悪い狼さんと獅子さんと、縁ある人々

  ●

  「……紹介?」

  ラムリスはテーブルの向かいに座る狐獣人の言葉に、片眉を上げて尋ねた。

  「ええ、ほら。私が今日お持ちしたものもですが。前々回お持ちした薬草の出来が良かったとのことで、栽培法を聞いてみたいと仰られていたでしょう?」

  「おお……んむ。一言零しただけだったというのに、覚えておったのか」

  「勿論でございます。誰あろうラムリス様がご興味を持たれたご様子でしたから」

  狐獣人はふっくらとした頬に柔和な笑みを浮かべる。元来の鋭い目付きを隠すような笑みは生粋の商人を思わせる。

  「その栽培師も、ご自身の薬草がどう扱われるか気になっているようでしたよ」

  勉強熱心ですよね。と言う辺り既にある程度の話は通っているらしい。

  ラムリスは、隠居を始めてから知り合いになったこの商人に、底意地の悪さを感じていた。

  信用の出来る相手だ。だからこそ館に入る事も許している――許されている。

  だが、それは口の堅さや背後関係の明るさによるもので、当人の腹黒さは関係しない。

  「……それで、トリティカム。儂がどういった立場か。その者には教えておるのか?」

  「ええ、既に隠居されて奔放に余生を過ごされている穏和な方だと」

  「奔放とはな」

  ため息代わりに短く返事をした。

  さも当然のような顔で、立場でなく気質の話にすり替えている。つまり、ラムリスが前王という情報は与えていないのだろう。

  「ふむ、つまりはその方が良いということか」

  「ええ、その方は真っすぐで実直な……面白い方ですよ」

  ラムリスはそう答えたトリティカムを諌めはしなかった。伝えたところで意味を為さぬことはこれまでの付き合いで分かっていたし、何よりラムリス自身、その『面白い』と評された反応を楽しみに感じていた。

  「それでは、都合がつき次第ご一報いたしますね。ああ、それと天気の荒れる季節が近くなっておりますので、お気をつけください」

  「ああ、ありがとう、よろしく頼むの」

  ラムリスが侍従に合図を送り、応接室の扉が開かれる。

  恭しく頭を下げたトリティカムは、僅かに緊張した面持ちで周囲に視線を彷徨わせた後、どこか慌てたように部屋を辞していった。

  

  ●

  肩が凝る。

  久方ぶりに訪れた前王の屋敷。トリティカムは小麦色の毛を些かくすませて屋敷の門を出た。

  あの御仁が苦手というわけではない。むしろ、懇意にしてもらえてありがたいという印象しかない。彼の微妙な立場のせいで対応に緊張するという部分も少なからずあるが、それは別にこの屋敷に限ったことではない。商会という母体を持たない個人商であるトリティカムも爵位を持つ家と商談を行う事自体は少なくない。

  ならば、なぜ冷や汗すら感じる程に緊張しているのか、といえば。

  嫌な匂いがしたのだ。嵐に先んじてでもない。

  侍従は控えであった者に変わっていたが、屋敷の住民は殆ど変わっていないようだった。だというのに、匂いが僅かに違う。それは恐らく主人であるラムリスの変化によるもの。

  だが、ラムリス自身の性格に差があるわけではなく、彼が纏う雰囲気に違う色を僅かに混ぜ込んだような。

  「よう」

  違和感の正体。それに気付きながらも、それを認めたくはなかった。トリティカムも前王を尊敬している。故に、過去の瑕疵そのものであるその狼が、ラムリスに匂いを残す程に関わっているなど。

  「……やはりか」

  トリティカムは震える手足を抑え込み、清らかな森に似つかわしくない大柄な狼獣人を睨みつけていた。

  

  ●

  その雄と出会ったのは、所属していた商会のコネを頼りに、個人商としてどうにか軌道に乗り始めた頃だった。

  「よお、すまねえが屋根を貸してやくれねえか?」

  旅商の途中。不意の大雨に雇い馬車を止めて雲が通り過ぎるのを待っていた時。ローブを被った狼獣人が声を掛けてきた。全身、雨水に濡らした見すぼらしい狼男。

  ひと目見た瞬間に危険だと察した。だが、それと同時に馬車の護衛達では抑えきれないのではないかという勘が働いた。手で剣を抜こうとする護衛を制し、警戒の視線を向ける。そんな私にその狼はへらへらと笑ってみせたのだ。

  「安心しろよ、今は腹がいっぱいでな。満足に動けやしねえ」

  と、ローブの上からでも分かる程に膨らんでいた腹を撫でて言う。

  「ちょいと寄せてくれりゃ暫く護衛をしてやってもいいぜ?」

  もし、腹が減っていないのならば、どうしたのか。そんな質問を投げかけることもしないまま、馬車の幌へと彼を招き入れていた。

  護衛が警戒の視線を向ける中で、自然体で居座った彼は、自分の身の上を傭兵と語っていた。

  街から街へと移動するに先日降られた雨にやられ、腐りかけた食材を全て胃に放り込んだのだとか。

  背負っていた簡易テントを山中に落として、そこから野宿でどうにかココまで辿り着いたのだとか。

  最初の警戒が、雨で気が滅入ってしまっていただけだと思いこんでしまうほどに、狼は気さくな風を装っていた。いや、元来そういった気質もあるのだろう。

  まず、狼は御者と打ち解け、次第に私とも談笑するほどに仲が良くなっていた。護衛は依然警戒を続けてはいたが、それでも私達に釣られて警戒を緩めていた事は確かだろう。

  馬車に乗せる代わりに護衛をする。その言葉通り、一度馬車を囲んだ野盗を率先して追い払ってもいた。

  怪しい素振りはなく、態度が悪いだけの傭兵だと。そう思いはじめていたある時。

  暗いテントの中。忍び寄った狼に私は組み敷かれていた。背後から回された腕に口を塞がれ護衛を呼ぶ事もできない。

  「良いだろ、護衛の対価ってことでよ」

  背に感じる硬い感触。武器の類ではない、いや、ともすればそれよりも凶悪な程の圧力。ふくよかな腹の下から聳えるそれは紛れもなく狼の雄茎に他ならない。ただ、その大きさは知る雄のどれもが顔を伏せるような壮絶とも言える大きさだった。

  「……っ」

  厚く見える旅装は用を足しやすいようになっている。容易く解かれた下穿きの奥、生身の尻へと熱した杭が宛てがわれる。

  私自身、雄と関係を持つ事は少なからずあった。だが、その時の感覚はまるで違った。あまりにも当たり前の様な狼の凌辱に、私の体が拒む事すらできなかった。激痛を堪え、護衛に気づかれぬように涙を流しながら体を犯され、そして、――私の下着は私自身の精液に汚れていた。

  私自身が気づかぬ内に精を放ち、狼は満足そうに寝床へと帰っていく。そんな対価を毎晩払う内、私はその時間を待ち望むようにすらなってしまっていた。

  護衛の一人を食い殺す狼を見て、転がる様に逃げ出したあの日までは。

  あの雇い馬車は、それから見ていない。

  

  ●

  やはり、初めに感じた危機感は紛れもなく本物だったのだ。

  トリティカムは目の前の狼、フォルティスに改めてそう感じた。あの時から歳を重ねてはいるが、その身に染み付いた匂いは変わらない。

  「食べ損ないが生きてやがったか」

  そんな危険人物に覚えられている。その事に足元が崩れるような感覚を味わいながら、懐に仕舞った短剣の場所を確認する。

  「今更食ったりしねえよ」

  フォルティスはそう言ってトリティカムに背を向けた。そして、指で「着いてこい」とジェスチャーを送りつけてくる。従う道理はない。だが、今から屋敷に助けを呼ぶにせよ、確実に追い詰められて殺される。

  そもそも、あの屋敷からそう離れていない森中にこの危険人物がいること自体がおかしいのだ。

  「……」

  その事自体も、トリティカムの好奇心を疼かせていた。尊敬すべき前王ラムリス。その彼と一体どういった関係にあるのか。まるで闇を覗き込むような不穏を感じながらも、トリティカムは狼の背を追っていった。

  そして。

  「ぁ、ウ……っ」

  私は樹に頭を擦り付けるようにして、片足を掴み上げられ裸になった下肢を狼にさらけ出していた。顔が熱い。

  屈辱。屈辱だ。それだけが理由のはずだと言うのに、あの短い日々に植え付けられた雌のように扱われる倒錯が、突き入れられた指と触れる粘膜から羞恥も嫌悪も飲み込むような情欲の熱を焚き起こしている。

  「おいおい。指だけでそんだけ締め付けてきやがったら、ブチ込んだら裂けて死んじまうぞ?」

  「ぐ……う、この……っ」

  指が内壁を削る。その度に擦り取られていく理性、晒される生肌の欲望。いつしか、私の雄肉は硬さを増し、今は既にその先端から滴を情けなく零してすらいる。まるで、この雄に弄ばれる事を愉しんでいるようだ。

  そんな事はない。そうだ、私は、あの恩ある敬愛すべきラムリス様に近づくこの輩の本意を知るために。体の中を少しずつ焦がすような熱。それが体の中で膨れ上がり、私という体の輪郭を歪めていく。そんな錯覚すら覚え始めたその時。

  ぬぐ、と粘ついた婬音を立てて、狼の指が私の中から這い出ていった。

  「ん、ぅ……っあ?」

  それと同時に、私の脚を掴み上げていた手が離され、突如バランスを崩した私の体は地面に膝から崩れ落ちていた。

  「なに、……を」

  と憤慨を露わにしようとした私の鼻先に、巨大な凶器が突きつけられていた。凶器、正しくそのもの。これから私を貫かんとする、雄の槍。

  膝付いた私に屹立した巨大な棍棒を曝け出し、その図太い全身でまるで陽の光を遮るように私の頭上にニヤついた笑みを浮かべていた。

  「は、……っぁ、……あ」

  思えば、これだけの明るみの中でそれを見たのは初めてだ。決まって後ろから、そして暗がりの中で私は、これだけの逸物に貫かれていた。思わず恐怖した。恐怖し、そして、その恐怖があの日々の夜を明瞭に私に思い出させる。

  言葉を失った。

  私は、緩慢に口を開き、そのふてぶてしく逞しく膨れ上がる肉塊に舌を這わせていった。それを見届けた瞬間に、狼の腰が弾かれたように私の喉奥へと一気に侵入を果たす。込み上がる吐気を無理矢理に抑え込んで、私は顎が外れそうな程に開いた口腔を埋める雄の味に舌先を痺れさせていた。

  旅商などをしていれば、男女もなく交わる機会はあった。だが、ここまで相手を省みぬ淫行など味わったことはない。ぐぷ、ぬぐぷ、と粘ついた音を立てるのは、私の口端で泡立ちこぼれ落ちる唾液と先走りの混合液。

  「お、ぁ……っ」

  「ああ……やっぱ良いなぁ。雑に壊しちまってもいい感じ」

  埋め尽くされる口から溢れることすら出来ない泡立ちは、行き場なく私の喉を滑り落ちていく。呼吸すら満足に出来ない。まるで喉の奥を支配されているように、狼の巨根が口から引きずり出される時を狙って息をするしか出来ない。

  拒むことは出来ない。拒めば、潤滑剤もなく貫かれて、腹が裂かれるのだろう。この狼は、たとえ私が血を流そうとも己の欲を満たす事を優先する。

  苦痛と戦いながら、私はそれでも幹に唾液を纏わせる。泡立ち、狼の先走りと交じって粘性を増したそれでさえ、潤滑剤としては効果は薄いだろう。

  それでも。

  「お、ご……」

  私の口の中から、その熱が冷めやらぬ鉄塊のような獣欲が引きずり出される。ぼとりと、口とその鈴口で繋がる糸というには太い線が弧を描いて地面に丸い水滴を作った。

  土に吸い込まれず形を保つそれを見下ろす私に、狼はその手に極悪めいた男根を持って命令を下した。

  「休んでんじゃねえよ、本番だぜ」

  「ぁ……ぅ」

  蹂躙され、力なく狼を見上げることしか出来ない私の頬に、べちべちと狼の雄根が叩きつけられる。

  それに反応して見上げれば、狼は顎を軽くしゃくり、直前まで彼が手を着いていた樹の幹を指し示した。

  「手突いて、ケツ突き出せ」

  「……」

  ついに。

  数年ぶりだ。あの巨根を突き入れられる。恐ろしい。嫌だ。強烈な痛みが脳を焼くような、あの記憶。それでも狼に従おうと震える体で立ち上がり、気付く。

  私は、それでも、まだ欲情を熱り立たせたままでいるのだ。立ち上がる動きに合わせてぶるりと揺れる屹立の先端から、透明な滴が糸引き跳ねる。

  上半身を着たままに秘部を曝け出し、そして、売女のようにそれを雄に見せつける。これほどの屈辱があろうか。

  「ちゃんと意識保ってろよ? じゃねえとお前の知りたい事は教えてやれねえからよ」

  だが、その獣の視線が私を逃してはくれない。解されたその秘孔へと先端が添えられる。それだけでまるで全身の骨が軋むような錯覚を覚え、身震いをする。力が込められる。壊される。そう感じて、力を抜こうとする私に狼が嘲るように呟いた。

  「商人なら、対価の必要性は分かってんだろ?」

  そんな言葉は、叩き込まれた脳を白く染め上げる爆発によって、かき消されていた。

  

  ●

  ラムリスは木々の間で息を潜めて、茂みの向こうで繰り広げられる情事を見つめていた。

  そこにいるのは見知った二匹の獣だ。

  「あ、がッぁあァア……ッ!!」

  狼と狐。どういう経緯かは知らないが、数刻前まで商談を行っていた相手が狼の熱杭に貫かれている。フォルティスが時折、合図もしていない時でもこの森に訪れている事は、彼の話す事から明白ではあった。

  だが、散策へと出かけた先で、彼が己とは別の雄を犯す所を見るとはついぞ思いはしなかった。

  陰謀を企てた知己の山羊を罰と称し、共に犯した事はある。だが、あの狼が誰かと体を重ねる行為を客観視する事はこれまでにないことだった。

  「んだ、随分見ねえ間に、孔が狭くなったんじゃねえのか!? なあ、おい!」

  まだ日も高い森の中。

  背中を木に預け、狼に膝を掲げられた駅弁体位。狐は強大な雄肉に貫かれ、尻肉を捲りあげられるような勢いの抽挿に、グチュン、バチュンと淫猥な肉音を響かせている。

  「あ、ッ……ああぐっ、は、はあ……っ、がッあ!?」

  常に商人らしい仮面を被っているトリティカムが、苦痛と婬悦に獣じみた叫びを発している。だが、無理やりにというようには見えない。トリティカムは確かにフォルティスに体を預け、快楽の声を隠そうともしていない。

  フォルティスの尾が腰の動きに合わせて振られると、その太い雄竿がトリティカムの肉を割き擦る音が聞こえてくるようですらあった。

  「ぁあッ、グ……ぅう!!」

  熱り立つ商人の竿が苦痛に満ちた表情とは真逆に悦びを全面に、白く濁った粘液を零している。そこに彼の意思は存在

  しないのだろう。常人の大きさのそれから溢れる雄汁は勢いなく体の内側を蹂躙される圧力に押し出されているように力なく、それでも主人の快楽を従順に示している。

  「だらしねえなぁ! 安物の肉筒みてえじゃねえか、よおッ!」

  太い喉から響く狼の唸り声が、他人の矜持を踏みにじり辱める事に悦んでいる。

  その声にどうしようもなく尻が疼く。フォルティスが大人しくラムリスの手中に収まっているだけの手合ではない事は分かっている。故に、フォルティスが別の雄を抱いている事に嫌悪を抱くことは無い。ズボンの中で膨らんだ自らの欲を掴みながら、それに貫かれる錯覚にじわりと下着を濡らしていた。

  

  ●

  クルト。

  「……あ、あの……本当に、僕がココにいて、良いのでしょうか……?」

  それが、今、ラムリスの前でガチガチに緊張しきっている狸獣人の青年の名前だった。

  「なに、儂から招いたのじゃぞ。誰が文句をつけようか。それとも、儂と顔を合わせるのは嫌だったか?」

  「い、いえッ! い、いつもご贔屓に……いえ、僕の薬草を用立てていただいて、あり、ありが……っ」

  ラムリスが誂うと、まるで急に芯を入れられたかのように背を伸ばした狸の青年は慌てて呂律の回らない弁明を発しては、挙げ句言葉を詰まらせて視線を彷徨わせてしまった。

  (なるほどのう……)

  トリティカムが言っていた『面白い』という言葉を思い返して、ラムリスは内心頷いていた。

  打てば響く、といった具合だが、響かせ過ぎると割れてしまいそうではある。

  「驚かせてしまったな。まあ、儂の身の上のことじゃが、あまり言いふらすものでもないのは確かじゃ」

  トリティカムを恨まんでおいてやってくれ。と、放置をしていた共犯者であることを隠してそう告げれば、クルトは「そんな事はっ」と両手を慌てて振る。

  「た、ただ、その……まさか前王様にぼ……私の薬草を使っていただいているとは思っていなくて……こ、光栄です」

  そのまま振っていた手指を合わせて弄びながら、にへ、と純朴な笑みを浮かべた。

  少し緊張も解れてきたようだとラムリスはその様子に微笑んだ。そもそも彼を呼んだのは、別に純粋な青年を弄ぼうという理由ではない。

  栽培法について、意見を聞いてみたい、という理由だったわけで。

  「ここが儂の研究室じゃ」

  「わ……」

  茶を飲んでいても話は進まないと、早々にラムリスはクルトを連れて応接室から移動していた。

  研究室。と入ったものの、調合室と栽培室に分かれた小屋になっている。壁には乾燥させた薬草束が下げられており、棚には薬瓶。調薬台の薬研の傍らには、参考書が重ねられている。

  あまり片付いているとは言えない光景だが、ラムリスの知る調薬師の作業場としてはこれでも整然と片付いている方だ。時折侍従が顔を覗かせては、ごみ一つ見逃す事ができないといった職業病に眉を顰めていく光景なのだが、クルトはむしろ調合室の様子に目を輝かせていた。

  「アステルピウムの粉末……種と葉ですね……! 確か種は乾燥前と乾燥後で薬効が違うんでしたよね。これは比較実験の最中なのでしょうか……。あ、これ、ノクルスノアですね。僕の畑だと栽培が難しいんですよね……」

  「ほう、なるほどな。一度トリティカムにお主から仕入れられないかと尋ねた時に難しいと返されたのだが、そういった事だったのか」

  「そ、そうだったんですね……トリティカムさんにノクルスノアの株を仕入れていただいたので、それで失敗したこともご存知だったんでしょうね」

  仕入れて成功したのであれば、他の株の注文や商品提供があるはず。トリティカムはそう言った情報を見逃さない男だ。

  先程までの緊張など忘れたように明るく声を発するクルトに、ラムリスはそのまま調合室を抜けて、その奥、栽培室へと彼を案内する。

  ラムリス自身、薬草を仕入れるばかりでは無い。商人に頼むとなれば日数はかかるし、その間に鮮度は当然落ちる。

  故に身近で素材が手に入るに越したことはない。この森に居を構えた理由もそうであるし、そこで手に入らない素材についても手は無いかと試行した。

  それがこの栽培室だった。

  ●

  意見を聞いたい。そう言われて案内されたのは、調合室に隣接した栽培室だった。ガラス張りで外の環境から遮断されたその空間は、薬効を一定に保つ事が最大の要所とされる薬草の栽培には最適とも言える環境。

  僕は羨ましいと思うと同時に、鼻を掠める匂いに違和感を感じた。

  「ルコの薬草ですね」

  「うむ、そうなんじゃ。育ちが悪くての」

  「多分ですけど……」

  と少し違和感を覚えた部分へと目を遣る。

  「やっぱりイルクィア……あまり知られていないのですがこの根が土壌に微妙な差を生じさせるので、植物によっては異常を来たしてしまうんです」

  「ん、そうじゃったのか。強い草じゃとは知っておったが……」

  僕が答えると、ラムリス様は嬉しそうに頷いてくれる。それに加えて、改善法を伝えるとすぐに移動の案を提示してくれる。

  「ええ、ですので……」

  心地の良い相槌。理解を見せる視線。僕がいつにもなく誰かと話が出来ている。それは彼のそう言った仕草によるものなのだと気付いた時には、もう彼と話をすることが楽しくて仕方がなくなっていた。

  時間を忘れて語り合い、気付けば広くはない栽培室の全てについて意見を交換し終えてしまっていた。

  「なるほどのう……やはり参考になるの」

  うんうん、と頷くラムリス様の横に立ち、その横顔を眺めていた。穏やかで、そして理知的な瞳。慕われる王様だったとは聞いていたが、それも頷ける。また会いに来れたら嬉しいと思う。不思議に底知れず、それでも優しいのだと確信で

  きる雰囲気を纏うその表情。柔らかな表情を向けられたまま、僕はゆっくりと近づいてくるラムリス様の腕の中に包まれていた。

  「ん、ぇ……え?」

  お腹が押し合って歪む。その感触を受け取って数秒後に僕は状況に気づいて、そんな変な声を上げてしまっていた。ラムリス様の鼻先が僕を慰めるように肩首に埋められる。

  「何を寂しそうな顔しておるのじゃ、んん?」

  「い、え……っ、ん、ひゃ……ッ」

  僕が困惑する間に、ラムリス様の誂うような口調が耳に飛び込んでくる。そして、背中に回された腕が僕の尻尾を撫でていた。敏感な根本を櫛のように指で刺激されて、ぞくぞくとした感覚に毛が逆立つのを感じていた。

  背中を撫でられ安心するような心地と共に、尾を撫でられて落ち着かない心地がぐるぐるとせめぎ合って、どっちに傾けばいいのか分からなくなるようだ。

  僕はそんなに寂しそうな顔をしていただろうか。……多分していた。きっとお招きいただけるのは今回限りだろうし、これだけ話せるのも今回限りだ。自分でも呆れる事に、この時間だけで僕はラムリス様を本当の意味で敬愛していた。ただ前王であるという肩書ではなく、彼自身の人柄を。

  だから。

  「ぁ、……ラム、リス様……っ」

  なすがままにされ、触れ合う体温に唆されてズボンの中で窮屈に硬くなった屹立を握られても、僕は嫌だとは思わなかった。

  「今度は随分と物欲しそうな顔をするんじゃの」

  ラムリス様の悪戯な指先が誂うようにズボンに浮き出た情欲の輪郭をなぞる。その甲、その指に僕は自分の手を重ねて

  はラムリス様のお腹を撫でる。

  顔を上げたラムリス様が、僕をじっと見て微笑んだ。

  

  ●

  「ぅう……」

  丈夫な調薬台。その上にあった薬品や書籍をまとめて移動させて作った空間に、クルトは体を載せていた。服を脱ぎ、生まれたままの姿になったクルトは、その小振りな屹立を期待と緊張に震わせていた。自分で膝を抱えるように脚を拡げて、濡れる感触にきゅうと目を瞑る。

  ラムリスは、柔らかな樹で作られた張り型で洗浄した排泄口に舌を這わせる。その先端が自分の中に入ってくる――そんな未知の感覚に強ばる体をラムリスは優しく撫でていた。

  「儂の舌を食いちぎる気か? まったく、初い反応は丸い尻に似合って可愛らしいがの」

  「ご、ごめんなさい」

  「ああ、謝る事はない。褒めておるのじゃぞ」

  唾液を塗り拡げるように、刺激に反応するその入り口をラムリスの指が愛撫する。今からここでラムリスの雄を歓迎するのだと教え込むようにぐりぐりと入り口を解しながら、ラムリスは恐縮するクルトに相好を崩した。

  「恥ず、かしいです……っ」

  「それは、今の格好がか? それとも、可愛いと言われたことがか?」

  「どち、らも……です」

  消え入るような声。

  それでも、クルトが羞恥を覚えながらも素直に答える度、ぴくぴくと震えながら硬さを増していくその雄に決して彼が恥ずかしがっているだけではないのだと確信を覚える。

  可愛い、などと言われる機会はなかったのだろう。クルトはただ才を発揮する場でなければ冴えない青年だ。もしかすると女性とこういう関係になったことも無いのかもしれない。

  「そら、力を抜くんじゃよ。息を詰めず、ゆっくり呼吸をするようにな」

  くぷ、と沈み込んだ指先。一瞬震える様に締め付けた力は、ラムリスの言葉通りに緩んで太い指を迎え入れていく。

  「ああ……、ラムリス様の、指……が」

  「感じるかの?」

  信じられない、というように感覚の元を見下ろそうとする狸獣人にそう問いかければ、彼はコクコクと何度も小さく首肯を返していた。陶酔するように自分の中にある感覚、違和感の中にある快感を見つけ始めたトロリとした表情を見せ始めた時。

  「……っ」

  ビクン、と調薬台の上の体が驚く様に跳ねた。それと同時にクルトの若い嬌声が調薬室の中に跳ね返る。

  「ん、ぁッ……ラムリス様、僕……そこ、変……ッで、す……!」

  「んむ、ここじゃろう?」

  「は、ぃ……ッ、ああっ、や、……っ、ダメ、です!」

  まるで砂に潜った蛇が獲物を見つけるように、ラムリスの指はクルトの弱点を明確に見抜いていた。前立腺をその裏側から圧迫される。初めてだろうその屹立を内側から扱かれるような快感。

  「僕、ぁ……っ、ん、んぅ……」

  従順に膝を抱えたクルトの腰で天井を指し示すその漲りの先端にぷくりと白い滴が浮かび上がったかと思えば、ラムリスの指の腹に押し出されるようにして、その若い茎を白濁の滝が伝い落ちていく。トプッ、トプ……っ、と吹き出る訳ではなく脈打ちながらも静かに落ちていく射精に、余韻の吐息を漏らすクルト。

  「初めてでここまで感じるとはのう」

  そんな彼の半ゼリー状の白に塗れた竿を撫でながらラムリスは、すぐさま手の中で硬さを取り戻していく欲望にその若

  さを実感する。そしてこれなら大丈夫そうだと、自身のズボンを留めていた紐を緩めると、その下で押し込められていた獅子の怒張を照明の下に曝け出していた。

  「……すごい」

  クルトは思わず、その見事な逸物に呟いていた。自分自身のものとは比べるまでもなく立派な雄性がそこにある。

  「握ってみるかの?」

  「は、……い」

  悪戯に問いかけてみれば、ラムリスの予想に反してクルトは頷いて、片膝から手を離してその掌をラムリスへと差し伸べてくる。一瞬驚いたもののその手に握らせる。クルトのそれより些か柔らかさの残る屹立、それを包みこんだクルトの掌がその大きさを測るように表面を撫でる。

  「これがお主の中に入るんじゃよ」

  「っ……、ぁ」

  その言葉に、クルトの瞳が揺れる。だが、そこに見えたのは恐ろしいという感情ではなく期待。先程、雄汁を漏らした原因のその秘部へと雄として憧れるような大きさのそれが沈み込む。それによって齎される快感への興味。

  「は、い……」

  ゆっくりと臀奥へと宛てがわれる雄茎。それを拒む事もせず、クルトは何も言わず再びその手で膝を抱えた。硬く狭いその洞窟は、しかし、抵抗少なく、力を入れたその肉杭はゆっくりと沈み込んでいく。

  「ラムリス様の、が……僕の、中に……」

  その声に応えるようにクルトの上に影が降りる。眩しい照明を遮る雄の影。

  →Aルート:[jump:2]

  →Bルート(バッドルート):[jump:3]

  [newpage]

  

  ●

  「……え」

  僕は、その光景に呆けた声を発していた。

  暗い影を落とすその姿は、ラムリス様のそれではなかった。彼の後ろにいるのは、ラムリスよりも大きな、狼。

  「よお、楽しそうな事してんじゃねえか、あんた」

  「ラム……」

  「フォルティス」

  ラムリス様。と叫ぼうとしたその前に、ラムリス様自身が首だけで振り返りながら、少し驚いた声色で彼の名前らしき言葉を口にしていた。

  「んだ、人前じゃ姿現さねえとでも思ったか?」

  僕は気付いていた。その声に、僕を犯すラムリス様の屹立が硬さを増したのを。

  「若い雄捕まえて、オスらしく火遊びか」

  ラムリス様越しでその狼の体の大半は見えない。それでも、なんとなく僕には狼がラムリス様に何をしているのかは分かった。

  きっとこの狼は、ラムリス様の後ろに欲の漲りを擦りつけている。縄張りを表明するように昂ぶった屹立でラムリスの背に匂いを塗り込んでいる。

  だが、それで分からないのは、ラムリス様の表情だった。

  「くぅ……っ」

  さっきまで穏やかだったラムリス様の表情に、明確な欲が表出しているように思えた。まるで、芸をこなした後のご褒美を待ちわびている犬のような表情。だが、ラムリス様は僕が読み取った感情とは別の言葉を口にした。

  「ま、待てフォル……ゥぐッ!」

  それを合図にしたように。

  ズン、と響くような衝撃。と同時にラムリス様の体が僕にのしかかるようにして、突き立ったままの肉茎が僕の奥へと押し込まれていた。

  「ぁああ……ッ、!?」

  視界の至るところで星が散る。

  麻酔代わりになる薬草を間違って食べてしまった時のような、体が浮くような感覚があってから、快楽の衝撃に地面へと叩き落される。痛い。ラムリス様の逸物が突き立って僕を犯している。

  だが、僕にとって驚異だったのは、そこじゃなかった。

  ラムリス様越しに伝わる、衝撃の重さ。彼のふくよかな腹部すら押し上げて、その硬い頭頂部をクルトの腹にまで届かせているようにすら感じられる、狼の男根だ。

  「お、ごぉ……ッ、ゥ、おおッ」

  外聞も忘れたように、獣じみた嬌声を上げるラムリス様の屹立は、まだ僕の中で脈を打っている。萎える気配はなく、寧ろ、脈をはっきりと感じられるほどに硬くいきり立っている。

  「若けえ雄が見てるぜ、ええ? ちゃんと教えといてやらねえと」

  そして、そのまま狼はラムリス様への抽挿を開始した。柔らかい肉がぶつかり合う音。粘りつく水音が淫らに響く。その動きに合わせて、ラムリス様が僕の中をこすりつける。僕の中の、何かが集まるそのポイントを擦りあげる度に、僕の体がスパークして、火花を全身に散らしているような快感が弾ける。

  狼が腰をぶつけ、その余波で抉られる僕の頭をラムリス様の手が安心させるように撫でる。

  揺れる視界で喘ぐラムリス様は、隠しようもなく快楽を感じていた。この木の幹を思わせるような威圧を放つ男根を身

  に受け、苦痛の中で明確に悦楽を滲ませている。

  「ぉお、っ……ッん、ぐう……ッ!!」

  「アンタは誰のものだ? 俺様のもんだろうが、なあ?」

  狼主体の交尾。

  「イクぞ、全部受け止めろよ……ラムリス」

  「……っ」

  その終わりもやはり狼の号令によるものだった。僅かに見開かれたラムリス様の目が印象に残る。だが、そんな微細な変化は瞬く間に塗りつぶされる。

  一際強く叩きつけられたラムリス様の体。ラムリス様の中に吹き付けられる濁流のような放出が、合わさった柔らかな腹越しに明瞭に伝わってくる。それと同時に、ラムリスの熱い精液が僕の体の中に広がっていくのを感じていた。

  「ぁ……あ、僕……」

  息を整え、ラムリス様と狼が離れる。その時に漸く僕は気づいた。

  「いつの間に、こんなに……出してたん、だろ」

  あの激しい交合の中。一度だけでは無いだろう射精で汚れた腹を撫でるのだった。

  

  ●

  (気まずい)

  クルトは当然のように殺気を孕んだ視線に晒されて、まるで枝に擬態する梟のように体を細めていた。視線の元は他でもない。あの狼だ。

  「茶を入れるが、飲むかの?」

  「随分親切じゃねえか、前王様らしく威厳ぶりてえのか?」

  「ふむ、不要ということじゃな」

  「いや? 貰えるもんは貰うぜ、俺様はな」

  そんな風にラムリス様と話しながらも、その視線は僕に向けられている。いや、視線を向けられてはいないが常に視線を感じる、といった方が正しいかもしれない。

  一体、この狼とラムリス様はどういった関係なのか。

  正直彼と体を重ねた僕が何を勘ぐっているのか、という気にもなるが、見るからに柄の悪い狼とラムリス様の接点が全く分からない。ただ、それを問いかけるような雰囲気でもなく、僕は針の筵に座り続けるような心地で時間が過ぎるのを待っていた。

  「待たせたの」

  と、ラムリス様が手にティーカップを持って戻ってくる。

  多分数分だけだったはずだが、数時間は経っているような気がしてしまう。

  「おう、まあ腹の足しにはならねえけどな」

  と狼は受け取った瞬間に、ティーカップの中身を全て飲み干していた。振る舞いも粗暴そのもの。ラムリス様が普通に接しているので何も言えないが、普通ならすぐに叫んで衛兵に捕まえてもらうべき相手にしか思えなかった。

  そう思いながら、僕はラムリス様に手渡されるティーカップを受け取る。本当は立ち上がって受け取りたいが、情けないことに腰が砕けた僕は、立ち上がることが出来ないでいる。

  「ありがとうございま……す……?」

  都合、座ったまま受け取る僕が、そのカップを受け取った瞬間。脳裏に過る予感めいた何かに、じっとティーカップの中の水面を見つめる。そして、ふとラムリス様を見上げると。

  「……」

  彼は何か意味ありげに肩を竦め。そして、狼へと振り返る。

  ドカリと書籍の上に腰掛ける狼は、その巨大な体をゆっくりと傾けていき、そして。ゴシャアと盛大に床に倒れ伏していった。死んだ訳では無い、ただ、すぐにいびきが聞こえ始める。

  「……ふむ、存外に良く効くものだな」

  埒外に丈夫じゃから、毒にも強いかと思っておったんじゃがな。と呟くラムリス様は、眠りに落ちた狼から僕へと視線を移す。そして。

  「流石じゃな、やはり気づいたか?」

  「ええ、トウミンカズラの種子……ですよね」

  動物に取り付く事で種を運ぶツル植物だ。冬眠した頃に発芽し動物を養分に成長する生態で、最大の特徴が、蓄えた養分を奪われる事に動物が起きないよう精製した成分を根から動物に摂取させるという特性だ。

  昔から睡眠薬代わりの薬草とされてきたが、時折記憶障害が生じる。それの研究をラムリス様がしていると、誰であろう彼自身から先程聞いたばかりだった。

  短期記憶の障害を予防できれば優秀な睡眠薬になる。だが、未完成という話だった。つまり。

  (多分だけど……これを飲んだら、色々忘れちゃうんだろうな)

  眠りこける狼を見る。

  目的としては、この狼から僕を守るためなんだろうとは思う。善人には思えないこの狼に殺気を向けられる。という状況が良いものだとは到底思えない。

  だけども。

  ここでラムリス様と話したことも忘れてしまうかもしれないと思うと、寂しいと思ってしまう。

  「ラムリス様」

  「んむ、なんじゃ?」

  「また、……その、お招き、いただけますか?」

  だから、僕は少しラムリス様に甘えて、そう聞いた。

  そもそも王父という立場の彼に淹れていただいたお茶を断るなんて事は出来ない。だから、純粋にラムリス様という雄に対する甘えに違いないだろう。

  また、呼んでもらえるなら、これを飲みます。という意思表示。

  それに対し、ラムリス様は。

  「勿論じゃ。寧ろ、儂の呼び出しで本業が疎かにならんか心配なほどじゃぞ。これからもこの栽培室に知識を貸してもらわねばならんからな」

  朗らかに笑いながらそう返してくれる。

  ああ、よかった。と僕はなんとなくそれが単なる口約束ではないと確信して、手の中の暖かなティーカップに口を付ける。

  「……ぁ」

  トウミンカズラの種子は思っていた以上に優しい甘みがあり、僕の意識をゆっくりと眠りに落としていった。

  ●

  「……ああ?」

  雨の匂いがする。屋根を激しく叩く雨粒の音。

  夜、嵐。

  この屋敷から少し離れた場所にある川は増水して、渡る事は出来ない状態だろう。そんな事を予想しながらフォルティスは、己が目覚めた場所を見回した。雨の音に紛れて声が聞こえる。

  ラムリスと、屋敷の給仕か。かすかに食事の匂い。

  「ああ、思い出した」

  鼻を鳴らす。ここは覚えがある。この屋敷に初めて忍び込んだ時、初めに手を付けた場所。ラムリスの調薬室。それで、俺様はなんでこんなところにいるんだったか。

  思い出せない。

  ぼんやりとした思考が役に立たない。鼻を微かに掠めた食事の匂い。扉が閉められる音がして、クロッシュの乗った皿を手にしたラムリスが戻ってくる。ラムリスが俺を見る。

  なんだか、少しイラッとした。特に何かされたわけではないのに、無性に襲いかかりたくなる。

  「ん、起きたか。すまぬな、二人で分けるには量が少なくての」

  手に持った皿を台の上に置くラムリスに、俺はゆっくりと近づいて。

  「……フォルティ――」

  振り返るそのマズルを強引に塞いだ。貪り尽くようにラムリスを床に押さえつけ、口に突っ込んだ舌でラムリスの中の味を堪能する。口蓋、舌、歯、頬。こそぎ落とすように一通りを味わった後で口を離してやる。

  「これ、フォルティス……」

  何かを言おうとしたラムリスの腹を掴むように軽く爪を立てて、ギンギンに屹立した俺様の逸物をさらけ出す。それだけでラムリスは、ごくりと言葉と唾をまとめて飲み込んだ。

  「腹はち切れるまでブチ込んでやるんだ。食事入れる隙間はねえぞ、ラムリス」

  体の中で獣が走り回っている。

  刻みつける。あんたは俺じゃないと満足できないってことを、徹底的に刻みつけてやる。理由は知らないが、そう思っていた。

  嵐の音が、二匹の獣の声を覆い隠してくれていた。

  [newpage]

  ●

  狸の雄に覆いかぶさるラムリスを窓から覗き見て、フォルティスは冷めた心地でため息をついた。口づけを交わし、慣れた腰使いで若い雄を喘がせるラムリスに、フォルティスは明確な飽きを感じていた。

  トリティカムを犯して、久々に感じたあの高揚感。壊す感覚。ラムリスと初めに出会った時は、フォルティスの人生において最上級の快楽だった。

  屋敷一つを人質に、人としての尊厳を砕く程に犯したあの快感。

  「ああ、良いじゃねえの」

  フォルティスは、一つ呟いてその場を離れていった。

  そして。

  夜、嵐。

  雨粒が窓をたたき、壁を風が揺らす。いや、ラムリスの屋敷はそんなやわな作りにはなっていないが、それでも風の音が吹きすさぶのは聞こえていた。

  「ぉ……ッ、ぁ……!?」

  フォルティスは、ラムリスの寝室で彼を組み敷き、そのマズルを強引に噛み合わせる。呼吸などさせるまもなく、ラムリスの柔らかな体を押さえつけ、強引にその熟れた肉窟を掘り起こす。

  「なあ、あんたは俺のもんだったよな、ラムリス」

  「ッぅ……あ、ぁッ……フォル……ぉッ」

  軋むのはベッドではない。

  嵐の音に紛れて、床そのものがフォルティスの腰の動きに合わせて軋みを上げている。ラムリスは寝室の床に組み敷かれていた。床とフォルティスの体に挟まれて自由の効かないラムリスは、質の良い絨毯の上に何度目かも分からぬ射精で白い汚れを散らしている。

  「なあ、これだけぐちゃぐちゃに犯されてヨガってんだな、あんた」

  「……っ、ぬう、ぐう、ッ……っうう!」

  フォルティスの巨根を根本まで飲み込み、その隙間から泡立つ白濁を突き入れる度噴き出している。何度、この雄の中に種を吐き出しただろう。犯して、犯して、犯しぬいて。

  「っ、はあー……っ。ああ、満足だ」

  そして、風船のようにまるく膨らんだ腹を擦りながら、フォルティスは主の居なくなった部屋を後にした。

  「さて、どうするかね」

  行く宛は無い。

  だが、まずこの国からは出ておきたい所だ。理由は単純。王父を殺したなどという大罪人になった国なんぞに残っていられるはずもないからだ。雨が全身を叩く中、森を進み、隣国に近い方角へと進んでいく。

  かつて戦争を行っていた際、国境に近いこの場所は戦場にはならなかったらしい。広い森と、岩場。そして隣国側は切り立った山脈。攻めるにも守るにも余りに適していない環境。つまりは、自然が厳しい地域と言うことだ。

  隣国の方角に流れていた川は濁流となって、フォルティスの目の前に立ちはだかっていた。

  「……こりゃあ、渡れそうにねえな」

  呟く。

  夜の闇を吸って真っ黒になった濁流は、足首を浸けただけで体全部を持っていってしまいそうな勢いで流れている。

  「でも戻るわけにもいかねえしな」

  「ああ、その通りだ」

  「――あ?」

  夜闇の中、濁流を眺めていたフォルティスは、不意に横から聞こえた声に振り返ろうとして、そして。

  そして。

  「な……?」

  己の腹に突き立つナイフが引き抜かれる際に横に切り開かれるのを感じていた。雨の中、嵐の中。気配を感じにくい状況ではあるが、それでも真横に立たれても気付けないでいた、という事実に、そのローブを来た何者かを殴り飛ばそうとするも、切り開かれた傷が体と思考の処理にズレを生じさせる。

  空を切った拳は、ただ己のバランスを崩すだけ。

  「感謝する、これで口実が出来る」

  ローブの暗殺者が声を発した。その真意を聞く暇もなく。

  「……くそ」

  フォルティスの体は濁流に飲まれて消えていった。

  ●

  「嫌だねえ、ほら最近軍備品の取引が多くって」

  山羊獣人の中年男性がカフェスペースに座り込んで、広場の掲示板へ視線をむけてはため息を着いていた。

  「隣国で前王が殺されちゃったって話。あれ、ウチの国の誰かがやったんじゃないかって話でさあ。旅商人連中は軍需だなんて言って捌けるだけ捌いて夜逃げの準備進めてるけどね」

  休憩中なのか、それとも商談の時間をすっぽかされたのか。山羊の男性は独り言のように語りかけてくる。

  「ウチね、子供7匹もいるの。びっくりだよね。家に殆ど帰れないから、商会に住んでるも同然だけどさ。そうなると夜逃げなんてしてられないんだよね」

  そりゃあ大変だ、と相づちを打つと彼は分かってくれるかい? と喜色を浮かべて、少し前のめりになった。

  「お兄さん傭兵さんか何かだろ? なんだろうなあ、時々取引している人たちと同じ感じがするんだよね。まあ、こんな所で偶然会うのも縁だからさ、お兄さんの分も奢るよ」

  そうかい。まあ貰えるもんは貰う主義なんでな。そう返すと愉快げに笑った山羊獣人はそのまま、席を立って駆け去っていった。

  そのお尻にふるふると揺れる短い尻尾を目で追いながら、先程サンドイッチを詰め込んだ腹を撫でる。

  「そろそろ、腹が減ったなあ」

  服の下。縫い目の残る腹をさすりながら、狼は下卑た笑みを浮かべていた。