11話 イチ、顔出し着ぐるみに入る(4) よせあつめ外伝4

  終演語、イチは着ぐるみ中毒の余韻によがり、仰向けに倒れ込んだまま深い呼吸を繰り返している。

  ____お、おかしい、こんな、変なの………に。

  着ぐるみの内部の綿がどういう変化か、イチの身体を締め付けるように動いている。

  だがその圧迫感はむしろ心地よく、いつまでも続いて欲しいとさえイチに思わせた。

  ____おかしい、おかしい………………けどッ。

  イチは込み上げる妙な快感に身体を震わせた。

  何かルーミーに悪い魔法をかけられたのはわかるのだが、既に気が萎えてしまい対策を打てない。

  そんな無防備の状態のイチの前に、不吉な影が。

  それは青いドラゴンの着ぐるみを着たルーミー・キッグルーであった。

  「さあ、今日の舞台の反省会といきましょう。ドラゴンの生態と言うものを手とり足取り、教えてさしあげますよ」

  「____か、かっこいい!」

  イチは濡れた。

  ____太い腕、立派な尻尾、渋い翼に凶悪な牙.........。ああ、あの大きな身体でのしかかられたら、私は………………♡

  完全に欲情した表情でルーミーの青いドラゴンを見ている。

  ルーミーが仕込んだ顔出し着ぐるみの魔法が完膚なきまでにイチの精神的抵抗を奪ってしまったらしい。

  「さぁ、私に身を委ねるのですよ」

  ルーミーの顔はドラゴンの口の影で隠れて見えず、この期に及んでも性別がはっきりとしない。

  そもそも着ぐるみどうしでどのような行為に及ぶのかわからないが、それは後の展開で明らかに…………。

  銃声。

  どこからかはわからないが、どこか離れた街中で発砲があったらしい。

  突然のことだが、当時のバルティゴ連邦では夜に得体の知れない銃声が鳴るなど日常茶飯事である。

  どこかで犯罪行為が起きたか、或いは冒険者が賞金首を追い詰めたか。

  それ自体はよくあることである。

  が、その銃声がイチの正気を取り戻させた!

  「____はっ!? わたしは、いったい?」

  丁度青いドラゴンになりきったルーミーがイチに覆いかぶさらんとしている時だった。

  咄嗟に躱し、立ち上がる。

  「いったいどうしたというのです? ドラゴンらしくない」

  「ふざけるな! わたしに、何か………………何か変な魔法を使ったな!?」

  凄むイチであるがイマイチ圧力を感じないのは、顔出し着ぐるみという間抜けな格好のせいか、それとも吐き出した言葉か、或いはその両方であろう。

  「そうだと言ったらどうするのです?」

  「こうするまでだ!」

  イチはルーミーを目掛けて着ぐるみを着たまま突進した。

  実に浅はかな行動である。

  この時代のイチはまだまだ場数が足りていない。

  相手がどういう類の魔法を使っているのかもわからないまま脊髄反射で突っ込んでしまった。

  「短気ですねえ。まるで手負いのワイバーンです」

  ルーミーは余裕綽々に呪文を唱えた。すると。

  「くっ____、あ、は、くうぅ________あああああああッ♡」

  突然、イチを包む着ぐるみの裏地が振動を始め強烈な振動を始めイチの全身をくまなく責めはじめた。

  とても力が入らず、無念イチの突進はヘナチョコな打撃しか与えられず、ルーミードラゴンの胸に飛び込む形になった。

  「雌のドラゴンを組み伏せるのも雄ドラゴンの喜びです。せいぜい抵抗してください」

  「こ、この野郎………………………………ひああああッ♡」

  再び着ぐるみの裏地が振動した。

  全身を心地よいガーゼで擦られイチは思わず嬌声をあげてしまった。

  イチを襲う恐ろしい妙な刺激は快楽の電流となりイチの全神経を襲い、その快感がイチに「降参しろ、服従しろ、腹を見せろ」と囁いている。

  「な、な………………♡ 舐めるんじゃないよ!!」

  しかしイチはこの時から不屈の冒険者である。

  どうにか気力を爆発させると組みついたルーミーを投げ飛ばした!

  膂力だけならルーミーごときに負けはしない。

  リャン・ハックマンに死ぬような目に遭わされ染み付いた、戦う為の力がまだ青いイチを助けた。

  しかし、どうだろう。

  「ふふふ、いいですよ。そうやって抵抗していただいたほうがドラゴンの交尾らしくなるというものです」

  ルーミーはなぎ倒されても余裕綽々である。

  着ぐるみはその性質上、倒されると容易には立ち上がれないが倒れたままでも魔法は使える。

  呪文を詠唱すると、更に強烈な振動がイチを襲った。

  「____アッッッ、アッッッ♡ ひいいいいいいいいいい____♡♡♡」

  着ぐるみの裏地は更に苛烈な責めに転じ、どういう不思議かイチの身体にビッタリと吸い付き、振動したままうねりはじめた。

  これはたまらない。

  イチは膝から崩れてしまいそうな快楽に耐えながらどうにかヨタヨタと走り出す。

  一度距離を取ろうというのだろう。

  確かに、こういう魔法使いを相手にするのであれば魔法の射程圏から逃れるのは鉄則と言えるが。

  「往生際が悪い。まあいいですけどね」

  ルーミーはどうにか起き上がる。その時既にイチの姿は見えない。だが逃げ込んだ先は容易に想像がつく。

  あのまま長い距離を走れるわけもない。

  どうせ楽屋に武器でも探しに行ったのだろう。

  「追い詰めて犯す。これもドラゴンの悦びですから」

  果たして、ルーミーの読み通りにイチは楽屋にいた。

  「おっと。それをどうするつもりですか?」

  ルーミーはイチを見て思わず笑みを浮かべた。

  イチは着ぐるみの不自由な手で無理矢理例のアバブピストルを持っている。

  もっと正確に描写するならば、ドラゴンの手は指がないので両手で挟んで保持していると書くべきだろうが。

  「ふぅッ____♡ ………………ふぅッ____♡ はぁ____ッ♡」

  イチは気を抜けば意識を翔ばし、銃を落としてしまいそうな限界の中で荒い呼吸を繰り返している。

  蕩けているが不思議に眼力のある瞳を剥いて、挟んだアバブピストルの上部についているトグルという装置を歯で噛んで動かした。

  こうすることで薬室に弾丸が送られ発砲可能になるのだが.........。

  「ふふふ。その手でどう引き金を引くのですか? それに、ドラゴンが銃を使うなど不自然ですよ?」

  ルーミーはまったく脅威を感じることなくイチの抵抗を砕こうと更に呪文を詠唱した。

  苛烈な責めがイチを苛む。

  「うああああああああああああああああッッッッッッッッッッ♡♡♡」

  全神経を快楽で削り取るような責めがイチを襲い、イチは情けなく叫ぶ。

  そしてアバブピストルがイチの手から離れてしまった。

  「ふふふ、それでいいのです」

  獲物を追い詰め勝利の笑みを浮かべるルーミー。

  イチの冒険はこのまま着ぐるみ奴隷になり終わってしまうのだろうか?

  銃を落とすなど、それこそ抵抗を諦めるのと同義ではないか。

  いや、しかしそうではない。

  イチはわざと落としたのである。アバブピストルを。

  試作品であり安全性に乏しく、底部に衝撃が加わると意図せぬ暴発を引き起こすあのアバブピストルである。

  先鋭的な形のアバブピストルはクルリと回転しながら落下し、そしてルーミーに銃口を向けたまま床に衝突、その瞬間に火を噴いた!

  「ぐあッ________!!」

  暴発した弾丸はルーミーの着ぐるみに吸い込まれ、彼の膝を砕いてそのまま後ろに抜けた。

  突然の衝撃にルーミーは崩れ、その為魔法を操る集中力が途切れイチにかかっていた魔法が解かれた。

  「い、いったいなぜ………………??」

  動転しているルーミーの視界を黒い影が覆った。

  赤いドラゴンの着ぐるみに身を包んだイチであった。

  「そんなにドラゴンごっこが好きなら、つきあってやる。ただし………」

  イチの青い瞳は怒りに燃え、オイルランプの光を反射し赤く光っているようにさえ見えた。

  「い、いったいなにを…………」

  「お前はドラゴンに襲わて死ぬ役だ!!」

  イチは着ぐるみのままルーミーに襲い掛かり、踏んだり蹴ったり殴ったり。もともと体力のないルーミーは抵抗できるはずもなくイチドラゴンにされるがまま、酷い暴行を受けるがままである。

  「ぎゃおおおおおおおす!!」

  イチドラゴンは床に倒されどんどんクタクタになっていくルーミードラゴンの上で踏みつけ飛び跳ね、知らぬ間に雄叫びをあげていた。

  ルーミーは恐ろしい暴力を受けそのうち気を失ってしまったが、何故かその顔は満足げであったという。

  心の底からドラゴンの着ぐるみを愛していたルーミー・キッグルーにとって受け入れられる結末だったのだろう。

  ◆

  その後、夜が明けてからイチはルーミーを冒険者ギルドに引き渡し、その時はじめてルーミー・キッグルーが数々の不逞行為に関わっていた事が判明し、その結果イチは思いがけない報奨金を得る事になる。貧乏旅を続けていたイチにとって嬉しい臨時収入となっただろう。

  ともかく、その後イチが着ぐるみに入ったと言う記録は残されていない。

  しかし、イチが巡業の着ぐるみ演劇に妙な関心を寄せていたらしいことが後年彼女の部下になった男の日記に書かれている。

  『イチ、顔出し着ぐるみに入る・完』

  次回、『くすぐりリンチにあうイチ。(予定)』