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料理は好きだ。食材をいろいろな形に変化させて、彩り豊かに飾り付けをしていくその過程も、口に運んで味わった時の幸福感も、食べてくれた人が「美味しい」って言ってくれるその瞬間も、みんなまとめて僕は好きだった。
だから今朝も小雨の音を聞きながら、僕はキッチンに立っている。甘く焼いた卵焼き、塩茹でのブロッコリーを添えて、甘辛く味付けした生姜焼きを千切りにしたキャベツの上に載せておく。それをふたつ、程よく冷めるまで置いておいて。
その間に焼けたシャケをお皿に乗せて、納豆と卵の準備。火にかけたお味噌汁は沸騰しないように気をつけて…炊飯器を開けたら炊き立ての熱々ご飯!今食べる分をお茶碗に、持っていく分はお弁当箱に入れてこれも冷ましておいて。うん、今日も上手くできた。
「いただきます。」
両手を合わせて、自分で作ったものを口に運ぶ。美味しい…これなら今日もバッチリかな。
それにしても、ちょっと遅いかも。昨日はお酒飲んで帰ってきたからかな…そう思ってご飯を食べながらプレートの掛かったドアに目を向けていると、やがて中でがさごそ音がしてドアが開いた。
「んぁ〜…おはよ…朝ごはん…」
「…ってお姉ちゃん前!前出てるっ!!」
ドアをくぐり抜けるように出てきた僕と同じくらいおっきな熊獣人は、僕のお姉ちゃん…なんだけど…パジャマ全開だし何にもつけてないしすっごくおっきいのが丸見えになっちゃってるからせめて着替えてから出てきてよもうっ!
「いやーメンゴメンゴ。いい匂いしたもんだから着替えよりご飯優先しちゃったわ。」
「ならボタンくらい留めてよ…一応僕だって…ほら…性別上男なんだから…」
「ハイハイ。可愛い『妹』に言われちゃ仕方ないね。」
そう言ってちゃんとボタン留めてくれてなんとかホッとした。流石に僕もその格好で目の前でご飯食べられるとちょっと…うん、もうちょっと直して欲しいところ。
それでも…こんな僕を否定しないでくれる。ちゃんと『妹』にしてくれるお姉ちゃんの事は大好きだから。
「はい、ご飯とお味噌汁。しじみ汁ね。昨日お酒飲んで帰ってきたでしょ?」
「ありがとー…うん、我が妹ながらこの女子力…ホントお姉ちゃんのお嫁さんにならない?幸せにするよ?」
「もう、変なこと言ってないでちゃんとご飯食べる!僕これから学校だから、食べ終わったら食洗機に入れといてね?」
「はーい」なんて言いながらご飯食べ始めたお姉ちゃん。その間に僕は学校の身支度をする。
エプロンは外して、いつもの赤いシャツの上から学校指定の学ランを羽織る。眼鏡はケースに入れてカバンの中に、視界がぼやけちゃうけど、すごく目を細めればどうにか。それに見えなくたって結構どうにかなったりするし…
身支度を終えたらお弁当。冷めたら蓋をして、包んでカバンの中に。今日の授業のは昨日のうちに用意したから大丈夫。それともう一つ…これで忘れ物はない。
「これ、お姉ちゃんのね。戻らないで作業部屋の方で食べちゃうでしょ?」
「おー、気が利くねえ!ありがたやありがたや…」
「ほっとくとカップ麺の空で散らかすじゃない。」
「ははは…うん。ごめん。」
結局片付けるのは僕なんだからね、と釘を刺すのを忘れない。でもたまに食洗機にすら入れ忘れるから油断ならないんだよね。そしたらお姉ちゃんが嫌いな椎茸入れてあげよう、なんて。
じゃあ、そろそろ行かないと。咳払いを一つ、喉を開くように震わせて、声を出す。
「…いって、きます。」
「ん…いってらっしゃい。」
低い、低い声でのいってきます。お姉ちゃんの声に見送られながら、『俺』は今日も学校に向かう。
……………
『弟』の出ていく姿を見送って、アタシはため息をついた。もう何度、ああやって自分を偽りながら出ていくあの子の姿を見送っただろうか。
ただの生物学上の性別が男ってだけ。
それだけなのに、あの子は男らしさを求められる。熊獣人だから、体が大きいから、腕っ節が強いから。
でもあの子はそうじゃない。可愛いものが大好きで、甘い物が大好きで、誰よりも心優しい『女の子』なんだ。それを未だに、世の中の多くが許さない。
だから今はせめて、アタシだけでも、あの子の『好き』を否定しない。世界の誰よりも可愛い、アタシの『妹』だから。
「…ごちそうさま、っと!さて…今日も頑張ろうかね。」
両手を合わせてごちそうさま。今朝も美味しかった。うーん、流石アタシの妹。
妹の愛妹弁当片手にダイニングを出て、そのまま部屋からマンションの廊下に出る。鍵かけるのも忘れないでっと。
マンション内の隣の部屋、そこに掲げたプレート。これを見るたび、気合が入る。鍵を開けて、扉を開けて。
ここが、アタシの戦う場所だ。
……………
雨だ。ここ最近ずっと降り続く雨。お陰で普段昼休みに外に出ていた奴らが中に集まって必然的に密度が高くなる。おまけに湿度も高いから地味に不快指数が上がる。
外もどんより暗いし、正直結構気が滅入っていた。あ、次数学だ。やだなー。
「はぁ…練習場所が押さえられなかったからな…今日も休みにするしかないか。」
「マジかキャプテン!やったー太っ腹!!」
「お前はもう少し深刻さを理解しろ。」
アホ猪の能天気発言に頭を抱えてため息をつくキャプテン。確かにこうも雨続きじゃグラウンドは使えないし、かと言って学校の体育館はインドアスポーツの奴らが、公共施設はどこも同じ考えの部活で競争率が現実的ではない。案の定予約はびっしり、出遅れた俺たちはやむなく活動中止状態だった。
自主トレで糊口を凌ぐ日々…なんて事はなくこいつみたいに遊び歩いているような奴もいるわけだ。
「お前なー…俺だってただ遊んでる訳じゃねえし!」
「あー、そういやバイト始めたんだっけ?またエロサイトの課金でとうとう親父さんに見放されたか?」
「ち、ちっげーよ!いやそれもあるけど…それだけじゃねえよ!!」
いやあるんかい。いい加減にしないとお前ほんとに身持ち崩すぞ。そうしたら俺にはどうしようもない。さらばだ。
んでキャプテンはと言うともはや話を聞くのも無駄だとばかりに持ち込んだ文庫本を読み始めていた。くっそ、我関せずかこのイケメンめ。読書姿だけで絵になりやがる。あ、廊下で女子が倒れた。殺傷力とかあんのかお前怖いな。
「で、どこでバイトしてんだ?コンビニ?」
「教えねえ。聞いたら絶対冷やかすからお前。」
「なんでぇ。お前のバイト代で奢ってもらおうと思ったのに。」
「断固拒否する!」
コイツにしちゃ珍しく頑固だな…うーん、しかし考えてみりゃコイツが接客とか無理だな。コンビニとかファミレスの制服とか着てる姿が想像できない。あ、もしかして工事現場とか?いやいや今時そういうのってOKなんだろうか…つーか雨だし違うか。
まあいいや。近場ならそのうちどっかで見かけるだろうし、そん時はお望み通り存分に冷やかししてやろう。楽しみにしていろ。
そんな事をやり合っていたら、スマホが軽快な通知音を立てた。何気なくメッセージを確認する。
『今日は一緒に帰りませんか?部活でしたら、終わるまで待ってます。』
渡りに船とはこの事だろう。キャプテンよ、今日ばかりは部活休みに感謝しよう。ありがとう。
「……なんだ?お前まで……」
……………
さて、『彼女』との初めての一緒の下校…なんだが、浮かれに浮かれて一つ失念していたことがあった。それに気づいたのはウキウキ気分で昇降口に立っていた時である。
「くそぉ…兄貴には俺が傘差してあげたかったのにっ…これじゃ兄貴に傘差させるしかねぇ舎弟の名折れじゃねーか…!!」
「僕らじゃ背とか手とか届かないよ…ね、仕方ないって…」
「毎日牛乳1リットル飲んでんだよぉ!なんで伸びねえんだよぉぉ!!」
喧しい声と一緒に膝から崩れ落ちている奴がいた。番長の舎弟ABである。雨だと言うのに元気な事だ。ガチ泣きするAをBが宥めながら、俺に気づかず二人並んで下校して行った。B、お前大変だな。がんばれよ。
と、ここで俺は重大なことに気付いてしまったのだ。
俺…番長と並んで帰るの?
絵面を変更して想像、そして脳内シミュレーション。
いや…いやいやいや待って。確かに番長はナツキでナツキは番長なんだけど!番長としてのナツキと俺にそういう接点とか無くてけどだからといって番長である事もあの子の一面だからそう言うのも含めて受け止めてあげたいというかああもうわけわかんなくなってきた。
舎弟ズが上がったんなら、同じ科にいるはずのあの子ももう上がりのはずで…ええい!覚悟を決めろ俺!!
そうして第一校舎の廊下から大きな影が歩いてくるのが見えた。あの巨体…きっとそうだ。大丈夫…俺は番長のマブダチ…否、恋人なんだ……よし!!
「お待たせしました。今日は部活がお休みだったなんて…ふふふ、ラッキーです。」
そこに居たのは、番長ではなかった。
うちの学校指定の女子制服。ピンクのブレザーにブラウンのスカート、紺のソックスはきちんと校則通りに揃っている。ふわりと揺れる茶色のセミロングの髪の奥、眼鏡越しにおっとりした瞳で笑いかけるのは、紛れもなく出会った時のあの姿で。
思わず見惚れてしまう。あの時は色々夢中でじっくり見ていなかったけど…こうしてみると本当に…似合っている。それにどこか楽しそうな彼女は…
「…どうしました?
「え…と?番、長…じゃなかった。ナツキ…え、どうしたのそれ!?」
「えへへ…家から持ってきちゃいました。保健室で着替えさせてもらったんです。」
そう言ってくるりと回って見せてくれた。赤いリボンがふわりと揺れて、湿気の高い澱んだ空気がそこだけ明るく見えるような。ぽよんと弾むような動きで向き直って「どうですか?」なんて聞かれたらそりゃもう…ねぇ。可愛いという他あるまい。実際可愛い。
とはいえ、相合傘は流石に…傘のスペース的な問題で諦めざるを得ないため、並んで帰ることにする。幸い彼女の家は覚えてるし、せっかく初めて一緒に下校するだから…ちょっとくらい、ムードがあったって良いよな…?
そんなわけで傘を差して一足先に雨の中。ナツキに向けて手を差し出して…いややっぱ恥ずかしいけど…
「…手、繋ごうか…?」
「……はいっ!」
すごい嬉しそうな笑顔が見れたから、それはそれで良いかな…?
……………
いや、待て。どうしてこうなった、俺。落ち着け。今の状況を整理しろ。
まず俺は全裸である。タオル一枚下はアウトゾーン。いやー暖房って凄いな超あったかい。おまけにホットミルクまで。うん、あったかい。
そしてここはとあるマンションの一室。可愛いクッションやぬいぐるみがたくさん並んでるけど、すごい整理されてるし綺麗に掃除も行き届いてる。几帳面なんだなぁ…あとちょっと良い匂いがする…いかんいかん。
外はまだ雨が降りしきって止む気配はなし。というかそもそも外に着ていく服がない。
というのもだ。とっても良いムードで手を繋ぎながら帰っていた俺たち二人の側を猛スピードのダンプカーが無慈悲にも駆け抜けていったのだ。なんという事でしょう。
咄嗟にどうにか彼女の前に立ち塞がった訳だが…結果はお察しの通りです。ハイ。
「大丈夫ですか?寒くないです?」
部屋のドアが空いてナツキが入ってきた。制服とは違ってラフな部屋着姿、とは言え彼女の趣味らしい薄ピンクなワンピース…やっぱり女の子なんだなぁ。この部屋のインテリアも納得。
…そう、ここは彼女の部屋である。俺は思いがけず聖域へと足を踏み入れてしまったのだ。ありがとうダンプカー。
そして濡れた制服は洗濯乾燥機の中。ちょっと時間がかかるらしい。彼女の服は俺には大きすぎるので、俺はタオル一枚でしばらくここで待つ他なさそうだった。シャワーまで借りた上、流石に全裸に『番長』のシャツは申し訳なさが過ぎる。彼シャツならぬ彼女シャツ…いや、やめよう。
「まったく、あんなスピードで走ってくるなんて危ないじゃないですか…」
「ホントそれ…あ、でも君が無事で良かったよ。」
「……よくないです。」
どうやら珍しくご立腹らしい。ちょっと不機嫌そうにむくれてクッションを抱いてる。眉根寄せてる顔はちょっと番長の時思い出すけど、その時よりは遥かに穏やかなそれで。うん、やっぱり素の表情の方が可愛いと思う。それに。
「俺は…なんだろ、こんな形だけど、もうちょい一緒にいられんのは嬉しい…かな……」
…我ながらなんつー事を言ってるのか。いやでも事実だもん仕方ないじゃない!毎晩通話してるとはいえ素の格好じゃあんまり会えないわけで、だから手を繋げるのでも嬉しかったって事で…ああああなんか恥ずかしいなこれ!!
「あ、あのその…そう言われると…それは……!」
彼女もなんか真っ赤になっちゃってるし…あ、でも良いムードなのこれ?ってかどうすりゃ良いの俺!助けてキャプテン!!
その時、不意に部屋のドアが開いた。
「あ、帰ってたんだ。そろそろバイトの子…が……」
ドアから顔を出したのは、彼女とよく似た熊獣人の女の人たった。縦にも横にもでかい、それこそ大きさまでそっくりなその人は俺と目が合った瞬間、お互いに固まった。間、そして間。
可愛い女の子の部屋、真っ赤になった彼女、その中にタオル一枚の男…つまり俺。
…あれ、詰んだ?
……………
「なるほどなるほど。そりゃ災難だったねぇ!あっはっは!!」
「もう!お姉ちゃんが早とちりするからでしょ!」
「はは……」
怖かった。マジで色々覚悟した。ナツキが止めてくれなかったら、俺はきっとこの世にはいなかっただろう。本当に感謝しかない。ありがとう。
あの『番長』よりさらに怖い顔がある事を俺は知った。この人には絶対に刃向かってはいけないことも理解した。
この人はサエさん。ナツキとここに一緒に住んでるお姉さんだそうだ。正真正銘の血の繋がりは毛色や目の色、あとはその大きくて豊満な体格で伺えるけど…いかんせん性格は全く似ていなかった。おとなしい彼女に比べたらサバサバ系な姉御肌、活発そうなスポーティ豊満美人とでも言うのだろうか。あのアホ猪が涎垂らして眺めそうなボディ…いやいやいかん。
しかしお姉さんといる時のナツキ…俺の前と同じしっかり者なんだけど、敬語じゃないから甘えが見えるのが良いなぁ。本当にお姉さんが大好きなんだろうし、お姉さんの言葉や表情からもそれがよくわかるあたり、愛されてんだなぁ、なんて思った。
きっと、この人が居たから、彼女も彼女でいられるのかも。俺も、ナツキにとってそういう存在になれたらなぁ。
と、そんなお姉さんがこっちを向いて…真剣な目で俺を見据える。
「…で、アンタ、うちの『妹』に告った訳だけど…そこんところ、分かってんだろ?」
びり、とさっきとは違う緊張感。聞きたい意味は何となく分かった。
ナツキは『女の子』ではあるが、れっきとした『男』なんだ。だから、彼女とお付き合いをすると言う事は、必然的には同性同士のお付き合いになる。お姉さんとしては『男』である彼女を『女の子』として愛せるのか…そもそも、彼女が『男』である事を知っているのか。それを確かめたいんだ。
だったらそんなの、もう決まってるじゃないか。
「俺は…ただナツキが好きになった、それだけです。外見とか性別とか関係なく、『彼女』だから好きになったんです。」
キッパリとそう言える。お姉さんと合わせた目は離さない。この言葉に、偽りは無い。
ナツキが男だとかそんな事どうでもいい。ただ好きだから、そばに居たい。
と、頭をわしゃりと撫でられた。目の前の熊獣人が、にっかり笑って俺に告げる。
「合格!合格も合格さ!アンタホントいい男捕まえたじゃない!お姉ちゃん嬉しいわぁ…」
「捕まえたって言い方!もうっ!!」
ケラケラ笑うお姉さんに、真っ赤な顔で抗議してるのがなんだか微笑ましい。「ごめんごめん」なんて笑いながら言ってるけど…ホントに、本当に彼女を…ナツキの事を大事にしてくれてるのだ。だから、ここは俺も筋を通すべきだと思った。
「…改めて、妹さんとお付き合いさせていただいてます。北見晴斗です。えっと…今日はこんな格好ですんません…」
「真面目か!いやでも礼儀正しい子は好きだよ!よしよし、アタシの義弟にしてやろうか?」
「お姉ちゃんっ!?」
お姉さんの義弟…つまり…うん、そういうことか。そういう事なら…答えるべきは一つ。
「……将来的には是非。」
「やっぱ真面目か!さては体育会系だねアンタ!」
多分、この人とは仲良くなれそうだと直感した。
……………
数十分後。
さて、俺はタオル一枚からバスローブに進化した。しかしでかい。ちなみにお姉さんが貸してくれたものである。
そして手には何故かレフ板。周りはいろんな機材、カメラを構えたお姉さんが指示を出す。
「はいこっちー。そうそう。もう少し上目遣いで…うん、良いよ可愛い!」
それに合わせてモデルさんが可愛らしいポーズを決め、お姉さんがシャッターを切る。はい、…成り行きでレフ板係のバイトをすることになりました。
ちなみにバイトのモデルさんらしいけど、彼女やお姉さんと同じくらいに豊満な虎獣人の子だった。黄色と黒の縞模様に、ポーズを決めるたびに白い髪が揺れる。今着ているのはこれから夏の季節にぴったりなノースリーブにレースのロングスカート。細やかなデザインが光る逸品である。
お姉さんはこのマンションのワンフロア3部屋をまるっと買って、自宅兼仕事場にしていた。仕事はデザイン事務所と副業にフォトスタジオ経営。主に彼女みたいな大型獣人女性の物を中心に服飾デザインしていて、その筋では結構知れている人だそうだ。
撮影したものはSNSで拡散、つまりナツキの可愛い服は全てこのお姉さんの手によるものだった訳だ。本当に頭が上がらない。
「よーしありがとユウちゃん。じゃあ交代ね。次の着替えて待機お願い!」
「んー、はーい。」
で、このバイトのモデルさんなんだが…いや、色んな意味で結構有名な子である。どっかで見た顔だなーと思ったら、最近噂になってる近くの高校の…言うなれば不良男子だった。立ち位置的には番長はと同じである。名前は白坂ユウ。なぜそんな子がここでモデルをしてるのかといえば…何でも、お姉さんの高校時代の後輩の弟さんらしく、よくモデルのバイトを頼んでるとか…
この格好だと見た目は彼女とおんなじように豊満ボディでクリクリした目とか可愛いんだけど…声は普通に男子ボイスでした。いやー見た目は当てにならないなー。
「んじゃ次、ナツキお願いね!」
「はい。」
そして、ユウちゃん…ユウ君?と入れ違いにカメラの前に立ったのはナツキだった。
いつもの眼鏡にロングのウィッグ、ノースリーブのワンピースに白い花のコサージュ。おっとりしつつ穏やかな微笑みを浮かべてカメラを見据え、様々なポーズを取っていく。その姿は、いつもの彼女とはまた別人のようだった。
番長でも、ただの女の子でも無い、SNSで煌めくモデルとしての彼女。それを目の前で見ている。
可愛い、だけじゃない。
綺麗だな、と、俺は思った。
……………
お姉ちゃんが構えるカメラに向かって微笑みを向ける。この時は、いつもは少し恨めしい自分の大きな身体が誇りに思えるのだ。
可愛い服は、小さくて可愛い子達が着るもの…そんな固定概念を、お姉ちゃんは壊し続けている。
身体が大きくたって…男の子だって、可愛い服を着たい。オシャレだってしたい。その為に、お姉ちゃんは一から服をデザインして、自分で作り上げていくのだ。
そんな情熱の結晶を、『男』である僕に一番に着せてくれる。それがとっても嬉しい。可愛いオシャレに大きいも小さいもの、女も男も関係ない…お姉ちゃんはそう声高に掲げて突き進む。
だから僕は、モデルになるこの時、この身体で目いっぱいに可愛くなろうと決めている。
でも今日は…今日はもっと嬉しい。
大好きな人が、目の前で僕の晴れ姿を見てくれているから。
もっと、もっと可愛く、綺麗になれるんだ。
つづく?
おまけ
男の娘たちのおやつの時間。
「お疲れ様、ユウちゃん。」
「あ、お疲れ様ーなっちゃん。ドーナツ食べる?」
「ありがとー。あ、これかわいいね…新作?」
「そ。期間限定。映えもバッチリっしょ。」
「はわぁ…食べちゃうのもったいない……」
「しかしなるほどー、アレ誰かと思ったらそういう事…」
「ねえ…ユウちゃんはそういうのって、あったりするの?」
「んー、まだ分かんない。今は自分の『男らしさ』追っかけてるとこだし」
「そっかあ…」
「でも、恋ってのもそれで素敵じゃないかな。俺…あたしと違ってなっちゃんはホントに『女の子』なんだしさ。」
「…うん、ありがと……!」
「あたしさ、やっぱこっちの格好で会って良かったと思うなぁ。」
「あはは…ホントにそう。だってユウちゃん強いんだもん、喧嘩したくないよ…」
「えー、なっちゃんだって自分くらいでっかい白熊男転がしまくってる子がそれ言う?」
「い、言わないでよぉ……」
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