「今年は3人だったかー。ま、ぼちぼちってところね」
片膝立てて座るミケ先輩が、梅味の缶チューハイを置きながら口を開く。
「十分だろ。10人や20人来たって面倒見切れねぇし」
ビニールシートに広げられた酒のつまみを挟んで、ミケ先輩の向かいに片膝立てて座るオウムの先輩がそれに応える。
[[rb:鳥居 > とりい]] [[rb:鷹介 > ようすけ]]。緑の羽根に山吹色のクチバシを持つオウムの先輩。ミケ先輩と同じ4年生で今年からリーダーになったミケ先輩に続きサブリーダーを任されている。
愛称はトリ先輩。ぴょんと跳ねた冠羽が可愛くもカッコいいCircleのツッコミ担当である。
「いいじゃない、なんとでもなるわよ。普段から3歳4歳の可愛い怪獣たちを数十人相手にしてるんだもの。それに出来ることだって増えるし、影響力も上がるし。数は力よ」
「政治家かお前は・・・」
トリ先輩はいつものようにツッコミを入れる。
先輩たちのこういう会話を横で聞いているのは何か楽しい、というか、何故かウキウキした気分になる。
このシチュエーションのせいもあるかもしれない。
「お、マジで! 学校同じじゃん! ハグしてやろうか?」
隣の新入生グループからキリン先輩のハツラツとした声が聞こえる。
ここは大学近くの公園。見頃を少し過ぎた桜の下で、毎年お馴染みのCircle新入生歓迎会の真っ最中だ。
今年の新入生はユズを含めて3人。猿のユズと犬と鳥の男子が2人だ。図らずもどこかの童話みたいな組み合わせでちょっと面白い。
辻さんと2年生2人も新入生グループで会話してくれている。
俺は気分良く尻尾の先をぴょこぴょこさせながら、アロエの缶チューハイに口を付けた。
「クロっちもやっと酒飲めるようになったな」
ミケ先輩を挟んで隣の[[rb:豹一 > ひょういち]]が酒を飲む俺を見てニカッと笑う。
「クロは去年の打ち上げ全部1年と一緒にソフトドリンクだったもんな。もしかして今日が初めてだったか?」
トリ先輩も自分の酒を片手に声をかけてくれる。
「デビューは誕生日の時に。意外と飲めるタイプだったみたいなんですけど、そのときは調子乗って飲み過ぎました」
初めてだったとはいえ、あのような失敗は2度と繰り返してはいけない。
再びあの痴態を[[rb:玄來 > げんき]]の前に晒したら、俺の中でクロ[[rb:兄 > にぃ]]が終了する気がする。
「はははっ、いいんだよ最初のうちは。早めに自分の限界分かってた方が後々相手に迷惑かけずに済むからな。ねー[[rb:八木 > やぎ]]先輩?」
「ちょ、ちょっとトリ君その話は・・・」
トリ先輩がニヤニヤしながら八木先輩に振る。
八木先輩は院生になってからリーダーをミケ先輩に譲ったが、変わらずCircleのサポートをしてくれている。
それにしても飲み会で八木先輩が酔ったところは見たことない。さっきのやり取りから察するに何かあったんだろうが・・・。
大事な書類食べちゃったとかだったら面白いな。ヤギだけに。
「そもそも限界がないヤツも居るけどな。な、ぐっさん」
「チー鱈おいしい〜」
「聞けよ!」
今トリ先輩がツッコミを入れてるカバ男子が4年の[[rb:大口 > おおぐち]]先輩。通称ぐっさん。後輩の俺たちはグチさんと呼んでいる。
見ての通りおっとりおおらかで、うちのパソコン・・・というか技術担当みたいな人だ。
「ん〜? なんの話してたの?」
「聞いとけよ!!」
今日もトリ先輩はキレッキレだ。
「ま、お酒の話は一旦置いといて・・・」
ミケ先輩がそう口にした瞬間────
─────ガシッ! ──────ガシッ!
「にゃふっ!!」
「ひゃんっ!!」
俺と[[rb:豹一 > ひょういち]]が当時に声を上げる。
突然俺たちはミケ先輩に尻尾を捕まれ、そのままグググと隣のミケ先輩に引き寄せられた。
「今年の新入生。みーんなユズくんが連れてきたってどういうことかしら?」
「ひっ・・・」
ミケ先輩が笑顔でキレており、[[rb:豹一 > ひょういち]]が引いている。
トリ先輩と八木先輩は同情の眼差しで見つめてくるが、助ける気はたぶん無いだろう。
「いいじゃないっすか! 結果的に3人入ったんだし!」
「良くなーい! 加入もしてない新入生が2人も勧誘してるのに、あんたらが成果ゼロってどういうことよ!」
「「んひゃうっ!!」」
[[rb:豹一 > ひょういち]]の主張は聞き入れられることなく、尻尾を握られた俺たちは揃って声を上げる。
そう、今年の新入生である犬と鳥の2人はユズが連れてきたのである。
あの日ブースで写真を撮っていたのもそのためだったらしい。
ユズがそうした理由は分からないが、結果的に入ったのはその3人だけだったので、正直かなり救われた。
「だったら辻と[[rb:奏磨 > そうま]]も同じじゃないっスか! なんでオレとクロっちだけ!?」
「SNSはオマケよオマケ。[[rb:奏磨 > そうま]]くんは役割果たしてるもの。辻ちゃんなんて女子居るだけでアドバンテージなんだからありがたく思いなさい」
「差別だ! 男女差別だ!」
「ああん?」
「うひぃ!!」
[[rb:豹一 > ひょういち]]は尻尾を捻り上げられている。
頼むからそれ以上余計なことを言わないでくれ[[rb:豹一 > ひょういち]]。俺にも飛んでくる。
「ルーキせーんぱいっ!」
「わっ、ユズ!」
向こうのグループに居たはずのユズがいつの間にかこっちに来ていて、俺の両肩に手を置き、頭にアゴを乗せた。
「あらユズくんいらっしゃい。楽しんでくれてる?」
ミケ先輩は依然として尻尾を掴んだままだ。
「もちろんっすよー! でも俺ルキ先輩と一緒が良かったなー」
「そういえばユズくんが入った理由はクロくんだったもんね。よし、クロくんは解放しましょう」
「オレは!?」
「あんたはお説教よ[[rb:豹一 > ひょういち]]〜!」
ユズのおかげで俺は解放されたが、[[rb:豹一 > ひょういち]]はミケ先輩に独り詰められる形となった。
トリ先輩たちはフォローすることなく、その様子を肴に酒を飲んでいる。
「で、お前はいつまでアゴ乗せてるんだよ」
俺は両耳を動かして頭の上のユズに訴える。
ユズはくすぐったいと笑っているが、退く気は無いらしい。
「いーじゃん。俺のおかげで助かったんだし」
「ん・・・まーな。それにしてもお前キャラ変わりすぎだろ。何度も言うけど。加入理由も取って付けたみたいな感じだし」
ユズの自己紹介ではバレンタインイベントで俺が優しくてどうのっていうのが加入理由だったが、どうも腑に落ちない。
「えーヒドイなぁ。そこはマジだよ? ルキ先輩が好きで入ったのー」
ユズは俺の肩を揉みながら答える。
「じゃあ急なキャラチェンジの理由は?」
「キャラチェンジ? よく分かんないなー」
「こいつ・・・」
白々しい態度でスルーされ、俺はため息をついた。
まあ、サークル活動をする上では以前の協調性無しのクールキャラより全然いいのだが・・・。
「そんなことよりルキ先輩。今度の日曜日に俺と遊んでよ。昼飯一緒に食べてさ」
「いや、その日は別のヤツと飯食って遊ぶ約束してるから」
「カレシと?」
「違うわ! つかカレシじゃねーよ!!」
その日は[[rb:玄來 > げんき]]と昼飯を食べて遊ぶ約束をしている。
というか、事ある毎に[[rb:優 > ゆう]]をカレシと呼ぶのはマジでやめて欲しい。ノンケにはただの戯れかもしれないが、マジでホモの俺には結構心臓に悪いのだ。
全国のノンケはマジで肝に銘じておいて欲しい。
「じゃ誰と飯食うの?」
「一個下の後輩と」
「どこで?」
「俺ん[[rb:家 > ち]]」
「じゃあ俺も行こーっと!」
「はあ!?」
「ダメなの?」
「いや、ダメじゃな・・・」
「はい、けってー!」
「・・・」
まあ、久しぶりにゲームで遊ぼうってだけだったし、[[rb:玄來 > げんき]]なら2人分も3人分も大差無いだろう。
俺はスマホを取り出し、一応その場で[[rb:玄來 > げんき]]にメッセージを送った。
[chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]
───────日曜日。
「おっじゃましまーす」
「おう。飯作ってくれてるから、もうすぐ出来るぞ」
俺はドアを開けてユズを迎え、キッチンに立つ[[rb:玄來 > げんき]]をチラリと見た。
「いらっしゃい。クロ[[rb:兄 > にぃ]]のサークルの後輩なんだって?」
「ども! ・・・ん? てかクロ[[rb:兄 > にぃ]]? 後輩じゃなくて弟さん?」
[[rb:玄來 > げんき]]は“やべっ”と言った様子で耳をピンと立てて固まる。
その様子がちょっと可愛くて俺は軽く吹き出して笑った。
「似たようなもんかな。こいつは[[rb:柴 > しば]] [[rb:玄來 > げんき]]。高校の後輩で、今は近くの小料理屋に勤めてるんだ」
照れ隠しのつもりか、[[rb:玄來 > げんき]]は俺の言葉に苦笑いする。
中学からだったか、[[rb:玄來 > げんき]]は俺のことを人前では黒井先輩と呼ぶようにしていた。
俺はクロ[[rb:兄 > にぃ]]で全く構わなかったのだが、[[rb:玄來 > げんき]]もお年頃だったらしい。
ここ1年、周りが気心知れた仲の人たちばかりだったので、[[rb:玄來 > げんき]]も気を抜いてたようだ。
「あ、じゃあ大学の先輩ってわけじゃないのか。俺ユズ。よろしくな、ワン公」
「ワ・・・っ!?」
ユズの態度に口を開けて固まっている[[rb:玄來 > げんき]]を他所に、当人は靴を揃えてスタスタと部屋へ上がってしまった。
「わ、悪気はないんだよ[[rb:玄來 > げんき]]。あんま気にしなくていいからな。てか、気にしちゃダメだぞ。な?」
固まる[[rb:玄來 > げんき]]にフォローを入れて、俺もユズを追って部屋に戻った。
◆◆◇◇◆◆
「ねーねールキせんぱーい。先輩ってどんな子がタイプ? いつもどうやって抜いてんの? 薄い本とか隠してない? 見たいな〜」
「そんなもん置いてません」
食事の時からユズは俺の腕にピッタリくっついてこんな調子だ。おまけに尻尾も絡めてくる。
別にそれ自体は嫌じゃ無いし、こんな追求も適当にあしらえば良いだけなのだが、問題は[[rb:玄來 > げんき]]だ。
[[rb:玄來 > げんき]]は今、指をケガしている俺を気遣って食器を洗ってくれている。
ここから表情は見えないが、食事中はマジでちょっと怖かった。
[[rb:玄來 > げんき]]は俺とユズの向かい側に座って食事していたのだが、貼り付けたような笑顔が段々と引きつっていき、終わり頃にはほとんど無表情になっていた。
「食後のお茶でも入れるか」
「え、いいよ別にー。指ケガしてんでしょ?」
「それくらいできるっつの」
立ち上がろうとした俺を引き止めようとユズが俺の腕を引っ張る。
「いいよクロ[[rb:兄 > にぃ]]。オレが入れるから」
話が聞こえていたらしく、[[rb:玄來 > げんき]]が声を掛けてくれる。
いつもより声のトーンが低い気がしてちょっと怖い。
「俺紅茶なー。ワン公」
ユズがそう言った瞬間、食器用スポンジが泡とともに握り潰される音が俺の耳に響いた。
・・・訂正する。ちょっとじゃない。だいぶ怖い。
俺はユズの話し声をBGMに、怒っている母親の尋問を待つ子供のような気持ちで[[rb:玄來 > げんき]]を待った。
◆◆◇◇◆◆
「・・・」
固まる俺。
何かを堪えるように目を伏せている[[rb:玄來 > げんき]]。
「へぇー何これティーバッグ? いつ取ればいいの?」
能天気なユズ・・・。
「それくらい適当に取ればいいだろ。いちいち聞くな」
あの[[rb:玄來 > げんき]]が明らかに不機嫌丸出しの態度で応える。
[[rb:玄來 > げんき]]は性格的に生真面目な体育会系だ。無礼な態度の歳下は恐らく生理的に無理だろう。あとたぶんユズが俺にベッタリで妬いてると思う。テニス部でも似たようなことあったし。
つまりユズがしゃべるほどに、この状況は悪化する。
「適当って、お前料理人のクセに紅茶の淹れ方も把握してないわけ?」
「っっ!」
[[rb:玄來 > げんき]]は取ろうとしていた自分のティーバッグのタグをぐしゃりと潰す。
ユズ、お願いだ。もうしゃべらないでくれ。[[rb:玄來 > げんき]]が怖い。
「そうだルキ先輩、今度俺ん[[rb:家 > ち]]来る?」
「ユズん[[rb:家 > ち]]?」
[[rb:玄來 > げんき]]の丸眉がピクリと反応する。
「俺ん[[rb:家 > ち]]さー、親も兄も海外だから寂しいんだよー。ね、いいでしょ? ルキ兄ちゃ〜ん」
その瞬間、鋭い悪寒が走り俺は、[[rb:玄來 > げんき]]の方を向いた。
[[rb:玄來 > げんき]]は目を伏せて下を向き、マズルの上にゆっくりと皺を寄せて牙を露出させていた。
俺はユズが引き止める間もなくズバッと立ち上がり、[[rb:玄來 > げんき]]に駆け寄った。
「げーんき! [[rb:玄來 > げんき]][[rb:玄來 > げんき]]げーんきぃー!!」
もちもちもちもち──────
俺は今までに無いほど速度で[[rb:玄來 > げんき]]のほっぺをもちもちした。
「今日は色々やってくれてありがとうなー! 飯もすっごく美味しかったぞ! 流石[[rb:玄來 > げんき]]だ! 急な対応お願いしてゴメンなー! ユズはそろそろ帰るらしいから、見送りしたらゲームしようなー!」
俺は必死で、半分やけくそ状態だった。
「えー俺まだ全然・・・」
「なっ!!」
俺は全身全霊の祈りを瞳に込めてユズの方に振り返った。
「・・・はぁー、しょうがないなー」
俺は再び[[rb:玄來 > げんき]]の方を向き、マズルに寄った皺を両手の親指でクイッと伸ばした。
◆◆◇◇◆◆
───────ユズが帰った後。
「[[rb:玄來 > げんき]]〜、機嫌直せよ〜」
「・・・・・・」
自室のソファの上。[[rb:玄來 > げんき]]は座っている俺の膝の間に顔を沈めて、ソファに突っ伏している。
「だって・・・」
[[rb:玄來 > げんき]]はスポッと俺の膝からマズルを抜き、そのまま膝に頭を乗せる。
出てきた顔は半べそかいて頬をプクッと膨らませる。
尋常じゃなくかわいい。
「ユズもさ、悪いヤツじゃないんだよ。まだちょっと子供っぽいところがあるだけで、根はいいヤツだからさ」
言葉でなだめてみても[[rb:玄來 > げんき]]の表情は変わらない。
恐らく・・・というか間違いなく嫉妬してくれているのだろう。
それは舞い上がるほど嬉しい。
しかし、ユズと少し顔を合わせただけで、あの[[rb:玄來 > げんき]]が我慢の限界を迎えたようになっているこの状況には参ってしまう。
いつものもちもちのパン生地はすっかり妬き上がって膨らんでいる。
「オレ、アイツき・・・苦手だ」
俺はかけてやれる言葉も無く、溜め息を一つついて、未だ熱の冷めない妬きたてパンを撫でた。
膝の上のパンはキュッと目を瞑り、弱々しく尻尾振っている。
俺はこの先の漠然とした不安に耳をヘタらせて天を仰いだ。
先っぽの黒豆からは時折“ピ・・・ピ・・・”という音が漏れ聞こえていた。
[chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]
缶チューハイは基本苦手ですが、Slatのアロエは好きです。(唐突
これからはユズもメインキャラとして出張ってきます。
まだ好感が持てるキャラではないと思いますが、進撃の[[rb:禅孫 > ゆずひこ]]をよろしくお願いします。
頑張れ[[rb:玄來 > げんき]]。
【定期】
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いつも柴クロをお読み頂きありがとうございます。
蒼空ゆうぎ