柴後輩とクロ兄ちゃん【沸騰】

  「謎解き?」

  黄土色のトカゲにクロ[[rb:兄 > にぃ]]が聞き返した。

  「そう。数学研究会が作った謎に挑戦して、正解出来たら先着で豪華賞品をプレゼント。参加賞もあるよ」

  説明をするトカゲの学生さんのうしろでは、参加者と思われる人たちが真剣な表情でパソコンに向かっていた。さらに、その奥の方にあるカウンターには少し列が出来ており、1人ずつカウンターの上に置いてあるパソコンに何かを入力していた。1人目は残念と言われてお菓子をもらって去っていき、2人目はお金を払って再び何かを入力していた。

  「1回200円で解答権も1回。会場にいる間は5回まで挑戦できるよ」

  そう言ってトカゲさんは名刺サイズのカードを取り出した。

  「解答する度にこのカードにスタンプが押されて、スタンプの数に応じた参加賞と交換できるよ。5回挑戦出来るって言ったけど、カードを交換したらそこでおしまい」

  そこまで説明を聞いて、クロ[[rb:兄 > にぃ]]はやる気満々のようだった。ついでにユズの肩を組んで、お前もやろうぜとしつこく誘っていた。

  「オレもやる」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]がユズを口説いて2人分のカードを貰おうとしている後ろでオレは手を挙げてそう言った。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]曰くユズは頭が良いらしい。だから誘ったんだろうけど、オレだって数学は得意な方だったしユズに遅れは取らない。

  あと、ユズばっかりクロ[[rb:兄 > にぃ]]に構われてるのムカつく。絶対にオレが豪華賞品をゲットしてみせる。

  「お、ゲンキもやるか! [[rb:優 > ゆう]]はどうするんだ?」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]が[[rb:優 > ゆう]]さんの方を向いて聞くと、[[rb:優 > ゆう]]さんは少し考えるような声で“んー”と唸った後に口を開いた。

  「豪華賞品って食べれる?」

  「食べれないよ」

  そのトカゲさんとのやり取りで[[rb:優 > ゆう]]さんの不参加が決定した。

  お金を払ってカードを貰うと、クロ[[rb:兄 > にぃ]]から順番にパソコンの前に案内された。最後にオレも案内されてパソコンの前に着席し、さっきのトカゲさんとは違う学生さんから説明を受けた。

  「このパソコンに問題が7分間だけ表示され、その間はパソコンの検索機能も自由に使えます。テーブルの筆記用具や電卓も自由に使ってください。ただし、それ以外の物は使用禁止です。筆記用具も全て回収しますので、持ち出しは出来ません。答えが分かったら好きなタイミングで解答カウンターへ向かってください」

  つまり、問題を外に持ち出せないようにしているってことだろう。もちろんそんなつもりは毛頭ない。絶対解いてみせる。

  そして、意気込むオレの前で学生さんがパソコンを操作し、問題が表示された。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  ───西暦2000年10月31日。

  “吸血鬼”のターロ・ピーチさんはとても友達想いで、今日も友達の誕生日プレゼントを選んでいました。

  ご機嫌なターロさんはいつものように、自分の友達みんなのことを歌にして歌っています。

  「ボクの友達はとっても可愛い♪ 誰より小さな“牙”を持つ♪」

  「ボクの友達はカッコいい♪ 誰より大きな“牙”を持つ♪」

  「ボクの友達はとっても強い♪ “割れない”硬い“牙”を持つ♪」

  ターロさんの友達はみんな“吸血鬼”です。

  下記のアンデッドたちの年齢と誕生日を参考に、ターロさんの友達の“吸血鬼”を見つけてください。

  ニャーゴ・キャット(173歳)2月2日

  ワーン・ドッグ(817歳)4月20日

  ガーオ・タイガー(470歳)7月20日

  ウーキ・モンキ(604歳)11月2日

  ウォーン・ウルフ(719歳)3月5日

  ヒョーウ・レオパード(565歳)5月5日

  ケーン・バード(101歳)8月3日

  ※ただし、閏年は考えないものとする。

  ───意外と取っ掛かりがないな。

  でも問題が10月31日でウーキさんの誕生日が11月2日だから、たぶんウーキさんは友達で確定だよな。今ターロさんは誕生日プレゼント選んでるわけだし。

  その後も動物っぽい名前の人たちから牙の大きさを予想しようとしたが、確信は得られなかった。

  しかし、オレは気が付いてしまった。

  ───桃太郎だ!!

  ターロ・ピーチ・・・これは童話の桃太郎から取った名前なんだ!

  そして、桃太郎の家来は犬、猿、キジ。特にキジの鳴き声は“ケーン”と言い表されることが多い。

  つまり、友達はワーン・ドッグ、ウーキ・モンキ、ケーン・バードの3人だ!!

  みんな“牙”とか“誕生日”とかの情報に惑わされているのだろう。

  オレはクロ[[rb:兄 > にぃ]]もユズもまだ問題に取り組んでいる中、1番に立ち上がって回答カウンターに向かった。

  ◆◆◇◇◆◆

  「さすがだなユズ! 俺もいいとこまで行ってたんだけどなー」

  一人だけ正解したユズをクロ[[rb:兄 > にぃ]]が褒めていた。

  オレは参加賞のお菓子を握り潰さないように歯を食いしばっていた。

  「“吸血鬼”は分かってニャーゴさんは確定だと思ったんだけど、残りの2人は当てずっぽうで回答しちまったんだよなぁ」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]は一体何を言ってるんだろう。吸血鬼って関係あったのか?

  「それ、たぶん何かに引っ掛かってるね。ニャーゴさんは吸血鬼だったけど、友達じゃないし。あと、友達も3人じゃないし」

  「マジかよ!?」

  ユズとの会話も意味不明だ。なんでニャーゴさんが出てくるんだ。

  「なあ、[[rb:玄來 > げんき]]はどこまで解けたんだ?」

  「え・・・」

  不意にクロ[[rb:兄 > にぃ]]の質問が飛んできて、オレは歯を食いしばるのをやめた。

  「オレはその・・・ウーキさんが友達ってとこまで分かったよ・・・」

  オレがそう言うと、ユズが意外そうな顔をしてこちらを見た。

  「へー、やるじゃん。つまり“割れない”牙が分かんなかったってことか。あと一歩だったね」

  予想外に褒められたが、あと一歩どころか一歩も進んでない。オレには2人が何を話しているのかも分からない。

  なんでと詰め寄るクロ[[rb:兄 > にぃ]]の声も、本来嬉しいはずなのに遠くに聞こえる。

  「あ、ところで豪華賞品って何だったんだ?」

  「関数電卓。まあ、もらっとくよ。・・・ちょっと欲しかったし」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]の問いに、ユズは最後の方だけ呟くような小声で答えた。

  「ユズって工学部じゃないよな? 関数電卓使うのか?」

  ユズは詰め寄るクロ[[rb:兄 > にぃ]]をかわしながら下りのエレベーターに乗り、オレたちも続いた。

  図書館棟を出たところで、ユズは用事が出来たと言って何処かへ行ってしまい、後夜祭まで3人で回ることになった。

  ◆◆◇◇◆◆

  「ステージまでそろそろか」

  それとなくステージ前の広場に集まりだした人たちを見てクロ[[rb:兄 > にぃ]]が呟いた。

  ユズを呼び戻すかという話になったが、ユズの都合もあるだろうとクロ[[rb:兄 > にぃ]]がスマホで居場所だけ伝えておくだけになった。

  去年は[[rb:優 > ゆう]]さんのダンスがすごかったので、今年も少し期待していたのだが、今回は無いらしい。

  まさか、今年はユズが・・・?

  さすがにそれは無いか。

  「クロのところはステージとかやらないの?」

  [[rb:優 > ゆう]]さんは手元のフライドポテトを1本摘んでクロ[[rb:兄 > にぃ]]に差し出した。

  「俺のとこはそういうのやらないからな」

  そう言いながらクロ[[rb:兄 > にぃ]]はすごく自然に口でフライドポテトを受け取った。まるでいつもやってるみたいに。

  オレもやりたいけど手元には何も無い。というか見るたびに変わる[[rb:優 > ゆう]]さんの手元の食べ物が不思議でならない。一体どのタイミングで買いに行っているのか。

  「先に良いポジション取っておいたほうがいいかな」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]がそう言うと、[[rb:優 > ゆう]]さんは最前列以外はどこも同じだろうと返した。

  確かに、クロ[[rb:兄 > にぃ]]より背の高い人が前に来たらどこでも同じだろう。

  しかし、去年はオレがクロ[[rb:兄 > にぃ]]を抱っこして[[rb:優 > ゆう]]さんのダンスも撮影できた。去年よりも体を鍛えて筋肉もついたし、今年もオレがクロ[[rb:兄 > にぃ]]を抱っこして最後くらいいいところを見せなくては。

  「見えなかったら[[rb:優 > ゆう]]に抱っこしてもらえばいいか」

  「肩車も出来るよ」

  「お、じゃあそれな!」

  その二人の会話で、オレの計画は一瞬で破綻した。

  オレがショックで固まってる間も二人は“じゃあ食い物は俺が持ってやる”とか“食べさせてね”とか言い合っている。

  「あの・・・クロ[[rb:兄 > にぃ]]、オレも───」

  「おう! [[rb:玄來 > げんき]]も後で替わってやる!」

  違う。オレが替わりたいのはクロ[[rb:兄 > にぃ]]じゃなくて[[rb:優 > ゆう]]さんの方だ。抱っこされたいのではなくしたいのだ。クロ[[rb:兄 > にぃ]]を。

  わずかな希望を持ってクロ[[rb:兄 > にぃ]]に声をかけたが、完全に勘違いされてしまい、[[rb:優 > ゆう]]さんもポテトを食べながら力こぶを作っていた。

  そんな[[rb:優 > ゆう]]さんの優しさも、今のオレには皮肉に映ってしまっていた。

  「・・・オレ、ちょっとお手洗い行ってくるよ」

  さすがに自分が情けなくなって、顔でも洗ってこようと思い、オレはその場を後にした。

  歩くたびに、力無く垂れた尻尾がお尻に当たって揺れていた。

  ◇◇◆◆◇◇

  [[rb:玄來 > げんき]]がトイレに行った後、俺は野暮用を思い出して[[rb:優 > ゆう]]に声をかけた。

  「[[rb:玄來 > げんき]]が戻って来たら別館の事務室に用事を済ませに行きたいんだけど、[[rb:優 > ゆう]]だけ付き合ってくれるか?」

  [[rb:優 > ゆう]]はふたつ返事で了承してくれた。

  「[[rb:柴 > しば]]くんはいいの?」

  「ああ。俺、学生証忘れちまってさ。別館入口のロック解除出来ないんだよ。この祭りの中で一般人の[[rb:玄來 > げんき]]も一緒に来たらダメだと思うし[[rb:優 > ゆう]]だけ付き合ってくれ」

  ◇◇◆◆◇◇

  トイレは割と混んでいた。

  顔を洗うついでに用も足していこうと思ったのだが、小便器は一つしか空いていなかった。

  オレは便器の外側の濡れた部分を踏まないように注意しながら配置につき、自分のモノを引っ張り出した。

  「ゲッ!」

  一瞬名前を呼ばれかけたのかと思い、驚いて声がした方を向くと、隣でオレと同じ背丈の茶トラ猫が[[rb:弓形 > ゆみなり]]の姿勢で用を足しながら引きつった顔でこちらを見ていた。

  「あ、にゃんこジローさん。どもっす」

  「誰がにゃんこジローさんだ!! 俺は[[rb:虎次郎 > とらじろう]]さんだ!!」

  ああ、確かそんな名前だったな。

  この人はクロ[[rb:兄 > にぃ]]の悪口言う人だから嫌いだ。

  「来てたんすね」

  「来てちゃ悪いかよ」

  個人的な良い悪いを言うと悪い寄りなのだが、わざわざ言う必要もないので適当に流すことにした。

  「カノジョさんでもいるんすか」

  「うるせぇ」

  ムカつく・・・。

  なんで気分がささくれてる時によりにもよってこの人に会ってしまうんだろうか。

  「おい」

  「はい?」

  「あの猫野郎ってカノジョとかいるのか」

  「・・・知りません」

  なんで急にそんなことを聞いてくるんだ。意味が分からない。

  ───でも、クロ[[rb:兄 > にぃ]]ってモテるのに何でカノジョ出来たこと無いんだろう。オレが知らないだけなのか。

  それとも───

  「いっつも金魚のフンみたいにくっついてるクセに、何にも知らねーのかよ」

  オレは痛い所を突かれた衝撃とムカつきで声が出せなかった。

  その間に茶トラ猫は体を上下に震わせて用を足し終えると、さっさと手を洗って行ってしまった。

  言うだけ言って去って行った茶トラ猫にイラ立つ心を鎮めるため、オレは深く息を吐いた。

  そして、去り際に一瞬だけ見えた光景を思い出し、鼻で小さく笑ってやった。

  オレは強者の余裕だと言わんばかりに、いつもより大きく念入りにモノを振って用を足し終えた。

  しかし、それでも茶トラ猫の言葉は頭を離れず、オレの胸の晴れない疑念を再認識させていた。

  ◆◆◇◇◆◆

  トイレから戻ってくると、クロ[[rb:兄 > にぃ]]が[[rb:優 > ゆう]]さんの口元をティッシュで拭いている光景が目に入った。

  普通、ただの男友達にそんなことするだろうか。オレだってそんなこと簡単にはしてもらえないのに。

  そして、嫌でも夏祭りの時の光景がフラッシュバックした。

  やっぱり、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は[[rb:優 > ゆう]]さんと───

  「お、戻ったか。ちょっと[[rb:優 > ゆう]]と用事を済ませてくるから待っててくれ。他のところ回っててもいいぞ」

  オレが引き止めるより早く、クロ[[rb:兄 > にぃ]]はそう言って何処かへ歩き出し、[[rb:優 > ゆう]]さんもついて行こうとしていた。

  「あのっ!!」

  オレは無意識に[[rb:優 > ゆう]]さんを呼び止めていた。

  [[rb:優 > ゆう]]さんは足を止めて、首と片耳だけこちらに向けた。

  「[[rb:優 > ゆう]]さんは・・・クロ[[rb:兄 > にぃ]]の・・・いや、その・・・つまり・・・」

  そして、オレは頭が真っ白のまま勢いに任せて聞いてしまった。

  「・・・付き合ってるんですか?」

  オレは[[rb:優 > ゆう]]さんから目を逸らさずに答えを待った。

  さっきまで聞こえていた祭りの音は無くなり、数秒の永い沈黙の間、耳鳴りだけが聞こえていた。

  そして、[[rb:優 > ゆう]]さんの声の音が鼓膜を揺らした。

  「ん? うん」

  それが肯定の言葉だと理解するより早く次の音が紡がれ、それはオレの血を急速に沸騰させた。

  「[[rb:柴 > しば]]くんはコッチに来ちゃダメだって」

  その瞬間のオレは何も考えていなかった。

  ただ、名前の分からない感情が血を沸騰させ、頭と胸がその熱で焼かれていた。

  怒りとも、嫉妬とも違うそれは喪失感を伴っており、オレはずっと口だけで浅い呼吸を繰り返していた。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  お待たせしました。(いつもの)

  明るめに書いてきた柴クロが段々と暗雲立ち込めてきましたね。

  でも安心してください。下げ切った後にめちゃくちゃ明るいやつぶち込みますので。(伏線回収します)

  その展開から再びニヤニヤしていただけるかと!

  そして、スピンオフでしか告知していなかったのですが、[[rb:優 > ゆう]]の水着姿のFAを頂いており、Twitter(X)に上げさせて頂いております!

  [[jumpuri:水着[[rb:優 > ゆう]] > https://x.com/Tyukito1/status/1815003150828589269?t=xM6gEwfh5eSJe0sXerANug&s=19]]

  さらにさらに、ぬいぐるみ[[rb:玄來 > げんき]]のFAも頂いております!銀の従業員服そのまんまです!

  舌ペロ差分の2種類ありますので、見てない方は是非!

  [[jumpuri:ぬいぐるみ[[rb:玄來 > げんき]] > https://x.com/Yotugi_rei/status/1822222355411751375?t=JCzMkFLNld98zSo9MAEZCA&s=19]]

  【定期】

  Twitter(X)で #柴クロ小ネタ と検索すると、アンケート企画含めた過去の小ネタ全部見れます。

  Blueskyで 柴クロ勇者パーティー と検索すると、連載中のお話全部見れます。

  続きを待ってくださってる方々がその期間を少しでも楽しめるように、また、本編をより楽しめるようにと思って投稿しておりますので生存確認したい時は覗いてみてください。

  感想や誤字脱字報告も大変助かっております!

  マシュマロも設置したので、匿名で送りたい方はそちらからどうぞ!

  [[jumpuri:マシュマロ > https://marshmallow-qa.com/rgapjk8qsgrncvs]]

  現在、柴クロのスピンオフ作品をいっぱい公開中です。

  柴クロ のタグで検索するか、作者ページからお読みいただけます。

  いつも柴クロをお読みいただき、ありがとうございます。

  蒼空ゆうぎ