第6話 メイメイ、吞み込まれかける 丸吞みシーサペント大量発生事件13

  タオ・メイメイ。

  孤児として生まれた少女で、両親の姿を見た事はない。

  18歳(人族で言えば6歳)でインダスバウムの孤児院から出され、以後貧民街にて路上生活を続け、27歳の頃にとある冒険者から魔導ショットガン を授かり、冒険者となる。

  銃を手にする奇縁がなければそのまま売春婦か物取りになるしかなかったであろうハーフエルフの少女である。

  並外れた魔力を有するが、魔法は使えない。

  ◆

  タオ・メイメイは甲板上で船を襲うシーサーペントを退ける為に息つく間もなく戦っていた。

  彼女の魔導ショットガン、バレア2の弾丸は海中のシーサーペント相手には手出しができなかったが浮上してきた相手に対しては中々の効果を発揮した。

  シーサーペントは生命力が強く、単純な銃器で生命活動そのものを休止させる事は難しいが彼女の莫大な魔力を伝えた魔導ショットガンの一撃は既に2体のシーサーペントを無力化させている。

  その為、群れの一体がメイメイに喰いついたのは単なる偶然にしてはできすぎている。

  メイメイは頭を飲み込まれて宙吊りにされ、脚をバタつかせている。

  それでも戦う為にショットガンを手放していないのは流石と言える。

  「メイメイさん!」

  まず反応したのはやはりイルハであった。

  しかし魔槍ラットスレイヤーを構えた時にまた別のシーサーペントが襲い掛かり、イルハは自分の身を守る為にメイメイの援護に回れなかった。

  イルハの叫びにエルビアニカやシーナも状況を察知したが、両者共にメイメイを助ける術がない。

  もう既にメイメイの頭から肩が呑み込まれようとしていた。

  ____ふっ………ざけるんじゃあないわよっ!!!

  メイメイはヌメる肉壁に呑み込まれながら憤怒した。

  このまま怪物に呑み込まれて生命を終えるなどとても許容できない。

  メイメイはある意味ではイチよりも瞬発的な闘志に溢れている。

  メイメイは締め付けられる痛みに激怒し、顔に纏わりつく粘液に激怒し、肌を擦る肉壁のブツブツとした不快感に激怒した。

  激怒したが、それまでであった。

  ____冗談じゃ…………

  

  シーサーペントの強烈な締め付けにメイメイは程なく意識を失いつつあった。

  無惨である。

  先ほどイチはミュルガルデらの奮闘があって救出された。

  しかし今はメイメイを助けられる余力のある者は、いない。

  幼いハーフエルフの冒険は洋上で終わりを迎えようとしていた。

  が、記録に残された所に依ればタオ・メイメイはよほど奇妙な星の下に生まれたらしく、たといどんな危機的状況に陥っても不思議と生還したと伝えられている。

  彼女には人並み外れた悪運があったらしい。

  ◆

  ____いったい、なんなんだこの人は……。

  なんとか自分に襲い掛かるシーサペントを退けメイメイを助けに向かったイルハは、目の前でカラカラと笑っている頭のおかしい女を見て戦慄した。

  その女は両手足に万力でもついているのか、甲板に伸ばされたシーサーペントの首を両手で掴み微塵も動かず笑っている。

  「なかなかのパーティじゃねーか。もっとも、決定力に欠けるがな」

  そう言って女はまるでパンでも二つ割るようにシーサーペントの肉柱を縦に引き裂いて呑み込まれかけていたタオ・メイメイを救出した。

  リャン・ハックマンである。

  首を縦に割かれたシーサペントはあまりの事に海に逃げ帰ったが、程なく絶命するであろう。

  甲板には粘液塗れのタオ・メイメイが血の気を失い転がっている。

  しかし、薄い胸は上下しており呼吸はしているようだった。

  ____なんなんだ、この人は。助けてくれたようだけど……。

  イルハは目の前で起きた事態に僅かな時間動きを止めた。気がつかぬうちに槍を握る腕が震えていたが、今はそれどころではない。

  「す、助太刀感謝します!」

  イルハはどうにか咳き込むようにそれだけ言うと他に苦戦している仲間の援護に回る為に足を動かした。

  「結構、結構。常に動き続けるのは冒険者の鉄則だからな」

  リャンはイルハや他の者が的確に戦っているのを見ると満足そうに水着の胸に隠した葉巻を咥え火をつけた。動物の腸で作られた特別な包みに入れていたので湿気ってはいないらしい。

  気絶したタオ・メイメイの腕を掴み引きずって歩き、操舵などのためのキャビンの扉を蹴り開けて中にメイメイを放り込んだ。

  「リャン……!?」

  キャビンの中の3名は突然の事に驚きみな一瞬リャンに目を奪われたが、その中でもとりわけイチは思わず出来もしないのに身を起こしそうになるくらい驚いた。

  メイメイはリャンに放られて床に転がったまま気を失っている。

  「あんだおめー、こんなとこでなにしてんだ、情けねえ」

  イチを見つけてそう言うリャンの顔は笑っていた。

  笑っていたが、目だけは笑っておらず、そこには希望も失望もそのどちらも存在していないようだった。

  「おめーは、結局この程度か」

  そのリャンの言葉がイチの情緒を激しく刺激した。

  「リャン……………!!」

  イチは頭に血がのぼり、一時身体の痛みを忘れて身体を無理矢理動かし這いずってリャンに近づこうとした。

  「リャン………!!みくびるなリャン!!」

  「ハハハ!芋虫みてー、情けねーなぁ」

  リャンは無様に這いずるイチの、無意味な行動の滑稽さを嘲笑した。

  「イチさん……!動いちゃダメです!」

  思わずミュルガルデがイチを気遣いイチを止めた。

  ヘルヒャンは流石にその場を離れるわけにいかず、状況がわからないまま船の操舵に集中している。

  「あーあ、ガッカリだぜ。おめーが最初からちゃんとしてりゃ、こうはなんなかったのになぁ。正直失望だ」

  「なに?」

  イチはリャンの言葉に動揺した。

  リャンのその言葉には、最初からこの事態を想定していたかのような含みを感じる。

  イチは「もしかしたら、混乱に巻き込まれるうちに初歩的な事を見落としていたかもしれない」のではないかと胸騒ぎを覚えた。

  イチはリャンの従者をしていたので、言葉の機微から何かヒントが含まれている気がしてならなかった。

  「私は他の船を助けねーとだからな。ま、せいぜい死なないように上手くやるんだな。正直厳しそーだけど」

  そう言うとリャンは咥えていた葉巻を床に吐き出し、どういう動き方をしたらそうなるのか、次の瞬間にはイチ達の目の前から消えていた。

  「リャン…………」

  リャンとイチがかつてどのような時を過ごしたか多くは記録されておらず、ここではそれを掘る為に文字を割く事はしないが、それでもイチには常人では一見わからないリャンに対する深い信頼関係あったのは確かである。

  それは冒険者という生き方に関しての、共通の美学のような物を共有できたからこそ生まれた信頼で、その性質はある種の友情や愛情であり、師に対する単なる情ではない。

  ____私はなんてバカなんだ。身体が動かないからって、考える事をやめて、状況を動かす事もしないで、あまつさえメソメソ泣いたりして。

  リャンの姿を見た事で、イチの心の中に闘志と崇高な信念が蘇り、ミュルガルデに抱き起こされながらもある考えが急速にまとまりつつあった。

  「ミュルガルデ、反撃したい。協力してくれ」