ミル ウサギ女性 被害者の恋人
「急にこんなことになって、本当に怖かったよね。
体は大丈夫? 寒くはないですか。
……あ、ごめんね、そんなに身構えなくて大丈夫。
あなたを疑って質問しているわけじゃないからね。」
「ただ、あなたの恋人だったウサギの彼が、
昨日の夜から今朝にかけて、
どんな様子だったか……
覚えている範囲でいいから、
少しだけ教えてもらえるかな?
まずは、昨日の夜、
二人がモーテルについてからのことから…
…ゆっくりでいいからね」
「…ありがとう…ございます… き…昨日は
来た時に他のクルマにぶつけて
オオカミと口論になったの…
わ…私は『やめて』って言ったんだけど…
彼は逆上せちゃって…」
(優しく頷きながら、
視線に合わせて少し腰を落とす)
「そうだったんだ……。自分のせいじゃないのに、
彼が急に逆上しちゃって、本当に怖かったよね。
あなたはちゃんと『やめて』って止めようとしたのに……
何も悪くないよ。
……ん、腕、どうかした?」
(長袖の袖の上から、
きゅっと自分の腕を強く掴んでいるウサギの手に、
そっと目を向ける)
「……もしかして、どこか痛むのかな?
さっきからずっと、
そこを掴んでいるみたいだけど……。
よかったら、そのオオカミの人と
口論になったあと、彼がどうしたか、
教えてもらえる? 部屋に戻ってからも……まだ、
彼の怒りは収まらなかったのかな?」
「うん…機嫌が悪かった。
でも偶然、彼の友人で花屋をやってるキツネと
会ったらしくて少し機嫌が良くなってた…。
その友人から貰ったのかわからないけど…
飲み物を持って帰って来た…
……そうよ
飲み物を飲んでから急に彼の…
具合が悪くなったから、
きっと…あのキツネが犯人よ…」
(怯えたような、でも必死な訴えを
じっと聞きながら、
手元のメモに小さく「キツネ」と書き留める。
そして、顔を優しく見つめ直す)
「……うん。彼、キツネの友人さんと会って、
飲み物を持って帰ってきたんだね。
それを飲んでから急に具合が悪くなった……。
なるほど、あなたがキツネの男性を疑うのも、
無理はないと思う。
大切な手がかりを教えてくれてありがとう。
でも……本当にその『キツネさん』が
犯人なのかな?
ちょっと気になったんだけど、
彼がその飲み物を飲んで具合が悪くなったのは、
何時ごろのことだったか覚えている?
そのあと、彼は怒って部屋を
飛び出したんだよね……?
それとね……あなたがさっきから、
その長袖の袖をずっときつく握りしめているのが、
どうしても心配なんだ。
……もしかして彼、
部屋に戻ってから機嫌が良くなったはずなのに、
また……あなたのその腕を、
強く掴んだりしなかった?」
「心配…しなくていいです…よくある事ですし…」
目を逸らしながら言う。
「……飲んでた時間はわからないですけど…
私の友人のレンと部屋で三人で夕飯を食べてる時に
飲んでました…時間は大体…
二十一時ぐらいでした…」
(「よくある事」という言葉に胸を痛めながらも、
否定して怖がらせないよう、
さらに声を優しくして、ゆっくりと頷く)
「……そっか。心配しなくていい、か。
あなたがそう言うなら、
今はこれ以上聞かないでおくね。
でも、辛くなったら、
いつでも言っていいんだからね。」
「二十一時、だね。
大切な時間を思い出してくれてありがとう。
そのときは、あなたの地元の親友の……ええと、
レンさん、だったかな?
レンさんも一緒に部屋で三人で
夕飯を食べていたんだね。
……おや? ということは、
彼がその『キツネさんから貰った飲み物』を
飲んだとき、レンさんもその場に一緒にいた、
ということで間違いないかな?」
「そのあと……ご飯を食べ終わって、
彼が怒って部屋を飛び出していくまでの間に、
部屋の中ではどんなことがあったのか、
もう少しだけ教えてもらえるかい?」
「……怒って部屋を出たわけじゃない
…『寒いから』って言って
温かい飲み物を買いに出たの……
それなのにこんな事になるなんて…」
(あなたの言葉を聞いて、少しだけ目を見開く。
それから、あなたの心を落ち着かせるように、
ゆっくりと深く頷く)
「……。あぁ、怒って飛び出したんじゃなくて、
『寒いから』って言って温かい飲み物を
買いに行ったんだね……。
ごめんね、私が勘違いしちゃって。
教えてくれてありがとう。」
(手元のメモの『二十一時』『温かい飲み物』
という文字を見つめながら、
穏やかなトーンを崩さずに語りかける)
「……そうかぁ。二十一時ごろに
三人でご飯を食べているときに、
彼はキツネさんから貰った飲み物を飲んで、
そのあと『寒い』と言って
自販機に向かったんだね。」
「……ねぇ、もうひとつだけ聞いてもいいかな?
彼が部屋を出ていったあと、
部屋にはあなたとレンさんの二人が
残されたわけだけど……。
そのあと、レンさんは何時ごろまで、
あなたのそばにいてくれたのかな?」
「ち…違う…彼が外に出たのは食べ終わって…
しばらくした後で…その前にレンは帰った…」
(ハッとしたように慌てる様子を、責めることなく、
包み込むような優しい眼差しで見つめる)
「あぁ、ごめんね。私の聞き方が悪かったね。
レンさんは、
彼が外に出るよりも前に帰っていたんだ。
……ということは、彼が『寒い』と言って
部屋を出ていったとき、
部屋にはあなた一人だけだったんだね。」
(一呼吸置き、痛々しいほど震える手を
そっと見つめて、本当に気遣うように声を潜める)
「……一人きりの部屋で、本当に怖くて、
寂しかったよね。
彼は『温かい飲み物を買う』と言って
出かけたのに、今朝、自販機の奥で
見つかったとき、彼の足元には
『冷たい缶コーヒーが二本』転がっていたんだ。
彼が部屋を出てから、
発見されるまでの長い夜の間……。
本当に、レンさんはもう、
あなたの部屋には戻ってこなかったのかな?」
「…戻って来てないと思います…
部屋の外でクルマが出るまで見送った後、
クルマの音はしてないので…」
(あなたの言葉をじっと聞き、そして、
これ以上あなたを追い詰めないように、
ふっと表情を和らげて深く頷く)
「……うん、そっか。
レンさんがクルマで帰っていくのを、
ちゃんと見送ったんだね。
車の音がしなかったなら、
きっと戻っては来ていないんだろうね。
何度も辛いことを思い出させてしまって、
本当にごめんね。おかげで、彼が昨日の夜、
どんな風に過ごしていたのかがよく分かったよ。
あなたは何も悪くないから、
もう安心してお茶でも飲んで、
少し休んでください」
(優しく微笑んで立ち上がり、部屋のドアへ向かい
部屋を出る)