出兵して獣化して帰ってきた旦那様と三年越しのいちゃラブセックスする話

  この話はカクヨムにて投稿した『最果てより、愛をこめて。』の続きのR18話です。

  本編を読まなくても「セックスを義務で耐えるものと思っている子が、狼耳しっぽ付きの渋顔イケメン貴族の旦那様(絶倫)にこってり溺愛される夜♡」として読めるとは思いますが、この二人のこれまではこちらから→[[jumpuri:最果てより、愛をこめて。 > https://kakuyomu.jp/works/2912051596837379332]]

  ――――――――――

  あらすじ

  舞台は錬金術あり魔法なしのナーロッパ風異世界。

  エルドリアス王国最北。山の中腹にあって冬は下界と一切のやり取りができなくなるヴァルデリウス男爵領。

  貧乏男爵同士で政略結婚した2人はそのまま義務淡白初夜を終える。

  特に仲良くなることもなく戦争が始まり、ジュリアンは出兵していった。

  離れた2人は文通を開始。そこでなんだかんだあり思いを通じ合わせ、手紙の上ではあるが「アナ」「リアン様」と呼び合う仲に。

  戦争が激化。なんだかんだあってジュリアンの体には狼耳と尻尾が生えて、素手で鉄を裂くような人間離れした力を得る。

  直接的な戦火は届かない北の地でも、アナスタシアは飢える領民となんやかんやありつつ最小限の犠牲で領地運営を続ける。

  終戦後。ジュリアンはメンタルボロボロで領地に帰ってきて心を閉ざす。けれどこれまたなんだかんだあってアナスタシアと両思い♡だと通じ合う。

  この度3年ぶりにセックスをすることに ←いまココ!!

  登場人物

  アナスタシア・ヴァルデリウス(アナ)

  主人公。真面目で一生懸命。社交嫌いの内気な令嬢。

  三年間の極貧領地を守り抜いた芯の強い女性。

  愛する夫との触れ合いに素直に喜んでみせるほど屈託のない性格だが、性知識は生物学寄りな覚え方をしてて、夜伽は大切な仕事の一つと思っている。

  ジュリアン・ヴァルデリウス(リアン)

  旦那様。顔つきは険しいが優しくて誠実。三年前は妻を気遣い、あえて淡白に抱いた。

  改造手術の副作用で、本人も知らない絶倫体質になっている。

  理性では大事にしたいと思っている。今はまだ。

  なーろっぱ(19世紀)価値観の、セックスとは耐えるもの。というアナスタシアの価値観とジュリアンの肉欲との隙間でうだうだと話し合いをして、緊張をほぐすシーンは約8200字あります。

  エッチなことが始まるのは[jump:2]

  ♡

  「………、」

  夜。わたしは旦那様の部屋の前にいた。

  燃料節約のために冷え切った暗い廊下。薄衣の上に羽織ったショールを握りしめ、足早にここまで来て……。

  扉を叩く前に、もう一度頷く。

  ――頑張らなくては。

  

  夜伽は貴族にとってとても大事な仕事だ。未来のヴァルデリウスを担う次の世代をきちんと育て上げるための、最初の一歩。

  三年前に数回経験して、いずれも最後までしていただいたのに身ごもることが出来なかった。

  今回こそは……しっかりと旦那様を受け止めて、自分の責務を全うしなければ。

  ……それに。と、わたしは心に満ちるこそばゆい気持ちを、胸に手を当てて抱きしめる。

  想いを確かめ合ったわたし達の仲は――この極寒のヴァルデリウスが溶け落ちんばかりの仲睦まじさだと、はしたない自覚があった。

  子爵夫人として、我を出して子供のように甘えに行くなど決して許されることではないのだけれど。それでも毎日毎日、背の高いお姿が見えるだけで嬉しくて仕方がなくて、隙あらば傍に寄ってしまうのだ。

  少し離れていても隣に立てば、外であろうと外套の中からすぐに温かい手が伸びてきて、わたしの手袋に包まれた手を握り締めてくださる。

  それが心から嬉しくて幸せで――マナーとしては後ろに控えていなければいけないのに、隙あらば、誰も見てなさそうであれば――どうにも衝動を抑えられない。

  

  そんな寛大な旦那様に……今夜すべて終わった後、わたしはお願いしてみたいことがあった。『きっと叶えてくださるだろう』という予感が、まだ何一つ進んでいないのに、温かく体中を巡っている。

  はぁ。と興奮を落ち着かせるための白いため息が、闇に沈んだ扉にぶつかって溶けていった。

  「よし……」

  そのためにはまず。とにかくお仕事を頑張らなくては。戦後の好景気である領内の雰囲気をさらに上昇させ、強固なものにしていくためにも、一刻も早く子を――希望を授からなくてはいけない。

  「旦那様。アナスタシアが参りました……」

  「ああ、入りなさい」

  ノックした扉の奥から聞こえる静かな声に、フッと肩の力が抜けるような気がした。

  ほんの少し立ち止まっていただけでもう感覚がない指先。濡れ手で触れば張り付くほど冷えているドアノブを捻る。

  カチャン、と扉の金具が外れる音がした、その瞬間の事だった。

  「失礼いたしま、――すぅ゛っ⁈」

  伸びてきた大きな手に手首を掴まれ、その力強さに思考が白くなる。引き寄せられた先には硬い胸板があって、うなじから腰まで一気に温かなものに包まれた。

  そのまま、私たちの隙間をなくすようにぎゅっときつく抱きしめられて……吸い込んだ息はすべて愛する人の――リアン様の冷たい森の香りがする。

  閉じ込めるかのように頭頂に唇が触れたあと。わたしの背骨が反るほど強く抱きしめられて、丸出しの肩にあごが乗った。

  「アナ、どうした……長く扉の前にいたようだが」

  「す、すみません、」

  耳たぶに口付け、低い優しい声で囁かれる。

  強い抱擁に踵が浮いて、寒いのにもう汗がにじむようだった。

  そんなに長く外に居ただろうか。でも思い返せばわたしは冬の夜に危険なほど薄着だし、リアン様の体や部屋の中は肌を焼くほど温かく感じる。

  

  「こんなに体が冷えている……」

  「もうしわけ、ありませ、少しだけ考え事を……」

  獣の感覚を持つ旦那様のことだ。わたしが部屋の前で立ち止まっていたことは、留まった瞬間から分かっていたのだろう。

  「そんなところで考え事をするんじゃない」

  「お、おっしゃる通りです、」

  「まったく。目が離せないな、……ほら」

  小さなため息一つ。ずっと離れた旦那様は、ベッドの端に先に腰かけ、自身の隣をポンポンと叩いた。

  「おいで、アナ」

  薄暗い室内で光って見える獣の瞳。その黄金が弧を描いてわたしを手招く。

  安らいだ様子で少し垂れているように見える狼耳と、相反するようにばさばさとシーツの上で動き続ける黒灰の尻尾。

  彼も薄衣で、だからこそ暖炉の炎に照らされたシャツの中の肩の筋肉や、太くがっしりした腰回りの線が目立って見えた。

  旦那様を襲った戦場の壮絶は今でも認められなくて悲しい。でも、だからこそこんなに逞しくなって帰ってこられたのだ。心のどこかに沸き上がる熱は確かに、彼への愛を深めていく。

  「はい、リアン様」

  わたしは許された隙間からベッドに乗り上げ、そのままある程度奥まで進んでいった。

  天蓋ベッドの帳は完全に閉じていない。部屋の薄暗さをそのまま広いシーツに映している。

  ベッドに腰かけている旦那様。その背中越しに視線が合った。

  そこからでも、きっとご覧になれるだろう。

  そう思ったわたしは、三年前には緊張で出来なかったけれど、教本には「そうするのが良い妻」として書かれていたことをいそいそと実行する。

  膝をそろえ正座をして、後ろ髪を片方の肩にかけ、首を傾けて。

  ショールをわずかにはだけさせ、視線は下に。首筋が良く見えるようにしながら、

  「準備は出来ています。どうぞ……」

  と、主人を求めるポーズをする。

  

  ……。一拍の沈黙。旦那様は何も言わない。

  本の通りだと思う……でも挿絵はなく文章だけだったことを今さらながら思い出す。自信満々に言った割に――全然違う体勢である可能性が、頭の中でどんどん広がっていくようだった。

  「……、……」

  「……」

  冬の静寂が永遠に思えた。ぼっと頬に火が灯って、みるみる恥ずかしくなる。

  やっぱり間違えただろうか。思考がそちらに傾けば、一所を眺めていられなくなり視線が泳いだ。肩が強張り、ショールがずり落ちる。

  

  「ぁの、これは、その……」

  ――ああ! わたしはまたこういう時に失敗する! どうしてうまく出来ないのだろう。初夜の時にこんなポーズをしなくても最後まで出来たのなら、必要のない事だったのかもしれない。余計な事だった。リアン様の興が冷めたらどうしよう……!

  地獄のような緊張と怒涛の後悔に苛まれていると、旦那様が動く。

  腰かけていたベッド端から追いかけるようにわたしの目の前まで来た彼は、けれど――少しとどまってから、困ったように問いかけた。

  「待てアナ、何を……焦っている? 準備とはなんだ」

  「? 準備は準備ですが……その、リアン様にご負担などお掛けしません。もう潤っておりますので……」

  緊張の狭間で、思い浮かぶのは我がメイドの顔。

  夜に呼ばれるというのは、事前に言っておいてもらわなければならない程度に、準備が必要な事なのだ。

  メイドのエルザと一緒に時間をかけて身を清め、肌を磨き、髪を整え――潤いとして香油を仕込む。

  朝から夕方までの山岳警備、その後の書類仕事でお疲れなのだから、すべてスムーズに事が進むように。万全とはいかなくても、できることは済ませてある。

  「ぁぁ……。なるほど。この匂いは香油か……」

  旦那様はわたしを眺め、下を――わたしの太ももを見て、それからもう一度視線を合わせた。

  わたしは……頬を赤くしたまま、準備にも何か粗相があったかと一気に怖くなる。こちらはさっきのポーズと違って三年前――初夜の時から同じであったけれど。何かいけないことがあっただろうか。

  「来なさい。アナ、こっちへ。座りなさい」

  「ッ……はい」

  眉を下げたまま、自身の足の間を指さす。わたしは言われた通りに寄っていきながら……ここでやっと気が付く。

  その身に起こった獣化の影響で、リアン様は五感の感覚が人より鋭いということ。

  いつかのように、抱き寄せられて膝の間へ。でもわたしは寄せられる力にわずかに逆らい、男らしい胸板に手をついて半端に離れながら。

  「あの、匂い、お嫌いでしたか。強く感じると仰っていたのに……配慮が足りず、申し訳ありません」

  「いや、そうではない。……スミレだろう? 良い香りだ。似合っている」

  「ぁっありがとう、ござい、ます……」

  リアン様にとって臭くないのなら……わたしは求められるまま、腕の力を抜いて密着した。

  ドク、ドク、と伝わってくる力強い鼓動は骨に蔓延る緊張を溶かしてくれるようで、このまま眠ってしまいそうなほど心地いい。

  しかし、夫人のわたしが待ったをかける。

  どうして始まらないの。やはり何か、至らないことがあったのではないだろうか。

  旦那様はわたしの腰に腕を回して、抱えるように数回引っ張った。頭と肩だけではなく、わき腹や腰、背中までぴったりとくっ付いて……まるで一つになることで、体温を共有しようとするかのように。

  わずか上にあるお顔が、抱きしめるついでと言わんばかりの慣れた所作で近づいて、そのままおでこに一つ口付ける。

  「っ、」

  ちゅ、と湿ったリップ音が直接頭を揺らすみたいに響いて、心臓が激しく脈動した。足の間がムズムズして、中からこぼれた香油が太ももの間でぬるりと滑る。

  焦る体の芯にあるのは、何にも代えられない幸福。終戦後の生死不明の状態で、ただひたすらにお帰りを信じて待っていた時、こんなに幸せな夜が来るとは思っていなかった……。

  ――でも、目的は未だ果たされていない。

  脳裏で冷静が囁く。何か問題があったのか、あったのならばやり直す機会を。そう思うけれど、

  「あの、」

  「顔を上げてくれ」

  「はい、っん、」

  穏やかな声に素直に従うと、上からぎゅむ、と唇が降ってきた。少しだけ吸い付くようにして離れて、また角度を変えて啄まれる。

  抱きしめられた腕の中、何度もグレイの髪が顔に触れて、そのくすぐったさに何故かお腹がムズムズした。

  焦りや不安が心の中にわだかまっていても、口付け自体は好きで嬉しくて――胸板に触れていた手に力を込め、進んで唇を差し出すようにしてしまう。

  何度も繰り返していると、どく、どく、とお互いの鼓動が同じ速さになっていって、肌の境目が分からなくなるような不思議な感じがした。キスのたびに、ふっと吐息が頬を撫でていってくすぐったい。高揚感に任せて上がった口角。変な顔になっていないだろうか。

  

  「……アナ」

  「りあ、」

  内緒の話をするみたいに囁かれる。その低い声の奥、グルルと鳴る獣の喉が愛らしくてたまらない。

  鼻先をこすり合わせながら名前を呼び、答えようとした……その時。

  「んぁ゛は、ぇ――ッ゛!」

  開いた唇。その奥の舌を舐められて体が跳ねる。

  何が起こったのか理解するよりも前に、強烈に『いけない』と思った。よく分からないけれど、とても――許されないことが始まりそうな。

  「い――いけません、そんなところ、んん゛ッ」

  離れようと腕に力を込めても、抱きしめられていてびくともしなかった。

  背骨を反るようにして少し離れる。それでも私たちの距離は無いに等しい。

  「口の中、なんて、んむ、」

  言い訳をしながら首を振る。でも器用に唇を追尾されて、何度も邪魔されてしまう。

  どうして口の中を舐めたいのか。お考えがあるのかもしれない。でもきっとあまり良くないことだ。

  それに……わたしも少し〝そうしたい〟と思っていることが一番の問題に感じる。

  はしたないというレベルではない逸脱を感じて――でも『何』からの逸脱か分からない。

  

  わたしの言い訳の隙間。「どうして拒否する?」と言わんばかりに、何度も唇を舐められた。

  どうしても口の中に執着していらっしゃる様子で、少しでも止まれば歯列を割り開こうと舌先が侵入してくる。その直に感じる力強さと熱い吐息にみぞおちがいけない震え方をしていた。

  「危な、しッした、を゛んッか、噛んでしまいます、ッ」

  「ならば口を大きく開けていろ。私の牙は鋭いぞ――」

  牙というだけあって、旦那様の犬歯は人間離れして大きくなっている。食事時に銀のスプーンに当たってカチン。と音が鳴ってしまうのを、最近苦労して矯正していらっしゃる最中だ。

  そんな牙が覗く唇が意地悪な微笑みを浮かべて、満月色の瞳が細くなった。その――格好良すぎるお顔にほんの僅か息を飲んだ、その瞬間。

  「あ、そ、そうではなくてぇ゛、――む゛ぉ」

  

  がぶ。と獲物に食らいつく仕草で、わたしの口内に旦那様の舌が入ってくる。

  動くものが口の中に入ってくるなんて――そんな嫌悪は状況の淫靡さにあっさりと流されてしまった。繊細に味を感じ取るための器官すべてでリアン様を感じていて、その膨大な情報量がパニック気味に頭の中を掻き混ぜる。

  「ん゛、んん゛ッ」

  ここまで侵入されてしまえば、万が一にでも歯を閉じることは出来ない。

  彼は迷うことなく――自由にわたしの口の中を舐めていた。

  歯列をなぞり、上あごに触れ、わたしの舌の下へと滑り込んで、どうにもできずに溜まった唾液が混ざり合い泡になって――それを吸い取られたかと思えば、息継ぐ暇もなくまた口内が旦那様で一杯になる。

  「ぅ゛、ふ、――ん゛ッ……」

  さっきまで出来ていた呼吸が、恥ずかしいのか、緊張か、上手く出来なかった。

  けれど旦那様が鼻でゆっくりと呼吸しているみたいだったから……意識してそれに習う。すると一気に口の中の感覚が鮮明になって、リアン様の温かい舌と、その奥の――鋭いらしい牙が舌先に触れるのが分かった。

  全てがぬるぬるとしていて、混ざり合っていく。わたしの舌もそうなのだろうか。ざらざらしているように感じる旦那様の舌と絡み合うと、みぞおちに痛むほど力が入った。

  頭の中に薄膜がかかったようになって――どこか諦めたわたしは、求められた握手を返すかように、蠢く舌に合わせてこちらも舌を動かしてみる。すると、べちゃ、と唾液が擦れあう音がして体が跳ねた。

  「あ、――んむッ」

  その貫かれるような淫靡に慌てて離れようにも、うなじを抑えられて離れられない。

  逃げたくて閉じたのを責め立てるかのように、追いかけてきたリアン様が唇を舐めた。

  意を決してまた口を開けると、吐息ごと食べ尽くされてしまうんじゃないかという勢いで唇が重なる。

  想像する夜伽とはあまりにもかけ離れていて、絶対にしてはいけないことをしている気がするのに……こんなに近い所で、旦那様を感じることができて嬉しいと思ってしまう。

  暑かった頬の熱が頭にまで回り、口の中の水音と、鼓動の音ばかりが満ちていく。その熱にすこしぼんやりして……。

  唇の角度が変わり、わずかに離れるたびに舌先を突き出して。心地いいと感じるままにわたしからわずかに顔を突き出せば、旦那様はそれを支えるように抱き直してくださる。

  褒めるかのように。その吐息にわずかには笑いが滲んで……言葉のない意思の疎通が、こんなに淫らなのに尊いものに思えてくる……。

  「は、ぁ……」

  お互いの舌が相手の奥、どこまで届くか確かめ合うかのようなとてもはしたない口づけは、いつの間にか唇をこすり合わせるだけのものになって……そして数回の触れるだけのキスの後にようやく離れた。

  わたしの顔は、きっとおでこだけでなく耳まで赤くなっていることだろう。

  目の前の旦那様は相変わらず、前髪の隙間から見える蜂蜜色の瞳をわたしに向けて、余裕たっぷりに微笑んでいらっしゃるけれど。

  「……ふ、口紅を崩してしまった」

  「ん、ん゛、」

  唾液にまみれ、崩れた口紅はきっと碌に残っていないだろうと思った。かさついた指で口元を拭うついでに頬をもちもちと揉まれて……「どうして口の中を舐めるのですか」「恥ずかしかったです」とむくれれば、「どうしてだろうな」と、くしゃりと眉を寄せて笑われてしまう。

  そうしてお互いに一息ついたころ。旦那様はわたしの髪を撫でながら問いかけた。

  「……今夜何故呼ばれたか、何をするか、分かるか?」

  「は、――はい、ヴァ、ヴァルデリウスの血を絶やさぬよう、健やかな世継ぎを授かるためです。そ、それから……」

  やっと本来の目的に戻りつつある雰囲気になった。教本にあった言葉に『ヴァルデリウス』を差し込んでそのまま暗唱する。

  そして、わたしは旦那様から与えられる蜂蜜のような濃密なスキンシップに――夜伽は中断されていてもご機嫌が悪いようではないと判断して、したたかに願いを口にしてしまう。

  「それから?」

  「こ、これは、わたしの我儘なのですが……終わったあとは、抱きしめ合って眠りについてみたいです……」

  照れ故に俯きながら。もじもじとそう願えば――旦那様はわずかな静寂の後。一つ瞬いて。

  「……ああ、なるほど……」

  そう呟いてから、わたしをまた抱き直して……口づけをする雰囲気ではない感じで顔を近づけた。耳元に潜り込むような仕草に、絶対に聞き逃してほしくないような、そんな意図を感じる。

  「全て終わった後、君の願う通りにすると約束しよう。血を絶やさないということも間違いではない。だがアナ、私の目的は、君に義務を果たさせることだけではない……」

  え。と声に出さずとも、ぐるりと首を回し振り返ることで驚いたことは伝わってしまっただろうと思う。

  かち合った獣の瞳。ゆっくりと瞬きを繰り返す黄金には都合のいい慈愛しか見つけられず……抱き合い、少し変だったけれどキスをして――個人的に満たされてばかりのこの時間で、旦那様が何を考えているのかどうにも掴み損ねてしまう。

  「私が君を呼んだのは、君を愛するためだ。あの戦場で君に触れたいと何度思ったことか。ようやくその時が来たのだから、もう少しゆっくり……味あわせてほしい」

  「……? ……はい。どうぞ……?」

  やはり。味わいたい。ということはそういうことなのだろう。わたしは懲りもせず一番最初の主人を求めるポーズを簡易的に腕の中で繰り返し、首筋を晒して見せた。

  しかし、リアン様は困ったように笑って。

  「んん、……いや、違うな。言い方が悪かった。知っているか、アナ。わたし達の体は……子を授かるまでの過程も慈しめるようにできている。ただ耐えるだけが、夫婦の形ではないんだよ」

  「慈しめる、ですか……?」

  「そうだ。君も同じだと嬉しいのだが――例えば、こうやって身を寄せ合っていたり、さっきみたいな深い口付けをしたら、心地いいだろう?」

  ほら、こんなふうに。と言わんばかりに、旦那様は腕に力を込め、わたしの側頭やおでこに口づけを繰り返す。

  ちゅう、ちゅ、と吸い付く音を繰り返すそれに――さっきの深い口づけを思い出して肩に力が入った。

  「ん、……は、はい。いえ、あのようなことはもう……ですが、はい。好い、です」

  一区切りつけば、口の中を舐め合うあれがどれほど淫靡で許されない事か刻み付けられるみたいに理解する。それでも、まるで夢みたいにふわふわしてゾクゾクして――旦那様のおっしゃる通り、心地いい体験ではあった。

  彼は満足したように鷹揚に頷く。そして何かを思い出したのか。少し遠くを見るような寂しそうな顔をして……。

  「三年前――もうすぐ四年になるが……あの時は私の方こそ、君に負担をかけぬように、早く終わるようにと、その手を温める事さえしなかった。だが……」

  言いながら、わたしの手を取る。相変わらずの男らしい大きな手に、わたしの手はほとんど覆われてしまう。

  「しかし私はあれをずっと後悔している。あの方法は、間違っていたんだ。本当はもっと……」

  「ッ! だから、わたしがあの時冷えていたから、子を授からなかったのですか……⁈」

  〝あの方法は間違っていた〟その単語だけが、欠けた部分にすっぽり収まるようだった。

  わたしは飛び上がらんばかりに腕の中で振り返り、その黄色の瞳を凝視してしまう。

  「え? あー、ああ、うーん、そ――。そうだ。そうなんだが……」

  「そんな、わたしが無知ゆえにっ……申し訳ありません……」

  「いや、謝らなくていい。あー、温めるのは男の仕事だ。だから、私にも監督責任がある」

  リアン様は謝るわたしの頬を親指で撫でて、それから顔を傾けた。普段は分けるかオールバックにしている長い前髪が、旦那様の薄い頬を撫でていって……そのはしたない乱れさえ、胸が締め付けられるほどに艶めかしく映る。

  「これからは正しい方法で進めていこう。一緒に」

  「はいっ。わたし、頑張って温かくなります!」

  胸に満ちるのは尊敬と期待。なるほど! という腑に落ちた感じがあって――きっとわたしがきちんと勉強して、準備をしてこなければならなかったのに〝一緒に〟と強く抱きしめてくださるのが嬉しかった。

  ヴァルデリウスの未来の為。旦那様の言うことをよく聞いて、しっかり温かくなろう。

  そのために、なんだって耐えてみせよう。

  この時はまだ、そう思っていた。

  [newpage]

  「あ゛ッ♡~~あッ♡きもぢい゛、です、そご、ぉも゛♡あッ♡」

  閉じた瞼の裏にちらつく白い瞬き。

  後ろから伸びている旦那様の腕――その指は、ぱっかりと開かれたわたしの足の間。香油以外のものでべったりと濡れた柔らかな肉の奥へ入り込んでいて、触れられれば頭の中が熱くなり息が止まるような所を執拗に掻き混ぜていた。

  わたしは――ほんのついさっき初めて体験した硬直の果てをまた迎えそうで、リアン様のシャツをぎゅっと握り締める。

  「なら、こっちは?」

  「ひぅ゛ッ⁉」

  ぐちゅ♡とナカには挿っていない親指が――これもついさっきその存在を初めて知った――肉の芽のようなでっぱりの先端を撫で、その甘い痺れに体のこわばりはさらに強くなった。

  握り締めるだけでなく引っ張ってしまっているシャツに逆らわず旦那様が前のめりになることで、さらに体が密着する。

  「さっきまで怖がっていたが。今はどうだ?」

  「あ、あぅ゛んッ♡あの、あ゛ッ! つよい゛♡のでッ」

  「良い? 悪い? まだ怖いか?」

  背を丸め。耳元で囁かれて。頭を揺らすその低音にごくりと喉を鳴らすと、汗がネグリジェの隙間に消えていく。

  さっきまで、そこは触れられるだけで悲鳴を上げてしまうような所だった。敏感すぎて、何が起こっているのか分からなくて怖くて……でも数回の果てを経験して慣れたのか、その『くすぐったい』を煮詰めたような刺激は許容範囲の――許容はしていないけれど――とにかくきちんと快感として受け取れる刺激になっていた。

  彼の低音に悪意はない。わたしのことをずっと気遣ってくださっている。

  ――嘘は、つけない。

  「――い、きもち、ぃ゛ッ♡です、でも、」

  「そうか。よかった……」

  「ァ゛あッ♡まって、ま゛ってくださ、や゛ッまたッ♡」

  でも、やっぱり刺激が強いのでほどほどに。と言いたかったのに。心から安堵した様子の――息を吐いて、背中で感じる旦那様の肺が凹むのが分かるから――リアン様に結局流されてしまう。

  トントン♡と先端に軽く触れる程度だった親指が、蜜を纏わせてでっぱり全体を押しつぶす。ぬるぬると逃げる先端を追いかけるようにして、右へ左へ。そのたびにビリビリした快感が腰全体に広がって、はしたなく足先が跳ねてしまう。

  「ひぃ♡んん゛、ふ♡――ゔ、ぁあッ!」

  必死に繰り返している息は、はぁはぁ♡と泣く寸前みたいで情けない。

  はしたないと分かっていて、開いた股を凝視してしまう。

  解放が近くて、その衝撃がいつ来るかわたしにも分からない。

  旦那様の指がどのように肉芽を撫で、押しつぶして――いつ、その指先がさらに奥に進むか。見ていないと不安に思ったのだ。

  「ゔゔ、ふッゔあッ、りあ♡ああッ゛♡」

  けれど――わたしの体液で汚れた手のひら、どれだけ掴んで引っ張ってもびくともしない筋張った太い腕を見るたびに、それだけで胸がぎゅっと締められるみたいだった。

  ずぷ♡と太くごつごつした指が奥へと進む。

  そこにはさっきまでずっと耕していた敏感な所があって、そこをまたぐちゃぐちゃにされてしまうのだという確信があった。そうされてしまえば、わたしは我慢できずにまた弾けてしまうだろうとも。

  「ぁ♡あ゛ッまた、――また、~~りあ、ん゛ッさま♡」

  「ああ、大丈夫だ」

  指先が最奥で折れ曲がる。ぐっと指圧されると、敏感なそこでお湯を零したかと錯覚するような熱い快楽が広がった。

  わたしはリアン様のシャツに縋り付きながら、その腕の中でガクン! と跳ねる。

  「んん゛ッ♡ゔ、ゔーッ♡!!」

  張りつめていたものが引き千切れるような、決壊するかのような感覚。溢れ出す快楽はきっと一生で経験していい心地よさを大きく超過している。

  理性がそれに激しく警鐘を鳴らしているのに……もうその声はずいぶん遠く、残るのは信じられないほど甘い恍惚。

  強張り、弾け、がくがくと発作のように震えてしまう、その始まりから終わりまで、支えるようにしっかりと抱きしめてくれるのが頼もしくて、とても嬉しい。

  「はぁ、はぁ♡、は、はぅ、ふッ♡」

  解放の後。力の入らないこめかみから、だらだらと汗が滴る。その筋が冷えていくのと同時に、恍惚は過ぎ去っていってしまった。波が引いていくかのように冷静になった隙間で……もうとっくに温かいのに。どうしてこんなに長く……? と思う。

  「は、はぁ、――あ゛ッ⁈ ああ゛いけませッ♡ん゛ッ♡んん゛ッ♡」

  けれど――ほんの僅か深い呼吸に戻った瞬間。太い指がまた肉の隙間で動き出すから、何を考えていたのか一瞬忘れてしまう。

  またしても旦那様のシャツを握り締めながら、その親指が肉芽にめり込むのを抗えず、首を振って喘いだ。

  「も。また、ぁ゛ッ♡き、きて♡しまいます、ふ、震えが、とまり゛♡ま゛せん、」

  「それでいいんだ、アナ」

  「はッ――はずかしの゛、ですッ、み♡見ないでぇ……ッ♡」

  拒否なんて出来ない。けれどもう色々と辛い。

  分かってほしくて振り向き、後ろのリアン様の顔を確認しようとする。

  しかし抱きしめていた方の手で顎を掴んだかと思えば、上を向かせたままわたしの顔を固定して、半泣きの顔をごく至近距離で見つめられてしまう。

  「恥ずかしくない。世界で一番可愛らしい。さあもう一度」

  「ん゛ん゛ッ♡ぅ゛んん゛ーッ゛♡!!」

  

  意地悪な微笑みが唇に触れ、慣れた動きで舌が歯列を割いた。

  わたしは声が我慢できないのに。本当に噛んでしまう! とパニック気味に頭を振る。でも顎を抑えられては碌な抵抗は出来なかった。

  

  ぐちゅり♡と体内の指が動き出し、固くなりつつあるでっぱりも親指でぐり♡ぐり♡と撫でられる。

  

  旦那様の口の中で喘ぎながら、何度も思う。

  

  どうしてこんな、溺れるような事態に。もうとっくに温かいのに……と。

  そしてそのたびに、意地悪な旦那様から与えられる強い快楽に何もかもをめちゃくちゃにされてしまう。

  拘束じみた腕の中。わたしができることと言えば、この甘苦に体がバラバラにならないようにリアン様のシャツを握り締めることだけだった………。

  ………

  ……

  …

  温かくなると心に決めて、与えられた指示通りに触れあっていた。

  緩く座り込んだ旦那様に立膝で向かい合い、同じぐらいの高さにある顔同士をこすり合わせて、また口の中を舐め合う深い口付けをして。

  体にも色々な所にキスをされ、「私にも同じように」と仰る通りに、わたしからも頬、唇、首筋と、シャツの隙間から覗く肩、胸元に丁寧に唇を返していった。

  旦那様のお体は……唇で触れるどこもかしこも傷で溢れていて切なくなる。せめて痛みの記憶を忘れられますように。そう祈りながら夢中で口付け、気が付けばその肌の凹みを舐めていたこともあったけれど、リアン様は叱らなかった。むしろ嬉しそうに頭を撫でてくださって……それからまた、誘われるように舌が絡み合う口づけを繰り返す。

  その頃には、わたしの鼓動はどっくどっくと常に煩く、汗でネグリジェのほとんどが肌に張り付く有様だった。

  正しい事のはずなのに、命じられるすべてで顔を赤くしてしまう。

  でも旦那様の言う通りにしていれば、望まれるとおりに体が変わっていく実感がある。

  その達成感を胸に、今度はベッド端に腰かける旦那様の膝上に座るという……普段のわたしなら絶対に許さない体勢となった。

  そして。

  「……えッあ、い――いけませんッ待ってください、どうして、」

  熱い手ですりすりと撫でられるままにわずかに開かされた足。その間にある、すでに潤っている蜜口に手を伸ばされて、わたし初めて拒否してしまった。

  正しい手順があったとしても、ここはもう必要十分に潤っている。熱は冷めるものと決まっているし、早く次へ進みたい。

  どうして、と理由を聞きつつも拒否するつもりで、彼の太い腕を両手で掴んでいた。屋敷の壁のようにびくともしない右手はそのまま、わたしの目の前には申し訳なさそうに左手が伸びてくる。

  「しかし……君の中に触れるために、ほら。爪も整えたんだが」

  「……それは……」

  果物程度なら簡単に真っ二つにできるほど長く尖っていた黒い爪は丸く切りそろえられていて、指先の肌色が見えている。逆に色々と不便なのではと思うほど短くなっていた。

  「まさか馬用の蹄切りを使うことになるとは思わなかったが……はぁ。全く忌々しい……」

  ぐっと前のめりになることで後ろから密着し、わたしのつむじにため息をつく。自身の人ならざる頑丈さを嘆く旦那様。

  そんな彼に大丈夫ですよという意味の「あら……」と声を掛ける直前。蹄切りという単語から厩舎をイメージし、そこで最近あった不可解なことが脳裏に鮮明によみがえる。

  「あッ!! ――厩舎に落ちていた黒い欠片は、リアン様の爪先だったのですか⁈」

  「え、」

  「もう! 従者に任せずご自分でなさるなら、最後まで綺麗に片付けてくださいまし! 虫かと思ってびっくりしたんですよ!」

  「あー、うん……」

  あの――なんとも不気味でつやつやしていた黒い欠片。

  甲虫か、あるいは稀に見るおぞましいほど脚の多い虫か。近づいて確認するなんて出来なくて、薄目になって小さな悲鳴を上げながらなんとか厩舎の外、はるか遠くまで箒で掃いたのだ。

  それに、黒馬のウェグが万が一でも口にすれば――爪であるならなおさら危険だ。そんなことを滔々と説こうとした瞬間。

  

  「ウェグが誤って口にする可能性も、お゛むッ!?」

  目の前にあった左手がずるりと口の中に入ってきて、伝えたかった言葉がすべて吹き飛んでしまった。

  ごちんとリアン様の鎖骨に後頭部が当たる。両手は右手を抑えるために使っていて、何も出来なかった。

  何事かと視線を上げれば、真上にある彼の顔。楽しそうに弧を描く瞳がわずかに見えて……。

  「ああ。すまない。ふふ、本当に。悪かった」

  「りぃあ、ん――らま゛ッ」

  「でもほら、最終的にやすりで整えたからこんなになめらかに整った。君の口の中だって傷つけないほどに……ふ。小さい歯だな、可愛らしい」

  「ゔゔ、れふ、ぁ゛ッ、~~ッ゛」

  「くく、怒らないでくれ。次からは気を付けるから」

  指は、舌よりは丈夫なもの。そう判断して、その無粋な指をわずかに噛みながら怒りを表明する。

  きっと次からは、きちんと片づけてくださるのだろう。理解できても、意地悪をされていることには変わりない。

  しばらく、その〝滑らかさ〟を証明するかのように、舌と上あご、されに歯列を奥歯までなぞられて、唾液塗れになったところでようやく糸を引いて指が出ていった。

  こればかりは異物感が強く、心地よくはない。唾液で汚れてしまった旦那様の指を拭くために、少し迷ってからシーツを手繰り寄せようと右腕から手を離したその時。

  「あ、きゃああッ⁉」

  ずるり、と股に唾液濡れの指が擦り付けられて悲鳴を上げてしまう。

  肉の隙間に滑り込み、香油に塗れたそこをずりずりと往復する。

  「だめです! だめ、待って下さい!――嫌ぁッ!!」

  そしてそのまま。あろうことか蜜壺の中に指が入ってきた。香油を入れて準備をするときのエルザの指よりも太く、ごつごつしているものが、わたしの制止を振り切って一気にほとんど根元まで挿って。

  「痛むか?」

  「い、痛みません、痛みませんから、大丈夫ですからッ」

  「どのような感じだ?」

  「そ、それは、」

  挿入直後は、パニックもあって異物感が強かった。でも自分でも「痛くない」「どんなかんじだろう」と意識を向けた瞬間、体の芯からぶわっと熱が広がっていく。

  さっきまでの、肌同士のふれあいでぽかぽかになる緩やかなぬくもりではない。

  熱湯を被ったかのような、或いは茹でられればこうなるのだろうか。そんな強制的な加熱が体内で発生している。

  「……これも、正しい方法の一つだ。どう感じているか報告してくれると、私もやりやすい」

  痛まないと分かって、旦那様がその指を抜いたり差したりを繰り返した。

  うち太ももに力が入り、背中に悪寒に似たなにかが駆け上がっていく。

  これはどのような感じなのだろう。不快ではないけれど――ぞくぞくする。初めてのことで、確信がない。こんな自分でも曖昧なことを言っていいのか迷ってしまう……。

  「そ、ゔゔ、あの……入っている感覚があります。背中と、足もぞくぞくし、ます」

  「……ならもっと深くは?」

  「あ、ッ゛、――ッ゛!!」

  指一本が根元まで入り込み、その指先がとても敏感な所に触れたのが分かった。

  その敏感な所を守るためか、本能的に足を引きをせて閉じようとしてしまう。その動きを抑制するかのように、旦那様がまた前のめりになって、肩に顎が乗る。

  「こら、足を閉じてはいけない」

  「ふ、ふぅ、こんな、は――恥ずかしい、です。見ないで、ぇゔッ!」

  わたしの胸元を抱きしめていた手でもって、改めてわたしの脚はリアン様の太ももの外側まで持っていかれて強制的に開かされてしまった。

  ――これでは自分自身の力で閉じることが難しくなるだろう。

  わたしはその事実に絶望しながら必死に懇願する。

  「なにか、よく分かりませんが、き、嫌われそうに思います、このままでは」

  喉奥から引きずり出されるかのようなうるさい声。発作のように跳ねる体。

  きっと普通の夜伽では、こんなことにはならない。そう思うと――またわたしだけ、うまく出来ていないあの感じがみぞおちに滑り込んでくる。

  みっともなくて、はしたなくて、情けなくて……。

  

  「君を嫌いになることなど一生ない」

  「い、そんな、あ、まって、――嫌あッ!」

  その低い断言には圧があって恐ろしいほど。けれどその言葉に何か思うより前に、未知の強い衝撃を感じて背をぎゅっと丸めてしまった。またしても力の入った足は、案の定リアン様の太ももに引っかかって閉じることが出来ない。

  「痛むか? ここは、女性にとって良い所と聞くが」

  わたしの悲鳴に、旦那様は手を離して下さったのに。それでもまだジン♡と疼きが残るほど強い刺激。

  親指が……股の浅い所にめり込んだだけで、いったい何が起こったというのだろう。

  「なん゛――どこ、です、」

  「ここだ、」

  濡れそぼった肉を開かれると、その中で小さなでっぱりが屹立していた。

  こんなに小さい所に触れられただけで、あんなに強い刺激が――?

  わたしは――自分の体にそんなところがあると初めて自覚する。その用途不明の扱いにくい器官の存在に、目を真ん丸にして。

  「い――痛みはありません。で、ですがと、とても敏感で――怖い、です」

  温まるためにこれからもソコを使うのだと思うと心臓が嫌な跳ね方をした。想像するだけで息が荒くなって、お腹が無意味に上下しているのが見える。

  

  ――まるで火傷をしたところを執拗に触られたら、と思うような過敏な感覚。

  火傷と違って痛まないことが、かえってとても恐ろしいことなのではないかと思う。

  「ふむ」

  「んひゃあッ⁉」

  それなのに、旦那様はまたしてもそこに触れた。

  ぎくぎくと足先が動いてしまうほど敏感な肉芽。その先端を触れるか触れないか、という加減で優しく手のひらが往復する。

  もちろん今も痛くない。でも怖いと言ったのに。

  「はッ、あッ⁈ まって、くださぁ゛ッ♡ふゔ、んん゛ッ!」

  香油を塗り付け、ぬちゅ、ぬちゅ、とされるたびに頭の中が掻き混ぜられるかのようだった。

  腰や――肺だろうか。体の芯になにか〝力〟が集まっているような不思議な感覚。

  静止の為に旦那様の腕を掴みたいのに、ぎゅう、と胸を抑えたまま腕が固まってしまって動かせない。

  先ほどの口の中を舐めるふれあいの数十倍のゾクゾクが、成す術もなくお腹の中に溜まっていく。

  「ま゛、ッりあ、んゃ゛ぁ゛♡あ゛ッ」

  強すぎる衝撃の中には、確かに『気持ちいい』が混ざっている気がして、それが怖かった。

  強張り続け小刻みに震えだす体を、旦那様が優しく抱き締め直す。そうしながらも、あの敏感なでっぱりを撫でる手はそのまま。

  頭の中がぐらぐらした熱で一杯になる。溜まっていく快楽に目を開けていられない。

  「りあ゛ッさま、やだ、」

  「大丈夫だ」

  「ぉ、お゛♡かしく、なってしまい゛ます、こわいッ♡やだぁッ」

  「恐れることはない。そのまま……」

  「ああ゛ッ♡あッあッ、りあん、さまッ♡――あッ♡んん゛ーッ♡!!」

  体の中に溜まり強張りを生んでいた『何か』は、リアン様がほんの少し強く肉芽を弾いた瞬間にバツンと弾けた。

  太陽を直接見た時のような白い明滅。体を丸めたい衝動がしばらく続き、頭の中がじんわりとした甘苦で覆い尽くされる。

  ドク、ドク、と飛び出さんばかりに心臓が跳ね……旦那様に全身を預けたまま碌に動けない。全身――特にお腹の不思議な脈動が気持ちよくて、夢のようなそれにずっと浸っていたくなる……。

  「~~ッ゛んん゛ゔゔ、ふ、はぁ、はぁ……♡」

  「医学書に則るなら、『絶頂』や『魂の解放』などと呼ばれている現象だろう……どうだ? 具合は」

  汗みずくの顎を撫でられながら問いかけられる。わたしの体はもうずっと熱いぐらいだけど、それでも旦那様の手は温かい。

  わたしは頭の中に居座ろうとする甘美を瞬きで振り払い、息を吸う。

  「は、は、ぇ――えと……か。体が硬くなって、ば――爆発、してしまいそうで、こ。怖かったです。……でも、その……」

  たくさん走った時のような、胸まで痛む心臓の鼓動。けれど息が切れるほど走った時よりも、なんだか……。

  「い――今の気分は、良い。と思います。……確かに、か、解放的? かも、しれません……不思議です……」

  医学書に乗っている体の反応らしくて少しだけ安心する。またわたしだけ何か不手際があって、恥ずかしいことになっているのかと怖かったから。

  体調を心配して下さる大きな手の平に頬をくっ付けながら、鼓動が緩やかに収まっていく心地よさを堪能していると、旦那様は満足げに笑って。

  「うん。なら良かった」

  「え!」

  絶頂による体のこわばりで半端に閉じかけた足をまた開き直し、また太い腕が肉の隙間へ伸びる。

  「い! いや、もういらないですっ、もう潤っています、あ、汗もかいています、温かいですからッ!」

  「まだだ。アナ。まだ、ここをきちんと温めなくては」

  「や、いけません、もうあんなのは嫌です! ゆ、許されないことですわ!」

  わたしは不敬も失礼も何もかもを棚に上げて、今度こそ旦那様の太い腕をがっしりと両手で掴んで中空に留まらせていた。

  その指先はてらりと光沢を返していて濡れていることが分かる。当たり前であった。ついさっきまでその指はわたしの……泥濘の中にあったのだから。

  「でも、良かっただろう」

  「それは、その~~ッ゛とにかく、許されないのです、その、」

  「誰に? 誰が許さない? 私がしたくてそうしているのに」

  「あ゛ぅ、あの、」

  背を丸め耳元で優しく囁き、真っ赤になっているであろう顔を覗きこむ。意地悪な問いかけだけれど、流し目の金色は真剣で。わたしはこれだけで何も言えなくなってしまう。

  嘘をついたり、うまく言いくるめるなんてことは生来苦手なのだ。何かを頼み、相手に折れてもらう時は正直に話すしかない……。

  「だって、とても気持ちよかったから、だからいけない事なのです!」

  お腹の中はまだひくひくと脈打っている。それがずっと、じんわりと思考の端を溶かし続けていて……わたしは数分経っても、まだあの心地よさを引きずっている。

  触れてはいけないとされている下半身部分。それでもある程度詳しく書かれている教本に、このような――『魂の解放』なることが一切書かれていない理由が分かった気がした。

  こんなに好いことを知ってしまえば〝これ〟を主人にねだる妻も出てくるだろう。こっそり一人で……という予想もつく。

  

  この快楽に、きっと人は簡単に堕落してしまうだろう。そう思えるほど――。

  「つ、次に進みましょう? リアン様にばかりお手を煩わせています、十分温かくなりました、だから」

  「そうか……」

  「はい、夢のような心地よさでした、あ、ありがとうございました、」

  納得なさったかのような声に安堵して、膝上から降りようと体勢を変えるために……リアン様の腕から手を離す。丸太のような太ももからどうにか離れよう半身を倒しシーツに手が触れた、その時。半端に開いたままだった泥濘に手が滑り込んで、ぐちゅり♡と――もう触れて欲しくなかったところに触れる。

  「ぇ、あッ?!」

  倒した半身をまた抱き抱えられて、あっという間に膝上に固定されてしまった。

  背中に触れた旦那様の腹筋が震えている。くつくつと、小刻みな吐息が汗の筋を冷やして。

  「夢のように良かったのなら、やはりもう一度だ」

  ………

  ……

  …

  肉の隙間に挿りこむリアン様の指は二本になって、ぐじゅ♡ぐじゅ♡と聞くに堪えない水音を響かせていた。

  最初の香油は跡形もなく流れ落ち、部屋を満たすのはわたしの汗と分泌液の匂い。

  「あッああッ♡あ゛、い゛、けまぜん゛ッそこはッ♡」

  「ここか。ああ、なるほどな」

  蜜壺なんてただ男根を差し込む為だけの肉筒だと思っていたのに。そこを指で細かく引っ掻き、指圧されると何とも言えない熱が発生して、気持ちよくなってしまう。

  今も、二本指の太さに慣らすようなシンプルな抜き差しから、いきなり熱が発生する所をグジュリ♡と潰されてお腹に力が入った。溜まっていく快楽にいやいやと首を振ってしまう。

  「いや、ぁ゛ッは、はッ♡ぁぁあ゛ッぐゔゔ――ッ♡!!」

  「先ほどより膨らんでいる。面白い……」

  〝絶頂〟なる、あの強張りの果てに思考が煮溶けるかのような甘い現象。

  旦那様はなるべく多く、それをわたしに経験させようとしているみたいだった。

  けれど……わたしからリアン様への奉仕ならともかく、わたしばかりがこんなことになっていてはいけないと思う。たとえ〝温かくなる〟という目標があったとしても。もう眩暈がするほど温かいのだから、早く……。

  「は、ぁぁ゛、も゛ッ……つぎ、りあんさま、」

  「ああ、 こちらが良いか?」

  「やッ⁈ ちが、あッ♡ああッ゛♡!!」

  一刻も早く、リアン様と次に進みたい。だって密着したお尻には熱く固いものを感じるし、わたしはもう十分温かいはず。そう願って何度も彼の腕を掴むけれど、どこかずっと楽しそうな旦那様に毎回流されてしまう。

  肉の中を集中的に掻き混ぜていたせいで数分放置されていた肉芽に、また意地悪な親指が戻ってきた。

  一番敏感な先端を嬲るようにぐりぐりされると、そのあまりの甘い刺激に逃げ出したくて背中が曲がる。腰を突き出すようにしてしまって――わたしの意思とは裏腹に、体の動きだけ見ればもっとして欲しいと強請るかのようだ。

  「また、きも゛ぢよく、な、ぁ゛♡しまいッます、がら゛ッ」

  「私は、君に沢山良くなって欲しいんだよ。アナ」

  腰を突き出し、上半身がわずかにずり下がったせいで、覗き込まれたら逆さまに視線が合う体勢になった。

  「です、が、あ、まっまた、ぁ゛♡ああッ、あッ♡」

  「そしてその瞬間を、できるだけ多く共有したい。アナスタシア。君のことが知りたいんだ」

  「や、やぁあ゛ッ♡」

  常に破裂しそうな快楽を抱えたまま。目の前にあるのは……憂慮を感じる笑顔。

  仕方がない子だな。と言わんばかりに、その蜂蜜色の双眸が弧を描いている。

  

  好きな人に興味を持たれること、探られることがこんなに嬉しいと初めて知った。

  けれどそれと同時にぐちゅ♡と股を強く掴むようにされて、それどころではなくなってしまう。

  「あッやぅ゛ッ♡んあッああッ♡」

  ナカの二本指と肉芽を押しつぶす親指。広範囲をごしごしグリグリとされているうちにパチン♡と弾けるものではなかった。

  的確な場所で、決定的にわたしを追い込むびりびりとした快感が濁流のように押し寄せて――まって、もう十分です。と懇願する隙間は与えられない。

  数回繰り返し、体が快楽の解放を学んでしまったのだろう。旦那様から与えられた全てが、みっともない体の震えとなって解き放たれる。

  

  「んん゛――ッッ゛♡!!」

  リアン様に顔を覗き込まれているのに。

  恥ずかしさを覆い尽くすほどの濃厚な気持ち良さがお腹から広がっていく。

  ぎゅっと瞑った瞼の裏の瞬きも、一拍遅れて慌てて動き出す心臓の鼓動も悦楽の仲間入りをして……ぐったりと体を預ける。その悦楽を伴った背徳感は、やっぱり病みつきになってしまいそうなほど……。

  「……痛みはないか? 報告してくれ」

  「~~ッ゛あ゛、ぃ。は、はぁ、……ッきもぢ、です」

  耳鳴りを伴いながら、ぼんやりと快楽が霧散するのを待つ。

  ずり下がっていたわたしの体を引っ張るようにして元の場所に戻した旦那様に優しく問いかけられて、意味が理解できたので正直に答えた。

  「うん。ちゃんと伝えてくれて助かる。いい子だアナ」

  よしよし。と大きな手で頭を撫でられて、その久しぶりの普通のスキンシップにへらりと口角が上がる。

  ずっと頭を撫でてくださったらいいな。と自分の仕事も忘れて幸福に浸っていた。だからまたしても、もう片方の手が熱い疼きを繰り返す所へ伸びていることにも気が付けない。

  「……しかし、やはり固くなっているここがいいのだろうか」

  「――ゔきゃぁッ⁉」

  ずりゅ♡とでっぱりが挟まれるようにして指二本が滑っていき、開かされた足が一瞬真っすぐになる。

  リアン様は顎で器用にわたしの肩を抑えることでわたしを動けないようにしながら。低い声で悩むように呟いた。問いかけの形でも独り言のように。

  「私としては、この後のこともあるしナカで良くなって欲しいのだがな」

  「まッ⁈ ゃああ゛ッそこッ♡や゛、まって、ぇッ!!」

  肉芽を挟んでいた二本指がそのまま肉の隙間に入り込む。奥に溜まっていた蜜がごぷり♡と音を立てて溢れ出した。

  指先は狙いすましたかのように、熱く敏感になっている所を男の力でぐりぐりと強く指圧し、それからまるで――「怖かったな」と謝罪するかのように、すり♡すり♡と優しく愛撫する。

  その緩急が、信じられないほど鋭く体に突き刺さるようだった。

  悲しくもないのに、視界が潤む。

  「ぁあ♡や゛あぁッ♡」

  「どちらが好きだ? 教えてくれるか?」

  頭蓋を撫でる低く暖かな声。

  ガタガタと自分の足が震えている。その中央で蠢く旦那様の手。ごつごつしていて、筋が浮き上がっているのが――古傷だらけな所も含めて、ずっと格好いい。

  どちら、と言われても。

  「は、ぁゔッ♡りッ、~~ッりあ゛んさまの、手が、」

  その大きな手が触れるところ。ぜんぶ。

  「あッ~~ぜ、ぜんぶ、きもちい゛♡から゛ッやめ、――えゔッ!」

  何とか正直に言い切ると、すかさず握りしめられるかのように強く片腕が締まって、側頭にリアン様の頬がくっ付く。強い力でぐり、ぐり、と頬ずりされながら。

  「ッ、まったく、君には何一つ敵わない……」

  「な゛、リアン゛さま……ッ?」

  何一つ敵わないのはどう考えてもわたしだと思う。

  すべての動きが止まったので、霧散していく快楽の隙間。冷静にそう思った。

  「でも。ふふ、そうだな。どちらも一緒が一番いいに決まっているな」

  「あ゛ッ、あの゛! もゔ、やめ゛、ぇぁあ゛ッ♡~~ッ゛♡!!」

  一緒に頭を傾けながら。笑う旦那様には嫌な予感が染みついていた。

  案の定。すべての動きがぐじゅ♡ぐじゅ♡と再開して……やはり緩急にわたしは弱いのだろうか。さっきよりもずっと、張りつめるのが早い。

  問いかけられ、正しく答えられて。頭を撫でられていた時はあんなに幸せだったのに。

  今も痛むわけじゃないけれど、それでも言葉が――意図的に――通じず、意地悪されると怖くなる。

  「ン゛ぐ、ゔッ♡――ぁ゛あ゛ッ♡!!」

  怖いと思っているのに、わたしはあっけなく腰を震わせて、みっともなく弾けてしまう。

  ぎゅっと旦那様のシャツを握り締め、そこを支点にへこへこと腰を震わせて。

  弾ける直前まであんなに苦しいのに、これでは自分からナカに指を擦り付けているみたいで恥ずかしい。

  どんどん早くなる絶頂。話の通じないリアン様。

  果てたあとの浮遊感と、押しつぶされそうな自己嫌悪。

  潤んでいた視界は一度瞬くとあっけなく決壊し、頬を滴が滑っていくと許されたみたいに、あとからあとから涙が出てくる。

  

  「――ッ゛……ふぐ、……ゔゔ~ッ」

  「ん、あッ、――いや。泣かせるつもりは、ああ……すまない」

  完全に俯いてボロボロ涙を零すと、あんなに頑なだった両手がサッとわたしから離れた。

  けれど度重なる強張りと解放のせいで眩暈がちなわたしを支えるために、片手だけすぐに帰ってきて肩を掴む。

  わたしはその、久しぶりに自分の意見が通りそうな雰囲気をしたたかに感じ取って、思いついたことから口に出していた。

  「うゔ、だめって、い、いけません゛って、言いました、のに゛……なんどもッ」

  「な、泣かないでくれ……少しだけ休憩しような……」

  「~~ッ゛ゔゔ……はぁ、ッぜっちょ、? の、せいで、……お、お腹が、つら、辛いの、です……ッ」

  快楽やはしたなさを横に置いても、〝絶頂〟という現象はとても筋肉を使っているのだと思う。それで疲労感のような重たい熱が、ずっとお腹の奥で渦巻いて消えないのだ。

  「ああ、それは――……えーっと、あ。成長痛のようなものかもな。君は今、たくさん成長しているから」

  「ッ、――せい、ちょう?」

  ぴたりと涙が止まる。

  ……この熱が、まさか『温める』の本質なのだろうか?

  「私の為に、正しく努力出来ている証拠だ」

  「どりょ、く……」

  心配そうで、けれどどこか誇らしそうでもあるお顔。

  泣いていたのもあって巻き込んでいた肩の力がふっと抜けるようだった。これまで恥ずかしかったことも、今少し辛いことにもすべてに意味があって、報われたかのような。

  旦那様の膝上で身もだえ、唸り、果てのたびにだらしなく脱力して……こんな有様でも、言われればすべてがとても正しかった事に思える。

  よかった。と思って力を抜くと、肩を支えていた手で涙を拭われた。感謝を示したくて無意識にその手を視線で追っていると――その手はまた、わたしを抱きしめつつ動けなくする強固な拘束へと――胸周りへと戻っていく。

  お腹が熱くて辛いのは成長痛。正しい努力の証。……それで、この休憩の後は……?

  「あ゛――ゃあ゛ッ♡⁉」

  泥濘は揃えられた三本指を一切拒まなかった。

  ぬるりと入り込んだ指がぐぷ……♡ぐぷ……♡と、ゆっくり――リアン様曰く、ナカの〝膨らんでいる所〟を撫でると、またお腹に力が入って辛くなる。男の指三本なんて見ているだけでも恐ろしいほど太いのに。

  広げられた浅瀬さえ、不思議な快感を発生させていて足先がギクリと動いた。

  ほんの少しの動きなのに、響く甘苦はなんだか分厚い。

  「……よし。休憩は終わりだ」

  心配そうにしていたはずのリアン様は、一転。意地悪な微笑みを浮かべていた。喋るたびに覗く獣の牙、その奥の赤は何処か愉悦を湛えてわたしを見下ろしている。

  「そ、そんな゛……ッ♡」

  ほんのさっきまで達成感に包まれていたのに。これでは何か――騙されれている様な。

  でももう、何が嘘でどう騙されているのか、わたしには全く分からない。

  「さあ。努力の成果を、もっと私に見せてくれ」

  指の動きはどんどん早くなり、わたしはまた、成す術もなくリアン様の腕の中で絶頂を迎えてしまう。

  ………

  ……

  …

  「はぁ、はぁ、あ――」

  「――アナ」

  気が付けば、膝の上ではなかった。

  足を開いた仰向けで、立てた膝の間にリアン様がいる。

  「温かく……なりましたか……」

  「ああ、十分。よく頑張ったな」

  俯き加減の朝焼け色の瞳が射貫く先。

  わたしにも見えるように下腹部に乗せられた旦那様の欲熱は……おそらく三年前の時より大きい。

  戦争を経てお体が二回りは大きくなられたのだから、当たり前と言えば当たり前かもしれないけれど。

  反り返るそれを体に重ね合わせるようにして、真顔でしばし固まる旦那様の思うことは理解できる。

  その長さ、天を向く先端の冠のどっしりとした質量は、正直わたしも少し怖い。

  それでも、何が起こるか知らないまま、初めて絶頂に向かっていく時よりは怖くなかった。

  たとえ痛み、裂けるとしても――やっと。という安堵と歓喜の気持ちが強い。

  子種よりも何よりも。少し前から、ぎゅうぎゅうに強張る蜜壺の中を、もっと大きなもので一度広げて欲しいという不思議な欲求があったからだ。

  「リアン、様。どうぞ……」

  わたしは彼の腰に触れていた膝を少しだけ開く。真顔だった旦那様も緩く瞬きながら頷いて。

  思い返せば、わたしはいつでも急かしている。

  でも、今は少し違う――教本もヴァルデリウスの未来も、今この瞬間だけはどうでもよかった。

  「来て、ください……」

  リアン様と、早く一つになりたい。

  この時の為に、あの厳しい冬を何度も超えてきた。そう思えるほど何故か飢えていて、二人一緒にいるのに、この瞬間――どこか寂しい。

  その寒さを察してくださったのか。旦那様は自身の先端を入り口に宛がいつつ、前のめりになってわたしに覆いかぶさった。

  

  「……しかし、痛む場合はきちんと言うこと」

  「ッ、~~ッ゛は、はい……ッ、」

  わたしは頷く。「分かったな」と囁かれると同時に、先端は肉の隙間に入り込んで、ぐちゅ♡と音を立てていた。

  ぐ……っ♡と体重を掛けてゆっくりと通過したのは、初夜の時に旦那様に捧げたところ。その窄まりを一番太い所が痛むことなく超えたのだから、きっともう大丈夫……と、おそらくリアン様も分かってくださったと思う。

  そのまま、指でもって掻き混ぜるように広げられていた所よりもさらに奥。こんな体の奥深くまで受け入れることができるのかとびっくりするような所まで、リアン様は腰を沈めていく。

  みちみちと広がる圧迫感は、けれど緊張や――感動のせいだろうか。あの甘重い感覚を薄め

  て、ただひたすらに熱い。

  旦那様はゆっくりとわたしの顔の横に肘をついた。良い意味で険しいお顔が、ぐっと近くなる。

  「――ッ、アナ、大丈夫か」

  「――は、はぁ……ぜんぶ……?」

  

  二人とも、息を止めていた。同じタイミングで呼吸を思い出し、至近距離で吐息が混ざり合う。

  「……いや、行き止まりを感じるから、ここまでだ、……ッは、」

  男らしく盛り上がった喉仏。そこに汗が一筋流れて首筋の火傷の痕を撫でていく。

  獣の唸るような声がして――その男らしさに、胸の奥がぎゅっと締め付けられるようだった。

  やっと訪れた『夜の始まり』。

  けれどわたし達はそのまま……リアン様は動くことなく……お互い微笑み合い、ゆっくりとした瞬きだけで会話をするかのように、しみじみと見つめ合っていた。

  「……ん」

  「……、ふ……」

  暗い天蓋のなかで、わずかに光を集める黒灰色の髪。戦場の壮絶を物語る頬の皺はまだ取れないけれど、精一杯穏やかな表情になっているのが分かる。ぱちん。とまた金の瞳が瞬いて……。

  ――どちらともなく汗ばんだおでこがこつん。と触れ合った。

  「……愛している。アナスタシア」

  「わたしも、……ジュリアン様。愛して、います」

  角度を変えながら近づく唇にわたしも力を込めて近づいて。

  かぷ♡と重なったそこは初めから隙間が空いていた。どちらともなく舌が伸び、お互いの唾液を混ぜ奪い合うかのような淫靡な口づけを繰り返す。ぢゅう♡ちゅ♡と音を立ててキスしながら――境目が分からないほど溶け合っていた剛直が、ゆっくりと後退を始める。

  「あッ! んッ、ゔ、ッ♡~~ッ゛♡」

  体の内側から引っ張られる感覚。けれど不快ではない。

  一つになりたい、リアン様で一杯になってみたい。そんな風に思っていたけれど、彼の熱は、動き始めた瞬間。予想よりはるかに太く感じた。

  初夜の時よりも……ナカの引っ掛かりが多い。その引っ掛かりを一つ、二つと超えていくたびに絶頂しかねない快感が、お湯を零したみたいにお腹に広がって――。

  「はッ、ぁあ゛♡ゔ、ぅッ♡――ッあ゛あ゛♡!」

  あの肉芽を撫でられている――刺されるような衝撃とは違う、重くてべったりとした快楽。

  それらは常にわたしを強張らせて、ほんのわずかな刺激――例えば、ゆっくりと引いていった旦那様が、またゆっくりと肉壁を割り開き挿ってくる――そんな夜伽としては当たり前の動きで、プチンと弾けて絶頂してしまう。

  「~~ッんん゛ッ♡!! ッあ、ぁ♡ああ゛、んん゛ッ♡」

  クッションを握り締め、背を反り、リアン様を拒むかのように足を閉じてしまって。

  決してそんなつもりはないのだけれど、やはり腰を挟めば優しい旦那様はわたしが落ち着くまで待ってくださる。

  「あ♡ぁゔ、ふ♡ん゛ッ♡~~ッ゛あ、あ゛ぁッ♡」

  ゆっくり動いて、わたしばかりが騒ぎ、果てる。そのたびに旦那様は、わたしを労わるために留まって……。

  それを数回繰り返し、わたしは並々与えられる快楽の隙間。申し訳なさで一杯になっていだった。

  止まるたびに我慢するような吐息が頬を撫でるし、微笑んでいらっしゃるけれど体は小刻みに震えているように思う。上からぽたぽたと汗が滴って……。

  ――わたしが「早く」と唆したくせに、わたしのせいで夜伽が進まない。

  きっとリアン様は苦痛の檻の中にいるのに。解放されるには、わたしがきちんとしないといけないのに……。

  「んゃ゛あ゛ッ♡あ、あゔゔ~ッ♡」

  しかし旦那様がまたゆっくり動き出したら、わたしは茹った声を上げるばかりで何一つ抗えないのだ。

  今は始まった時のような入るだけ押し込み、すべて抜く。というピストンではなく、「ここまで」とされた一番奥のわずかに手前。そこに剛直が留まるだけでも足先までむずむずが広がるような、そんな所を先端の膨らみで執拗にぐちゅ……♡ぐちゅ……♡と撫でられている。

  すべてがゆっくりで、わたしの為の動き。

  けれど――果てに向かって強張る体で、わたしはやっとのことで顔の横についた旦那様の腕に、顔をぐりぐり擦り付けることに成功する。

  「――ご、ぃッ」

  「ん、」

  「うごい゛、て♡くださ、ッりあ、ん゛ッさまの、お好きなッように……」

  ぴたりと空気が止まる。深刻な雰囲気ではなく、悩みと矛先を定めるためのわずかな小休止。

  

  「……しかし……きっと――まだ、辛いだろう。もう少し慣らさねば」

  「い、いえ、ほんと、はッ……すぐ、わたしがこ、堪えなければ、いけないのです、」

  「……そうか」

  すんなりとわたしの要望が通ったことにわずかに驚くと同時。

  顔の横の腕が離れて、クッションを掴んだ右手と胸元にあった左手を掬い取られた。

  手のひらを重ねるように繋いで――また肘を顔の横に。わたしは半端な万歳のような状態になる。

  指の股をぎゅう、と握りしめられた瞬間。たん♡たん♡と、これまでよりもずっと早い抽挿が始まった。

  「あ゛ッ⁈ あ゛ッ゛、ゔ、ん゛ッ♡~~ゔゔ、ぅ゛あッ!」

  一層近くで感じるリアン様の汗の匂い。

  押し込まれる体重を感じた瞬間。お腹にぎゅう♡と力が入るのが分かった。

  密度が上がり、旦那様の欲熱の形がはっきりと分かる。

  押し込まれた先端が引き抜かれると、ザラザラしたような強い刺激が頭の中に広がって、圧迫が消えたところに、すぐさまごち♡と剛直が戻ってきた。

  自覚した引っ掛かりに先端の冠が触れるたびに足に力が入ってしまうけれど、それを無視して打ち付けられる信頼が嬉しい。突き上げられるたびに胸が一杯になって、頭の中が真っ白になっていく。

  「ゔぁ、あ゛ッ♡あ、んん゛ッ♡うゔッ、んん゛ッ♡!!」

  強張るところを無理やりこじ開けられ、自分では制御できない頭のどこかが弾ける。

  解放の後もお構いなしにリアン様が動き続けているから、蜜壺の不思議な戦慄きを感じていた。肉の隙間が雨上がりの泥土のように吸い付いて、隆まりが動くたびにうねっているような。

  「~~ッ゛は♡ぁッ♡ぁあ゛♡んぁ゛ッはぁ、あ゛ッ♡」

  そんなことを感覚で感じ取りながら、わたしはほとんど理性的な思考を手放していた。

  解放感が少ししかなくて、〝気持ちいい〟が終わらない。

  休憩もなしにまた強張っていくのは怖いけれど、その先にはあの恍惚の白が待っている――。

  打ち付けられる腰もどんどん強くなって、わたしは三年前を思い出していた。

  ぐ、ぐ、と足から全身を圧されるばかりの衝撃。けれど今は、はしたなくなってしまった蜜壺の中を出入りする、その高ぶりがよく分かる。

  ごちゅ♡と最奥まで貫かれて、ガリガリ♡と音を立てんばかりに痺れる所全部を引っ掻かれて。

  「はァ、はッ」

  「んん゛ぐゔ♡あッあぅ゛ッ♡」

  つないだ手に再びおでこをくっ付けて、体がバラバラにならないように祈りながら縋り付く。

  そうして必然的に空いた首筋――肩に、リアン様はいきなり噛みついた。

  「ッ゛⁈ やぁあ゛ッあッあ⁉」

  大きな犬歯が先に肌にめり込んで、噛み締めるあごの強さが肉を圧迫する。

  びっくりして悲鳴を出してしまったけれど、致命的に痛いわけではない。口の中を舐められたときと同じく、どうして? と思うだけ。

  それに肩と言っても首に近い所で、鎖骨と大事な血管を避けた絶妙な位置だと何故か分かっていた。

  段々力が籠っていく牙は、思い出したかのように力が緩み、そして段々力が入って、また緩む。ある意味咀嚼のようなそれは、わたしの肌を破かないような配慮を感じる。

  「ッ? あ゛ッ!やぁ、あッ♡んッ♡――ん゛ッ゛♡!!」

  噛みつかれ、血は出ずとも熱く熱を持つ肩。不思議で背徳的な高揚感に、それだけで身もだえてしまいそうだった。胸元を滑っていく獣の唸り声に、どうしてこんなに心を溶かされるのだろう。

  ばち♡ばち♡と肉のぶつかるほど強く腰を打ち付けたあと。密着した奥の奥で熱が弾けるのを感じて、どくッどくッと熱が中で脈動する。

  「ぐぅ゛……ッ」

  想定よりもずいぶん長い時間があってから、旦那様が最奥で子種を吐きつくしたようだった。

  肩に食らいついていた歯が離れ、ずるり、と熱が抜ける。

  と、正しく栓が抜かれたように、ごぷ♡と音を立てて子種が零れていった。

  動かず留まっている間。理性が戻ってきていたわたしはどうしよう! と発作的に思って、それを阻止すべく起き上がろうとしたけれど……ベッドに手を縫い付けられていて、足も閉じられないしどうにもできない。

  

  わたしが流れ出ていく大切なものをどうしようか迷っていると、放出の疲労から帰って来られたリアン様が息を飲む。重ね合わせた手がするりと離れて。

  「――、肩ッ! そんなっすまない、ああ、痕が――痛かっただろう」

  「ぇ……いえ……? 加減して、くださったではないですか。骨を、避けてくださったので、そこまで痛くは」

  「ああ、どうして私は、クソ、痛いに決まってる。手当てをしよう、ここで待て、」

  「まっ、そ――そんなことおっしゃらないでくださいっ」

  悔しそうに髪を掻き上げ狼狽える旦那様を、わたしは咄嗟に宥めていた。起き上がり、髪を掻く腕に触れて。その声は自分でも驚くほど必死に響く。

  「わたしっ……その、」

  「?」

  「ぇっと、食べられてしまいそうで、す――少し、嬉しかったのです……」

  「……『怖い』ではないのか……?」

  息は整いつつあったけれど、ドクドクと鼓動がまだ収まらない。肩の赤を手を撫でる。

  噛みつかれて怖いはず。今も肩が斑に熱い。旦那様の信じられないと言わんばかりの声にも理解できる。

  それでも、なぜか――リアン様のお顔が近づき傾いて、口を開いて牙が肌に触れる。そしてどんどん力が強くなって……下半身でも受け入れている状態で逃げ場がなくて――それはまるで、「私のものだ」と無理やり体に教え込むかのような熱い時間。

  思い出すたびにお腹がぎゅっとする。せっかく頂いたものが溢れるから、そこに今力を入れたくないのに。

  嫌悪なさる獣の衝動だとしても、わたしは……。

  「怖く、ありません。つぎ、があるなら、また、か、噛まれたぃと、思いました……」

  言い切れば、汗で冷えていた体に火が灯る。

  羞恥を顔に塗り付けたみたいに一気に恥ずかしくなって、両手で顔を覆う。

  「~~ッうう、なんて恥ずかしいことを……う、嘘ではありませんが、忘れてください。い、今のわたしは、おかしいのです」

  それから、はぁっ、と大きく息を吐き、無理やり冷静になった。

  どんな反応が帰ってくるか怖かったのもある。こんな道徳の欠陥。嫌われてしまうか……少なくとも好感度が下がるなどするかもしれない。深刻な事とせず、この話を速やかに流す。

  さっき一瞬見えたけれど。今も〝そのまま〟なら、わたしが駄々を捏ねている場合ではない。

  「とにかく手当てはいりません。その、察するに、まだ……」

  と、抜かれた時から硬度を保ったままの剛直を見つめる。

  わたしとリアン様の体液でぬらりとしたそれは、わずかに湯気を立てていて――ついさっきまで私の中に納まっていたとは信じられないほど雄々しい姿をしていた。

  旦那様も困惑と受け入れの果てに冷静を取り戻したようで、視線を下げ自身の熱を確認し、少し照れたように首を抑えた。

  「ずいぶん……久しいからな……」

  「あの、では、もう一度……」

  「……――ああ、しかし、無茶はするな。無理になったらちゃんと、」

  「報告、いたします」

  「心地いい時もだ。その瞬間に。できるな?」

  リアンさまはわたしの目尻に残った涙の残りを親指で拭い、そのまま頬をすりすりしながら。

  優しく問いかけると体の芯に残った熱が幼く蕩けていくみたいだった。

  夫人にあるまじきへらりをした笑顔で、わたしは確かに頷く。

  「はい」

  ………

  ……

  …

  一刻も早く終わらせて、一緒に抱き合って眠りにつきたいと思っていたわたしは何処へやら。

  まだ続くこと、求められていることが嬉しくてたまらなくて、リアン様の顔が少し近づいただけで唇を差し出してしまうほどだった。

  「あ゛ッは、~~ッ♡ゔ、きもち、です、ゔッ♡きもぢぃッ♡」

  「は、……ああ」

  優しく始まるそれは次第に強く激しい揺さぶりになっていく。

  何度も緊張と弛緩を繰り返し、悲しくもないのに涙を流して。その言い訳が――悲しいわけじゃない、続けて欲しいという意図が――伝わっただけで旦那様をいつもよりずっと愛おしく思う。

  「や゛ぅ゛、あッはぁッ♡あッ! んん゛――ッ゛♡!!」

  「……ぐ、……ッ」

  ややあって、またがぶり。と噛みつかれる。その衝動的で雄々しい仕草が、きっとわたしは好きなのだろう。絶頂を繰り返しズクズクと疼く全身に、さらになんとも言えない愉悦が混ざる。

  重ね合わせた手からなんとか力を抜き続けることで「痛くありません」を伝えていると、牙が離れていく。また痕が残ったらしく、少しヒリヒリする肩を舐められながら……二人で息が落ち着くのを待つ。

  「……アナ……」

  「は、リアン様……ん、」

  子が出来やすいようにだろうか。ドクドクと剛直が脈動を繰り返すあいだ、あまり腰を動かさないようにしつつ……抱きしめるみたいに密着した旦那様と、顔をこすり合わせて口づけを繰り返す。

  伝えたい愛おしさが伝わり、リアン様も同じように思ってくださっているのが分かる。

  なんて幸せなのだろう。ずっとこのままがいいな、なんて茹った頭で妄想していると。

  その思いが通じてしまったのだろうか。蜜壺に埋まった熱杭は、二回果てても何一つ変わっていないように思った。

  「まだ……?」

  「……は、――はぃ……ッ、」

  まだ大丈夫か、という問いにこくこく頷く。

  感謝されるみたいに、甘えるみたいにまた一つ口付けて。生来の厳しいお顔で細くなった金色に射貫かれると、お腹がギュッと辛くなる。

  鋭い顎先についた汗の滴が、とても官能的だった。

  そしてそのままもう一度。何度繰り返すにしても、しなくてはいけないちょっとした後始末をしないままなのが、なんだか――獣っぽくてドキドキした。

  「あ、ッ♡それ゛♡~~ッ゛きもち♡ぃ゛ッです、」

  とちゅ……♡と、ゆっくり一番奥まで先端が進み、ずろろ……♡と引き抜かれる。

  もはやどこに触れても敏感になっている最奥が寂しく戦慄いた瞬間に、またごちゅ♡と、求める所を剛直で一杯に満たされて。

  「あッ♡!! ~~ッ゛♡!! ぁあッ、あッ゛♡!!」

  動きは早くない。圧迫されているわけでもないのに、声ばかり大きくて一瞬恥ずかしい。けれど直後にたちゅ♡たちゅ♡と早めの抽挿が始まったから、わたしは何が恥ずかしかったのか分からなくなる。

  腰も足も、リアン様と密着している所がお互いの体液でぐちゃぐちゃになって、ぬるぬるの肌を腰り合わせるのがこんなに心地いい……。と、その時。

  「ゔゃあッ⁉⁉」

  旦那様がいきなり前のめりになった。繋がったまま圧迫されるかのように背が丸まり、お尻が完全に浮いている。

  痛くないのが信じられないほど深くにめり込んでくる圧迫感に、快楽よりも驚愕が大きかった。

  目の前がチカチカするほど驚いて――その不思議な光が晴れたあと。

  「 ――ッ??」

  何やらわたしの斜め上をゴソゴソしていた旦那様は銀のゴブレットを持っていた。それをくっと煽る。

  その様子は、一枚の絵にして持っておきたいほど艶美な姿で……わたしはまたしてもお腹がぎゅっとなってしまう。つながったままだから、お腹に力が入るだけでもわずかに気持ちよくて、わたしはこっそり鼻から息を吐いた。

  湯冷ましだろうか。冷えていて美味しそう。飲み終わったら、「わたしにもください」とお願いしよう……。そう思っていたら、リアン様の顔がぐっと近づいて、冷たく湿った唇が重なった。

  「ん゛ぅ……⁈」

  意図を察する間もなく、じゅわりと水が溢れてくる。

  外気でキリリと冷えたそれに、わたしはこれ以上ベッドを汚さないように、咽ないように、旦那様に「拒まれた」と思われないように――同時に考えながら口を開いた。

  気管に入らないようわずかに頭を上げ、自分から吸い付くようにしつつ。息を合わせて受け取り……ごくりと飲み干す。と、ヒリヒリしていた喉が冷えて心地いい。

  「美味いか?」

  「~~ッ゛、もう……! 一人で飲めます……」

  誇らしげに問いかけられると、なんだか悔しいような気持ちになる。

  なので困ったように言い返した。すると表情はそこまで変わらなかったけれど、興奮でピンと尖っていた狼耳が力なく垂れて……。

  「そうか……」

  「ぁ……ですが、まだ……もう一口欲しいです……」

  そんな様子を見せられては、わたしは自分の口内を晒すようにしながらそんなことを口走ってしまう。

  それにしても今日の私はどうしたのだろう。「噛まれたい」などと白状したさっきも。口移しなんて赤ん坊にしかしない事なのに。

  旦那様がただ寂しそうにしただけで、いつもはこんなことは思いつきもしないのに……。

  でもはしたない事を強請り、それが受け入れられた瞬間が、何事にも代えがたいほど嬉しくて、胸の奥がゾクゾクしてしまうのだ。

  いけないことだから、きっとこんなに好いのだろう。

  リアン様からまたお水を頂き、冷えた口内がまた温かくなるまでキスをしながら。

  明日からはちゃんとしようと思う。

  明日からちゃんと貴族夫人に戻るから、だから今だけは、甘えることを許してほしい……。

  そして、しばらく――いやそれなりに長く時間がたった……と思う。

  ぐちゅ♡ぐちゅ♡とわたしが気に入った所ばかりを撫でられ、甘やかされながら。

  重なった手を弾けるたびにぎゅっと握りしめ、首や肩に勲章のような噛み跡が増えていく。

  ……水分補給をして、それから……今は、なんどめだっただろう。

  旦那様の熱は収まらず……むしろはちきれんばかりに常にドクドクと脈打っている気がする。

  並々と注いでくださるのは嬉しい。何度でも求められることは良き妻としてもいいことだろう……でも流石に……たとえば体を打ち付けて腫れてしまったところの、その腫れがいつまでも収まらないような。そんな嫌な予感が、じわじわと夜の空気を染めていくようだった。

  出す量も三年前よりずっと多いし、このままではリアン様が干からびてしまう。

  「はぁ、……まったく、君が、愛らしすぎるから……?」

  「は、はぁ……ッそんな、ことは……?」

  心配、好奇心、期待、不安。すべてを混ぜ合わせながら二人で「?」を浮かべていると。

  

  弾かれたようにリアンが首筋をバシリと押さえた。

  そこにはかつて軍によって皮下に埋められた電極がある。

  前線にいた時は、そこから眠れなくなるような――興奮させる何かしらが出ていたと、少し前に話してくださった。

  終戦を迎えても、「廃人になる恐れがある」と取り外せなかった首を這う黒い筋。

  今はその出力を抑えるような処置がされて、入眠困難という程度に効果が治まっているらしいけれど……目の前には、見たことがないぐらい汗を掻いている愛しい人。時間をかけた夜伽のせいで興奮状態が長く続き――誤作動か何かで、その欲熱が収まりにくくなっているのではないだろうか。

  蜂蜜色の瞳が見開かれていたのは一瞬。

  すぐにわたしよりも正しい理由に行き当たった旦那様が険しい顔になり、覆いかぶさるようだった上体を起こした。

  「――ッ忌々しい……!」

  鼻まで皺をよせて狼の唸り声と共に恨みを吐いた旦那様。わたしの胸元に向けられた視線は、しかしご自分の中に向いているのだろう。

  眉間の皺は取れなくなるほど深く寄り、悔しそうに細く開いた瞼の隙間。呼吸のたびに瞳孔が小刻みに震えていた。

  

  わたしはその長い刹那を――わたし自身がそれなりに疲労しているというのもあるけれど――大人しく待つ。このあとのこと、一つの方針を心に強く秘めながら。

  ややあってハァ。と大きなため息を吐いた旦那様は、今度こそ横たわるわたし見て、お腹を見て……それから諦めたように目を閉じた。

  「すまなかった」

  再び上体を倒し、一度だけわたしのおでこに――まるで寝かしつけるみたいに口付けて。

  腰を引いてナカから引き抜こうとするのを、わたしはすかさず力の入らない足先をリアン様の腰にからめ、なんとか阻止しようとした。

  「だ――、」

  思う以上に足は動かず、踵が旦那様の足に当たる程度。それでも留まってくださった。ぎゅ♡と力の入ったお尻のせいで、蜜壺にじんわりとした熱が広がる。

  「大丈夫、です。続けてください」

  「しかし……」

  「まだ大丈夫です。わたしも――この四年近く……早朝から働いて、ずいぶん体力が付きました。まだ、う、受け止められます」

  「……アナ、」

  「その、夜の――かっこいいお姿も、リアン様です。お慕いしております」

  「……ありがとう。しかし、」

  「今止められては、とても苦しいのではないですか。一度、きちんと解消しましょう」

  「いや、そんな……」

  「お供します。い、いくらでも――ずっと、」

  それから、それから。と悦楽で散々掻き荒らされた頭の中を弄って言葉を探す。

  だってこんな終わり方。とても寂しい。

  もちろん夜伽として、するべきことは十分なほど為されたと分かっている。それでも絶対に、ここで引いてはいけない。

  彼が首筋を押さえ――この異常な熱は愛ではなく忌々しい過去に強制されたものだった。とわたしが理解した瞬間から、ここで踏みとどまると決めたのだ。

  こういう時に相手の目から視線を逸らしてはいけないと学んだのも、ここヴァルデリウスに来てからのこと。

  わたしの譲らない姿勢に――旦那様はほんの一瞬眉を下げたように見えた。けれど瞬きの間にいつもの険しい顔に戻る。

  「分かった……ならば、せめて君の良いようにしよう。アナ」

  その表情に恨みや困惑はもうない。旦那様の中でもきちんと考え、耐えられるとわたしに太鼓判が押されたのだと思うと、とても誇らしい……。

  そうと決まれば。そんな雰囲気で、ぐぐ♡とさっき引き抜かれた分が肉を割り開いて戻ってくる。

  「あ♡いっ、今のままでも……!」

  旦那様はその先端が届いているであろう所。お腹の上をトントンと指先で優しく叩いた。

  「君が気持ちよくなれば、具合が良くなる」

  ぐあい。……今もわたしとリアン様の熱と体液が混ざり合って、どくどくと脈動しているお腹の中。

  「それは、私にとってもたまらく気持ちいい、」

  熱に浮かされたように笑う、その唇の隙間から、ハァ、と吐息が零れ落ちる。

  わたしの胸元を撫でていく風となったそれは、顔に届いても尚ぬくもりがあった。

  「きもちいい……? リアン様も……?」

  「そうだ、今も……」

  言われてみれば夜伽とはそういうものであった気がするけれど。わたしは口に出していた。

  しかしわたしのように体を赤くすることもなく、汗ばかり掻いて険しいお顔をしていたから。旦那様も快楽を得ている。と、どうにも思い至れなかったのだ。

  リアン様はわたしに覆いかぶさり、また手を重ねるように繋いでから。口端を上げて「なんだ、知らなかったのか?」 と片眉を上げる。

  わたしは「知りませんでした」と素直に白状しつつ、最接近した唇――意地悪に上がった口端に、唇だけで噛みついた。

  はぷ、と間抜けな音が鳴る。お返しと言わんばかりに、すぐに旦那様が何度も口付けを返してくれた。

  お互いの吐息が混ざりうほど近く。リアン様は唇をわずかにくっ付けたまま囁く。

  「まだまだ長いだろうが……。頑張れそうか? アナ?」

  「はい、ご期待に沿えるよう……頑張ります」

  ………

  ……

  …

  わたしが気持ちいいように、旦那様が動きやすいように。

  どちらかが果てるたびに、向かい合う体位から、少しずつ体勢が変わっていく。

  「あ♡きもぢぃ♡そこすきッです♡すき、」

  「は、臍の、ところか……同時ならどうだ?」

  膝にお尻が乗るような、背を反る体位。背骨側よりもお腹側に痺れる所が集中しているみたいで、そこを先端でゴシゴシとされるのが好きだった。

  器用に腰を揺らしながら――見せつけるみたいに開いた股の間のでっぱりを旦那様にすり♡すり♡と撫でられると、伸びきっていた足がぎゅと丸まって、その横腹を叩いた。

  「きゃぁ! あ゛ッあ゛ッどじ、だめ♡ぇまって、ッやぁあ゛ッ♡!!」

  「く、絞まる――そうか、良いな」

  「~~ッ゛♡!! んゔ、ゔぅ゛~ッ♡!!」

  肉芽を弾かれて、旦那様が仰ったとおり肉の最奥が絞まった感覚があった。強張ったそこ――わたしが今さっき「すき」と申告したところ――を、追い打ちみたいにぐちゅ♡ぐちゅ♡と揺すられる。

  「ゔゔッ♡ん゛ッぁや゛ぁッ♡あ゛ッ♡」

  「はァ……こら、良いのだろ……逃げてはいけない……」

  濃厚な快感に眉間を寄せた。その瞬間には弾けている。引き寄せた足をまた伸ばしながら。旦那様の指から逃げるように腰を震わせて。

  気持よくても、絶頂の直後は少し嫌かもしれません。そんなことを言う間もなく、口からは甘ったるい声ばかりが出ていってしまう……。

  「ぁあ゛ッ♡あ゛ッ♡それ゛ぁ゛ッ♡ぁゔ、ん、ぐぅぅ゛ッ♡」

  後ろから、獣のように押し掛かられた時もあった。

  ばち♡ばち♡と大きな音を鳴らして腰を打ち付けられる。その雄々しさにドキドキして、もちろん「気持ちいいです」「すきです」と伝えていたけれど……。

  長く引き抜き、そして押し込む動きでは、強張って解放されるまでわずかに時間がかかると見抜かれてからは体勢が僅かに変わった。

  「こちらの方が好きだろう? アナ」

  「あッ♡んん゛ッ♡!! ぁ゛ああ゛ッちぁ゛――あ゛ッ♡」

  「ああ、そうだろうと思ったんだ、はッ私も好きだ……」

  大きな体でのっしりと後ろから覆いかぶさって、上からベッドに押し付けるように手を握られて。

  そのまま少し腰を落として密着すれば、わたしはもう逃げられなくなる。絶頂の時にわずかに背を反れるか。という程度で、それも旦那様が果てるときに肩を噛まれてはうまく出来ない。

  リアン様が良さそうにしているなら、わたしの絶頂は肯定される。上からお腹を突き破らん角度で最奥を苛める剛直が怖くても、いつの間にかどんどん長く、深くなる解放に頭が完全に真っ白になるのが怖くても。

  その分厚い体に包まれたまま、その腕の中で〝気持ちいい〟を感じることしか出来なくて……。

  「あ゛ぇ゛ッ♡あ゛ッ♡!! ~~んあぁ゛ッ♡!!」

  四つん這いであったはずが、いつの間にか完全にうつ伏せになっていた。

  追いかけるように旦那様がわたしの背中にぴったりとお腹をくっ付ければ、それだけでわたしは何からも逃げられない。

  「――ッ゛♡!! あッ♡ぁあ゛ッん゛ッや゛、」

  蜜壺の中にある引っ掛かりを先端の肉の冠で引っかかれるのは、伸びきった足先がバタついてしまうほど気持ちよかった。

  解放の最中に容赦なく泥濘を剛直でいっぱいにされて、ズク♡ズク♡と戦慄く敏感な肉で旦那様の欲熱をただ味わうのだって、それだけで涙が出てしまうほど。

  「ゔゔッ♡ん゛ッ、んん゛――ッ゛♡!!」

  耳元に感じるリアン様の少し荒い吐息が、湿った肌を滑っていくたびにときめいてしまって、みぞおちからお腹、最終的にお尻に力が入る。そこを旦那様の筋肉質な体に押しつぶされてしまう……その抗いがたい男性の力に、眩暈がするほど感じ入っていた。

  「~~ッ゛♡!! ――ッ゛♡!!」

  こんなに頭の中がぐちゃぐちゃになる快楽が存在していいのか。そんな問いかけがずっと頭頂に張り付いていて、あまりの嵐にクッションに顔を埋めていると。

  「こら。顔を上げなさい」

  「~~ッガはッぁ゛ぎゅッ♡ふ、ゔゔッ゛♡!!」

  「よしよし。良いのは分かってるから。息だけちゃんとしてくれ」

  おでこを掴まれ、無理やり上がった顔の喉元をすかさず抱えられる。溺れるように正面を向きながら――こればっかりは「気持ちいい」とは一度も言っていない気がする! と目の前から消えない白い光を眺めながら思った。

  でも、やっぱり「すき♡」と言質を取られてしまった腹側はベッドと剛直に挟まれて、毎秒すり潰される快楽を頭に送り込んでいるし――それで絞まる蜜壺は、リアン様の体重でも押しつぶされ絞まっている。

  だから彼にとって具合がいい状態になっている予想はつく。ついてしまうから――。

  「あ゛ッ♡!! ぁあッ゛――~~ッ゛、ッ゛♡!!」

  「ふ、気持ちいいな……」

  愛する人が囁き、笑う。自分で「受け止める」と言った手前強い力で拒否できない。

  ごちッ♡ごちッ♡と容赦なく腰を打ち付けられて――肩に圧迫感。お腹がどくりと熱くなる。

  ………

  ……

  …

  経験したことのない色んな体勢を経験して、今は……幼子が親の膝で抱えられるような、対面の状態になっていた。その幼い羞恥を擽られる体位に何か思う間もなく、わたしはひたすらしがみ付きながら。

  「もゔだめ、~~ですッ! 、も゛ゔおわり゛ですッ♡、もお、お゛ッ♡」

  「いや、しかし、まだ収まらないんだ。アナ」

  「だ、――だって、ぇ゛♡~~な゛ん、どもッ♡」

  「良くないのか? 正直な君が一番愛らしいのに」

  「よ゛ぐてつらい゛ん゛ッです! も♡もうやだ、たすげで♡くださ、まッぁぁ゛……ッ!」

  「………」

  限界の先の先で、普通に泣き出してしまっていた。

  厳しいのはそのお顔だけの優しい方だから、本当の無茶はしないだろう。多くてもあと三回ほどだろう……。

  そんな風に思っていたわたしが間違っていた。

  旦那様はわたしの「気持ちいい♡」と申告したところを意地悪に丁寧にすり潰して、冗談抜きに十回は精を吐いたと思う。それなのにまだ収まる気配がない。

  ベッドの頭の方はあらゆる体液でぐちゃぐちゃになってしまって、今は足元の方に避難していた。ここも汚れてしまえば、寝るところがなくなってしまうのに。

  「やぁああ゛ッや゛ッ、~~ッ゛♡!!」

  大きな手で腰を掴み、意地悪にぐりぐり♡と揺する様にしてわたしを簡単に絶頂に追い込む。

  思えば最初はすべて入っていなかったらしいのに、ずっとまぐわっているうちに根元まで入るようになったみたいだった。最初よりも奥の方を執拗にごちゅ♡とされると、どこで果てを迎えるよりも深く長く快感が続くようで、本当に気が狂いそうになる。今も眩暈が止まらない。

  「~~ッ゛あ!あ、りあん゛さま♡、ゔゔ~~ッ♡」

  「ああ、もっと名前を呼んでくれ」

  「りゃ、ゔッ♡はッ、り゛あ、んッりあ゛んさまッ♡」

  「いい子だアナスタシア。くく。本当に可愛らしい……」

  リアン様はずっと楽しそうだ。どこか吹っ切れたような清々しいお顔で、気持ちいい汗を掻いている様子。そんな上機嫌が近づいて顔こすり合わせ――肩や疲労と汗と涙でぐしゃぐしゃの顔を舐めるように、遊ぶようにちゅ♡ちゅ♡と音を立てて吸い付いていく。

  その調子のいい様子に、わたしは眉間に皺を寄せる。

  「んも゛ッ~~よびッません゛、よッ!はぁ、あッ♡~~ッもうほん゛、む゛り、です、」

  「……うーん。それは悲しいな。もう呼んでくれないのか?」

  「はぁ、はッは、いぃ゛、も゛ッ♡よびませ、ッ゛んッ゛♡」

  「は、いい度胸だ。こんな状態で……」

  お尻を掴んだ手に力が籠る。お互いの汗を混ぜ合わせるかのような、抱き合うような体勢。ごく近くに在る喉がグルと音を立てた。

  その雄々しい仕草全てに、ジクジクと胎が疼く。まるで雛が口を開けて餌を待つかのような、刹那の飢餓。それを見抜かれたのか、或いは反抗したお仕置きか――お尻を掴んだ手で角度を調整して、わたしを引き寄せるようにごちゅッ♡と最奥を貫かれる。

  

  「あ、あ゛ッ♡!! ~~ッ゛♡……ッ゛♡、」

  頭の中が燃え上がり、思わず縋り付いてしまうかのような衝撃の後は、あやすかのようにとん♡とん♡と腰を揺らす。大きく打ち付けなくとも、その緩急でわたしが果てることが出来ると分かっていての動き。

  けれど動きが弱くなったから、迎える解放もシャボンの泡のようにパチパチとしていて儚い。

  わたしの熾火のような反抗の意志は潰えなかった。

  儚く甘い絶頂を繰り返し、ぎゅう、ぎゅう♡と甘く震える体でも、なんとか理論的に思考を進める。

  「~~ッ゛[[rb:だ > ・]]、[[rb:だんな > ・・・]]、[[rb:さま > ・・]]ッ」

  「ぉぉ……ふ。愛しい妻の意思は固いようだな……」

  わたしとしては、我儘を貫く渾身の攻撃であったけれど。旦那様には効いたのか効いていないのか、よく分からない。変わらず自身の赴く愉快のままに笑っていらっしゃるけれど……動きが比較的緩やかなうちに、わたしは必死に息を吸ってさらに説得しようとした。

  「だ、だんなさま、わたしは……ッたくさ、こだねッ、も゛頂き、ましたし、」

  「ひどいな。私のことは種馬扱いか?」

  「ちっ、ちが――違います、ッでも、」

  けれどもやはり得意ではないので、旦那様には効かないようだった。説得力も何もなく、あわてて首を振ることになる。

  緩い動きで、それでも意地悪に微笑みながらずーっとぐちゅぐちゅ♡とんとん♡と腰を揺らしていたリアン様は、突然すべての動きをぴたりと止めて。

  「こんな……おぞましい――欲すら制御できない体を『受け止める』と言ってくれた。『いくらでも』と。私はあれが、本当に嬉しかったんだよ。アナ」

  ぎゅう。と背に回った腕で抱きしめられると、密着した肌からどくどくと心臓の力強い脈動が伝わってくる。

  溶け合うほど強く。でも負担がかからないような配慮を感じる仕草に、肺が重くなるような被害者意識から一転。全身がふわふわの幸福で満たされて、全部全部許してしまいそうな気になってしまう……。

  ――しかし、それも長くは続かなかない。

  止まっている今でもぐぱぐぱと脈動を続け、欲熱を舐めしゃぶり快楽を集め続けている熱いお腹と、力が入らずわずかに痛む足腰がわたしを現実に引き戻した。

  いつだってその全てを受け止めたい。貴族として妻として、『抵抗せずに受け止めることこそ美徳』と教本にも書いてあった。

  あの火傷や厳しい冬のように――苦痛であれば、きっと耐えられたと思う。

  「~~ッ゛で、ですが、ぁんむ゛ッ」

  でも流石に限界です。と抵抗しようとリアン様の表情を伺おうとすると、すかさず頬の涙を舐められ口を塞がれてしまう。話の途中だったから口も開いていて、そこから宥めるように舌先が伸びてくれば、わたしはどうにも拒めない。

  「ふ、ぅむ、――ん゛ッ」

  口づけの終わりを察してわたしが大きく息を吸えば、その瞬間にうなじを抑えられてさらに深く舌が交わった。言いたいことを口から出す前に唾液ごと吸い取っていくその執拗さに、流石のわたしでも理論なく言いくるめようとしていることが分かる。

  「だん、ふぷ、む、……ッ♡」

  理論がないということは、わたしのこの状態だって察しがついているはず。

  そう思ってもごもごと抵抗をつづけるけれど、この満身創痍な体では……。

  「ぷぁ♡へッ♡へぁ♡ぁぁ゛……ッ゛♡」

  ただひたすらに呼吸と唾液を奪われながら口内をこれでもかと愛撫され、力なく舌が垂れるまで意思を溶かされてしまって終わる。

  旦那様はほんの僅か高揚した頬を盛り上げ――どきりとするほど鋭く微笑みながら。

  「心配しなくてもいい。君の報告がなくとも、良い所は大方把握したから……ここから君はただ、私にしがみついているだけでいい……」

  「ぁ……ぇ、あ――ッ! そんな、ちが、ぁあッ♡ッまって、まってくださ、ぃ゛ッ♡」

  一人で勝手に納得した旦那様に、再びごちゅッ♡と揺さぶられる。慌ててリアン様の肩に手を付こうと蠢けば、拘束じみた執拗さで背に回った腕にさらに力が籠った。

  これでは――投げ出された足に例え力が入っても抜け出せない。

  「本当に強く、愛らしい。私にはもったいないほどよく出来た妻だ。アナスタシア」

  「や゛ッ♡あッ♡まっ、てぇ♡も――ぉ゛ぐうぅ゛ッ♡!!」

  そこが弱いと、把握されている。どちゅ♡と貫かれ、最奥の熱く敏感なところを執拗にぐりぐりされて。弾けそうなタイミングでトントントン♡と絶頂を我慢できない角度で抽挿を繰り返し、蜜壺を虐め抜く。

  リアン様が好き。愛している。だから好きになさればいい。それがわたしも嬉しい。でも、それでも――。

  「しかし――一度口から出したなら、責任を取らねばなるまい?」

  ぎゅっと眉の寄った意地悪な微笑み。ちらつく牙は狼に相応しくて、何度も噛みつかれた肩がじく♡と熱を持つ。

  獣に食われる兎は、きっと同じような絶望を感じるのだろう。

  わたしは愛する人に必死にしがみ付き泣きながら、そう思った。