ウテナが目を覚ますと、隣からテンポの良い呼吸が聞こえる。音の方を向けば、愛する夫が瞼を閉じていた。
ウテナがウィルと夫婦になってからはや1年。こうして起きるたびにウィルの寝顔を見る回数が増えた。基本はウテナが起きると寝顔を満喫していたウィルがキスを落としてくるのだったが、最近はウテナがウィルの寝顔を満喫するようになった。
「む…?」
モゾっと動いてウィルが目を開け、ウテナと目が合う。すると、ウィルの顔がふにゃりと歪み、寝起きの笑顔が現れた。
「おはよう、ウィル。」
「おはよう、ウテナ。」
ウィルの手がウテナの頭に回されて引き寄せられ、キスされる。唇が離れたと思ったら再び引き寄せられ、それが何回か続く。
「っ、ウィル?」
「まだ朝は早い。こちらへおいで。」
「…しょうがないなぁ。」
ウテナが苦笑いをしながら布団に潜り込むと、ウィルがさらに引き寄せてキスを繰り返す。こうしてウテナはウィルの愛に応え、昼まで寝てしまった。
「みんなおかしいでしょ!ここは水色が1番よ!」
「いやいや、番様の雰囲気から見れば柔らかな緑でしょう。」
「私としては黄色が似合うと思うのだけど。番様の笑顔は明るいからね。」
「僭越ながら自分は赤が似合うと思うのだが…。」
ウィルとウテナの部屋に入って言い合いをしているのは四龍たちだ。ウィルに追い出されてから、再び入室の許可をもらってきたのだが、今日はウテナのために服をプレゼントしてくれるのだという。しかし、そこで問題が起こった。
「じゃあ、みんなから1着がプレゼントされるんだね。ありがとう!」
ウテナが笑顔で言った。そう、四龍たちはウテナに着たい服はどんな型なのか、何色がいいのか、と聞きたかったのだが、ウテナにこう言われてしまってはこちらで決めなくてはならない。しかも、四龍たちから1着を贈るのだと。たしかにその予定だったが、型から色までこちらで決めるとなると、やはり勃発する。自分の色をつけたい欲の争いが。
「ダレス、そんなに遠慮していると誰も賛同しませんよ!もっと主張しないと!」
「そんなアドバイスしないでよ、ジューク!ダレスまで強くきちゃったら決まんなくなるじゃない!」
「そうよ。ただでさえ1着ってなってるのに…。もうこうなったら力で勝負しない?言い合うよりやっぱり龍としてやり合いましょうよ。」
「いや、俺は…。」
「いいわね!」
「望むところですよ。」
マリルの提案にリネとジュークが乗る。ダレスは何か言いかけたが2人に遮られてしまって言えない。
「騒がしい。」
今にも龍になろうとしていた3人とオロオロしていた1人が、ウテナを膝の上に抱えているウィルを見る。
「まだ決まらんのか?そもそもどう決める予定だったのだ。黄龍、力で決めようとするな。青龍、主張を押し付けるな。緑龍、穏やかそうな顔の裏が表れているぞ。赤龍、言いたいことがあれば言え。まず我が妻を困らせるな。」
言いながらウテナの髪を梳き続ける。四龍たちは慌てて跪き、謝罪した。
「申し訳ございません。…恐れながら、我々は番様にどのようなご衣装が良いのかをお聞きした上で贈らせて頂こうと思っておりました。しかしながら、番様が我々が選んだご衣装が良いとおっしゃいますので決めかねていた所存にございます。」
「え!それはごめんなさい。私が勝手に思い込んでしまったのがいけなかったのね。」
今まで鏡を覗き込んでいたウテナがびっくりして鏡から目を離す。今日四龍たちが来た時、黄龍から「本日も美しい黄金色の瞳ですね」と言われて鏡を覗いて、自分の瞳が金色に変わっていることを知ったのだ。驚きでしばらく眺めていたウテナに、ウィルは「白髪から覗く桃色の瞳も愛らしかったが、私と同じになったこの瞳の色を見るだけで嬉しくなる」と言われて朝から絆されていた。実は、ウィルと体を重ねた時に色が変わったのだという。
「私が選んでいいの?」
ウテナが伺うように彼らを見ると、四龍たちはにこやかに微笑んだ。
「もちろんでございます。番様の好みにそったご衣装を私どもから贈ることができるのは最上の喜びでございます。」
「そう?じゃあ考えるね。えっとー…。」
ウテナが真剣に考える様子を四龍たちは待っている。ウィルはそんなウテナの様子もたまらないというようにウテナを見つめる。じふと、ウテナがウィルを見て言った。
「ウィルはどんなのが私に似合うと思う?」
「私が決めて良いのか?」
「うん。ウィルに喜んでもらいたいから。」
ウィルは目を開いて、しかしすぐに柔らかな笑みを広げた。
「そうだな。私はウテナの好みを知らぬ。ウテナが決めた色や形を知りたいと思うのだ。ウテナが決めてくれぬか?」
「そっか、わかった。じゃあ…。」
ウテナが色や形を言っていくと、四龍たちは手を器用に動かして空中で望み通りの衣装を作り上げた。
「番様、こちらでよろしいでしょうか。」
手に取ったウテナは驚きが顔いっぱいに溢れている。
「私の想像以上の服だよ。ありがとう!」
「なるほど。ウテナはこのようなのが好みなのだな。早速きてくれぬか?見てみたい。」
わかったと言って出て行くウテナを見送った5人は、顔を見合わせる。
「どうだ、我が番はきっと綺麗に見えるだろう。」
「ええ、おっしゃる通りです。」
「龍神様、私からもう一つ贈り物を。」
「む?」
青龍が空中から小さな包みを出してウィルに渡す。
「閨の時にお使いください。番様は恥ずかしがられるかもしれませんけど、龍神様がお気に召せばきっとお召しになりましょう。」
「?ふむ…。」
「龍神様、私からも。」
そう言って黄龍が小さな箱を。緑龍が黄龍の箱より少し大きめのものを。赤龍が縦長の包みを、それぞれ渡した。
「きっと、より一層のお二人の仲が深まることでしょう。」
「其方たちが言うのなら、受け取っておこう。」
そこに着替え終わったウテナがくる。
「どうかな、変なところとかない?」
「どんでもございません!番様によくお似合いのご衣装でございます!」
「まるで天使が降りてきたかのようですわ。」
「さすがは番様!これで龍神様も惚れ惚れよ!」
「番様の美しさがより一層際立っております。」
四龍たちがそれぞれ褒める中、ウィルは黙ってウテナを凝視していた。その様子にウテナがウィルに声をかける。
「ウィル、どうしたの?…似合わない、かな?」
「違う!違うぞ、ウテナ!」
ウィルは我に帰って即否定した。次には目を細めてウテナを抱きしめる。ウィルは視界の端で四龍たちを一瞥した。
「今日はもう良い。去れ。」
四龍たちは頭を下げて後ろを向き、竜の姿になって飛び立って行く。音も聞こえなくなり、彼らの姿も見えなくなったころ、ウィルが囁くように言った。
「…こんなに綺麗に見えるなど知らなかった。思わず奴らを風で追い払ってしまうところだった。よく似合っている、ウテナ。」
それを聞いたウテナの頬に熱がこもる。しかし、ウテナは歯に噛みながらウィルに感謝した。
「ありがとう。…え?ちょっと、ウィル?」
ウィルがウテナを横抱きにして歩き始め、浴室に着くと手を一振りして2人の衣服を剥がし、そのまま浴室に浸かった。
「えっと、ウィル?」
「綺麗だからもっとみていたいのだが、私の感情が抑えられん。まだ早いが寝室へ行こう、ウテナ。奴らが他にも贈り物をくれた。閨の時に使うらしい。」
「そうなの?何だろうね…。」
ウテナを抱きしめたまま体を清め、今度は寝室へ行く。ウテナを下ろしたウィルは四龍たちからのプレゼントを開けてみた。
「青龍からは、ナイトウェアか?黄龍からは液体だ。緑龍は糸が入っているな。赤龍は香水か?」
それから何が起こったかは想像つくだろう。初めてのものに慣れない2人だが、使い方がわかればあとは速かった。ウテナのナイトウェア姿に興奮したウィルが襲い、赤龍からの香水は身にまとうとお互い甘い匂いに蕩け、黄龍の液体は媚薬だったので、薬が切れるまでお互いにお互いを求め合ったーーーその効果は1日ではなく、3日ほど続いたという。
ちなみに、緑龍からの糸は普通にソーイングセットだった。曰く、「彼らはお二人のことを考えると思うので、新しくいらっしゃった番様への歓迎として贈り物を用意したのですよ。」ということだ。