戦乱編 第一話 城塞陥落

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  ディーラル王国の王都ディグランは北部に控えるジャノア山脈を源流とするラチェ川が山を削った扇状地に位置しており、地形的に開けた南方以外からの敵の侵入は厳しく、その結果、南側に防御施設が集まっている。

  中でもググノ城塞はディーラル最大の城郭で、幾度かの戦争でも王都に敵の侵入を許した事が無い。

  ググノ城塞の物見の兵が異変を発見したのは日が登った早朝の事である、城塞からさほど離れていない南方に一軍が出現しており、その中には伝説の地の王が使ったとされる巨兵の姿もある。

  この異様な事態に城兵は城門を閉ざして戦いの準備を始めるが、幾ら高いググノの城壁でも巨兵に対して何処までの効果が有るのか、守る城兵達の間で不安が拡がっている。

  城主である、セベラス将軍は城内を巡り兵達を叱咤して回るがその効果は暫定的だ、兵達は同じ人間の軍勢なら臆する事無く戦ってくれるだろうが、相手は伝説の中に有る化け物だ、セベラスは城主として最後まで戦う意気込みだが、部下達に無理な戦いを強要する気もない、だが、戦わずして負けを認めて逃げるなど許される行為では無い。

  セベラス将軍 「城門は閉じるだけでなく裏に土嚢を積み上げよ、巨兵の力を侮るな、城門の上には煮え湯を用意せよ、かつての戦いでは効果があったと書にあった」

  ヒーソフ王が信頼を置き、ググノ城塞を任せるセベラスは有能な男でもある、幾多の戦いで手柄を立てて下級貴族の出身ながら将軍の任を任され、文献から昔の戦いも調べ上げて、地の王の軍勢に対し最善を尽くそうとしている。

  敵の姿がよく分かる大城門上の櫓を指揮所に定めて指示を出すセベラスの元に、側近の一人が近寄って声を潜めて話し掛けて来る。

  ゴボフ分将 「将軍は勝てる見込みがあるのですか、見たところ巨兵だけで百を上回りますぞ、ここは無駄に戦う事無く兵を王都に集め、王の指示を仰ぐべきかと」

  敢えて王命を出すのがゴボフのいやらしいところだ、例え防衛戦でも王命が無ければ戦いは避けるべきという逃げ道を示したのだ。

  セベラス将軍 「この城塞を護のが我等の責務ぞ、それに巨兵を恐れて戦わぬ兵と解れば交渉に置いても敵の言いなりになる、我等は此処でディーラルの意地を見せねばならぬ」

  始めから逃げる者達が敵からの尊敬を得られぬ事をセベラスはよく知っている、尊敬される軍は野盗と同じで、まともに扱われる事が無いだろう、実際セベラスが同じ様に逃げ出した敵の処理を任されれば粗雑に扱う事だろう、そう武人には武人の矜持があり、矜持を見せてこそ敵にも認めて貰えるとセベラスは考えている。

  ゴボフ分将 「事後の扱いは既に取り決めが有ると言ってもですか?」

  セベラス将軍 「貴様、敵と通じているのか!!」

  ゴボフ分将 「私はたださるお方から、口伝てを頼まれただけで詳しくは知りませぬ、ただ、戦とはどう終わるのかを見越して行うもので有りましょう」

  ゴボフ分将がラールカ派に与している事はセベラスも理解している、だからこそ武人の矜持を理解しないこのゴボフの行いに怒気を顕にする。

  セベラス将軍 「この者に枷を付けて王都に送り返せ、この期に及んで戦いから逃げる者は武人にあらず」

  下級貴族出身で兵達ともよく接するセベラスに対して部下の忠誠心は高い、確かに巨兵は脅威ではあるが、セベラスの指揮ならば恥じる戦いを行う事は無いと兵達も信頼しているのだ、男性権威の高いディーラルでは恥じる戦いをした者は一族までも嘲りを受け、死より辛い運命を一族に背負わせる事にもなる得るのだ。

  ゴボフ分将 「貴様は何も解っておらぬ、もう天人などに力はないのだぞ」

  セベラス将軍 「これは我等ディーラルの武人の戦いだ、武名誇らずして何が武人だ」

  生粋の武人で有るセベラスは自身の命よりも、築いた名誉が失われる事を恐る、兵達との距離が無いセベラスではあるが、実際の兵達はここまでの矜持を持ち合わせていない。

  結果、セベラスは背後から何者かの襲撃を受ける、そして振り返って見たものは信じられない光景でも有った、普段からから目を掛けて副官を任せていた部下に刃を突き立てられたのだ、そう、この男には先日子供が出来たばかりなのに・・・。

  長年小競り合い程度の戦闘しか行われて来なかったディーラルで、セベラスの様な考えの男は限りなく減っていたのだ。

  口では賛同する者が多数では有ったが、実際に危機が迫ってみると自身の命を優先してしまったのだ、結果、恩義有るセベラスの排除が有効的と考え実行に移したのだ。

  ゴボフ分将 「副官殿は正直ですな、勝てる戦いを行うのは蛮勇というもの、無駄死にが国の為でも有りませぬぞ」

  ゴボフは勝ち誇った様に死に行くセベラスに説教を垂れる、そして戦う前に部下に殺められた男に侮蔑の眼差しを送る。

  そして、地位的にセベラスの次にあり、跡を継いだゴボフは改めて命を下す。

  ゴボフ分将 「セベラス将軍が亡くなった以上、将軍の命令は撤回する、今すぐ城門を開け放って使者を送るぞ、皆も命は惜しかろう」

  こうして、王都ディグランを護る最大の難関は呆気なく地の王に屈した、だが、セベラスに忠誠有る者はググノ城塞を抜け出し王都へと逃れて、王都を決戦の地として戦う覚悟を決める。

  ググノ城塞の陥落は直ぐに三天人にも伝えられていた、天人領に赴いた筈のゼノアの者が途中ググノ城塞で足留めをくらい、逃げた兵達と共に王都に舞い戻って来たのだ。

  ディセルトは直ぐに花園のダインへと強い思念を送って状況を伝え、イファタを加えた遊魔四人で対応を話し合う。

  ディセルト 「ダイン様の動きが無ければ、此処を放棄する事になるでしょうね、魔龍の力は命の危機が無い限り使うなと言われてますし、危険が迫れば逃げろとも言われてますから」

  ディーティル 「ですが勿体無いですね、ディグランは数ヶ月籠城出来るだけの兵糧もあり、何よりディーティルの権力の中心です、此処が落ちれば再び纏め上げるのが難しいですよ」

  ディーティエ 「それが解らないダイン様では無いでしょうが、戦力に差が有ります」

  ディセルト 「ですが、敵もググノ城塞への入場に時間が掛かっている様ですね」

  イファタ 「巨人魔導具は中に入れずに迂回させている様ですから、正面の跳ね橋は重量に耐えれないので使えないみたいです」

  巨人魔導具は隙間が多く完全な密閉では無い、その為人が用意出来る最も有効な対策は深い水堀で、水位が操宮の位置より高いと中の操縦者が溺れてしまう事になる。

  ディセルト 「セベラス将軍が抵抗してくれれば、時間が稼げたかもしれないので残念です」

  イファタ 「どうでしょう、ゼノアの者で無くても内通者は作れますから、弱味と欲には付け入る隙が生まれます」

  実際、セベラスを殺めた副官も弱味と欲を上手く用いられて凶行へと及んでいる、ラールカ陣営には人の心を操る事に長けた策士が多数存在しているのだ。

  ディーティル 「やはり信頼出来るのは遊魔ですよね」

  ディセルト 「その点は地の王より優れているとは思いますけど、相手の数が多過ぎます」

  ディセルトが大きな溜め息を吐くと場の遊魔達の顔が綻ぶ、イファタの周辺の空間が歪み最も信頼する魔力が溢れ出して来たのだ、そう、遊魔の首魁ダインが空間レイヤーを使った転移術でこの場に現れたのだ。

  ダイン 「状況が大きく動いた様ですね、ラールカはディセルトの召喚状に焦った様ですね」

  ディセルト 「確かに時期は一致しますが・・・」

  ダイン 「予想よりも巨人魔導具が少ないので、敵も完全な状態とは思えません、ディグランの制圧と掌握を考えるならば後五十機は欲しいところです」

  イファタ 「マギガマイナーの数も少ないとの話しです」

  ダイン 「なら、王都防衛の可能性も出て来ましたね、花園の方は順調で一日に三人は遊花を増やせるでしょう、現状で12いや13のクステーシャが投入出来ますからギリギリ間に合う様です、三天人も交代で花園に移りクステーシャの用意をして下さい」

  ディセルト 「王都の東西南北全ての城門に三機ずつ配置出来ますね」

  護りと聞いたディセルトは城門を護る事を重要視して答えたが、ダインの考えは違った。

  ダイン 「城門へは各一機でいいでしょう、クステーシャの大きさから考えると城内での戦いは制約が大き過ぎます、どうせ私達は何処からでも襲撃出来ますから」

  ディーティル 「まさか遊魔が空間レイヤーに巨人魔導具を格納してるなんて思いもしないでしょうね、クフィカール最大の強みは飛行による展開の柔軟さでしたが、ダイン様のやり方はそれを遥かにに上回ってます、遊魔単身であれば敵の懐にまで潜り込めますからね」

  ダイン 「そういえばキュカは上手く潜り込んだ様ですね」

  イファタ 「はい、地の王との交渉団の贈り物を運ぶ役に選ばれたそうです、キュカはあのまま戻ってませんので、クステーシャは展開出来ませんが・・・」

  ダイン 「いや、キュカが居る事で私が行けますから」

  ディセルト 「行かないで下さいね、ググノ城塞は敵の手中に落ちてますから、そういえば敵の名称が解りましたね、リデウム階層国と言うらしいです」

  ダイン 「地下に複数の階層を作るから階層国なんでしょうか?」

  ディセルト 「いえ、単純に身分階層を表す様ですね、十層以上が地の王を指すそうです、魔導機の操縦者は五層以上というそうです、三層以上に分類されるのが主に岩喰い種族で、岩喰い以外の国民は一、二層として扱われている様です、あと国民の中には魔族も存在している様ですね」

  ダイン 「既にザキトス魔族の一部を従えているという事ですか、リデウムの国土は思ったよりも広い様ですね」

  ディセルト 「キュカの報告では人間も確認されている様です、男一人だけらしいですからそれ程重要でも有りませんよね、処女なら使えるのに」

  ダイン 「確かにキュカの情報はちゃんと確認しておきましょう、そう言えば今日はペーテが来る予定でしたよね?」

  ディセルト 「何ら報告は受けていませんが、流石に中止でしょう王宮は荒れているとキュカの報告にも有りました」

  だが、噂をすれば影という諺はこのディーラル王国でも通用する様だ、耳長屋敷の呼び鈴が鳴って人の到来が知らされて、対応したディーティエからペーテが単身でやって来たという報告がなされたのだ。

  今は来客室に通して、待つ様に言っているらしいが、一国の王女に対して無礼な態度を取るわけにも行かない。

  ダイン 「会議は中断ですね、私とディーティエで対応しましょう、その前にディーティルを花園に送ります、クステーシャの再生を急いで下さい」

  ダインはディーティルの手を引いて抱き抱えると、直ぐに二人の姿が消える、そして1分もしないうちに今度はダインだけが現れる。

  ディセルト 「今のでティルを花園に送ったのですか、本当に凄い能力です」

  ダイン 「空間レイヤーは色々応用出来る能力ですから、実際に地の王と戦ったディーティルが加わってくれた方が戦いも有利になるでしょう」

  ディーティエ 「確かにそうですよね、ティルの戦闘経験が上手く活かせればそれだけでこちらが有利です」

  ダイン 「クステーシャは癖のある機体ですから、早く慣れて貰いたいですから、最も日々オハナ達が積み重ねた経験も参考に出来ますからディーティルなら上手く使えるでしょう、さて、私達はペーテの元に行きますよ」

  ディーティエ 「はい、でもちゃんと尻尾は隠して下さいね」

  耳長の姿に戻っているディーティエがダインに助言する、ダインの事だから失敗はしないだろうが、万が一をやりかねないのがダインだ。

  ダイン 「尻尾を出していた方が余分な手間が省けるかもしれませんよ」

  そのダインの返答でディーティエは直ぐに新しい妹が生まれる事を確信しながら、ダインを屋敷の客室へと導いて行く。

  おまけ

  ググノ城塞 ディーラル王都ディグランは大きな谷の中の中に有り、その南の扇状地に位置して防衛の中心がググノ城塞で有る。

  ディグラン防衛の為に複数の城塞が扇の端に作られているが、中央に位置して一番規模が大きいのがググノ城塞で有り、防御は勿論の事、他の城塞が攻められた時の為の援軍の出発地として兵士の収容数も多い。

  堀と城壁に囲まれたググノ城塞はディグラン城壁よりも堅牢で実質的にディグラン最後の防衛線ともいえ、人間同士の争いならばググノ城塞の陥落でディグランを開城するという取り決めが有るぐらいだ。

  だが、リデウム階層国は人間国家ではない為にこの取り決めは無効で、ディーラル側はディグランでの決戦を行う事となる。

  城塞を預かるセベラス将軍はディーラルでも名将と名高い人物で、ヒーソフ王も安心して防衛を担わせていたが、再び現れた巨人魔導機の前にはセベラスの築き上げた秩序も呆気なく崩壊し、司令官不在の状況で開城してしまった。