柴後輩とクロ兄ちゃん【俺もだよ】

  「あー美味すぎる! 高級レストランみたいだ!」

  「旬だしね、クロ[[rb:兄 > にぃ]]はこういうの好きだと思って」

  今日の晩ごはんは旬のワタリガニを使ったトマトクリームパスタだ。少し早い時期だったが、選んだメスのワタリガニは卵を持っていたから、それもパスタソースに混ぜ込んだ。旨味の強いワタリガニの出汁とカニみそに卵の食感も足した濃厚なパスタソースにカニの身、そして出汁を調味して溶き卵を加えたスープ。間違いなく絶品に仕上がっている。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]は魚介系が好きで、洋食も好きな傾向がある。だから、今まで作ってきた料理の中で間違いなく喜んでくれるものを選んだ。

  「カニの卵ってそのまま食べても美味いけど、料理すると絶品だな!」

  「・・・うん。これからの時期、メスは卵持ってるから、今度良さそうなの見つけたらケジャン作ってみようか」

  「うおおお! テレビや動画でしか見たことないやつだ! 俺も作るの手伝うぞ!」

  オレの提案にクロ[[rb:兄 > にぃ]]は満面の笑みを返してくれた。

  最近クロ[[rb:兄 > にぃ]]はすごく明るくて、よく笑って、毎日オレに笑顔を向けてくれる。

  ───作るなら、カンジャンケジャンのほうにしようかな。きっとクロ[[rb:兄 > にぃ]]が見たのもそっちだと思うし、味もきっと好みだろう。

  「このあと、デザートもあるよ」

  「マジかよ! 今日はすっげー豪華だな!」

  ───デザートのプリンもクロ[[rb:兄 > にぃ]]は喜んでくれた。笑顔で“美味しい”と言ってくれた。

  ◆◆◇◇◆◆

  「今日もありがとな!」

  いつも通り、自分の部屋に帰るオレをクロ[[rb:兄 > にぃ]]が見送ってくれる。

  「うん、次一緒に買い出し行ったらワタリガニ探してみようね」

  「おう! 楽しみだなぁ!」

  「この機会に壺買っちゃおうかな。梅干しとかも作れるし・・・」

  「うお、本格的だな!」

  もう十分話したのに、オレは未練がましく玄関前に立っている。

  ───だって、まだ聞いてないんだ。

  「・・・クロ[[rb:兄 > にぃ]]」

  「ん?」

  「あ、いや・・・パスタ美味しかった?」

  「おう! めちゃくちゃ美味かったぜ!」

  「・・・そっか」

  オレは精一杯の笑顔を返して、自分の部屋に戻った。

  部屋に戻り、靴を脱いで、すぐにオレは玄関近くの冷たい床にへたり込んで膝を抱え、泣いた。

  だって、どんなに頑張って料理しても、どんなに美味しく作っても、どんなに好みに合わせてもダメなんだ。

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]・・・」

  オレだけに聞こえる声でそう言って、静かに泣いた。

  “あの日”からクロ[[rb:兄 > にぃ]]は、オレの前で“ふんにゃ〜”と言ってくれなくなった。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  「本当に良かったの?」

  丸テーブルの向かいに座ったパンダがティーカップを傾けながら俺に言った。

  「お前が言うなよ」

  俺はパンダにそう言った。だって俺はクロ[[rb:兄 > にぃ]]だから。

  「そうだね。それが[[rb:玄來 > げんき]]のためだ」

  正直、[[rb:玄來 > げんき]]の本心は分からない。でも、あいつは優しい奴だから───

  「本気だったら?」

  ダメに決まってる。[[rb:玄來 > げんき]]は柴家の一人息子だ。孫の顔も見せてやれない。ホモの俺なんかただの疫病神だ。

  「[[rb:玄來 > げんき]]の父方のおじいちゃんは厳しい人みたいだしね」

  どうしてバレたのかは分からないが、今まで兄として慕ってきた奴がホモだったなんて、きっとショックを受けただろう。

  [[rb:玄來 > げんき]]なりに考えて出した結論が、あの告白だったのかもしれない。あいつは優しいから。

  「[[rb:玄來 > げんき]]には幸せになって欲しいんだ」

  今、[[rb:玄來 > げんき]]は自分の店を持つために頑張っている。飲食店は客商売だ。男と付き合っていたなんてことが知れたら、まともに営業出来なくなるかもしれない。

  「邪魔になるなら離れないとね」

  そうだ。ホモの俺と一緒に居るだけでも[[rb:玄來 > げんき]]にとってデメリットはあってもメリットは無い。

  [[rb:玄來 > げんき]]の気持ちがどうであれ、距離を置かないといけない日は来るだろう。

  それでいいし、それがいいんだ。

  「『だって俺は』」

  俺とパンダの姿だった俺の声が重なる。

  あっちの俺とこっちの俺の視点を往復しながら、俺は俺と向かい合って目を合わせる。

  視界がぼやけて意識は後ろの方へ、遠のくように消えていった。

  ───俺は、お前の兄ちゃんで居たいから。

  ◆◆◇◇◆◆

  「・・・」

  大学の講義室。普段なら机にベッタリと突っ伏す俺を隣の席の[[rb:優 > ゆう]]がいじってくるのだが、今日は何もせず黙ったままだった。

  出来れば何かして欲しい。嫌じゃないから。

  「・・・」

  [[rb:優 > ゆう]]は黙ったまま、片手で俺の首周りをマッサージするように触り始めた。

  結構気持ちいい。

  「今日カラオケ行く?」

  珍しく[[rb:優 > ゆう]]が遊びの提案をしてきた。

  嬉しいけど、そんな気分じゃない。

  「今日は・・・パス」

  「そっか」

  断った後も、[[rb:優 > ゆう]]はマッサージっぽいことを続けてくれた。

  もしかしたら気分転換になって良かったかもしれないと思って、断った後で少し後悔した。

  ◆◆◇◇◆◆

  「クロ」

  講義が全部終わって、[[rb:優 > ゆう]]に声をかけられた。

  「今日、遊びに行ってもいい?」

  「っ!」

  その言葉に俺は少し驚いてしまった。[[rb:優 > ゆう]]から、こんな風になんの脈絡もなく、ストレートに家に遊びに行っていいか聞かれたのは初めての気がした。

  「な、なんで?」

  あまりの驚きで、ついセリフを選ばず口が滑ってしまった。

  嫌がっていると受け取られかねない言葉だ。せっかく[[rb:優 > ゆう]]が遊ぼうと言ってくれたのに。

  俺はショックと焦りで訂正する余裕も無くし、[[rb:優 > ゆう]]の返答を待ってしまっていた。

  「んー・・・遊びたいから?」

  「なんで疑問形なんだよ!」

  [[rb:優 > ゆう]]の曖昧な返事に俺は救われたような気持ちになった。

  “嫌ならいいよ”って感じのナイフみたいな返答を心の何処かで覚悟していたからだ。別に[[rb:優 > ゆう]]からしたら不機嫌でも何でもなく思ったことを言ってるだけで他意は無い。

  しかし、分かっていてもメンタルに多少のダメージはある。

  それを覚悟していたのに、今回はそれが無かった。

  「ダメ?」

  「いや、全然、ダメじゃねーよ! 今日は俺んちで遊ぼうぜ!」

  俺は2つ返事で了承した。

  普段はこんな曖昧なことを言う奴じゃないのに。

  今回は普段と違う[[rb:優 > ゆう]]に救われた。

  ◆◆◇◇◆◆

  「・・・あの・・・[[rb:優 > ゆう]]さん?」

  「ん?」

  俺はソファの上で[[rb:優 > ゆう]]に抱っこされていた。

  家に着いてすぐ、俺は2人分のお茶をコップに入れてテーブルに置いた。そして、ゲームでもするかと準備したりソフトを漁ったりしている最中に[[rb:優 > ゆう]]に呼ばれた。[[rb:優 > ゆう]]がソファの上で膝をトントンするので促されるままに座ったら、後ろからギュッとされて今に至る。

  ちなみに[[rb:優 > ゆう]]のアゴは俺の頭に乗っている。

  「これは・・・何?」

  「・・・膝抱っこ?」

  そういうことを聞いているのではない。

  あと、今は膝の上じゃなくて股の間に座っている。

  ・・・じゃあ股抱っこか?

  いや、絶対違うな。なんだ股抱っこって。新種のプレイか。

  「・・・」

  [[rb:優 > ゆう]]は何も言わない。

  やっぱり今日の[[rb:優 > ゆう]]は少し変だ。

  ───それでも、全身を包む温もりに俺は安心感を覚えていた。

  「[[rb:優 > ゆう]]」

  「ん?」

  頭に乗った[[rb:優 > ゆう]]からいつもの低い声が降ってきて、くすぐったい。

  「好きな人から告白されたことあるか?」

  俺の質問に[[rb:優 > ゆう]]は少しの間黙った。

  そして、沈黙の不安が来るより早く[[rb:優 > ゆう]]が答えた。

  「ないよ」

  「告白したことは?」

  「ないよ」

  「じゃあ、好きな人が出来たことは?」

  口が勝手に喋っているような感覚だった。

  俺は何を聞いてるんだろう。

  「[[rb:琉貴 > るき]]が好きだよ」

  一瞬ドキッとした。

  でも、すぐに冷静になってツッコミを入れた。

  「そうじゃなくて」

  そう言うと[[rb:優 > ゆう]]は鼻でフフフと笑った。こんな冗談を言うのも普段の[[rb:優 > ゆう]]らしくない。

  ───この時は、名前で呼ばれているのも気付いてなかった。

  そして、俺が黙ると、[[rb:優 > ゆう]]が口を開いた。

  「俺がゲイだったら、クロは俺のこと嫌いになる?」

  その言葉に、思わず身を強張らせた。

  尻尾が動いてしまったから、動揺したのは確実に伝わってしまっただろう。

  まさか、[[rb:優 > ゆう]]はホモなんだろうか。確かに女の気配は無いが、そんな雰囲気も感じたことは無い。

  「そんなわけ無いだろ」

  自分の沈黙に気付いて、咄嗟に返した。

  「ふーん」

  本当は[[rb:優 > ゆう]]がホモなのか聞き返したかった。しかし、それを聞くより早く[[rb:優 > ゆう]]が口を開いた。

  「俺もだよ」

  その言葉の意味を理解するのにかなり長い時間がかかったような気がする。

  何度も咀嚼して、後からやっと辛さに気付く激辛料理みたいに、俺の顔は火照ってちょっと泣きそうになった。

  「・・・お前ってホモなの?」

  俺はなんとか声を絞り出してそれだけ聞いた。

  「違うよ」

  俺にアゴを乗せながら、[[rb:優 > ゆう]]は機嫌良さそうにゴロゴロと喉を鳴らした。きっと尻尾の先もヒョコヒョコさせているんだろう。

  俺はそれから何も言えないまま、ただ[[rb:優 > ゆう]]の温もりに甘えていた。

  後から腰に無視出来ないレベルの巨大な柔らかいモノが当たっていることに気付いてちょっと大変だった。

  ◇◇◆◆◇◇

  スマホを見ると、クロ[[rb:兄 > にぃ]]からメッセージが届いていた。今日は急遽[[rb:優 > ゆう]]さんと晩ごはんを食べることになったらしい。

  そのメッセージを見て、今日何を作るか考えていなかった自分に気が付き、溜め息が出た。

  「コンビニでも行こうかな・・・」

  コンビニは高いから普段は利用しない。しかし、お菓子か甘い物を1つ買ってみるくらいなら気分転換になるだろう。

  「お金は・・・」

  オレは長財布を開いて中身を確認した。

  「あ・・・」

  開いて目に入ったのは、いつも一万円札を入れる側に入れている“クロ[[rb:兄 > にぃ]]チケット”だった。

  お守りみたいにするつもりで、使うつもりもなくずっと財布に入れていた。

  チケットの端っこでデフォルメされた───たぶんクロ[[rb:兄 > にぃ]]が拳を高く突き上げている。

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]・・・」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]がくれた誕生日プレゼント。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]のことを思い返すだけで胸が疼いた。

  「何でも・・・1回だけ・・・」

  透き通るような11月の星空を見上げながら、オレは大きく息を吐いた。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  次回[[rb:玄來 > げんき]]覚醒

  やっと明るくなりますっ!

  【ご報告及び謝罪】

  ゼルダやりました。知恵かりめっちゃ楽しいです申し訳ありません。

  Twitter(X)のフォロワー様に甘やかして頂いたお陰で罪悪感で筆進みましたありがとうございます。

  【定期】

  Twitter(X)で #柴クロ小ネタ と検索すると、アンケート企画含めた過去の小ネタ全部見れます。

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  続きを待ってくださってる方々がその期間を少しでも楽しめるように、また、本編をより楽しめるようにと思って投稿しておりますので生存確認したい時は覗いてみてください。

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  いつも柴クロをお読みいただき、ありがとうございます。

  蒼空ゆうぎ