「えっ…、まさか……嘘でしょ……!?」
静まり返った古いモーテルの敷地に、
鋭い悲鳴が響き渡った。
第一発見者となったヤギの女性は、
あまりの恐怖に喉を渇かせたまま、
手にしていた小銭をコンクリートの床に
ぶちまけた。
彼女の視線の先、
二台並んだ自動販売機の奥の暗がりに、
ぐったりと壁に背を預けた
ウサギの男性が倒れていた。
「おい、アンタ、大丈夫か!」
悲鳴を聞きつけて、
寝間着姿のままフロントから
駆けつけたモーテルの管理人のカラカルが、
自販機の蛍光灯の下へ飛び込む。
ジー、と不快な音を立てて点滅する青白い光が、
倒れている男性を照らし出した。
スウェット姿のウサギの男性は、
力なく首を垂れている。
その表情は、まるで夜中に飲み物を買いに来て、
そのまま疲れ果てて眠ってしまったかのようにも
見えた。
だが、管理人がその肩を揺さぶろうとした瞬間、
彼の瞳が半眼に開かれ、
生気が完全に失われていることに気づいた。
「死……死んでる……」
管理人の声が裏返る。
争った形跡はどこにもなかった。
彼の服に乱れはなく、コンクリートの床に、
彼が抵抗して暴れたような擦り傷や
血痕も存在しない。
でも彼の付近に上着が落ちていた。
駆けつけた警察官が、男性に触れ、
すでに死後硬直が始まっていることを確認する。
警察官たちが現場を黄色いテープで囲み始める中、パニックになったヤギの女性の足跡が、
混乱した蹄の跡となって、
被害者の足元近くにいくつも重なっていた。
だが、警察官の一人が、
その混乱した足跡の中に、
奇妙な違和感を見つけた。
被害者の足元。
彼の手が届くか届かないかの位置に、
未開封の缶コーヒーが二本、転がっている。
一台目の自販機の取り出し口には、
何も残っていない。
そして、被害者の右手のポケットは、
不自然に外側へ引き出されていた。
そのすぐ近く、床の隅には、
彼のものと思われる、
古びた二つ折りの財布が落ちている。
財布の中身を確認すると、
小銭入れのジッパーが開いたまま、
百ルセッド硬貨が七枚残されていた。
このモーテルの自販機で缶コーヒーを
一本買うには、百五十ルセッドが必要だった。
「……おい、ライトを持ってこい。こっちだ」
別の警察官が、床にライトを向けた。
霧雨が薄く湿らせ、無数の足跡がある床に、
一つ。
誰かが被害者の横を通り抜け、
裏手へと向かったような、小さな、
点々とした足跡が、微かに残っていた。
だが、その小さな足跡は、出口で
まるで煙のようにぷつりと途絶えている。
古いモーテルの、惨劇の朝。
自動販売機の蛍光灯だけが、
冷たく現場を照らし続けていた。