地固め編 第二十九話 熟練の騎士達

  004-029

  王宮闘技場は大小二つが存在して、第一会場が小さな闘技場、第二、第三会場は大きな楕円形闘技場を分割してお行われる事になっている。

  闘技場間の距離は近く、ティアス側三名とリボルト側三名の全ての騎士の姿が全ての通信盤に映し出されて、個人戦とは言っても仲間の存在は十分に感じられる。

  ラファメ 「勇者の二人とご一緒出来るとはとても栄光です、ティアス様の騎士に恥じない戦いをしたいと思います」

  リエル 「そう堅苦しく接しないで下さい、勝っても負けても戦いは楽しめとダイン様も言ってましたし」

  アーキア 「そうだよね、東方の騎士ってのが来てアキもワクワクしてるよ、アーグルの騎士だと歯応え無いしね」

  リボルト 「お二人の功名は人類圏中に広まってますから、私も同志を募るのが大変でしたよ、他国の騎士なども当たってみましたが負ける戦いなど望む騎士はいませんので」

  リエルとアーキアはリボルトとは面識がある、元々リボルト側として選定戦に望む為に召喚された人間だからだ。

  本来なら裏切った二人に対して邪険な態度で接してもおかしくない関係なのだが、以前と変わらぬ紳士的な態度だ。

  リエル 「私とアーキアの事を怒ってはいないのですか?」

  リボルト 「確かにお二人にも怒りは感じていましたが、己の未熟さの方が応えましたね、私はレボトに何もかも任せきりで、お二人に構う事などしませんでしたから、その点ダイン王とは直に剣を交えたとか、それを聞いて私も今回出場を決意したのです」

  リボルトは生真面目な事を言っているが、民衆に対するパフォーマンスで有る事は間違いない、伝え聞くリボルトの騎士としての実力は凡庸と言われているのだ。

  だが、リエルはダインの言葉を思い出してリボルトを見定めていた、ただの凡庸の騎士がムゥディ・フーティアを動かせるとは思えないとダインは懸念しており、リボルトかマギガント、又はその両方に何らかの仕掛けが有るかも知れない。

  リエル思考 『まぁムゥディは人類圏のマギガントですけどね、問題は対戦相手の方です、フーティアより細身で運動性に優れた物だと思われますけど、手持ちの剣の大きさを考えると膂力も強そうですね』

  リエルの対戦相手の東方マギガントの持つ剣は身の丈程の刀身を持つ大剣なのだが、それを難なく片手に持っている、人間ではとても不可能な芸当でそれはリエルの乗るフーティアでも同じ事だ、腕力では持ち上げる事は出来るかも知れないが、しっかりと握って保持する握力がフーティアには無いのだ。

  リエル 「ですが、その様な騎士がいるのならば、私達を召喚せずとも戦えたのでは無いですか」

  リボルト 「その辺りは今は明かせませんね、実は東方騎士の方々にお会いしたのは、私も今日が初めてなのです、実は名前もお聞きしていません」

  短髪の東方騎士 「そうでしたね、私共の自己紹介をしなくては、私はフィリッカ、今回の派遣隊の副隊長を拝命しております、そして、こちらがリーリエッテです」

  リーリエッテ 「紹介に預かったリーリエッテです、異世界から来訪された勇者様のお相手が出来るなど光栄です」

  リエルの対戦相手がフィリッカ、アーキアの対戦相手がリーリエッテという名前らしい、何方も耳長と言われる種族の様で、人間に比べて格段に耳が長い、二人とも防御力より衝撃吸収を目的とした綿入りの同じ革鎧を身につけており、これが東方騎士の戦装束なのだろう。

  フィリッカは髪を短めに切り揃えた活発そうな見た目で、タイプとしてはアーキアに近い様だ。

  もう一人のリーリエッテはおとなしいお嬢様の様な見た目と物腰で、騎士としてマギガントに乗っている事に違和感を感じてしまうが、フーティアより上級機に思えるマギガントを扱える限り相当な使い手と思われる、そして何より不思議なのはリーリエッテ機が手に持つ大斧で、肉厚な刃を片手では支えられずに両手でしっかりと抱えている。

  アーキア 「そういう人も居るって聞いてたけど、本当に耳が長いよね、長いとよく聞こえる物なの」

  いきなりの不躾な質問にリエルも閉口してしまうが、フィリッカは笑いながら応えてくれる。

  フィリッカ 「私共にはこれが普通ですから、ですが耳は良いと思います、機体の微かな軋みなども判断して戦っておりますから」

  アーキア 「ヘェ〜、アキはそんな事考えた事も無かったよ、マギガント動かすのも人それぞれなんだね」

  リボルト 「勇者アーキアは相変わらずですね、素直に物を尋ねられるところは羨ましく思います」

  アーキア 「簡単な事じゃん」

  リエル 「人を余り気にしないからですよ、耳の事だって秘密かも知れませんし」

  フィリッカ 「私はじろじろ見られるよりも尋ねられた方が楽ですよ、視線って気になりますから」

  アーキア 「ならもう一つ聞いちゃうけど、そんな大きな武器持って大丈なの、生身で使かえる武器じゃ無いと戦い難いよね」

  この何気ない情報収集もアーキアの取り柄の一つだ、直ぐに相手の懐に迫って聞き難い事でもズバズバ責めて行けるのだ。

  フィリッカ 「そうですね、これぐらいなら知られてもいいでしょう、生身の私達ではこの大きさの武器は使えませんが、これが使える程慣れているんですよ、何せ私達は皆さんよりも長命ですので、隊長のフィセーリアは魔王ザキトスとも戦っていますから」

  リエル 「それって三百年前の話しですよね、耳長とはそんなに長命な種族何ですか?」

  フィリッカ 「今回の派遣隊の人員は皆んな二百歳超えの熟練者ばかりです、頼られたからには手は抜けませんから」

  アーキア 「え、皆んな二百歳超えてるのに処女なの、耳長ってつまんない生き方してるよね、やっぱり最高の男性に愛して貰わないと」

  フィリッカ 「耳長は人間に比べて性欲が無いんですよ、耳長の娯楽は主に食事で賄ってますから、今回人類圏の争いに参加したのは新しい食の噂を聴きつけたから何ですよ」

  リエル 「なら、ダイン様に直接お願いした方が良かったのでは?」

  フィリッカ 「人類圏では戦いで物を得られると聞いてますから、ユーマ共栄国に勝つと色々貰えるんですよね」

  リエルはフィリッカの余りの能天気さに呆れていた、このお馬鹿な耳長達は嘘を教え込まれてリボルト側に味方しているのかも知れないのだ、その証拠に馬鹿な発言を聞いたリボルトは若干青ざめている気がする。

  リエル 「そうでも無いと思いますけど、確かにリボルト王子が王位に着けば融通されるでしょうが、噂の食事を生産しているのは私達ユーマ共栄国ですから」

  フィリッカ 「そうだったんですか、でも既に報酬は貰ってますから、契約の履行は東方大陸じゃ絶対なんですよ」

  リエルは呆れ返ってしまったが、内心はホッとしていた、魔族と戦った三百年前の様に遊魔を滅ぼす意図が余り感じれ無かったからだ、むしろこのお馬鹿さん達はユーマ共栄国の中枢がかつて戦った魔族ととても近い存在で有る事さえ知らないと思える。

  リエル 「なら、私も手加減しませんよ、ユーマの強さを思い知らせて上げます」

  フィリッカ 「それは楽しみです、騎士歴二百年の貫禄をお見せしますよ」

  リボルト 「お二人共戦意が溢れてますね、戦いが大いに盛り上がればそれで決まった王にも多くの民衆の支持が得られるでしょう」

  リエル思考 『まぁ真に受ける振りですけどね、ですが余り殺伐とした戦いになる事をダイン様も望んでいませんから』

  こうして、耳長参戦の表向きの理由を得たリエルは上機嫌で有った、食事が目的と言い張るからにはユーマが招待する食事会を無下に断る事は出来ないだろう、それは食事に何かを盛って家族を増やしてきた遊魔にとって好都合な事なのだ。

  一方、郊外に設営された第四、第五会場では双方の勢力が交友を深める事など全く無かった、真夏とファービの通信盤にはまだお互いしか映されていなく、ダイン達の方も概ね同じ状況なのだが、ダインの乗機のビグ・ユーマだけは状況が異なっていた。

  ビグ・ユーマの持つ高性能通信盤は第四、第五会場に居る全てのマギガントの騎士の状況を通信盤に映し出しており、東方騎士達は気付かぬ内に情報を盗み取られていた。

  フィセーリア 「やはりあの巨大な浮遊船には十分警戒して下さい、先程私が近付いた時には筒の先がこちらを向いていましたので」

  弓のマギガントの騎士1 「筒の先ですか、吹き矢の様な武器という事でしょうか」

  弓のマギガントの騎士2 「吹き矢かぁ、でもあんな物じゃ大した威力はないですよね、こちらの長弓の遠距離攻撃範囲よりも長い訳無いですよ」

  耳長は見た目がエルフっぽいだけでは無く、弓を得意としている様だ、第五会場に参戦するマギガントの内三機に長弓が装備され、人間ではあり得ない程の大きな矢筒を装備している。

  弓のマギガントの騎士3 「セセカもリッピーも油断してはいけませんよ、異世界人というだけで何をしてくるか解りません、それに聞いた話によると異世界人は腐った豆を食べるらしいから」

  フィセーリア 「でも、それで美味しい料理を作る様ですよ、それに腐った物さえ利用する抜目の無い連中って事ですよ」

  盗み聞きをしているダインは会話の内容にほくそ笑んでしまう、発酵を知らない食文化圏の生物が自分に敵対して、侮っているのだ。

  だが、その思考が自身にも危うい事を感じ取って盗聴に力を入れるのだが、ティアスの問い掛けによって中断されてしまう、ビグ・ユーマの盗聴能力についてはティアスにも知らせていないのだ。

  ティアス 「相手のマギガントがこちらよりも器用なのは間違い無さそうです、フーティアでもあの強弓は使えそうに有りませんから、遠距離戦で優位に立たれるのは厳しいですね」

  ダイン 「その点に関しては大丈夫だと思いますよ、ティアスは実際見ていないですが、銃器は弓を戦場から駆逐した武器なんですよ、相手の射撃担当は三機の様ですがこちらは四機です、それにビグ・ユーマの遠距離戦能力はロゥディの三機よりも遥かに上ですから」

  ティアス 「頼もしいお言葉ですね」

  ダイン 「ですが、勝敗を決めるのはティアスです、ティアスのポナリアの背が地に着くと敗北ですからね」

  ティアス 「でも、秘策が有るじゃ無いですか」

  ダイン 「初撃で狙って来るかも知れませんし、威力も想定出来ません、何せ矢の質量は大きい様ですので直ぐに私の影に入って下さい、ビグ・ユーマの巨体を城として活用するわけです」

  ティアス 「ダイン様に護って貰えるのは心強いです」

  ダイン 「いや、初撃だけですよ、東方マギガントの天翔る処女は小型化している様で、空中からの射撃も有るでしょうから、もっとも遮蔽を捨てる事になりますがね」

  ティアス 「通常の人類圏の戦いなら圧倒的でしょうけど、ユーマは違いますからね」

  ダイン 「いや、保険で開発を急がせた事が吉と出た様です、優位さに自惚れていたなら苦戦は必至だったでしょう、イーヴィエ、スルーム、エルルリーカも私を盾にして下さい、女性を護るのが男の役目ですから」

  エルルリーカ 「王を護のが騎士の役目ですが」

  ダイン 「騎士の役目よりも遊魔の理が優先されます、それに護るべきはティアスですから、私に変な忠誠を示すよりもティアスを護って上げて下さい」

  イーヴィエ 「王命として心得ました、ですがユーマ騎士としては力を示したいモノです」

  ダイン 「相手を倒せば褒美を与えますよ、そうですね、相手の機体を破壊してくれると有り難いですね、破壊された機体は容易に移動出来ませんから」

  スルーム 「確かにあの機体の能力は興味有ります、テガスで待つムジカのおみあげになりますよ」

  ダイン 「同じ日に姉妹に成った三人は役割が異なっても通じていますね」

  イーヴィエ 「はい、イー達は三人で三狸ですから、ナナ姉様達を見習わないと」

  ダイン 「いや、アレは中心のマナが頑張っているからですよ、ナナとファナの関係は未だに微妙です」

  ティアス 「ですから第四会場は二人なんですね」

  ダイン 「はい、私に出会う前からのペアですから」

  ダインが昔を思い出して少し遠い目をしている、七実の親友真夏の脅威がダインに拡大路線に向かわせた大きな要因だからだ、だが、今や遊魔は完全に狩る側となって人類圏での生活を謳歌している訳だが、新たな脅威とも言える東方勢力の出現はダインにあの頃の事を思い出させる原因ともなった様だ。

  そして、いよいよククジア時期国王を決める選定戦が始まりの時を迎えた、王都に響き渡った銅鑼がその合図で、東方騎士達は空に舞い上がって遊魔達を視界に捉える。

  おまけ

  クフィカール 耳長が協定戦に持ち込んだマギガント、確認された九機全機が同型の機体に見えるが、実はかなりの個体差が存在する。

  クフィカールはフレームと駆動力の組み合わせを変える事で搭乗者に合わせた調整を施しており、最軽量の基本フレームに補強板を追加する事で耐久性を向上させる仕組みになっている、駆動力も瞬発力が高い物や筋力に優れた物などが有り個々の乗り手の扱い易い様に繊細な調整がなされている。

  クフィカールは人類圏で作られたマギガントの祖ともいえる機体で、ザキトス戦役時に人類側に貸し出された機体がゾゥティ開発の参考にされている。(フレームと駆動力を使った巨人兵器というぐらいで、根本的にはコピーですらない)

  クフィカールは数百年に渡って同じ規格に沿って製造が続けられており、ザキトス戦役時に使われた機体も部品の交換が行われながら現役である、因みにフィセーリアの機体はザキトス戦役時でも使われた機体でもある。