柴後輩とクロ兄ちゃん【花火】

  「後は千本引きの屋台行ったらビンゴだな」

  俺はスマホの画面を見ながらそう言って、左手に持ったイカ焼きの串にかぶりついた。

  今見ている画面はCircleがやっているスマホのスタンプラリーの画面だ。登録されている屋台で買い物をした後、お店の人に二次元コードを読み取らせてもらうとスタンプが1つ貰える。スタンプカードは配置がランダムなビンゴ形式になっており、俺のは千本引きの屋台でビンゴだ。

  実はさっきの射的と金魚すくいのお店も対象だったのだが、あそこでスマホを出せるほどの胆力は無かった。

  「オレも千本引きの屋台でビンゴだよ」

  [[rb:玄來 > げんき]]はかじりかけの焼きとうもろこしとチョコバナナを片手に言った。

  金魚すくいの後、俺たちは一緒に屋台通りを歩きながら各々目に止まった屋台で飯を買ってシェアしたりしながらスタンプカードを埋めていた。

  「なんか意外とちゃんとしたもの出してるよね。正直全然期待してなかったんだけど」

  ユズはたこ焼きを食べながら呟いた。

  これは俺も同意見だ。地元の祭りよりも屋台飯のクオリティが高い。Circleの打ち合わせで地元の商店街の人が多く出店していると聞いていたからその影響もあるのかもしれない。[[rb:玄來 > げんき]]が寄ったクレープの屋台も喫茶店の人で、銀の常連さんだったらしい。

  祭りの屋台事情には全く詳しくないのだが、意外と珍しいことなのだろうか。

  「ところで、[[rb:優 > ゆう]]とユズはどの屋台に行けばビンゴなんだ?」

  「俺はもうビンゴになってる」

  「え、お前そんなに屋台まわってたか!?」

  俺は驚いて、既にビンゴだと言うユズのスタンプカードを見せてもらった。ユズのカードはここまでユズが立ち寄った屋台に加えて、射的と金魚すくいの屋台スタンプがあり、綺麗に一列ビンゴになっていた。

  「お前スタンプもらってたのかよ」

  「当たり前でしょ。お金払ったんだから」

  払ったのお前じゃないだろというツッコミは飲み込んだ。

  「[[rb:優 > ゆう]]は・・・大丈夫そうだな」

  [[rb:優 > ゆう]]に目をやると、パンパンになったゴミ袋を腕にかけてベビーカステラを摘んでいた。

  [[rb:優 > ゆう]]は俺を見てベビーカステラを1つ摘むと、俺の口元にそれを差し出した。俺はいつもグミを貰う時と同じように、自然な流れでカステラを口に入れてもらった。

  「・・・クロ[[rb:兄 > にぃ]]、オレの────」

  「うわ、アイツこの前のヤツじゃん」

  [[rb:玄來 > げんき]]が何か言いかけたところで、ユズが口を挟んだ。

  ユズの目線の先には俺たちが目指していた千本引きの屋台があり、その屋台の前で見知った猫の男女が言い争いをしていた。

  「だからさっきの紐にしときなさいって言ったじゃない。だからアンタはコジローなのよ」

  「[[rb:虎次郎 > とらじろう]]だ! だったらお前がやってさっきの紐引っ張ってみろよ!」

  「もう混ざっちゃって分かりませーん」

  屋台の前で争っていたのは浴衣を着たミケ先輩と、ウミネコ浜であった茶トラ猫だった。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  「だからどーしてアンタはクロくんにつっかかるのよ!」

  「俺は全然気にしてないですから、ミケ先輩も“にゃんこ屋”さんも落ち着いて」

  「[[rb:名古谷 > なごや]]だ!! なんだ“にゃんこ屋”さんて!!」

  挨拶するなり俺たちは2人のゴタゴタした雰囲気に巻き込まれてしまった。

  2人は祭りで偶然出会って、成り行きで一緒に行動していたらしい。海の家での一件でも感じていたが、どうやら仲はそんなに悪くないようだ。

  「ホントはクロくんと屋台巡りしようかなーと思ってたんだけどねー。変なのに捕まっちゃってー」

  「誰が変なのだ! ミケが勝手についてきたんだろ!」

  「ついてきたのはアンタでしょー!」

  さっきからこの調子だ。俺たちは屋台の前から少しズレた場所に固まっているのだが、これでは営業妨害になりかねない。他の3人も海の家での一件が尾を引いているのか[[rb:優 > ゆう]]以外はあんまり良い顔をしていない。[[rb:玄來 > げんき]]に至ってはマズルにシワが寄って歯が出ている。

  「おい、ヒョロ猫! 俺はお前が気に食わねぇ! 俺と勝負しろ!」

  「勝負?」

  にゃんこ屋さんは唐突に俺を指差してそう言った。

  それを見たミケ先輩と再び言い合いになっていたが、にゃんこ屋さんが引く気は無さそうだ。

  「紐クジで相手より良い景品を当てた方が勝ちだ! チャンスは1回だからな!」

  にゃんこ屋さんは先ほどの千本引きの屋台を指差して俺に言った。

  「アンタさっき引いてお菓子だったじゃない」

  「勝負は別なんだよ!!」

  ミケ先輩は抗議の姿勢を崩さずにゃんこ屋さんを咎めていた。

  しかし、俺の目的も千本引きだ。負けたらどうのということも言われていないし、断る理由は無い。

  そして、俺が勝負を受けようとしたその時だった。

  「ちよっと待った」

  俺とにゃんこ屋さんの間に立ちはだかるようにして、[[rb:玄來 > げんき]]が俺の前に出た。

  「オレもアンタが気に食わない。ニャジローさん、クロ[[rb:兄 > にぃ]]と勝負したいなら、オレを倒してからにしてもらうぜ」

  「なんだテメェ! つか、誰がニャジローさんだ!! 俺は[[rb:虎次郎 > とらじろう]]さんだ!!」

  結局、千本引きは2人が勝負することになり、[[rb:玄來 > げんき]]がゲームソフトを引き当てて圧勝した。

  [[rb:玄來 > げんき]]は昔から福引きとか普通に当ててしまうヤツだったから、なんとなくこの結果は予想していた。

  しかし、ニャジローさんは引き下がることなく、勝負は別の屋台で延長戦となった。[[rb:玄來 > げんき]]も俺の制止に聞く耳を持たず、2人は視線をぶつけて火花を散らしながら屋台通りへ消えていった。

  ◆◆◇◇◆◆

  ピーッ! パシッ!

  「遅いなぁ[[rb:玄來 > げんき]]・・・」

  そろそろ花火が始まる頃だと言うのに、まだ[[rb:玄來 > げんき]]は戻っていなかった。俺たちはスマホで待ち合わせ場所を連絡して、近くの公園のベンチに座り[[rb:玄來 > げんき]]を待っていた。

  「早くしないと花火がよく見える場所ぜーんぶ取られちゃうんじゃないのー?」

  「そうだよなぁ・・・」

  ピーッ! パシッ!

  ユズの言う通りだ。特にこの祭りは花火が有名な祭りだから、その時の混み具合も相当なものだろう。

  ピーッ! パシッ!

  それに今日はなんだかんだで[[rb:玄來 > げんき]]にカッコいいところを見せられていない。むしろ見せつけられてしまっている。

  名誉挽回するためにも、せめて花火くらいは良いポイントで見せてやりたいと思うのだが────

  ピーッ! パシッ!

  「やめい!!」

  「ピッ」

  俺がそう言うと、さっきから続いていた[[rb:優 > ゆう]]の吹き戻しアタックが止んだ。

  俺が頭を悩ませている横でピーピー吹いてほっぺに攻撃してくるなんて薄情なヤツである。

  「座ってても暇だし様子見てくるー」

  ユズは立ち上がると両手を頭の後ろで組んで、再び祭りの喧騒の中へ消えていった。

  手持ち無沙汰なまま、公園には俺と[[rb:優 > ゆう]]だけが残された。

  公園の景色の中にはカップルや、学生と思われるグループがチラホラ見えた。しかし、祭りの喧騒が離れて聞こえる公園はとても静かに感じた。

  「そういえば」

  「ピッ」

  「お前が言ってたアニメ観たぞ」

  「ピー」

  「面白くてイッキ見したんだけど、あれ2期なんだな」

  「ピッ」

  「今1期から見直してるんだよ。あ、映画も1本観たぞ」

  「ピーーッ」

  「オープニングとエンディングの曲もいい感じだよな。フルで聴いて覚えちゃったよ」

  「・・・」

  俺は手持ち無沙汰なまま[[rb:優 > ゆう]]話しかけていた。しかし、そこまで言って[[rb:優 > ゆう]]の反応が消えた。

  「[[rb:優 > ゆう]]?」

  俺が[[rb:優 > ゆう]]の顔を伺おうとした時だった。

  「───ッ!」

  「む! むぐー!」

  [[rb:優 > ゆう]]は急に俺を抱きしめてきて、[[rb:優 > ゆう]]でっかい胸板に俺の顔面が埋まった。

  驚きも相まって呼吸がままらない。しかし、ギブアップの旨を伝えようとしても両腕は[[rb:優 > ゆう]]に拘束されていた。

  「むぐ! むぐー!」

  俺は完全に固定された身体で必死に抵抗の意思を伝え、窒息する前になんとか解放された。

  「ごめん」

  [[rb:優 > ゆう]]は俺の顔を見て一言謝罪した。

  どうしたんだと問いただしてみると、どうやら俺の言葉に感極まってしまったらしい。

  ・・・オタクの性というものだろうか。

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]!」

  そんなことをしていると、勝負を終えたらしい[[rb:玄來 > げんき]]が小走りでこちらにやってきた。

  「遅かったな[[rb:玄來 > げんき]]。勝負はどうだった?」

  [[rb:玄來 > げんき]]はニッと笑いながら甚平の袖をまくって力こぶを作って見せた。

  「もちろん勝ったよ! それでアイツにクロ[[rb:兄 > にぃ]]のことヒョロ猫って呼ばせないようにしてきた!」

  「お前、そんなこと賭けて勝負してたのか」

  その呼び方を全く気にしていなかった俺はそれを聞いて少しあきれてしまったが、[[rb:玄來 > げんき]]にとっては大事だったんだろう。

  俺は自然と[[rb:玄來 > げんき]]の頭に手が伸びて、そのまま軽く撫でてやった。

  [[rb:玄來 > げんき]]もそれに応えるように耳を畳んで気持ち良さそうにしていた。

  「なーんだ。戻って来てるじゃん」

  [[rb:玄來 > げんき]]に続いてユズも帰ってきた。入れ違いで今度はユズが帰ってこないなんてことにならなくて一安心だ。

  「お前のこと探しに行ってくれてたんだぞ[[rb:玄來 > げんき]]」

  「別に探してないよ。俺が様子見に行ってたのは花火のほう。良さそうな場所見つけたから、俺が連絡したら来て。あと、虎さんはちょっと付き合って」

  「いいよ」

  そう言ってユズは俺に場所を伝えた後、[[rb:優 > ゆう]]だけ連れて行ってしまった。

  公園には俺と[[rb:玄來 > げんき]]だけ残された。

  「ちなみに、ニャジローさんとはどんな勝負をしたんだ?」

  「えっと・・・あ、いや・・・色々だよ」

  何故か内容は教えてくれないらしい。

  クジで取ったゲームソフト意外の景品は見当たらないため、さっきの射的のように屋台を泣かせるようなことはしていないと思うのだが、言葉を濁されると少し不安になる。というか気になる。

  「そんなことよりさ」

  「なんだ?」

  [[rb:玄來 > げんき]]は話題を逸らすようなトーンでそう言って話を切った。

  俺は小首をかしげながら[[rb:玄來 > げんき]]の顔を見たが、[[rb:玄來 > げんき]]はこちらを向かなかった。

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]は・・・その・・・」

  街灯に集まる虫を見ているのか、星空を見ているのか分からない顔で[[rb:玄來 > げんき]]は歯切れ悪く何かを尋ねようとしていた。

  「なんだよ」

  「その・・・なんていうか・・・す・・・好きっていうか・・・」

  「好き?」

  「だから・・・その・・・お・・・・・・つき・・・」

  「お月?」

  [[rb:玄來 > げんき]]はしどろもどろで、俺は一層首をかしげた。

  「・・・お、お月様! 綺麗だね!」

  結局、[[rb:玄來 > げんき]]はそれだけ言って黙ってしまった。

  ◆◆◇◇◆◆

  「スゲー!! よくこんな場所確保できたな!」

  「たまたま運が良かったんだよ」

  感嘆の声を上げる俺にユズは事も無げに返した。

  ユズたちが確保してくれていた場所は花火が行われる河川敷の歩道に近い上の方で、ご丁寧にビニールまで敷いてあった。

  周りの人達も椅子やビニールシートに座って花火を待っている。

  「ホントにどうやって確保したんだ。このビニールシートもどこから持ち出したんだ?」

  「別にー? たまたま親切な人達が譲ってくれだけー。場所ごと」

  ・・・はい?

  「お前まさかカツアゲしたのか!?」

  「だからー、譲ってくれただけー。やましい事はなーんにもしてませーん」

  俺は風を切るようなスピードで首を振って[[rb:優 > ゆう]]の目を見た。

  [[rb:優 > ゆう]]は俺の視線の意味を察して少し考える素振りを見せた後、ゆっくりと俺から顔を逸らした。

  やってるな、このインテリヤクザども。

  「まあ、譲ってくれたのはホントだよ。笑ってたし」

  [[rb:優 > ゆう]]が申し訳程度の弁明を口にする。

  「なんかヤバいことしたんだろお前ら」

  「ら?」

  「法に触れるようなことはしてないもーん。そんなヘマするわけないじゃん」

  「ヘマってなんだよ!」

  ユズへの追及もほどほどに、俺はとりあえずこの場所に居たはずの人達に手を合わせて感謝と謝罪を呟いた。

  ◆◆◇◇◆◆

  「ホントに・・・スゲェ・・・」

  「うん、地元の花火とは比べ物にならないね」

  [[rb:玄來 > げんき]]の隣で俺は夜空の舞台で花火達が織り成すミュージカルに見入っていた。

  地元の花火は紙芝居みたいに1枚1枚の絵を断続的に見せるような花火だったが、ここの花火はまさしくミュージカルだ。音楽に合わせて色んな花火が踊るように打ち上がっていた。

  結果的に場所取りでもいいとこ無しだったが、[[rb:玄來 > げんき]]も満足そうな顔で花火を見ているので良しとしよう。

  「今回は名誉挽回のつもりだったんだけどな。結局いいとこ無しで終わっちまったか」

  「なんのこと?」

  花火が打ち上がる中で俺は呟いた。

  「それにしても、お前今日は随分ムキになってたよな。いろいろ」

  知らなかった[[rb:玄來 > げんき]]の一面が見れたのは嬉しいが、屋台の人にも少々迷惑をかけてしまったかもしれない。俺がスマートに止められればよかったのだが。

  「・・・そうだね。今は反省してるよ」

  [[rb:玄來 > げんき]]も花火を見て落ち着いたのか、素直にそう言った。

  「どうしても」

  「うん?」

  [[rb:玄來 > げんき]]が呟き、俺が聞き返した。

  「オレ、どうしてもクロ[[rb:兄 > にぃ]]の前だと、カッコつけたいとか、頼られたいとか思って自然と張り切っちゃうんだよ」

  「ぷはは、なんだそれ」

  俺は花火を見ながら[[rb:玄來 > げんき]]の言葉に吹き出した。

  そして、なんとなく[[rb:玄來 > げんき]]を横目で見ると、こちらを見ていた[[rb:玄來 > げんき]]と目が合った。

  ────その瞬間、呼吸が止まって、音楽と花火の音が消えた。

  「どうしてかな」

  [[rb:玄來 > げんき]]の顔は花火の光に照らされて、悲しそうにも、幸せそうにも見えた。

  さっきの[[rb:玄來 > げんき]]の一言は俺の脳に届くことなく、余韻を残しながら音として消えていった。

  俺は[[rb:玄來 > げんき]]から目が離せず、思考が戻らないままだった。

  だんだんと耳が音を探し始めて、頭が働き出す頃には、花火はクライマックスを迎えていた。

  観客を盛大に盛り上げたクライマックスは俺に感動の余韻を残すことも無く終了し、拍手の音だけが耳に響いた。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  ここで問題です。

  [[rb:優 > ゆう]]からベビーカステラをもらう[[rb:琉貴 > るき]]を見て、トウモロコシとチョコバナナを持った[[rb:玄來 > げんき]]は何を言おうとしていたでしょうか。

  伏線張りすぎて筆が遅くなってますが、面白くなるように頑張りますので、お付き合いよろしくお願いいたしますm(_ _)m

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  蒼空ゆうぎ