船にて

  身体を揺り動かされるセレビィのエミルは次第に意識を取り戻し、微かに目を開けた。まだ薄暗い彼女の視界には不安そうな表情で見つめるキモリのカフカが映っており、彼はエミルが目覚めた事に安堵の溜め息を漏らすと、彼女の身体を抱き起こした。

  カフカの体温を肌で感じ、エミルは微かに笑みを浮かべた。

  「カフカさん...私はいったい...」

  「...後ろから奇襲されたみたいだ、グレーゴルはあの向こうだ」

  エミルはカフカの視線を目で追うと、表情を凍らせた。そこには崩落した坑道があり、通行不可能な状態である。それを見たエミルは先ほどの攻撃と腕に走る痛み、そしてサイコキネシスを妨害されたことを思い出し、唇を噛み締めた。

  「...私のせいで、グレーゴルさんが...」

  「それは違う...あれを防ぐのは無理な話だよ」

  慰めの言葉をエミルにかけると、カフカは震える彼女の肩を抱き締めた。声を殺して嗚咽をあげるエミルを見たカフカは、顔を歪めたまま視線を崩落した坑道に向けた。

  (一瞬だけ見えた影...あれは将校の傍にいたヤツだ...)

  つまり、エミルに針を投げつけグレーゴルに襲いかかったのは将校の息がかかったポケモンということである。つまりは、ディアルガ配下の親衛隊が坑道内にいた事を意味する。

  (親衛隊に捕まったポケモンは...収容所に連行される...)

  グレーゴルに待ち受ける出来事を予測したカフカは、エミルから見えないように目を背けた。崩落した坑道の向こうには将校率いる親衛隊がいる以上、カフカとエミルも襲われるリスクがある。

  「...今は足を止める訳にはいかない、先に進もう...」

  震えるエミルにカフカは語りかけると、彼女の頭を撫でた。カフカの体温にエミルは目を細めると、小さく頷き涙を拭った。そして坑道の奥に目を向けると、彼女は口を開いた。

  「あの先に時の波紋があります。そこまで辿り着けば、カフカさんだけでも過去の世界に送ることはできます」

  「...だが、それならエミルは...」

  心配そうな声でカフカは尋ねるが、エミルは僅かに笑みを浮かべると首を小さく振った。そして坑道の天井に目を向けると、口を開いた。

  「カフカさんを過去の世界に送ることができれば、私はあそこから脱出しますよ」

  エミルはそう呟くと坑道の天井を指差した。そこには先ほどの崩落により隙間ができており、僅かに風と光が吹き込む。それを見たカフカは不安そうな目をエミルに向けると、口を開いた。

  「あれは太陽の光ではない...あの先に何があるのか...」

  「例え、あの先に時の守護者が待ち受けようとも...必ず逃げ出しますよ。そしてグレーゴルさんを必ず過去の世界に送ります」

  そう呟いたエミルは目を伏せると、再度カフカを見つめた。

  「だから、安心して過去の世界に向かってください。そしてグレーゴルさんが望むように、過去の世界を救ってください」

  彼女の言葉を聞いたカフカは苦い表情を浮かべたが、口を開きかけ直ぐに閉じた。そしてカフカは顔を背けると、「わかった」と短く答えた。

  その姿を見たエミルは目を細めると、口を開いた。

  「...わかった、俺は過去の世界に向かうよ。グレーゴルには...『流刑地で待つ』と伝えてくれ」

  カフカの頼みにエミルは頷くと、彼に向かって微笑んだ。そして小さく頷くと、ゆっくりと足を動かした。

  *

  廃墟の中で目を覚ましたジュプトルのカフカは、近くに転がる酒の空き瓶を一瞥すると舌打ちした。激しい頭痛と不快感を自覚したカフカは、ゆっくりと身体を起こすと溜め息を零した。

  (二日酔いか...)

  未来の世界では酒を楽しむ暇すらなかった。しかし、過去の世界では酒を仰ぎ、上る太陽と沈む夕日を楽しめる。吹き込む風や変わりゆく四季を生まれて始めて目の当たりにしたカフカは、感動のあまりに涙を浮かべた。

  (美しいな...)

  その光景を脳裏に過らせたカフカは、廃墟に射し込む光に目を細めると、近くに置いてあるビンの蓋を開け、中を満たす水を仰いだ。冷たい清らかな水が口腔を満たし、苦味と酸味が広がる喉を洗浄する。心地よい感覚にカフカは自然と目元を緩めると、改めて廃墟の中から朝日を見上げた。

  煌々と輝く朝日はカフカを照らし、暖かく優しい光が彼の目に染み渡る。

  未来の世界では決して目にできない光景にカフカは自然と涙を浮かべる。彼はそれに気がつくと、僅かに鼻を鳴らし目元を拭う。

  「...過去の世界に来て、良かったな...」

  未来の世界を生きるポケモンにとって、初めての体験の連続であった。美しい太陽、美味しい酒と料理、心の奥底まで木霊する音楽や胸に染み渡る感情を与える文学、いずれも初めて経験したカフカは、子供のように熱中した。時には図書館や酒場に入り浸り、時には旅芸人や一座の興行を楽しんだ。

  何より、毎日目にできる太陽の輝きと暖かさがカフカに生きる喜びを与え、原動力となった。

  それらを楽しみ、経験するたびにカフカは思う。

  星の停止を何としても防がなくては。

  この美しい世界を守り、ディアルガの狂信者達が支配する絶望の未来を防がなくてはならないと。

  かつて、カフカは星の停止を防ぎたいというグレーゴルの願いを理解できないといった。それでもグレーゴルの我が儘に付き合い、危険な橋を渡ることにしたカフカであったが、今では彼自身が星の停止を防ぎたいと思うようになった。

  それほどまでに過去の世界は美しく、そこに生きるポケモン達の表情は生き生きとしていた。

  (未来の世界のポケモン達とは大違いだな...)

  未来の世界では精神が崩壊したディアルガと狂信する時の守護者達が支配しており、暴力と絶望しか存在しない。数少ない資源や食料は彼らが奪い、抵抗する者は殺され、抵抗しない者は殺されるか犯される運命にあった。守護者達は悪戯に命を奪い、欲求のままに犯していく世界。

  「あんな世界...二度とご免だ」

  その光景を瞼の裏に見たカフカは、ガルム鉱山で見失ったグレーゴルの事を思い出した。ガルム鉱山はヨノワールのフランツが支配しており、彼は将校のシンパである。故に鉱山内にはディアルガ親衛隊も配置されており、グレーゴルが彼らに捕まった可能性は否定できない。

  親衛隊に捕まったポケモンがどうなるのか、カフカは嫌になるほど理解していた。

  「グレーゴル...」

  友人の身を案ずるカフカは小さな声で呟くと、僅かに不安そうな表情を浮かべた。そんな彼の顔を太陽が満遍なく照らしていた。

  *

  風の大陸にあるトレジャータウン、そこから一番近い港町を出港した大型の帆船は、海風を帆で受けながら大海を泳いでいた。穏やかな海原はどこまでも広がり、頭上には白い雲が海風に乗り、流されていく。その光景を甲板上から見ていたルカリオのオズワルドは、船体にぶつかり辺りに飛び散る海水に小さな悲鳴をあげた。

  「...しょっぱい」

  口腔に入った海水にオズワルドは眉をしかめると、唾と一緒に吐き出した。その姿を横から見ていたマフォクシーのヘレンは小さな声をあげて笑うと、オズワルドの頭に手を置いた。

  「オズワルドは海を見たことはないのかしら?」

  ヘレンの問いにオズワルドは苦笑いを浮かべると、彼女の顔を見上げた。

  「えと...見た覚えはないです」

  記憶のないオズワルドの言葉を聞いたヘレンは、彼の身の上を思い出し、顔を僅かに曇らせた。その顔を見たオズワルドは微笑みを浮かべると「気にしないでください」と言い、再度海を見た。

  プクリンのヘンデルからレシラム教の大司祭であるエンブオーのアイザックスと、彼と繋がっている人身売買業者の調査を依頼されたオズワルド達は、トレジャータウン近郊にある港町まで移動すると船を調達した。しかし、蒸気機関やタービンのないこの世界において、船の動力は海流や偏西風など自然の力となる。自ずと、大陸間を航行する船のスケジュールは不規則なものとなるため、たいていのポケモンは水ポケモンや空を飛べるポケモンの力を借りることになる。

  しかし、今回の調査ではオズワルド、ゾロアークのニコル、そしてヘレンの面々に加え、荷物や旅道具も加わる。それらを一度に運べるポケモンは限られており、たいていは商人やギルドと個人契約を交わしている。そのため、オズワルド達は船を使うほかに道はなく、港町で数日間出港を待った。

  ようやく出港する帆船のチケットを購入し、いざ船に乗ったオズワルドは、延々と続く海原を見て楽しんでいた。初めて目にする海、初めて乗った帆船、それらはオズワルドの好奇心を刺激し、ここ数日間彼を飽きさせることはなかった。

  まるで子供のように喜び、尻尾を振るオズワルドを見て、ヘレンは目尻を緩めると、空を仰いだ。青い空には白い雲が流れており、船上にも心地よい風が吹き込む。それを肌で感じているヘレンを見たオズワルドは小さく伸びをすると、眠たげに欠伸をした。

  その姿を見たヘレンはオズワルドに向かって微笑むと、「少し休んだら?」と優しい言葉をかけた。その言葉にオズワルドは笑みを浮かべると、ヘレンの顔を見上げた。

  ヘレンはマフォクシー、レシラム教の唯一神であるレシラムの僕といわれるポケモンの一種であり、華族とも呼ばれる高貴な身分のポケモンである。そのような身分のポケモンがニコルと共に診療所を開き、貧しいポケモンや身分の低いポケモンにも手を差し伸ばしている。オズワルドの知る限り、華族のポケモンでそのような行動を取るのはヘレンのみである。

  オズワルドは不思議そうな眼差しでヘレンを見上げ、彼の視線に気がついたヘレンは「なに?」と小さな声で応えた。

  彼女の声にオズワルドは「えと...」と呟くと、口を開いた。

  「ヘレンがニコルと一緒に働いているのは、なぜですか? マフォクシーならば...レシラム教から身分や財産も保証されているでしょう?」

  オズワルドの質問にヘレンは苦笑いをこぼすと、そのまま黙り込んだ。やがて口を開くと、ヘレンはオズワルドを見た。

  「...私は水の大陸出身なの、いわゆる貴族よ」

  彼女の言葉を聞いたオズワルドは頷くと、ヘレンの顔を見た。彼の視線にヘレンは見返すと、再度口を開いた。

  「家は金持ち、両親は権力や財力にしか興味がない...そんな家に生まれた以上、私の人生も両親の物よ」

  「...つまり、政略結婚を強いられた?」

  オズワルドの問いにヘレンは頷くと、話を続けた。

  「よりランクの上の家と結婚することで、私の家のランクも上がる。そして私の許婚の相手はエンブオーのアイザックス大司祭よ」

  彼女の言葉を聞いたオズワルドの表情が凍る。それを見たヘレンは「気にしないでね」と呟くと、続きを話すべく口を開いた。

  「幸いなことに、アイザックス大司祭に見初められる前に家は没落、両親はレシラム教の寄付金を横領した罪で処刑され、私は命からがら水の大陸から逃げ出したの」

  「...」

  オズワルドはヘレンの話を聞き、どのような表情をみせれば良いのかわからずにいた。それを見抜いたヘレンは微笑んだまま頷くと、口を動かした。

  「両親が横領したのは事実、そして処刑されたのは自業自得...もともとそりの合わない両親だったけど、そう考えて割り切る事にしたの」

  「...そして草の大陸に渡り、ニコルに出会ったんですね」

  オズワルドの質問にヘレンは頷いた。そのままオズワルドの顔を見つめると、「そろそろランチの時間よ」と言った。彼女の言葉の意図を察したオズワルドは小さく頷くと、甲板の端にある階段へと歩いた。

  オズワルドが肩越しにヘレンを見ると、彼女は水の大陸のある方角を、虚ろな目で見ていた。その姿を見たオズワルドは言葉に表せられない気持ちを抱くが、それを胸中で掻き消すと階段を降りた。

  階段を上がってきた影がオズワルドにぶつかる。

  「と、悪いね」

  勢いよく上がってきた影はバランスを崩したオズワルドの腕を掴むと、そのまま引き上げた。力強い腕に救われたオズワルドは影を見ると、目を丸くした。

  全身を黄色の体毛に覆われた猫のようなポケモン、『迅雷』ポケモンのゼラオラはオズワルドを見つめると、いたずら好きな子猫のように目を細めた。その笑みにオズワルドは後ずさるが、牝のゼラオラは遠慮なしに彼に近づくと、匂いを嗅いだ。

  唐突な彼女の振る舞いにオズワルドは目を丸くするが、ゼラオラに身を任せたままであった。

  一通りオズワルドの匂いを嗅いだゼラオラは、不思議そうに小首を傾げると彼を見て言った。

  「そこらのポケモンとは違う、初めて嗅ぐ匂いだ...アンタは何者だ?」

  ゼラオラの問いにオズワルドは困ったような表情を浮かべるが、彼は苦笑いで応えると「さぁ...」と曖昧な返事をした。その言葉にゼラオラは不審そうに眉根を寄せるが、やがてオズワルドの傍を離れると階段を駆け上がった。

  「じゃあね、見知らぬ人」

  ゼラオラはオズワルドに向かって言い放つと、そのまま階段を駆け上がり、甲板へと消えた。黄色い背中を見届けたオズワルドは小首を傾げると、そのまま階段を降りていった。

  オズワルドと反対側に消えていったゼラオラは甲板にあがると、甲板上を歩いている影に近寄った。影、蒼と白の皇帝ペンギンのようなポケモン、エンペルトはゼラオラを見ると一礼した。エンペルトの胸には黒と白の装飾品が付けられており、ゼラオラに目を向けると口を開いた。

  「探しましたよ、巫女様」

  レシラム教とゼクロム教の両方の信者を表す装飾品を身につけたエンペルトの言葉にゼラオラは舌を見せると、青空を見上げた。

  頭上に広がる青空には白い雲と飛行ポケモンの姿が広がっており、それを見上げたゼラオラは溜め息を零した。

  「これほど空は広く、飛行ポケモン達は自由に飛べるのに...俺は檻の中に閉じ込められたらままか...」

  寂しそうに呟くとゼラオラの言葉にエンペルトは溜め息を零すと、諫めるような口調で話し出した。

  「巫女様、『俺』などという言葉は使わないでください。あなたは巫女なのですから、相応の振る舞いを...」

  「わかっている、フルト...」

  エンペルト、フルトは巫女の返事に頷くと、彼女の手を引き誘導した。フルトの手に引かれた巫女は寂しげな目で空を見上げると、フルトに引かれるままに歩いていった。その先にはフルトと同じ黒と白の装飾品を身につけた一団が立っており、彼らは道を譲ると巫女を向かい入れた。

  ゼラオラの小さな背中は一団の中に消えていった。

  その間に階段を降りたオズワルドは甲板下にある廊下を歩くと、幾つかある船室の一つに足を踏み入れた。船室の中には小さな寝台と机が設置されており、寝台の端に腰掛けているゾロアークのニコルは手にした櫛を使い、身体を撫でていた。彼女の隣にはビークインの作る蜂蜜とミルタンクが作るミルクを元にした薬液が置かれており、ニコルはそれを両手に広げると髪に馴染ませ、床に置かれている水の入った桶から濡れタオルを手に取ると、身体を拭いていた。真水の限られた船内では身体を洗う手段も限られてくる。故に綺麗好きのニコルは濡れタオルと薬液で身体を清めると、その匂いに目を細めていた。

  蜂蜜とミルクの匂いに混じり、微かに広がるニコルの牝の匂いにオズワルドは鼻を鳴らすと、彼女を見た。

  「海はどうだった?」

  音と気配のみでオズワルドが入ってきた事を感じ取ったニコルの問いに、彼は「綺麗でしたよ」と応えた。オズワルドはそのまま椅子に腰掛けると、ニコルに目を向けた。

  ニコルの身体は微かに塗れており、見る牡を魅了する不思議な雰囲気を宿している。それを見たオズワルドは言葉に表せられない感覚を抱き、思わず視線を逸らした。

  牡として牝のニコルに魅了されているオズワルドは、無意識に顔を逸らすと、恥ずかしそうに俯いた。その姿と自身の身体を見比べたニコルは微かに笑みを浮かべると、オズワルドに向かって手を伸ばし、腕を引いた。それに身を任せたオズワルドはニコルの横に座ると、思わず彼女の身体にもたれかかった。

  オズワルドの鼻腔にニコルの匂いと蜂蜜とミルクの香りが広がる。

  それにオズワルドは顔を緩め、ニコルは嬉しそうな表情で彼の頭を撫でた。

  子供のようなオズワルドがニコルの牝としての面を見て、恥ずかしそうに俯く様は、彼の精神面が成長している証である。それを理解しているニコルはオズワルドの頭を抱き締めると、彼の背中を撫でた。

  (少しずつ心が成長しているのか...)

  オズワルドの背中を撫でるニコルは、彼の成長を実感し嬉しそうに目を細めた。ニコルの体温にオズワルドは恥ずかしそうに身じろぐと、ふと身体の中心が熱くなる感覚を抱いた。

  ニコルの腹部にオズワルドの性器があたり、それに気づいたニコルが視線を向けた。彼女の視線に気がついたオズワルドは少しずつ顔を赤くさせると、即座に離れた。その姿を見たニコルは驚いたように目を丸くさせたが、そのままオズワルドの身体を後ろから抱き締めた。

  背中を包むニコルの体温にオズワルドは恥ずかしそうに俯くと、小さな声で「すみません」と言った。その一言にニコルは笑みを浮かべると、オズワルドの耳元で囁いた。

  「恥ずかしがる事はないわ...」

  彼女の言葉を聞いたオズワルドは俯いたまま閉口すると、そのまま目を伏せた。その姿を見たニコルはオズワルドの身体を抱き締めたまま身体を倒すと、寝台に横になった。

  室内に船体が軋む音が響く。

  そこにシーツが擦れる音も混じり、オズワルドは無意識に身体を堅くさせた。

  ふと、彼の頬を撫でる感触にオズワルドは気がついた。オズワルドが恐る恐るといった雰囲気で目を開くと、視界には子供のような笑みを浮かべるニコルの顔が映った。彼女はオズワルドの頬を撫でると、クスクスと笑い声をあげた。

  「冗談よ、流石に緊張したままの貴方に抱かれたくはないわ。もう少し心に余裕ができてから再チャレンジしなさい」

  ニコルの言葉にオズワルドは力の抜けた笑みを浮かべる。それを見たニコルは再度微笑むと、オズワルドの頭を撫でながら窓に目を向けた。

  広い海原は、何処までも広がっている。

  *

  薄暗い空間は狭く、中にいる者に圧迫感を与える。狭い室内の中を見渡した私、リオルのグレーゴルは疲労に包まれた身体を懸命に動かそうとするが、それは叶わず、ただ力のない四肢が床に垂れている。冷たい床は動かない私の身体から体温を奪っていき、私の身も心も凍えさせていく。冷え切った筋肉を動かし、私は辺りを見渡す。

  狭い室内には椅子が一つのみ置かれており、他には何も設置されていない。私は重たい身体を動かすと、何とか立ち上がり壁際に歩いた。壁には格子の填められた小さな窓があり、微かな風が吹き込んでいる。私はそこから顔を覗かれると、僅かに鉄臭い外を見た。

  そこにはやせ細ったポケモン達がツルハシやシャベルを使い、堅い岩盤に穴を開けようとしていた。辺りに甲高い音が響くが、岩盤に傷一つ付かない。栄養不足と疲労困憊なポケモン達に鉱石を採集する力など無く、イタズラに身体を酷使し、更に疲労を貯めるだけであった。彼らの近くには武装した時の守護者達が立っており、虜囚達を監視していた。守護者達の手にはマスケット銃が握られており、力尽きた虜囚達を連行していった。

  (ここはガルム鉱山の収容所か...)

  無抵抗な虜囚達は守護者達に連行されていき、少し離れた場所にある溝の側に立たされた。ふらつく虜囚の中には、自身の運命を察し、何とか逃れようと這い蹲る者もいる。だが、そういった虜囚は守護者達に踏みつけられ、ナイフで首を切られた。

  気管と動脈を切られたベイリーフはその場でのたうち回るが、やがて動きが止まった。ベイリーフを殺害した守護者は、その死体を溝に蹴り落とすと虜囚達から離れた。

  守護者達の中にいる黒い帽子と外套を纏うバクフーン、将校は右手を上げた。それに合わせて守護者達はマスケット銃を構えると、銃口を虜囚に向けた。

  将校の右手が振り下ろされた瞬間、マスケット銃が火を噴いた。

  その砲火と共に虜囚達は倒れ、辺りに血が飛び散る。撃たれ、倒れていく虜囚達を見た将校は愉快そうに目を細めると、僅かに顎を動かした。それを合図に守護者達は虜囚の死体を蹴ると、溝に落とした。

  溝の中には大量の死体が転がっており、血の臭いと死臭が満たしている。そこに蛆虫や蠅が我が物顔で繁殖しており、見るものに不快感を与える。その光景を見た将校は笑みを浮かべると、その場を後にした。

  (ここも処刑場...流刑地か)

  窓からその光景を見た私は思わず苦い表情を浮かべると、その場を離れた。

  隣室から音が聞こえる。

  それを耳にした私は音が聞こえてきた壁に歩み寄ると、耳を当てた。悲鳴と嬌声、打つ音と何かを壊す音が聞こえる。私は壁を触ると、僅かに空いている穴を見つけ、そこから隣室を覗いた。

  室内の寝台上には、一組の牡牝がいる。

  近くの椅子には黒い外套と帽子が置かれており、室内のポケモンが時の守護者であることが伺える。外套には『ヴィレム』と刺繍されており、その持ち主の名前がわかる。

  寝台上で絡み合っている牡、ゴウカザルのヴィレムは組み伏せた牝のブースターと交尾しており、時折力に任せてブースターの首を絞めている。ブースターは快楽と苦痛に顔を歪めるが、ヴィレムはお構いなしに腰を打ち続けると、やがてブースターの奥深くに打ちつけた。

  ヴィレムは大きく息を吐き出すと、ブースターの中から自身を引き抜いた。白く汚れたそれとブースターの中を見比べると、ヴィレムは小さく笑い外套と帽子に手を伸ばした。

  「連れていけ」

  満足したヴィレムはそう命じた。直後、廊下に待機していた時の守護者達が室内に入ると、寝台上で力尽きているブースターの首根っこを掴み、そのまま連行していった。その姿を無表情のまま眺めていたヴィレムは帽子と外套を身に纏うと、部屋を後にした。

  (しまっ...)

  その意図を遅れて見抜いた私は慌てて穴から目を離すが、直後に配下を引き連れたヴィレムが室内に入ってきた。室内に足を踏み入れたヴィレムは壁際に立っている私に目を向けると、「あぁ?」と場末のチンピラのような声を出した。

  「てめぇ...起きていたのか」

  ヴィレムは威嚇するような口調で話すと、私の首根っこを掴み、そのまま床に突き飛ばした。その痛みに私の顔が歪むが、ヴィレムは心底楽しそうな表情で苦しむ私を見ると、舌なめずりした。

  「出ていろ」

  配下の守護者達に命じたヴィレムは、私を見下ろしてニヤニヤと嫌らしい笑みを貼り付けている。彼の命令に守護者達は素直に応じると、部屋を後にした。

  室内には私とヴィレムのみが残った。

  疲労と痛みにより動けない私はヴィレムを見上げるが、その瞳には恐怖の色が滲み出ていた。それを見抜いたヴィレムは薄笑いのまま、私の傍まで歩み寄ると、私の足を掴んだ。

  「貧相な飯だが、喰えるものは喰わないと損だよな...」

  ヴィレムはそう呟くと、倒れた私の足を掴み、強引に開脚させた。その目には欲望で染まっており、まるで目の前の獲物を喰らうことしか考えていない野獣である。私は懸命に足に力を入れるが、格闘タイプであるヴィレムに力で敵うわけもなく、そのまま組み伏せられた。

  「さっき牝の虜囚を喰ったばかりだから、汚れているな...お前の穴に突っ込む前に綺麗にしてくよ...」

  虜囚を組み伏せ、欲望のままに犯す事を楽しむヴィレムの言葉に私は無意識に震えるが、ヴィレムは遠慮なく私の頭を掴むと、二種類の精液で汚れたソレを私の口に押し込んだ。口の中に堅いゴムのようなものが押し入り、私は吐き気を催した。だが、ヴィレムは指先の爪を私の目元に当てると、冷たい声で言った。

  「噛んだり吐き出したりしたら、目を潰すから」

  そう言ったヴィレムの目は冷たく、薄汚い物を見る目を私に向ける。それを見た私は微かに震えると、懸命に舌を動かした。

  (コイツ...本気だ)

  これまでの将校や守護者達の振る舞いを思い出し、満足させられなかった場合の結末を想像した何とかヴィレムを往かせようとソレを舐め続けた。酸味と苦味、生臭さが口内に広がり、吐き気を催すが、私は何とか堪えるとヴィレムのソレに快楽を与えた。やがてヴィレムは低いうなり声をあげ、息を荒げると私の頭を鷲掴みにし、ソレを喉の奥深くまで入れた。

  無抵抗な私の口にヴィレムは欲望を吐き出した。

  (クソッ...)

  自身の体内に体液を蒔かれるというのは、相手に支配された証かもしれない。私は内心腸を煮えくる感情を抱くが、それを口に出す訳にもいかないため、腹の奥底にしまった。

  怒りと共に、ヴィレムの体液が私の中に広がる。

  口内に苦味か甘味か、曖昧な味が吐き気と共に広がるが、私は何とか飲み込むとヴィレムが解放するのを待った。恍惚とした表情を浮かべたヴィレムは私の口からソレを引き抜くと、満足したように息を吐いた。そして薄汚れた私を見て顔を歪めると、ヴィレムは再度舌なめずりした。

  「オードブルはもういい...そろそろメインディッシュを貰おうか」

  ヴィレムはそう呟くと、私の腰を掴み欲望を吐いたばかりのソレを当ててきた。それを肌で感じた私は何とか状況を脱しようと、足を動かした。

  (これ以上、ヤツの思い通りにさせるか!!)

  だが、私の無言の反抗にヴィレムは愉快そうな笑い声をあげると、私の耳元に顔を近づけて言った。

  「俺は基本的に牝を相手にするタイプだが、時々は牡も喰えるタイプでもある...お前さんも牡だが、たまには悪くないな」

  そう呟いたヴィレムは私を見下ろすと、下劣な笑みのまま、私の腰に自身のソレを押しつけようとした。

  ヴィレムの動きが止まる。

  彼は全身の動きを止めると、無表情のまま私を見つめた。そして私の頭や背中を改めて触ると、少しずつ驚愕の表情をみせた。

  (...バレた、か?)

  それを見た私の疑念は的中していた。ヴィレムは呆然とした表情のまま口を開くと、私の顔をまじまじと見つめた。

  「お前...まさか...」

  直後、部屋の扉が開かれ、外套を身に纏った若いポケモンが入ってきた。若いポケモンは室内にいる私とヴィレムに目を向けると、ヴィレムに向かって僅かに手を振った。その意図を理解したヴィレムは舌打ちすると、私から離れて部屋の隅に立った。

  それを見た若いポケモンは肩から下げていたマスケット銃を床に置くと、私の傍に歩み寄り、私の顎を掴み持ち上げた。外套に隠された顔は見えないが、隙間から覗く眼光のみが見えた。

  私は無意識に身体を硬直させると、若いポケモンの視線から逃れるように顔を背けた。私の反応に若いポケモンは首を微かに傾げるが、そのまま私の顎から手を離した。

  若いポケモンはゆっくりと立ち上がると、ヴィレムに向かって部屋を後にするように指示した。それを見たヴィレムは苛立たしそうに舌打ちすると、扉を開けて部屋を後にした。

  「...覚えていろ、K」

  若いポケモン、Kはヴィレムの言葉を耳にしたが、微動だにせずにいた。そして部屋を去りゆくヴィレムの背中を見届けると、床に置いたマスケット銃を拾い、そのまま室内に置かれている椅子に座り、私を見ていた。

  (見張り、か?)

  Kの意図を見抜けない私は困惑の表情を浮かべるが、Kは何も話さずに私を見ている。

  室内に沈黙が広がり、私は居心地の悪さを感じた。私の意図などつゆ知らず、Kは一言も発さずに私を見ている。異常な光景に私は身体を硬直させるが、Kは微動だにしなかった。

  やがて、扉が開かれ黒い外套と帽子を身に纏ったバクフーン、将校が入ってきた。将校は室内を見渡すと、Kに向かって合図した。それにKは素直に応じると、将校の脇に立ち、彼と共に私を見下ろした。

  将校は柔和な笑みをみせると、私に向かって口を開いた。

  「さてと、リオル君はあのセレビィとキモリについて、何を知っていますか? それにマスケット銃を知る理由は、ライフル銃とは何ですか?」

  将校の問いに私はそっぽを向くが、将校はお構いなしに私の胸元を掴んだ。その力に私の息が止まるが、将校は笑みのまま手に力を込めると、Kに目を向けた。

  「かなり頑固なリオル君ですね...続きはフランツに任せますか」

  将校はそう言うと廊下にいた守護者達を呼び寄せ、Kの肩を抱いた。そのまま廊下に出ると、将校とKは隣室に消え、代わりに守護者達が室内に入ってきた。そして守護者達は私を抱えると、そのまま廊下に連れ出した。

  その光景を見届けた将校は薄ら笑いのまま隣室に入り、中に設置されている寝台を見た。そこには外套を身に纏ったKがうつ伏せになっており、将校に向かって臀部を突き出すと、両手を使い尻の肉を左右に開いた。

  顔を見せた蕾に将校はニヤリと笑うと、そのまま寝台に上がり、近くに置いてある張り子を押し込んだ。その痛みと快楽にKは僅かに身じろぐが、将校はKの頭を強引に掴むとソレを押し込み、舐めるように強要した。一心不乱に舐める様を見た将校は微かに笑うと、口の中に欲望を吐き出した。

  将校の脳裏にグレーゴルの顔が過る。

  「...フランツの尋問後、楽しまさせてもらうか」

  将校はそう呟くと、張り子を抜きKにソレを入れた。

  室内に微かな嬌声が木霊する。