前を通りがかって、私を見たって……

  一目惚れって……化粧や着物でただ着飾ってるだけよ。

  ……そう……私に会いたくて、お金もないのにいつも店の前に来てたの。

  ずっと不思議だったの。仕事場所はいつも違っていたけど、いつも店の前でキョロキョロしてたでしょ?

  ……ふふっ、確かに不審者みたいだったわ。

  でもね、いつからか今日もきてないかなって、店の外を見るのが私の日課になったの。

  さっきも言ったでしょ?私、客数は少ないから、結構暇なの。ぼんやり外を眺めても怒られないのよ。

  でも、あなたもばかではないから花街で働いてる女性が、どんなに綺麗でもそういう仕事をしてるって知ってるでしょ?

  なのに、私に惚れたっていうの?

  ……ふふ、物好きなお兄さんだこと。でも、申し訳ないけど私は誰かに恋をすることはないよ。

  もちろん、どんなにお金を積まれても身請けするつもりはない。

  客が取れなくなるまでは、私はずっとこの仕事を続けるつもりだよ。

  だから、お兄さんも私のことを「諦めて」これは「悲しい思い出」として心の中に止めておいて。

  ふふ、ありがとう。

  それじゃあ始めようか。

  おや、このまま帰るつもりかい?

  あなたのお金ならともかく、今回のお代は私が出してるのよ?

  自分のお金だとしても、しっかりとお仕事しないと。

  それじゃあお兄さん、私が悲しい思い出を忘れさせて、最後の思い出を作って差し上げますね。

  矛盾?そうですね。私が悲しい思い出を作ったのに、その相手に最後の思い出を作らされるなんて……とても変ですね……

  【完】

AdAd