11話 イチ、顔出し着ぐるみに入る(3) よせあつめ外伝3 

  そして夜のになった。

  夜の公演では日中と違い仮設劇場は豪華になっている。

  まず昼はなかった暗幕が舞台を覆い、外から中の様子は見えない。

  またステージには舞台幕が下げられより凝ったものになっている。

  どうやらイチが休憩している間、ルーミーが予め雇っていた職人たちが拵えたらしい。

  さらに客席が多少広くなりほとんどの観客が男である。

  既に劇場はその趣味の男達で(ごくわずかにその趣味の女もいたが……)埋まっていた。

  どうやら夜の公演はひと味違うらしい。

  ルーミーも特性のリュートギターなどを用意し、ズンズンズンと重低音で幕開き前の緊張を煽る。

  観客たちが固唾を飲んで幕の向こうを想像し、緊張が最高潮に高まった時、遂に舞台の幕が開いた。

  「あんぎゃああああああす! あんぎゃああああああす!」

  マナライトで光り輝く夜の町に怪獣イチドラゴンが現れた!

  いままでのハリボテの町と違い、小麦粉を薄く焼いた板で作られた街並みはミニチュアとはいえ並々ならぬリアリティを感じさせる。

  その町の奥からのっそのっそと現れた巨体のイチドラゴンは観客の前にその姿を披露すると、

  「ぎゃおおおおおおおおおす!!」

  まるで己の偉大さを矮小なるもの、小さきものに見せつけるかのように咆哮した!

  客席からは歓喜の声があがる。

  しかしイチドラゴンは弱き駄獣のようにむやみに咆えたりはしない。

  静かに街並みをゆっくりと見回す。

  グルルルルゥ……。

  イチドラゴンの口から凶悪な唸りが漏れた。

  「がおッッッッッ!」

  イチドラゴンはひと吼えすると丸太のように強靭な尻尾を振り回し立ち並ぶ民家をなぎ倒した。

  観客席からは狂乱じみた歓声。

  その熱狂にイチは言い表しがたい妙な昂りを感じていた。

  ____な、なんだろう…………身体がどんどん熱くなる。

  その顔はまるで熱に浮かされたように紅潮している。

  ドラゴンなりきればなりきるほど興奮するようだ。

  「ぎゃおおおおおす!」

  怪獣イチドラゴンの進撃は止まらない。

  町を守る為に砲列を構えた兵隊(の模型)などはその足で蹴散らし踏み潰し、鐘楼に噛みつき食い破る!

  この時、着ぐるみの中では妙な変化が起きていた。

  いつのまにかガーゼ上の生地が汗をすったためか潤滑油をまとったようになり、からだのいたるところ心地よく擦られ、妙な感情が刺激されてゆく。

  ____なんだろう、か、身体が、き、きもちいい!

  イチはドラゴンになりきって身体を動かす度に内部が妙な具合に妙な部分を擦り、特に敏感な部分ではジクジクとした痺れを伴うざわめきを神経に感じていた。

  ____あ、ふっ………………♡

  既にイチの吐息はそれこそ獣のように荒くなっている。

  目は蕩けながらも爛々と輝き、更にドラゴンと一体化するため次なる破壊の標的を探していた。

  最後の障害は王の城である。

  恐らく王国時代をイメージして作ったのだろう。再現性はともかく誰が見ても王の城であった。

  イチは半ば狂いながら王城の前に立つ。

  「ぐああああああ…………」

  イチドラゴンは王城を破壊すべき敵と認識。首を伸ばし背中を逸らした。

  その動作だけでイチは身体がどこかに達してしまいそうな身震いを感じる。

  反動をつけて首を王城へとまっすぐ伸ばすと、そして一気に火炎を吐き出した。

  これがルーミーが仕掛けた特殊な仕掛けであろう。

  ごおおおおおおおお!!

  魔導の装置で作られた魔法の炎が王城を真っ赤に包み、焼き尽くしてゆく。

  ____あ、あ、な、なんだこの、からだが、震え____♡

  バチバチと昇る火の粉。焼け崩れてゆく王城。

  イチは自分が吐いた(と思っている)ドラゴンブレスが全てを紅蓮の炎で焼き尽くしてゆく幻想の中で妙な頂きに達しようとしてる。

  この時イチの身体は魔法の着ぐるみに蝕まれていた。

  着込んだ者を幻惑し、奇妙な快感を与え精神を蝕む洗脳魔法がかけられたこの着ぐるみを手がけたのは誰か?

  言うまでもなくルーミー・キッグルーであろう。

  ルーミーは巡業の傍らであの手この手で少女に魔法の着ぐるみを着せ、洗脳した少女を奴隷として売り飛ばす闇冒険者だったのだ。

  だが今のイチはそんな事を知りようもない。

  ____き、着ぐるみ、気持ちいい♡ もう、このままドラゴンでいい♡♡♡

  蕩けた表情で自分の犯した破壊の残骸を見ると、

  「ぎゃおおおおおおおおお~~~♡♡♡」

  勝利の雄叫びをあげると同時に着ぐるみの中でイチの身体は絶妙な頂きに達してしまった。

  観客席からは割れんばかりの歓声が巻き起こり、いくつもの紙幣をねじったお捻りが舞台に投げ込まれ、幕がゆっくりと閉じて言った。

  興業はイチの健全な精神と引き換えに大成功と言えよう。

  その状況をひとりほくそ笑み見ている者がいる。

  ルーミー・キッグルーであった。

  ____くくく。これほど簡単に新たな奴隷が手に入るとは。後でわたしも着ぐるみを着て、ドラゴン・ぬい・セックスとしゃれこみましょうかねえ!

  リュートギターの音色で芝居の幕引きを演出しながらルーミーは淫らな妄想で半身を滾らすのであった。