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たとえ、何があっても。

  大切な人を幸せにしたいって思うのは、いけないこと……なのだろうか。

  たとえ、自分という存在がイレギュラーなのだとしても。

  その人の傍にいたいと願うのは──

  [newpage]

  「ハンナさん……」

  口から自然とその名を零しながら、空を見上げる。

  月は、もうすぐ満月になる。

  「僕、君の隣にいて、いい……の、かな……」

  不安は夜風に流れ、空に広がる星の海に溶けていく。

  答えなど帰ってくるはずがない。今ここには、僕一人なのだから。

  (それでも……)

  それでも、問わずにはいられない。

  あの時、一度……いや、二度死んだ僕を救ってくれたのは、ハンナさんに他ならないのだから。

  その恩に報いたい。

  彼女を守りたい。

  彼女に幸せをもたらしたい。

  だがそれは、自分には過ぎたことなのでは無いのだろうかと、邪魔をしているのでは無いのかと、夜には考え込んでしまう。

  もしかしたら彼女のことだから、クスクスと小さく笑いながら、あの笑顔と優しい声音で、

  『大丈夫よ』

  って、言ってくれるのかもしれないけど。

  それこそ、僕が考える必要も無くアッサリと。

  (……もうすぐ、満月か)

  頭の中でもう一度反芻しながら、月を見つめる。

  彼女が太陽なら、僕は月になりたい。

  彼女の光を受けてでしか輝けないなんて、女々しいかもしれないけれど。

  それでも、同じ世界の、違う時間で、彼女を感じられるなら、それだけで十分過ぎる程だから。

  とはいえ。

  「会えないっていうのは少し、寂しいよな……」

  「何が?」

  「えっ!?……」

  不意に背後から響く声に驚いて振り返ると……そこには、ハンナさんがいた。

  「は、ハンナさん……」

  「ふふ。……お隣、座ってもいい?」

  「えっ?あ、も、もちろん!」

  そう言うと、ハンナさんは「ありがとう」と僕の隣に来ると、草の絨毯へ静かに腰を下ろした。

  「よいしょっと。……ねぇ、何を見てたの?」

  「へ?あ、あぁ、月だよ。ほら、もうすぐ満月だなーって」

  「ふぅん。……じゃあ、会えない、って?」

  「あ……それは、その……」

  今まさに、そうなりたくない相手を前にして、言葉に詰まってしまう。

  これは……なんて言えば良いのだろう?

  「……また、考え事してたの?」

  その問い掛けに、僕は少しだけ考えてから、ゆっくりと首を縦に振る。

  するとハンナさんは、

  「心配しなくても、わたしは今ここにいるわ。……ちゃんと、あなたの隣に」

  と、まるで降り注ぐ月の光のように優しく、僕に微笑みかけた。

  「ハンナさん……」

  「"どんな運命が引き裂こうと、独りにしない。僕がそばにいるよ"……そう言ってくれたのは、ウインドさんでしょう?」

  かつて、ハンナさんに誓った言葉を諳んじられ、ハッとする。

  そうだ。僕が彼女に誓ったんだ。

  他でもない、僕が。

  「覚えて、くれてたんだ」

  「もちろんよ!わたし、とっても嬉しかったもの」

  そう言うと、ハンナさんは再び宙を眺める。

  「なんだったら、このお星様達だって覚えてると思うわよ?あの日も、こんなに綺麗な夜だったし」

  ハンナさんにつられて、僕も宙を眺める。

  よく見ると、無数に輝き広がる星々にも、それぞれ光が違うのを再認識する。

  「……キレイだな」

  「でしょう?それにね」

  ハンナさんは急に僕に身を寄せ、宙を指さす。

  「はっ……!?」

  「ほら、見てて」

  ハンナさんはそう言いながら、宙へ向けた指先を動かしていく。

  「……?」

  何をしてるんだろう、とハンナさんの指先を眺める、と……

  「あっ」

  「ふふ、気付いた?本に載ってあったの。"星座"っていうのよ」

  そう言いながら、ハンナさんはスイスイと指を動かし、星と星とを線でつなぐようにしていく。

  「昔の人は、星座を動物に例えて、占いやおまじないにしたそうなの。……なんの動物を示してるのかは、どこにも書いてなかったんだけど」

  そうして星を結び終わると、ハンナさんはゆっくりと腕を下ろす。

  「ここから見える星が小さく見える様に、向こうの星からも、わたし達のいる場所は目に見えないくらいに小さくて、遠い……けどね?」

  不意に、僕の手の甲に柔らかな感触を感じさせながら、ハンナさんは続ける。

  「お互いに遠い星々が繋がって形になるように、たとえどんなに遠く離れてても……わたし達はこうして繋がってる。……今こうして、手を繋いでるように」

  「ハンナさん……」

  「だから、大丈夫よ」

  ああ。

  この、笑顔だ。

  いつもそうだった。

  余所者である僕が落ち込んだ時、いつもハンナさんはこうして微笑みながら、落ち着かせてくれた。

  僕の居場所はここなんだ、って教えてくれた。

  だから。

  「……うん」

  僕は重ねられていた手を、互いの指と指の間に通す様にして結び直す。

  もう、大丈夫だ。

  「あっ、流れ星!あんなに!」

  「えっ?……ホントだ!?」

  見上げると、まるで夜空を引っ掻くような無数の軌跡が、僕らの頭上を横切っては消えていく。

  流星群、だった。

  「綺麗ね……!」

  「うん……!」

  「ねぇ、願い事はなんにする?」

  「あっ、そうだな……えっと……」

  「わたしはね~……」

  流星は描いていく。

  独りの不安を、二人の笑顔に。

  彼女が笑う声が、僕の幸せであるように。

  僕の声が、君の心の温もりになる未来を。

  たとえ、いつか世界がめちゃくちゃになったとしても。

  君がいるなら。

  君となら。

  『きっと、大丈夫』

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