17.比べてしまう

  2人の男性達と話している男の子は、俺が最近ずっと思い出していた子だった。

  病院にいたのに会いに来なかったってことは…もしかして避けられてる、?

  少し気持ちが重くなりながらも、建物の影から様子を伺っていると、話し声が聞こえてきた。

  「そうかぁ…たかも大変だよね

  俺、軽いこと言ってごめんねぇ」

  「(フルフル)

  …俺が余裕なかったせいだから

  八つ当たりして、ごめん」

  「…最近Playしたか?」

  「……(フルフル)」

  「Playしてないから、Subとしての欲求が行き場を失ってる

  身体の不調もそのせいだ

  …ほんとは分かってるんだろ」

  背が高い男性の言葉に、男の子は俯く。

  「……他の人とPlayするの、多分無理だと思う…」

  小さく吐き出された言葉に、男性が反応する。

  「無理?したくないじゃなくてか?」

  「……うん…」

  男の子は手を弄りながらぽそぽそと言葉を紡ぎ、それを男性達は静かに聞いていた。

  「…他の人のCommandが、気持ち悪く感じちゃうんだ…

  千秋さんのはもっと気持ちいいとか、ふわふわした気持ちになるとか、色々比べちゃうし…

  相手にも悪いから…」

  出てきた自分の名前に、どきりとする。

  これは…避けられているというより、会ってどうすればいいか分からなかったのかもしれない。

  あの子は俺のことを覚えているけど…俺は何も……思い出せないままだから。

  「…盗み聞きですか?」

  「わっ」

  1人で考え込んでいたら後ろから急に声を掛けられ、思わず飛び上がる。

  「びっくりした…」

  「フフ、どうせなら、見てるだけじゃなくて話しかけてみたら?」

  そう言われ、そっと男の子の方を見る。

  気さくそうな男性に肩を抱かれて慰められているようだった。

  「…神代さん。」

  愛斗先生の方を向くと、意外に真剣な眼差しがある。

  「…先程私は、焦らなくていいと言いましたから、急かしません。

  でも、お互い避けていては何も進まない。

  どちらかが、1歩ずつでも近付くべきではないでしょうか」

  その言葉に、俺は唇を噛み締めた。

  無意識のうちに、俺もあの子を避けてしまっていた。

  指摘されて自覚する。

  決意して顔を上げた俺に、愛斗先生はいい顔になりましたね。と言って去っていった。

  「……千秋さんって、どんな人なの〜?

  カッコイイ?背高い?優しい?」

  翔の質問責めに苦笑しつつ、頷く。

  千秋さんは大人で、かっこよくて優しい。

  何より俺を一番に考えてくれる、大切な人だ。

  …分かってるのになぁ。

  滲んだ視界のまま視線を上げて、千秋さんと目が合い、硬直する。

  千秋さんも固まっていたが、ぎこちなく手を振った。

  恐る恐ると言うようにこっちに歩いてくる。

  まだ身体の調子があまり良くないというのもあるのだろう。

  暫く見ていなかったから見れて嬉しいけれど、いざ目の前にすると、逃げ出したくなる。

  立ち上がろうとした俺の手を掴んで、翔が緩やかに首を振った。

  「ダメだよ、たか。」

  だってと言う代わりに、数回翔と千秋さんの間で視線を往復させるが、翔は変わらず首を振った。

  「大事なタイミングで逃げてたら、何も変わらないよ。」

  翔の言葉に、色んな感情が混ざって涙が零れてしまった。

  そんな俺の肩を抱き、頭を撫でて、翔は千秋さんを見つめた。

  「初めまして〜、たかと仲良くしてる翔です!

  よろしく〜」

  「初めまして」

  笑顔が違う。

  「いつも翔と遊んでくれてて、助かってます。

  燈李と申します。よろしくお願いします」

  「こちらこそお願いします」

  千秋さんは、そんな風ににこにこしないし、そんな風に相手に接しない。

  いつも俺の隣にいてくれる。

  俺をすぐ守れるように、俺の隣で…

  「…たか」

  翔の悲しそうな声で、俺は少し我に返った。

  涙が止まらない。

  「ぁ、ぇと、大丈夫…?」

  心配そうな千秋さんの声が歪んで、俺は意識を失った。

  続く