第3章:絡みつくハプニングと、暴走(発情?)するエルフ(115歳)

  「ひゃうっ!? い、いやぁっ! そこ、入り込まないでぇぇっ!!」

  森の中に、絹を裂くような——いや、やけに色っぽい悲鳴が響き渡った。

  「セリア! 暴れるな、余計に締まるぞ!」

  翌日。宿代を稼ぐために俺たちが受注したのは、街から少し離れた『絡み蔦(からみづた)』が群生する森の伐採クエストだった。

  報酬はそこそこ良いが、この蔦、厄介な性質を持っている。

  ただの植物ではなく、微弱な魔力を帯びた魔物の一種であり……獲物が暴れるほど強く締め付け、防具の隙間に入り込んで「くすぐる」ように体力を奪う、非常にいやらしい習性があった。

  案の定というか、セリアが群生している絡み蔦の根を踏み、空中に逆さ吊りにされていた。

  そして今、ウネウネと蠢く深緑色の蔦が、彼女の露出度の高い『呪いのビキニアーマー』のわずかな隙間、柔らかい太ももや脇腹、あまつさえ胸の谷間にまで入り込もうとしているのだ。

  「ああっ……んんっ、だ、だめぇ! タイチさん、助けっ、ひゃんっ!」

  「だから! 今助けるって——うおっ!?」

  地上から剣で蔦を斬り落とそうと飛び掛かった俺だったが、蔦の反撃(カウンター処理)は予想以上に速かった。

  地面から飛び出した別の蔦が俺の足首に巻き付き、そのまま空中に引き揚げられる。

  「うわあああっ!」

  ガツンッ、と空中で柔らかな物体に激突した。

  見れば、逆さ吊りになったセリアと、同じく縛り上げられた俺が、空中でがっちりと『密着』させられている。

  しかも、蔦の締め付けがキツいせいで、俺の顔は彼女の豊満な胸元にほとんど埋まるような形になり、お互いの体温や吐息がダイレクトに伝わってきた。

  (……なんというご褒美! いや、違う、そういう場合じゃない!)

  「ひゃぁっ、タイチ、さんっ……近、近いです……っ」

  「すまん! でも身動きが……っ」

  俺の顔が押し付けられているせいで、セリアは顔を真っ赤にして涙目で身をよじっている。

  それがまた蔦を刺激し、さらに強く俺たちを拘束し、より密着度が高まるという無限ループに陥っていた。

  このままでは体力を奪われ続けてゲームオーバー、過労死ならぬ緊縛死だ。

  「ええい、ならこいつでデバッグだ! 【バックエンド・アイ】!」

  俺は必死の思いで首だけを動かし、俺たちを縛り上げる絡み蔦のメインシステム(根幹部分)を視界に収めた。

  ホログラムのコードが空中に展開される。

  【Target】 絡み蔦の魔窟(触手ネットワーク)

  【Status】 外部からの物理攻撃耐性:強。

  【Bug/Vulnerability】 神経系(魔力伝導管)への過負荷入力に対する耐性が備わっていない。一定量以上のマナを流し込むことで、神経系(ワイヤー回路)をショートさせることが可能。

  要するに、パソコンのUSBポートに規格外の高電圧を流し込んでマザーボードごと焼き切るような『過負荷(オーバーロード)』攻撃が有効ということだ。

  だが、俺一人の魔力では足りない。

  「セリア! 君の体を媒介にさせてもらうぞ!」

  「えっ、でも、私今動けな……ひゃうっ!?」

  俺は蔦に縛られた状態のまま、何とか動く右手を伸ばし、セリアの素肌——ビキニアーマーが覆っていない、すべすべの太ももにガシッと触れた。

  『Connection Established (Rate: 200%)』

  「あぁぁっ……! ま、またあの熱いのが……入ってき、ましゅぅぅっ!」

  俺の手を通じて、【マナ・テザリング】により極限まで高められた魔力がセリアの体へと流れ込み、そして彼女の体から漏れ出した過剰なマナが、直接蔦へと流れ込んでいく。

  バチバチッ! バチィィィンッ!

  「いくぞ! オーバーロード(過大入力)だ!!」

  破裂音をそこかしこで上げながら、俺たちを縛り上げていた絡み蔦のネットワークが、内側から魔力許容量を超えてショートし、一斉に弾け飛んでいく。

  「きゃあああっ!」

  「うおっ!」

  空中で拘束を解かれた俺たちは、重力に従って地面へと落下する。

  俺はとっさに空中で体を捻り、セリアを下敷きにしないよう、自分がクッションになるようにしてドサッと地面に転がった。

  「いっつ……」

  「た、タイチさん! 大丈夫ですか!?」

  「ああ、なんとか……。君こそ、変なところ触られたりしなかったか?」

  「そ、それは……」

  セリアは顔を真っ赤にして、両手で自分の顔を覆い隠してしまった。

  耳の先まで真っ赤になっている。

  「その……タイチさんに、あんな声聞かれちゃって……私、もうお嫁にいけません……」

  (よし、わかった。責任取って俺が嫁に貰おう!)

  心の中で盛大なガッツポーズをキメた俺だったが、口には出さず、「冒険者ならよくあることだから気にすんな」と頭を撫でてやるだけにとどめた。

  この世界はまだまだ広いのだ。俺の絶対に働かないハーレムライフは、まだ一歩を踏み出したばかりである。

  ◆ ◆ ◆

  「ふぅ、なんとか無事に報酬を受け取れたな」

  「は、はい……。なんだか、すごく疲れました……色々な意味で」

  クエストを終え、俺とセリアは冒険者ギルドへと帰還していた。

  ギルド内は相変わらず荒くれ者たちがジョッキを傾け、ワイワイと賑わっている。

  見た目は相当にワイルドなのが揃ってるが、気はいい頼れる連中だ。

  クエストの報告を済ませた後、空いているテーブルに腰を下ろし、俺たちはホッと一息ついていた。

  セリアはまだ蔦の感触や、空中で密着したこと(そして、俺に太ももを撫で回されたこと)を思い出してドギマギしているらしく、俺の顔を直視できずにモジモジとジュースのグラスを弄っている。

  うん、可愛い。

  そんな甘酸っぱい空気が流れていた、次の瞬間だった。

  バンッ!!!

  ギルドの重厚な木製扉が、爆発でもしたかのような勢いで蹴り開けられた。

  ギルド内の荒くれ者たちが一斉にそちらを振り向く。

  そこに立っていたのは——。

  「はぁ……はぁ……だ、誰か……水……」

  緑のセミロングヘアを持ち、耳が長く尖った——まさにファンタジーの王道を行くエルフの美女だった。

  だが、そのプロポーションはエルフ特有のスレンダーな体型というデフォルト設定を完全に覆していた。ゆったりとした魔法使いのローブの上からでもはっきりとわかる規格外の膨らみは、控えめに言ってもEカップはある。

  そして何より、彼女の様子は明らかにおかしかった。

  全身が異常なまでの熱を発しており、周囲の空気がカゲロウのように歪んでいるのがわかる。色白なはずの肌は首筋から耳の先まで真っ赤に火照り、潤んだ瞳は焦点が定まっていない。

  ドサッ。

  彼女はそのまま力尽きたように、豊満な胸を揺らしてギルドの床に崩れ落ちた。

  「おい、どうしたお嬢ちゃん!」

  「熱っ!? なんだこいつ、体が燃えるように熱いぞ!」

  助け起こそうと触れた冒険者が、あまりの熱さに手を引っ込める。

  俺は直感した。あれはただの風邪や病気じゃない。

  「セリア、ここで待っててくれ。嫌な予感がする」

  「えっ? タイチさん!」

  俺は席を立ち、エルフのもとへと駆け寄った。

  そして、すかさず【バックエンド・アイ】を発動させる。

  【Target】 エルフェリア・ス・フィーナ・ヴィルヘルミナ

  【Race】 エルフ(高位魔法使い / Age:115)

  【Status】 魔力暴走寸前(Critical Error)

  【Condition】 持病:『魔力酔い』。体内のマナ生成量が排出量を上回り、熱暴走(メモリリーク)を起こす特異体質。現状、脳の許容量を超えてマナが蓄積し、意識混濁および深刻な発情・過敏状態を引き起こしている。放置すれば3分以内に自爆(クラッシュ)の危険あり。

  (……発情・過敏状態で熱暴走!? なんて危ないエラーコード抱えて生きてんだよこの女は!!

  ていうか名前! エルフェリア・ス・フィーナ・ヴィル……長ぇよ!!)

  ツッコミを入れている場合ではない。

  3分以内に自爆するとなれば、俺たちどころかこのギルド全体、下手すれば街の一部が吹き飛ぶレベルの魔力だ。

  「おいあんたら、離れろ! 火傷どころじゃ済まなくなるぞ!」

  「あ、兄ちゃん、こいつ一体どうしたんだよ!」

  「体内の魔力回路がショート寸前なんだ! 俺が圧抜き(デバッグ)をする! ええと、エルフェリア・ス……ふぃ、ふぃにゃ……痛ってぇ!?」

  焦りすぎて、見事に舌を噛んだ。

  ええい、フルネームでのコールは諦めよう! 一番短くて呼びやすいミドルネームでいい!

  「おい、フィーナ! 今から緊急処置をするぞ!」

  「……ぁんっ? え? なんで私の名前……? ふぃ、フィーナって、呼ばない、で……っ。そんな子どもの名前みたいな……はぁっ、んんっ……」

  「文句は後だ! このままだと爆発(クラッシュ)するぞ!」

  野次馬を押し退け、俺は意を決して、倒れ伏している彼女——フィーナの体を抱き起こした。

  ローブ越しでも、アイロンに触れたような熱さと、エルフらしからぬ豊かな胸の感触がダイレクトに伝わってくる。微弱な息遣いには熱がこもり、時折ピクッと痙攣するように身をよじっていた。

  苦しいというよりは、あまりの熱さと敏感な感覚のせいで、快感を堪えているような、非常にセンシティブな顔だ。

  俺は彼女の背中と、ローブの隙間から魔力の中枢である『おへそ』のあたりに直接手を差し込み、叫んだ。

  「【マナ・テザリング】! 俺の波長を完全に同調させろ! 俺自身をアース(安全弁)として、こいつの魔力を全部吸い上げる!!」

  『Connection Established (Rate: 100%)』

  「——あっ!? ひぃぃぃっ!?」

  俺と密着し、魔力回路が直接繋がった瞬間。

  フィーナの口から、雷に打たれたような、甲高く、そしてひどく甘ったるい悲鳴が上がった。

  回路を共有して魔力を吸い上げるという行為は、彼女の内側(バックエンド)の最も無防備で敏感な部分を、ダイレクトに弄り回すようなものだ。

  ただでさえ「異常発情・過敏状態」にあった彼女の体は、他者のマナが入り込んできた感覚に強烈な反応を示してしまったのである。

  『Connection Established (Rate: 150%)』

  「ああっ! んんっ! やぁっ! そ、そんなに急に、たくさんっ……! 早く(手を)抜いてっ!! いやダメっ! 抜かないでぇぇっ!!」

  ギルドという静まり返った(みんな呆然としている)空間に、エルフの美少女のとてもアウトな嬌声が響き渡る。

  俺は顔を真っ赤にしながら、必死に彼女の体内の膨大な魔力を吸い上げ、自分の回路を通して空気中に安全に放出(パージ)していく。

  「我慢しろ! この異常なメモリリークを直さないと、お前、吹っ飛ぶぞ!」

  「ふひゃあっ! で、でもぉっ! あんっ、そこ、お腹の奥……っ、お腹の奥が変な感じするのぉぉぉっ!!」

  『Connection Established (Rate: 200%)』

  「あ、あひぃっ! いやああ……、もう堪忍してぇ……早く終わってぇっ!!!!」

  ビクンビクンと激しく痙攣し、豊かな胸を押し付けながら、フィーナは俺の腕の中で快感(?)に身悶えし続ける。

  遠巻きに見張る冒険者たちの目が、「あいつら、真昼間のギルドの床で何やってんだ……」というドン引きした視線に変わっていくのを感じた。

  (ちくしょう! どうして俺のチートスキルは、毎回毎回こうセンシティブな絵面の大惨事を引き起こす設計になってるんだよ!!)

  心底このチート能力の開発者を呪いながらも、俺はエンジニアの誇りにかけて、彼女の暴走する魔力回路のデバッグを完了させたのだった。

  ◆ ◆ ◆

  「…………」

  数十分後。

  魔力の暴走が収まり、完全な冷却状態(クールダウン)へと移行したフィーナ。

  彼女はギルドの長椅子にちょこんと座り、俯いたまま小刻みに震えていた。

  顔は真っ赤を通り越して熟したトマトのようであり、そのとがった長い耳の先までが羞恥心で真っ赤に染まっている。

  向かいの席に座る俺と、その後ろでなぜか少しむくれた顔をしているセリア。

  「えっと……フィーナ、ど、どうだ、体調の方は?」

  「…………最低」

  消え入りそうな声で、しかしはっきりとした怒気をはらんで彼女は呟いた。

  「えっ」

  「こんっ、のぉぉぉぉぉぉぉっ!! バカ! アホ! ド変態! 最低男ぉぉぉぉっ!!」

  突如として爆発したように立ち上がり、フィーナが俺に向かって杖を振り回してきた。年齢は115歳(人間で言えば成人女性)のはずだが、完全に癇癪を起こした子どものようだ。

  「わっ!? ちょっ、まっ! 落ち着けよっ!」

  「あ、あんなっ……たくさんの人の前でっ!! 私にあんな、みっともない声を出させてぇぇぇっ!! エルフの誇りは丸潰れよ! どうしてくれるのよぉっ!」

  涙目でポカポカと叩いてくるフィーナ。痛くはないが、なんというか、可愛い。

  だが、俺は気づいていた。

  彼女の怒りは半分が羞恥心からくるものであり、もう半分は——彼女の体質的な問題だ。

  「なあ、フィーナ。その『魔力酔い』って持病、今回が初めてじゃないだろ?」

  「……っ!」

  図星を突かれたのか、フィーナの動きがピタッと止まる。

  「お前の魔力回路は、根本的にマナの生成と排出のバランス(アーキテクチャ)が狂ってる。定期的に俺みたいな『アース(排出口)』に繋いでメンテナンスしないと、また暴走するぞ」

  「そ、それは……わかってるわよ。でも、私の波長に完全に同調できる魔法使いなんて……世界中探しても全然見つからなくて……」

  「ここにいるぞ。俺の【マナ・テザリング】なら、いつでも一瞬でお前の暴走をデバッグしてやれる」

  俺が親指でドンと自分の胸を叩くと、フィーナは驚いたように顔を上げ、そして再び顔を真っ赤にして視線を逸らした。

  「べ、別にあなたに触ってほしいわけじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!」

  「(あ、すげえ、ツンデレだ。本物初めて見た。)誰もそんなこと言ってないけどな」

  「う、うるさいっ! とにかく! あんな恥ずかしい目に遭わされたんだから、責任取ってもらうわよ! 私のそばに常駐して、いつでもメンテナンスしなさい!」

  見事なまでの照れ隠し、ツンデレコードの実行である。

  俺は思わず苦笑し、横にいたセリアと顔を見合わせた。

  「あー……セリア。そういうわけで、パーティメンバーがもう一人増えそうなんだが」

  「むー。タイチさんのお人好し……でも、彼女がすごく困ってたのは本当みたいですしね。仕方ないですね!」

  セリアがプイッとそっぽを向く。あれ? 何怒ってんだこいつ。

  かくして。

  世間知らずの家出貴族のポンコツ剣士・セリアに加え。

  定期的に俺と密着スキンシップ(メンテナンス)をしないと爆発してしまう、ツンデレエルフの有能魔法使い・フィーナ。

  俺の異世界での『絶対に働かない(女の子のお世話はする)ラブコメ・スローライフ』は、ますます賑やかさ(騒々しさ)を増して、加速していくのだった。